TERROR [i]

1.KAKINAGURI i
2.怪談

葵楓扇さんの話

 それは、ある日のこと。
 ある船乗り達が航海に出たところ、難破してしまい、ある無人島にたどり着きました。
 そこには、小屋というほどではないけれど、雨風はしのげる程度の、木の屋根があり・・・・・・
 その元には、銃で七発撃たれた、けれど血の出ていない死体と、銃で一発きり打たれた、血だらけの死体・・・・・・
 船乗り達は、その死体の元に、一冊の日記を見つけました。

 その日記によると、こうでした。
 その人たちは、とある船乗りでした。
 数人で航海に出て、そして難破し、何人も人が死にました。
 そして、たった二人だけ・・・・・・
 たった二人だけ、生き残りました。
 たった二人だけ、生き残った・・・その二人は、とても仲の良い二人でした。
 その二人は、例の木の屋根の元に来ました。
 二人は何とか協力して生き残ろうとしました。
 しかし、やはりというか・・・片方が死んでしまいました。
 生き残っている方はそれをとても悲しみ、死んでしまった方を埋めました。
 仮に、生き残っている方をA、死んでしまった方をBとします。
 一人残される。この恐怖ってのは、どれくらいか・・・私には分かりません。
 Aは、なんとか生き延びようとしました。
 寂しさに耐え、助けを待ち続ける日々・・・・・・
 けれど、やはりAも人間です。気が狂わない方がおかしいこの状況に、どうともならないはずがない・・・・・・
 ある朝、Aは眠りから目覚めました。
 手は、砂まみれでした。
 何故か、心に孤独を感じませんでした。
 毎日、朝を迎える度、誰も居ない世界を見つめ、落胆するはずなのに。
 彼の隣には、死んだハズのBが座っていました。Aに寄り添うように・・・・・・
 そう、埋めたハズのB。
 Aは恐怖しました。
 自分が埋めたハズの人。自分しか埋めた場所が分からないハズの人。
 誰かが掘り返し、Aに寄り添わせたハズはあり得ません。
 そもそも、この島には、自分しか居ないのだから。
 彼は、拳銃を持っていました。八発、弾丸が入っています。
 その一発をBに打ち込み、彼は再びBを埋めました。
 次の日、やはり彼は安らいだ想いで目覚めました。
 やはり、その隣には、B・・・弾丸を一発、その身に受けたB・・・・・・
 Aは、目覚めの安らぎなど何のその、恐怖に震えました。
 そして、やはりもう一度、Bに銃を撃ち・・・きっと、Bがゾンビかなにかの様に思えたのでしょう。
 その、銃を二発その身に受けた死体を、Aは再び埋めました。
 そして、翌日・・・もう分かりますよね、前日の繰り返しです。
 日を繰り返すごとに、Bに埋め込まれた銃弾は増え、Aの恐怖と絶望は募る・・・・・・
 そして、七日目の朝。
 Aは絶望していました。完全に。
 希望を失った彼は、Bに七発目の銃を撃ち、そして最後の一発を自分に・・・・・・・・・・・・
 つーわけで、Aも死んで終わりです。
 その後、この日記を読んだ船乗り達がどうなったか、それは定かではありません。
 もしかしたら、「自分たちもこうなるのでは」と暗い未来を予想したかも知れませんけれど・・・・・・
 それはまた、別のお話。

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