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ドラスレ! 5
とーる
http://blacktail.blog.shinobi.jp/
2010年2月16日23時03分38秒
第五話
「面白い技を使うな、小娘。しかし、そんなものでトロルを
倒せるなどと思っ――」
ミイラ男のたわごとは、ふつりと中断される。
ガウリイお嬢ちゃんのつぶてがつけたトロルの小さな傷が、
みるみるうちに大きく広がっていくのを目にしたのだ。
「な……何だ、これは!」
「…………。」
ミイラ男は愕然と、お嬢ちゃんは呆然とその光景を眺める。
傷は留まることを知らず広がった傷跡は、ついにトロルを食い破った。
……うえっ……。
俺がやったとはいえ、お世辞にも上品とは言えない術だ。
今が夕食前じゃなくて本当に良かった。
残るはミイラ男のみ――なのだが、もはやミイラ男は俺が使った
わけのわからん術に恐れて戦意喪失している。
まあ、誰にでも分かるよう簡単に術のタネ明かしをしてみると、
トロルの半端ない再生能力を、回復術である 『リカバリィ』 で
逆転させた俺オリジナルの術だ。
理論上で作り上げただけで、俺自身でも初めて使ってみたんだが……
これはもう使うのを止めようと心に誓う。
さすがに頻繁には使いたくないほど、目と心に毒だ。
術者が夢でうなされそうな術は使っちゃいけない。
「――残念ながら、俺は雑魚に負けるつもりはないな」
俺はダメ押しとして、掌を打ち合わせる。
「そろそろ本気でいくぞ」
「げっ! ファイアー・ボール!」
俺の掌の中で輝く光に、ミイラ男は目を見開く。
悔しそうにしながらも転がるようにして、店から逃げていった。
「……ふう」
「リ、リナ! それどうするの!?」
ガウリイが慌てたように、声をかけてくる。
ぼんやりのほほんとしてるガウリイでも、さすがにポピュラーな
攻撃呪文であるファイアー・ボールの威力ぐらいは知ってるらしい。
俺は思わず、まじまじと手の中のそれを見つめ、おもむろに
トロルに向かって放り投げた。
瞬間、光りが眩く弾ける。
「わーっ!」
店にいた全員が叫び、沈黙。
「ファイアー・ボールじゃないぞ」
床にはもうトロルの残骸はない。
「ただの、掃除用の魔法」
そのあと、俺とガウリイお嬢ちゃんは隣町の宿帳に名前を書いた。
本当はあのまま泊まっても俺としては何ら問題はなかったが、
とりあえず用心には用心をかねてさっさと町をあとにしてきた。
まあ、あの町にはあまりいい換金所はなかったから、
移動しても別に構わなかったし。
「――でも、すごい度胸よねえ、リナも」
「――何のことだ?」
ベッドに荷物を置いた俺の横に立ち、お嬢ちゃんが肩をすくめる。
俺はそ知らぬふりをしてとぼけつつ、ショルダー・ガードと
マントを外して楽になる。
……って、待てい。
「おい、ガウリイお嬢ちゃん……何でお前が俺の部屋にいるんだよ」
「あとで事情を説明してくれるって、言ったでしょ?」
「そうだっけ?」
「そうよ」
俺が首を傾げると、ガウリイお嬢ちゃんは頷く。
あー、そういや何も言ってなかった……こっちの町に移動中
とっくに話した気分になってたな。
ま、いいか。
俺もお嬢ちゃんに聞きたいことがあったし。
ちょうど向かいにある椅子に座るよう勧め、俺はベッドに腰掛けた。
俺はじっとガウリイお嬢ちゃんの瞳を見つめる。
「じゃあ、説明してやるよ。……だが、その前にこっちの質問に
答えてもらう」
「いいわ。何?」
「じゃあ聞くが――お前、俺のことどう思う?」
瞬間、お嬢ちゃんは目を見開いて硬直した。
うーむ……こりは面白い……。
面白いがこのまま硬直させておくわけにもいかないか。
「冗談だよ、冗談」
「……悪い冗談はよして、死ぬかと思ったわ」
「どーいう意味だよ……」
そうは言うが、夜も更けた頃にこうして男の部屋に簡単に
居座ってたりすると、本当に冗談じゃすまなくなるぞ?
本当にそこんとこ分かってるのかい、ガウリイお嬢ちゃんよ。
俺は溜息をついてから、お嬢ちゃんにこれまでのいきさつを簡単に話す。
最初は盗賊にやられて困ってた村の人々のため、盗賊を退治し、
アジトからお宝を取り戻したこと。
その時、手数料代わりにほんの少しお宝を頂いたこと。
それをミイラ男たちが未だつけ狙ってるらしいこと。
「そう……最初の “困った人を助けるため” って所はとにかく、
成り行きは分かったわ」
う、そういうとこばっか鋭いな、このお嬢ちゃんは。
「ま、俺がお宝を持ってる限り、あいつらもよっぽどのことがなければ
お宝のことは諦めないだろ。居場所も魔法で突き止められるしな。
何か他に質問は――」
俺がそう言いかけた時、誰かがドアをノックした。
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