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ドラスレ! 7
とーる
http://blacktail.blog.shinobi.jp/
2010年2月24日19時15分43秒

 




第七話





いきなり部屋に響き渡った声に、全員が動きを止める。

……な、何だ?

俺がきょろりと辺りを見回してみると、ふいにさわりとした
爽やかな夜風が部屋の中に一瞬だけ吹いてきた。
はっと振り返ると、部屋の窓がいつのまにか開いていて、
ふわりと白いカーテンが風に揺れている。
その向こう側に一つの影がある。

思わずぽかんとした俺は、殺気を感じてとっさに右手に飛びのく。
ジリッと左の脇腹が急に熱くなったのを感じつつも、
俺は攻撃を仕掛けてきたロディマスを威圧する。

くそ、何だか分からんがこっちを倒すのが先――!


「今、僕が引導を渡してあげましょう!!」

「っだああ! さっきから何なんだ!」


俺が叫び終わらないうちに、窓の向こう側の影が飛び上がった。


「行きます、とうっ!」



ガヅッ!

ドチャベチゴォンッ!!



影はそのまま部屋の中へ飛び込んでこようとしたが、
窓枠に片足を思いっきり引っ掛けたらしく、かなり痛そうな音を
立てながら部屋の中へと言葉通り転がりこんでくる。

今度は本当に誰もが戦闘意識を失い、床に転がったそれを見下ろした。

影は一つ間を置いてから、むくりと立ち上がって埃を落とす。
影の正体は、ゆったりとした白い神官服のようなものを着込んだ
黒髪の青年――いや、少年?
多少幼い顔つきから見れば俺より年下なんだと思うが、
背丈に関しては俺より頭一つ分ほど高い。
……ぐっ……何か負けた気分だ!

そいつは腰に手を当て、堂々と胸を張る。
あたかも登場シーンの失敗など、まるでなかったかのように。


「生きとし生ける者集いし所、悪ある所に正義あり! 心の悪に
 その身をゆだね、道を失いし者たちよ! 天に代わって僕の裁きを
 受けるがいい!!」


唖然とする一同。
いきなり単身乗り込んできて、何をごちゃごちゃとわけ分からん
ヒロイック・サーガもどきなことを言っとるんだ、このにーちゃんは。
怪訝そうにしていたロディマスが明らかに、お前の仲間かと
いったよーな視線を向けてくるが、俺は首を横に振ってみせる。

ガウリイお嬢ちゃんと会う前にもずっと旅をして、その間に色々な
奴らと知り合ってきた俺だけど、さすがにこんな正義おたくの
知り合いなんぞいなかった。

すっかり闘争心が消えてしまったのか、ロディマスは剣を下ろして
唖然としたままのゾルフを引っ張っていく。
パタンと静かにドアが閉じられたあと、きょとんと目を瞬かせていた
正義おたくのにーちゃんは勝ち誇る。


「正義は必ず勝つのです!」


……あんた、何にもしてないだろうが。
俺が深々と溜息をついていると、にーちゃんが大きな声を上げる。


「あっ! お腹、怪我してますよ!?」

「リナ!」

「あ……そういえば……」


脇腹の傷を思い出した俺は、じくじくとした痛みに眉をひそめる。
俺って寒いのと痛いのにはあんまり、耐え性がないんだよな。


「座って下さい、僕がリカバリィをかけます!」

「ああ……じゃあ、よろしく……」


張り切った様子のにーちゃんをここで追い返すのを面倒に思い、
俺はてきとーに返事をしてベッドに腰掛ける。
にーちゃんは口の中で素早く呪文を唱えて、リカバリィをかけた。
ぼんやりとした温かみにほっとする。

ふと、横からガウリイお嬢ちゃんが心配そうな目で見てくるのに
気がついて、俺は苦笑した。


「平気、掠っただけだし」

「……もう、リナったら……」

「はい、これで大丈夫ですよ!」

「悪いな」

「いいえっ!」


俺の脇腹から傷がなくなったのをしっかりと確認してから、
にーちゃんは立ち上がった。

「僕、隣の部屋の者なんですけど、何だか急に胸騒ぎがして……。
 間に合って本当に良かったですっ」

「そう……」


何が間に合って、どう良かったのかが分からん。
俺はそう思いながらも、リカバリィに免じてとりあえずつっこまなかった。
にーちゃんは俺たちが困惑してるのにも気がつかずに、
にっこりと晴れ晴れした笑顔を浮かべる。


「すみません、自己紹介が遅れましたね。僕はアメリアです!
 正義の名の下に、カタートに封印されし悪の根源である、
 赤眼の魔王・シャブラニクドゥを倒さんがため、旅をしてます!!」


俺はアメリアと名乗ってきたにーちゃんの頭を、
思わず可哀想な目で見てしまった。
……魔王退治って……どこまで正義おたくなんだか……。





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親記事: ドラスレ! 4-投稿者:とーる
コメント: Re:ドラスレ! 7-投稿者:井上アイ

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