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魔を滅する者
セス
2010年5月4日20時14分24秒


『め、冥王様!』
 それは聴覚に触れるような『声』では無かった。
「・・・なんだい?そんなに慌てふためいて」
 なにやら切迫した感情を含んだ思念の波に、柳眉をひそめ、虚空に向かって咎めるような視線と声を発したのは一人の少年。
 緩く波を打つ柔らかな黒髪と、少女めいて見えるほど愛らしい小さな顔の中で、冷え冷えとした光を宿した大きな瞳が異彩を放っていた。
『海王様がご乱心です!』
「・・・は?」
 冥王にこんな声と表情をさせたというだけでも、この報告をした魔族は後世まで語り継がれる資格があるかもしれない――もし他者が見ていれば、そんな感想を抱くほどに、五人の腹心の中でも、最大の力を有する高位魔族は間の抜けた声を漏らし、目を点にした。
『と、とにかく魔海までいらっしゃってください!私どもでは到底手に合えません!』
「・・・わ・・・分かったよ」






――そして。目的の場所に到着し、海王の姿を目にした冥王は表情を引きつらせた。
「いやああああああああっ!」
 長く豊かな黒髪を振り乱し、すけるように白いほっそりとした手に携えるは巨大な矛。
 優雅でたおやかな外見にはそぐわぬ巨大な武器を軽々と振り回し、鬼女のごとき形相でなにやら叫び続けている。
 端的に言えば、壊れていた。
「え、えーと・・・どうしたんだい?彼女」
「わ・・・分かりません。なにやら海王様宛に贈り物があったのですが、それをご覧になってから、ああなってしまわれたようで・・・」
「・・・」
 冥王はしばし黙考した後。
「・・・じゃあ、あとは君たちに任せるよ」
『お待ちくださいいいいいっ!』
 空間を渡ってその場を速やかに立ち去ろうとしたものの、複数の魔族にしがみつかれて断念。
「・・・ああ・・・もう・・・分かったよ・・・じゃあ、獣王と覇王も呼んできて」
「はっ」


 
「で・・・どーする?ゼラス」
「う、うーむ・・・てなぜ私に聞く?」
「だって君、ダルフィンと仲いいじゃん」
「いや、それはそうだがこんな風になった彼女を見るのは私も始めてでな・・・」
 眉尻を下げ、頭痛をこらえるように額に手をやりながら言ったのは、鮮やかな黄金の髪を短くまとめた女性である。
 大柄ながらも女性らしい曲線を描く身体に纏う衣装は、海王の優美なドレスに比べればやや質素にすぎる。だがどこか近寄りがたい硬さ、刃物にも似た鋭い気品が凛とした立ち姿にうっすらと漂っている。
「グラウは?」
「我に分かる訳無かろう」
「・・・えらそーに言う台詞じゃないだろ」
 傲然と言い放つ銀の髪を持つ堂々たる偉丈夫に、少年はやや肩を落としながら突っ込みを入れた。
「まあ・・・とにかくただ見ているだけじゃしょうがないから、どうにかして正気づかせるしかないけど・・・て何で君たち揃って僕のほう見るんだい?」
 自分に向けられた視線にこめられたものに気づいて、少年は微かに顔を引きつらせる。
「いや・・・この場合、汝が海王に近づいて軽く魔力波でも当てて正気づかせるのか手っ取り早いのではないかと思うのだが」
 表情を変えないまま、しれっと言い放ったのは覇王である。
「なんで僕なわけ!?」
「汝がこの中で一番力があるからだろう」
「・・・」
「大きな力を持つものは、それ相応の責任を帯びるものだと思うが」
「・・・ああ、もうっ。分かったよ。まったくこーゆー時にガーヴがいれば口先三寸であの戦闘バカを丸め込んで、厄介事押し付けられたのに・・・」
 ぶつくさと言いながら、小さな掌を海王に向ける。愛らしい唇から緩やかに、流れるのは人ならざるものの『力ある言葉』。
ごうっ!

 瞬時に高密度に練り上げられた魔力が、波となって海王に押し寄せる。
 ――斬!

 次の瞬間、海王が手にした矛で魔力波を文字通り一刀両断した。
「・・・てうそぉ!?」
 思わず叫ぶ冥王に向けて、海王が矛を振りかざし――
ごずっ。

「・・・はうっ」
 鈍い音と共に、海王は妙になよやかな動作で倒れた。
「・・・許せ、海王」
 そう呟くのは、いつの間にか海王の後ろに近づき、魔力をこめた拳で後頭部を殴りつけた獣王である。
「・・・ふっ。終わったか」
「何もしてないだろ、君」
 涼しげな表情で呟く覇王に、冥王はじっとりした視線を向けながら突っ込む。

「さてと、海王は贈り物を見てこうなったって言うけど一体・・・」
 冥王の声が途切れた。
「どうした?フィ・・・」
 訝しげに問いかけた獣王も同じく口をつぐむ。
「?汝らどうし・・・」
 覇王も『それ』を目にして絶句する。

それは一枚の絵だ。
描かれているのは、一人の男。燃え盛る焔が揺らめくがごとく緋色の長髪をなびかせ、浅黒く彫りの深い顔に獰猛な薄ら笑いを浮かべている偉丈夫だ。
 その名は魔竜王ガーヴ。魔族に反旗を翻した赦されざる裏切り者。
ただしこの場合、見たものを絶句させたのは、他の要素である。
 たくましい体躯にまとうのは・・・セーラー服である。

ちゅどおおおおんっ!

 三体の高位魔族は思わず、その場に膝をつく。
「・・・こ・・・これはひょっとして・・・新手の精神攻撃!?てことは送り主はガーヴ?」
「・・・生き延びるためとは言え、だいぶ・・・手段を選ばなくなったようだな・・・」
「た・・・確かにこれは効くな・・・海王が半狂乱になったのも分かる・・・下級の純魔族ならば、瞬時に滅び去っていたかもしれん・・・他のものが見なくてよかった・・・」
 与えられた精神的衝撃に、痙攣しながら呻くように呟く。

その後、絵は速やかに殲滅された。
正気に戻った海王は、ショックで記憶がとんだのか、自分が見た絵のことも、半狂乱になったことも覚えていなかったらしい。




あとがき
なんかしょーも無い話を書きたくなって書いてみました(をい)
ちなみにガーヴのセーラー服見た時、自分は
「ふっ・・・効いたぜ、今の精神攻撃は・・・」
見たいな感じで、硬直してました(笑)



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親記事: なし
コメント: Re:魔を滅する者-投稿者:井上アイ Re:魔を滅する者-投稿者:フィーナ

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