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白魔術都市狂想曲 111
フィーナ
2010年7月10日19時29分57秒


あてがわれた部屋の一室には、すでにガウリイとゼルガディスの二人が来ていた。

「おそかったな」

あたしがアメリアの案内で地下牢に行っている間に、彼らには王室の動きを探ってもらっていたのだ。

むろんゼルは王宮への面識はない。

お家騒動のときに居合わせなかった彼が、王宮の中で探りを入れようとしても、関係者たちとは初顔合わせ。

警備兵たちからすれば、不審者として警戒されるのは目に見えていた。

そこで、面識のあるガウリイといっしょにいることで、すべての場所は無理だとしても、ある程度の情報は仕入れることができる。

ゼルは目深にかぶっていたフードを取り去って言った。

「思っていた以上に、情勢が動いている」

「聞かせてくれる? その口ぶりからすると、王宮内だけではないんでしょ」

ゼルはうなずいた。

「まずは王宮内の神殿に動きがある。いうまでもなく火竜王のことについてだ」

「ヴラね。なんとなく予想はつくけど。
おーかた、ヴラをこの地にとどまってくれっていう類か、その力を示してくれ・・・・・・とか?」

ゼルは軽く肩をすくめた。

「さすが察しがいいな。あんたが思っている通りさ。
これはまだ噂でしかないが、神殿の上層部には、これを機に内紛が続く地に、神の力をみせ争いを止めようとしているらしい」

「それって、戦争を終わらせようとしているんだから、いいことじゃないのか?」

「旦那。もしそれが実現したら内紛は収まるかもしれんが、新たな火種を生み出すとは考えられんか?」

「どういうことだ?」

「火竜王が争いを止めるために力を使ったとしよう。
それを他の人間が知ったらどう思う? 火竜王の力は強大だ。
我々人間など足元にも及ばないほどの力。もしそれを手に入れられたらどう思う」

「どうっていわれても・・・・・・普通は使うだろう?」

「そう。宗教などにも、神聖な存在として崇められているのが神だ。
なら神を巡っての諍いが起きてもおかしくはない。もしくは、神がついていてくれるから自分が正義だと思う連中もいるかもな」

「つまり・・・・・・どういうことなんだ?」

「つまりよ。内紛でおきる小競り合いなんかじゃ比較にならないほどの――殺戮ね」

あたしが簡潔につないだ言葉に、ガウリイは言葉を失った。

「・・・・・・けどよ。それって飛躍しすぎじゃないか?」

「皆がみんな、そう考えてはいないだろうけど。
・・・・・・起こりうる可能性の一つであることは事実ね」

これに関してはヴラではなく、人間のほうに非があるのだが。

それに本当にそうなるというわけでもない。

ただの推測や憶測の段階でしかないのだ。

「ほかには?」

「神官の詰め所で聞いた話だと、あの神官は七日に一回ほど、王宮の神殿に顔を出していたそうだ。
今回の逮捕のことにしても、同僚たちは表立ってはいないが、相当反発があったときく。
よく同僚や後輩から相談にのることも多かったらしいし、恨みを買うタイプではないからな」

「そっか。そういえばあんた護衛してたんだっけ」

「ああ。だが」

「だが?」

「これにはまだ続きがあってな。
反発して抗議したその同僚や後輩たちだが、王宮の過激派とも呼べる連中に拘束されたそうだ。
国に対して謀反の疑いあり、とな」

・・・・・・なるほど。

だからアメリアも、謀反がどーたらときにしてたわけか!

「ならその同僚たちは釈放されるでしょうね。アメリアが手続きをしに行ったもの」

ただし、しばらくは監視がつくだろう。

それも、きづかれないようこっそりと。

いくら同僚たちが無実でも、嫌疑をかけられた以上、世間は気にするだろう。

「今回あの神官が捕らえられ、王宮がどう扱おうとしているかは、聞き込みで大まかに分けて三つほどの勢力が判明した」

「・・・・・・三つ」

「先ほど出てきた過激派と、穏健派。どちらにも属さない中立派。
ただしこのことは、お家騒動のように誰でも知っているというわけではない。あの神官が神の力を使えるということを」

今あたしが貴族や文官たちに教えたとしても、一笑に付されるか、頭ごなしに否定されるか。

なんにせよ、余計な混乱を煽ることになりかねない。

アメリアに言ったのは、彼女が少なくとも、他の頭の固い連中とは違うからである。

でなければ、巫女頭なんぞつとまるはずがない。

アメリアが王族だということだけでなく、柔軟な思考だからこそ、できることである。

・・・・・・時々熱くなりすぎて暴走はするが。

「過激派の中には、国王に仕えている連中が筆頭になっている」

ゼルのセリフに、あたしは眉をひそめた。

「・・・・・・は? いま国王って」

「病に臥せっているエルドラン国王。フィリオネル王子が代行で、政務を取り仕切っていると聞くが」

「いや、あたしがいいたいのは、なんだってンな連中が過激派なんてぶっそーな」

「おれにいわれても知るか」

そりゃそうである。

しっかしエルドラン王は、ここ最近表には出てこない。

病の進行が早く、意識もない状態が続いているというのが、町の人々の噂であるが。

「そして過激派の中には、王位継承者はフィリオネル王子ではなく、アメリアを担ごうとしている動きがある」

「アメリアに?」

確かに彼女も、王位継承権を持っている。

貴族や他国の王子と婚姻関係を結び、そのあいだに子供が出来れば、その子供が次期王位を継承できる権利を与えられる。

「政務の経験は浅いが、フィリオネル王子同様、人望の厚いアメリアを王位につけようといったところだな」

「他の貴族にしても、アメリアと婚姻関係を結び、子供を王位につけたいってことでしょうね」

「だとすると、エルドラン国王が病に臥せっていることをいいことに、好き勝手に台頭しているのか」

現在の国王がそれで退位しても、侍従や仕官たちといったいわゆる重鎮とも呼べるエリートたちにとって、痛手になることはまずない。

次の王位に就くものの補佐を行い、目が届かないところで根を張る。

互いに足りないものを補うという意味では、甘い汁を吸う連中のことを肯定せざるをえない。

人間に限らず、完璧な存在などいない。

国に暗部とも呼べる汚れ仕事も、確かにあるのだから。

「・・・・・・でもそれなら、姉のグレイシアさんでもいいはずだけど」

「おれが聞きかじった話だと、グレイシア姫は多くの情報網を持っているそうだ。
貴族たちのなかには不安材料となる情報も握っていて、うかつに敵に回したら手に負えないとでも思われたんだろう」

・・・・・・ふむ。

となれば、貴族たちとグレイシアさんとの間には、互いに不干渉な部分とゆーのがあるのかもしんない。

「穏健派は逆に、フィリオネル王子を支援している連中がおおい」

「・・・・・・いやな構図ね。
下手すれば、フィルさんとエルドラン国王との対立とも取れるじゃないの」

政治的な謀略というのは、どこの国にも水面下で行われていることである。

沿岸諸国では、諜報員同士の駆け引き。

他国へもぐりこんでの不安定化工作も、公然の秘密となっている国もあるみたいだし。

「あんたのほうで掴んだ情報は?」

「ここへ来る前、手続きをしているアメリアから聞いたわ。
ヴラを長くここに留まらせているのは、外の侵略より中から内輪での揉め事で崩れ去る危険性が高いって」

「道理だな」

「神殿にいるヴラと、収容されているアレンを接触させるのは二日後。
過激派と穏健派。王宮からの強い要望で、処刑はその翌日――三日後に決まったそうよ」

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