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白魔術都市狂想曲 126
フィーナ
2013年3月31日16時31分56秒
すべてを赤く染める夕暮れが、聖王都と呼ばれる都市を照らす。
まるで焼き尽くす炎のように。
王宮の片隅にある、何の変哲もない一軒家。
兵士たちを退けさせて、あたしと彼女――アメリアは向かい合うように座っていた。
「・・・・・・それで、大体あんたの思惑通りってことでいいわけ?」
きりだしたあたしのせりふに、彼女はほのかに微笑む。
「単刀直入ね」
「そこがあたしの美徳なんでね」
互いに笑みを浮かべつつ、軽口の報酬を交わすあたしたち。
「それで? さっきの質問の答え、沈黙は肯定と取るけど」
「わたしとあなたの仲なら、先ほどのやりとりでわかるとおもうけど?」
浮かべた笑みを崩さないまま、そういう彼女。
・・・・・・ふむ。
「それにしても、ヴラさんが火竜王様だったなんて・・・しばらくはきづかなかったわ」
「それについては同感ね」
「今思い返したら、納得できる部分もあったのに」
「そういえば、ヴラにちょっかいかけた人たちは?」
あたしの投げかけた質問に、アメリアはしばし考えた後、
「ヴラさんと出会う前後の記憶が、スパーンと抜け落ちてるわ。
・・・・・・長期療養の名目で、避暑地に向かうことが議会で決定されたわ」
名目上の建前で、王宮の議会で決定だと断言した以上は・・・・・・
・・・・・・うん。
ちょっかいかけた連中。
社会的にしろ、身体的にしろ終わったな。
「王宮に顔出しできるころには、ついてた役職に戻れるのは絶望的ね」
「・・・・・・『ほぼ』ね。付け加えると」
訂正を加えるアメリア。
どちらにせよ、表舞台から退場いただくことに間違いないだろう。
「それで、議会のほうは?」
本題を切り出す。
「あの部屋にある書物の没収と、国外追放よ」
アメリアは淀みなくそう答えた。
「家の没収は控えたみたい」
「なんでまた」
「一部・・・いえ半数近くの貴族の人たち、期間限定でいて欲しかったみたいでね」
「期間限定の国外追放? それはまた・・・・・・」
眉間を寄せ、ため息をつく。
「キャッチ&リリースじゃあるまいし」
「いい得て妙ね」
感心した様子でつぶやくアメリア。
「厄介後とか面倒くさい話はいらないが、おいしい話は手放したくないって、子供のわがままか!」
「それだけの価値はあるのよね〜」
「あんたたちが欲しいのは個人じゃなくて情報だけでしょーが」
しみじみとうなずきながら言う彼女に、あたしは投げかけた。
「情報はもちろんだけど、アレンさん本人も捨てがたかったのは本当よ。
セイルーンで培った治療のノウハウとか、後任の育成に関してもわかりやすいと評判だったのよ」
「しんないわよそんなの」
あの人たち
「だいたい 貴 族 、アレンさんが復帰できる以前にあんな状態なのに本気で戻ってこれると思ってるのかしら」
「さあ・・・・・・ね」
こちらに言葉を投げかけた彼女に、軽く肩をすくめてみせる。
・・・・・・あのあと。
切り取られた空間の消滅から、あたしたちが戻ってきて少したった後。
昏睡状態だったアレンの目がゆっくりと開かれた。
その知らせを受け、兵士たちや治療を受け持っていた神官。
物々しい厳戒態勢がしかれた。
帯刀していた剣を突きつけられ、アレンは不思議そうに剣を向けた兵士を見つめた。
・・・・・・まるで赤子のような、無垢な瞳で。
言葉を発するのも、「あー」だとかの発音のみ。
念入りに調べられた結果。
アレンの精神はなんらかの異常をきたし、赤ん坊レベルまで知能が低下。
そして今までの人格に戻ることはないだろうと診断され、協議の結果今に至るというわけである。
しかしあたしは言わなかった。
王宮にはもちろんのこと。
あたしの目の前にいるアメリアにもである。
理由は知られれば、まず間違いなく狙われるからだ。
それこそ国を挙げて。
あの空間の中、マジック・アイテムに宿ったヴラの残留思念と呼ぶべき存在はこういった。
『わすれる』と。
言葉どおりに受け取ると、ガウリイのように大事なことさえ忘れたままだという、人としてはなんともいろいろと本末転倒な可能性もある。
だがある魔道士の研究の中に、忘れたはずのことがふと思い出されたとき。
それは感情に強く残ったことが、押入れのようにしまっていた様々な記憶から連想させたものを引き出すからだと唱えた論文が発見されている。
・・・・・・その魔道士もミイラになって発見されたが。
閑 話 休 憩
それはともかく。
アレンの場合も今は思い出せないだけで、何かの拍子で『おもいだす』可能性もないわけではないのだ。
あたしがなぜ言わなかったのかは、セイルーン王宮とことをかまえる可能性がいかに高いか考慮して。
組織の中には大まかに三種類の派閥みたいなものが存在する。
穏便に済ませようとする穏健派。
我関せず、あるいは様子見の中立派。
そんで壁があれば壊せばいいじゃないの過激派。
過激派の中で武力行使もいとわない好戦的な連中もいるわけで。
彼の知識の豊富さはまさに歩く図書館だった。
小競り合いを続ける国や、発展途上にある弱小の都市に、それが渡り急激に成長したら?
いつか自分たちを脅かすわからないものをほうっておくのを見ていられるか。
国のことを思うあまり、疑心暗鬼で暴走するなんてこともありうるのである。
要約すると『国家間のごたごたに付き合いきれん』
いかにあたしが天才的な魔道の使い手であり、頭の回転が速いといっても個人と組織でできる幅は大きく異なる。
盗賊団なら遠慮なくつぶせるが、それが大国ともなると。
ドラグ・スレイブ
竜 破 斬 ぶちかましても、伝言他国に知らしめて指名手配の出来上がり。
難易度の高さのほど、おわかりいただけるであろう。
いまのは無論たらればの、Ifのはなしである。
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なし
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