タイトル : 護るために
投稿者 : 新月 天海 amami-k@mx3.fctv.ne.jp
投稿時間 : 2010年2月22日22時52分50秒
こんばんわ。
またまた調子乗って投稿です。
これがまたゼルリナだったりします。
ご注意下さい。
読んでからの苦情は一切受け付けません。
ご了承下さい。
では、お楽しみ頂ければ幸いです。
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とある日の昼下がり。
俺は魔道士協会に居た。
移動式の高い脚立。その一番上に座り、傍らに山と積んだ魔道書。
集中してその内容を読みふける。
そこへ。
「ちょっとゼル!やぁっと見つけたわ!」
デカイ叫び声で現実に引き戻された。
下を覗き込めば、両手を腰に当ててこちらを見上げるリナの姿。
やばい。どうするかな…
折角いい所まで読み進めたのだが、こちらから降りるか向こうが上がってくるのを待つか。
「ゼルったら!!きーてんの!?」
「あぁ、聞こえてる」
「まったくもう!そっち行くわよ!」
そう言うと、俺がいる脚立を上ってくる。
俺は迫りくる台風に思わずふかーくため息をついた。
ぽむ
ほどなくして軽く肩に手が置かれ、ドスの聞いた低い声が耳に響いた。
「ゼールーガーディース〜〜〜〜〜?」
こりゃぁすげー。
周りに3つほどヒトダマが浮かんでそうな雰囲気だな。
書棚を見ていた俺は、振り返るのがめちゃめちゃ怖くなった。
しかし、自分が彼女を置いて魔道士協会に来てしまったのは事実。
はぁ…観念するか。
俺は仕方なく魔道書を閉じて脚立に横掛けする。
「…………すまん」
「なにが?」
ちっとも笑顔じゃない表情で問いかけるリナ。
こいつ…そーとー頭にきてるな…
そんなに怒るようなことか?
「……お前さんを置いて此処に来たことだ」
「そーよ!まったく!」
ふん、と顔を背けると、2段下の足場に腰を落ろす。
「お前さん、今朝疲れてたような気がしたから遠慮しただけなんだがな…」
呟くと、リナはぽふりと俺の腰の辺りに頭を預けてきた。
「………………」
「どうした」
「……なんでわかったのよ……」
やっぱり図星だったのか。
「痛そうに顔顰めてりゃ、な」
肩を竦めて独り言のように呟く。
視線を魔道書に落として開き、文字の羅列を再び追う。
くすり、と彼女が笑う気配がした。
「そっか」
「あぁ…あまり無理はするなよ?」
「ありがと。ね、そいえば、いい資料とか見つかった?」
俺の腰から頭を上げ、体をひねって積んである魔道書を手に取った。
………彼女の視線が突き刺さってるような気がする。
「――精霊魔法に関する記述なんてどうするの?」
気付かれないようにしていたんだがな…
まぁ、さっきリナが来たときから半分腹は括っていたが。
「ゼル?」
些か硬くなった声に思わず額に手を当てる。
こうなっては逃げ道などない。
俺は観念してため息をついた。
「お前さんが使っている『魔血玉〈タリスマン〉』、アレを使用して崩霊烈〈ラ・ティルト〉の更に上を目指せないかと思ってな…」
息を呑んで俺を見るリナ。
「今まで人で扱える黒魔法は竜破斬〈ドラグ・スレイブ〉が最大と謳われてきた。
だが、お前さんはその上の神滅斬〈ラグナ・ブレード〉や重破斬〈ギガ・スレイブ〉を使用している。
だとすれば、崩霊烈〈ラ・ティルト〉の更に上を行く精霊魔法があってもおかしくはない、そう考えた」
こくり、と彼女が喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえた。
「あの術がお前さんの魔法許容力〈キャパシティ〉や生命力に尋常じゃない負担をかけてるは知ってる。
知ってるからこそ、『何か』があったときの策が必要だろう」
「…だからって…そんな……」
「もちろんある程度の犠牲は覚悟の上さ」
そんなもの、とっくに決まっていた。
彼女を護るためなら、何一つ惜しくはない。
「リナの強さに、今の自分に甘んじ続けるなんて、俺はごめんだ……」
ぎりっと拳を握り締める。
歯を食いしばり、瞳も閉じる。
いつだって自分に出来る精一杯を出し切ってるつもりだ。
それでも足りない知識と力。
知らず増えてゆく彼女の傷。
胸の中を渦巻く罪悪感と焦燥。
そして、締め付けられるような…不安。
「あんたってホント難しいこと考えるの好きね」
おい、人が真剣に悩んでるのに、第一声がそれか。
思わずジト目で睨んでしまう。
「ずるいわよ」
は?
今度はリナがむすっとむくれて俺を見上げる。
「今だって十分精霊魔法扱ってるくせに、なんで教えてくんなかったのよ。
そしたらいくらだって協力したし、ついでにあたしも精霊魔法のスキルアップできたのに!抜け駆けは禁止よ!」
論点が若干ずれた応えに脱力する。
た、確かに黙ってはいたが…それは俺のプライドがだな…
「只でさえゼルには精霊魔法に加えて剣の腕でも敵わないって言うのに…」
むかつくぅ…とボヤくのが聞こえた。
チームリーダー張ってる癖に「敵わない」とは、言ってくれる。
精霊魔法も『地味だから』と言う理由で習得をしていないだけ。
彼女の頭脳と魔力許容量を考えれば、俺を超えるなど時間の問題だ。
「どぉりで最近術のレパートリー増えたなーと思ってたのよねー」
「……………(汗)」
独り言のような厭味と鋭い視線が刺さる。
努力に対する賞賛はないのか。
いや、別に褒めて欲しいわけではないが。
「べ、別にっ、拗ねてるわけじゃないけど!ちょっとくらい…その、相談してくれたって、良いじゃない」
力なく脱力したなだらかな肩。
華奢な背中を流れる栗色の艶髪。
どー見ても拗ねてる。
「俺の得意技を奪われたら何も残らなくなっちまうだろーが」
思わず愚痴が、零れ落ちた。
ただでさえ剣技は自称保護者に敵わず、正義かぶれの姫には白魔法がある。
これでリナが精霊魔法を会得してしまったら…考えたくもない。
「そんなことないわよ」
凛とした声が俺の思考を遮った。
「確かに、ガウリイの剣はすごいわよ。アメリアの防御魔法と精霊魔法だって。
でも、それだけなのよ」
「リナ…?」
「ガウリイは剣が無ければ、ただの脳みそクラゲ。
アメリアだって、魔法が使えない時だってあるのよ。
でも、あんたは、剣と魔法…両方があるじゃない」
言うと、俺を見上げてにこりと微笑む。
「そりゃ、あたしだって両方使えるけど、剣の腕なんてゼルたちに比べれば…足元にも及ばない」
「……………」
「あたしたちの中で、ゼルは唯一、『一流の魔法剣士』なのよ」
頼りにしてるんだから、とごくごく小さな呟きに思わず目を見張った。
すると、照れくさそうに頬を掻き、深紅の輝きが逸らされる。
髪から覗く耳が赤く染まっているのを見て、知らず笑顔を零れた。
「自信持ちなさい。
この天才魔道士が言ってんだから」
……まったく、大した女だよ。
「そうだな」
「そーよ」
どちらからともなく、くすくす笑い出す。
くすぐったく、甘ったるい気持ちが溢れる。
「…お腹空いたなー」
確かに。
昼は食ったが若干小腹が空いた。
「軽く、行くか?」
「いいわね」
「決まりだな」
「後の二人、どうする?」
「ガキじゃあるまいし、自分で何とかするだろう」
つーか…リナの奴、昼に定食20人前食っといて、もう食べれるのか?
そう思いながらも魔道書を棚に戻す。
お互いにやりと笑って立ち上がった。
「よっしゃ!おっやーつー♪おっやつー♪」
「はいはい」
既に心のわだかまりは、あっさりと塵と化していた。
「あ。ゼル」
「うん?」
「おやつの後、ここ、戻ってくるのよね?」
「そのつもりだが。付き合うか?」
「とーぜん!」
どうやら、精霊魔法でさえ本気で敵わなくなる日が近づきそうだ。
俺は心の中で苦笑して、リナの後を追った。
FIN
似合いすぎる場所で魔道談義。
何時間でも居座りそうですね。
とりあえずゼルリナ布教にこれからも力を尽くすのです!
ではでは。
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