. ツリー表示 . 番号順表示 . 一覧表示 . 新規投稿 .
積極的に回答をお願いします ←ここをクリック    読みまくれ1  読みまくれ2  著者別  練習
カテゴリー別検索 ツリー内検索 過去ログ検索 ▼MENU


    タイトル : 白魔術都市狂想曲 115
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2010年8月5日20時21分22秒

地下牢でアレンはあたしに言った。

「俺は明日。王宮の思惑に沿った行動を起こします。
ですが、彼等の望む思惑通りには動きませんよ」

そりゃそうだろう。

あたしは内心、つぶやいた。

もし断れば、アレンだけじゃなく、その周囲が今まで以上に巻き込まれるのは明白だ。

すでにじゅうぶん、彼やその周辺に対し、様々な圧力がかけられている。

アレン当人には、表向きに出ていた話し。

すなわち、アメリアのことに対する事情聴取という名目での、誘導尋問や拷問。

彼は、アメリアを手にかけようとした事実を認めてはいるが、動機や背後関係には一切口に出さなかった。

想像を絶する拷問に、口を割らないアレンに業を煮やした連中が仕掛けたのが、アレン周辺への揺さぶりである。

彼の身近な同僚たちに嫌疑をかけ、神殿にいる友人たちにプレッシャーを与え、追い詰めた。

「王宮があんたを利用しているように、あんたもこの状況を利用しようとしているんでしょ?」

あたしは口を開いた。

「あんたがさっきいってた、火竜王に他の竜王の力をあわせ、スィーフィードの力を導こうとするなんて発想。
実は前々から練ってた策なんじゃないの?」

「何故・・・・・・そうおもうんですか」

「あんたが後生大事そうにしている、首のマジック・アイテムよ。
前にあんたいってたでしょ。商人のオリヴァーさんと、魔道士協会の一部でそのマジック・アイテムを作ったって。
魔道士協会内部にも、ポイズン・ダガーに精通していた連中をごまかすため、表向きジュエルズ・アミュレットの製作と称して」

「・・・・・・ええ。
ポイズン・ダガーから気取られないように製作するのに、数年の月日を費やしました」

レイスン・シティでの騒動の際、このマジック・アイテムは実に多様な働きを見せた。

攻撃呪文や補助呪文のストックは言うに及ばず。
       ヴィジョン  メギド・フレア
各場所に 隔 幻 話 と 浄 化 炎 をストックしたそれを設置し、映像を中継して、組織の存在を知らしめ、壊滅の橋渡しをつないだことなど。

あたしが以前もらったストック・ジュエルは、呪文を一気に放出するタイプのものだった。

そのため、奇襲や相手の意表をつくといった戦術には優れているが、一旦呪文を放出してしまえば、次に術をかけてやるまで何の効果もない。

相手が放った小技を吸い取らせ、防御することはできるが。

ただ術のチョイスが威力の大きいやつだと、術の一部をストックするならまだしも。

そのままためて使用しようものなら、術の負荷に耐えられず砕け散ってしまう。

アレンの首にあるのは逆。

長期間微弱に放出し続けるタイプ。これはあたしがもらったものよりあと、魔道士協会で創られたものである。

たとえば足がもげたり深い切り傷など、大怪我をしての長期にわたる治療を余儀なくされたとき。
                    デュラハン
ポピュラーなもので言えば、 死 霊 騎 士 など、指差しでかけられた死の宣告の呪いの解呪。

ようするに、長期的な治療に向いているのである。

あたしがばかすか呪文ぶちかますには、この長期間熟成な治療オンリーなストック・ジュエルものよりも。

一斉放出のストック・ジュエルのほうが、ミもフタもないがはるかに相性がいいわけであるが。

「あんたまえに、そっちのほうを完成したっていってたわよね。
あんたはオリヴァーさんのように、それを復讐に使おうとはしていない」

もっとも、アレンはオリヴァーさんのように、くわせものでもキレ者でもないのだから、ああいった凄絶な復讐劇はどう考えてもできそうにない。

「・・・・・・交換条件だったんですよ。俺とオリヴァーとの。
便宜を計るから、長い茶番劇に付き合えと」

「あの人のことだから、飴と鞭を使い分けたんでしょうね」

「実際それに見合うだけのものでしたよ。オリヴァーには感謝しています」

アレンは、静かな口調で言葉を続けた。

「もう・・・・・・それほど時間があるわけではありません。
他の所有者たちの思いに翻弄され我を失う前に、自我が保てている今のうちに、火竜王を中心に他の竜王の力を束ねスィーフィードの力を導く」

「呪いを解く勝算は? ・・・・・・っていうまでもないか。
こればっかりは、いくら理論で実証したとしてもでたとこ勝負だものね」

スィーフィードとシャブラニグドゥの力はほぼ互角。七つに分かたれたといっても闇の王の二つ名は伊達ではない。

たいするスィーフィードもまたしかり。

導けたとしても一瞬。

火竜王のほうが人間よりも力は上だから、他の竜王の力を合わせてもかき消される可能性が高い。

だが短くても、たとえそれが一瞬であったとしても、かける価値はたしかにあるのだ。

「俺は・・・・・・王宮を尊重していても、身近な人たちに危害を加えた以上、決して服従はしません」

彼は、穏やかながらも苛烈な意志を秘めた声で言った。

マジック・アイテム複数に呪文をかけて導くよりも、はるかに高い可能性。

アレンはそれにかけたのだ。







暁の光が収まり、ヴラは悠然と佇む。

視線の先にいたのは、ダークブラウンの髪を白銀に染め上げ、かろうじてその場に立っているアレンの姿。

「まさか、王宮だけでなくこの俺までも利用するとはな。
豪胆でずるいが、嫌いじゃねぇぜ。そういう青臭くて必死なやつってのは」

アレンは、うつろなまなざしで虚空を見つめた。

「・・・・・・俺は」

伸ばした腕は空をかき、ちからなく勢いを落とす。

焦点の定まらない手を、彼は他人事のように眺め。

その場にへたりこむ。

数人の兵士たちが、彼を取り囲む。

その顔に浮かぶのは疑惑と――畏怖。

「俺は・・・・・・やれるだけの事はやりました。
後悔はありません・・・・・・ですが、ただ一つの心残り・・・・・・」

憔悴した様子で、アレンは細くつぶやいた。

「ただ・・・・・・もう一度だけ・・・・・・もう一度だけ、あの人に会いたかったです・・・ね」

アレンは、ゆっくりと前のめりに倒れた。

しばし流れる静寂。

異変に真っ先に気づいたのは、アメリアの護衛に立っていたガウリイだった。

「おいっ!」

取り囲む兵士たちを押しのけ、抱き起こす。

「おい!」

「貴様何をっ!?」

兵士たちの垂加の声には取り合わず、上体を揺さぶる。

表情を変え、胸倉を掴む。

もどかしそうに上体を揺らし。

ばしぃっ!

遠慮会釈のない張り手が飛んだ。

尋常でないその様子に、ざわめきが起きる。

ガウリイはアレンの胸倉を掴み、吠えた。

「おいっ! 息をしろっ!」

マーシュ卿は、反射的に顔を上げ――

弾かれたように声を出した。

「魔法医か医者をよべっ!」

にわかにあわただしく、その場は喧騒に包まれた。


コメントを投稿する



親記事コメント
白魔術都市狂想曲 111-投稿者:フィーナ なし