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    タイトル : 白魔術都市狂想曲 116
    投稿者  : フィーナ
    投稿時間 : 2010年8月12日18時57分29秒


数人がかりで運ばれるアレンをよこめに、アメリアは言った。

「多くの方には、色々尋ねたいこともあるかと思います。
それにつきましては、後日。王宮にまで足を運んでください」

「恐れながらアメリア姫!」

貴族の一人。水面下での出来事を知らされていないのだろう。

戸惑いと興奮がないまぜになった様子で口を開いた。

「先ほどあの神官の詩! あれはいったいなんなのですか!?
なんといっているのかはわかりませんでしたが、旋律にも似たあの詩に、何か心当たりはあるのでしょうか!?」

「・・・・・・詳しいことはわたしにも。
ですが、一部の方々はそれを掴んでいた節があるのは確かなこと。それを踏まえ、後日王宮へ足を運んでいただければと」

「あれほど強大な力を、目の当たりにしたら是が非でも欲しい!」

遠くから別の声が追い討ちをかける。

広がる同意の声。

なるほど。扇動か。

この日まで隠蔽し、力を見せ付けられた人の心理をたくみについた作戦である。

しかしそれはアレンも想定していたこと。

「まってみんな!」

あたしは声を上げ、みんなの注目を集める。

「よく思い出して! 彼はその直後意識を失い搬送されたわ!
ならもしそれをあたしたちが使ったら、彼と同じようになるのが関の山じゃないの!?」

ざわっ・・・

不安げに揺れる空気を見逃さず、あたしは続けた。

「あたしたちが同じように使ったら、それが命を脅かす危険性があったからじゃない?」

むろんそんなわけはない。

アレンを蝕む魔王の呪いの力と、彼が使った神の力が反発しあい、その反動でアレンは倒れたのである。

あたしたちがそう遠くないうちに、神の力とやらを使える日がやってきたとしても。

魔力の行使による減退はあれど、意識不明になってぶったおれることはまずないだろう。

呪いのことを王宮の利用しようとした人間が、知らないことを逆手にとって。

知っているのは、あたしたちだけである。

とはいうものの、人のキャパシティで使える神の力というのは、竜族などに比べるとはるかに少ない。

まあ。それをこの先それを突き詰めていくのは、彼女たちが負う事になりそうだ。

あたしの言葉を受け、アメリアはまるであたしがそういうのを待っていたかのように、現在知りうる限りのことを説明していった。

神の力について。

その危険性の有無の確認。

アレンが何故それを知っていたのかというアメリアたちの疑問は、当然あがった。

・・・・・・あたしにお鉢が回ってきそうな予感がひしひしとしたんで、てきとーに言葉を濁したけど。

めんどくさい事情説明なんぞ、まっぴらごめんである。

王宮の肩こるような延々続く手続きを、なにが悲しゅうてやらなければならないのか。

アレンにしてみても、呪いの事を始め、正直に申告するほど愚かではない。

めんどくさそうな背景を、王宮に言ってやるほどの義務もないと思ったからこそ、さいごまで隠し通していたわけで。

王宮にしてみても、アレンを利用する気満々だったのだから、お互い様な感じがするのだが。

「さーてと。魔の因子と汚された魂。
まだ残り香程度あるが、これなら俺の中で消滅するのも時間の問題。
これで貸し借りはなしになったんで、俺もぶらり旅に戻るとしますかねぇ」

こっきんこっきん肩をならし、ヴラはのんきな口調で言った。

人々の喧騒を、煩わしげに聞きながら。

「んじゃあな」

ひらひら手を振り、踵をくるりと――

「お待ちください! 火竜王様!」

「うんわ目敏い」

一人が上げた声に、ヴラはヤな顔して立ち止まった。

逃がしてなるものかと、無謀なことに包囲網を狭めようとする貴族や兵士。

「どうかこの地に留まりください!」

「めんどい」

即答するヴラ。

その言葉に絶句する神官や巫女たち。

・・・・・・まあ。

神聖な存在として崇められている神が、こんなものぐさだとは普通は思わんわな。

「せめて一年。それがいやなら一ヶ月でもいいので!」

「ここは俺が治める地じゃねぇって、何度も言ってるだろうが」

耳をほじほじしながら、耳にタコができちまったじゃねぇかとぼやくヴラ。

・・・・・・何度も、つーことは・・・・・・

ヴラが治めている地でも、似たようなやり取りが行われたんだろーか?

「大体てめぇら人間が、俺を縛れるわけねぇだろうが」

「ご意見はごもっともです! ですが我等が国のため、どうか!」

「そんで戦争でもふっかけるつもりか?」

「とんでもない! 世界の平穏を望む志は同じです」

「長い目で見ればそうなる。清廉潔白な存在なんているか」

冷淡に吐き捨てるヴラのセリフに、食い下がっていた男も言葉を失った。

「人間誰しも、何らかの欲を持ってる。
別にそれが悪いわけじゃねぇ。欲望を願いと言い換えることもできるな。
欲がなければ、発展も進化もない。だが行き過ぎる欲は破滅につながる。歴史はそれを雄弁に語ってるだろ」

「では・・・・・・せめて、病に臥せっている陛下の病を取り除いていただきたい。勿論それなりの報酬を」

報酬の言葉に、あたしは心揺れた。

王宮のかなり上の人が提示するそれなりの報酬というもんが、どれほどのものなのかは推して知るべし。

「やなこった」

ぐらぐら揺れまくるあたしの心境など知るわけもなく、ヴラはばっさり切り捨てた。

・・・・・・いやまあ。

ヴラのことだから、そうくると思ったよ?

けどもうちょっと、あたしに報酬を前金で返金不可とかなんとかいって全部渡すようにいって。

あたしがありがたくお金をもらって、王宮からとんずらしたあと、断って欲しかったな・・・・・・。

堅実的かつ、実用的なプランを提供する前に断るんじゃない!(八つ当たり)

「人に限らず生を受けたものは、必ず終わりを迎える。
老いから来るのもあれば、病で倒れる者もな。この世にある当然の理を、何故俺が干渉し、捻じ曲げなければならない?」

「そんな!? 子供や敬愛すべき方。情のあるものを助けたいと思わないのですか!?」

「知識としては理解できるが、行動を起こすとなると納得できねぇな。
俺たちと魔族同様。俺たちとてめぇらの間に、あいまみえない部分ってのはどうしたってあるんだからよ」

「神とは我らを助けてくれる偉大な存在ではないのか?」

勘違いにもほどがあるその発言に、ヴラは皮肉そうに笑った。

「甘ったれんな。俺はてめぇら人間の『ママ』じゃねぇ」


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