タイトル : 白魔術都市狂想曲 119
投稿者 : フィーナ
投稿時間 : 2010年9月11日19時39分18秒
「わたしもだけど、為政者ならあの力を一度目にした以上、手中に収めたくなるわ」
アメリアは、ぽっかりと大穴をあけた天井を見上げてつぶやいた。
「空が割れた・・・・・・と、表現したほうがいいわね。これは」
・・・・・・いつになく苦い笑みを浮かべて。
朝から曇り気味だった灰色の空が、ここ王宮の一帯だけ青が広がっている。
ダム・ブラス
普通 振 動 弾 など、術で壁を破壊したら、すくなからず瓦礫ができるはずだが、それが一切ない。
さらさらと流れる白い砂のようなものが、あたしたちの頭や肩にかかっていたり、薄く地面に積もっているくらいである。
おそらくは、先ほどの術が天井を貫通した際、術の余波かなんかで瓦礫が粉々に粉砕されたとみたほうがいいだろう。
「大気を震わせ、曇天の空さえ吹き飛ばすほどの力。
ヴラさんのため、ディーが人々の魂から作り出した呪法を、わたしたちの手で取り除くのが目的だったはずなのにね」
王宮がアメリアに、執行権をつかわせる前に神の力のことを言わなかったのは、貴族たちを味方につけるため。
そして、彼ら王宮の利益につながっていることに他ならない。
貴族たちの多くは、いくつもの企業を抱えている。
絵画などの転売や、宝石商など様々。
そんな彼らにとって、これは格好のビジネスにつながると踏んだのだろう。
そして、それは王宮にとっても、魅力を秘めた事柄でもある。
白魔術都市として名高いこの大国で、先駆けて神の力を使うことができたなら。
国としての地位が上がるばかりか、他国に対して優位な立場を取れるばかりでなく。
神の力に関する技術や知識を、セイルーンが独占することだって可能である。
政治的な意味合いのほかに、魔族への対抗手段として、各神殿や他の町の魔道士協会に高値で売りつけたり、
どうあっても得にはなるが、損にはならないということである。
・・・・・・まあ、魔族にとって脅威となる知識を、人間の間で広がっていくことを、彼らが静観しているかどうかは疑問だが。
それに、アレンの呪いの進行は、あたしたちの現在の魔道技術では・・・・・・
ヴラとの接触で、アレンを蝕む呪いが急速に加速し、もはやランゴートの癒しの力だけでは。
呪いの進行を遅らせることはできても、取り除くことは不可能。
・・・・・・だからこそ・・・・・・
万が一のときのために、布石を打っておいた。
「・・・・・・ここか」
彼はフードを目深にかぶり、そびえたつ研究機関をみあげた。
厳重に張り巡らせた、見張りの兵士たちを眠らせて。
「正直に言ったところで、頭の固いお偉いさんは聞く耳を持たない・・・・・・か。
なるほど、たしかにリナの言うとおりだな」
術の影響から逃れ、突っかかってくる兵士を、ブロード・ソードの柄でうちすえ昏倒させる。
エルメキア・ランス
「 烈 閃 槍 」
続けざま、別の兵士に術を叩き込む。
たまらず倒れる兵士。
「それとも、力を手に入れたことに狂喜した人間は、我を失うものなのか」
呆れともつかないため息を漏らす。
「・・・・・・でてきたらどうだ」
「ネズミにしてはやるほうだな」
音もなく彼の前に立ちはだかる男たち。
「養成施設・・・・・・いや、今は王宮の諜報部隊か。
情報操作などの諜報活動だけでなく、裏では暗殺をも請け負う隠密機関」
「貴様は・・・・・・容姿は大分変わったが、レゾの狂戦士か」
「その名で呼ばれるのも久しいな。あまり喜ばしいことではないが」
ゼルガディスは、ぴくりと片眉を動かし言った。
「何用だ」
「王宮が押収したあるものを取り返しにきた」
「・・・・・・例のマジック・アイテムか。
残念だが、そうはいかん」
「あの神官の所有物だ。返してもらおう」
「あれは王宮に捧げられた王宮のものだ」
じわりと、距離をつめる男たち。
「国が成り立つためには、なんらかの犠牲の上で成り立つ。
大事の前の小事ともいうが。裏家業に長年、足を漬かっていた貴様なら分かるだろう」
「たしかにおれも、昔汚れ仕事をしていた時期もあるから、わからなくもない。
だが、おれは今あの神官の護衛を依頼されている。そうおいそれとは頷けん」
ゼルガディスは、ブロード・ソードを正眼に構え、呪文を唱え始める。
「バックにいるものがアルベルトから変われど、我らのやることは変わりない。
――侵入者は排除する」
合図とともに散開する男たち。
「――ずいぶん盛り上がってるねぇ」
殺気が立ち込めるのをものともせず、能天気そうな声が上がった。
ゼルガディスと、男たちが振り向く先にいたのは一人の男。
毒を含んだその笑みで、男は言った。
「僕も混ぜてくれないかな?」
|
|