タイトル : 白魔術都市狂想曲 120
投稿者 : フィーナ
投稿時間 : 2010年12月5日20時04分08秒
王宮の近くにそびえたつ、大人数が入れるような一室。
離れにあるその場所では、戸惑いを隠せない様子のお偉いさん方がちらほらとみうけられる。
「ですから、今なんとおっしゃった?」
「先ほどもいったとおり、彼は意識不明の昏睡状態に陥っていて、到底起きる気配がないのです」
原因はいまだ不明ですが、とアメリアは難しい表情で続けた。
「だからこそ、ここにはこられないというわけか!? なら何故裁判のある明日ではなく、今日に我々を集められたのだ」
彼女は落ち着いた様子でいった。
「その理由は他でもありません。
魔法医たち数人がかりでも、どうにもできないほどアレンのコンディションが優れないんです。
脈拍も酷く弱く、予断を許さない状況で、生命の危険に常にさらされているような状態だから」
「・・・・・・なるほど。だからこそ早めに行おうというわけか」
別の一人のお偉いさんが、アメリアの説明に納得したように相槌をうった。
「最終的な裁きを下すのは父さんですけど、皆さんなら正しい裁きをしてくださると信じています」
「アメリア様にそこまで言われて、悪い気はいたしませんな」
相好を崩し、目上の者に対する最敬礼を、アメリアに行うお偉いさんたち。
「ではわたしは、まだやらなければならないことがあるので」
「おお。お呼び止めて長居までさせてしまって申し訳ない」
「では私も失礼させてもらうよ」
言葉を交わし、それぞれの席に着く彼ら。
ちなみにあたしは、いちおー弁護人兼アドバイザーとしてここにいたりする。
ガウリイはこういった作業には問題外なんで、もしもの時のためにアレンの傍に置かせている。
番犬としては、まさに適任である。
一方的に相手の非を挙げて、自分たちの優位に持ち込ませようとするのって、裁判としてどーよ? 的なのが現在のあたしの心情であったりする。
それに乗っかってるのが、利権に目が眩んだ貴族たちや高官だというのだから、始末が悪い。
まあ・・・・・・アレンもこうなると知ってて、実行に移したんだから同罪ではある。
もっともアレンの場合、苦肉の策で必死だったみたいだし、王宮の連中とは違い可愛げもあったからまだマシである。
・・・・・・意識があったとき、一発ぶん殴ってて正解だった。
「――そして彼の神官は、神に仕えし者として許しがたいことに、アメリア姫を手にかけようとしていたのを多くのものが目撃しており、それは本人は認めております」
ま、それは『事実』である。
「調査によると、無謀にもエルドラン国王陛下のお命を奪おうとしたらしく、数年前から呪術の研究に手を染め始め・・・・・・」
ずいぶんと脚色されてんなー。
「異議あり!」
友人の一人である神官がこれに抗議し、裁判長はそれを許可した。
証言によると、呪術の研究に手をつけたのは事実だが、それは解呪の類のものに使用されたものだということだった。
他にも薬草の調合など、神官としての腕は確かだったとアレンの上司である別の老神官もそう証言したところで、時間になったため裁判官の声が小休憩を告げた。
こういうピリピリした空気のなか大人しくしてるってのは、どーも性に合わない。
王族をはじめとするお偉いさん方がいる以上、いくらあたしでも気を遣わなければならないというのは、きょうび五歳の子供でも分かる常識である。
・・・・・・いつかガウリイに、たとえ他人がどうあろうと、絶対自分のペースで突っ走るといわれたこともあったが。
下手に暴れようもんなら、最悪のばあい指名手配されること請け合いである。
外に出て、大きく伸びをする。
あー。
肩が凝って仕方ない。
しかしこれで、狙いははっきりした。
彼等の狙いは、まず間違いなくアレンの王宮への幽閉である。
当初の予定では、おそらく『更正』の名目で入れるつもりだったんだろう。
ゆっくり時間をかけ、すべて聞き出してからどうするのかは・・・・・・
・・・・・・いらないことや知りすぎた者を、普通はどう思うだろうか。
過激な思想を持つものや、現状維持など数あれど。
良心的なものがいたのなら、良ければ監視つきの生活か一生幽閉。
しかし悪ければ・・・・・・あとは想像にお任せしよう。
沈黙を守ったままの勢力の狙いは、果たして何か。
さて、これからが本番である。
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