タイトル : 白魔術都市狂想曲 121
投稿者 : フィーナ
投稿時間 : 2011年5月8日20時25分02秒
喧騒が続く王宮の中、あたしはロビーで待ち合わせをしていた。
思惑が渦巻くのが政治の常とはいえ、その渦中には巻き込まれたくないと思うのが、
―――貴族や王族とは無縁の世界で生きる、日々の日常に身を置く人々であろう。
小休憩が終わり、数人の文官たちが書類を持って部屋の中に入っていくのを尻目に、貴族たちは硬い表情を時折見せた。
物騒そうな雰囲気をうまく隠せているが、動揺まではごまかしきれなかったみたいである。
・・・・・・どうやら、ガウリイたちがうまく捌いたようだ。
シルフィールの親戚であり、王宮の神殿で働いていたグレイさんにも協力してもらっている。
会議が始まる前のグレイさん曰く、呪法のプロセスの構成が高度すぎる・・・・・・
―――というよりも、人の力では到底及ばない種類のもの。
そして、なんとか呪法の進行は抑えているものの、よくても夕方から今夜が峠だというお墨付きをもらった。
・・・・・・まあ、あの呪法は魔族。
それも魔王のだから一筋縄ではいかないわな。
むろん魔族といってもレッサー・デーモンあたりならともかく、高位魔族や魔王がいるなどいっても、いまだその存在たちのことを信じられない人間というのも多い中、バカ正直に言っても混乱するのが関の山。
他の神官たちにも、うまくごまかしつつ説明して見せた。
貴族や文官たちが部屋の中に入っていき、目の前の扉がゆっくりと閉められる。
静寂が訪れる王宮のロビー。
あたしの手の中に輝くマジック・アイテムを、手のひらで弄びつつ時間を潰す。
どれほど時がたっただろう。
静寂に包まれた空間を破るように、馴染み深い気配が近づいてきた。
こつこつと足音が響き渡り、あたしの前で音が止まる。
姿を見せた彼に、あたしは開口一発いってやった。
「か弱い乙女を待たせるなんて、男の風上にも置けないわね」
「・・・・・・あんたのどこが『か弱い乙女』なんだ?」
疲れた口調で憮然とした様子のゼルガディス。
「中に入らなくていいのか」
「大丈夫でしょ」
肩をすくめて言うあたし。
「動いている人たちもいたことだし、なにより中にアメリアもいるしね」
「そうか」
あたしの手の中に在る『それ』に、ゼルは視線を向けた。
「・・・・・・それが残りのやつか」
「そーゆーこと。急ぎましょう」
会議が決着つくまでには、まだしばらくのときがかかるはずだから。
「やあ。ひさしぶり」
軽く手を上げ、気楽そうに手を振る一人の男。
「ひさしぶりです。オリヴァーさん」
「やだなぁ。そんな堅苦しくしなくても、もっと気軽にしたらどうだい?」
軽く笑いながら言いながらも、その細められた目は彼が油断してはならない人種だとあたしに告げている。
以前知り合った商人で、マジック・アイテムを扱う一見人当たりのよさそうななりをしている。
・・・・・・が、その実態はこのあたしをして、感嘆させるほどの手腕を持つ、一癖も二癖もあるアクの強い人間である。
「なんだってオリヴァーさんがここに?」
警戒を表に出さず、あたしは彼がここにいる理由を尋ねた。
「んー。商売?」
「商売?」
オウム返しに聞き返すあたし。
「そう、商売。
王宮内で面白いことが起きてるって、伝手に聞いてね」
「伝手だと」
「そう、伝手だよ」
ゼルの声にそう返す。
こちらに視線を向け、笑みを浮かべる。
見透かすような視線の強さに、無意識のうちに構えた。
「そんなに警戒しなくても、君たちには何もしないよ」
あたしたちが構えたのを見て、彼は少し困ったように言う。
「・・・・・・それであんたは、どうしようっていうんだ」
「僕は別に、王宮や君たちと敵対しようなんて考えてないよ。
少しの労力で、最大限の利益を得られると踏んでね。ローリスク・ハイリターンってやつだよ」
いって取り出したのは、あたしが持っているやつと同種のマジック・アイテムであり、
そのなかに強大な力を秘めていることが分かる、地竜王ランゴートの癒しの波動。
私利私欲のため、浅はかな貴族たちが難癖つけてアレンから押収した、ひらたくいうと『ぶんどった』ストック・ジュエルである。
「それをどこから?」
「そこの彼に協力してもらってね。親切にも返してもらったんだよ」
ゼルの顔を見てみると、眉間にしわを寄せている。
その表情は『あれのどこが親切なんだ』と物語っていたりする。
・・・・・・どーやらかなり、無茶な目にあったよーである。
聞いたら胃が痛むこと請け合いなような気がひしひしとしたので、話を変えてみた。
「それで・・・・・・それをどうするつもりなんです?」
「どうするつもりもないよ。
まあ、しいていうならアフター・ケアかな」
オリヴァーさんは苦笑を浮かべた。
「本当はアレン君一人で全部やりたかったみたいだけど、ああみえてアホで抜けてるからね」
ずばりとバッサリ切り捨てながら、言葉を続ける。
「まあ商品作る際に、経験や知識を基にした、目の届かない穴のある構成のバックアップや、魔道士協会や神殿への強制パシリ・・・・・・雑用とか自発的にしてくれたからね」
うん・・・・・・力関係がよく分かる。
たぶん本人漠然とうっすら感じとっていたものの、こきつかわれてたこと・・・・・・あんまり気づいてなかったんだ。
「なんだいそんな微妙な顔して」
「あー・・・なんでもないです」
ぱたぱた手を振りつつ、こたえるあたし。
「なに考えてるのか分かるけどね、べつにいいようにこきつかってただけじゃないよ」
胡乱げな笑顔を浮かべつつ、説得力のない事を言う彼。
「それによく言うだろう? 『人事を尽くして天命を待つ』って。
アレン君がやってきたことのほとんどは、意味を持つことだったんだよ」
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