タイトル : 銀幕(下)
投稿者 : みい
投稿時間 : 2013年6月6日01時09分18秒
さて、どう風呂敷を畳んだものか……。
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突き立てた剣は、鞘ごとオリハルコンの幕を貫通していた。
俺は力任せに剣を下ろし、幕を破る。
「ゼロス、貴様ァ……!」
こんな時は、傷付きにくい自分の肌が便利だと思う。
裂け目から奴を睨みつけながら、素手で幕をさらに広げて室内へと
入り込んだ。
「おやおや」
いつも通りの笑みの仮面をこちらに向け、ゼロスは一瞬で距離を取った。
リナは、……おい!
「リナ、リナ!?」
彼女は何とも危なっかしい角度で俯いていた。
肌蹴られた襟元から覗く細い首が、長い髪に引っ張られる頭を
重そうに支えている。
いつも力強く輝く瞳は、人形の硝子玉(それ)の様に空ろに光を
反射しているだけだ。
「リナっ」
頬を濡らす雫を拭うと、ひくりと頭を震わせて、緩慢な動きでこちらを
見上げる。
「ぜる? ごめん、ね」
無理やり口角を上げても、それは笑みに見えなかった。
思わず引き寄せて抱き締め、痛々しい表情を見ないようにする。
「うーん。ちょっとやりすぎちゃいましたかねー。
まあお二人の感情はとっても美味しかったので、僕としては
嬉しかったんですけど。
リナさんが壊れちゃうのはこちらとしても困るので、じゃあ
ゼルガディスさん後は宜しくお願いしますねっ」
ことさらおちゃらけた声でゼロスは言い放ち、さっさとその場から
消えてしまった。
俺がこの手で消したい、とは思ったが、このままいても負の感情を提供する
だけのような気がして、どこか納得している自分もいた。
あんな奴よりも、リナだ。
「ぜる、くるしい」
そりゃあ、岩肌で強く抱き締めたら苦しいか。
苦笑して腕を緩め、頭を撫でながら顔を覗き込む。
「泣くな」
「な、泣いてないわよ」
「強がらなくていい」
「どっちよ……」
強張っていた表情から力が抜けて、もう一度頭を撫でる。
「それでいい」
「……偉そう」
「お前に言われたくない」
間髪入れずに言い返すと、リナがふっと息を漏らした。
とても不器用に、笑っていた。
☆ ☆ ☆
「つまり、お前さんの責任なんてどこにもないじゃないか」
ゼルがいなかった間のことを掻い摘んで説明した後、彼の第一声は
それだった。
ちなみに場所は未だお宝ちゃん達の部屋である。
「だってそうだろう。
友に呼ばれて行ったら自殺幇助を頼まれた。生かしてやる道はどこにも
なかっただろう。手を貸すのがそいつの為だ」
「でも」
「そいつが、最後は人としての自分でいられるようにと手伝うことの、
何が悪い。
一度魔王を受け入れてしまったら、後は魔族に利用されるだけだ。
降魔戦争の再現を、お前もその男も嫌ったのなら、それが最善の道だ。」
言い切られて、言い淀む。
「お前さんは、彼を守ったんじゃないのか」
「……“守った”」
「賢いんだから、わかってるだろう」
頭を撫でられて、「ん?」と首を傾げるゼルを見つめる。
彼の手は硬いけれど、とても優しい。
その、まなざしも。
「自身が持てないなら何度だって言ってやる。
お前さんは最善を尽くした。お前さんしかできないことだった。
感謝してるだろうよ」
ルークの顔が、ふっと浮かぶ。
苦しげなものでない、おだやかな表情(かお)が。
「いいの、かな」
「いいんだろ。
むしろ、そいつが今のリナを見たら怒るんじゃないか?」
――いつまでクヨクヨしてやがる、らしくもねぇ!
そう、ルークの声が聞えた気がした。
「いいの、かな」
胸につかえていた何かが、すっと解けた。
彼とはもう会えないけれど。
「殺したんじゃない。お前さんが、見送ってやったんだ。」
ぼろぼろと、目から雫が零れた。
きっとこれが、一番欲しかった言葉。
「よく頑張ったな」
不覚にも、声を上げて泣いてしまった。
☆ ☆ ☆
「あの、ところで、ゼル?」
「どうした?」
「だから、その」
ゼロスが去ってからずっと、俺はオリハルコンの壁によりかかり座っていた。
リナを、膝に乗せたまま。
段々と冷静になってきたのだろう、胸元に垂れている俺のケープを小さく
握りながら、もじもじと俯いている。
案外可愛いところがあるじゃないか。
そう思う自分にも、もう吹っ切れていた。
わかりやすい話だ。まさか自分が、とも思うが、この一件で気付いて
しまったのだからしようがない。
「リナ?」
耳元で低く囁いてみれば、大きく身体を震わせてから涙を浮かべて
こちらを睨む。
赤面しているから、効果は別の意味で抜群なんだが。
「もう、大丈夫」
「俺は離したくないが」
「ぜっ……!?」
ふむ。面白い。
「嫌か?」
「いやじゃなっ……い、けど」
「ならいいだろう」
澄まして言ってやれば、絶句したようでただぱくぱくと口を開いては閉じている。
「お前さん、案外可愛いな」
「ななななに言って!」
「女らしい反応もできるんじゃないか」
「それは! 普段ガウリイがレディとして扱ってくれないからでしょっ」
なるほど。確かに旦那の言動は「女子供は大切にしろ」の、子供扱いに見える。
「俺は別段、お前さんを子供扱いした覚えはないが」
「知ってるわよ、ちゃんと女の子扱いしてくれてたって。だからす、……」
うっかり口が滑った、とでも言いたげに視線を逸らし、口元を覆い、それからすっくと立ち上がる。
俺の腕はそのままだったので彼女の体のラインに触れたことになるが、
意思とは無関係だと主張しておこう。
「す、なんだ?」
「何でもないっ」
「解らないだろう、言ってみろ」
「解らなくていーいーっ」
リナはすたすたと財宝の山へ近づき、持って帰れる分だけを纏めるため物色を始めた。
赤くなっている耳を弄ってやりたい衝動に駆られるが、我慢しておいてやろう。
「もう、大丈夫だな?」
「うん。……ありがと、ゼル」
くしゃりと頭を撫でると、見えない顔が微笑んだ気がした。
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お、終わっ、た……?
強引ですし、しばらく書いてなかったので「文才何それ美味しいの?」な感じですが
最後までお付き合い頂きましてありがとうございますー!
タイトル活かしきれなかったなぁ……。
ではでは、またいつかお目にかかれる日までっ。
みいでした☆
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