タイトル : 白魔術都市狂想曲 129
投稿者 : フィーナ
投稿時間 : 2015年12月24日20時52分20秒
「では世話になったね。ゼル君」
「・・・・・・ああ」
オリヴァーさんに君付けで呼ばれ、若干イヤそーな表情でこたえるゼルガディス。
ぶっきらぼうなその様子に堪える様子もなく、彼はその傍らで馬車を引いた馬に手を伸ばしているアレンに声をかけた。
「君も時間がかかると思うけど、きをつけるんだよ?」
「う?」
きょとんとしたまなざしで、アレンは首をかしげる。
マジック・アイテム
その彼の首元と、両手首には淡い輝きを放つ 魔 法 の 道 具―――
がそこにあった。
アレンにかけられている、北の魔王の呪い。
その呪いは確実に彼を蝕み、自我を崩壊させ浸食しつつあった。
もしそのままだったら、確実に手遅れであっただろう。
ヘルマスター
・・・・・・ひょんなことから、高位魔族の一人である 冥 王 フィブリゾが滅び、神の力がこの大陸に届くことがわからなければ・・・・・・
アレンが商人のオリヴァーさんや魔道士協会、そのほかの機関に手渡した技術を試行錯誤の上に完成させたひとつに、かけた呪文の特性を一時的にもたせるものがあった。
あたしが貰い受けたのもその一種である。
アストラル・サイド
たとえば何の変哲のないショート・ソードに、 精 神 世 界 面 に干渉を及ぼす呪文をそのアイテムに組み込めば、一般の兵士でも下級の魔族に手傷を負わせることでできるのである。
無論それなりの技量は必要になるが。
ただ以前立ち寄ったレイスン・シティのときは、そこまで持続時間が長くなく、逆に出力がそれなりのものだった。
ようするに本来の術の威力には遠く及ばないが、不意をつくなどのいわゆる奇襲にはもってこいの代物なのだ。
そして、呪文の威力が高すぎると壊れる。そんな品物だったのだ。
『だった』・・・・・・そう、過去形である。
マジック・アイテム
アレンがつけている 魔 法 の 道 具。
呆れることに一個につき、水竜王以外の神の力の呪文がひとつずつ丸ごと収まっているのだ。
そして呪文の効果は微弱なモノながら、その半面持続時間はイヨーに長いという。
・・・・・・ルークが持っていた吸魔の剣でも、そこまでブッ飛んだ性能じゃなかったぞ。
そして当然のごとく、あたしはこの場所に来るまでに安い値段で吹っかけ・・・・・・もとい、交渉を続けてみたのだが。
「あいにくこれは特別製だそうでね。詳しい原理は僕にもわからないし、現物はこの三つのみ。
そしてこの三つは、いわばアレン君の生命線とも言える、曰くつきの代物ときたもんだ。君ともあろう者が、まさか呪いに蝕まれている人間に命綱を切るような非道なことはもちろん言わないよね?(意訳)」
というようなことを、オリヴァーさんにイイ笑顔で言われて断腸の思いで泣く泣く断念したのだった。
そんな彼は今、新しい顧客を得るため、あたしたちと途中の道でわかれラルティーグ王国まで足を伸ばしていた。
そしてあたしたちはというと。
「それじゃ、元気でねゼル」
「お世話になりました。元の体に戻れる日を楽しみにお待ちしていますね」
「そうなれる日も、そう遠くないんじゃないか?」
ガウリイの台詞に、ゼルガディスは口元を小さな笑みの形に浮かべ、
「そうだな」
と、小さく囁くように言った。
いまだ深いフードをかぶってはいるが、その肌の色は彼が忌み嫌っていた岩の色ではなく―――
それに隠れるような色ではあるが、健康的な肌色をしている。
ミックス・ジュースを完全なオレンジ・ジュースに戻すことはできなくても、オレンジ・ジュースに限りなく近いミックス・ジュースを作ることはできる。
キメラ
いまゼルガディスがやっているのは、コピー・ホムンクルスによる 合 成 獣 化。
よーするに、ゼルの岩肌コピーに多数の人間の肌色コピーを移植するよーなもんである。
合成しすぎると、ゼル本人の面影がなくなりそうなもんだが、事前にゼルコピーに実験を施したらしい。
そんで、いまの状態のゼルコピーもストックしてあるとのこと。
本人はレゾと、簡単にコピーは眼が開いた腹いせに、魔族と合成させられたコピーレゾを思い出したのか複雑そーな表情でいっていたが。
たしかにこれなら、ほぼ完璧な人の姿に戻ることはできるだろう。
ほぼっていった以上、完全な人の姿には戻れないのではないかと、ゼルに問いかけてみたのだが。
「この方法を取れたのは、不本意だがレゾがおれの外見をほとんど弄らずに固定化させたからできる手段だそうだ」
繰り返し合成する以上、顔のパーツの造形も崩れたり別人の顔になったりする恐れがあったが、固定されているおかげで多少の無茶なこともできた。よほど魔道技術の高い人間があなたをそうさせたんでしょうね―――
・・・・・・呆れと戦慄と感嘆と。
非常に複雑かつ肩身の狭そうな表情で、彼は言い切ったそうだ。
随分とお茶目でふざけた面倒くさい性格の人だ、と。
ゼルガディスは、アレンの護衛でこの分岐点の片方。
カルマートのレイスン・シティへといたる道へ。
そしてあたしたちはというと。
「柄でもないがいわせてもらう。
・・・・・・結婚おめでとう。シルフィール」
「ありがとうございます」
照れているのか、ややぶっきらぼうで早口ではあったが、柔らかな口調で祝いの言葉を口にしたゼルガディスに、シルフィールははにかむような、満面の笑みでそう返したのだった。
・・・・・・そう。
あたしたちが進むもう片方の道は、かつて魔獣ザナッファーに百年以上前に壊滅されたのを抜きにして数えてみても。
これでもか!ってくらい、不幸のオンパレードといってもいい不憫な町で、今現在は復興の兆しが見え始めている・・・・・・因縁深い場所でもある。
シルフィールの故郷であるサイラーグ・シティであった。
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