タイトル : 白魔術都市狂想曲 130 完
投稿者 : フィーナ
投稿時間 : 2016年3月14日23時26分54秒
鬱蒼と茂る森の中、いまあたしたちはサイラーグまで続く道の途中にある宿場町で休憩を取っていた。
宿場町といっても規模は、町というより旅人が利用するような携帯食料などを売っている道具屋や、宿泊できるような酒場と宿屋が兼任されているまあ、ありきたりな施設がいくつかある辺鄙な場所である。
そんなとこにあるカフェのテーブルのひとつであたしはシルフィールをジト目でみつめる。
「んで、なんでガウリイには結婚の話を知らせて、あたしには知らせなかったわけよ」
あたしの視線を受けても、シルフィールは動揺するわけでもなく涼しい顔をしていた。
あたしたちがセイルーン・シティで厄介ごとを片付けている間、シルフィールは念願だった神官の資格を獲得していたらしく、ごたごたが一段落したころに彼女からサイラーグまでの護衛を頼まれたのだ。
復興の手伝いをしたいと頼む彼女に否とはいえず、とある事情も重なっていたのもあってその依頼を引き受けたのだ。
そして、ある町にある魔道士協会のメッセージ・センターでシルフィールが結婚すること、そしてそれをあたしには知らせずガウリイには事前に知らせていたことが明らかになったのだ。
・・・・・・まあ、あの男は例によって「そんなことあったっけ?」とぬかして、シルフィールの目を点にさせたが。
「セイルーンでのごたごたがあって、急がしそうでしたから・・・・・・というのは駄目ですか?」
「いっとくけどガウリイみたく忘れてたとかいわせないわよ。いうチャンスはここ数日でいくらでもあったはずだし」
「婚儀のことはセイルーンにいるあいだ決めたことですし、きっかけはありましたけど」
そういいながら、彼女は苦い笑みを浮かべた。
「・・・・・・そうですね。リナさんにお話しするのは些かためらったからですね」
「ためらった?」
鸚鵡返しでたずねるあたし。
運ばれてきたオレンジ・ジュースを一口すする。
「ええ。リナさんはセイルーンで私の近況を知ったらどうしていました?」
「どうって、知らない仲でもないし派手に祝福したわよ」
あたしが『派手に』と答えた途端、シルフィールの表情がわずかに引きつったのを、むろんあたしは見逃さなかった。
「それは、なるべく遠慮したいといいますか」
「なんでよ」
「あれから聞き込みをしてしっているんです」
「な・・・・・・なにがよ」
あんまりにも深刻そうな表情から、おもわず身を乗り出す。
「リナさんがそのテの業界では名の知れた縁切り業界のトップ3。
赤い糸切りのリナといったら未婚カップルたちにとって恐怖の代名詞で有名じゃないですか」
ずげしゃ
その場に突っ伏すあたし。
「ちょっとまてぇぇぇぇぇっ!」
思わず声をあらげる。そんなあたしを意に介さず、シルフィールは思い出すように語る。
「聞いた話では婚礼間近の婚約の仲介をして、破滅していった婚約者たちのかずしれず。
そのため婚礼の要注意事項としてパンフレットに載せられているという」
あたしはがばりと起き上がり、
「どこの町だそりゃぁぁぁっ!
風評被害で慰謝料たっぷりふんだくる!」
あさっての方向に親指立てて、そうかたくちかったのだった。
それからなんやかんやといろいろあって、数日後。
森を抜けた先にぽっかりと切り取られたかのような荒野が広がり、栄華を誇った都市の面影はなく、ぽつぽつと建築された建物が建つばかり。
護衛の依頼を完了させたあたしたちは依頼料をもらい、数日間滞在することにした。
ライゼール帝国領サイラーグ・シティ。
それでもそこは都市として、交通の要としてあったこともあり、商品を運ぶ商人やそれを護衛する傭兵や魔道士などなかなかの賑わいを見せていたりする。
その中のひとつ。尊厳なたたずまいの白亜の教会。
天気は快晴、気温は穏やか。
まさに良き旅立ちにぴったりのシチュエーションである。
そして教会のドアがゆっくりと開かれて姿を現す一組の男女。
周囲の人々の歓声に新婦の女性は、新郎の男性を見上げてはにかんだ笑みを浮かべた。
新郎の男性は穏やかそうに目を細め、新婦の女性にそっと手を差し伸べた。
途端沸き起こる更なる歓声。
その様子を、あたしは少し離れた場所から伺っていた。
そしてそのまま踵を返し、
「もういいのか?」
「ええ」
かけられた声の主を見上げ、小さく答えた。
そう。サイラーグまでの護衛の依頼はすでに完了し、シルフィールの結婚式も見届けて。
そして・・・・・・
ため息を吐きたくなるのを何とかこらえ、再びシルフィールたちに目を向けた。
色とりどりの花のシャワーが降り注ぐ光景に、しばし目を奪われる。
「なあリナ」
「なによ」
「オレたちも結婚するか」
今日の昼飯なんにする? というような自然な問いに軽く流しそうになったあと、言葉の意味を捉えるのに時間がかかり、ばっと振り仰いだ。
そこにいたのは、とぼけた頭脳と賢さが退化の一方をたどる脊髄反射剣士の相棒の姿。
あいかわらず、天然なのかとぼけてるのか判断できないのほほんとした顔を眺め。
「・・・・・・気が向いたらね」
そうそっけなくかえす。
「そうか」
ごぉぉぉぉん!
教会の鐘の音が鳴り響き、あたしとガウリイのふたりは再び足を動かした。
祝福の声が上がる教会を背に、あたしたちは歩み始める。
まあ、そう簡単に問屋をおろすのは、何かに負けた気がするんで。
サイラーグにある宿の一室。
あたしは、ここ数日の間に感じる胸のときめきが、日を重ねるごとに増していくことを自覚していた。
それはここへくると決めたときから。
それは酒場を兼任している宿屋から聞いたときから。
ようやくここまでこぎつけたのだ。
幸いにとでもいうべきだろうか。
彼は気づいてはいなかったようだが、あたしはもう我慢の限界である。
ぐっと両手を握り締め、お守り代わりのそれを包み込むように覆い隠す。
もう、後戻りはできない。
軽いノックの音。
そして開かれる扉。
部屋にいたのは、ガウリイ。
「どうしたんだ? こんな夜遅く」
「ちょっと・・・・・・いい?」
上目遣いで、見上げる。
「あっ? ・・・・・・あ、ああ」
こくこくうなずき、あたしを招き入れる彼。
心なしか、見上げた彼の顔が赤くなっていたような気がしないでもないが、それはこの際関係なくなる。
「あの・・・・・・ね?
いいたいことがあるんだけど、言っていい?」
「おう。なんだ」
安心させるようにか、ぽんと頭に手を置くガウリイ。
あたしはいった。
はっきりと。
スリーピング
「 眠 り 」
ばた
ゆっくりと崩れ落ちるガウリイを支え、なんとかベッドに押し込める。
・・・・・・ふっ。
計 画 通 り 。
「いったい・・・・・・なにを」
「いやぁ。実はここに来る前にオリヴァーさんをはじめ、宿の人からサイラーグ方面の物資と合わせて盗賊さんが大量発生してるってきいてね。
盗賊いぢめもシルフィールの依頼とあわせていけば一石二鳥だし? ならば乗るしかないんじゃないかなって」
「呪文・・・・・・唱えて」
おそらく呪文を唱えていないはずなのに、なぜって思ってるんだろーな。
「これ」
いって見せたのをみて、ガウリイはそれとあたしを交互に眺め。
「不意打ちとは・・・・・・卑怯だ・・・ぞ」
そう言い放ち、深い眠りについたのだった。
マジック・アイテム
魔 法 の 道 具 の一種で、呪文をこめたらその効果をストックできるそれを、ガウリイの部屋に来る前にかけていたのだ。
「さーて。待ってなさいよねまだ見ぬお宝と盗賊さんたちっ!」
言いつつ呪文を唱え。
レイ・ウイング
「 翔 封 界 !」
颯爽と空を飛び、聞き込みをして割り出した盗賊のアジトに向かって突き進む!
とどろく攻撃呪文が鳴り響き、そして今日もまた盗賊団は壊滅の一歩を迎えたのだった。
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