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◆−彼女の理由(ゼロリナでヴァルフィリ)−人見蕗子 (2016/7/23 22:20:28) No.35246


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35246彼女の理由(ゼロリナでヴァルフィリ)人見蕗子 2016/7/23 22:20:28


「書き殴り」様への投稿はひっさびさでございます。
ヴァルガーヴが書きたい人見蕗子です。

この小話(小説っていうのもおこがましいので、自作のことを小話と呼んでいる)はピクシブにのせていたのですが、人見蕗子名義の活動を終了したので削除しちゃったけどお気に入りだったゼロリナでヴァルフィリ話です。










彼女の理由 


その日、フィリアはお茶の用意をしなかった。
 約束の時間が近づいてもティーセットを出さず、着替えもせずにぼんやりと食卓に腰かけている様子をみかねたヴァルガーヴがいいのか、と声をかけるが、いいのと冷たく返す。
 だからリナが到着したとき、そこは客人を出迎える場にはなっていなかった。
「久しぶりなのに冷たいわね、フィリア」
「ゴキブリは嫌いです。ゴキブリとつるんでる人も嫌いです」
「そう言わないでよ、久々なんだから。ねえ自慢のお茶でも入れなさいよ」
 リナが椅子に腰かけると、ようやくフィリアは立ち上がり薬缶を火にかけた。
「飲んだら帰ってくれます?」
「そんなにツンツンしなくてもいいじゃない。だいたいあんたの男だって似たようなモンじゃないのよ」
「・・・ヴァルガーヴは、違います」
「よく言うわよ」
「ヴァルガーヴと、ゼロスは、違います」
「ああそう。ほら、薬缶が吹いてるわよ」


 リナが突然姿を消した、というアメリアからの手紙を受け取った時、丁度リナはフィリアの目の前で紅茶を啜っていたのだった。ちょっと薄いわよ、などと文句を言いながら。
 どういうことですか、と詰問するフィリアに、
「今、ゼロスと居るのよ」
 とリナは告白した。
 もちろんフィリアは怒り狂い、紅茶が不味いのは味覚まで魔族になってるからじゃないですか!?とリナを怒鳴りつけた。
 リナがフィリアを訪ねてくるのは、それ以来のことになる。
 

「フィリア、あんたは幸せそうでいいわね」
 紅茶を啜りながら、リナがつぶやく。
「どうしたんですか」
「あたしは、最近わからないのよ。自分が幸せなのかどうか」
「魔族なんかと一緒にいるからですよ」
「やっぱり?」
「どうして・・・どうしてゼロスがいいんですか!?」
「じゃああんたは、どうしてヴァルガーヴがいいのか説明できる?できないでしょ?
 そーゆーもんなのよ」
「・・・リナさん・・・私、今幸せじゃなくなりました・・・」
「へ?」
「聞こえませんでしたか?」
「何が?」
「茶碗を洗ってるヴァルガーヴが、私のお気に入りのティーカップを割った音ですよ・・・!!」


 泡だらけのヴァルガーヴの手から滑り落ちたティーカップは、無残な姿となっていた。
「やっべ、割れちまった・・・」
「キャーまっぷたつ!!!!!」
「そんくらいでモーニングスター出すのやめなさいよ・・・大事なものは自分で洗う!フィリア!」
「は、はい・・・」
「なあ、魔術で直せねーの?」
「あたしはできないわ」
「天才美少女胸なし魔導士、リナ=インバースでも?」
「あんた・・・ついにあたしのこと胸なし言うたわね・・・!!
フィリア!!やっちまいな!!」
「さっきと言ってること全然違うじゃねーか」
「うっさいわね!!
なんならこの家ごとドラグ・スレイブでぶっ飛ばすわよ!!」
「それはやめろ。この家で何かあったら街から憲兵が飛んでくるぞ」
「ど、どういうこと?」
「ここに住んでるのがドラゴンだって街の連中は知ってるからな」


ある日街に出たフィリアはチンピラの軍団に囲まれ、ブチ切れた彼女は市場のど真ん中でレーザーブレスを吐き、チンピラといくつかの商店といくつかの住居を壊滅させたのだった。
 幸いチンピラ達はこの当たりを騒がせている窃盗団だったためフィリアにお咎めはなかったが、監督不行き届きということでヴァルガーヴは一晩留置所に入れられてしまった。
(長く生きてきたがブタ箱にブチ込まれるのは初めてだな)
 独房の冷たい床に座ってそんなことを考えていると、見張りの憲兵が気安く声をかけてきた。
「君たち夫婦のことは街でも噂になっててね。どこかのお嬢様と流れ者の傭兵が駆け落ちしてきたって話だったけど・・・まさかお嬢様がドラゴンだったとはね」
「・・・すんません、俺もドラゴンです」
「えっ!?じゃあ君も火ぃ吐いたりする!?」
「いやっ!!俺はあーゆー下品な真似は!!」
 ヴァルガーヴは必死で否定したが、
「そうか、じゃあ夫婦喧嘩ともなれば火の海ってことか・・・」
 憲兵の顔は明らかにひきつっている。
「いやっ!!そういうことは!!」
「今は人間に化けてるってことだよね?」
「はあ・・・」
「じゃあ突然でっかいドラゴンに戻ってこの街を破壊したりもできるってことか!?」
「いやっ!!だからそういうことは!!」
そんな問答を一晩繰り返し、
「君たち・・・仲良くね」
 憲兵は、翌朝そう言ってヴァルガーヴを送り返したのだった。


「だから、ここで異常事態が発生すればすぐ憲兵が飛んでくるぞ」
「フィリア・・・あんたなんちゅーことしてんのよ」
「多勢に無勢でああするしかなかったんです!!それに窃盗団逮捕に貢献したとのことで、感謝状をいただきました・・・」
「ヴァルガーヴ捕まってちゃ駄目じゃん!!」
「うっ、そ、そうですよね・・・」
「俺はなかなか面白い体験だったぞ」
「あのヴァルガーヴが人生に対して『面白い』だなんて!!感慨深いわ!!」
「ですよね!!あのヴァルガーヴが!!」
「あの、って・・・おい・・・」
「なんか、安心したわ。仲良くやってるみたいで」
「リナさんも早く私を安心させてください」
「どういうこと?」
「魔族とは早く縁を切ってくださいって言ってるんです」
「だから、そう簡単にはいかないんだって」
「ガウリイさんたちの前から姿を消しても、私たちには姿を見せるのはどういうことですか」
「あんたが好きだからよ、フィリア」
「私はゴキブリが嫌いです。ゴキブリとつるんでる人も嫌いです」
「さっきも聞いたわね、それ」
「どうして―――」
 ついにフィリアは泣き崩れ、リナは困ったように笑った。
 遥か昔、フィリアと初めて会った時と寸分変わらぬ、少女の顔で。






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