◆-〜酒>sake.utage<宴〜 <PART1(序章)>-投稿者:鷹見 葉月(11/9-20:52)No.5
 ┗┳〜酒>sake.utage<宴〜 <PART2(ガウリナ編)>-投稿者:鷹見 葉月(11/9-20:55)No.6
  ┗┳〜酒>sake.utage<宴〜 <PART3(ゼラゼロ編)>-投稿者:鷹見 葉月(11/9-22:00)No.7
   ┗┳〜酒>sake.utage<宴〜<PART4(ゼルガディス編)>-投稿者:鷹見 葉月(11/14-22:02)No.11
    ┗┳〜酒>sake.utage<宴〜<PART5(フィブリゾ編)>-投稿者:鷹見 葉月(11/14-22:06)No.12
     ┗━〜酒>sake.utage<宴〜<PART6(ゼルアメ編)>-投稿者:鷹見 葉月(11/14-22:12)No.13


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5〜酒>sake.utage<宴〜 <PART1(序章)>鷹見 葉月 E-mail 11/9-20:52


〜酒>sake.utage<宴〜


コーヒーを一口すすると、彼はため息をついた。
「どうしたの、ゼロス?
辛気臭い顔して・・・。」
栗色の髪の魔道士が、彼の前の席に腰掛けながら聞く。
「疲れがたまってしまったようです。」
彼はリナに向かって苦笑する。
事実、彼は疲れていた。
彼が彼の上司様から受けた命は体を壊してもおかしくないほどの激務であった。
だが、親愛なる上司様の御手を煩わせる訳にもいかないので、日々こうやって頑張
っているわけなのだが・・・。
(誰かから強引に『負』の感情をいただきましょうか・・・?)
こんな考えが自然と心に浮かんでくるほど、彼は疲れていた。
リナがいなければおそらく実行に移していたであろうその考えを、彼は強引に振り
払った。
(今余計な不信感を持たれるわけにはいきませんからね・・・特にリナさんには・
・・。)
そう考えると、彼は再びため息をついた。
そんな彼の様子を眺めていたリナだが、何を思ったのか突然大声を張り上げる。
「おっちゃ〜ん、お酒ふたつ〜。」
ほどなく運ばれてきた二つのカップを指差して、彼はリナに尋ねた。
「ふ・・・二つも飲むのですか?」
「なぁに言ってるのよ。
あなたも飲むのよ。」
そう言って、リナはカップを彼の手に押し付けた。
「すみませんが、今はそういう・・・。」
「悩み事があるときは、ぱぁっとお酒でも飲んで寝るのが一番よ。」
リナは彼の言葉を遮ってこう言うと、パチンと片目をつぶってみせた。
(それは人間だけなのでは・・・。)
という言葉を彼は喉元近くで押し返した。
(反論するだけ疲れるだけですよね。)
そう思うと、彼はカップを一つ手に取った。
「乾杯〜。」

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6〜酒>sake.utage<宴〜 <PART2(ガウリナ編)>鷹見 葉月 E-mail 11/9-20:55
記事番号5へのコメント
二つのカップが触れ合って、軽い音をたてる。
そして、片方のカップの中身はほとんどリナの口の中に消える・・・・・・はずだった。
「おや、リナさん・・・。
お酒、飲まないのですか?」
お酒に少し口をつけただけのリナに、彼は理由を尋ねた。
「のむわよっ。」
いやにムキになって反論をしてくる。
(もしかして・・・。)
まるで子供の悪戯を見つけた親のように、彼は微笑んだ。
「お酒・・・苦手なんですか?」
「人の好意を踏みにじるような事を言うんじゃないわよ。」
少しすねた顔がいつもにも増して可愛らしく思えて、彼はまた微笑んだ。
(そういえば・・・今朝もこんな顔をしてましたっけ・・・。)
お酒を口に含みながら、彼はぼんやりと思い出した。


『なぁ、リナ。』
『なぁに、ガウリイ?
食べている途中に…。』
三つ目のチキンソテーセットの最後の一口を飲み下してから、リナは聞いた。
『お前のねーちゃんって胸大きいのか?』
『な…なななななっなにっっ?!
何をいきなりっ?!』
口に食べ物が入っていたら、間違いなく吹き出していたであろう勢いで、リナは驚いた。
まぁ、普通いきなりそんな事を聞かれたら驚くだろうが…。
『いや…お前のムネが小さいのは、親譲りかと…。』
『な、なんだ…そんなこと。
わたしのムネが小さいのは…小さい?!』
リナの瞳に殺意の炎が宿る。
『あなた、わたしに喧嘩売っているの?』
『いや…ちょっと興味を・・・』
『売られた喧嘩は…買わないと失礼よね…。』
リナはガウリイの言葉を遮ってこう言うと、いつもの呪文を唱えはじめる。
『黄昏よりも暗きもの…。
血の流れよりも紅きもの…。:』
『うわっ、ちょ、ちょっと待て、リナ!!』
『時の流れにうずもれし…。
偉大なる汝の名において…。』
『俺が言いたいのはなぁ…。』
『我、ここに闇に誓わん…。
我らが前に立ちふさがりし、すべての愚かなる者に…。』
『だ…・だから、最後まで人の話を聞けっ!!』
『我と汝の力もて・・・。』
『リナ、お前の…。』
『等しく滅びを与えんことを…。』
『胸が小さくて、何が悪いんだよっ!!』
『悪いわよっ!!
悪党どもに『ぺチャパイ』だの『胸無し』だの言われるしっ…!!
それに、女の子にとって、胸がないのがどんだけ辛いのか…あんたにはわからないでしょ
うね!!』
おもわず呪文を中断して、言い立てるリナ。
『それの何が悪いんだ?』
『だからっ…。』
『胸が小さいからと言って、誰かに嫌われた事でもあるのか?』
リナの言葉を遮って、あっさりと言うガウリイ。
『…ないわよ。』
『なら、いいじゃないか。』
『悪いわよっ。』
リナの言葉を無視して、ガウリイは続ける。
『少なくとも、俺はお前の胸が小さいからって、保護者やめたりはしないよ。』
『う…うるさいっ!
そんなことどうでもいいわよっ!!』
こころもちが顔を赤らめて、そっぽを向くリナ。


(この時もこんな顔してましたっけ…。)
そんな事を思い出しながら、彼はまた一口お酒を口に含んだ。
(でも…同じような顔でも…含まれている感情は違いますね。)
ガウリイさんのときは、嬉しさを紛らわすためにわざと反対の行動をとったのに、少し感
情が表に出ている顔…。
僕の時は、自分の気持ちを美化してとられそうになったのを照れている顔…。
前者は、特別な感情を持っている故に出来上がった顔ですね。
後者は…僕の場合は、ただ照れただけですね。
特別な感情…人が『恋』と呼ぶものでしょうか…?
そうなると、リナさんはガウリイさんに恋愛感情を持っている事に…。
そこまで分析すると、彼はくすっと笑った。
(何を考えているのでしょうね、一体。
これではまるで、ガウリイさんにやきもちを焼いているようではないですか…。)
「なぁに一人でにやにやしてるのよ?」
からかうようなリナの声に、さらに笑いが込み上げてくる。
「いえ…リナさんはガウリイさんの事をどう思っているのかな…と。」
「なによ、いきなり?」
突然思いもよらないことを言われて、聞き返すリナ。
再び同じ事を、今度はリナに問いかける。
「リナさんは、ガウリイさんのことをどう思っているのですか?」
「別に…なにも。」
無関心な声で、リナは答える。
(どうやら自分でも気付いていないようですね…。)
そう踏んだ上で、さらに彼は問いかけた。
「では、嫌いですか?」
リナは少し視線をずらして、お酒を口に含む。
「嫌いな人と一緒に旅が出来るほど、わたしは寛大じゃないわ。」
「じゃあ、僕の事も嫌いじゃないのですか?」
彼の問いにリナは視線を元に戻すと…つまり、彼に合わせるとこう答えた。
「少なくとも、一緒にいて嫌悪感を感じるこをはないわ。
でも…嫌いじゃないから好きだというのは少し短絡的じゃない?」
リナの言葉に、彼は頷いた。
しかし、引き続き問いかける。
「では、ガウリイさんの事は『嫌いではない』ですね。」
「そうよ。」
「では…僕と同じく、『嫌いではない』というだけですか?」
彼はリナの瞳をのぞきこむように見つめた。
「それは…。」
「違うでしょう?」
リナに確認するように、彼は尋ねた。
リナは数瞬考え込むと、小さく頷く。
「それは、ガウリイさんが特別『好き』なのですか?
それとも、僕が特別『嫌い』なのですか?」
「それは…。」
言葉に詰まるリナ。
そんなリナを見つめながら、彼は思った。
(『好き』だから…その事実を認めたくないのでしょうか?
魔族には理解できない感情ですね。)
そう思うと、彼はリナにこう言った。
「答えたくないのならばいいですよ、リナさん。
でも、自分の問題ですよ。
いつかきちんと見つめてみて下さいね。」
リナからは返事がない。
(おや、ついに無視されてしまいましたか。)
彼は苦笑した。
そして、再びお酒を一口口に含むと、彼の事を一度も無視したことのない人物を思い出し
た。
(あの御方は…今どうなさっているのでしょうか?)
彼は、彼の上司と最後に会ったときのことを思い出した。


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7〜酒>sake.utage<宴〜 <PART3(ゼラゼロ編)>鷹見 葉月 E-mail 11/9-22:00
記事番号6へのコメント


『ゼラス様…お呼びでしょうか?』
私室に現れた彼は、寝椅子に寝転がりながらお酒を飲んでいるゼラスを見て、少し首をかしげた。
(ゼラス様が、お酒を飲んでいらっしゃる…?)
彼の上司はお酒があまり好きではないはずだった。
しかし、もう血のような色のワインは瓶の半分ほどに減っている。
『ゼロス…もっと近くに来てくださいな。』
『…わかりました。』
彼は寝椅子の近くまで歩いてから、跪く。
『もっと近くに、です。』
少々不機嫌なゼラスの声に応じて、彼は寝椅子の足元まで移動した。
『もっと、近くに。』
『お言葉を返すようですが、ゼラス様。
これ以上近くにはよれません。』
彼の言葉を聞くと、ゼラスはグラスを放り投げた。
カシャン。
グラスは軽い音をたてて割れる。
シャラン。
身につけたアクセサリーを鳴らして、ゼラスは立ち上がった。
長い衣の裾を引きずっているのにも構わず、彼の後ろまで歩く。
そして、彼の腕をつかむと…。
『立って下さいな、ゼロス。』
彼が立ち上がると、ゼラスは彼を自分と向かい合わせる。
そして、にっこりと微笑んだ。
『獣王様…あの…。』
どんっ。
ゼラスが彼を思いっきり突き飛ばした。
彼は反動で寝椅子に転がる。
ゼラスは彼の膝に乗るようにして、寝椅子に座る。
『ゼラス様・・・?
あの…酔っていらっしゃるのでは?』
彼はゼラスのあまりにも常日頃とかけ離れた行動に、思わすこう尋ねた。
『いえ…酔ってはいませんよ。』
彼は、ゼラスに気を配りながら座り直すと、理由を尋ねる。
『では、一体どうなさったのですか?』
シャラン。
ゼラスが腕を上げた。
つけられたいくつもの腕輪が音をたえる。
シャラン。
ゼラスは彼の首に手を回した。
『行ってしまうのですね、ゼロス。』
ゼラスは彼の瞳を見つめた。
『ええ…貴方の命令ですから…。』
彼はためらいがちに頷いた。
『体に気をつけて…。
私のもとへ、絶対帰ってきてくださいね。』
『帰ってまいります、ゼラス様。
何があろうとも、必ずゼラス様のもとへ帰ってまいります。』
ゼラスは彼の肩に顔を押し付けた。
『もし…もしあの時のように怪我をしてしまったらと思うと…私は怖くてたまりません。』
『ゼラス様…。』
彼はゼラスの肩に手を回した。
彼にはそうすることしか思い付かなかった。
肩を少し震わせて泣くゼラスを抱きながら、彼は自分の中にある矛盾を再確認していた。
彼にこれだけの力がなければ、ゼラスもこのような命をだすことはなかったであろう。
しかし、これだけの力があるからこそ…自分に限りなく近い者だからこそ、ゼラスは彼のことをと
ても大切に思っているのである。
『ゼラス様…。』
彼は再びゼラスに呼びかけた。
ゼラスは涙に濡れた顔を上げる。
彼は、ゼラスの涙を拭うとこう言った。
『泣かないで下さい、ゼラス様。
ゼラス様がお泣きになると、このゼロスも悲しくなります。』
『…そう…でしたね、ゼロス。
大丈夫…もう泣きませんよ。』
一瞬の間を置いて答えたゼラスの形の良い唇に、かすかに微笑みが浮かんだ。
つられて彼も微笑んだ。
『そうだ…ゼロス、お守りをあげましょう。』
突然ゼラスが手を叩いて言った。
『お守り…ですか、ゼラス様?』
『そう、お守りです。』
ゼラスはにっこりと微笑む。
そして立ち上がると、少し屈んでゼロスに顔を近づける。
『目を閉じて下さいな。』
彼が目を閉じると、ゼラスは彼の前髪をそっとかきあげて額に口付けた。
『お守り…ですよ。』
目を開くと、ゼラスが微笑んでいた…。


「うっ…。」
リナのうめき声で彼は我に返った。
リナから流れ込んでくる、微量の『負』の感情…。
(これは…『痛み』ですね…。)
「リナさん、どうかしましたか?」
「ん…?
大丈夫…ちょっと舌を噛んでしまっただけ…。」
(あのリナさんが舌を噛んだだけで、うめき声を…?)
「本当に、大丈夫ですか?」
『本当に』の部分を強調して彼は聞いた。
「大丈夫だって…。」
手をはたはたと振ってリナは言った。
(こんなに冷や汗をかいて…。
まぁ、本人が大丈夫と言っているのですから、しばらく様子をみましょうか…。)
彼はまたお酒を一口口に含んだ。
もう、カップの半分ほどに減っている。
一方のリナはというと、まだ一口口と付けたぐらいにしか減っていない。
「リナさん…お酒…。」
「飲むわよっ!」
彼の言葉を遮って、リナは断言した。
(まぁ、いいですけどね。)
そう思って、彼はこれ以上口を出すのをやめた。
すると、会話が途絶えて沈黙が訪れる。
(沈黙…リナさんと一緒にいて沈黙が訪れるなんて、何回目でしょうかね…?)
すると、旅のメンバーの中で、唯一沈黙が似合う人物を思い出す。


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11〜酒>sake.utage<宴〜<PART4(ゼルガディス編)>鷹見 葉月 E-mail 11/14-22:02
記事番号7へのコメント


『本当にあれには俺を元に戻す方法は書いてなかったのだな?』
『ええ、もちろんですとも。』
刺すようなゼルガディスの視線を、彼はさらりと受け流す。
『なら…いいが…。
しかし…何故『あれ』を焼いた?
それに、あの少女・・・プラムは…。』
『それは秘密です。』
ゼルガディスの言葉を遮って、彼はこう言った。
(こう言えば、ゼルガディスさんはもうこれ以上聞いてこないでしょう。)
彼の予想通り、ゼルガディスはそれ以上追求をしてこなかった。
(やれやれ…リナさんもこうだと助かるのですけどね…。)
ゼルガディスの後ろ姿を見送りながら、彼はこう考えて少し肩をすくめた。
『崩霊裂!!!』
(おやおや…。)
振り向きざまにゼルガディスが放った魔法ををかわしながら、彼は少しあきれていた。
(ゼルガディスさんまで、こんなに熱くなってしまって…。)
『お前は一体何者だ?』
『何者と言われても…ただの謎の神官です。』
彼は苦笑した。
本当にだたの神官である。
ただし、五人の腹心の一人である獣王、セラス=メタリオムの。
『崩霊裂を軽々とかわす奴が、ただの神官だと?
笑わせるな。』
『おや、そんなにおもしろかったですか?
いやぁ、ゼルガディスさんにおもしろがって頂けるなんて光栄です。』
『ほざくなっ!
プラムの蘇生、クレアバイブルの抹消、崩霊烈さえも余裕でかわす技量…一体何者だ?!』
『だから、ただの謎の神官ですってば。』
彼の言葉に応えるように、ゼルガディスは剣を抜いた。
『おやおや、怖いですねぇ…。』
彼は大げさに肩をすくめた。
(これがアメリアさんだったら、さすらいの正義の戦士ですとか言って誤魔化せるのですけど…。)
『今回はそういう訳にもいきませんね。』
そうつぶやくと、彼はゼルガディスと向かい合った。
『そんなに僕が怪しいならば、僕を切ってみてください。
抵抗しませんから。』
彼は両手を広げて抵抗しないことを示す。
『何が言いたい?』
剣を構えたままゼルガディスは問う。
『だって、僕を切りたいのでしょう?
だったら抵抗しないって…。』
『切られても大丈夫な自信でもあるのか?』
彼の言葉はまた遮られた。
(普通の剣で…でしたらね。)
そう心の中でつぶやきながら、彼はゼルガディスに近づいていく。
『切られて大丈夫なわけないじゃないですか。』
ゼルガディスの目前までたどり着くと、彼はにっこりと微笑んで言った。
『切られたら血も出ますし…ね。』
言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼はゼルガディスの剣を握り締めた。
刃の部分を、である。
『なにを…?』
自分の剣をつたう紅い血をゼルガディスは呆然と眺めていた。
『ほら…ちゃんと血もでるでしょう?』
ゼルガディスは彼の手を強引に引き離した。
そして剣を振って血を払うと、きびすを返す。
『もういい。』
それだけ言うと、彼は歩き去った。
しかし、彼は気付いただろうか?
自分の剣から振り払われた血はすべて黒い霧となって消えていることを…。
(やっぱりゼルガディスさんもまだまだですね。)
彼は一人で納得し、微笑んだ。


(しかし…沈黙もここまで続くと怪しいものがありますね。)
リナを眺めながら、彼はどうやって話を切り出そうか悩んでいた。
「リナさん…お腹を抑えて何をしているのですか?
お腹でも痛いのですか?」
リナが左手で腹部抑えていることに気付いて、彼はこう声をかけた。
「うん…まぁ…ね。」
(これは…?!)
「リナさん、そんなに痛いのですか?!」
リナから流れ込んでくる『負』の感情の多さに気がついて、彼はおもわず席を立った。
「あ…ばれた?」
リナは苦笑いをした。
「痛くて眠れないからお酒…飲みに来たんだけど…。
もっと痛くなって…きちゃって…。」
その言葉に、彼はため息をついた。
「当たり前です。」
彼は、リナの前にあったお酒のカップを取り上げた。
そして、店員を呼び止めると香茶を一つ頼む。
「何故もっと早く言ってくれないのです?
眠れないのなら、僕が薬草をあげたのに…。」
リナを自分のマントで包みながら、彼は珍しく思ったことをそのまま口にだしていた。
そうである、今リナになにかあったら困るのである。
(今彼女に何かあったら…すべての計画は水の泡です。)
リナを包み終わると、彼は席をリナの隣に移した。
彼女の変化をより早く察知できるように、である。
少し赤いリナの横顔を見つめていたら、彼はふとある人物を思い出した。
(あの方とはじめて会ったのはいつでしたっけ?)
彼は記憶の糸をたどっていく。
(そう…あれは確か僕が生まれて間もないころ…。)



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12〜酒>sake.utage<宴〜<PART5(フィブリゾ編)>鷹見 葉月 E-mail 11/14-22:06
記事番号11へのコメント


『へぇ…君がゼラスの神官?』
可愛らしい少年の姿をした魔族は彼を一目見たとたんにこう言った。
『ゼロス…とお呼び下さい。』
一応彼の上司と同格なので、彼はうやうやしい態度をとった。
『ゼロス…ねぇ…。』
少年は意味ありげにつぶやき、返事を催促するかのように彼に視線を送る。
『…何か?』
『いや。』
意地の悪い笑みを浮かべて少年は首を振った。
そして、ぴょんと玉座から降りると、彼のそばまでやってくる。
『これも…ゼラスの趣味か?』
少年は彼のマントをつまみあげた。
『こんな趣味をしているとは気付かなかったなぁ。
あの美人なお姉さんは、いつも意外な行動にでる。』
ゼラスのことを『美人なお姉さん』と称してみたのが気に入ったのか、少年はくすりと笑みをもらした。
『ねぇ、将軍のほうはどんな姿をしているの?』
少年は彼の顔を覗き込んだ。
『僕が…将軍も兼ねています。』
『へぇ〜。
あの噂は本当なんだ。』
少年はすっと浮かび上がった。
『ゼラスが一人ぼっちじゃ寂しいからって、自分の情人を作ったって…。』
『フィブリゾ様。』
彼の険悪な声が冥王フィブリゾを制す。
『冗談だよ、冗談。』
フィブリゾはお腹を抱えて笑い転げている。
一方の彼は、彼の主君をけなされて不機嫌もいいところである。
『それでは、僕はこれで…。』
精神世界に消えようとする彼の腕をフィブリゾはつかんだ。
『ここで君が帰ったら、噂は本当だって証明しているようなものだよ。』
フィブリゾはにっこりと微笑んだ。
『それに、ぼくはもっと君と遊びたいな。
覇王のところの将軍よりおもしろいよ、きみは。』
その言葉で、彼の中に小さな疑問がうまれた。
(覇将軍もこうやってからかわれたんでしょうか?)
『うん、覇将軍もおもいっきりからかったよ。』
彼の意識を読んだのか、フィブリゾは楽しそうにこう答えた。
どうやらこの様子だと、『冥王は最近暇なので、自分の部下のみならず、他人の部下までからかって遊んでい
る』という噂は事実のようである。
その噂の主は、浮かび上がったまま振り向いた。
『ところで…ゼロス。
ゼラスは優しくしてくれるかい?』
『冥王様よりは優しく接していただいています。』
彼の返事にフィブリゾは頷いた。
『そうだよねぇ…たった一人の腹心だもんねぇ…。』
彼はフィブリゾの意図を読みかねてきた。
『あの…。』
『じゃあさ、どれぐらいスキンシップをとってくれるの?』
彼の言葉を遮って、フィブリゾはこう聞いた。
『スキンシップ…ですか?』
彼は本来彼がフィブリゾにぶつけるつもりだった疑問も忘れて聞き返した。
『そう、スキンシップ。』
フィブリゾは大仰に頷いた。
『抱きしめる、とか手を握る、とかさ。』
とん、と彼の目の前に降りると、フィブリゾは彼に抱きついた。
『ゼラスなら、スキンシップも大切にしてくれるだろう?』
『フィブリゾ…様…?』
自分に抱きついたままのフィブリゾを、彼は理解できなくなってきていた。
最初はそれなりに理解しているつもりだったのだが…。
今は…。
フィブリゾは、ちょっと背伸びをすると、彼の唇に自分のを軽く重ねた。
『こんなこともしてくれたり?』
言い終わると、ぱっと彼から離れて飛び上がる。
(この方は一体なにを?!)
笑い転げているフィブリゾを見ると、さっきよりもわずかながら血色がよい。
そこで、彼は気付いた。
『冥王様…僕の『負』の感情を召し上がるのは…あまりにもひどくはないですか?』
『あ、気付いた?
覇王のところの将軍もそれを知ると怒って怒って…。』
引き続き笑い転げるフィブリゾ。
『まぁまぁ、そう怒らないでよ。
これから長い付き合いになるんだから、さ。』


(確か、これがはじめての出会いでしたね…。)
彼はまたお酒を口に含もうとした。
しかし、自分のカップが空になっていることに気付く。
(おやおや、僕としたことが…。)
そこで、先程頼んだ香茶が運ばれてくる。
「リナさん、香茶ですよ。」
返事はない。
「リナさん、リナさん?!」
リナは腹部を抑えたまま、うめき声を発するだけである。
彼はリナを抱き上げると、店員に休めるようなところがないか尋ねる。
そして、リナがとった部屋の場所を聞き出すと、代金を払って酒場をでる。
ここは一階が酒場、2階が宿屋という至極平凡な造りになっているようで、リナの部屋は2階の東側の部屋だ
った。
両手が使えないので、周りに人がいないことを確認してから手を使わずにドアを開ける。
そしてリナをベッドに寝かしつけると、ドアを今度は手を使って閉めた。
「リナさん、大丈夫ですか?
リナさん?」
返事はない。
(とりあえず、様子をみましょうか。)
そう考えて、彼は椅子をベッドの近くまで移動させて座る。
(アメリアさん達に伝えたほうがいいでしょうかね…?)
一瞬そんな考えも頭をよぎるが、すぐに打ち消される。
(自体を余計ややこしくするだけでですね…。)
あの正義が好きなお姫様は、今ごろどのような夢を見ているのでしょうかね…。
そう思うと、彼は一つの出来事を思い出した。



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13〜酒>sake.utage<宴〜<PART6(ゼルアメ編)>鷹見 葉月 E-mail 11/14-22:12
記事番号12へのコメント


日の光がさんさんと降り注ぐ、平和な午後…。
木陰で休んでいる一組の男女…。
双方とも相手が気になるらしく、何気なしに相手に視線をおくっている。
しかし、視線が合うと慌ててそらす。
そして、また何気なく視線をおくり合う…。
そんなことが何度も続く。
まるで恋愛小説の中の一シーンのような光景である。
『あの…。』
『なぁ…。』
何度目にかに視線が合ったとき、意を決して二人とも同時に相手に話しかける。
『あ、なんだ、アメリア?』
『いいえ、あの、ゼルガディスさんこそなんですか?』
ゼルガディスは軽く首を振る。
『いや、たいした用じゃない。
アメリアから話せ。』
『いえ、私もたいした用ではないので…。
ゼルガディスさんからどうぞ。』
お互いに譲り合って、どちらも用件を話さない。
『いや、別にたいしたことではないので、もういい。』
数回の譲り合いのすえ、ゼルガディスはこう断った。
アメリアも同様に断る。
『わ、私ももういいです。』
アメリアがそう言うと、二人とも視線をもとに戻した。
しばらくして、ゼルガディスは本を取り出して読みはじめる。
しかし、アメリアは視線を送るのをやめない。
『アメリア、何か用か?』
『い、いえ、別に…。』
アメリアは真っ赤になって否定する。
あきらかに怪しいその態度を、ゼルガディスはあっさりと受け流す。
『そうか…。』
再びあたりに沈黙が戻る。
それでもアメリアはゼルガディスが気になるらしく、ついつい視線がゼルガディスのほうに向かってしまう。
『アメリア…。』
『ゼルガディスさん…。』
再び二人は同時に呼びかけた。
『な、なんですか、ゼルガディスさん…。』
少々慌ててアメリアは問う。
『アメリアこそなんだ?』
『え…え〜っとですね。』
ゼルガディスに聞かれて言葉につまるアメリア。
『あの…あの…ゼルガディスさん。』
『なんだ?』
顔を真っ赤にしているアメリアの呼びかけに無愛想に応えるゼルガディス。
『一つ…一つ聞いてもいいですか?』
ゼルガディスの返事を待たずにアメリアは続ける。
『あの…ゼルガディスさんには…その…。
こ、恋人…みたいな人っていますか?』
アメリアの言葉を聞くと、ゼルガディスは笑みを浮かべた。
『なんだ…そんなことか…。』
『え…?』
予想外の反応に、アメリアは少し目を見開いた。
『恋人…か…。
今はいない。
それどころか、お前達以外に俺を人間扱いしてくれる奴も…な。』
ゼルガディスは自嘲気味に笑った。
『ゼルガディスさん…。』
アメリアはかけるべき言葉を見つけられなかった。
ゼルガディスが自分の体のことをこんなに気にしているなんて、すっかり忘れていたようだ。
困った顔のアメリアにゼルガディスは微笑んだ。
『だが…今はこれでいいさ。』
『え?』
ゼルガディスの微笑みと、予想外の言葉に驚くアメリア。
『たとえわずかであっても、こんな姿の俺を認めてくれる奴らがいる…。
それに、この体も戻らないと決まったわけではないからな…。』
ゼルガディスはどこか遠くを見つめるような目をした。
『そう…ですね。』
アメリアはそうつぶやくと、ゼルガディスに向かって微笑んだ。


(姫は今ごろゼルガディスさんの夢でもみているのでしょうね。)
「う…。」
リナが寝返りをうつ。
乱れた布団を直しながら、彼は苦笑した。
(これではまるで親子か夫婦のようですね。)
そう思いながらも、彼はリナの額の汗を拭ってやる。
(バンダナだけでもはずしてあげましょうか…。)
彼はリナの前髪にそっと手をかけた。
「ん…。」
リナがまた寝返りをうつ。
しかし。彼はそんな事には構わずにバンダナに手をかけた。
バンダナをはずすと、小さな宝石が落ちる。
(へぇ…こんなものをつけていたんですね。)
彼はバンダナと共にそれをサイドテーブルに置いた。
そして、またリナに布団をかけ直してあげる。
(リナさんと結婚する人は、さぞかし気が利く人でないといけませんね。)
彼はまた苦笑した。
「でないと、彼女はすぐ体を壊してしまいますね。」
理由を口に出して言ってみると、さらに笑えてきた。
彼は微笑みながらとある事を考えていた。
(僕とリナさんが結婚したらどうなるでしょうねぇ…。)