◆-はじめに-投稿者:みいしゃ(11/15-11:11)No.14
 ┣┳もう一つの夢の彼方1-投稿者:みいしゃ(11/15-11:14)No.15
 ┃┗━Re:もう一つの夢の彼方1-投稿者:まっぴー(11/18-16:57)No.51
 ┣━もう一つの夢の彼方2-投稿者:みいしゃ(11/15-11:16)No.16
 ┣━もう一つの夢の彼方3-投稿者:みいしゃ(11/15-11:17)No.17
 ┣━もう一つの夢の彼方4-投稿者:みいしゃ(11/15-11:19)No.18
 ┣━もう一つの夢の彼方5-投稿者:みいしゃ(11/15-11:20)No.19
 ┣━もう一つの夢の彼方6-投稿者:みいしゃ(11/15-11:22)No.20
 ┣━もう一つの夢の彼方7-投稿者:みいしゃ(11/15-11:24)No.21
 ┣━もう一つの夢の彼方8-投稿者:みいしゃ(11/15-11:26)No.22
 ┣━もう一つの夢の彼方9-投稿者:みいしゃ(11/15-11:28)No.23
 ┣━もう一つの夢の彼方10-投稿者:みいしゃ(11/15-11:29)No.24
 ┣━もう一つの夢の彼方11-投稿者:みいしゃ(11/15-11:30)No.25
 ┣━もう一つの夢の彼方12-投稿者:みいしゃ(11/15-11:32)No.26
 ┣━もう一つの夢の彼方13-投稿者:みいしゃ(11/15-11:47)No.27
 ┗┳もう一つの夢の彼方14-投稿者:みいしゃ(11/18-23:50)No.61
  ┗━Re:もう一つの夢の彼方14-投稿者:松原ぼたん(11/19-08:12)No.65


トップに戻る
14はじめにみいしゃ 11/15-11:11

もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜はじめに〜

魔竜王ガーヴ。
NEXTの時は単なる「やられ役」だと思っていました。
TV版では彼の過去は、TRYのヴァルガーヴの様には語られておりません。
「小説読んでないの?!」
と、おっしゃる方。そうです。まだ読んでいません。
「そんなんで、スレイヤーズを語ってほしくないっっ!!!!」
はい、わかります。
でも、私はあくまで「TV版のスレイヤーズ」を見た者として、
この小説を書きたいと思ってしまったのです。
事の始まりはスレイヤーズTRY8話。
TRYを見たはじめての回です。
そこで展開されるヴァルガーヴとガーヴの出会い。
「このおやじ! いい味だしてんじゃん!」(この頃はおやじ呼ばわり・笑)
そう思いつつ14話でヴァルガーヴに転んだ私。
決定打は猫南蛮亭で見た加流ネメシスさんの「魔竜王のゆううつ」!!
笑い転げてはまりまくった私はいつしかヴァルガーヴよりもガーヴの方に
興味を覚えているのでした。
「NEXTにも出てたな。そういえば」
思い立ち、ビデオを借りてみます。
「この設定でこんな地位にいながらこんな風に殺しちゃうの、勿体ないんじゃない?!」
そこには何かしらのドラマがなくては!!!!!!!! でも、後の祭りです。
彼はすでに滅びてしまった後なのです。
でも、でも、でもでもでもでもでもでも・・・・・・・・・、
ふふふふ・・・・・・ふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・・
そーです!!! ガーヴ様はまだ生きている!!!!! あれしきのことで滅びてしまう彼じゃない!!!!!!!
幾百、幾千もの糸が織りなす次元宇宙のように、彼が生き残った未来があっても不思議じゃない!!!!!
そうこれはパラレルワールド!!! 
TV版の結末がどうなろうとも、原作がどうであろうとも、私の世界は揺るぎないッッッ!!!!!!
ってな事で、お送りします。

『もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)〜ところがどっこい生きていた〜』

(注)上にも書いたとおり、加流ネメシスさんの影響をもろ受けしてます。
  これを「パクリ」だと思われる方、申し訳ありません。
  一応ご本人にも読んで頂いており、感想なども頂いております。
  加流さんがお心の広い方なので、甘えさせて書かせていただいております。
  是非、そのことをふまえてお読みください。
  なお、かなり長い話になっています。まだまだ続きそうです。
  気長にお読みください。

トップに戻る
15もう一つの夢の彼方1みいしゃ 11/15-11:14
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(1)〜

 どごごぉぉぉぉぉんん・・・
 大量の砂煙を上げて、その生き物は砂漠の中に崩れ落ちた。
「いっちょ上がりってか」
 男は燃えるような赤い髪を軽くすきあげると、苦笑混じりにつぶやいた。
 目前のそびえる巨体を見上げる。
 節くれ立った皮膚は周りの砂と同じ、黄色みを帯びた黄土色。長々と横たわる胴体は、男の身長の何十倍もあり、砂の小山にも見える。
「けっ。図体ばかりでかけりゃいいってもんじゃねぇぜ。ったくよ、もうちっと手応えのあるヤツはいねぇのかよ・・・」
 男は言い捨てると、遠い目で遙か彼方まで続く砂の海を見渡した。
 砂。
 砂。
 砂。
 あたりは一面砂に覆われた砂漠だ。
 ----いい加減うんざりしてくる・・・この世界にゃ砂しかねぇのか!
 胸の中で悪態をついていると遠くから何かの近づく音が聞こえてきた。
 ブロロロ・・・・・・・
 かつての記憶にはない、だが今では聞き慣れた音。
 近づいてくる発信源は砂と同じ色のぼろを被せた、金属製の乗り物だ。乗り物の持ち主はこれを砂漠地帯用運搬車と呼んでいた。
「やあ、どうやら仕留めたみたいだな」
「あたりめぇよ。俺がこんなヤツに手こずるとでも思っていやがったか?」
 車を止めて顔をのぞかせた持ち主は、返答にかすかな笑みでもって答えると、車から降りて赤い髪の男の隣に並んだ。
 こうしてみると二人は対照的だった。
 獲物を仕留めた男は2mは軽く越える長身に、厚い筋肉で覆われた無駄な贅肉などない引き締まった体を持つ。一方の人物は男の胸ほどまでしかない・・・身長差で言えば30cm程であろうか・・・照り輝く銀の髪に、ゴーグルを取ったその奥から覗くのは、血の色にも似た静かな赤い瞳だ。
 肉体を誇るように上着を引っかけた男に比べて、その人物は厚い生地で出来た砂よけのマントを羽織り、出ている素肌といえば顔ぐらいなものだった。
「さて、腐る前に破砕機にかけて油を搾り取ろう。ガーヴ、もう一仕事頼むよ」
 赤い髪の男に呼びかける。
 赤い髪の男。そう、彼はかつて魔王の腹心の一人として知られ、猛り狂う竜王として恐れられた、魔竜王ガーヴ、その人(?)だった。
 ----が・・・それも今となっちゃぁ昔の話よ・・・気がついてみりゃ世界は砂だらけってか?
「しゃあねぇ・・・おい、剣をよこせ、マティ!」
「任せたよ」
 投げたよこした大振りの剣を受け取り、ガーヴはすらりと刀身を引き抜いた。
「おりぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!」
 ----目にも留まらぬ剣さばきに見とれる女があればこそ。見物してるのがマティの野郎だけってぇのはむなしいぞ。
 そう思いつつ剣を鞘に収める。
 ぱちんと鍔がなるやいなや、獲物の巨体はいっきに崩壊し細かい肉片の山と化した。
 ぱん、ぱん、ぱん・・・・・・
「お見事」
 気の抜けた拍手とともにマティが声をかけた。
 ----いつもながらに・・・こいつおちょくっていやがるのか?
 大の大人さえすくみ上がって逃げ出すほどの形相で睨み付けるが、マティはいっこうに気にしていないようだ。
「ご苦労さん」
 彼は涼しげに微笑み、機械を操って肉片と化した獲物を集めにかかる。
 ガーヴは車の影に腰を下ろして、その姿を眺めながらこの人物と出会ったときのことを思い出していた。


 それはこの惑星時間で10年以上前にさかのぼる。
 目覚めたとき、俺は自分が何者なのかとんとわからなかった。
 ・・・というより、何者かと問う意識すらなかったと言っていい。しばらくはその状態で、何をどうやってどうして生活していたのか今もって思い出せねぇ。
 やっと周りの状況を気にしはじめたのは目覚めてから1ヶ月余り経ってからだというから驚きだ。
「私の名はマティス・ヘイル。マティと呼んでくれてかまわない」
 最初に意識が反応したのがヤツの言葉だった・・・俺が自分の名前を思い出すのに更に1ヶ月・・・。
 降魔戦争。水竜王。魔王。そして冥王。
 純粋な魔族でなくなっちまった俺は魔王に離反し、それ故に冥王によって葬り去られたはずだった。
 が、こうして生きているのはなぜだ?
 冥王に滅ぼされるその瞬間、己の記憶を引きちぎられたアストラル体に包み込み、クレアバイブルを保管してあった時空の迷宮へと逃げ込んだことは覚えている。
 とっさにとった行動に理由を付けるのは難しい。
 強いて挙げるとすれば「生き続けるために」か。自らをそんな状況に追い込みやがった水竜王の懐に逃げ込むことが屈辱でねぇはずがねぇ・・・が、そん時ぁそれしか方法はなかったんだよ。この際利用できるものは何でも利用する。生き残るためにな。
 だがよ、俺が覚えているのはそこまだ。どうやって元通り・・・いや、冥王に葬り去られた当時の体よりは幾分か若くはあるが・・・完璧に再生されちまってるのか。そしてこのマティって野郎がなぜ自分を助けたのか。疑問に思わないわけがねぇ。
 当然のことながら俺がマティに対して発した最初の疑問はそれだった。
「なぜ俺を助けた」
 俺はまだ新しい体に慣れてなく・・・情けねぇ話だが寝台の中だった。体はどうやら元通りのようだが・・・・・肝心な魔力は「ない」とわからねぇぐらいに微塵も残っちゃいなかった。
 あるのが当然だったモンがなくなっちまう事が、こんなに心もとねぇモンだって事を俺はこのとき初めて知った。とうとう俺はただの人間になりさがっちまったのかってよ・・・少しは感傷に浸りもしたが。
「君がまだ生きていたからだ」
 そんな気持ちを知ってか知らずか、涼しげな表情でマティは寝台の俺を見下ろす。
「俺が生きていたからだと?」
 ヤツは身近な椅子を引き寄せて腰をかけると疑問型の俺に微笑みかけた。
 照り返すような銀の髪に、流れ出したばかりの血を思い出させる赤い瞳。この赤い目は少しばかりやな野郎を思い出させる。ま、それはおいといて、男か女か判断しかねる容貌ではあるが言葉遣いから男だろうと判断は付いた。
「そうだ。時空の狭間においてあの状態で・・・生きていられたのは奇跡と言っていい」
「時空の狭間・・・だと?」
「簡単に言うと、世界と世界の間にある溝のような所のことだよ。君はそこで漂流していて、たまたま私に拾われたってわけだ」
「・・・・で、手前ぇは拾った俺をなぜ再生しやがった? ここまで再生するのは簡単にはいかねぇはずだ」
「言っただろう、君が生きていたからだと。時空の狭間というのは恐ろしく不安定な場所でね・・・それぞれの時空世界における神や魔王と呼ばれる存在でも、もとの姿を保っているのは難しいことなのだ。それなのに君は生きていた。君の生に対する執念とも言うものがそうさせたのかもしれない。・・・どんな存在なのか一度見てみたいと思っておかしいかい?」
「べつにおかしかねぇ・・・ところで時空世界ってのはなんなんだ?」
 もしかして俺はとんでもねぇ所にいるんじゃねぇか?
 てっきりこいつは酔狂な魔族か神族で、ほんの気まぐれに俺を拾って再生しやがったのかと思っていたが・・・どうやら違うようだ。時空の狭間だとか時空世界とか、聞き慣れねぇ言葉が不安を誘う。
「うーん。一言では言い表せないね。それは追々話して聞かせるとしよう。今はその体に慣れることを目標としたまえ」
 なにが「したまえ」だ!
 椅子から立ち上がって部屋を去ろうとするマティに、一言言ってやろうと首を持ち上げた。
「あ、そうそう。これは言っておかないとね・・・ちなみにこの世界は君の住んでいた世界とも違うと思うよ」
「はぁ?」
 自分でも間の抜けた返事だったことは認めてやる。
 マティは優雅に微笑み扉の向こうに消えていきやがったが、俺はそのままヤツの消えていった扉を凝視し続けていた。
 ばふっ。
 思いっきり落ちた俺の頭に枕がケチを付けた。
 俺が以前いた世界とは違うだと?
 まさかとは思ったがこうあっさりと言い切られちまうとは・・・つまり俺は・・・アルメイスとか名乗ったあの鉱物野郎たち同様に異界に来ちまったってことか?
 ここが異界であることを思い知らされたのはそれからすぐのことだった。
 ここには魔族やら神族といった類のモンが存在しねぇときた。
 一面の砂漠。
 見渡す限り黄色い砂。
 マティの話によりゃ、この世界の約8割がこんな感じだという。
 元の世界じゃ魔族どもは世界を破滅させようと躍起になっていやがったが、ここの世界にいたら破滅させよう気力も失せらぁ。なんせ生きてるモンが少なすぎる。
 それでも存在するのは人間だ。奴らはわずかに残るオアシスにへばりつてたくましく生きてやがる。人間以外、知的生命ってヤツはお目にかかれねぇ。
 この世界にも、まあ、竜と呼ばれる生き物は存在する。が、俺の世界にいた奴らとは違い知性のかけらすらない似てもにつかぬ代モンだった。砂竜もその一つで、海とも呼ばれる砂漠に生息してやがる。我が物顔で迷い込んだ人間やほかの動物やらを食い散らかしてるって寸法だ。
 体がなじむ頃になると俺はこの砂竜を狩る仕事をマティに任された。
「働かざるもの食うべからず・・・だよ」
 その涼しげな面にケリを入れてど突き倒してやろうかとも思ったが、その時の俺は魔族でも何でもねぇただの人間だ。負の気を吸収してれば事足りるとはいかねぇ。動けばそれだけ腹も空く。
 ま、せっかく拾った命だ。餓死なんていうマヌケな死に様はしたくねぇし、人間として生きるのも悪かねぇか。そう思って引き受けることにしたんだよ。


 ガーヴがこの世界に来た当時の事を振り返っているうちに、砂竜の巨体はあっという間に破砕機にかけられ、5分の1程の絞りかすとなって車の脇に山積みされていた。
「さて、作業も終わった。これから町に出てこいつを売ってくるが・・・君はどうする?」
「けっ。こんな砂だらけのところで待ってろって言うか? 冗談じゃねぇ」
 剣を杖代わりにし、立ち上がるガーヴ。
 二人は車に乗り込み一路オアシスの町へと進路を取った。


〜ところがどっこい生きていた(2)〜へ続く

「ヴィグランツ」を知っていらっしゃる方へ。
2巻の冒頭にそっくりと思われるでしょう。その通りです。
これじゃ、パクリと思われても仕方ありませんね。
でも、この惑星の自転は止まっていません。
これから進む話の中でもにかよったところが出てきます。
でも、これは『異次元』というものを語ろうとすると
どうしてもそうなってしまうところがあるのは確かだと言わせてください。
異次元をあつかった話はこの世に何万とあるでしょうから、
影響を受けた、と言うことにしておいてください。
短くはありますが、ここでお断りさせて頂きました。

トップに戻る
51Re:もう一つの夢の彼方1まっぴー E-mail 11/18-16:57
記事番号15へのコメント

ロングなものがたりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
おもしろかったですよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよ


トップに戻る
16もう一つの夢の彼方2みいしゃ 11/15-11:16
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(2)〜

 砂漠の中に突然と現れる緑の楽園。
 ちょうど中央にはぽっかりと開いた大きな湖がある。
 たたえられた水はきらきらと太陽の光を反射し命の輝きを放ち、町はその湖を囲む森のはずれに点在してあった。
 二人が車を止めたのはその中の一つ、森の北にあるルカと呼ばれる町だ。この周辺一帯の工場と呼ばれる工業町である。砂竜の体液は一般的な燃料として家庭用に、工業用にと需要の高い商品の一つとして取り引きされており、ルカにはそういった商品を取り扱う卸業者が数多く住んでいた。
「じゃ、これをディオルじいさんの・・・・」
「それはおまえさん一人でやってくれ」
 ガーヴはマティの返事も聞かず車から飛び降りると、森の中へ足早に立ち去っていった。
 ----冗談じゃねぇ! あのじじいと顔を合わせるなんぞ御免こうむるっ!!

 ディオル・マハト。
 この一帯を取り仕切るギルドの権力者、その人である。
 ガーヴは初めてその男の名前を聞いた時、いやぁな予感を感じた。
「もっひょひょひょひょひょひょひょひょひょふぉっ・・・・ごほごほ・・・・」
 ----おい、確かここは異界だったよな?
 予感の的中に思わず彼は天を仰いだ。
 マティとガーヴの前で笑いすぎて咽せ返っている老人は、しばらく咽せ続けたあと脇のテーブルにおいてある水差しから水をがぶりと飲み込み、
「ひょうふぉぉぉぉ・・・」
 落ち着いたのか、老人のくせに力のある目で二人を見上げた。
「ひょひょひょ・・・珍しい商品じゃの? のう、銀炎の導師さんよ」
「・・・言っておくが、商品は砂竜であって彼ではないよ」
 銀炎の導師と呼ばれたマティは、固まっているガーヴにちらりと視線を向けて、ため息混じりに老人に答えた。
 ----お・・・俺が商品だとぉぉぉ????!!!!!
「ガーヴ!!」
 思わず剣を抜いて老人に斬りかかるガーヴを止めようとしたマティだったが、その前にガーヴの腕は空中で制止していた。
「ほう。なかなか立派な体をしておる・・・。絶妙な筋肉の付き具合じゃ・・・」
 いつの間にかディオルはガーヴの懐に滑り込み、彼の逞しい胸筋を撫でさすっていた。
「い・・・い・・・・」
 老人の節くれ立った指がガーヴの肌を滑る。
 女の白魚のような指なら大歓迎だが、男の、それもこんなくたばりぞこないの老人の指となればおぞましいことこの上ない。ガーヴの背筋に恐怖にも似た悪寒が走った。
「い・・・い・・いい加減にしやがれぇぇぇぇっっっっっっっっ!!!!!!」
 ばここぉおぉぉぉぉぉんんん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 こぉおぉぉぉぉぉん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 おぉぉぉぉん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ぉぉぉん・・・・・・・・・・・・・・・・
 町の住人が北の方から聞こえたその音に、一時動きを止めたことは言うまでもない。
「短気な若者じゃのぉ」
 ひょこ。
 瓦礫と化した建物の中から、ディオルが血を流しつつ顔を覗かせた。
 そこにはすでにガーヴの姿はなかった。
「若者・・・ね。しかし、貴方の筋肉フェチは相変わらずだな」
 一人平然とたたずむマティが苦笑混じりにディオルに声をかけた。

 ----ディオルっつー名前は異界でも変態の代名詞かぁっ?!
 かつての世界でも似たようなことがあったような気もするが、思い出したくもない。
 どすどすと足を踏みならして森の小道を進むガーヴ。この先にはオアシス一の繁華街ロシューがある。
 人が少ないといえどもそこは繁華街。近辺の村や町からの行商人が店を出し、またそれを目当てに客が集まる。むろん夜ともなればその道の店も開店し、ちょくちょくガーヴもお世話になっていた。
 賑わう町に出たはいいがこれといって目的もない。なのでガーヴはぶらぶらと出店をひやかすことにした。
 この世界では珍しく、それ故に高価な花を売る店の隣には、色とりどりの野菜が並んでいる。野菜や果物なども贅沢品だ。逆に砂漠にすむ砂羊の肉は大量にとれるため比較的やすく、ここの住人の主食ともなっている。
 この砂羊は肉のほかにもう一つ町の住人に幸をもたらしていた。
 砂羊は砂の中に生息する微生物を餌としており、捕食する際、砂も一緒に飲み込んでしまうため、体の中に砂を取り除く機能を持っている。ちょうど真珠貝が異物を粘膜で包んで真珠にするようなものだ。採取された、きれいな乳白色の石は「砂漠の雫」と呼ばれ、一般的な装身具に用いられていた。
 子供がほこりまみれになりながらじゃれ合ってるそばで、老犬が眠たそうに寝そべっている。
 店を開いているものは客に声をかけ、世間話をきっかけに売り込みに必死だ。
 ----こうして見てりゃ、かつていた世界と変わりねぇよな・・・。
 だがここには魔族はおろか獣人すらいない。純粋に人間だけの世界なのだと10年余りの歳月ではっきりとわかっていた。
 ----ここじゃ俺を追い回す魔族もいねぇ。・・・が、生きてるって実感することもねぇ・・・。
 戦っていてこそ生きることに意味があった。戦って勝つ。それが生きていると実感できる唯一の時。しかしこの世界に、ガーヴがそう実感できる相手は存在しなかった。
 ----いっちょ俺が魔王にでもなってこの世界を支配してみるか・・・。
 そう思ったこともある。が、こんなうち寂れた世界を支配することになんの意味があるのか・・・。滅ぼす気も失せるこの世界を支配して?
 ガーヴのいた世界では魔族は世界を滅ぼすことを目的としていた。もちろん自らも滅ぶことも承知の上で・・・だ。だが実際世界を滅ぼそうとして、自らも滅んでしまった後、世界が確実に滅んでいるかどうかなんてわかるだろうか?
 もしかすれば神も魔族も滅んだ後、こんな世界が残るのかもしれない。
 ----するとなんだ? 一番強ぇのは人間ってことか?
 ガーヴは感傷とも思える笑みを頬に浮かべると止めていた足を動かそうとした。
 どかっ!
「ごめんよっ!」
 短く謝る声がする。
 ぶつかってきたのはガーヴの腹ほどにも達しない小柄な少年だった。
 少年はまともに顔も見せず、淡い水色の髪をなびかせて走り去る。
 ----?
 ガーヴは一瞬懐かしい思いに駆られた。
 ・・・・・・・・と思ったのもつかの間、懐がやけに寂しい気がする。まさかと思いつつ探ってみると、案の定、金の入った革袋が影も形もなかった。
 少年の姿はすでに視界の外。
「・・・・・・・・・・・・ふっふっふっふっ・・・・」
 目を閉じて静かに笑い出す。
 周りにいた人々は気づくやいなや足早に遠のいていった。
「俺様の懐を狙うなんざ、10億年早ぇんだよ」
 ガーヴはゆっくりと視線を少年の走り去った方向へと向けた。


〜ところがどっこい生きていた(3)〜へ続く

トップに戻る
17もう一つの夢の彼方3みいしゃ 11/15-11:17
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(3)〜

 少年は信じられないくらい素早かった。
 飛ぶように走るとはこのことか。
 すられたことに気がついて追いかけたはいいが、いざ追いついても、ちょこまかと動き回る少年をなかなか捕まえることができない。
 人混みをかき分けて見え隠れする水色の頭だけが、少年の居場所を知る手がかりだ。
 というのはこのオアシス近辺ではほとんどの人間が黒、ないし茶色の髪の毛を持ち、水色の髪は珍しいのである。その点でいえばガーヴの燃えるような赤い髪も大いに人目を引く素材だった。
 ただ、珍しくはあるが全くいないわけではない。特にこのロシューは他地域からの人の出入りが激しいので、ふつうに歩いている分には目立つようなこともないはずだ。・・・はずなのだが、2mを越える長身の男が赤い髪をなびかせ、その半分ほどの少年を追いかける様はやはりふつうとは言えないだろう。
「きゃっ」
 呆気にとられて見守っていた少女と男性が、よけきれず危うく突き飛ばされそうになった。
「おっと。すまねぇ、嬢ちゃん」
「・・・い・・・いえ・・・」
 振り向きざまに片手で少女を支え、不敵な笑みを浮かべて助け起こすと、すぐさま少年の後を追う。よく見るとガーヴ、突き飛ばした男の方は意識外のようだ。
「何なんだあれ?」
「さ・・・さぁ」
 怯える市民を後目に、少年を追いかけて走る。
「・・・ちょこまかと・・・。職業選択の正しさは認めてやるぜっ!!」
 まさに、スリになるために生まれてきたような身のこなしである。
 少年は人混みの多い繁華街を抜け出し、森に近い住宅街へと向かう。
 するり。
 小柄な体を滑り込ませ、少年の姿は狭い路地に消えた。
「ちいっ。しゃあねぇ・・・」
 小さく舌をうった。

 次の時、

 路地を抜けた少年の目の前にいきなりガーヴが現れた。
「わっ!!」
 どすっ。
「ようやく捕まえたぜ! ガキにしちゃよくやったが・・・な」
 まともに腹にぶつかってきた少年の襟首をガーヴは容赦なく締め上げた。
 ゴーグルをかけた顔が苦痛にゆがむ。
「くぅっ!」
「さてと、返してもらおうじゃねぇか? 俺の金をよ」
「・・・」
 うつむき加減に歯を食いしばる少年。
「なに?!」
 彼の体がゆがんだと思った瞬間、煙のごとく消え失せた。
 ----おい、マジか?
 ガーヴはいままで少年の襟首を握っていた手を広げて見つめていた。
 前の世界でならば驚くことでも何でもない。しかしこの世界では・・・。
 ふっ。
 唇をゆがませて笑う。
 ----・・・・あめぇな・・・。それで俺様から逃げたつもりかよ?
 見つめていた手のひらを握りしめると、ガーヴの姿も忽然と路地から消えた。


 ----ま・・・まいたかな?
 森の中、少年は荒い息をはいて辺りを見回した。
「今回はちょっとやばかったかな・・・」
 あたりに気配のないのを確認すると、少年はほっとため息をついた。
 ----本当はあの力・・・人前で見せちゃいけなかったんだけど・・・。あのおじさんがしつこかったからしょうがないよね。
 彼はかけていたゴーグルをそっとはずす。
「・・・残念だがよ」
 背後から声が聞こえてきた途端、少年は逞しい二本の腕で羽交い締めにされていた。
「まいちゃいねぇんだな、これが!」
「なっなんで?!」
 町からここまでかなりの距離がある。この男はどうやって追いついてきたのか。
「それはこっちが聞きてぇぜ! この世界に瞬間移動できるヤツなんざ、俺しかいねぇと思っていたがよ!」
 少年の襟首をひっつかんで木の幹に押しつける。衝撃に小さくうめいた少年はおびえた目でガーヴを見返した。
「!」
 見開かれたその瞳は金色。瞳孔は縦に細く長い。
 ガーヴは息をのんだ。
 ----ああ・・・そうか。懐かしいと感じたのはこのことだったのかよ・・・。

 時が、もどる。


 金色の鱗が太陽の光を反射している。
 なにも知らねぇ奴らには神々しく映るだろう。だがそいつらは制裁という名の虐殺をしにいくにすぎない。
 裏切り者には死を。
 神族であっても魔族であっても、そこんところは変わりねぇらしい。
 今奴らが追っているのは、傷つき血を滴らせながらも必死で逃げる若い竜だ。
 ----あいつは・・・。
 額にある傷。
 俺はこいつを知っていた。
 前にも俺は竜族同士の戦いに出くわしたことがある。その時はたった十数匹の竜の群を、金色の竜たちは何十倍もの数で追い立てていやがった。そんな状況にあっても勇敢に戦っていた古代竜の戦士のそばに、そいつの姿があったのを憶えている。
 おそらく家族だったに違いねぇ。小さいそいつを庇う、戦士より一回り小柄な竜が母親だろう。自分が傷つきながらも子供を守ろうと必死に戦っていた。
 俺は静かに傍観していた。
 助けたからといって奴らが俺に組みするとも思えねぇし、わざわざ助けてやって敵を多くする必要もねぇからな。当時の俺にとっちゃぁ、そいつらの憎悪やら怒りは心地いいもんだったってこともあるが・・・。
 群がる黄金竜をなぎ倒し、切り裂く。
 その戦士の戦いぶりは俺の目から見ても惚れ々々するもんだった。
 たった一匹の竜に対してどれだけの黄金竜が屍をさらしていることか。
 強い。
 確かに古代竜は強かった。
 故に、追われることになっちまったんだろう。
 いつの時代も、どこの世界も、力を持ちすぎるってのは煙たがれるもんだ。それが自分たちの意のままにならなければ尚更煙たかろう。
 降魔戦争時に参戦しなかったことがよほど腹に据えかねたらしい。同胞の屍を乗り越えてでも黄金竜は攻撃の手をゆるめねぇ。いくら強いとは言え、古代竜たちの劣勢は誰の目から見ても明らかだ。
 あいつの母親も金色に輝く槍に串刺しにされて事切れた。
 額から血を流し、取りすがって泣くそいつを戦士がかっさらうように引き離す。
 劣勢を見て取ったんだろう。戦士は子供を小脇に抱え、わずかに残った仲間とともに血路を切り開いた。
 追いすがる黄金竜を蹴散らしながら退く戦士の腕の中で、あいつは母親を呼び続けていた・・・

 砂漠の中をよろめきながら歩いていたそいつは、ガキから若造へと成長していやがった。傷は額だけじゃねぇ。全身につけられた傷が後の過酷な生き様を物語っていやがる。
 このまま見殺しにするのは惜しいんじゃねぇか?
 俺はふと思った。
 だってそうじゃねぇかよ。
 もうほかの仲間はいなくなっちまったようだが・・・それでもこいつは今、この時まで生き続けている。それにこいつはあの戦士の息子だ。あの見事な戦いっぷりを見せた戦士のよ。弱いはずがあるまい?
 こいつにはこれからも生き続ける権利があるんじゃねぇのか?
 俺のように・・・生きようという意志があるかぎり・・・。

 そして俺はそいつの前に姿を現した。
 そいつはヴァルと名乗った。

〜ところがどっこい生きていた(4)に続く〜

トップに戻る
18もう一つの夢の彼方4みいしゃ 11/15-11:19
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(4)〜

 ロシューの繁華街にある、とある酒場の二階。
 窓際の一角にガーヴと少年は向かい合って座っていた。
 炎色の長髪の男と淡水色の髪を持つ少年。少年の額には赤い石のはめ込まれたサークレットが光る。
 ガーヴは押し黙ったまま、ずいぶんと長い間睨み付けるように少年を見つめていた。
 少年もガーヴの視線に縛り付けられ、目を伏せがちに固まっている。
 ----ど・・・どうしよう・・・
 あれから何度も逃げようと試みはしたが、見えない壁に阻まれて瞬間移動することが出来ない。
 ----多分この人がじゃましてるんだ・・・。僕と同じ力・・・なのかな・・・?
 盗み見るようにガーヴを見るとまだ睨んでいる。
「っ!」
 あわてて視線を落とし裾の長いシャツを握りしめた。
 ----僕・・・あんまり人の多いところに長くいたくないんだけど・・・。
「何びくついていやがる。そんなに俺が怖ぇか?」
「えっ・・・」
 ここに来て初めてガーヴは少年に話しかけた。
 つられて少年は顔を上げる。
 金色の瞳が外からの光を受けてきらりと光る。
「カディスっつったな・・・てめぇなにモンだ?」
「・・・・・・」
 少年はどう答えて良いかわからなかった。
 本当のことを言えば自分自身をよく知らないのだ。
 なぜ他人にはない能力を持っているのか、瞳の形が他人とは違っているのか。
 カディスを育ててくれた人物は教えてくれなかった。だた、人に見せてはいけないと言われ続けてはいたが。
「だんまりかよ? ・・・」
「もっひょひょひょひょひょひょ・・・」
 ぎくぅ。
 言葉を続けようとしたガーヴは思わず椅子から立ち上がった。
 ぎこちなく声の方向に顔を向ける。
 そこには相変わらず奇妙な笑い声を響かせるディオルと、後ろには苦笑を顔に張り付かせて手を振るマティが立っていた。
 マティの表情には「すまない。どうしても会いたいと言うから・・・」とかかれてある。
「もひょひょひょ・・・相変わらずいい体をしておるのー。ひょひょひょ」
 にたり、と顔をゆがめてディオルは歩み寄ってきた。
 ここら一帯を取り仕切るギルドの総元締め、銀炎の導師と呼ばれ畏敬の念を集める青年、赤く燃え立つ長髪をなびかせる美丈夫、珍しい水色の髪を持つ不思議な少年。
 怪しさ大爆発の顔ぶれに、他の客は一人、また一人と一階へ避難していった。
「な、な、なんでおめぇーがここにいるんだぁ!!!!」
 4人だけとなったフロアにガーヴの叫びがとどろいた。
「ひょひょ。つれないのぉ。儂はこぉぉんなにお前さんのことを気に入っておるのに」
「気に入ってもらいたかぁねぇっ!!!!」
 近づくディオルを足で追い払う。
「これこれ。目上の者に足を向けるとはなんじゃ! 足を向けるとは!」
 ----何が目上の者だ!!!! 世が世ならてめーなんぞ俺様の爪の垢すら拝めねぇ存在だっっ!!!
 ガーヴがそのまま蹴り飛ばしてやろうと思った矢先、老人は隅の方で固くなっている少年に目を付けた。
「ほぉう・・・かわいらしいお連れさんじゃの・・・。どれどれ?」
「近づくな! そいつは俺の獲物だ!!!」
 とっさにはりあげた声に他意はない。だがディオルは別の意味に取ったようだ。
 ぽむ。
 したり顔で手をたたく。
「お前さん、そーゆー趣味の持ち主じゃったのか」
「どーゆー趣味だっ!!!!」
「照れなくても良いわ。ひょひょ。これ、顔を見せておくれ。・・・うむ、この容姿じゃとその筋にも高く売れるわい」
 カディスと名乗った少年はびくぅっと体を震わせ、反射的に老人を見つめ返した。
「ひょ? お・・・お・・・おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!」
 その体の一体どこから絞り出したのか、ディオルは雄叫びをあげた。
 ガーヴも一瞬驚く。
 目玉が飛び出るほど目を見開き、口は見事なO字型。「驚愕」をそのまま表情にしたディオルは叫び続ける。
「その目! その瞳ぃぃ!!!!! お前さんっ、お前さん! もしやもしやもしやぁぁぁ!!!!・・・・・・・・」
 ぜい、ぜい、ぜい。
 息を整え、一つ深呼吸。
「もしや、あのかつて次元回廊を支配したというっ、この世界では絶滅してしまったというっ、あのっ、あのっ・・・竜人族の末裔かぁぁぁぁっっっっ???!!!!」
 ぜい、ぜい、ぜい、ぜい・・・・・・
 ----竜人族ぅ?!
 聞き慣れぬ言葉にガーヴは、叫びすぎて今にもぽっくり逝きそうなディオルへと視線を向けた。
「おい、何だ? その『竜人族』ってーのは・・・」
「そうかっそぉぉぉじゃなぁぁ!!! 儂は儂はもーれつに感動しておるぅぅ!!! まさかまだ竜人族が生き残っていたとはぁぁぁっっっ!!!!!!!」
「おい! じじいっ!!」
「儂はなんて運のいい男なんじゃぁぁぁ!!!!!!! もっひょひょひょひょひょひょ・・・」
「・・・・・・・」
 ガーヴは右手の拳を準備した。
「ひょひょひょひょ・・・ぶひょぉっ???!!!!」
 ごげしっ!!!!
 見事、ガーヴの右ストレートがディオルの顔面に直撃した。
 どばこぉぉぉぉんんん!!!!!
 ディオルは店の壁を突き破って吹っ飛んでいく。後ろにいたマティはひょいとかわし後ろを振り返る。
 壁にはくっきりとディオルの人型がくりぬかれていた。
「人の話を聞けってんだ! ・・・・・・おい! カディスとやら!」
 遙か頭上からガーヴに見下ろされた少年はすくみ上がった。今の今までアップで老人の独説を聞かされていた上、2mをこえる偉丈夫に睨み付けられたらすくみ上がるほかない。
「てめぇは『竜人族』ってーのかっ?!!!」
 カディスはぶんぶんと首を横に振る。そんな物は聞いたことない。
「じゃ、知らねぇってこったな?」
 こくこくと少年は頷いた。
「ちっ、しゃあねぇ。おいマティ!」
 ----銀炎の導師と呼ばれるぐらいだ。何か知ってるに違いねぇ!
 しぃぃん。
 が、マティの姿はそこにはない。
「どこ行きやがったぁぁっ!!! あんのぉなまくら導師ぃぃ!!!」

 なまくら導師ぃぃ!!!・・・・
 ガーヴの叫びが店の中から聞こえる。
 苦笑を隠せずマティは瓦礫に埋まってるディオルを見下ろした。
「おお、さすが導師様じゃて。助けてくれるんじゃな」
 マティがつかつかとディオルに歩み寄り、老人の前にしゃがみ込んだ。
「竜人族ってのは聞いたことがないな」
「もひょ!」
 ディオルの顔がわずかに引きつる。
「そそそそれはじゃな・・・げほげほ・・・老人はいたわるもんじゃ! 早く助けい!」
「何なんだい?」
 ほほえみを絶やさずマティが尋ねる。
 引きつった顔のままディオルはしばらく思案した後、手のひらを上にしてマティに差し出した。
「儂は商売人じゃ、ただで・・・というわけにはいかんて」
「助けてあげなくてもいいのかな?」
「それとこれとは別もんじゃ!!!! 儂を助けるのは人道的にも当たり前のことじゃぁっ!!!!」
 じたばた駄々をこねるように暴れるディオル。この調子だと特に助ける必要はなさそうだ。
 しばらくにこにこと眺めるマティ。しびれを切らしたのはディオルの方だった。
「おお、そうじゃ!! 今度の砂竜の売価を9割引にしてくれるってのはどうじゃ? どうせ仕留めるのはガーヴじゃろて」
 にこにこ。
「ええい! 8割ではどうじゃ!!」
 にこにこにこ。
「わかった!! もうこうなったら半額じゃ! 半額!! これなら文句はあるまい?!!!」
「・・・・しょうがないな。じゃそういうことで」
 マティはようやく瓦礫の下から老人を救い出してあげた。


〜ところがどっこい生きていた(5)に続く〜

トップに戻る
19もう一つの夢の彼方5みいしゃ 11/15-11:20
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(5)〜

「これはあくまで伝承じゃよ」
 たばこを薫らせてディオルはほかの3人の顔を見渡した。
 ガーヴ、マティ、なし崩しにつれてこられたカディス。
 彼らはマティの交渉の結果、ディオルから『竜人族』のことを聞けることになり、場所を彼の別宅に移していた。
 余談だが、この世界では20日を1ヶ月、十五ヶ月に7日を加えて1年とする。ディオルが値切った砂竜の売価半額とは、ロシューでまるまる1ヶ月遊んで暮らせる値段である。
 閑話休題。
「勿体付けてねぇでさっさと話しやがれ!」
「わかっとるわ!!! そうせかすでない!!! ・・・・そうさな、これがいつの時代のことかは判らん・・・」
 ガーヴに急かされディオルは遠い目をして話し始めた。

 この世界にかつて一大文明を築いた一族がいた。
 竜人族。
 人々は彼らをそう呼んだ。
 何のことはない。彼らが人間の姿と竜の姿、両方をとることができたからである。
 もちろん、「竜」というのは似ているというだけであって、この世界の「竜」と同じにみられては彼らも気を悪くするだろう。
 青黒色の鱗に金色の瞳。翼の先は鳥のように羽に覆われている。それが彼らの本来の姿だった。
 しかし、普段は人と変わらぬ姿で生活していたという。強いて違うところをあげれば金色に縦長の瞳と、青い髪をしていたところだろうか。
 体力的な強さもさることながら、彼らには特殊な能力が備わっていった。
 瞬間移動。念話。念動。
 神ともおぼしき力。
 人間の猜疑心をくすぐるには十分な力。
 かくて人間と竜人族との対立は始まった。
 長い、長い永劫とも思える時の果てに残ったものは、人間と、この砂に覆われた不毛の大地だけだった。

「おいおい。そいつら強ぇんだろ? なんで人間ごときに負けちまうんだ?」
 ガーヴは首をひねった。
「ひょ! そりゃわからん。言ったじゃろ、あくまで伝承じゃと。細かいところははしょとるに決まっとろーが!!」
 ぷはー。
 大きく煙を吸い込み、そして吐き出す。
 けほけほ。
 その煙にカディスがせき込んだ。
「おい、カディス! てめぇの一族だろうが。本当に知らねぇのかよ?」
 たばこの煙を払ってやりながら、ガーヴは少年に聞いた。
「・・・僕、自分がそんな一族だって知らなかったんだよ。カルアもそんなこと一言も・・・」
「カルア? 誰だ、そいつは?」
「僕を育ててくれた人・・・20年ほど前に死んじゃったけど・・・」
「・・・・・・・・・・20年?」
 3人の不審そうな表情にしばらくカディスはぽかんとしていた。
 ----こいつ、人間で言えば12〜13ぐれぇだよな?
 ガーヴはしげしげとカディスを眺める。
 ディオルも身を乗り出して少年を観察した。
「時に、お前さん。年はいくつかの?」
「・・・・・・・え? あっ・・・」
 ここで初めてカディスは自分の言ったことに気がついた。
「ひょっとしておめぇ・・・見かけ以上にじじいじゃねぇか?」
 ガーヴ、自分のことは棚に上げている。もっとも、前の世界の分を含めなければそうとも言えるが。
 じじいという言葉を聞いて、カディスは顔を引きつらせた。
 ----そ・・・そりゃ僕は普通の人よりは成長遅いけど・・・。
「いくつだ?」
「いくつじゃの?」
 ガーヴとディオルは声をハモらせてカディスに詰め寄った。
「う・・・あ・・・あの、その・・・・」
 じーぃぃぃぃ。
 しばらくは3人のにらみ合い。
「・・・・・・・・その・・・な・・・70ちょっと・・・だと思う・・・・」
「70ぅ?! なんじゃい、儂とそう変わらんではないか!!」
「てめーはいくつだっ!」
「儂ゃ、79じゃ!」
 胸を張ってディオルが言い切る。
「実は来月、儂の誕生日じゃ。はれて80じゃぞ! そうさの、プレゼントは・・・」
「てめぇにくれてやる物なんざ、ねぇ!!!」
 ガーヴにきっぱり言い切られたディオルは、部屋の隅でいじけはじめた。
 ----にしても、成長速度まで同じたぁどういうことだ? あいつは確か200ぐれーだったよな・・・。
 カディスと同じ瞳、同じ色の髪を持つ、かつての腹心を思い浮かべるガーヴ。
 ----しかし、情けねぇはなしだよな。こいつを見るまで思い出さなかったなんてよ・・・・。
 ともに生き残るために戦ってきた部下。いやガーヴにとって彼は、部下、腹心というよりも同志であった。
 他の部下たちが魔族という枠の中、魔竜王としてガーヴに忠誠を誓っていたのとは違い、彼は・・・力と名を与えられたヴァルガーヴはガーヴ自身に忠誠を誓った。ヴァルガーヴにとっては、ガーヴが「魔竜王」でなくても良かったのである。ガーヴがガーヴである限り、彼はどこまでも従いついてきたことだろう。
 なぜ今まで忘れていたのか・・・同志とも呼べる者のことを・・・。
 ----無意識のうちに思い出さねぇようにしてたのか? この俺が?
 ガーヴの頬に皮肉めいた笑いがよぎる。
 ----俺が消えちまったあと、あいつはどうしちまったんだろうな・・・。
「ガーヴ・・・さん?」
「!」
 目の前に金色の瞳が光っている。
「ヴァ・・・じゃねぇ・・・カディス、なんだ?」
「なんだっ・・・て言われても・・・」
 言いよどむ少年。
 ----ちっ。俺は回想モードに入ってたのかよ。
 気まずさに顔を背けるガーヴ。視界にまだ隅でいじけているディオルが入ってきた。
「いつまでやってやがる気だっ。じじぃ!」
「いいんだ、いいんだ・・・・どうせ儂のことなんか誰もかまっちゃくれないんじゃからな・・・・」
「けっ。いつまでもやってろ!」
 ----もう一人気にくわねぇヤツがいる!
 ぎろり。
 ガーヴは一人、最高級の果実酒を傾けているマティににらみをきかせた。
「いいご身分だよな? え? マティ!」
「君たちの行動は見ていて飽きないからね」
 ----こ・・・この野郎はっっっ!!!!!
「ところでディオル。肝心なことを言い忘れていないかい?」
 床を掻いていたディオルの指がぴたりと止まった。
 マティはゆっくりと琥珀色の液体を口に含み、紅の瞳を老人に向けた。
「私にとっては・・・・文明を築いたのが竜であろうと人間であろうと関係ない。問題なのは『次元回廊』だ」
「・・・・・・・もっひょひょひょひょ・・・・・。さすがは銀炎の導師殿じゃ」
 ついさっきまでいじけていた老人は、一転して狡猾な商人へと変貌した。
 

〜ところがどっこい生きていた(6)〜へ続く

トップに戻る
20もう一つの夢の彼方6みいしゃ 11/15-11:22
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(6)〜

 ----次元回廊? そーいや、じじいが、んなこと叫いていた気が・・・・・。
「そりゃ何だ?」
「一言で言えば、異界同士を結ぶ通路のようなものだ」
「通路?」
「橋といってもいいだろう」
 ----アルメイスの仲間が「禁断の地」で造っていやがったアレと同じもんか?
「うー、異界への扉っつーことか?」
「それでもかまわん。ただ『回廊』と名が付くからには、つながる時空世界は複数にわたる」
「ひょひょ。そうじゃ。んでもってそういった異世界の一つから『竜人族』はやってきたと言われておる。・・・・・ガーヴ、お前さんのようにな」
「!!!」
 いつの間にかグラスを持って酒をつぐディオル。ガーヴはそんなディオルの襟首を鷲掴みにして引き寄せた。
「じじぃっ!!! てめぇ知ってやがったな!!!! 俺が異界から来たとぉぉ!!!!!」
「うひょひょひょ・・・儂ゃそういった異世界からの漂流物も扱っとるのでのぉ・・・。それにガーヴさんや、そんなにアップでせまらんでおくれ。照れるで・・・・・・」
 皆まで言わせずガーヴは老人を投げ飛ばした。
 どこぉぉんん。
 ぐわしゃんんん。くわんくわんくわん・・・・・・
 さすが権力者の別宅。酒場の壁のようには貫通しなかったが、崩れ落ちた高価な調度品の山中にディオルは埋没した。
 ----『次元回廊』・・・・。そうだ。その『次元回廊』とやらが存在するのなら・・・ひょっとすると、ひょっとして・・・俺は元の世界に帰れるんじゃねぇか?
 マティがつぎ足そうとしていた果実酒の瓶をひったくって、ガーヴはそのまま一気に飲み干す。
 ぷはーっっっ。
 どん!
 彼は空瓶を叩き置くと目を据わらせてマティをにらみつけた。
「つまり・・・だ。『竜人族』とやらは異界から次元回廊つーモンを使ってこの世界にやってきた。だがぁ、先住民の人間との間に諍い起こして結局滅んじまった・・・・こういう筋書きだな?」
「ま、そんなところだろう」
「で、こいつが居るってことは・・・この世界に『次元回廊』が存在している可能性が高いってこったな?」
 ガーヴは大きな手でカディスの頭を軽くたたいた。
「筋書き通りなら、そういうことになるね」
「あと一つ。元の世界にこいつと酷似した一族が存在してやがった」
 ぽん。
 もう一回カディスの頭をたたく。
「もしかすると先祖は同じかもしれん。とするとだな、元の俺の世界にも『次元回廊』が繋がってったってことになる・・・・」
「・・・・・」
 ガーヴとマティの視線が絡み合う。
「・・・・帰るつもりか? ガーヴ」
「・・・俺はあっちに忘れてきちまったもんがあるんでな」
「女?」
「・・・・・・・・・・・・・・そーゆーもんじゃねぇが・・・・」
「うーん・・・・・」
 いつ持ち出したのか、マティは新しい果実酒の封を切った。
「君も飲むかい?」
「・・・・」
 ガーヴは無言でジョッキを突きだした。
 ちなみにこのジョッキは、ディオルがこれ見よがしに飾り付けたキャビネットの中から拝借したものである。
「難しい話だね。今の話はすべて『もし』と『可能性』でしかない」
「・・・じじぃの話が大ボラだとしたら、てめぇが『次元回廊』を気にするはずがねぇじゃねぇか。え? 導師さんよ」
 マティは口にグラスを運んだ手を止めて、薄く笑った。
「・・・確かに。『次元回廊』は存在するよ・・・。この話を・・・」
 マティは埋もれているディオルの方へ視線を走らせる。
「彼がどこから仕入れたか・・・・・・・」
「ひょ!」
 ぐわぁら。ぐぁら。
 ディオルが調度品の山の中から頭を覗かせる。
「もっひょひょひょ・・・導師さんや、そいつは、ひ・み・つ、じゃて」
 人差し指を一本、唇の前に立ててディオルはウインクした。
 かこーーーーーん!
 ぐわぁんしゃん。
 ----気にくわねぇヤツを思い出させるようなセリフをはくんじゃねぇ!!!!!
 間髪入れず放った空瓶がディオルを襲う。再び埋没した老人にガーヴはめもくれなかった。
「・・・・は、不問にするにしてもね」
「ふっ。情報源はてめぇも知ってやがるってわけかい。まぁ、いい」
 ごっ、ごっ。
 なみなみと注がれた酒を飲み干す。
「・・・で、どうなんだ? 出来るのか、出来ねぇのか」
「限りなく難しいよ。第一、君のいた世界を特定しなければいけない」
「ぬかすんじゃねぇ! てめぇが拾ったんだろうがよ。この俺を! どっから流れてきたのか見当もつかねぇほど馬鹿じゃあるまい?」
「・・・・・・・・・・君のいたところの世界観がどのようなものだったかは知らないがね・・・。私の知っている限り、『世界』というものは非常に複雑怪奇なものなんだよ」
 たとえば・・・とマティは座卓の上にしかれてあったテーブルセンターを取り上げ、いきなり縦糸の一本を引き抜いた。
「おおおおおおおっっっ!!!! なんちゅーことするんじゃいっ!!! それは砂金2杯分の値段はするんじゃぞぉぉぉ!!!!」
「てめぇは黙ってろい!」
「ひょぉぉぉぉ!!!!」
 ムンクするディオル。
 涼しげな顔でマティは先を続けた。
「この一本の縦糸を時空世界と見立てる。ちなみに時空世界とは『時間』と『空間』で構成されている世界のことを言う」
「は? その時空なんとかって『異界』って意味じゃなかったのかよ?」
「・・・・・・・・あー・・・まぁ・・・じゃあ、そこから説明しよう」
 マティは苦笑をへばりつかせて糸とテーブルセンターを置き、砂漠の涙を一粒取りだした。
 ガーヴとカディスの見守る中、彼は座卓の上にそれを置く。
「点。これは0次元。次元というのは単なる名称に過ぎないのでそう言うものだと思っていてくれ。・・・・で、点が動くと線」
 マティは砂漠の涙を転がす。乳白色の玉は淡い軌跡を残してころがり滑る。
「これが1次元。さらに線が動くと面。2次元だ」
 座卓の上から転げ落ちようとする玉を受け止めて置いた後、先ほど引き抜いた縦糸を取り上げてぴんと張る。そのまま下から上へ平行移動させ、「面」と言ったところでテーブルクロスを軽く指ではじいた。
 3人の顔を一通り見渡し、マティはおもむろにテーブルクロスを持ち上げた。
 しかし、ディオルのみはムンク状態だ。
「それでもって面が動くと立体になる。いわば『空間』。3次元と呼ばれるもの・・・今私たちが存在するこの空間をさす」
 確かにマティが移動させたテーブルクロスは直方体の軌跡を残していた。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 ガーヴとカディスは呆然として言葉もない。
 マティは更に先を続ける。
「これに『時間』が加わると4次元。つまりそれが『時空世界』というわけだ」
 ----わかったような、わからんような・・・・・・。
 ガーヴは軽く額を押さえた。

〜ところがどっこい生きていた(7)〜へ続く

トップに戻る
21もう一つの夢の彼方7みいしゃ 11/15-11:24
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(7)〜

「・・・・普通の『世界』つーのとどう違うんだ?」
「我々が認識という形で知りうる限りでは変わらないよ」
 ----だったら言うんじゃねぇっ!!!!!
「もっとも、『魔族』さんはどうか解らないがね?」
 グラスを掲げて、目を細めるマティ。
 ----イヤミのつもりか???!!!!
「あー分かった。そーゆーモンだとしておこう。で? 複雑怪奇な世界ってヤツを説明してもらおうじゃねぇか」
 手酌で果実酒を注ぐ。ジョッキを半分まで満たし、瓶は空になった。
 ガーヴは無言のまま空瓶をカディスの前に置いた。
「・・・・・」
 空瓶とガーヴの顔を見比べてしばらく考えた後、少年は陳列してある酒瓶の中から高そうなものを何本か選りすぐって戻ってきた。
 その中の一本を取り上げ、歯でもって無造作に栓を抜く。
 ガーヴは表面張力の許す限り、なみなみとジョッキに注いだ。
「・・・・では、そうしよう」
 マティが再び糸をつまみ上げてガーヴの目の前にぶら下げる。
「これを『時空世界』と仮定する。糸の太さが空間で長さが時間の流れだ。過去から・・・・未来へ」
 節のない長い指で糸を指し示し、なぞりながら上へと移動する。
「・・・・ここまではいいかい?」
「ああ、どんどんやってくれ」
「またややこしいことに、この糸は一本のように見えるが、実はそうではない」
 指先で糸をよじる。糸は4本の更に細い糸に分かれた。
「ほらね。時空世界のとるべき未来は複数に分岐してゆくんだ。この中の一本もまた更に分岐してゆく。もちろんそのすべてがすべて存在し続けるとは限らない。もっともとるべき確率の高い世界に集約され消えてゆく。そしてそういった時空世界はいくつも存在し、『時空宇宙』を形成している。この織物で言えば糸の一本一本がそれぞれ独立した時空世界って訳だ」
 マティは先ほどのテーブルクロスをひらひらさせて言った。
「もちろん実際の『時空宇宙』は織物のように整然と並んでいるわけではない。時にはねじれ逆行し、直角に交わる。ある世界ではこういった複数存在する世界群を『平行宇宙』(パラレルワールド)と呼ぶところも・・・・」
「ぐーーー」
「・・・・? ガーヴ?」
「・・・・・・・ガーヴ・・・さん」
 気まずそうにカディスがガーヴをつつく。
 ガーヴは腕を組んで寝息を立てている。
「ガーヴさん・・・」
「・・・・・・」
 何度かつつかれたのち、ガーヴはぱっちりと目を開けた。そしていきなりマティの胸ぐらをつかみ引き寄せた。
「俺の分かる言葉で言えっ!!!! 俺の分かる言葉でっっ!!!!」
「分からなかったかい?」
「分かるわけねぇだろうがっ!!」
「そう。分からなくていいんだ。要するに分からないほど複雑だってことだよ」
「・・・・・・・」
 ----そうかい。そーゆーふうに結論をもっていきやがるかっっっ!!!!!!!!
「流されてきた果実が、必ずしも川の上流にある木から落ちたものではないように、君の世界も・・・・」
「誰が果実だっ!! てめぇ・・・面倒臭ぇ話すりゃ俺が諦めるとでも思ってやがるのか?」
 ガーヴはマティを突き放した。
「甘ぇな! これと決めたことを曲げねぇのが俺の主義だっ!!!!」
 ----ヴァルガーヴに「手を組まねぇか」と持ちかけたのは俺の方だ。その俺が真っ先にリタイアしちまうってのは筋が通らねぇ。俺はこうして生きている。ならばあいつのいる世界に帰ってやるってのが道理ってモンだろうがよ!
 いや、ヴァルガーヴのためだけではない。己を屠り去った冥王と魔王に、まだガーヴが生きていることを知らしめる必要がある。
 生き続けること。
 存在し続けること。
 確かにこの世界にいれば命の保証はあるだろう。
 しかし、それはガーヴが生きていることにはならない。
 消し去ろうと追うもの。行く手を阻むもの。
 戦って、勝利を得て、生きていることを証明し続ける。
 それこそがガーヴの「生きる」ということなのだ。
 ----だからこそ俺は帰りてぇ・・・・いや、帰る!
 ガーヴは固く心に決めた。
「要するに、『竜人族』の『次元回廊』を見つけだして、そいつがうまく働きゃいいんだろうがっ!!」
「帰ってしまうのかのぉ・・・・寂しくなるのぉ・・・・」
 ぞわわわわわわわわわわわわわっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!
 いつの間にやら復活したディオルが、ガーヴの背中にぴったりと貼り付いて頬ずりをしていた。
「いい加減にしやがれぇぇぇっっっ!!!!!!! このクソ変態じじぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!」
 どかっべぎぃっごべっっぐしゃっがごっごげしぃぃっっっ!!!!
 一通りフクロにした後、ディオルにコブラツイストをかけるガーヴ。
「おうさっ! はじめからこいつを締め上げて『次元回廊』の在処をはかせりゃよかったのよっ!!! どーせ『一大文明』を築きやがった『竜人族』の遺産かお宝目当てで、嗅ぎ回っていやがったろうしなっっ!!!!」
 ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!!
「おひょうぅぅ・・・・。ロープ! ロープッ!!!!」
 ばんばんばんと床をたたくディオル。
「ガーヴさん! 死んじゃうよ!」
「すっこんでなっっ!! 同年代のよしみなんざ感じるこったねぇぇっっ!!!!」
「ど・・・同年代って・・・・」
 止めに入ったカディスだがガーヴの迫力に後じさる。
「おらおらおらおらっっっ!!!! はきやがれぇぇっっっ!!!!!」
「ひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!」
 おろおろと見守るカディス。そうだと思いついてもう一人の登場人物の方へ視線を向けた。
「結局、振り出しへ戻ったわけだね」
 マティは一番高価な果実酒の封を切ると、涼しい顔でグラスに満たし、ゆっくりと味わっていた。


〜ところがどっこい生きていた(8)〜へ続く

P.S.さあ、ここから心機一転。舞台はカディスの生まれ故郷へ!
  『竜人族』の秘められた過去とは?!
   ガーヴは元の世界に戻れるのか?!

トップに戻る
22もう一つの夢の彼方8みいしゃ 11/15-11:26
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(8)〜

 砂。
 細かい。
 きらきらと舞う。
 極限にまで砕かれた砂。
 独特の透明な砂が混じるこの砂漠は「煌めきの荒野」と呼ばれていた。

 最後の町をでて今日で6日目。
 ガーヴ、カディス、マティの3人はめぼしい古代遺跡を巡る旅の中、近くだというカディスの生まれ育った土地へ進路を向けていた。
 ルカをでる際、情報を提供したディオル・マハトがどうしても付いてくると言い張ったが、それはそれ、ガーヴが断固として拒否したのと、あんな奸物でもルカの実力者である。彼がいなくなれば町の権力均衡が崩れて大事になりかねない。それを理由に、・・・マティの裏工作もあってか、ディオルは置いてけぼりを食らったわけである。
 太陽の光を反射して光り瞬く砂の舞。雪国であればさながら細氷現象(ダイヤモンドダスト)といえようか。
 きらめく砂煙の向こうにかすかに浮かぶ黒い影が見える。そこがカディスの生まれ育った場所であった。
 ----砂竜さえ住んでいやがらねぇ・・・、ま、当たりめぇか。
 「煌めきの荒野」は別名を「死の聖地」と言う。
 ----なんで、んな名前が付いたか知らねぇが・・・人間もいねぇ、砂羊もいねぇんじゃ、砂竜も生きてけねぇだろうよ。
 砂丘のてっぺんに腰を下ろしたガーヴはさらさらと流れる砂を見つめていた。
 この砂漠が他の砂漠と違っている点は、砂竜の不在だけではない。
 一見して何の生物がいないように見える砂漠。だがちゃんと生物は息づいている。
 昆虫。は虫類。ほ乳類。
 種類は違えど彼らは確かに砂漠に適応して逞しく生きていた。
 しかし、
 この「煌めきの広野」にはその生き物の影すらない。
 本当に死の世界なのだ。
 ただただ無限に広がる砂漠。
 それしかない。
「ガーヴ、ここにいたのか」
 彼の背後から声をかけたのは防砂服に身を包んだマティだ。
「あのポンコツはなおったのかよ?」
「残念ながら・・・もう駄目のようだね」
 ここまで来てマティの車は悲鳴を上げて動かなくなっていた。
「ここからは歩きか? 俺達はどっちでもいーがお前ぇはどうする?」
 砂漠の風がガーヴの燃えるような髪をなぶる。その風は、車を眺めるマティの外套もはためかせていった。
 ----俺とカディスは・・・まあ、元が元だ。こんぐれーの砂漠にゃびくともしねぇ。が・・・・こいつは人間・・・・・・・ちょっと待て。本当に人間か? こいつ?
 10年来くすぶっていた疑問が唐突にわき上がってきた。
 ガーヴのそんな思いをよそに、
「私もかまわない」
 振り向いて微笑みながらマティは言った。
 ----そういや・・・・思い出してみろや、ガーヴさんよ。こいつは俺を拾ったときのことをなんて言ってやがった?
  「時空の狭間というのは恐ろしく不安定な場所でね・・・
   それぞれの時空世界における神や魔王と呼ばれる存在でも、
   もとの姿を保っているのは難しいことなのだ」
 ----確かそう言ってなかったか? と言うことは、だ、神や魔王でも行きずれぇ所を散歩していて俺を拾ったってことかい? おいおいおい・・・。
「とーとつだがマティ。てめぇ、一体何モンだ?」
 車の方へ戻ろうとしたマティは振り返り、ガーヴの顔をしげしげと見上げた。
 彼の顔は本当に唐突だと言わんばかりに無表情だ。
「・・・・・・・・・・・・・・何者だ、と言ったら君は納得するのかな?」
「・・・・・・選択その1。魔王7分の1!」
「魔王?」
 きょとんとして聞き返すマティ。
 ガーヴは彼の胸ぐらをいきなりつかんでつるし上げた。
「おうさっ! 俺の世界での魔王、シャブラニグドゥ7分の1だ!」
「『7分の1』というのが今一よく分からないが・・・・なぜ私が魔王なのかね?」
「あいつは別名『ルビー・アイ』つーんだ! その目だ! その目っっ!!!!」
 マティはまさにルビーのような瞳を見はらせてガーヴを見つめる。
 ----千年も封印されてりゃ飽きがくらぁ! 箱庭作って再生した俺をそん中にぶち込んで、四苦八苦する様を観察してるって設定はねぇとも限るまい?
 そうすれば思い出したくない人物と重なるディオル、忠実な腹心を彷彿とさせるカディス。こんな共通点があっても不思議ではない。なにせガーヴがいた世界の魔王が作った箱庭なのだから。
 ガーヴの選択その1が正しければ、彼が目標とすべきなのは竜人族の次元回廊ではなくて、目の前の銀髪の青年、マティをぶちのめすことになる。
「赤い目・・・・・・・・・・」
 マティはしばらく考え込むように目を閉じた後、頬に右手を添えてにっこり微笑んだ。
「うしゃぎしゃんと呼んで(はぁと)」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 頭が考えるよりも体が先に行動を起こしていた。
 ずべしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!
 と、とり澄ました導師はあっけなく砂の中へ埋没し・・・・・・・・・・・・・・ないといけないはずなのだが、姿が見あたらない。
「・・・・・・というのは冗談で・・・」
「??????!!!!!!!!!」
 ----いっ・・・いつのまにィィィッ????!!!!
 マティは投げ飛ばした方の腕とは反対側の、ガーヴの腕に乗って彼を見下ろしていた。
 ----体重がねぇッッッ!!!! やはりこいつは魔族かぁッッッッ?????!!!!!!!
 あわてて腕を引っ込める。
 マティは慣性の法則で一瞬、宙に停止すると、落下した。
 着地する寸前、ふわりと上昇。細かい砂がやんわり円を描き、そしてゆっくりと砂に足をつける。
「その論法だと赤い目の者達が皆、魔王7分の1だと言うことになる」
 優雅に微笑んでマティはガーヴを見上げた。
「・・・・・・そうかい。じゃ、選択その2だっっ!!!!」
 ----おさえろ! ガーヴっっっ!!!! こんな事ぐれぇで魔竜王たる俺様が取り乱すんじゃねぇっっ!!!!
「てめぇはやたらと『時空世界』やら『次元回廊』とやらに詳しい。ディオルのじじぃは、ありゃ商売根性の珠モンで、それ以上のことは知らねぇ!」
 ガーヴはディオルから知っていることを洗いざらいはかせていた。
「んで、『時空世界』、『次元回廊』つー言葉をくどっぱらしいほどに説明できるヤツはてめぇ以外にいねぇし、『時空の狭間』つー所にも行くことが出来るときた。更に付け加えるとすりゃ、神や魔族のいねぇこの世界にいながら、てめぇはその存在を確信してる口振りで話してやがる」
「・・・・・・・・・その条件から導き出される結論とは?」
 ガーヴはにぃと唇の端をつり上げて笑った。
「・・・・・・・・・てめぇもこの世界の住人じゃねぇってこった」
「・・・・ま、違ってはいないな」
 あっさりとマティは肯定した。
「今になって気づいた・・・・・・訳じゃないんだろ? ガーヴ」
「まあな」
 二人はどちらともなく砂丘を下りはじめた。


〜ところがどっこい生きていた(9)〜へ続く

P.S.『時空世界』=よーするに過去、現在、未来を引っ括めた「世界」のことです。
  『時空宇宙』=よーするにパラレルワールドの集合体です。
  『時空の狭間』=陸地を「時空世界」とするならば「海」に当たると考えてください。
  『次元回廊』=陸地を「時空世界」とするならば「船」「飛行機」もしくは「海底トンネル」と言ったところです。

話はどんどんこんがらがってきそうです。
私の思っていることのどのぐらいが書ききれるのかとっても不安。
はうっ。文章力のなさにつくづく号泣。
それでも見捨てないでくれますか?

トップに戻る
23もう一つの夢の彼方9みいしゃ 11/15-11:28
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(9)〜

「はじめは力を失っちまったつー現実と、この世界になれる事で精一杯だったがな」
「・・・・・・・」
「その内、この世界で人間として生きていくのもいいかもしれねぇ。そう思い出していた・・・・だから、お前さんの正体なんざどーでもよくなっちまってた」
「・・・・・でも今は違う・・・だろ?」
「・・・・今に始まったことじゃあねぇ・・・。俺の・・・」
 ガーヴは右手を広げて目の前に持ってくる。そして握りしめた。
「この力が戻って来始めたときから・・・だ」
 それは今から4・5年前からのこと。
 取ろうとした剣がさわりもしないのにいつの間にやら手の中にあったり、意識もしないのに目的地に着いてしまったこともある。
 以来。
 人間として生きようとしていたガーヴなのだが、日々の中で何かが物足りないと感じ始めていた・・・。
「決定打になりやがったのはカディスだがよ」
「君の世界に酷似した一族がいると言ってたな? 彼らはどういった種族なのか?」
 横を歩くガーヴにちらりと視線を向けた。
「伝承どうりだとすりゃ、姿形、能力、んでもってその末路まで似てやがる。違うところと言えば・・・そいつらを滅亡に追いやったのが人間か、竜かの違いだ」
「・・・・・そうか」
「マティさん! ガーヴさん!」
 砂に埋もれかかっている車の影からカディスが駆けつけて二人を出迎えた。
「カディス。ここからは歩きになる。荷物をまとめよう」
「あ、はい」
 マティの後ろについて作業をはじめるカディス。
 その姿を見ていてガーヴはなにか忘れているように感じた。
 ----し・・・しまったぁッッッッッッ!!!!!!!
 そうだ。
 先ほどの会話の主題はマティの正体のはずである。
 ----はぐらかしやがったなぁッッッッ!!!! あの野郎ッッッ!!!!!
 ほんのちょっと、はぐらかされた自分を呪いつつ、
 ----ふっふっふっ・・・・・・まあいい。時間は十二分にありやがる。これからたぁっぷり聞かせてもらおうじゃねぇかよ!!!!
 心の中でそう叫ぶガーヴだった。



 ----一体いつまで続きやがるんだっっ!!! この砂漠はッッッ!!!!!
 行けども行けども一向に目的地に着く気配が見えない。
「おいっ!!! カディスッッ!!! ホントーにこの方向でいいんだなッッッ!!!!」
 ザッ。
 突然立ち止まり、ガーヴは振り向いた。
 ぼすっ!!!
 すぐ後ろを歩いていた少年は惰性でガーヴの下腹部にまともに顔をぶつけた。
「・・・・おめぇ・・・もう少し小さけりゃ、俺の大事なところに顔、突っ込んでやがったぞ」
「しょんなほとふぃはれてにょ・・・」
 そんなこといわれても・・・と言いたいらしい。
 ガーヴはカディスの襟首をつかんで、猫の子の様に持ち上げた。
 二人の顔がちょうど互いの真正面にある。
 まともにぶつけた鼻を押さえるカディスをじぃーと睨み付けるガーヴ。
 ----大体が・・・・・だ。瞬間移動が使えりゃ、こんな苦労はしなくていいんだよッッッ!!!!
 この「煌めきの荒野」はどうやら空間がゆがんでいるらしく、瞬間移動などの特殊能力が使えない場所であった。下手をすればとんでもないところに跳ばされて戻ってこれない事もある。
 もっとも、この世界の住人は滅多にそのような能力を持ち合わせていない。普通に歩く分には大して問題にならないので、この場所は「ちょっと毛色の違う砂漠」と認識されているだけだ。
 楽をするな、と言うことか。
 無論、生物の影も見あたらない場所なので、気味悪いのか訪れる人間は極端に少なかった。
 ガーヴはふと思いついた。
「おめぇ・・・・・・・竜になれや」
「ふぇ?」
「竜になれっつっったんだっっ!!!!」
 ----こいつに乗ってきゃ最短コースじゃねぇかっっ!!!
「ガーヴ。その子じゃ、竜になっても無理だよ」
 額を指で押さえて、マティが言った。
「どーゆー意味だっ! そりゃっっ!!!!」
「君の体重に耐えられんといっている」
「俺様にそんな贅肉が付いてると思ってやがるのかぁッッ!!!」
 どん!
 分厚い胸板をたたいて胸を張る。
 マティはあきれてため息を付き、おもむろに歩み寄ってガーヴの鼻先にびっと人差し指を突きつけた。
「いいかい。ガーヴ! 君は人間になって10年足らずだから分からないとは思うが、脂肪よりも筋肉の方がずうぅぅっと重いんだ。 同じ質量の人間でも脂肪質の者より筋肉質の者の方が重いんだよ! 量ったことはないが君は確実に100kg以上はある!」
「だーーーーっっ!!!! また訳のわからんことを言うかぁッッ!!! 誰が人間だっ、 誰がっっ!! 俺が人間ならこの戻ってきてる力をどう説明付ける気だッ!!」
 確かにガーヴの今の体は、切れば黒い闇ではなく赤い血が流れる。最初の頃、ほんの弾みで傷を負ったとき、
 血だ。俺の体から血が流れてやがる。
 と妙に感心したことがあった。
 蛇足だが、その時ほんの弾みで強盗団のアジトが丸つぶれになった。ガーヴは指先にわずかにひっかき傷を作っただけである。
「当たり前だ。私は君を可能な限り忠実に再現したつもりだ。力が戻ってきて当然のことだ」
「おいおいおいおいおいおいッッッッッ!!! 以前の俺は切られたところで血なんぞ流さなかったぞ!!!!」
 ガーヴはつかんでいたカディスを放り投げると、動作をまねてマティの鼻先にびっと人差し指を突き立てた。
 腕を組み座った目でガーヴを見上げるマティ。
「私は、『可能な限り』と言ったはずだ。聞いてなかったのかね?」
「・・・・・・・・・・ほぉう?」
 ----そう来るかッッ!!
 突き立てた指がわずかにふるえる。
「分かった、マティ」
「そうかい?」
 涼しげな顔でマティが答える。
 -----・・・・・・・・・・・・・・・・前から聞きてぇ聞きてぇと思ってたが・・・・・・。
 でも聞くのをためらう。
 しばらく二人はにらみ合い、そして決心したようにガーヴが重々しい口調で口を開いた。
「てめぇ・・・・どうやって俺を『再生』させやがった?」
「・・・・・・・・・・・その『説明』を聞くつもりかい?」
 マティは『説明』という部分を強調して言った。
 ピシィィィィッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
 ガーヴは石になった。
「ま、いいだろう。君に分かるようにかみ砕いて説明してあげよう」
「・・・・・」
「君には聞く権利が・・・・・」
 石状態の彼にやれやれとため息を付くと、放り投げられたカディスを助け起こす。
 髪の毛に付いた細かい砂を払い落としてやりつつ、マティはカディスの額にはめられた赤い石のサークレットを見つめた。
「あ・・・ありがとう」
「どう致しまして。さあ、案内してくれるかい?」
「は・・・はい」
 少年の肩を軽くたたくと、ガーヴに振り返った。
「いつまで石になっている気だ?」
「・・・・・・」 
 やっと解凍されたらしい。ガーヴは腰に両手を当ててぎろりとマティを睨んだ。
「上等じゃねぇか。その『かみ砕いた説明』とやらを聞かせろや。え?」
 砂漠の風がガーヴの髪を弄んでいた。

〜ところがどっこい生きていた(10)〜へ続く

トップに戻る
24もう一つの夢の彼方10みいしゃ 11/15-11:29
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(10)〜


 前をカディスが歩き後ろからガーヴとマティがついてゆく。
 かつて住んでいたことがあってか、少年は危なげない様子で彼らを案内していた。
「簡潔に言うと君の体は人間として再生するしかほかに方法がなかったんだよ。・・・・そうであったからこそ再生できたんだがね」
「どういう意味だ」
 ----何かいやぁな予感がするぞ・・・。
「向こうの世界では君は魔族と言えども半分は人間だったんだろう? これが純粋な魔族だったりしたらお手上げだった」
「?」
「不思議かい? でも考えてみたまえ。この世界には魔族というものは存在しない。元通りにしようにも手本となるべきものがなければどうしようもないだろ?」
「まぁ、そりゃそうだが」
「しかし、人間はいる。だから私は君の人間の部分を中心として再生させたんだ・・・クローン培養でね」
 ----また訳のわからん言葉を・・・・・・・・ッッ!!!
 ジト目でにらむガーヴに気づき、マティは肩をすくめしばらく考えた。
「クローンというのは・・・・複製とでも言えばいいのかな?」
 ----ちょぉぉぉぉとまったぁッッッッ!! すると何だ??!! 俺はコピーって事かぁッッ???!!!!!
 一瞬思考が停止する。
 コピー人間。
 姿形はおろかその潜在能力までもを原型と同じとする。ただ、経験や記憶はコピーすることは出来ないので、全く同じというわけには行かない。
 ----コピー魔族ってのは聞いたことねぇぞ・・・・。いや待て。確か前に魔王7分の1が封印されていた男・・・赤法師なんとかっつーヤツがいたよな。そいつにもコピーがいて・・・魔族を混ぜて作ったとか作らなかったとか・・・。
「・・・・・俺はこの記憶が示すとおりの俺なのか? それとも・・・・」
 心なしか気弱なガーヴ。
 マティは気付いてないのか気にしてないのかあっけらかんとして答えた。
「体はもちろん再生したから寸分違わず元通りとは言えない。しかし記憶の方は精神生命体の塊だった君を、新しい体の中にそのままぶち込んだだけだから元のままだよ」
 ----ぶち込んだって・・・・おい、おめぇ・・・俺はダシんなかに具入れて作ったスープじゃねぇんだからよ・・・・。
「もっとも君は本来、精神生命体だろ? 体はその入れ物に過ぎないから、かつての君とそれほど違ってるわけじゃない」
「うー」
 ----なるほどぉ? そうか。前世界で転生を繰り返してた状態と同じってヤツか!
「・・・・・ふふふふふふふふふふふ・・・・・・ふっ・・・わっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ガーヴは思いっきり笑い出した。
 カディスは驚き振り返って目を見張る。隣にいたマティは眉をしかめて耳を押さえていた。
 ----そうかい! そうか! そうなんだな! 俺様としたことがっ、んな事で一瞬たりとも気落ちしちまったとはなッッ!!!!!!
 ぐぐっっと拳を握りしめる。
 ----ったりめぇだ!!! 俺が俺だっっつって感じてる限り、俺は俺だッッッッッッッッ!!!!!!!
「あーすっきりしたぜっっっっ。・・・・ん? どうした、カディス?」
 両手の指を胸の前で組み、心配そうにカディスはガーヴを見上げていた。
「いえ・・・あ・・・あの・・・道、こっちなんだけど・・・」
 ----ど・・・どうしたんだろう。な・・・何があったのかな・・・・・・・・。
 おずおずと指を指す。
「おうっ! そうだったぜ。こんなところで油売っててもしゃぁねぇ!!!! いくぞっ! マティ!!!!」
 ばすっとカディスの頭を大きな掌で被い、そまま歩き出す。マティの顔が「質問してきたのは君だろう」と言っているが、ガーヴは却下した。


 歩くこと2日。
 やっと目的の遺跡がその姿をはっきりと現した。
「ここがてめぇの生まれた所かよ?」
「うん。20年ぐらい前まで、ここにいたんだ。建物はちっとも変わってないや」
 小高い砂丘の頂に3人が並んで立っている。
 今日も天候は晴れだ。
 真っ青な空。
 大地を白黄色に染める砂。
 その白黄色の中に朽ち果てつつある古代遺跡がひっそりと佇んていた。
 白い外壁が青い空によく映える。
「よっしゃ! んじゃ行くとするかっっ!!!!」
 先頭を切ってガーヴが砂丘を降りはじめた。
 降りはじめて更に半日がたち、やっと建物の入り口らしき場所までたどり着く。
 遺跡は見上げるほど大きく、吹き抜ける風のみがこの風景に音を添えていた。
「カディス! こりゃたたき壊しちまっていいんだな?」
 親指で10mはあると思える入り口の扉を指し示すガーヴ。
「だ・・・ダメだよ! ダメだよーっっ!!!! ちゃんと出入り口用の扉があるんだからっっ!!!!」
 そう叫んでカディスは扉から少し離れた壁に走り寄った。確かにそこには真正面のでかい扉を縮小した扉がついている。
 しばらく待つ。
 待つ。 
 が、いっこうに開かない。
 ガーヴとマティはカディスの背後まで歩み寄り、彼の作業をのぞき込んだ。
「なにやってやがる」
「・・・」
 鍵が、開かないようだ。
 カディスが立ちつくしている扉の横には、地面からちょうど1.3mのあたりに四角いプレートのようなものが付いている。
 よく磨かれた薄桃色の円盤状のものがはめ込まれた下に、縦4×横3に整然と並んだ小さい突起。
 どうやらそれを操作して鍵を開けるらしい。
「ここを最後にでたのは、カディス、てめぇだろうが!!!」
 当然鍵を閉めたのもカディスということになる。その彼が開け方を知らない訳がないだろう?とガーヴの口振りは言っていた。
「カディス。君はここをどうやって閉めたのかね?」
「・・・・中の赤い取っ手を引いてドア閉じたら閉まっちゃったんだけど・・・」
「自動施錠装置・・・ね」
 マティは顎に指をかけて考えた後、「ちょっといいかい」と少年を脇に寄せてプレートの前に立った。
 指で円盤をなぞり、突起群を押してみる。何回かそうして繰り返し彼はカディスに向き直った。
「この他に別の鍵となるものが必要なようだ。何かこれに関係するものを持ってるかい?」
「・・・ううん」
 ガーヴは額を押さえて、ため息を付いた。
「やっぱり手段は一つしかねぇようだな」
 そう言うと彼は大股に二人の立つ場所から30歩ほど遠ざかった。所定の位置に着いたか、踵を返して扉を真っ正面に見据えた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
 ガーヴの気が膨れ上がった。
 かつての魔竜王の力に及ぶべくもないが、それでもこの朽ち果てようとしている遺跡の扉を砕くには十分すぎるほどの気だった。
「ガーヴさん!!!! なにする気なんだよぉっっっっ!!!!」
 カディスの悲痛な叫びも無視して、気を練り上げる。
 そしてそれは頂点に達した。
「そぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!!!」
 どごぉおおぉぉおぉぉおおぉおぉおおおぉぉぉぉぉぉぉんんんっっっっっ!!!!!!!
 一気に立ち上がる砂煙。
 もうもうと砂煙が辺りにたちこめ、砕かれた破片が辺りに飛びちる。
 ガーヴの放ったエネルギーは過たず扉に命中した。
「ほら見やがれッ! 一丁上がりだ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
 堅牢にそびえていた巨大な扉は見るも無惨に瓦礫と化していた。
「な゛な゛な゛な゛な゛なんてことするんだよぉぉぉっっっっ!!!! この扉はちゃんと鍵開けないと・・・・・」
 ごごごごごごごご・・・・・・
 どこからともなく地響きが聞こえてきた。
「なんだ? この音は?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛・・・だから止めたのにぃ・・・・」
 カディスは頭を抱えて泣き声でそう呟いた。


〜ところがどっこい生きていた(11)〜へ続く

トップに戻る
25もう一つの夢の彼方11みいしゃ 11/15-11:30
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(11)〜

 地鳴りとともに遺跡正面の両側から二つの巨大な物体がせり上がってきた。
 海坊主ならず砂坊主ともみえたものたちは、やがて砂を完全に落とし終わってその姿をさらけ出した。
「竜・・・・だよな?」
 ガーヴは腕を組んでしばし観察する。
 彼にとっては初めて見る姿だ。
 巨大な頭部。大きく裂けた口。鱗に被われた皮膚。前足に比べてはるかに逞しい強靱な後ろ足。太く、後ろ足2本で支える体の均衡を保ちながらもしなやかにうごめく尾。
 遡ることおよそ6500万年前。地球という名の星に君臨した大型肉食恐竜ティラノサウルス=レックス、通称T−レックス。
 T−レックスの前足が指2本であるのに対し、立ちはだかる二体の腕が少々長く、3本指であることを除けば、その姿は酷似している。
 彼らは扉を破壊したものが誰であるかを探るように、3人を順繰りに見渡した。
「おう!! どこを見ていやがるッ!! そいつをやったのはこの俺だッッ!!!!!」
 ガーヴは親指を胸に突きつけて声を張り上げた。
 二つの巨大な頭が同時に彼を見つめる。
「どうした? かかってきな!」
 落ち着き払った、よく通る低い声。
 大胆不敵な笑みを浮かべると腕を差しだしゆっくりと招く。
 一瞬、二体の竜は考えるかのように動きを止め、
 内、一体が消えた。
 ずしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!
 間一髪、よける。
 あの巨体が一蹴りでガーヴの所までたどり着いたのである。
「ガーヴさんっっっっ!!!!」
「カディス。君が行っても仕方ない」
 飛びだそうとした少年をマティは押しとどめた。
 残りの一体がその動きに反応した。
「マティ!!!! カディス!!!! 退いてろっ!!!! こいつらまとめて俺が仕留めてやる!!!!」
「任せたよ」
 そう言ってマティはカディスを抱え、ガーヴが破壊した扉の奥へと避難した。
 ドオォンン!!
「おめぇらの相手は俺だっつってんだろうが!!」
 自らを攻撃した一体を投げ飛ばして、二人を追おうとしている竜にぶつける。
 もつれ合って砂の中に倒れ転げた竜達。
 だが、姿に似合わぬ素早さで立ち上がり、ガーヴと、二人が姿を消した方角を見比べ、
 視線をガーヴに固定した。
 目標は彼に絞られたようである。
 にやり。
 ガーヴが笑う。
 ----久しぶりに手応えありそうな奴らじゃねぇかよ? 面白いッ!!!!!
「上等!」
 彼の体から燃えるようなオーラが立ち上った。
 一方。
 こちらは避難したマティとカディス。
「ガーヴさん一人にしていていいの??!!」
「いいんじゃないのかい? どう見ても、彼は楽しんでいるよ」
 ほえるガーヴ。
 襲いかかってきたその口を、
 ガシッッッッッ
 と、受け止めた。
 上腕の筋肉が張りつめる。
 強い。
 足場の悪さも手伝って、ガーヴは押し込まれている。
 ----力が落ちたとはいえ、この俺を押し込めるたぁ・・・
「うおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」
 腕に力が漲る。
 相手の上顎と下顎をつかみ一気に押し開く。
 めりめりめりめりっっっっっ!!!!
「とどめだぁっっっっっっ!!!!」
 どどどどどんんんん!!!!!!!!!!!!!!!
 大きく裂いた口の中へたたき込んだ巨大な気の塊は、竜の体を風船のように膨らませ粉々に吹き飛ばした。
「ふっ、さてお次は・・・・・」
 突然、周りが暗くなった。
 襲いかかる三本の爪!
 見上げるとそこにもう一体の竜の姿があった。
 ----この一瞬を狙ってやがったかぁッッ!!
 とっさに瞬間移動!
 どっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!
「おわッッッ!!!!」
 ガーヴは横殴りに衝撃を受けた。
「ガーヴさん!!!!」
「ガーヴ! 瞬間移動はするな!」
 ガディスとマティの声が同時に聞こえた。
 ----・・・忘れてたぜ!
 彼は相手の背後に現れようとしていたのが、真正面に移動してしまった。
 そうなのだ。ここは空間がゆがんでいるのだ。
 かなりの距離吹っ飛ばされたガーヴは転がりながら立ち上がった。
 ぺっ。
 口の中に広がった血と砂とを唾とともに吐き出す。
「やってくれるじゃねぇか・・・」
 それにしても竜の動きは素早い。間違えたにせよ、いきなり現れたガーヴを瞬時に攻撃してきたのである。
 脇腹を押さえて竜を睨む。だがその唇は笑みに彩られていた。
 シャァァァァァ
 残った竜の口から漏れだす声。口を大きく開けて威嚇する。
 はじめの一体のやられた様を見て、躊躇したのか思慮深くガーヴを観察していた。窪んだ眼下からのぞく瞳は琥珀色の知的な輝きを発す。
 ガーヴはその目が気に入った。
 ----こいつは怖じ気づいてんじゃねぇ・・・どのように俺を攻略するか考えてやがる。
 次の動きは、同時だった。
 ザシャァッッ!!
 がしぃぃぃぃぃっっっ!!!!!
 竜の強靱な爪といつの間にやら取り出した大剣の刃が交錯する。火花を散らして爪は刃を滑り、瞬時に双方飛び退いた。
 間髪入れずガーヴは相手の足下に気の塊を打ち込んだ。
 よろめく巨体。
「もらったぁぁぁぁッッ!!!」
 すさまじい咆哮とともに剣よりほとばしったガーヴの気は、鋭く研ぎ澄まされ目標を捉えた。
 ずばぁぁぁぁああああぁッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 竜は、真っ二つに割かれる。
 有り余るガーヴの気が、遺跡の城壁に剔ったような一本の亀裂を刻みつけて消滅した。
「終わったようだな」
「・・・・・・・門番倒しちゃったんだね・・・ガーヴさん・・・」
「門番?」
「うん。この扉はちゃんとした手順で開けないと『門番』に殺されるってカルアが言ってたんだ。・・・本当だったんだ」
「そういうことは早く言えっ!」
 剣を鞘に収めてガーヴが歩み寄ってきた。
「・・・・・・・だが、久しぶりに楽しませてもらった事にゃ間違いねぇ」
「堪能できたようだな」
「まだまだ足りねぇぐらいだがよ」
 マティににやりと笑いかける。
「足りないって・・・・まだ何かする気?!!!!」
「さあてな。おら! 何かされたくなかったらさっさと案内しろや!!!!」
 ----あ゛あ゛あ゛あ゛やっぱりここに連れてきたの失敗だったかもしんない・・・・。
 小突かれつつ、カディスは二人を遺跡の中に招き入れた。

 ちかり。
 瞬く。
 虫の羽音のようなものが、かすかに聞こえはじめる。
 遺跡の中で、
 何者かが目を覚ましつつあった。


〜ところがどっこい生きていた(12)〜へ続く

 〔しやうせつかきのこころへ五箇条〕

その一、はじもそとつらもすてるべし
その二、まことといふ名のかくしあじをきかせるべし
その三、つじつまあはせはほどほどにすべし
その四、どりよくとこんじやうをわすれるべからず
その五、いじやうをふまへて、かくべし、かくべし、かくべし

トップに戻る
26もう一つの夢の彼方12みいしゃ 11/15-11:32
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(12)〜

 ちゃぽん。
 天井に溜まった水蒸気が自らの重さに耐えかねてしたたり落ちる。
 せせらぎのような湯の音を背景によく響く。
 ----静かだ。
 ガーヴは思った。
 大きな岩をくりぬいたそこには満々と水がたたえられていた。
 ここが砂しかない不毛の大地であることを忘れてしまう。
 詳しいことを言えば、水ではなく湯だ。地下水を汲み上げ沸かされた湯。 
 この世界では水は最高級の財産とされる。その水を沸かし、これ程の広さの浴槽に満たして一人で浸かっているガーヴは、特上の贅沢をしているわけだ。
 これも自然の岩をくりぬいてつくられた浴槽の縁に両腕をあずけ天井を見る。
 天蓋の向こうには満天に輝く星空。
 ----大したモンだぜ・・・。
 実はここ、遺跡の最下層にほど近いところにある浴場である。つまり、夜空を見ることは不可能のはずなのだ。かと言って絵でもなければ、作り物でもない。確かに今、頭上に展開されている夜空が映し出されている。
「鏡とレンズを使えば簡単なことだよ」
 マティはガーヴの疑問にそう答えた。
 魔力も持たず魔法すら知らない。獣に対してさえ、体一つだけでは勝つこともままならない。人間とはひ弱なものだ。
 しかし、そんな人間にも一つだけ備わっていた力がある。
 知力。
 ものを考え、工夫し、創り出す。
 それは人間の生物として欠けているものを補うために生まれた。
 欠けている、未完成故に生み出された力。
 洞窟の中では見えぬ夜空が見たい。
 人間には透視能力を持つものはほとんどいない。水晶の輝きに彼方を見る魔法も知らない。
 だが、見たい。
 ----その欲望だけでこーゆーものを作っちまう根性はほめてやるよ。
 思いつつ、ガーヴは夜空に見入っていた。
 ふと虚しさに襲われる。
 今の自分に、ではない。
 昔、自分もそうであった『魔族』と言う存在について、思う。
 ゆっくりと目を閉じると、前にマティから聞いたことが脳裏をかすめた。
「次元宇宙の他に空間宇宙と言うものもある」
 今立っている大地は実は球体で、惑星と呼ばれるものである。
 惑星には月と称される衛星を従えているものもある。
 惑星は普段太陽と呼ばれてる恒星の周りを回っている。
 恒星は複数の惑星を従え、恒星系を形作る。
 更に恒星系は他の星星と共に銀河と呼ばれる星の集まりを形成し、
 銀河は銀河団として多くの仲間と寄り添い存在する。
 銀河団はまた他の銀河団と、まるでかき混ぜた石鹸液の泡の膜のように手を取り合っている。
 果てしなく広がる空間。
 それが空間宇宙。
 この空間宇宙に更に次元宇宙が加わるとどうなるであろう。
 空間宇宙が採るべき未来というものは、そこに存在する星の数だけある。空間宇宙の中に存在する星の数が10、更にその星星が取る未来の数--次元宇宙の数が10とすれば世界は100。空間宇宙が100、次元宇宙が100ならば1万。空間宇宙が1000、次元宇宙が1000ならば100万の世界が存在することになる。
 銀河を例に取る。
 そこに含まれる星の数はおよそ2000億個、その星の一つ一つが持つ次元宇宙が2000億・・・では多いとして・・・1億としてみても2000億×1億=1000京(*1)。
 途方もない数字。
 一体『世界』とはいくつ存在するものであろうか?
 ガーヴが『次元宇宙』や『空間宇宙』を完璧に理解してないとしても、それが『多いもの』であると言うことは確信していた。
 ----んな中で、たった一つの世界を破滅させたがってやがる『魔族』って存在は一体何なんだ?
「・・・・・・さん」
 閉じていた瞼の裏側にマティの言った次元宇宙の布が広がる。
 ----たった一本の縦糸引っこ抜くために四苦八苦してるってーのは、「虚しい」とは言わねぇかよ・・・・・・・。
「ガーヴさん!」
 目を開ける。
 カディスが上からのぞき込んでいた。
「のぼせちゃったのかと思ったよ。はい」
 そういって畳んだ大きなタオルをガーヴの顔に乗せる。
 ガーヴはすぐにタオルを取り払うと少年を睨んだ。
「何で顔に乗せやがる?」
「ぬれちゃうじゃないか。ごはんできたから早く来てよね」
「ちっ、ああ、わかったぜ」
 やれやれと、ガーヴは湯船から上がった。


 浴場のある階と今日からの住まいとなる階とでは、上昇下降移動装置・・・その仕組みについては省略しよう・・・で行き来する事が出来る。
 ガーヴ達はかつてカディスがカルアと共に住んでいた場所を、当面の住居とすることにしていた。
 この遺跡はそれだけで一つの町を形成できる規模を持つ。カルアとカディスだけでは管理しきれなかったのは当然だろう。かろうじて20年前まで使っていたその場所が、すぐ使える状態だったのである。
 20年前、この遺跡にはカディスとカルアの二人しかいなかった。
 今もまた、3人の他に誰もいない。
 着替えを済ませてマティの待つ部屋へ足を踏み入れたガーヴ。
 銀髪の青年は、何を燃料として灯っているのか解らない照明器具を前に、熱心に書物を読みあさっていた。
 照明器具を乗せたテーブルには本の他に、保存食を主体としてはいるが、結構豪華な食事が用意されていた。
「・・・・・こんな食料、どこから手に入れやがった?」
「ここの倉庫に眠っていたよ」
「・・・・おい。それじゃ少なく見積もっても20年前の代モンって事になるぞっっ!!!!!」
 マティは本から顔を上げてガーヴを見上げた。
「大丈夫だ。保存装置は正常に作動していたし、タンパク質やアミノ酸の変化も検出なしだ。衛生上問題はない」
「えーせー上問題ない・・・そういうモンなのか?」
 ガーヴはカディスを見下ろして聞いた。
「わかんないけど食べれたから・・・大丈夫なんじゃないかな・・・」
「食ったのか?!」
「うん・・・一応・・・」
「うーーーっっ」
 腕を組んでしばし考える。すると、カディスがガーヴの服の裾を引っ張って小声で言った。
「・・・・・・・・」
「何? 聞こえねぇぞ」
 ガーヴはしゃがみ込んで耳を傾けた。
「マティさんも口にしてたから・・・この人が食べてるって事は・・・」
 ぱむ。
 ガーヴは手をたたいた。
「そうか」
 ----食えねぇもんだったら口に入れるはずもねぇ。それに・・・俺の観察したところマティは結構舌が肥えている。なんせやつが常連だった店はどれもはずれがなかったしな。
 つまり、今このテーブルの上に置かれている食事は、食べられないどころか、美味しいものであるらしい。
 納得するとガーヴは早速席についた。


〜ところがどっこい生きていた(13)〜へ続く

*1:兆の一つ上の位。「けい」と読む。
  京の次には更に、垓、じょ(漢字がない・・・)、穣、溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、
  那由多、不可思議、無量、大数、と続く。「恒河沙」以降は日本人が考えたらしい。
  千大数(一大数、十大数、百大数と数える)に至っては10の75乗!!!!
  日本の数詞の数は世界一位だそうだ。偉いぞ日本人!

【いいわけ】
ごめんなさーいっっ!!!
ガーヴにーちゃんが「虚しい」と思えるための「途方もないこと」を考えたら
こうなってしまいました。
お話の筋には余り関係ないかもしれないので読み飛ばしちゃってください。
うっ、考えてみると今回なくても話通じるのでは・・・・・・・・。
んなこと書いてるから、長くなるのね。しくしく・・・・・・・。

トップに戻る
27もう一つの夢の彼方13みいしゃ 11/15-11:47
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(13)〜

 早速手前に盛られた腸詰めの一切れを口に入れてみる。
「これは・・・・・」
  ----酒が進む!!!!
 もう一口。
 ガーヴは果実酒ではなく飴色の蒸留酒を手にとってグラスに注ぎ入れた。
 くいーーーぃ。
 ぷはぁ。
「おう! なかなかイケるじゃねぇか!!! これだったら年季が入っていようがかまやぁしねぇ!」
「・・・・・よかったね。・・・・じゃ、僕、寝るところに用意してくるから・・・・・」
 ガーヴは料理を口に運びながら軽く手を挙げて答える。
 苦笑いを張り付けてカディスはそそくさと部屋から出ていった。
「ところでガーヴ」
「ん?」
「昼間の傷の方はもういいのかい?」
 マティは本を置いてガーヴに聞いた。
 ガーヴは言われてはじめて気が付いたように、強打された脇腹をさすった。
 衝撃から言えば肋骨の2本や3本、軽く折れていたはずである。だが今は痛みも疼きも感じられない。
 どうやら今のガーヴの体は、前の「半分魔族」であった時とも、まるっきり人間だとも言えない状態らしい。
 ----ま、俺はどっちだってかまわねぇけどな。
「大した事ぁねぇ」
「そうか」
「・・・・・・・傷はいいんだがよ」
 浴場での事を思い出して、言いよどんだ。
「いや、やめた」
「気になるな。いつも言いたい放題の君が言いよどむなんてね」
 マティはわずかに笑って果実酒のグラスを傾けた。
 木の実と砂羊の肉を炒めものをつついて口に放り込むガーヴ。
「てめぇの話はくどいんだよ。やたら難しい言葉を並べりゃいいってモンじゃねぇだろう」
「仕方ないよ。そういうものなんだから」
「・・・・・・仕方がねぇ・・・・か。ま、俺の疑問に答えられそうなヤツぁ、おめぇぐらいだろうが・・・・・・・」
 ガーヴはしばらく考える。
 ----別にわからねぇならそれでいいんだかよ・・・、魔族の存在価値なんてな。もう俺は魔族じゃねぇし、奴らのために考えてやる筋もねぇ。
 しかし、彼がかつて『魔族』であった事は紛れもない事実。気にしないことは可能だが、気にならなのいと言うのは嘘になろう。
 ----こいつの意見ってのも聞いてみても悪くはねぇか・・・・解るように話してくれりゃあな。
 決心が付いたのか、ガーヴは重々しい口調で話し始めた。
 マティは静かに聞いている。
 ガーヴが話し終えた後も彼はすぐには口を開かなかった。
「・・・・・・・・君の元いた世界に行ったことはないから、はっきりしたことは言えないが・・・」
「『思いっきり』簡単に願うぜ」
「・・・・・・努力しよう」
 苦笑してマティは言った。
「まず、確認しておく。君の世界での『魔族』は世界を滅ぼすために存在するということだね?」
「そうだ。『世界を滅ぼし、また自らも滅びる』。それが目的だ」
 純粋な魔族であった頃のガーヴなら疑問にも思わなかったことだろう。
「ガーヴ。君は人の体が・・・・・母親の胎内でどのように成長するか知ってるかい?」
「・・・・・・・・・・・は?」
 今、何を聞かれたのかガーヴは理解できないでいる。
 ----腹んなかでどうやって成長するかって?
「まあ、知らないだろうね。普通は」
「・・・・・・・ったりめぇだろッッ!!!!!!! 妊婦の腹、かっさばいて見たこたぁねぇからよッッッッッ!!!!!!!!!」
 だんっっっ!!!!
 グラスを叩き付けるように置いて、彼は唸った。
 ----またこいつは何を言い出すッッッ!!!!!
「落ち着いてくれ。なぜこんな事を聞いたのかはこれから解る」
 ----本当に解るんだろうなっっっ!!!!!!!!!
 めいいっぱい疑いの眼差しをマティに向ける。
「さて、じゃあ『手』を例にとって話そう。・・・・人間の手は発生したはじめは単なる肉の塊にすぎない。このようにね」
 彼は拳を握ってガーヴの前に突きだした。
「これがどうやって5本の指を形成してゆくか。・・・・・・・実は指が生えて来るんじゃないんだ。この指と指の間の細胞が死滅して指が作られるんだよ」
 細胞というのは小さなブロックであり、人間の体はその小さなブロックから成り立っていると断りをいれて先を続ける。
「これを細胞の自殺、または自己死(アトポーシス)と言う。指と指の間の細胞は自らを殺すことによって『手』という『世界』を作り上げてゆくんだ。その細胞達に『死ね』と命令するもの、仮に『死因子』と呼ぼう」
「それが『魔族』ってことか」
「『魔族』と例えられるってことだ。似てると思ってね。『死因子』は人体を作る細胞を滅ぼすためにある。目的の部分を破壊し終わったら、彼らもまた自らを死滅させてゆく。でないと人体たり得ない」
「魔族は世界そのものを滅ぼしたがってるぜ?」
「これは例えだ。全く同じではない。だが、『世界』にとって『滅び』は必要なことだと言うことは解るだろう? この他に・・・・そうだな、『傷』だ」
「傷?」
「そうだ、ガーヴ。君は10年近く人間をやってきているから、傷がどのように治るかは知ってるね? 傷を受けた体は修復しようとして細胞を増やしてゆく。しかし、修復し終わっても誰かが止めなければ無限に増え続けてしまう。これを止めるのも、『死因子』の仕事だ。余分に増えすぎた細胞を削り取り、『人体=世界』を正常に戻すこと。ここでもし『死因子』の存在がなければ際限なく増え続けた細胞は『人体=世界』をも破壊するに至る」
「・・・・・世界を創り出そうとしてる奴らが・・・・世界を滅ぼしかねんって言いやがるのか???!!!」
「その通り。だからこそ『滅び』は必要なのだ。・・・要は釣り合いの問題なんだが、『世界』にとっては『魔族』もまた必要欠くべからざるものなんだ。それが虚しく思えようともね」
 マティは一息つき、果実酒でのどを潤した。 


〜ところがどっこい生きていた(14)〜へ続く

「アトポーシス云々・・・」は「魔族」と言うものはなんぞやと考えた私の魔族論です。
もし医学的に間違っていても笑って見逃してやってください。
もとい、間違いを発見して正していただけるのは大歓迎です。
調べる時間がなかったので曖昧なこと請け合い(汗汗汗)。
是非ご一報ください。

ガーヴ様より
「おう! いつもこいつ(みいしゃ)のいたらねぇー話を読んでくれてありかとよっ!!
 ところで加流ーん、元の世界じゃ俺のコピーとやらがうろついてやがるそうだが本当かッッ?!
 なにッッ?! Sの野郎が作りやがっただと???!!!! 俺の髪からかッッ!!!!
 ・・・・・・髪の毛・・・・が残ってやがったか。
 そーいやーあん時、剣置き忘れてきたよーな気がするんだが・・・気が向いたら探しといてくれや!!!
 次はあいるだ!!! おめぇ、俺の怪我心配してくれてたよなッッ!!! ありがとよっっ!!!
 だが、ま、上の通りだ。心配するこたぁねぇっ!! これからもこいつ(みいしゃ)が
 脱線しねぇように見張ッといてくれよな!!!!!
 最後に松原ぼたんッッ!!!!!(声を落として)おめぇ・・・なんかマティのことを気に入ってるみてぇだが、いいのか?
 本当に???!!! あいつはこの俺から見ても「妙」だぞ? そりゃ見た目は男か女かわかんねぇ様な
 優男だが、あの「ぬらりひょん」みてぇなつかみ所のねぇ性格はどうもいただけねぇ!
 女ってヤツはわかんねぇな。・・・・女だろ? おめぇ?」
以上です。

トップに戻る
61もう一つの夢の彼方14みいしゃ 11/18-23:50
記事番号14へのコメント
もう一つの夢の彼方(ガーヴ様編)

〜ところがどっこい生きていた(14)〜

 照明器具の明かりが瞬く。
 部屋の中に沈黙が腰を据える。
「・・・・・・・・・・・・・・あくまでもこれは私の考えだよ。本当にその通りだとは断言しかねる」
 マティが静かに言った。
「結局、神も魔族も同じって事か。あっちの世界にいたときからそりゃ承知の上だ」
「まあね。どのみち、一つの世界に共存しているんだ。全く違う、なんて事はない。全く正反対のものだったとしたら、出会った瞬間に相互中和して消えてなくなるよ。戦う前にな」
「中和して消えちまう?」
 ガーヴの問いかけに、マティは肩をすくめた。
「我々の体と全く別の物質で出来ている世界もあるんだ。『反物質』って物でね。それに比べれば『光』と『闇』の方がまだ共通性があると言っていい」
 彼は繊細な作りのグラスを照明器具の手前に持ってくる。
 グラスを通した光は闇と巧妙に手を取り合い、テーブルの上に揺らめく影を落としている。
「光と闇は混じり合って存在することが出来る。物質と反物質とではそうはいかない」
「・・・・・・・・・」
 ガーヴはふと頭の中にちかりと瞬く物を感じた。
 頭を抱えて考える。
「どうした? ガーヴ?」
「・・・・・・・待て・・・・、黙ってろ!!」
 ----光と闇の混じり合い? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『神魔融合魔法』!!
「そうか!!」
 ----『神魔融合魔法』が可能ってことは・・・魔族と神族の力は本質的には同じモンだって事を証明していやがったわけだ!
 それは見落としていた。考えてみればそうだ。本質から相反する力であればそんなことは不可能なのだ。たとえば氷と炎の精霊魔術の様に相殺されるのが常識のはず。
 ----そんな身近なところに『証拠』がありやがったかッ!!
「今のことでかつての君の存在が否定されたかね?」
 考え込んでいるガーヴにマティが聞く。
「いいや。・・・が、あちらでまだ魔族やってやがるヤツらにゃこたえるだろうよ」
 にやり、とガーヴは唇の端をつり上げた。
 ----魔族だ!神族だ!っつって息巻いてるヤツらの鼻ッ面に突きつけてやりてぇな!! 狡猾な彼奴らのことだからよ、「それがどうした」ってー開き直るかもしれんが、内心は穏やかじゃああるまい?
 ----前もそうやってヤツらの存在価値を問うてやろうとしてたが、志半ばでこーゆー風になっちまったんだがよ・・・・。
 ガーヴはぐいっと酒を流し入れた。
「お前ぇの『意見』つーのは分かった。参考までに憶えておいてやらぁ!!!!!」
「・・・・・・・それはどうも」
「ま、辛気くせぇ話はこれまでだッ!!!!」
 そういうとガーヴは目の前に置かれてある料理を平らげはじめた。


 ----ここから見る星は20年前と変わりないな。
 窓の外には星空が見える。こちらは本物の星空だ。
 3人分のベットを整え終えて、カディスは何の気なしに夜空を見上げていた。
 ----本当はここに帰ってくる気はなかったんだけどな・・・・・・。
 20年ほど前、カディスの育ての親カルア・ミルクが死んだ時、そう心に決めたはずだった。
 なのに、今ここにいるのはなぜだろう。
 ここはカルアにとっては特別な意味を持っていたらしい。
 なぜ特別だったか。
 はっきりとは知らないが、そのことに自分が関わっているらしいと薄々気が付いていた。
 ----竜人族かぁ・・・、本当にそんなもんなのかなぁ・・・僕。
 カルアは「竜人族」と言う言葉をカディスに聞かせたことはなかった。ただ、少年が普通の人間とは違うのだということは何度も繰り返してはいたが。
「本当の姿を人に見られたら、きっとお前は彼らから追われることになるでしょう」
 そうして、
 カルアは少年に暗示をかけた。
 決して人前では本当の姿をさらけ出さないように。
 そっと額にはめられた紅玉をなでる。
 遠い昔、彼がまだ本当に子供だった頃のかすかな記憶。
 鏡ではじめて見た自分。
 青黒い翼。
 同じ色の鱗。
 果たしてそれが本当に自分だったのか。
 物心ついた頃にはすでに今の姿だったことしか憶えていない。それからずっとこの姿のままで生きてきた。だから、自分の正体なんて真剣に考えたことなどなかった。
 なのに。
『おい!!! カディスッ!!! お前ぇも自分の正体しりてぇよな???!!!』
 ぎゅううううう。
 耳を引っ張ってそう言う赤い髪の大男。
『いたっ!!!! 僕は別に・・・・!!!』
『いいや!!!! 知りてぇはずだッ!!! 知りたがっているッ!!!!』
 さらに力を込める。
『いたたたた・・・・・!!! わ・・・・・・わかったよぉ!!!!! 知りたいッ知りたいってばッッッ!!!』
『よしッッ!! ガキは素直なのが一番だッッ!!!!』
 ----その前は僕のことじじいだって言ってたくせに・・・・・。
 この旅に出る前の出来事が思い浮かんでくる。
 ----凶暴さは今も変わんないよなぁ・・・・。
 はふ。
 ため息を一つ。
 ----何で僕はあの人達と一緒にいるんだろう? 20年近くずっと一人で暮らしてきたのに、人恋しくなったって訳じゃないよね?
 少年は生まれたこの地から出て、あちらこちらを転々と渡り歩いた。
 一所に落ち着くことは出来なかった。
 彼の容貌が人目を引いただけではない。青い髪は染めることもできるし、縦長の瞳にしてもまれに生まれてくることもあるのだ。ただし、奇形として、だが。
 一番の問題は、カディスの成長速度だった。
 1・2年の間ならまだいい。しかし、4〜5年ともなるとさすがに周りの人々も奇異の目を向けてくる。親しい友人も作るわけにもいかず、定職に就くこともできない。だから、スリという非業法的な手段で糧を稼ぎ、自分を極力印象付けず暮らしてこなければならなかった。
 それはそれで快適な生活だった。
 カディスはそんな生活を悲観してはいない。
 50年近く、たった二人でここに暮らしていたのだから、人とふれあうことの方が煩わしく思えたのだろう。
 ----でも変な人たちだよなぁ。僕の本当の年聞いても『じじい』ですませちゃうし、『竜人族』であるかもしれない僕のことをあんまり聞かないし・・・・まあ、これは僕自身が自分のことあんまり知らないからだと思うけど・・・・。ガーヴさんは凶暴だし、マティさんは・・・やっぱしどっか変だし・・・これからどうなっちゃうのかなぁ?
 ばんっ!
 勢いよく扉をあける音がした。
「あん? なんだ。姿が見えねぇと思ったらこんな所にいやがったか!」
 びっくりして壁際に貼り付いているカディスを横目に、ガーヴが入ってきた。
 ----・・・・・・・酒臭い・・・・。
 カディスは息を詰まらせた。
「今日からここが俺の部屋か?」
「う・・・うん」
 ばさっと、上着を近くの椅子に投げ掛ける。
「んじゃ、俺は寝させてもらうぜ!!!!!」
 言うや否や、ガーヴはごろりと寝台の上に寝転がった。
「あ・・・あの・・・」
「ぐーーーーーーー」
「あの・・・・・」
 すでにガーヴは寝入っていた。
 彼の寝顔を見つめる。
 ----そう言えばガーヴさんって異世界人なんだ。異世界ってどんな所だろ? こんなに帰りたがったるんだ・・・・いい所なのかなぁ・・・・・・。
 ばふっ。
 ガーヴの逞しい腕が、寝返りと共に毛布をはねのける。
「・・・・・・」
 はぁ。
 肩を落として、ガーヴに毛布を掛けてやるカディス。
 ----ああ・・・・明日からまた物壊されないように気をつけないとなぁ・・・・・。
 そう思いつつ、彼は明かりを消して部屋からそっと出ていった。

 
〜ところがどっこい生きていた(15)〜へ続く

トップに戻る
65Re:もう一つの夢の彼方14松原ぼたん E-mail 11/19-08:12
記事番号61へのコメント
 面白かったです。
> ----光と闇の混じり合い? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『神魔融合魔法』!!
 ガーヴ様(とうとうここでも様づけ)、何でそんなこと知ってるんでしょうねぇ。あれってTRYからだろうから知らないのかと思ってた。
>マティさんは・・・やっぱしどっか変だし・・・
 えーん、カディスまでそんなこというのぉ(笑)。

 続きを頑張ってください。
 楽しみにしてます。