◆−ゼロリナデス。−CAT&月虎(5/25-00:10)No.10170
 ┣はじめまして−一坪(5/25-03:54)No.10173
 ┃┗ありがとうございます。m(_ _)m−CAT&月虎(5/26-00:38)No.10180
 ┣Re:はじめまして−tsubame(5/25-12:21)No.10174
 ┃┗Re:はじめまして−CAT&月虎(5/26-01:55)No.10181
 ┗はあ〜〜〜−寿(5/25-15:43)No.10175
  ┗Re:はあ〜〜〜−CAT&月虎(5/26-01:55)No.10182


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10170ゼロリナデス。CAT&月虎 E-mail 5/25-00:10


御初に御目にかかります。CATと申します。m(._.)m
【月虎と申します。m(__)m】
皆さんの作品を何時も楽しく拝読させて頂いております。
そして、無謀にも書いてみたくなって。。。
【……書いてみました。(^^;】
表現の変な所とかあるかと思います。(x_x)
【田舎者なので…文章も変かもです。(x_x;】
そういったものがあったら、ばしばし教えてください。感想御待ちしております。m(__)m
【…よろしくお願いします。m(._.)m こんな作品を読んでいただけたなら、光栄です。】






――――――――――――――――――――


追憶



「ゼロス……」
凛とした彼女の声が、冷たく張り詰めた空気の中に響いて消えた。
彼女はにっこりと微笑み、苦しそうに肩で息をついている。
風が栗色の髪をさらい、瞳はまるで夕陽の様に揺れて、足元を伝う事さえ面倒くさそうな血が脇腹からぼとぼとと大地へ落ちていた。
そして。
力尽き、自らの血溜りに倒れこむ瞬間まで。
彼女は微笑む事をやめなかった。
「リナさん……」



「リナさん……」
小高い丘の大木の下。夕闇の中で小さな子供を抱えて佇んでいる少女がいた。
「ここにいらしたのですか」
青年は、いつもの微笑を絶やさずに近づき、彼女の腕の中を見た。子供は力なく手足を垂らし、静かに瞼を閉じている。
彼はそれに眼をやり、答えのわかっている疑問を口にした。
「どうなさるのですか?」
「埋めるのよ」
彼女はまるでそう問われる事を知っていたかの様に即答してみせた。
小さく、しかしはっきりと。
青年はふむ、と頷きながらも、更に大した事の無い疑問を言葉にしてみた。
「何故、埋めるのです?埋めても、放っておいてもたいして変わりないと思うんですけどねぇ」
「………」
彼女は答えなかった。
沈黙の中、魔法で空けた墓穴の中に子供をゆっくりと横たえ、花を添える。
青年は、答えを待つわけでもなく、ただぼんやりとそれを観つめていた。
「……っ……」
ふいに風と間違えそうな音が聴こえた。それを発したのが彼女であることはすぐにわかったが。
「…え?」
聞き返すと、少女はそれに腹立たしさを覚えたらしく、顔をわずかにしかめて彼の足元を一瞥すると、すぐに幼子に目を戻し、呟いた。
「…こうすれば、気持ちの区切りがつくのよ。ああ、この子は死んだんだって、もう動く事はないんだって、それでも自分は生きてるんだって、自分に納得させる為に、埋葬するの。そうすれば、少しは悲しみが……軽くなるから」
最後の声は掠れていた。
「それに、また、ここに会いに来る事ができる。もう一度、会うことが出来る」
「自己満足ですね…」
「あたしは生きてるもの…。それに、死自体、生きて残されたものが認識するものだわ。自己満足でも何でも、この先、生きるつもりなら納得していかなきゃ……」
そう言って、穴に土を落とし始めると、木々がざわめき始めた。
彼女から静かに流れてくる負の感情。それは、甘く、切なく、苦かった。
どうして苦さを感じたのか理解できぬまま、しゃがみこみ、土を手にする。
ふとこちらを見詰める彼女。不思議そうに彼を見るその瞳は、夕闇の中に映えて一際美しかった。それを見た瞬間、彼は思わず眼を見開き、自分の中を駆け抜ける波に身体を強張らせていた。その波は彼の精神体の隅々まで広がり、心地よい痛みを残して消えていった。
「……魔族に埋めてもらいたくないかもしれませんが……。貴女一人に送って頂くよりは、二人の方がこの子も寂しくないでしょう?」
いまいち動揺を隠し切れていない自分を内心嘲笑いながら、その瞳に静かに微笑むと、幼子が眠る方に視線を向け、土を盛る作業を始めた。
しかし、視線をずらしたはずの彼の瞳が映すものは、永遠の眠りについた子供の顔ではなく、自分の脳裏に焼きついた、痛いくらいの紅い瞳であった。
哀しみの混じった瞳。それでも、前を見ようとする瞳。
瞳が綺麗だなどと思ったのは、この人が初めてかもしれない。
彼は、土で手を汚しながら、そう思っていた。



揺らめく視界…。
…否、揺らめいているのは自分。
倒れたまま動かない彼女に近づき、身を寄せる。
暖かい…。



暖かい…。
気が遠くなりそうな程…暖かい。
そのまま堕ちてしまいそうだった。
彼女の鼓動を聴きながら、瞳を閉じる。
 トクン…トクン…
それは懐かしい鼓動。
何処か…何処か遠く懐かしい場所で聴いた音。
闇に生きる者でさえ、郷愁が胸をつく。
空気を震わすその音は自分の中で波紋に変わり、融けて広がる。
融けて…ひとつになっていく…
そんな気がした。
「…………………?」
安宿のベッドで眠っていた少女は息苦しさを覚えたらしく、面倒臭そうに少し目を開いた。そして次の瞬間までには、ぱっちりと目を開いていた。
「なっななななな何してんのよっ!変体魔族っ!!」
魔族と呼ばれた青年は、彼女が突き飛ばすために出した両手をあっさりとかわす。が、次の瞬間は白。視界一杯に、白があった。
 ぼす
柔らかい、優しい肌触りの、それでいて彼女の匂いのする、何故か眼の前に現れた枕に顔が埋まる。
「なぁに勝手に人の部屋に入ってんのよっ!その上、何をその……スケベなことしてんのよっ!!」
「スケベだなんて……僕はただ貴女の鼓動を聴いていただけですのに」
いかにも心外そうな表情をして見せる。
「それを世間ではスケベ行為と言うのよ。セクハラ神かっ……へ?」
なおも言い募ろうとする彼女を無視してゆっくりと彼女に擦り寄る青年。
まるで、気まぐれにかまって欲しがる猫の様に。寂しそうに、何かを求める様に、身体を起こしている彼女の膝に頭を預ける。
「……どしたのゼロス?」
少女は少し困惑した表情を見せつつも、青年のしなやかな黒髪をそっと撫で、続けて問うた。
「獣神官様が甘えるなんてどう言う風の吹き回し?」
「……」
青年は、彼女の愛撫に嬉しそうな、気持ちよさそうな表情を見せただけで、沈黙している。
少女は呆れた様にひとつ大袈裟にため息をついた。
「まったく……明日は雨かしら?それとも槍でも降ってくるかぁ?」
「―――ナメクジが降ってくるんじゃないですか?」
彼女の動作がぴたりと止まる。よく聴いていたなら、何かが引きつる音まで聴こえたかも知れない。
時間さえその流れを止めたのではないかと思える程の硬直した空間が瞬く間にできあがり、まさか空間ごと固まるとは思っていなかった彼は、少しだけ興味を覚えて顔を上げた。

「……。……良い度胸してるわね。あんた」
いくらかの時が過ぎ、やっと復活としたといわんばかりの荒い呼吸を整えながら、か細く呟く少女。
「いやぁ、それ程でも」
「誉めてないぃぃっっ」
軽やかに答える青年のこめかみにげんこつをぐりぐりと押し付ける。
「あぅあぅあぅあぅあぅ…痛いですぅうぅうぅ、りなさんん…」
「ふっ……しつけをするときはこれが一番良く効くのよっ」
にこやかに答える彼女。
「しつけ……られてんですかぁ、僕……」
その呟きに、そう、と大きく頷くと、更にこぶしに力を込める。
「人の部屋に勝手に入らないっ!人の問いにはきちんと答えるっ。さらにっ、不法侵入かつ、甘えん坊の分際で人を不快にさせるなんて言語道断っ。わかったかなぁ〜僕ぅ?」
「は……はひ」
何か…絶対的な恐怖を感じて、本能が勝手に返事を返す。
「よろしいっ」
さっきとは打って変わって、嬉々とした表情で黒い髪をわしわしとかきまわす彼女。
……それは、よくできましたの合図。
そうしてもらえるのが嬉しくて……どこか淋しくて。
再び、彼女の膝に顔を埋めた。
「ゼロス……?本当にどうしたの?あんた…」
「……」
「まぁ、あんた相手に聞くだけ無駄かナ?じゅうしんかんさん」
そして再びゆっくりと青年の髪を撫で始めた。
青年は暫く気持ちよさそうにしていたが、やがてうっすらと紫電の瞳を覗かせ、ぽつりと言葉を漏らす。
「置いていかないでください……」
その言葉が届いたのか、届かなかったのか。少女は顔をしかめた。
「は?」
聞き返されるのと同時に、弾かれた様に身体を起こし、少女を観据える。
「貴女は、変化する。成長という名で……。そして、いつか貴女は……貴女が消えた時は…」
消えた時…その先は、言葉が続かない。
泣きそうな、それでも泣く事が出来なくてただ悲しみに打ち震える顔がそこにあった。
彼女は暫しきょとんとして、そして幼子をなだめるような口調で言葉を紡ぎ出す。
「……ばぁか。だからこんなに甘えたさんになったのね」
そして軽く笑い、優しい瞳そのままで言葉を零す。
「……辛いのは、置いていかれる方だけじゃないわ。置いていく方も辛いのよ」
それは貴方も知っているでしょう、と付け加えて。
彼女は瞬きの間だけ、哀しげな表情を見せた。
「でも、貴女には……貴女を失う僕の哀しみは、わからない……」
「……そうね。でも、だから……甘えられるうちに、甘えたいだけ、甘えればいいのよ」
軽く顎を上げ、天井を見て、更に…恐らく独り言であろう言葉を…呟く。
「未だ季節は色褪せていないのだから」
その、小さな呟きまでも、彼の耳には聴こえていた。
コトンと頭を彼女の肩に預ける。
闇色の髪がさらりと彼女の胸元まで流れた。
彼女は聖母じみた微笑で彼の頭を撫でる。
「…でも、貴方も。貴方を置いて逝かなければならない私の哀しみはわからない…」
白い指が、つかみどころのない髪を梳く。
「……ただわかるのは、終わりの事だけを考えていても何の解決にもならないということね…」
その時の瞳は、ただ前を見据え、力強く揺らめいていた。
「……ない」
―――― 失いたくない
その言葉は、栗色の髪に阻まれて、闇の中に虚しく消えた。



月の光が彼女を白く浮き出していた。
それがいっそう少女の儚さを際立たせていた。
血の気を失った顔。
頬に指を滑らせ、唇を撫でる。
「勝手に唇を奪ったりしたら…また、怒られるかもしれませんね」
クスリと笑うと顔の輪郭をなぞり、そのまま唇を重ねた。



「な…っ!!!…………っなぁーっ!!?」
奇妙な叫びをあげる少女。
首元まで赤い。
「どうしたんですか?」
目の前で、いつもより楽しそうに微笑んでみせる青年。
「あ。あああああ、あーんた、今何してくれたのよっ!!!!」
「え?香茶入れたの、悪かったですか?」
コトンと香茶を彼女の前に置き、不思議そうに問い返す。もちろん微笑みは絶やさぬまま。
「ちがうっ!!ちがーうっ!!!もっと前っ!!あ…あんたっひとの顔にっ…顔っ…近づけてっ…っ」
首元をつかまれ、ぶんぶんと振り回される。
しかし、彼はそれを負担に感じることなく、ああ、と呟き、爽やかに指を立てると、
「キスしました」
あくびれた様子もなく、軽やかに答えて見せる。更に、でも二十分も前のことですよ、と付け足した。やがて、いつのまにか首が振り回されていないのに気がついた彼が、少女を観ると、そこには、恐らく直視できないのだろう、俯いたまま体を震わせ激怒している彼女がいた。それが可笑しくて、あまりに可愛くて。
「チュ」
わざと音を発して、その日二度目のキスをした。
すると彼女は、混乱を極めながら叫びだした。
「ぜぇぇぇーろぉぉぉーすぅぅぅーっ!!」



優しく吹き上げる風。
それを全身で感じながらゆっくりと唇を離す。
「――――― 未来なんていらない…」
彼は、自身に出来得る限り優しく栗色の髪を撫で、額に口付けた。
「もう、未来(夢)は見ない ―――――」
……見れない……。



何時かは訪れる終わりの時。
その未来は果てしなく近くて、想いはそれに潰されそうだった。
だから。
「ずっと僕の側に居てくれませんか?」
驚く彼女。
紅の瞳の奥を探る様に観詰めると、彼女は耐え兼ねた様に紅色の瞳を伏せた。
「……ダメですか?」
俯いた少女の顔を追う様に覗きこむと、更にそれから逃れる様に顔を叛け、小さく呟いた。
「どうやって?」
「……」
――― わからない。
どうしたら貴女と一緒になれる?
どうしたら貴女は僕だけのものになってくれるのだろうか?
体も心も、貴女であるものは全て自分のものにしたいのに。
……共に…あの方の元へ…
言いかけて、口を噤む。
しかし、彼女には伝わったらしい。
重く溜息をつくと、顔を叛けたまま髪を掻き揚げる。
「そういうのは…あたしは嫌だからね」
きついともとれる口調で念を押す様に言葉を紡ぎ出す。
わかっている。
わかっていた。
彼女が、滅びを求めるはずが無いことくらい…。
でも、言わずにはいられなかった……?
無駄とわかっていて飛ぼうとする傷ついた鳥の様に。最後の望みとばかりに彼女に賭けたかった……?
ふと、自分は彼女に染まり過ぎたのかもしれないと、ぼんやり思う。
「未来なんていらない……」
白く小さな少女の手を両手で包み込み、視界を遮断する。
「ゼロス?」
「今が果てしなく続けばいい……」
すると彼女は不可解といわんばかりの声で聞き返してきた。
「今も、”今”が果てしなく続いていると思うんだけど?」
――― 違う。
僕が欲しいのは……
自分が欲しいのは……
本当に望んでいるのは……
「僕が欲しいのは……」

―――――― 貴女との幸せが永遠に続くこと

「―――…永遠」
でもそれは。
人であろうと魔族であろうと、生きているものには無理だから。
自然と、表情を悲痛なものにしてしまう。
「怖いだけの未来(予想)なら……」
僅かに眼を開くと、彼女も目を閉じて彼の声に聞きいっていた。それを見て、再び眼を閉じる。
「……愛しい過去(想い出)にだけ生きたい――――」
だから。
「だから」
氷の様に透き通った声に眼を開くと、そこにはこちらを見据える緋の瞳。
「私を過去にしたいの?」
「……」
再び黙り込んでしまった青年。その青年にむけて、少女は穏やかに言葉を紡いだ。
「永遠は、時を止めることではないわよ?」
……そう。時を止めることではない……けれど。
生と死が混在するこの世界に永遠は有り得ないから。
「あの御方の内にならば、永遠はあります……」
「……確証は?」
一瞬、青年は言葉に詰まった。否、詰まらざるを得なかった。
「”死”も”滅び”も、その先にあるものが何かなんて、本当に知ることはできないわ」
核心を突かれたからだろうか、彼は珍しく余裕の無い声で答えていた。
「でもっ、生が終われば、あの御方の元へと還るのは本当ですよ?」
「……。あんたは私と融けたいの?大勢と融けたいの?それとも……あの御方と融けたいの?」
「っ」
今度こそ彼は絶句した。
彼女は微動だにできないでいる彼の口元を一瞥すると、更に続けた。
「……あれは、世界そのもの。だから、融けるって言うのは変かもしれない。けど、あんたの話を聞いてると、あんたはあたしと自分の夢を重ね過ぎてる」
力強く、熱っぽくそこまで語ると、一呼吸置いて続ける。
「ゼロス。あんたは、私と生き方が違うのよ?」
その言葉を聴きながら、彼は、溢れる想いを堰き止める様に眼を瞑った。
ああ、どうして。
―――――― どうしてこの人はこんなにも強いのだろう。
叶わない夢など無いと思わせる程の。

―――――― 弱さを見せない強さ

握っていた手に握り返されて、眼を開くと、何故か彼女は僅かに頬を紅潮させていた。
「だいたいっ!!混沌なんかに堕ちちゃったら、あんたじゃないのとも一緒にならなきゃなんないのよっ!?」
今度は拗ねる様に顔を叛ける。栗色の髪がふわりと肩から滑り落ちた。
「そんなの……気持ち悪いじゃない……」
その言葉に思わず苦笑すると、何笑ってんのよっ、と髪を引っ張られる。
青年は、その質問に答えるために、彼女の柔らかな髪を耳に掛けてやり、耳元でそっと囁く。
「それはつまり…僕とだけなら、気持ちが良いと?」
「だあぁぁぁっ!!変な解釈をするんじゃないっ!!」
思いっきり後ずさりながら叫ぶ彼女。
青年は、ここぞとばかりに意地悪い笑みを零しながら更に問う。
「おや、貴女は”気持ちが良い”をどんな風に解釈したのですか?」
瞬く間に、真っ赤に染まりかえる少女の肌。
彼は、流れる様に二人の間を詰め、つと、手を伸ばす。
そして、心の底から楽しみながら、少女の華奢な身体をふうわりと包む。
「ご希望どおり、気持ち良くしてさしあげますよ?……リナさん」
怖がっているのだろうか。微かに震える彼女の肩が眼に入る。
それが愛しくて、抱きしめる腕に力を入れ、耳元に唇を這わせた。
「は……放せぇーっっ!!!ドラグスレイブっ!!」



くすくすくす…
楽しげに一人笑う。
やがて空を見上げて溜息をつく。
果てしなく黒に近い空。そして妖しい程美しく、しかし静かに光を放つ星と月。
一瞬、それら全ての景色が大きく揺らめいた。
「…もう、時間ですね…」
ゆっくりと眼を瞑り、そして再びゆっくりと眼を開く。
赤く染まった彼女の腹部に触れて、唇をかすかに動かす。
出血しているが致命傷ではない。
むしろ…
「お見事ですよ。リナさん…」
青ざめた彼女の顔を一瞥した後、ゆっくりと視線を自分の身体に向ける。
彼の身体は、左の肩口から右大腿骨のあたりまで、不自然に裂けていた。
闇が渦巻く自分の傷口に、自らの手を添え、なぞる。
手についていた血が、なぞった跡を残し、黒ずんでいく。
「種族の差…」
彼は感情の無い声で呟いた。
「そんなものは、どうでも良かったんです」
自分の傷口に付いた、自分のものではない血痕から眼が離せなかった。
「どうでも良かった……はずなのに…っ」
傷口を鷲掴みにする。唇を噛み、拳を握り、眼を瞑り。
苛立ちを。後悔を。怒りを。哀しみを。
身体中に満たし、痛みに変え、再び彼自身を襲わせた。
痛かった……二人の間を自分自信で否定していたから。
それが…それだけが、彼を苛み、ただ責めた。

彼女は人間―――
『永遠に想ったりしないから』
そう言って微笑った。
『好きよ。ゼロス』
そして照れくさそうに俯いた。

覚えてる 覚えている
一挙手 一投足
彼女がくれたものは
全て

溢れて 溢れて
止まらない
想いと記憶―――

先に囚われたのはどちらだろう?
何時の間にか抜け出せなくなっていた。
何時の間にか離れられなくなっていた。
何時の間にか、ずっと…を望むようになっていた。

彼は彼女の白い手に自らの震える手を重ねた。
泣いているのだろうか…。自分は。
そんな事を思いながら、呟く。
「僕は…貴女に躯さえ…残してあげられない……」
このまま闇に堕ちて、彼女はその事がわかるだろうか。
自分の墓は築かれるのだろうか。いや、恐らくは……
「もう…会えない…」
さわさわと緩やかな風だけが流れていく。
普段は見せない闇色の双眸で彼は。
必死に…ただ必死に、彼女の顔を観ていた。
この身が消滅してしまっても、混沌に堕ちてしまっても
彼女を覚えていたいから。
忘れたくないから。
忘れて欲しくないから。
ふと、自問する。
これは、してはならない恋だったのだろうか?
自分は不倖だったろうか…。
自分の運命は……。
「……」
ふと表情が和らぐ。
哀しい優しい表情を称えたまま、再び、自分が触れている彼女の手を、指を観た。
「せめて……指輪でも…贈れ…ば…良か…った…ですね…」
その細い白い指に唇を落とし、
苦痛に耐えた表情で、哀しげに……静かに微笑う。
「……リ…ナ………さ……」
黒い霞が舞い狂う。風に煽られて。
「……………っ…………」
そして風と共に溶ける存在。
何も無かった様に。
何も存在しなかった様に。
儚い夢だったかの様に。


Fin.

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10173はじめまして一坪 E-mail 5/25-03:54
記事番号10170へのコメント

投稿ありがとうございました!!

いやホントに素晴らしかったです!
文章もすごくキレイで。
うーーん、私に文章力があれば、もっとちゃんと感想を書くんですが。
言いたいことはたくさんあるんですが、まとまらないです。すみません。
とにかく感動しました!!


よかったら、また投稿してくださいね。

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10180ありがとうございます。m(_ _)mCAT&月虎 E-mail 5/26-00:38
記事番号10173へのコメント

初めまして。m(__)m読んで頂けて光栄です。
しかも、コメントも頂けて幸せですっ。ありがとうございます!
【…というか、一坪様は遠い御人♪って思っていたので、コメント見つけた時点で叫んで踊ってました。(^^;ありがとうございました。】
楽しんで頂けた様でとっても嬉しいですー!!

>よかったら、また投稿してくださいね。
【そんなこと言われると調子に乗ってしまいます〜。(^^;】
はいっ。是非是非また、投稿させて頂きたいと思います。
一坪様もギブス生活で不便なことが多いかと思いますが、無理せず養生して下さいませ。
【はい。風邪などの病気にもお気をつけて…ご自愛ください。(^-^)/】
本当にありがとうございました。m(__)m

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10174Re:はじめましてtsubame E-mail 5/25-12:21
記事番号10170へのコメント

 はじめまして、こんにちは。tsubameです。お話を読ませていただきました。

 すごいです!お上手です!ゼロスの想いが伝わってきます。うらやましいです。文章力がおありで…。私なんて、初投稿の時から今までも、文章力がないんで…。
表現の変な所も、ないと思いますよ。このきれいな文章が変でしたら、私が書いてるモノは矛盾しまくりですよ。

 短くて変な感想に、なってしまいました。すみません。これから、がんばって下さい。では、tsubameでした。

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10181Re:はじめましてCAT&月虎 E-mail 5/26-01:55
記事番号10174へのコメント

はじめまして。m(__)m読んでくださってありがとうございます!!!
【くー!tsubame様に読んで頂けてすごく幸せですー!!】
tsubame様の作品は、いつも楽しく読ませて頂いております。
【はい。フィブリゾ先生の時はハラハラしました。(^^;彼のことだから何かやりそうで。(笑)】
でも実際もあんな感じなんだろうなぁ…と笑いながら納得してしまうのは私だけじゃないでしょう。
【そして、できれば同じクラスにはいたくないなぁって思う方も…】
そんなことないよー。私はゼロス様の御側にいれるのなら、街中でナーガ先生の高笑いだってやりましょう!!
【おお…大きくでましたね(笑)でもそれくらいでゼロス様の御側にいけるわけないですよ】
…そうですね。とりあえずリナさん居ますしね。
【そうそう。それだけで爆発しますからね。。。って話は怖いので止めておいてですね。……tsubame様。読んでいただいた上にコメントまでくださってありがとうございます。m(__)m】
表現に変なところがないと聞いてひとまず安心いたしました。
【自分で読んでると、どこが読みにくいのかわからなくて。(^^;】
方言も気になってたし。文章は収拾つかないし。で、混乱してました。文章を書くのって難しいです…。
【本当に感想ありがとうございました。はい。これからもがんばりますっ!!】
tsubame様もがんばってくださいませ。作品、楽しみに待ってます。
でもまずは健康第一ですので。無理などしない様にしてください。(^-^)/
【でわ。本当にありがとうございました!m(__)m】

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10175はあ〜〜〜寿 5/25-15:43
記事番号10170へのコメント

今、読み終わりました。なんか、すっごく感動してます。
学校のパソコンで、読んでたんですけど、実は、あまりにも
良すぎて、な・・・、泣いちゃいました・・・・・。(恥)
私の求めてるゼロリナは、ここにあったのか!!!と、いう
感じです。まさか、ゼロスの方がいっちゃうなんて・・・。
あ、思い出したらすごい切なくなってきた・・・・。
と、とにかく素晴らしい小説に出会えて幸せです。
ありがとうございました。はあ〜〜〜(感無量)。

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10182Re:はあ〜〜〜CAT&月虎 E-mail 5/26-01:55
記事番号10175へのコメント

はじめまして。読んでくださってありがとうございますっ!m(__)m
【すごく嬉しいですー!!(^-^)/】

>今、読み終わりました。なんか、すっごく感動してます。
>学校のパソコンで、読んでたんですけど、実は、あまりにも
>良すぎて、な・・・、泣いちゃいました・・・・・。(恥)
>私の求めてるゼロリナは、ここにあったのか!!!と、いう
>感じです。
【な、なんかここまで言って頂けて、こっちが感動です!(*^^*ゞありがとうございます!!】
ほんとに。遅々として進まない文章に時間をかけたかいがありました。
【ほんと。書けば書くほど、書きたいことが増えてしまって、収拾が…。(^^;だいぶ削ったところがあって…残念、と思うところもあるのですが。】
ゼロス側から観た、我等のゼロリナ観をかなり凝縮したので、共感していただけると嬉しいです〜♪

>まさか、ゼロスの方がいっちゃうなんて・・・。
はい…。彼の方が…逝ってしまいました…。
【我等のゼロス君のイメージは儚いので。今の我等ではこうなってしまいました。(^^;】

>あ、思い出したらすごい切なくなってきた・・・・。
>と、とにかく素晴らしい小説に出会えて幸せです。
>ありがとうございました。はあ〜〜〜(感無量)。
本当に本当にありがとうございました!!
【ありがとうございました!!!m(__)m】