◆−Ave Caesar,nos morituri te salutamus〜ゼル〜−真人(7/1-16:16)No.10778
10778 | Ave Caesar,nos morituri te salutamus〜ゼル〜 | 真人 E-mail | 7/1-16:16 |
お久しぶりです。真人です。 前回から、またまた日にちがあいてしまいました。今回は本当は別の人の予定でしたが、先にゼルを出しちゃいます。もし少しでも読んでも良いぞという気持ちになってくださる人がいらっしゃれば幸いです。それでは。 ******* Ave Caesar,nos morituri te salutamus ゼルガディス:マキャベリストに乾杯 ---…どういう意味だっただろうか… あれから、随分と時間が経ち、もう完全なる過去に変わってしまっていた『現実』。 現在は、認識された時点で過去へと変わる。それから云えば、あの時空間は、既に『思い出』と呼んでも差し支えないほど前のことになった。 だが、記憶というものは時間に正比例して残っているものではないらしい。俺の中のあの過去は、俺の意思に関わらず、他のどんなものよりも、強烈な印象を持っている。 ……まあ、コトがコト、ということなのだろう。 そして、あいつの最後の言葉。 かつて、聞いたことがあったろうその言葉が、折にふれて記憶から浮かび上がる。 ---Ave Caesar,nos morituri te salutamus--- ***** ……この街に立ち寄ったのに、意味などなかった。前に、どこかで見たか、聞いたかしたのだろう。ふと見かけて、記憶の片隅にある名の街だったから、行ってみようという気になっただけだ。 セイルーンの一件以来、俺の世間での評価は逆転した。 あれほど忌み嫌われていたこの姿が、賞賛と羨望に変わる。人間の心ほど移ろいやすいものはないとは思っていても…全くおかしな気分だった。 だが、そのおかげで、情報を手に入れやすくなったことも確かだ。 魔道士協会や今までは立ち入ることもできなかった場所---今は、ほぼフリーパスで、行き来できる。『この身を人間に戻すてだてを探す術』、それにたいする門戸はかなり開かれた。 ……まあ……それでも、俺を元に戻す方法を見つけられたわけじゃあないが…… それは、その街に居ついて、三日目のことだった。 俺が宿で飯を食っていると、衛兵が二人やってきて、城の方へ来いと言う。 それ自体は別に、珍しいことではない。旅の途中で寄る様々な国で、言われるものだ。 正直、俺はこれが嫌でしょうがなかった。衣食住の心配はないが、大抵は、客寄せパンダ宜しく、国の宣伝に使われたり、政治的に利用されたりを強制される。 それに−−−あの戦いのことを何とかして聞き出そうとするのだ。 ……第二次降魔戦争−−− 俺への評価が逆転する理由となった戦い。 だが−−−−−− あれについて、何かを語りたいとは思わない。 ………誰も、語ってない…… あの時、俺達の役割は道化だった。 リナの奴と、…そして、もしかするとゼロスが一枚噛んでいるかもしれん。 あいつらの掌で踊る道化。 何を考えていたのかは、今となってはもう分からないが−−− 俺は申し出を断った。その足で、街を後にした。 ***** 「お待ち下さい」 街を後にしてすぐだった。先ほど俺を尋ねてきた兵士が馬に乗って追ってくる。 はじめは取り合わないつもりだった。追っ手が来たと知って、俺の足は速まったほどだ。しかし、必死に追いついたその男から聞いた話は、俺の決心を覆すには十分なものだった。 ……出典の定かでない魔道書があるという。それが、取るに足らない物なら何の問題も無い。 だが、それにプロテクトがかかっていて、誰もとく事が出来ないというなら話しは別だ。 そして、何より−−− 「小さな紙がはさまっており、それに『ゼルへ』と書いてありました」 神官が雁首揃えても解けないプロテクト−−− ……俺が知る限り、そんな芸当ができるだろう人間は、一人しか知らない。 俺のことを『ゼル』と呼んだ女だ。 興味を持ったのは、そういう理由からだった。 ***** 兵に案内されたのは、協会の奥だった。 そこには、純白の神官服を纏った女が、静かに俺を待っていた。 「ようこそ、ゼルガディス様」 低いが、よく通る声で、彼女はそう言った。 「私は、ここの神官長を務めるヴェリティ=ラーダ。本日、貴方様においで頂いたのは、 これを御覧になって頂きたかったからですの」 街と同じ名前の神官長は、そう言うと、俺に一冊の書を手渡した。 …それは、それほど古い物ではなかった。どちらかといえば最近のものだ。俺は、ぱらぱらと頁を繰り−−−だが、そこには何も書かれていなかった。 余程強力なプロテクトがかかっているのだろう。 「…悪いが、少し調べたい」 俺の言葉に、神官長は快く一室を提供してくれた。 そして、気が利く事に、部屋には上等の酒が置いてあった。 酒を片手に、改めて書を開く。小さな紙切れが、はらりと床に落ちた。 書かれていた文字−−−『ゼルへ』−−−良く知ってる字だった。 ………良く知ってる、言葉、だった……… ***** …あれは何時の事だっただろうか。俺は相変わらず一人で旅をしていた。 その頃、魔族があちこちで出没して、俺も何体か倒したことを覚えている。 何かが起こってる…… 誰もが感じただろう思いも、俺もまた持っていた。 だから、『奴ら』を見つける事にした。 『奴ら』を見つける事は、そう難しくは無かった。 一番魔族がいる所、あるいは、一番騒動がある所。そこに居るだろう。 それは紛れも無い確信だった。 噂を頼りにうろつくと、案の定出くわした。 「お久し振り。ゼル」 あいつ−−−リナは俺に向かっていつもの挨拶をした。後ろにはガウリイの旦那。 そして、奴らが倒した盗賊やらの累々。 久し振りな筈なのに、ちっとも変わっていなかった。……そう思った。 だが、それは間違いだった。道中、リナの様子がおかしいのに気が付いた。具体的にどう、といわれれば、答えられないが。 「……降魔戦争の再来よ」 理由を問う俺に、リナは暫し口篭もった後、そう続けた。 「尤も、今回は『人間』に的を絞ってるんでしょうけど…」 「どういうことだ?」 「つまり、よ。今までは餌に過ぎなかった人間が、やりようによっては高位魔族すら滅ぼす事が出来る……奴らにとっては、耐え難い屈辱でしょう?」 「……だから、潰す、か?ちょっと短絡的じゃあないか?」 俺の言葉に、リナは肩をすくめた。 「けど、やつらにとっては、その程度でしょ?あたし達の存在なんて」 「……なるほど」 確かに。俺は苦笑しながら頷いた。 「だが、だとすると、黒幕は一体どいつなんだ?」 「…出くわした魔族があの程度だから、魔王からの話しじゃあないと思うけど…」 憂鬱そうにため息をつく。 「あたしが知ってる限り、こーんなまどろっこしい計画を実行するのなんて、二人(?)ぐらいしか思いつかないのよね。そのうち片方は滅んじゃったし…」 眉間に力が入るのを感じた。もう片方は、言われなくても分かった。黒いおかっぱの神官だ。 俺達は再び顔を合わせ…その時、リナのマントを引っ張る手が見えた。振り向くと、何やら言いたげな顔でガウリイの奴が彼女を見てる。 「…あー…つまり、よ」 頬をぽりぽりと掻きながら、リナは言葉を探した。こんなこと、旦那と一緒にいれば日常茶飯事だ。 「魔族が暴れ出しそうだから、何とかしなきゃってことよ」 「何だ。それならそうと言ってくれれば良いのに!」 俺達は、セイルーンへ向かった。あそこにはアメリアがいるし、何より、魔族がセイルーンを集中攻撃しているという噂を耳にしたからだった。 道中、様々な仲間を集めながら。 竜族や妖精族も、何度か強大な『気』を感じたと言う。リナは同じ話しを繰り返した。 「まあ、このままにしとくわけにはいかないわね………」 −−−誰も、リナの奴を疑うことなどしなかった…… ***** プロテクトは、かなり高度な魔法によって施されていた。……あいつがかけたのだから、当然といえば当然だが… 俺は一通りの解呪を唱え、しかし、それはびくともしなかった。 だが−−− 俺は、諦めるわけにはいかなかった。 ***** 降魔戦争が終わり、……リナは戻って来なかった。 ……ゼロスも、最後まで見なかった。セイルーンには、確かに厄介ではあったが、それほど大した連中が出てきた訳でもない。 リナの奴に騙された−−−気付いたのは、全てが終わった後だった。 だが、何のためにそうしたのか、俺達にはさっぱり分からなかった。 分かっている事は……降魔戦争というのは、恐らくリナが考えた作り事だ。 ゼロスがリナを操っていたのか。 それとも、全てはリナの手の内で、ゼロスが黒幕というのだってでっち上げかもしれん。 リナの台詞以外で、ゼロスの奴を見たのは誰も居ないからだ。 どちらにせよ、リナが俺達を謀っていた事に代わりは無い。 そのことを知って−−−だが、俺達の反応は揃わなかった。 俺は怒り、シルフィールやフィリアは悲しんだ。 そして、ガウリイやアメリアは…変わらなかった。 「先に行ったんだろ」 旦那はそう言い、セイルーンを後にした。 「きっと、帰ってきます。リナさんは……リナさんです!」 力拳を作って笑ったお姫様は、そのまま国の復興にその有り余るエネルギーを傾けた。 泣いていた女達もそれぞれ自分の居場所へと帰って行った。 −−−そして、俺は…… 俺だけが変わらないまま、当てもない旅へと足を向けた。 この怒りが、矜持を傷つけられてか、それともあいつが居なくなったことに対するものかの判断すらつかないまま…… 居る時もそうであったあいつに関する噂は、居なくなったことで、更に胡乱なものに成り果てた。 世間では「デモン=スレイヤー リナ=インバース」の名は高まったが、それに反比例して耳に入る噂に信憑性は無くなった。 −−−リナの存在自体があやふやになるほど。 だが、これは−−− この魔道書は・……… ***** 調べて三日が過ぎた。しかし、全く進まない。 パスワードさえ唱えれば解けるくらいは分かるが、問題はそのパスワードにある。 知る限りの内容、全てを試してみたが、それは一向に解けはしなかった。 俺は気分転換に夜の街の中をぶらつく事にした。 未だ宵の口だと言うのに、街の中は静かだった。ひと一人歩いていない。 全く俺にとっては都合が良い街だった。神官達も、俺の好きなようにさせてくれる。 こんな気分は久し振りだった。まるで、あいつらと旅をしていた頃のようだ。自分の姿を気にしないでいられる…… 「真実、か…」 −−−……って街……よ……−−− 蒼く輝く半月を見上げて呟くと、不意に記憶の片隅に住んでいる声が耳にこだました。 俺は振り返った。無論、そこには誰も居ない。 −−−…真実って意味なの−−− 声は、益々はっきりして、俺の頭に響いた。 それが幻聴だと言うことは分かっていた。 忘れられない声。 だが、もう居ない筈の声。 そして、俺は、何故ここに来たのか……その理由を思い出した。 ***** セイルーンへ行く旅をしている、最中だった。 偶然この近くを通りかかったのだ。 それは、今思えば、はじめからそう仕組まれたことだったのかもしれない。 あの時、俺達は野宿をした。 いつもなら「野宿なんてやだ!」と言って暴れ出すリナが、珍しく、文句を言わなかった。 青く輝く半月が浮かぶ、美しい夜だった。俺達は、交代で見張りをすることにした。 俺がの次に、リナ見張りをすることになっていて、リナが、時間より早く来たのだ。火を囲んで、二人で話していた。 「名前って、一番簡単で、強力な呪文よね」 あつは言った。 「名前が?」 「そう…。例えば、あたしはあたしだけど『リナ=インバース』の呪をかけることによりあたしは『リナ=インバース』となる」 「なるほど」 俺は頷いた。 「自分という個の中で、更に名前を付ける事でその個をより限定させるってわけか。…檻みたいなもんだな」 俺の言葉に、あいつがまあね、と笑う。 「でも、そんなに悪いもんでもないわよ。区別するってことは、それを特別にするということでもあるし……なにより、あたしはこの『リナ=インバース』が気にってるわ」 いつでも生を謳歌する少女。俺の苦笑を知ってか知らずか、あいつは更に続けた。 「この先にある、小さな街にも、あたしの名が重要になって見せるわよ」 「悪評でか?」 「……喧嘩なら買うわよ?」 「そんなつもりはないがな」 「…ふっ。まあいいわ。リナちゃんは、この位のことでとやかく言うほど心はせまくないわよ。とにかく、ゼルに困ったことがあった時、名前を呼べば助けてあげるわよ。一生お昼ご飯を奢るくらいで許してあげるわ」 「誰が呼ぶか!」 「……まあ、冗談はともかく」 「……本当に、冗談か……?」 「あの街には、掘り出し物の魔道書があるってえ話しだから、もし時間があれば、寄ってみるのもわるくはないんじゃない?もしかしたら、なんかてがかりがあるかもよ」 その言葉に、漸く俺の興味は動いた。 「なんて街なんだ?」 「ヴェリティって名の街よ」 月の光を浴びているせいか、リナの姿が金色がかって見えた。彼女は光の中で、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。 「古い国の言葉でね、真実って意味なの……」 ……何かが、ひっかかった…… ---Ave Caesar,nos morituri te salutamus ---名前……呪文 ---真実 あいつが残した幾つかの言葉が、まるで呪文のように俺を縛り付ける。 そして−−− 「もしかして…っ!」 俺は、あることに思い当たった。 ***** 再び部屋に戻り、あの魔道書と向き合ったのは、月がまだ高い位置にいる頃だった。 蒼白い光が窓から指し込み、皮の表紙を照らしている。 リナは言った。ここに、掘り出し物の魔道書があると。だが、それは本当ではなかった。 神官長の話しを聞くまでも無く分かる。ここに、それほど大した物は無い。 ……これを除いては…… だから、あいつは、嘘をついてまで俺をここに来させ、この書を見つけさせたかったと言うことになる。この、誰にも解けないようなプロテクトをかけてる書を。 そして、あいつの言葉。 俺は、カオス・ワーズを紡いだ。 『リナ=インバース……』 きぃん。 済んだ音が弾け、そして、真っ白だった紙に、次第に文字が浮かんできた。 ゆっくりと、だが、確実に。 そこに書かれているものは、合成獣等の作成方法だった。俺が今まで見てきたどんなものよりも、それは詳しかった。 それから何日かの間、俺はそれを貪る様に読んだ。 そして、その最後に……あいつの言葉があった。 『ね?言ったとおりでしょ? これが、あたしが知っている限りの知識よ。役に立つと思うわ。 でも、あたしは、そのままのゼルも、けっこういいって、思うんだけど、ね』 確かにそうだった。あいつは言ったんだ。この街に自分の名前が重大なものにならせて見せると。そして、名前を呼べば助けてやると…… そして、同時に思い出した。あいつの最後の言葉。Ave Caesar,nos morituri te salutamusの意味を。 「結局、俺達はお前さんの掌で、ずっと踊っていたわけだな」 だが、それをそれほど悔しいとは思わなくなっていた。それどころか、見事だったと誉めてやりたいくらいだ。笑いが止まらない。 リナが何をやろうとしていたかは知らない。だが、はじめから決心していたんだ。 独りで行くことを。 あいつは気性が激しいし、周りもあいつを放っておかない。だから、自分の態度がおかしいと言うことを問い詰められることは時間の問題だと知っていた。それで、『降魔戦争』を思いついたのだろう。他人事でなくなれば、あいつの態度が多少おかしかろうが誰も気にしない。それすら、魔族との戦い故のことだと思われるからだ。 そうして、自分の思惑を最後まで誰にも気付かせずに、あいつはあいつの決めた道をすすんだのだ。 「…ほんと、最後まで我侭で、勝手な奴……」 俺は、グラスを取り出して、ワインを注いだ。それを床に置く。 「おまえさんの悪巧みの成功を祝して」 グラスに向かって、瓶を掲げ、そうして、一気に飲み干した。 |