◆−ドナウの灯火−CANARU(8/8-01:52)No.11355
 ┗このオチは読めんかった!−P.I(8/10-01:28)No.11387
  ┗書いてるうちに・・(汗)−CANARU(8/10-09:51)No.11392


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11355ドナウの灯火CANARU 8/8-01:52


「勝った・・のか・・・?」
ブダの町並みに狼煙が掲げられる。
しかし・・こんな夜中の事である。その事実に気付くものはこんな
程度の狼煙では気付くものすら少ないだろう。
更に・・・・・・。
ドナウを挟んだペストの町にまでこの灯火が見えるとは決して限らないのだ。
新生したばかりの小国・・・・・・。
ハンガリーと蛮族との戦闘は終わりを告げた。
「ガウリイ殿」
まだまだ幼さを残した初代国王、イシュトヴァーンがガウリイに声を
かける。
西暦1000年。
これまでヨーロッパの各地を略奪などと言った盗賊行為で生計を
立てていたマジャール民族・・・(実はかの「フン族」の事)を統一し
『ハンガリー』王国を建国したのは彼なのだった・・・。
「国王様・・・・・・・。」
騎兵団の一人、ガウリイは恭しく幼い王に跪こうとするが・・・。
「良いよ。別に。そんな事はしなくって・・。それよりも君に一つ
お願い事があるんだ・・・。」
今までの戦場でも年齢に不相応な様子は今や消え去っている少年は
笑いながら年長の騎士にお願いをする。
そんな変化に苦笑しながらガウリイは・・・。
「なんでしょう・・・?」
そう尋ねる。
「今回の戦勝を・・・・。ドナウを渡って僕の姉上に伝えて欲しいんだ・・。
姉上はドナウを挟んだペストの宮殿にいる・・・。」
「分かりました・・・・・。」
どうやら・・・。
面倒な事後処理はしなくて済む事になりそうである。


「凍っている。凍ってない・・。凍ってる・・・。」
山の中の小さな村・・それを見下ろす石造りの立派ながら小規模な城。
イライラしながら外を眺め・・・。
何も変化の無いドナウに苛立った眼差しをリナは向ける。
「本当・・・。腹立たしいわ・・・。」
そう言いながらティンバロン(ピアノの祖先)を取りだし乱暴に引き出す。
もともとジプシーの血が混じっているマジャールの人間の一人であるリナ
はやはり音楽の名手であった・・・。
もっとも・・・・・・。
「あの子」には決して敵わないけれども・・・・・・。
伝統的な曲を弾きながら再度外を眺める・・・・・・・。
「駄目・・・・。凍ってないわ・・・・・・。」
秋の紅葉のみがただただ虚しく水面に漂うドナウ。
更にその情景がリナの溜息をさそう・・・・・。


どれくらい長い間歩き回っただろう・・・・・。
一人。戦勝をイシュトヴァーンの姉に伝えるべく歩いていて。
もうすぐドナウ河の川岸に到着する。
そうすればペストの町までは大河を船で渡ってすぎである。
その宮殿で・・国王の姉に全てを告げれば完成なのだ・・・・。
ガウリイが任務完成を既に思い浮かべて安心しているその時だった。
「・・・・・ティンバロンの音・・・?」
不意に聞こえる見事なまでに美しい音が聞こえる。
だが・・それもやがて鳴り止んだ。
「河はまだ凍り付いてないわよ。」
音楽が鳴り止むと同じに・・川岸の小さな城の2階の窓から
誰かがガウリイに声をかけてくる。
「・・・・凍ったらブダの町にはいけないな・・・。」
「そうね。行けない。」
ガウリイが何気なく言ったその言葉にその人物・・・・。
王族の一人であろう少女は皮肉っぽく答える。
「ブダには居たくないの。狭苦しくて・・。苦しくて・・・。
壮麗かもしれないけど黄金ばっかりの虚構の場所。川が凍れば帰らなくて
すむもの・・・・。」
相変わらず皮肉っぽく言うその瞳に少年王に似た光が生じる。
凍て付くような冬の風。
早く全てを凍らせてくれないものか・・・・・・・・?
我侭、と言われれば単に我侭なだけかもしれないが。
「アタシはリナ。貴方は?」
見た所・・弟・・イシュトヴァーンの部隊の所属の騎士であろう金髪の
青年を見遣りながらリナは言う。
「俺?俺はガウリイ。伝令の使命があるんだ。ペストの宮殿
に居る姫君に。戦勝の報告をしに行かなければならないしな・・・・。」
こんな光景を見せられたら・・・。
どことなく使命とはいえ行く気分が無くなってしまうのだが・・・。
「戦勝?戦勝したと言うの?」
不意にリナの瞳に色が煌く。
更に・・・イシュトヴァーンに似ているな・・・。
そんな考えを起こし、ガウリイは思わず苦笑する。
このリナには在る意味「女王」のような素質があるのか・・・。
はたまた家臣が君主を慕うのと・・・・。
違う意味ながらやはり同じようにこの王族の少女を慕ってしまって
いるのか。
分からない所がまるっきりのミソ・・である。
「狼煙は?」
「見えなかったわ。ずっと河を見ていたもの。それに・・・。
船の松明を見ていたの。凍ってないかな・・ってね・・・。」
ずっと・・遥か向こう岸に視線をやりながらリナは呟く。
ドナウの真珠・・・・・・。
そんな愛称すら似つかわしいように思えてならない様子。
「・・・・・そうだな・・・。まだまだ凍らないな・・・。」
とてもリナは氷を待っている様には思えない。
むしろ・・・燃える狼煙、更にはこのドナウを行き交う船のたいまつの
炎のほうがよっぽども相応しいように思えた。
「もう黄昏時ね。空も・・薄いスミレ色だわ。古ぼけた城だけど・・。
王族のよしみでご招待したいわ。ガウリイ卿。ここに知らない人が
来るのは1ヶ月振りなの。」
そう言ってリナは始めてにっこりと笑った。

「立派な剣だな・・・・。」
招待された一室に堂々と飾ってある美しい一振りの剣。
まじまじとその細工を眺めながらガウリイはリナに告げる。
「でしょ。まあ・・・場合によっては・・遣おうと思っていたんだけど。」
かなりの苦笑を漏らしながらリナはガウリイに返答する。
「『遣う』って・・・・・・?」
「さあ〜♪」
すらっとぼけた口調でリナ。
どうも先ほどから不審な点がこの娘には絶えない。
「リナ・・お前は一体・・・・・・・・。」
『何を隠している』・・・・・・・・・・・・。
そうガウリイが言い終わらないうちにその出来事は起こった。


ばたあああああああああああああああああああああああんんんんん!!
「姫様!!大変です・・・・・・。」
「・・・・・・。迂闊だったわね・・・・。」
ドナウ河を埋め尽くす松明が窓から確認できる。
「どう言う事だ・・・・?」
落ちついている様には見えるがリナの心中が尋常では無い事は
なんとなく伝わってくる。
「追っ手よ」
そう、告げられる。
コレ以上詮索した所で無駄な時間を費やすだけ・・である。
「何処か・・・逃げる場所は無いのか・・?」
これだけ囲まれていたら流石に無理な感じがしないでも無いのだが。
「そうね・・・・・・・・・。面白い場所が在るわ!!」
不意にリナの瞳に悪戯っぽい色が混じる。
が、ガウリイは「ソレ」に「気付く」事は無かった。


「へえ〜〜〜・・・。こんなモンがあるとはね・・・。」
石造りの宮殿の地下室だろうか?
巨大なラビリンス・・・と言った所だろうか?
延々と迷宮が広がって人を捲くにはもってのこい・・の環境である。
「ローマ時代の地下処刑場よ。絞首刑・・だったかしら・・あれ・・?
斬首だった・・かしらねえ・・・?」
「・・・頼むから・・本気で悩まないでくれ・・。そんな事で・・。」
それこそリナに本気で懇願しながらガウリイが呟く。
「そね。どっちにしてもローマの極刑は・・・」
「言うな!!頼むから!!」
「今じゃビール貯蔵庫として使ってるわ・・・。」
話題がそれたことに少々安心しながらもガウリイは。
「普通・・ワインだろ・・・???」
「・・・良いのよ。ワイン、草っぽいから嫌い。ビールの方が美味いし。」
今にもこの状況下、樽の蓋をひねってビールを飲み出しそうなリナに・・。
「太るぞ・・・・・・・・・・。」
と言ってやるガウリイ。
「・・・・ワインはアルコール分が高いし、悪酔いするからコレでいいの!」
はあ・・・・・・・・。
もはや・・言葉を返す気力も無い・・・。
しかし・・これはこれで結構楽しいのだが。


ガサゴソガサゴソガサゴサ!!!!!!
迷宮の中、誰も居ないはずなのに・・・・・・・・。
急に聞こえた物音にガウリイは思わず剣を抜きかける。
「追っ手か・・・?」
「違う・・・・・・・。」
いかにも・・(追われているというのにかなりの余裕・・である・・。)
眠たそうな声でリナはそう答えた・・・。
チチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチ〜♪
舌を鳴らしながらその物音に向かってリナは呼びかける。
それと同時に・・である・・・。
「うわぎゃああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「珍しいアフリカの蛙。可愛いでしょ?」
「捨てろ〜〜!!ついでに言えばこ〜んなダンジョンみたいな所で
両生類を飼うな〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
「何よ・・。折角ハエとか・・アタシの嫌いなナメクジ食べてくれるのに」
半泣きしたフリをしながらリナはガウリイに抗議する。
「あのなあ〜〜〜・・。お前・・第一なんで追われてるんだよ。」
先ほどは聞いても無駄・・と思っていた事柄を遭えてリナに聞いて見る
事をガウリイは決意する。
「・・・・それは・・・・・・・・・。」
不意にリナが口篭もった・・その時である・・・。



「見つけたぞ!!」
「こっちだ!!」
不意に複数の松明が此方をめがけてやってくる!!
「馬鹿!!酸素が薄いところで火をたくなんて!!信じられない!!」
追ってくる後ろの火に目掛けて見当違いな文句を言うリナ。
「馬鹿!!論点が違うだろ!!」
そんな彼女にガウリイは注意しながら手を引き、その場から少しでも
遠くへ逃げ去ろうと試みる。
「あのねえ!!貴方が蛙のイゾルデを見てビックリして大声あげたせいでしょう!!」
「・・・そうなのか・・・って!!両生類に名前をつけるな(怒)!!」
そんなこんなしている間にも迷宮の出口の明かりが二人の眼下に広がってくる。


「残念ね・・・・・・。」
真っ赤な炎に埋め尽くされた・・ドナウが見える。
「・・・・姫を此方に渡していただきましょうか?騎士殿?」
恭しく追っての一人がガウリイに尋ねる。
「そ〜は・・いかんな・・・・。」
何故なのかは・・自分でもわからない。
やおら迷宮にリナの手を引きながら背を向け、ダッシュで馬を駆るガウリイ!
「さすがね・・・・・。」
もともとマジャールは遊牧民族である。
その血を引くガウリイには2頭の馬に片足ずつをかけ、同時に操る・・
などと言った芸当は朝飯前の事だった。
多勢に無勢でありながらもこの脅しはかなり強烈だったらしい。
一瞬ながら追っての手が緩まる。
その隙を見計らい・・ガウリイが剣を抜きかけたその時だった・・。


「こんな所で何遊んでるの!!ガウリイ殿!!それに姉上!!」
不意に聞きなれた声が風に乗って耳に届き・・・。
あまりにも唐突な・・その「人物」の登場に・・・。
どんがらがしゃああああああああああああああああああんんんん!!!
マトモに2頭の馬からガウリイは転げ落ちた・・・・。

「姉上!!ま〜〜〜った家庭教師の皆さんから逃げていたんですか!!」
ガウリイの事と姉の事が気になって・・・。
事後処理を強引に早めに打ち切ったイシュトヴァーンが気まぐれに
立ち寄った王家所有のこの城で・・・・・・。
「また、じゃないわよ!!1ヶ月振りよ!」
「1ヶ月のブランクで威張らないでください!確かに前の3週間に
比べたら・・ブツブツ・・。けれどもペストの宮殿からの脱走を考えれば!
結局の所プラマイ・ゼロです!!」
プンスカ怒りながら姉であるリナに怒るイシュトヴァーン。
「成るほど・・・。それで・・。『河が凍れば帰らないで済む。勉強しなくって
済む』か・・・・・。」:
ボリボリと頭を掻きながら呆れた様にガウリイ。
まあ・・リナの気持ちがわからないでも無いのだが・・・・・。
「まあ・・そんな所・・・・。」
ガウリイの視線を避ける様にリナは石のベンチの下に握り締めていた
剣を隠す・・・・。
多分彼女は・・弟が心配だったのだろう。
最悪の場合、この弟のタメに剣を抜く覚悟くらいあったはずである。
「リナ・・・・・。」
「何よ・・・・・・・・。」
呼びかけるガウリイに尚も不機嫌そうにリナは答える。
「俺も今からペストに強制送還だが・・。ま〜た一緒に馬に乗らないか?」
「・・・・落とさない・・って約束するなら・・。考えておくわ。」
苦笑は・・肯定とみて良いかもしれない・・。
かくして・・・・・。
ガウリイには戦争に代わり、『お転婆娘のお守り』という新たな
任務が生じたのだった・・・。


(お終い)



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11387このオチは読めんかった!P.I E-mail 8/10-01:28
記事番号11355へのコメント

CANARUさん、こんばんは!
8/8,9と東京見物に行って来ました〜♪(あくまでも観光。某イベント
のためではありません、念のため・笑)
一日8時間も歩き通したエリザベートの偉大さが身にしみる〜。あ〜足が
痛い・・・(涙)
と言ってるうちにお話が2つも!!早速読ませていただきましたわ〜(はぁと)
リナお姫様・・・戦勝国の姫君で、ダンジョン付きのお城に住んでて、
川を見つめてなにやら物憂げな風情で・・・それでこのオチかいっっ!!!
ほだされたガウリイが曲乗りまで披露してくれたというのに〜〜〜!(泣)
イシュトヴァーンくん、さぞかし苦労してたんだねぇ。お目付役をガウリイに
代わってもらえて実は大喜びしてるんじゃないかな?
・・・いや、やっぱり一番喜んでるのはガウリイか(笑)
 「ガウリイ卿、姉上を頼んだぞ!」
 「お任せ下さい!リナ姫の人生にはオレが責任を持ちます!」
 「・・・・いや・・・何もそこまで・・・(汗)」
なんて(^0^)

さてさて、それでは次のお話も読ませていただきますね〜♪



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11392書いてるうちに・・(汗)CANARU 8/10-09:51
記事番号11387へのコメント

>CANARUさん、こんばんは!
>8/8,9と東京見物に行って来ました〜♪(あくまでも観光。某イベント
>のためではありません、念のため・笑)
はいなあ〜♪
アタシも最近運動不足で・・・。
犬の散歩するだけでかな〜り体力低下していますうう・・・。
>一日8時間も歩き通したエリザベートの偉大さが身にしみる〜。あ〜足が
>痛い・・・(涙)
ですねえ・・・・・。
サンダルのせいにしている自分が・・憎い・・(苦笑)
>と言ってるうちにお話が2つも!!早速読ませていただきましたわ〜(はぁと)
>リナお姫様・・・戦勝国の姫君で、ダンジョン付きのお城に住んでて、
>川を見つめてなにやら物憂げな風情で・・・それでこのオチかいっっ!!!
はいいい!!
書いているうちにナンだかこ〜なってしまいました!!
最初はシリアスだったのに・・・。
頭が回転してないときに書く話は恐ろしいです!!
>ほだされたガウリイが曲乗りまで披露してくれたというのに〜〜〜!(泣)
はううう!!
見事にお姫様の思惑通り!!?
>イシュトヴァーンくん、さぞかし苦労してたんだねぇ。お目付役をガウリイに
>代わってもらえて実は大喜びしてるんじゃないかな?
ありえますうう!!
「ああ・・あのおてんば姉上から開放される!!」とか?
>・・・いや、やっぱり一番喜んでるのはガウリイか(笑)
> 「ガウリイ卿、姉上を頼んだぞ!」
> 「お任せ下さい!リナ姫の人生にはオレが責任を持ちます!」
> 「・・・・いや・・・何もそこまで・・・(汗)」
>なんて(^0^)
はううう!!
しっかり責任そこまで持っちゃってますね〜♪
>さてさて、それでは次のお話も読ませていただきますね〜♪
ありがとうですうう!!