◆−お久しぶりでゼロリナです−紅葉(8/15-03:49)No.11456


トップに戻る
11456お久しぶりでゼロリナです紅葉 E-mail 8/15-03:49


久しぶりに投稿させて頂きます紅葉でございます。
昔(「10252」の記事にて)「にゃんこ物語り」と、「カウント」というゼロリナを投稿させて頂きました。
今回何故久々に投稿する事になったかと言えば、いつも紅葉が自分のHPで発表させて頂いております小説はシリーズ物なので、単品でこちらにUPさせるわけにはいかないのですが、今回は単品でも話が通じる内容(だと思う…)だからです。
今回も本当はシリーズ物のうちの一つなのですが…前作は人様のHPに差し上げたものですのでこちらに載せて頂く訳にはいきません。ストーリーとしては前作をまったく知らなくても支障は無いように作り上げたつもりです。とはいえ読んだ後で読者様方に不満が残ってしまう可能性もありますので、「それでも良いわ」と思われる寛容なお方だけお読み下さいませ。
それでは…ゼロリナ現代パラレル物ですが……少しでも楽しんでいただければ光栄です。


******************************************
                   〜〜 最愛姫君 〜〜



「ゼロスーーー♪ 次はあれ乗ろあれ!!!!」
 リナさんが満面の笑みを浮かべて振りかえる。彼女はいつでも元気で可愛らしいが、今日はいつにもまして可愛らしく、そして何より楽しそうに笑っている。そんなリナさんを見ていると、つくづくここに…「ワンダーランド」に連れて来て良かったと思ってしまう。
 リナさんは僕と8つ違いだが、世間で言う所の「彼氏」「彼女」の関係だ。だがこの関係になるまでは、年齢の差の問題やその他諸々の問題が邪魔をして、かなり回り道をしてしまった。
 つい最近まで僕とリナさんは、家が隣同士の親しい友人、もしくは兄と妹のような関係だった。
 本当は自分の気持ちに嘘を付いている事を、嫌と言うほど自覚していた。
 インバース家が隣に越して来た頃、リナさんは二歳かそこらで、まだほんの赤ん坊だった。弟妹の欲しかった僕は夢中になってリナさんを可愛がったものだ。だが子供の成長というものは驚くほどに早い。
 小さくて柔らかくてぷくぷくとした可愛い赤ん坊は、あっという間に元気にはしゃぎ回る女の子になり、いつも僕の後をついてまわっては悪戯をしでかすお転婆娘へと成長した。結局後始末をしたり、迷惑をかけてしまった人に謝ったりするのは僕だったのだが、うっとおしいとか、わずらわしいと思ったことは1度もなかった。それは、彼女が僕だけに責任を押しつけようとせず、彼女なりに自分のした事の後始末を手伝おうとする態度が可愛らしかったということもあるし、何より僕は彼女を溺愛していたのだ。
 そう、僕はリナさんを溺愛していた。周囲の誰もがそれを知っていた。
 姉しか居なかった僕に、突然出来た妹のような存在。僕はリナさんが可愛くて仕方なかった。それは途中までは確かに妹への愛情だったのだと思う。
 いったい、何時からだったのだろう。彼女を見るたびに、妹に対するのとはまったく違う気持ちを自覚させられるようになったのは。
 お転婆で悪戯っ子で甘えん坊だった女の子は、見る見るうちにスラリとした容姿の、誰もが振り返らずに居られないほどの美少女に成長してしまった。幼い頃から僕に懐いていた彼女は、何か悩み事があると大抵僕の所に来て相談していた。可愛らしい少女へと成長を遂げてしまったリナさんに恋心を抱く、同じ年頃の少年が存在しない筈が無くて、しかもリナさんの可愛らしさの故にそれはまた半端な数ではなかった。リナさんはその手の輩を適当にあしらえるタイプではなかったから、いつも困りきった顔で僕のところに相談に来た。そして僕はいつも適切な、最善と思える方法をアドバイスした。
 彼女が「どうしたらいいか?」という相談を持ちかけて来たのなら、僕だってあんなに度々は聞いてあげなかったかもしれない。でも彼女はいつも「どうやって断ったら良いか」ということで頭を悩ませていた。気が強い割に優しい彼女は、相手の気持ちを酷く傷つけるような方法で断りを入れる事を好まなかった。しつこすぎる男には手段を選ばなかったが、普通に告白してくる相手には、それなりの礼儀を守って断っていた。
 どんなタイプに迫られても、彼女はいつでも断っていた。だからこそ僕も相談を受けていたのだが、それでも内心は気が気ではなかった。
 今は断っているかもしれない。
 今は誰も思い人が居ないのかもしれない。
 だけどいつ、いつどこでそんな人物が現れるか分からない。
 リナさんの心を捉える男が現れたら、僕はどうするのだろう? 一体、この可愛い妹を僕から奪ってしまう男が現れたら、耐えられるのだろうか、僕はそいつを許せるのだろうか、と……。
 そう、こんな状態にまで追い詰められても尚、僕は自分の気持ちに気付かなかった。否、気付こうとしなかった。
 もう既に、リナさんを「妹」だなとどとは欠片も思っていなかったのに…。
 リナさんは、他の男の物ではなかった。だが僕の物でもなかった。僕の立場はあくまで「優しい兄」。それ以上でも以下でもない。身動き一つ出来ない、腕を伸ばせばそこにリナさんがいるのに、抱き締める事すら叶わないこの関係を何よりももどかしく思っていたのは僕自身なのに、拒絶される事を恐れて僕は手を伸ばそうとしなかった。
 だから僕は、自分の中でもがき、暴れ出そうとするもう1人の自分を押さえこんで、優しい兄を演じ続けていた。
 本当は、もうどうしようもない所まで追い詰められていたのに……。
「ゼロス。ゼーロースっ。ねぇ、ゼロスってば」
「………何ですか?」
 自分の考えに集中して、リナさんの呼び声に気付かなかったらしい。
 小柄な彼女が、背伸びをするようにして僕の髪を引っ張った。
「いたたたた……。リナさん…痛いですよ」
 困ったような顔をして見せると、彼女は不満そうな表情を浮かべながらも手を放した。瞬間、暁の瞳に寂しげな、不安そうな色が過ったのを僕は見逃さなかった。
「久し振りにリナさんと出かけられて、楽しいですねぇ」
 安心させるような笑みを浮かべて彼女を覗き込んでみる。
 きっと彼女は、自分が駄々をこねて「ワンダーランド」へ来たのが、僕にとってはつまらないことだったのだと勘違いしたのだろう。確かに遊園地自体は特に好きなわけではない。だが…。
「僕にとって場所はあまり関係無いんですよ。リナさんと一緒に居られる、というのが一番大事なんですからね?」
 僕の言葉にリナさんは一瞬きょとんとした表情を浮かべた。しばらくして意味を理解したらしく、見る見るうちに頬を真っ赤に染め上げた。
「ば…バッ、バカッ」
 何を考えていたか、僕に見破られたことが口惜しいのだろう。頬をぷっくり膨らませて、唇を尖らせている。そんな子供じみた仕草ですら、僕にとっては見なれた愛らしい照れ隠しでしかないけれど。
 拗ねたふりをしていたが、本当は嬉しかったのだろう。すぐに上機嫌な笑顔を浮かべると、僕の腕に自分の腕をするりとからませて来た。
「ね。今度はあれに乗ろうよ」
 リナさんのほっそりした指が指し示した先には、「帽子屋のお茶会」という名称の……ようするに、ティーカップの乗り物があった。年頃の女の子達が喜びそうな可愛らしい作りになっている。三月ウサギやら帽子屋やらのオブジェの間をぬって、彼女は笑いながら僕の腕を引っ張った。楽しくてしかたないらしい彼女の笑顔に、僕の顔も自然と緩んだ。休日だと大人気のこの乗り物は、30分は並ばないと乗れない物らしいが、今日は平日のせいか並んでいる人も少な目だった。あっという間に僕達の番になって、リナさんは三月ウサギの小さな像のついたカップを選んで乗りこんだ。やがて始まった可愛らしいオルゴールのような音楽と共に、カップがゆっくりと回り始める。カップの中心にある、三月ウサギの像を回すと、カップの回転スピードが上がるようになっていることに気がついたリナさんは、クスクス笑いながら像を回し始めた。芸の細かいことに、ウサギの像は回転に合わせて小さく踊ったりあくびをしたり喋ったりする。それが楽しいらしく、リナさんは何度もウサギを回転させた。
「あんまり回すと、降りた時に歩けなくなりますよ?」
「だーいじょうぶだもーん。見てみてゼロス。景色が思いっきりまわってる。ほら、ハートの女王様のお城が見えた♪ あ、今木の上にチェシャ猫の置物があったーっ♪ 可愛いっっっ、すっごい可愛かったよ♪ 後で見に行こうねゼロス♪」
「そうですね」
 嬉しそうに、幸せそうに僕に微笑みかけてくるリナさんの笑顔を見られただけでも、今日取った有給の分は楽しめたと思う。創立記念日のリナさんをどこかに連れていくには、社会人の僕は休みを取らなければならなかったが、彼女の笑顔を見ると他の全ての事がどうでも良くなってしまうほどに幸せになれるから、有給は全て彼女の為に使おうと心に決めている。
 僕に微笑みかけてくるリナさんの色素の薄い髪が風になびいてふわりと揺れる。
 くるくると回る景色が走馬灯のようで、僕はまたあの頃を思い出した。
 そういえば、いつだったのだろう。
 誤魔化し続けた思いが…リナさんへの思いが、「妹」に向ける物とはまったく違うということを認めたのは。
 明確に、この時というのは無かったと思う。
 ただ、リナさんがどんどん綺麗になっていくのを、焦るような気持ちで見つめていた。リナさんの周りに居て、簡単に恋心を告白できる同じ年頃の少年たちを、うっとおしく思いつつもどこかで羨んでいた。だが僕にとっては幸いなことに、リナさんは僕以外の男に苦手意識があったらしい。彼女は、普通に友達として接する分には男女の区別無しに仲良くしていたが、リナさんの可愛さ故に少年たちはすぐに彼女に恋心を抱く。それがリナさんにとっては不愉快だったらしく、昔は沢山居た男友達が年頃になると居なくなっていった。それでもリナさんの心を捕まえようと、玉砕覚悟で告白する者も多かったが、彼等は覚悟通りに玉砕していった。
 いつでも……どんな時でもリナさんの一番側に居る男は僕だった。
 リナさんの「兄」という立場から抜け出せない、「優しい兄」を演じる僕だった。
 中途半端な立場にイラついて、けれどそれは僕が理想とする「兄」の抱く感情とはまったく別のもので、だから僕はなんとかそれを静めようと、学校の女友達を誘って遊び歩いた。学生最後の年で、もう会社からの内定はもらっていたから、遊ぶにはもってこいだったのだ。ただどこかで罪悪感のような物が疼いて、特定の女の子と遊ぶことは避けていた。いつも複数の女の子達に声をかけて、深入りすることは無かった。
 そういえば、僕がリナさんを意識し始めた明確なきっかけは無いが、一つだけ印象深い思い出がある。
 その頃僕は、あまりリナさんと会っていなかった。それまでリナさんは毎日の様に家に来ていたのだが、僕が夜遅くに帰ってくるので、あまり遊びに来なくなっていたのだ。週末は会って話すこともあったが、それまで毎日の様に会っていたのに比べると疎遠になっていた。そんな状態が四、五ヶ月ほど続いた頃だったと思う。
 やはりいつもの様に女の子達を何人か誘って遊び歩いていた時、ばったりリナさんに会ったのだ。妙にばつが悪くて柄にも無く慌てていた僕に、彼女もまたぎこちない態度で、視線を合わそうとしなかった。そんな状態が居たたまれなくて、何とか会話を交わそうとした僕の視界の端に移ったのは、リナさんと一緒に買い物をしていたらしい少年の姿だった。とっさに何と声をかけて良いのか分からなくなってしまった僕に、リナさんがぎこちなく笑いかけながら「またね」と声をかけてそのまま二人で歩き去っていったのだ。
 雷が落ちたようなショック。
 青天の霹靂。
 嫉妬、欲望、予想外の感情の渦。
 それでもまだ僕は可愛い妹に突然彼氏が出来てしまい、戸惑う兄を演じようとしていた。
 結局、後でリナさんにさりげなく尋ねてみたら何の事は無い、文化祭で使用する物を買うために先生にお使いを頼まれて、荷物持ちとしてついて来ていた少年だったのだ。もっともその少年がリナさんに淡い思いを抱いていて、積極的に荷物持ちを引きうけたのではないかという疑いはいぜん濃厚だったが、それと意識してリナさんが受け入れたわけではなかったのだ。
 その日から僕は夜遊びを止めた。
 そして僕はゆっくりと…認めることの出来なかった…だが認めざるを得ない、認めなければ生きていけないほどに成長しきった感情を受け入れた。
 確かにリナさんは可愛かった。可愛くて可愛くてたまらなかった。けれど妹ではなかった。どうがんばっても妹にはなり得なかった。僕にとってリナさんは「妹」ではなくて、大切で可愛くて、誰より愛しい「思い人」だった。
 だが、そうと分かったからといって突然態度を変えるわけにはいかなかい。そうするには僕はあまりに「兄」を演じすぎていた。
 その上リナさんの態度が微妙に変わりつつあったのだ。
 それまではなんでも僕に相談していたのに、あまり近づいてこなくなった。相変わらず遊びに来て、よく会話を交わしてはいたが、僕の部屋にあがることもなくなったし、告白騒ぎで僕に悩みを打ち明けることも無くなった。
 それまで誰よりも近くでリナさんを見てきた分、距離が遠ざかっていくのを見るのは辛かった。思いを自覚した途端、兄としての立場から抜け出せなくなってしまったのだ。誰よりリナさんに近しい存在である為に、僕は自分の思いを殺して「兄」であることを選んだ。近くで「兄」として見守って、リナさんが大人になるまで待っているつもりだった。
 今考えると、我ながら随分と無謀なことをしていたと思う。幾ら側に居ても「兄」を演じ続けている限り、リナさんが誰か他の男を選んでも文句一つ言えやしないのに。
 それを思い知らされる出来事が無ければ、僕は今でもぐずぐずと「優しい兄」を演じ続けていたかもしれない。愛しい少女が目の前に居て、手を伸ばせばすぐに抱き締められる位置に居たのだから、今思えばあんなに迷わずにすぐにでも抱き締めてしまえば良かったのだ。
 ただ、幼い頃からの彼女を見てきて、あまりに彼女を大切に思っていたから、彼女の思いを無視して無理強いすることがどうしても出来なかったのも確かだ。それは「兄」と「妹」という立場を壊したくないという臆病な感情よりも強かったように思う。そんな厄介な感情が渦巻いて、行動が束縛されていたのだから、今のこの状態は信じられないほどに幸せなのだ。
 隣には、「妹」としてではなく、「恋人」としてのリナさんが座っている。
 気に入った乗り物に乗りまくって、すっかり上機嫌になったリナさんは僕の買って上げたソフトクリームを食べながら次に乗る乗り物を物色していた。覗きこんだ僕は思わずクスリと笑ってしまう。
「………なによ」
 戸惑ったような視線を向けて来るリナさんに小さく笑いかけてハンカチを差し出した
「クリーム、ついてますよ」
「ん……」
 リナさんはほんのりピンク色に頬を染めて、差し出したハンカチを受け取った。
 この愛らしい、可愛らしい少女が、妹だなどと良くも思い込めたものだ。
 今でも僕はリナさんが可愛くて仕方が無い。だがそれは「妹」としてではなく………。
「あ、ほらゼロス。お店お店。ぬいぐるみが売ってる。見てきても良い?」
 僕の視線に耐えきれなくなったのだろう。慌てて残りのソフトクリームを口に収めると、目の前のお店を指差した。そんな彼女の反応すら可愛らしくて、僕はにっこり微笑んで頷いてみせた。
「良いですよ。さっき行ってみたお店より一回り大きいみたいですし、リナさんが欲しがっていた『白ウサギ』と『チェシャ猫』のぬいぐるみもあるかもしれませんね。僕も行きますよ」
 にこにこと嬉しそうに笑ったリナさんの肩にそっと手を回して店に入ってみた。ファンシーな飾り付けをした店は、女性の心を捉える魅力があるらしく年代様々な女の人たちが大して広くもない店内で賑やかに品物を選んでいた。多分彼女待ちであろう男達が店の前を手持ち無沙汰にウロウロしている。
 僕がリナさんと一緒に店に入ると、店内中の女性達が振り返った。その視線が、好奇から別種のものに変わる気配を感じたが、僕はリナさん以外の女性からその手の視線をもらってもちっとも嬉しくはなかったから、彼女の機嫌が悪くなる前に店のすみの棚のほうに優しく引っ張っていった。
「ほら、リナさん。ありましたよ。『チェシャ猫』に、『白ウサギ』に、『ハンプティ・ダンプティ』までありますね」
 お目当てのものを見つけて、リナさんはパッと輝くような笑顔を浮かべた。
「本当だ。可愛いー♪ あ、これなんかチェスの『白の女王』と『赤の女王』じゃない? 『ダイアナと子猫達』まで居るーーーー!!! 凄い凄い!!! 全部可愛いっっ!!!」
 僕に言わせるとぬいぐるみを前にして目を輝かせているリナさんのほうが何十倍も可愛らしいのだが、彼女は鈍いというか恋愛に関してはちょっと疎いところがあるから、おそらくまったく気がついていないのだろう。その証拠に、僕の視線にはまったく気がつかずに、夢中でぬいぐるみを選んでいる。
「んー…。『チェシャ猫』も可愛いなぁ……。でも『白ウサギ』も……あ、でも『ダイアナと子猫達』はセットだし、滅茶苦茶可愛いし………。それにやっぱり『ワンダーランド』に来たからには『アリス』を買わなきゃ意味ないし。それにこのアリス、すっごく可愛いなぁ…………。うぅぅぅぅぅ……どれに…しよう………かなぁ……」
 中々決まらないらしく、気に入ったぬいぐるみを四つ並べて唸っている。思わず吹き出したくなったが、笑ったら最後、リナさんのご機嫌が斜めになることは分かりきっていたから、僕は彼女から視線をそらせて別の商品を眺めることにした。
 その時ふと、目に止まった物。
 彼女に似合いそうな……。
 手にとってみると本当にリナさんに似合いそうだし、多分リナさんの好みにピッタリ合うだろうと思った。だてに小さい頃からの彼女を見守ってきたわけではない。リナさんの好みはきっちり把握している。商品を手にとってリナさんの所に戻ってみると、相変わらず四つのぬいぐるみを並べて悩んでいた。
「うぅぅぅぅぅ。やっぱ選べないぃぃぃぃ。どれも可愛いしなー…でもぉ…うーん……」
 僕は笑いをこらえながらこっそりリナさんに歩み寄ると、リナさんごと囲む様に手を商品の戸棚に置いた。
「ゼ、ゼロス?」
 前は商品の陳列棚。後は僕、横は僕の腕で囲まれたリナさんは、逃げ場がなくなって慌てた様に振り返った。真っ赤にそまった彼女が可愛らしくて愛しくて、思わず浮かぶ笑みを押さえきれずに小さく笑いながら僕は言った。
「四つとも買って差し上げますから、そんなに悩まなくても良いですよ」
「うぇ? えと…良いの?」
 落ちつかなく視線をさまよわせるリナさんの反応に、僕は笑いながらそっと囲いを解いた。
「この頃一緒に出かけられなかったお詫びです。確か…これとこれとこれと、これで良かったですよね?」
「あ、違うの」
 確かにリナさんが欲しがっていた商品だった筈だが、僕が手に取ると彼女は慌てた様に首を振った。
「それじゃなくて、コレとコレとコレとコレ」
「……?」
 彼女が新たに選び出したぬいぐるみは、僕が選んだのと同じ種類のものだった。
「あ…あのねぇ…同じぬいぐるみでも、顔が微妙に違うのっ。この中でいっちばん可愛かったのはこの四つなの……」
 彼女のあまりに可愛らしい台詞に、僕は思わず笑い出してしまった。
 とたんにリナさんの瞳が曇る。しまったと思ったが、フォローを入れるにはまわりの視線が邪魔だった。
 僕はリナさんに微笑みかけてから、店の外のベンチを指差した。
「あそこで待っていて下さい。僕はこれを買いますから」
「ん」
 こっくり頷くと、そのまま小走りにベンチに向かって行く。リナさんの後ろ姿を見送りながら、僕は小さく唇を噛んだ。
 先刻の僕の反応は失敗だった。彼女は僕が笑ったことを誤解しているだろう。
 リナさんは、僕以上に年の差を気にしていた。どうもリナさんには、僕が大人に見えるらしい。実際にはそんなに余裕があるわけではないのだが、あまり感情を表に出さない性質なのと、小さい頃からリナさんを見てきたせいで大体の感情の流れを把握して考えを読んでしまうせいで、僕が大人だと思いこんでいるのだ。その所為で彼女は、自分が子供っぽいと僕と釣り合わないと思っているらしい。
 確かに彼女はある一部分において、同じ年齢の少女達よりも子供っぽい部分が多分に残っている。だが僕も、彼女に魅了されてしまう僕以外の存在も、何より可愛いと思っているのはその子供っぽい所なのだ。あれはリナさんの個性だから、多分大人になっても変わらないだろう。けれどリナさんは、僕との年齢が8つも離れていることを気にして、何とか大人っぽくなりたいと心底願っているのだ。僕がぬいぐるみを選んでいることを笑ったと思われたとしたら、多分リナさんは落ちこんでいるだろう。
 なるべく急いで商品を包んでもらうと、急いで彼女の坐っているベンチにむかって走った。
「…お帰りゼロス。あ、ありがと」
 案の定彼女は少し元気をなくしていた。買って来た品物を渡した時の笑顔がどことなく陰っている。
 僕はリナさんの側に静かに腰掛けると、彼女の華奢でほっそりした手を優しく握った。
「ゼ…ゼロス?」
「僕が笑ったのは、リナさんが可愛かったからですからね。あんまり可愛らしくて、思わず笑ってしまったんですよ」
 唐突に話し始めたので、意味が把握出来なかったのだろう。きょとんとした表情を浮かべると、みるみる間に真っ赤に頬を染め上げた。その反応すら可愛らしくて、僕は素早くあたりを確認すると、そっと小さく口付けた。
「………っ…ゼ…ゼロス………!」
「僕はね、リナさんが可愛くて仕方ないんですよ。だってリナさんは僕の可愛い可愛い恋人さんですからね」
「………うぅぅぅぅぅぅぅ………あんたなんでそんな恥かしい台詞をさらっと…………」
 顔が火照るのか、リナさんはパタパタと手で仰ぎながら、首まで赤く染めて唇を尖らせている。拗ねたような照れ隠しの顔があまりに可愛らしくて愛らしかったから、僕はニッコリ笑ってもう小さなおまけをつけた。
「さてと、もう五時ですね。後一つ乗り物に乗ったら帰りましょうか。最後は僕が乗り物を指定しても宜しいでしょうか?」
 買って来たぬいぐるみの袋をきゅっと抱き締めていたリナさんは、一拍送れてから顔を上げた。
「い…良いけど、何に乗るの?」
「遊園地でのデートの最後の乗り物で、定番と言えばやはり『観覧車』ですからね。さ、行きましょうか。僕の可愛いアリスさん?」
 僕が立ちあがると、リナさんの柔らかい腕がそっと滑り込んで来た。
「はやく行きましょ、白ウサギ」
 見下ろすと、悪戯な瞳がキラキラと魅力的な光を放っていた。
 僕はそっと微笑みかけると、リナさんの腕に手を添えた。
「今日は、どこでご飯を食べましょうか?」
 リナさんの瞳が驚いた様に見開かれて、パッと輝くような笑顔を浮かべた。
「夕ご飯も一緒に食べれるの? 明日の仕事の準備とか無いの?」
「大丈夫ですよ。今日はリナさんの為に取ったお休みですから、夕食も一緒に食べて帰りましょうね。何が食べたいか、決めておいて下さいね」
 彼女は暫らく考え込む様に視線をさまよわせていたが、ややあって頬を染めながら下を向いてしまった。
「リナさん?」
「……どこでも良い」
「え?」
「だから……どこでも良いよ」
 聞き返すと、先刻よりさらに低い声で早口に答えた。
「リナさん…」
「い、いつもあたしが食べたい物指定してるでしょ? たまにはゼロスが食べたいお店に付き合うわよ。今日は1日楽しかったし、ね?」
 薄桃色に頬を染めながら、早口でまくし立てるように喋るリナさんは、今日みた中で一番愛らしかった。
「では、今日の夕食は僕の好きな所に付き合ってくださいね?」
「うん」
 嬉しそうに頷く、その笑顔が本当に可愛らしい。リナさん自身は、自分がどれほど可愛らしいかなど気がついていないのだろうが。
 前に並んでいたカップルの男が、偶然リナさんの笑顔を見てしまったらしく、その後何度も後を振り返るので怒った彼女に腕をつねられていた。もっとも自分の彼氏を魅了してしまった人間の正体を確かめ様と後ろを向いた女性のほうも、僕と目が合うと顔を赤くしてそれから何度も振りかえっていたからおあいこなのだろうが。
 やがて僕達の番が来て、リナさんは可愛いペインティングの施された観覧車の中に嬉しそうに坐りこんだ。
 向かい側に僕が坐ったのを確認して、係りの人が素早くドアを閉める。
 ゆるゆると高度が上昇して行くと、薄い水色からオレンジ色に光る空と、夕日を反射してキラキラと光るワンダーランドが一望に見渡せた。
「綺麗……」
 呟く様な声にリナさんの方を見ると、窓の外を見つめて幸せそうに微笑んでいた。
 柔らかな曲線を描く頬も、かわいらしくカールする睫毛も、美しいルビー色の瞳も、華奢な体も、何もかも可愛らしいと思っている僕を、彼女は知っているのだろうか?
 リナさんのほっそりした手首をそっと捕まえる。
「ゼロス?」
 僕は静かに微笑んで、先刻店で買っておいた物を彼女の薬指にはめた。
「え? なに………。これ………指輪? アリスになってる。可愛い……すっごく可愛い……。これ、もらっても良いの?」
 夕日の所為だけではなく、明らかに赤く染まった頬を上気させて、リナさんは嬉しそうに僕を見上げた。
「リナさんがお気に召すだろうと思って、こっそり買っておいたんですよ。おめがねに叶いましたか?」
 リナさんはこっくり頷いて、微笑みながら指輪を見つめた。
 やがて何かに気がついたようにはっとすると、スカートのポケットをごそごそと探り出した。
「リナさん?」
 彼女は小さな紙袋に包まれた物を慎重に取り出すと、そっと僕に差し出した。
「これ、僕にですか?」
 リナさんが頷いたのを確認してから、紙包みを開いてみる。中にはいぶし銀で出来ている『白ウサギ』を象ったカフスボタンが入っていた。
「ゼロスが恥かしがるかなぁと思って、迷ったんだけど、その色合いならぱっと見じゃぁ普通のボタンと見分けがつかないし、良く見ると可愛くて良いなぁって思ったから……。あたしの好みで悪いんだけど…………」
 リナさんの瞳が心配そうに揺れている。僕が気に入るかどうか不安のだろう。
 そんな心配、欠片もする必要は無いのに。
 安心させる為に、そしてなによりも正直な気持ちを伝える為に僕は微笑んだ。
「ありがとう、ございます。凄く嬉しいです。リナさんが僕の為に選んで買ってくださったんですね。本当にありがとうございます」
 リナさんが僕の為に、僕だけの為に時間とお金を使ってくれた。それが何より嬉しい。
 静かに席を移動して、リナさんの隣に坐った。優しく抱き寄せても抵抗がないから、そのまますっぽり腕に収める様にして抱き締める。
「今日は本当に楽しかったですね。リナさんも指輪を気に入ってくださったみたいで嬉しいですよ」
 僕の言葉に、リナさんは腕の中でそっと顔を上げると柔らかく微笑んだ。
「凄く気に入った。可愛いし、綺麗だし………それに……ゼロスが買ってくれたから、嬉しい」
 その言葉が。
 その笑顔が。
 可愛くて可愛らしくて、愛しくて。
「大好きですよ。僕のリナさん。妹なんかではなくて、誰よりも大切な……可愛い可愛い僕の恋人さん」
 くすぐったそうに笑う彼女を、愛しいと思う気持ちごと、優しく、でも力強く、僕は抱きしめた。

 僕はもう「兄」ではない。
 腕を伸ばせばそこにいるリナさんを、抱きしめることが出来る。
 だからこれからは何度も抱き締めよう。
 今まで出来なかった分何度でも、繰り返し。




                       「大好きですよ。僕の可愛い恋人さん♪」

******************************************

何か……いっぺん死んでこい!!と言われても仕方無い程アホな話で申し訳ありません(;;) でもきっと最後までお読み下さる方なんていらっしゃいませんよね…。
個人的に激ツボな年令差で書いてみましたが、ゼロスさんもリナちゃんも偽物過ぎますし……。と…とりあえず…もしも…最後まで読んで下さった方がいらっしゃるのでしたら…、ありがとうございますぅぅぅぅぅ(;;) 貴女様は天使のようなお方ですっ(感涙)
えと……次回は…もう少し精進してまた投稿させて頂きます(まだやる気か!!!)
では……失礼致しますm(_ _)m


                                   紅葉 拝