◆−『遺言』ー前編ー−あごん(8/21-15:48)No.11576 ┗『遺言』ー後編ー−あごん(8/21-22:30)No.11584
11576 | 『遺言』ー前編ー | あごん E-mail | 8/21-15:48 |
「きはははははは!それじゃあな!追ってきたいなら追ってきな!」 狂える男の洪笑が響く。 ミリーナはその声をどこか遠くに聞いていた。 「ミリーナ!?」 膝をついたミリーナに駆け寄ってくるルークにの声だけが、ただ現実性を持っていた。 ルークの後ろにリナとガウリイの姿が見える。 人に心配される事が不慣れな彼女にとって、不安気な3人の顔は対応に困るものであった。 「うかつ・・・だったわ・・・」 微笑してみせたつもりだったが、はたしてそれは成功しなかった。 3人の表情が強ばる。 「毒・・・ね・・・」 ミリーナの言葉にルークの顔色がみるみる青ざめていく。 「ちょっと待って!」 リナの麗浄和の呪文を唱える声さえも、ミリーナにとってはどこか非現実に感じられた。 ただ、今の彼女にとっての現実はただ一つ。 ルーク。 彼だけが、強烈なまでの現実を感じさせる存在だった。 ふ、と少しだけだが、毒による痛みが少しだがひいた。 リナの麗浄和が効いているのかもしれない。息をするのが楽になった。 「しっかりしろよ!ミリーナ!」 ルークがミリーナを背負いながら、そう励ます。 ミリーナはただ、ぼんやりと取り留めのない事をつらつらと考えた。 その全てが曖昧な世界の中で、たった一つの彼女の現実の背に負われながら。 ルークはミリーナを愛している。 それはお互いがよく知っている事であったし、また、周囲も判っている事であった。 では、ミリーナはルークを愛しているのか。 「勿論さっ!」 ルークならばそう答えるだろう。 「笑えない冗談は嫌いだわ」 ミリーナはそっけなくそう答える。 しかし、と思う。 私はルークを愛してはいるのだ。 ミリーナがそう思う事は日常に措いて多々あったのだが、彼女が彼の愛に応えなかった理由はふたつあった。 ひとつ。 それはルークの思う愛と、ミリーナの感じる愛の根本からの違いを知っていたからに他ならなかった。 ふたつ。 彼の世界を小さくしたくなかったから。 20年以上も生きてきて、彼女が身に染みてわかったことはというと。 『愛情』というものの大きさであり、深さであり、小ささであり恐さであった。そして美しさと醜さの表裏一体のおぞましさでもあった。 人間は愛情を手に入れると、強さと弱さを同時に得る。 そして、強さが弱さを凌驚する者とその逆の者に人間は分けられる。 ルークは、おそらく。 後者であろうと、ミリーナは思う。 そもそも、ルークにとってミリーナとは人間そのものであり、世界の全てなのだ。 それを思うとミリーナは、彼の気持ちに決して応えまいと強く思う。 それに、と思う。 私は、ルークという人間を愛しているのだ。 ルークという男を愛したことなど無いのだから。 こればかりはどうしようもないことだった。 ミリーナという人間は、人間をヒトとしか見ることが出来ない人間なのだから。 性別も、職業も、地位もなにもかもの属性は見ない。見えない。 ヒトはヒトでしかあり得なかった。 だから、私は何があろうとも。 ルークの愛には応えない。 こんにちは。またまたお目汚しのあごんです。 今回はルクミリをぶら下げてやって参りました。 前編となってますが、大丈夫です(笑)。今回は本当に前後編で終わります(泣笑)。 事件はないし、ミリーナの想いだけにスポットを当てていくだけですし。 ではでは、すぐに後編を仕上げちゃいます。 今から仕事なんで、本当は1話かぎりだったのですが。 では!今夜中にはしあげます! |
11584 | 『遺言』ー後編ー | あごん E-mail | 8/21-22:30 |
記事番号11576へのコメント 「医者が、いない!?」 ルークの怒りと焦りが複雑に入り混じった声が、彼の背中から直接ミリーナに届く。 町の南方に位置する場所に、魔法医の診療所はあった。 どうやら医者は不在であるらしい。 受け付けだろうか、それとも看護婦だろうか。女が一人だけ、診療所にいた。 その女の言葉を、やはりどこか遠くに聞きながらミリーナは思いを巡らす。 様々な光景がミリーナの脳裏を横切る。 ああ、死ぬその前に、人は走馬灯のような思い出を視るというのは本当だったのか、とミリーナはそんな場違いな感想を持った。人々との出会い、別れ。関わった事件、被害者、加害者。 そして。 相棒として、共に活動したルークの姿。 その笑顔。 その怒り。 その悲哀。 なんて事だ、とミリーナは思う。 こんなに生きてきて、その思い出の半分以上は、ルークとの思い出ばかりではないか。 ああ、そうか。 ミリーナは突然思い至った。 私の持つ、このルークへの感情の正体がわかった。 愛とか恋とかじゃなくて。 ただ、大切な存在なのだ、ルークが。 少しだけ、微睡んだらしい。 ミリーナが目を覚ますと、まだ彼女はルークの背中にいた。 いまだ翔封界の結界の中にいる。 「・・・どうしたの・・・?」 我れながら、覇気の無い声だと思いつつルークに尋ねた。 「今、北の分院に向かってるからな。大丈夫だ。ケレス大神官なら、絶対に治してくれるさ!」 「・・・・・・・」 ミリーナはそういう意味で尋ねたわけではなかったのだが、だからといって聞き直すのも億劫だったので、何も言わなかった。 ただ、ルークの様子がおかしいから気になっただけだった。 嘆きにも似た、疲労した背中が気になったのだった。 ふと、視界によく見知った顔が見えた。 リナ・インバースと、ガウリイ・ガブリエフ。 奇妙な縁だな、と思う。 最初に持った印象は騒々しい人達だなというものだった。 初めて会ったのはいつだったか。 もう半年以上前になることに気付き、ミリーナは小さく笑った。 つもりだったのだが、それは気管を抜ける苦し気な咳に変わった。 「ミリーナ!?苦しいのか!?大丈夫か!?」 ルークが慌てて、問いかける。 「大丈夫・・・よ」 「どうしたの!?ルーク!ミリーナがどうかしたの!?」 ミリーナの声に半ばかぶさるように、リナの心配気な声が響く。 「ちょっと咳込んだみたいだ!急ぐぜ!!」 ひどく3人を不安にさせてしまっている事実に、ミリーナは歯噛みした。 そして、申し訳ないな、と深く思う。 同時に、だが、この2人がいてくれて良かったと感謝もした。 奇妙な縁だが、もしかしたらこの時の為の縁だったのかもしれない。 一緒に幾度かの死線を越え、同じ哀しみを感じ、怒りや喜びをも共有した。 彼女達だったら、と思った。 そう、あの2人がいてくれたならば、ルークは大丈夫かもしれない。 ミリーナの死を乗り越える事ができるかもしれない。 すでにミリーナは、自分はもう助からない、と知っていた。 今の自分は、死を待つ人が持つあの独特の匂いがするだろう、と彼女は思った。 しかし、後悔も未練もない。 ただあるのは、心残りが一つだけ。 ルーク。 「・・・二人に・・・してもらえますか・・・」 そうミリーナが言ったのは、北の神殿の医療室のベッドの上だった。 静かにその場を立ち去るリナとガウリイ、ケレスに目を遣ることもなく、ミリーナは終始うつむくルークの顔に手をのばす。 顔が、ただ見たかったのだ。 「ミリーナ、ミリーナ、ミリーナミリーナミリーナ・・・」 何を言えばいいのか判断できないルークは、ただミリーナの名前を連呼するだけだった。 まるで、その名を呼べばミリーナが回復するとでもいうように。 「ミリーナ、ミリーナ・・・ミリ・・・ナ」 「ルーク・・・」 ミリーナがそっとルークの名を呼んだ。 ルークに遺さなければならない言葉があるから。 言わなければならない事があるから。 もう一度、優しく彼の名を呼ぶ。 「ルーク・・・」 しかしルークは返答できなかった。 今なにか喋れば、それらは全て、嗚咽に変わることを知っていたからだった。 ただ黙ったまま立ち尽くすルークにミリーナは微笑んだ。 言いたいことはただ一つだけだった。 遺す言葉はワン・センテンスだけ。 世界はいつだって、優しいのだ。 どんな時も人を受け入れてくれる。 手を延ばし、腕を広げ、その胸に優しく抱き入れてくれる。 その全てをルークが否定しない限りは。 その世界をルークが拒絶しない限りは。 ああ、だから。 だから、ルーク。 「ヒトを嫌いにならないで」 人を愛せ、なんて言わない。 ただ、世界を拒否しないで欲しい。 あなたを包む、その優しい世界を。 大切な、ルーク。 死に逝く者に、後悔も未練もないのに。 残される者に、後悔も未練もあって欲しくない。 ただ、ルーク・・・。 ヒトを嫌いにならないで。 終わりです。もうちょいルークの心情も入れたかったのですが。 それはもう、原作でこれ以上なく語られてるわけですし。 ミリーナの遺言は、なんだか遺言らしくないと思っていまして。 まるで、ルークの正体を知っているようじゃないですか。 そんなハズないのに。と考えていると、こんな話が浮かんできました。 ひょっとしたら、ミリーナはルークに大き過ぎるほどの愛を持っていたのかもしれない、と思ってこの話を書きました。 おそらく、愛している、なんて言わなかったでしょう。 そんなことを言えば、ルークが世界を憎むかもしれない。 後悔と未練が残るはずだから。 ではでは、感傷的な話につきあっていただき、感謝します。 また会える事を祈りつつ。 あごん |