◆−I long for your love(前編)−あごん(10/12-16:23)No.12130 ┗I long for your love(中編)−あごん(10/12-18:55)No.12131 ┣お待ちしていました♪−MIYA(10/12-21:52)No.12133 ┃┗うはーーっ!恐縮ですぅ!−あごん(10/12-22:23)No.12134 ┗I long for your love(後編の1)←またかいっ!−あごん(10/13-00:10)No.12137 ┗I long for your love(後編の2)−あごん(10/13-23:51)No.12139 ┣御久しぶりです!!−王静惟(10/14-13:03)No.12140 ┃┗ああっ!お久しぶりですぅ(感涙)!−あごん(10/14-22:46)No.12149 ┗I long for your love(後編の3)−あごん(10/16-17:12)No.12179 ┗I long for your love(後編の4)−あごん(10/19-18:05)No.12192 ┗I long for your love(後編の5)−あごん(10/25-00:14)No.12206 ┗I long for your love(後編の6)−あごん(10/30-06:58)NEWNo.12227
12130 | I long for your love(前編) | あごん E-mail | 10/12-16:23 |
こんにちは。 あごんという者です。 またしても事件モノをひっさげてお邪魔させて戴きます。 事件モノ恋愛風味といったカンジですかねぇ。 よろしければお付き合い下さいませ! 「なぁ〜、リナ?」 ガウリイがおそるおそるといった態で、あたしに声をかけてくる。 「・・・・・・・・なによ」 あたしはこれ以上ない位に不機嫌に応える。 「・・・・・いや、やっぱいい」 「・・・・・あっそ」 どこかあきらめたように、あきれたようにガウリイが言い、どこか投げ遺りに、ふてくされたかにようにあたしが言う。 ここ1ヶ月ばかりあたし達の間でよく交わされる会話だった。 厳密に言うと、国境を越えゼフィーリア王国に入ってからの事になるだろう。 まぁ、要するにあたしがただただ不機嫌なだけなのだが。 何故こんなにもあたしの機嫌が悪いのか、ガウリイにはわからないだろう。 わからないので探りを入れようと話しかけるガウリイに、なんでそんな事もわからないのか苛つくあたしの会話なのだ。 悪循環である。 あたしも最初は、なんでこんなに苛つくのかわからなかったのだが、最近になってようやくわかった。 実家が近づいてきたからだ。 おっと。誤解はしないでもらいたい。 別に実家に帰るのがイヤなわけではない。 ガウリイを連れて行くのがイヤなわけでもない。 どういえばいいのか。 ガウリイをどう紹介すればいいのかがわからないのだ。 普通に旅の連れといえばいい。 そう思うのだが、なんだかイヤなのだ、それは。 死線を幾度も共に越えた相手だからか、ただの連れでは終わらせたくない。 友人、というのも抵抗がある。 戦友、というのが一番しっくりくるかもしれない。 しかし、普通家族にそんな紹介なんてしないだろうとも思う。 「父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃん。ガウリイよ。あたしの戦友なの」 ・・・・不自然だ。ものすっごく! なんだか子供の頃の、イタズラがばれた時の言い訳を考えるのに似てる。 つまり、そんなわけであたしはすこぶる機嫌が悪いのだ。 と、その時だった。 わしゃり。 ガウリイがあたしの頭にその大きな手を置き、一撫でした。 む。 ややブゼンとしながらあたしはガウリイを見上げた。 ガウリイは、屈託ないとはこのことかと思わせる笑顔であたしを見ていた。 まさしく、あたしは毒気を抜かれてしまい、知らずの内にぷっと吹き出してしまった。 「あははは、わかったわよ、ガウリイ」 あたしは観念した。 「ゴキゲンナナメはもうおしまいにするわ」 そうなのだ。 ガウリイはガウリイだし、あたしはあたしだ。 どこにいっても変わらない真実なのだから。 いーじゃないか、こういう関係も。 旅の連れで、友人で。 戦友であり、兄妹のようで。 仲間でもあるし、保護者と被保護者で。 言葉じゃなくてもいいじゃないか。 どこかしら自分に言い聞かせるかのようにあたしは思った。 なんといっただろうか、こういう関係を。 こんな関係を表す言葉があったはずなのだが。 どうにも思い出せない。 まぁ、いいか。 いずれ思い出すだろうし。 それ以上深く考えないようにして、あたしは隣にいるガウリイの笑顔にやはりで笑顔応えたのだった。 「・・・・なぁ、リナ?」 「・・・・・・・・なによ?」 あれから、一週間ばかり経ったその日。 ガウリイがあの時と同じように、おそるおそると聞いてきた。 そしてあたしもあの時と同じように不機嫌に応えた。 今、あたし達が歩いてるのは鬱蒼と繁った山の中である。 「・・・・いつそのゼフィール・シティとやらに着くんだ?」 「・・・・・・・・・・・」 「王都、なんだろ?そこ」 「・・・・・・・・・・・」 「こんな山の中にあるのか?」 「・・・・・・・・・・・」 「お前、あと3日も歩けばって5日前に言わなかったけか?」 「・・・・・・・・・・っ」 「・・・・もしかして、お前さんさぁ」 「やかましぃぃぃいいぃっ!と言いつつ炸裂弾!!」 どごぼがぁぁぁんんっ!! 派手な音を立て、術が発動し、盛大にガウリイが吹っ飛んだのを確認してから、 「うっさいわね!そーよ!迷ったわよ!何か文句あるの!?」 迷った事を素直にガウリイに伝えた。 ガウリイはよろよろと立ち上がると。 「お前なぁ、無い胸を張って言うような内容かそれ?」 「風魔砲裂弾っ!」 ぶごわおおああっ!! 起きていながらも寝言を吐ける器用なガウリイを黙らせた。 「仕方ないわね、今日はとりあえず野宿しましょ」 夕暮れにはまだ早いが、野宿をするとなると色々と準備も必要なため、あたし達は山中での一宿を決めた。 「仕方ないって・・・お前、まるで自分に責任がないみたいに・・・」 どうやら、まだ寝ているのか尚も寝言を吐こうとするガウリイに一瞥をくれると、ガウリイはぴたりと口をつぐんだ。 「そーとなればガウリイ、さくさくっとやっちゃうわよ!」 「おう!」 とりあえず、食料の確保からとりかかったのだった。 「リナ」 ・・・・うみゅ・・・? ガウリイのあたしを呼ぶ声で目覚めた。 「リナ。おいって」 再度ガウリイがあたしを呼ぶ。 「ん・・・?なに、ガウリイ」 重い瞼をこすりながら、あたしは目の前のガウリイに問う。 辺りに目をやれば、まだ視界は薄闇に包まれたままの木々が林立している。 夜明け前といったところか。 「リナ、人の気配がする」 「・・・・何人くらい?」 ようやく覚醒しつつある頭を回転させながら小声で聞いた。 「多いな、ダース単位だな」 「あたしは感じないけど。よっぽどの手練れってこと?」 「いや、そんなに近くはないから感じないだけだ」 「なるほど」 野盗かなにかだろうか。 「しばらく様子を見ましょ。気配は消さなくていいわ」 「・・・・・わかった」 確かに、時間が経つにつれ人の気配はあたしにもわかった。 ガウリイの言う通り、12・13人といったところか。 確実にあたし達の方へと近づいてきている。 そして。 あたし達は完全に囲まれた。 殺気が痛いほど伝わってくる。 逆にいえば、殺気ひとつ隠せない相手ということになる。 「どうする?リナ」 あたしだけにしか聞こえないような声でガウリイが言う。 「奴等が動くのを待ちましょ」 「わかった」 そしてあたしは、呪文を唱えはじめた。 またしても続きモノです! よろしければお付き合いくださいね! |
12131 | I long for your love(中編) | あごん E-mail | 10/12-18:55 |
記事番号12130へのコメント 夜明け前の静寂の時を、今まさに破らんとしたいくつもの殺気が一気に膨れあがるのを感じた。 一点に殺到する気。 もちろん言うまでもない、あたし達に向けられたものだ。 チャキリ。 ガウリイがその妖斬剣の鍔を鳴らした。 静かな山中に、その澄んだ高い音が余韻さえ残しながら響いた。 その音が刺激したのだろうか、あたし達を囲んだ殺気が爆発した。 「うおおおおっ!」 無意味な雄叫びを上げ幾つかの人影があたし達に迫る。 しかし。 「地霊砲雷陣!!」 ばちばちばぢばぢょぅぅんっ! あたしは唱えておいた広範囲雷撃呪文を解き放った。 ざっと見たところ、6人はこれで完全にノビたよーである。 周囲を軽く見渡す。 ふむ、あと7人だった。 「魔道士かっ!?」 「ちぃっ!!」 男達が口々に焦りの声をあげる。 その間にもガウリイの剣が、男達に迫り、次の瞬間にはすでに3人をも大地に這わせた。 どうやら峰打ちらしく、確実み急所を付いていた。 「なっ・・・!」 瞬時の出来事の為、何が起こったのかよくわからなかったのだろう、残った男達は呻きにも似た驚愕の声ひとつ上げただけだった。 素人だった。どう見ても。 よく見れば、手に持つ武器も鍬やスコップなどの農耕器具である。 ガウリイも気付いたのか、踏み出しかけた足をその場にとどめた。 「ちょっと待って!あんた達は何者なの!?」 「何者だと!?てめぇらこそ何者だ!!」 立っている4名のうち、一番年長者らしき男がおびえながらも応えた。 「あたし達は怪しい者じゃあないわ!」 とりあえず、身の潔白から言った方がいいだろう。 しかし、頭に血がのぼっているせいか、はたまた恐怖を来したためか男は殺気を崩そうとはしない。 「怪しくないだと!?変な格好したうえに男二人で山の中にいて何が怪しくねぇんだ!」 ぷちっ。 「爆裂陣っ!」 づごもおぉぅんんっ!! 倒れてる者もそーでない者もまとめて吹き飛ばし、短い戦闘は終わりを告げたのだった。 「さて、ちゃっちゃと吐いてもらいましょーか?」 男達をまとめて一縛りして、あたしは友好的に話しかけた。 「なぁんであたし達を襲ったりしたのか!」 「なっ・・・!あたしってことは女かお前!」 「まさか!こんな胸無い女いるわけが・・・」 「爆炎舞」 きゅごごごごぉんっ!! 殺傷能力の低い火炎系呪文を唱え、ひとまず黙らせてから再度問うた。 「さて、も一回だけ尋ねるわ?お互いの事を考えると素直に答えた方が得なのはわかってるわね?」 「お前それじゃ悪役だよ」 ぼそりと言ったガウリイの突っ込みは無視して。 「なんで、いきなしあたし達を襲ったの?」 リーダーなのか、体格のいい30才絡みの男が顔を上げる。 「・・・こちらも聞きたい。あんたらはティーク鶏どろぼうじゃあないのか?」 「質問を質問で返したわね。ま、いーわ」 そこであたしは髪をふぁさりとかきあげた。 「つまり、あんた達の村、もしくは個人かもしんないけど、ティーク鶏が盗まれてるってことね?」 こくりっと男が頷いた。 「そんであたし達を犯人かと思い、襲撃したってこと?」 今度は全員が一斉に頷いた。 「なるほど」 「じゃあ、あんたらは犯人じゃあないんだな?」 「いやぁ、犯人もなにも。俺達は昨日道に迷ってたまたまこの山に入っちまっただけなんだ」 あたしの代わりにガウリイが頭をポリポリと掻きつつ答えた。 「道に?」 「そうなんだ。ゼフィール・シティに向かっているところだ」 「迷おうと思って迷えるところじゃないぜ?ここは」 「いやあ、こいつがさー、近道があるって言ってうろうろしてる内にさ」 そう言いながらにこやかにあたしの頭に手を置くガウリイ。 ずごしゃああっ!! 余計な時に余計な口ばかりたたくガウリイに蹴りを食らわせつつ、あたしは男達の方へ目を遣った。 「じゃあ、誤解も解けたってことだな!」 「さそっくこの縄を解いてくれよ」 わざとらしい程に明るく言う男達に、あたしは出来る限りの冷笑を浴びせた。 「なぁにが誤解よ。いっとくけど、あんた達がやったのって傷害事件なのよ?」 あたしに言葉に男達は目を丸くして、 「・・・っな!傷害って!」 「おれらは何もしてねーだろーが!!」 「むしろあんたらがおれらにケガさせてんじゃあねーか!」 ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる。 「ふん。そんなの結果論でしょ?あたし達がただの旅人だったなら、どーすんのよ?」 「いや、それはそーだが!」 「それに。あたし達は身にかかる火の粉を振り払っただけよ。正当防衛ってやつだわ」 「ンなむちゃなっ!!」 あたしの正論に男達は、半泣きでうろたえた。 「むちゃなもんですか。役所に行ってもいーのよ?」 にっこりと笑うあたし。 しばしの沈黙。 やがて、リーダー格の男が、あたしにこう言った。 「何が望みなんだ・・・?」 よしっ!その言葉を待っていたのだ!こっちは! なんて感情を面に出さずにあたしは、思わせぶりにこう言った。 「あんた達の村に招待して、なおかつあたし達にお詫びを示して欲しいだけよ」 そんなあたしをガウリイは怪訝な顔で見つめている。 ああ、事件がまだ起こらないですぅ!! 次からは事件・捜査になります!! |
12133 | お待ちしていました♪ | MIYA E-mail URL | 10/12-21:52 |
記事番号12131へのコメント あごん様 今晩は、MIYAと申します。 あごんさんがここに投稿を始めたときからファンをさせて頂いていて、 次の作品はいつかなぁとずっとお待ちしていたので、今回の連載開始は とても嬉しいです。続き、楽しみにしていますね♪ ガウリイの紹介方法を悩んでいるリナを微笑ましく思いつつ・・・ MIYAでした。 追伸: 某ガウリナ系有名サイト様のチャットに、あごんさんの隠れ ファンが一杯いたりするので、今晩は皆で喜びたいと思います(笑) では。 |
12134 | うはーーっ!恐縮ですぅ! | あごん E-mail | 10/12-22:23 |
記事番号12133へのコメント 今晩は、MIYAと申します。 >こここんばんは(狼狽気味)、あごんと申します。 あごんさんがここに投稿を始めたときからファンをさせて頂いていて、 次の作品はいつかなぁとずっとお待ちしていたので、今回の連載開始は とても嬉しいです。続き、楽しみにしていますね♪ >ひゃあ〜、恐れ多いですぅ!ファンだなんてっっ! できるだけ早く続きを書こうと思っております。お待ち頂ければ幸いです。 ガウリイの紹介方法を悩んでいるリナを微笑ましく思いつつ・・・ MIYAでした。 >あはは、うちのリナはかわいくないんで(笑)、そう言っていただけて光栄です。 追伸: 某ガウリナ系有名サイト様のチャットに、あごんさんの隠れ ファンが一杯いたりするので、今晩は皆で喜びたいと思います(笑) では。 >ひゃぁぁぁ。もーなんかひたすら有り難うございます! 精進してがんばります! 一応、推理小説的なところもあります。 犯人当てでもやろうかしら(笑)。 |
12137 | I long for your love(後編の1)←またかいっ! | あごん E-mail | 10/13-00:10 |
記事番号12131へのコメント 「どーゆー事なんだ?」 そうガウリイが尋ねてきたのは、連中一一ルーテイア村の自警団だそうだ一一の縄を解き、山を下りはじめてすぐの事だった。 「どーゆー事って?」 あたしはそううそぶいた。 すでに空は白々と明け始め、春の山は冴え冴えとして、木々は陽の光を浴びることを望むかのように薄緑の葉を広げている。 もういくばくかすれば、夜は完全に明けるだろう。 「だから、なんでンな脅迫まがいのことする必要があるんだって事だよ」 いつものように、あたしにだけ聞こえる声でそう囁く。 「脅迫?あたしが?人聞きの悪いこと言わないでよね、ガウリイ」 「誰が見ても脅迫にしか見え・・・いたたたたたっ!痛いっ!こらリナ!」 なにやら乙女心を傷つけるよーな事を平気で言おうとしたガウリイの両耳を思いっ切り引っ張った。 「いーい?ガウリイ。これは脅迫じゃなくて、提案ってゆーのよ」 「提案って・・・」 「そっ。提案よ」 あたしはことさら声を大きくして、ルーテイア村の自警団の方々に聞こえるように言った。 「何をどー言い繕おうとも、あの人達が傷害・暴行の犯人であることには変わりはないわ」 幾人かが軽く身じろぎをするのが視界に入った。 ふむ、なにやら不満でもあるよーだが。 「例え未遂に終わろうとも、罪は罪」 「・・・・・・・・・」 ガウリイが目だけで天を仰ぐ。 「でも、聞けばそちらも事情あり。あたしだって鬼じゃあないわ」 全員の歩みが完全に止まった。 「なんでも村の特産物である、ティーク鶏が何者かによって盗まれているとかいないとか」 「いや、いるとかいないとかじゃなくって、盗まれてるんだっつーの」 自警団の隊長さんがすかさずつっこむがそれは無視。 「役所に届けてもいーけど、村の人の心情を考えるとそんなことできないわ」 「だったら、そのまま素通りすりゃいーじゃ・・・いたたたたっ!」 「話は最後まで聞くっ!!」 言って、さらに両耳を引っ張る手に力を込める。 「でもこっちだって聖人君子じゃないわ。だったら、一番いいのは謝罪の念を形に表してもらうことが最良だわ」 「・・・・・・・・・・」 「これで両者の間には何のしこりも残らないわ」 「・・・・そーかなぁ」 ガウリイがどこか釈然としない様子で呟いた。 「そーよ。どんな罪だろうと償われたり、償ったりした瞬間に加害者も被害者も楽になるんだから」 「うーーん。難しいことはよくわかんねぇけど・・・」 そう言って、ガウリイは微苦笑すると、 「あんまメチャ言うなよ、お前」 あたしの頭をぽんぽんっと軽くたたいた。 「子供のワガママみたいに言わないでよ」 あたしも小さく笑って、ガウリイの耳から手を離したのだった。 「で、あの〜〜〜、謝罪の念はどーやって表せばいいんでしょーかねぇ?」 やや脅えたように隊長さんが声をかけてきた。 その顔にはありありと、 「とんでもねぇことぬかすんじゃねーだろーなこのアマ」 という文字が書いてあったのは言うまでもないだろう。 「ふっ。心配いらないわ。現金よこせなんて夢のないことは言わないわ」 「えぇ〜と、じゃあ、何を?」 あたしはマントをばさりと翻し、一同の顔を見渡した。 「ティーク鶏の卵のフルコースで手を打つわよ!」 ずざざざぁぁっっ!! あたしが高らかに宣言した途端、ルーテイア村自警団の全員がその場につっぷした。 「な、なんだ?どーしたんだ?」 わけがわからず、ガウリイが狼狽しつつあたしの顔とへちくたばった自警団とを見比べている。 「ふっ。肝っ玉の小さい連中ねー」 あたしは無意味に髪をかきあげたのだった。 ティーク鶏。 この鶏は、ゼフィーリア王国の北部地方にしか生息しない鶏である。 まあ、もう野生の個体は見ることもないから、飼育といったほうがより正しいのだが。 しかし、この鶏自体の価値は決して高くはない。 この鶏の産む卵にこそ価値があるのだ。 そう、おそろしく高いのだ。 一般家庭の食卓に上ることは皆無といっていい。 市場の出る前に、上流家庭、もしくは金満家達の手に流れるのだ、この卵は。 なんでも、一羽に対する出卵率がかなり低いらしい。 つまり、選ばれた人間だけが食することのできる選ばれた卵! それがティーク卵なのだ!! 「たかが卵のフルコースでがたがた言わないでよねぇ」 さらりと言ったあたしの言葉に、自警団の方々が口を揃えて叫んだ。。 「金銭に換算すりゃいくらつくと思ってんだ!」 「なんだなんだ、そんなに高いのか、それ?」 ガウリイがのほほーんと聞いてくる。 「ん〜〜、まあ、見当もつかないくらいかな?」 見れば、累々と横たわったままの自警団も何人かはケイレンを起こしてたりする。 う〜〜みゅ。 「お前なぁ、ちょっとは譲歩しろよ」 困った顔でガウリイが半ば死体と化した自警団を眺めやる。 「しょーがないわねぇ、じゃあ、あたしとガウリイに5個ずつでどう?」 千歩譲ったあたしの言葉に、 「3個ずつ!!」 隊長がよろめきながら立ち上がる。 「む。5個よ、これ以上はまかんないわ」 「せめて、4個!!」 う〜〜〜みゅっ! しょーがない!元々棚ぼただったし! 「オッケー!それで手を打った!!」 そんなわけで、あたし達は意気揚々と山を下りたのだった。 なぜか、自警団のみんなは涙なんぞ流していたが。 山を下りて、少し歩いた所にその村はあった。 「ひぇ〜〜〜、小さい村ねぇ」 それがあたしの第一印象だった。 はっきし言って、ちょいと大きな街の一区画くらいしかない。 「ほんと、小さい村だなぁ〜」 ガウリイも感嘆とも取れる感想を口にした。 「とりあえず、村長の家に行きましょう」 「なんでよ。別にいーわよ、すぐ頂戴。た・ま・ご」 にべもなくあたしが言うと、 「よくないわぁっ!!勝手に村のモノを渡すわけにいくかぁっ!」 滝のよーな涙を流しながら、隊長が叫んだ。 「メンドくさいわねぇ。わかったわよ、行くわよ」 あたしが情にモロイことをいいことに、調子に乗っちゃって。 ブツブツと軽く文句を言いながら、隊長の後をついていったのだった。 まさか、またしても妙な事件に巻き込まれるとはあたしもガウリイも想像だにしていなかったのだが。 ああ〜〜事件が起こらないですっ!! すいません!次こそ事件が!! 起こりますよーに☆←いや、お前次第やねんって。 |
12139 | I long for your love(後編の2) | あごん E-mail | 10/13-23:51 |
記事番号12137へのコメント 「話はわかりました」 そう重々しく、とゆーよりもったいつけた言い方で口を開いたのはルーテイア村の村長、ハワードさんだった。 ここは村長宅の応接間である。 派手な装飾は全くないが安っぽさも感じさせない、調和の取れたなかなか上品な部屋である。 ハワードさんは40才過ぎといったところか。 村長と呼ばれるには若い気もするが、その眼は温厚には遠い光を放っている。 やり手の若長といった印象を、まずあたしは持った。 「そうですか。では善は急げ。ティーク卵を計8個、今すぐいただきましょう」 ともすれば、緩んでしまいそうな顔の筋肉を引き締めあたしは言った。 「何を言っているんですかな、お客人?」 「は?あたしは故郷じゃ、滑舌のリナって呼ばれてるんですけど?」 わけわからん事を言ったハワードさんに、あたしはすかさず言い返した。 ハワードさんは小さく苦笑すると、右手に持った葉巻に火をつけた。 「いえ、言葉がわからないと言ってるんじゃないですよ」 「は?じゃあ、何がわからないんですか?」 「そのティーク卵8個、というのがわからないと言ってるんですがね」 やれやれ。 あたしはため息をつきたくなった。 「今からまた交渉しよーって気?」 ここで一旦言葉を区切ってから、 「最初に言っとくわ。これ以上退く気なんてないわよ」 真正面からハワードさんと睨みあった。 「交渉なんてものする気もないですがね」 さらりとハワードさんは受け流す。 なるほろ。 「つまり、ティーク卵をあたし達に渡す気なんてさらさら無いっと。そーゆーこと?」 「そういう事になりますな」 いけしゃあしゃあと言い放つ。 むかっ。 「じゃあ、役所の方に訴えるわよ?」 「お前、それこそ脅迫じゃねーか」 呆れた口調でガウリイが言うが、それは無視することにした。 「いいですよ」 しかし、ハワードさんはにこりと笑みさえ浮かべながらそう言った。 「なっ・・・」 あたしは思わず呻いてしまった。 と、同時に顔をしかめてしまったのが自分でもわかった。 「表情に出てますよ、お客人」 これがまさしく余裕の笑顔とゆーやつか。 あたしもよくやるが・・・。 くぅっ!他人にされるとこんなにもムカツクもんだったのかっ! 「確かに暴行事件ですな、未遂ですが」 ハワードさんは朗読でもするかのような口調だ。 「しかし、聞けばどう考えてもそちらが先に手を出してますな」 「先手必勝よ」 「ましてや、そちらにはケガ一つない」 「当たり前よ。ケガ一つでもしてたら自警団ぜーいん、親が見ても我が子の判別がつかない顔にしてるわよ」 話の終着点がわかってしまったあたしは、へらず口しか言えなかった。 「役所に行ったところで、金貨3枚以内の罰金」 あたしはゆっくりとため息をつく。 「そーよ。事情を話せば、厳重注意って処置も大いに考えられるわ」 しょうがなく、あたしは話の終着点を自分で言ったのだった。 「やはりわかっていたんですな?」 「まーね」 伊達に場数は踏んでいない。 ましてや、ゼフィーリアは刑罰が他国に比べ甘いことで有名である。 「えっと・・、どーいうことだ?」 ためらいがちにガウリイがあたしの顔を覗く。 「つまり、おいしーい、たかーい幻の卵を食い損ねたってことよ」 「・・・悪い事はできないってオチか?」 すぱぁぁぁあぁぁんっ!! あたしが履いていたスリッパを神業的な速さで手に取り、ガウリイの後頭部を力一杯殴った音が室内にこだました。 「しかし、このままで済ます気もないですよ、こちらも」 「・・・どーゆーこと?」 「言葉通りに受け取って頂ければいいですが」 ハワードさんの言葉を頭の中で、ゆっくり吟味してみる。 「二通りの意味に取れるんだけど?」 あたしの言葉に、ハワードさんはまたしても苦笑した。 「良い意味の方で結構です」 「つまり、なにかしらの謝罪はしてくれるってことね?」 「ええ。その通り」 正解を答えた生徒を誉める教師のそれで、ハワードさんは応えた。 「なにをしてくれるわけ?」 「その前に、お二人の名前をまだ伺ってなかったが」 うぐっ。 そうきたか。いや、名前を先に名乗ってなかったこっちも悪いのだが。 当初の予定では、もらうモンもらったら即行で立ち去る気だったし。 しかし、である。 あたしは、自己紹介が嫌いなのだ。 何故かとゆーと、妙な噂を信じる人達が騒がしくするからだった。 故郷から離れてるとはいえ、ここもゼフィーリア王国である。 地元出身のあたしの噂が腐るホドある気がする・・・。 などと、あたしが考えてると、 「俺はガウリイ・ガブリエフ。一応傭兵だ」 先にガウリイが自己紹介をした。 それにしても、一応傭兵って・・・。 「んで、こいつがリナ。リナ・インバースっていう魔道士だ」 ガウリイがあたしを眼で指し、明るく言うやいなや。 どわわわわわわわわっ!!! そのリアクションを想像してはいたが、やっぱしムカツクもんであった。 この応接間にはあたし達の他に、ハワード夫人と、自警団。それから、村の役員かなにかだろうか、中年のおっちゃんが5人いる。 全員が全員、一斉に騒ぎ立てた。 「なっ!ゼフィーリアの泥芸人の!?」 「ちょっと待てぃっ!」 「確かに!噂通り・・いや、噂以上の同寸ぶりっ!」 「をいこらおっさん!!」 「幼児の胸と妖怪の知性を持つ、あのリナ・インバースかっ!?」 「なにメチャ言ってくれてんのよ!!」 「大体あってるじゃないか」 ぼごしゃぐわぁんっ!! 乙女の怒りの一撃をまともに顔面に喰らい、盛大にぶち倒れるガウリイを後目に、あたしはその場にいる全員に吠えた。 「大体なによ!その泥芸人ってのはっ!!」 「ははは、つまりですな」 あたしの怒りの声にも、ハワードさんはどこ吹く風で答える。 「ゼフィーリアに泥を塗るという意味と」 「塗っとらんわぁぁぁぁっ!!!」 「コレに触ると、間違いなく汚れるという意味ですな」 「誰がヨゴレじゃぁぁぁあぁっ!!」 あたしが、本能のおもむくままに一暴れしたのは言うまでもないだろう。 コン コンコン 「ガウリイ。開いてるわ、入ってもいーわよ」 扉の叩かれる音に、あたしは振り返らずに返事を返す。 「おう、じゃあ、入るぜ」 声と共に扉の開く音が聞こえ、ガウリイが入ってきた。 あたしは、読んでいた資料から目を離さずに、 「座っていーわよ」 ガウリイに椅子をすすめた。 ん、と小さく返答して座るガウリイの気配を正面に感じながらあたしはガウリイの言葉を待った。 「なぁ、なんでこの依頼受けたんだ?」 予想通りの言葉をガウリイが口にする。 「決まってるじゃない。依頼料がティーク卵だったからよ」 あたしのその返事を予想していたのか、ガウリイが言う。 「なぁ、そのティーク卵ってのは、そんなにスゴイものなのか?」 「うん。スゴイものよ」 「高いから?」 「それもあるわ」 「・・・おいしい?」 あたしはここで資料から顔を上げ、にっこりとガウリイに笑いかけた。 「ものすっごくね」 「お前は、食ったことあるのか?」 「ないわ」 「じゃあ、どーしてうまいってわかるんだ?」 「姉ちゃんが言ってたの。食べたことあるのよ、故郷の姉ちゃんは」 ふぅん、と気の無い相づちを打つガウリイ。 「それにしてもなぁ。メンドくさくないか?」 「依頼内容のこと?」 「そ。依頼内容のこと」 まあ、ガウリイが嫌がる気持ちもわかる。 その依頼内容とは、盗まれたティーク鶏の犯人を捕まえること。 要するに、地道な調査である。 あたしも普通ならこんな依頼は受けないだろう。 だが、依頼料にティーク卵を提示されたら受けないわけにはいかない。 「ま、いーじゃない。たまにはこーゆーゆっくりとした仕事もいいもんよ」 「まぁな。たまにはいいか」 「そうそ」 言って、お互い笑顔を交わす。 「とにかく、昼から本格的に調査するから、今から少しでも寝た方がいいわよ、ガウリイ」 ガウリイはこころもちゆっくりとした動作で立ち上がると、 「そうだな。夜明け前から動きっぱなしだからな」 「ん。あたしも寝るわ」 「わかった。じゃあ、おやすみ、リナ」 「おやすみ」 そう言ってガウリイが立ち去るのを見送ってから、あたしは資料に再び目を通し始めたのだった。 あと数刻もすれば、陽は中天に昇るだろう。 すべてはとりあえずそれからだ。 楽な仕事ではないが、辛い仕事でもない。 隣の部屋で横になっているであろうガウリイには憂鬱な仕事内容かもしれないが。 これもあたしの為。 「がんばろーね、ガウリイ」 そう呟き、あたしは再び資料に没頭することにした。 事件が・・・・。 起こらなかったぁっ!! ど、どーして?? 政府の陰謀か!? |
12140 | 御久しぶりです!! | 王静惟 E-mail | 10/14-13:03 |
記事番号12139へのコメント あごんさんこんにちわ! うっふっふっふっふ、後編そのn、また出てきましたね!(笑) リナとガウリイは調査の途中、一体どんな事件にあうですしょうか!? とっても楽しみです! 続き頑張って下さい! でもあの村長さん、かっこいいなあ。よくもリナの野望を打ち砕いたうえ、犯人を探し出すことまで手伝わせましたね。 村長さんのサインを貰って頂けませんかね(笑) 後編その3、期待しております! ではでは、まずこのへんで。 |
12149 | ああっ!お久しぶりですぅ(感涙)! | あごん E-mail | 10/14-22:46 |
記事番号12140へのコメント >あごんさんこんにちわ! >こんにちは、王静惟さま。こんな私に声をかけていただくなんてっ! >うっふっふっふっふ、後編そのn、また出てきましたね!(笑) >はい、私、近所でも有名な考えなしですから。 頭の中では前・中・後編で完結するはずでした(笑)。 >リナとガウリイは調査の途中、一体どんな事件にあうですしょうか!? >とっても楽しみです! >続き頑張って下さい! >一応、次からは事件編に入ります。 お待ち頂ければ幸いです。 >でもあの村長さん、かっこいいなあ。よくもリナの野望を打ち砕いたうえ、犯人を探し出すことまで手伝わせましたね。 >村長さんのサインを貰って頂けませんかね(笑) >まぁ、リナには申し訳ないんですが、人生、上には上がいるってことで。 村長さんにサインを要求したところ、 「私の妻は嫉妬深くてね」 だそーです(笑)。あきらめてください。 >後編その3、期待しております! >はいぃっ!がんばります! >ではでは、まずこのへんで。 >はい。ありがとうございました! |
12179 | I long for your love(後編の3) | あごん E-mail | 10/16-17:12 |
記事番号12139へのコメント あたしは読み終わった資料を、パサリと机上に投げ置いた。 それほど時間はかからなかった。 それは、資料と呼べる程の代物でもなかった。 大仰な飼育日記、とでもいった方がいいかもしれない。 書いてあったことをまとめると、こーゆー事だった。 ティーク鶏は、個人での飼育はなく、村で飼育されているということ。 その数は、50羽。なかなか繁殖の難しい種であるらしい。 飼育小屋は、村に3棟あり、15羽・15羽・20羽と分けられている。 事件は、今から10日前にさかのぼる。 飼育それ自体は当番制であり、7日交代で廻っている。 10日前の当番は、ローラント家。 家の主であるロバート・ローラントが、早朝の見回りをしていると、北にある小屋の一部が破損しているのが見えた。 中のティーク鶏の数を確認すると、20羽いるはずの北小屋には17羽しかいなかった。 こじ破られた網から犯人が侵入し、3羽のティーク鶏を奪い去ったのだ。 奪われた3羽は、すべて雌鳥であったという。 雄鳥はすべて無事であった。 そして、さらに8日後。つまり今から2日前に第2の事件は起こった。 場所は、東にある小屋だった。 その時の当番は、グリニー家の長女ジョイス・グリニーであった。 やはり同じく、小屋の網がこじ開けられており、同じく雌鳥2羽が消えていた。 以前は、早朝に一度見回っていたものが、最初の事件以来夜通しで見回っていたらしい。 まあ、以前は「見回り」というよりも餌をあげに小屋へ行くというモノだったのだろうが。 グリニー家も家族総出で、2時間交代での見回りであったらしい。 2日前の事はさすがに詳細に記してあった。 発見は明け方。 その日は、北小屋をグリニー家の主であるクラウス・グリニーとその次女のホープ・グリニーが交代で見回り、南小屋をグリニー夫人と長男のハロルド・グリニーが交代で見回っていた。 東小屋は、前述の通りジョイス・グリニーがその恋人とともに、やはり交代しながら見回っていた。 ジョイス・グリニーが恋人と交代し、ぼんやりと空をみていると少し離れたところから煙が登っているのが視界に入った。 ・・・あれは、我が家の方向からではないか。 そう思い、仮眠をとっていた恋人を揺り起こすと一緒に煙の立ち登る方角へと走り出した。 煙に近づくほどに、我が家に近づいていっているのがわかった。 そして。 やはり、無人のグリニー家が煙をあげていたのだ。 まだ火は小さく、恋人と2人で消火しようとした矢先に一家が収集した。 近所の人達も起きだし、あわや大惨事の所が不幸中の幸いで、納屋の一部を焼失しただけで収まった。 そして。 その間にティーク鶏は奪われたのだった。 更に1日後。 つまり昨日の午後。 山の中、あたし達が野宿していたあの山でティーク鶏の死骸が見つかったのだった。 何の為に盗んだのか。 その死骸は羽根を全てむしり取られて、体を出鱈目に切り刻まれていた。 羽根も体も、ただいたずらに散りばめられていた。 ティーク鶏は、卵に価値がある鳥である。 逆にいえば、卵以外の価値は無いのだ。 村の人間の仕業とは思えない一連の出来事に、今朝、自警団による山狩りが行われ。 あとは、現在に至るというわけだった。 「ふむ」 あたしは軽く鼻を鳴らすと、椅子から立ち上がりベッドへと足を向けた。 考えるべき事は多々あるが、ひとまず眠ることに決めた。 この村には、宿屋が無い。 だからあたし達は、村長さんの家に泊まっている。 あたしは、ベッドに入りながら、先ほどの村長さんとの会話を思い返した。 「何にせよ、私達があなた方に暴力を奮ったのは間違いがない」 暴れるあたしに、ハワードさんは静かに語りかけた。 「お詫びに金貨3枚、いや、4枚さしあげても構わないのですが・・・」 そこであたしは、ぴたりと動きを止めた。 「もし、今この村が抱える事件を解決して下さった暁にはティーク卵のフル・コースに招待してもいい」 勿論、あたしはふたつ返事で答えたのだった。 とにかく、寝不足では満足な調査はできない。 あたしは昼からの調査に備え、ゆっくりと目を閉じた。 「で、まずはどーするんだ?」 ガウリイがそう聞いてきたのは、ひとまず事件の概要を説明し終わった時だった。 説明といっても、 「高価い鶏が盗まれて大変らしい」 くらいのモンだけど。 あたし達はハワードさんに昼食を招ばれ、部屋に戻ってきている。 「ん〜、そうねぇ。とにかく現場100回よ。聞き込みからだわ」 「聞き込みっていっても、もう資料に書いてあったんだろ?」 相変わらず活動を停止した脳ミソである。 「自分の耳で実際に聞くのと、人づてに聞くのとじゃ天地の差があるものなの!」 「そぉかぁ?内容が変わるワケでもないんだろ?」 「だーかーらー、ちょっとした目の動きとか、どこでどう感情が動いたとか、そういう事が知りえるでしょ?」 「ふぅん。そんなモンか?」 「そんなモンよ」 ガウリイはやっぱり乗り気ではないらしく、終始気のない返事をするばかりだった。 「まぁ、体力バカのあんたにはつらいでしょーけど、おいしい料理が食べれるんだから」 あたしの慰めの言葉にガウリイは小さくうなずいたのだった。 「とりあえず、発見者であるローラントさんとグリニーさんの家に行きましょ」 言ってあたしは立ち上がった。 「おや、出かけるんですかな?」 玄関近くでハワードさんに声をかけられ、あたし達は足を止めた。 「ええ。ちょっと聞き込みに」 「ほぅ。どちらへ?」 ハワードさんは右手で髪を撫でつつそう聞いてきた。 「ローラントさんとグリニーさんの家です」 「場所はわかってるんですかな?」 「ええ、さっき夫人に聞きましたから」 「そうですか、では気をつけて」 そう話を切り上げ玄関に行こうとした時だった。 「あっ!おれも連れていってくれよ!」 若い男の声が、あたし達の背中にぶつかる。 振り返ると、20才前後の青年が小走りにこちらへ向かってくるところだった。 ハワードさんが大きくため息をつき、 「私の愚息です」 そう呟いた。 なるほど。言われてみれば面影がある。 「テリュースと申しましてな。今年で21才になります」 ハワードさんが息子一一テリュースさんから目を離さずそう言った。 テリュースさんは、中肉中背のなかなかの美男子であった。 黒く質感のある髪が、彼の動きに合わせて動く。 テリュースさんはハワードさんの横につくと、 「おれも連れて行ってほしいんだけど」 開口一番そう言った。 「こらっ。初対面の方のそんな口の利き方があるか!」 躾の厳しい人らしく、ハワードさんが怒鳴る。 「いえ、いいんですよ。別に」 あたしはハワードさんにそう笑って言った。 憎めない人間というのはいるものである。 彼はそういう種類の人間だった。 「わかったよ。ねぇ、お願いします。おれも調査に連れていってくれませんか?」 前半はハワードさんに、後半はあたし達に向けられた言葉だった。 う〜ん、どうしようかと一瞬考えてると、 「邪魔になるからいかん!」 「絶対に邪魔はしないから!」 父子で同時にそう言った。 「ええっと。いいですよ、別に」 あたしはぱたぱたと両手を顔の前で振る。 「村の中を案内してもらえますし、事件のことも聞きたいですし」 この言葉にハワードさんはため息をつき、テリュースさんは顔を輝かせた。 「まず、どこに行きす?」 なんだかうきうきとテリュースさんが言う。 こんな田舎だから、外から来た人間が珍しいのだろう。 ましてや相手は、噂に名高いあたしである。 「そうですねぇ、ローラントさんの家に行きたいんですけど」 「近いですよ、って言ってもこんな狭い村ですから、どこも近いんですけど」 苦笑未満の笑みがテリュースさんの口からこぼれた。 「いいですよ、敬語なんて使わなくても。テリュースさん」 あたしの言葉に、彼は笑って、 「あはは、よかった。肩がこるところだった」 くだけた口調でそう言い、 「テリーでいいよ、リナさん、ガウリイさん」 よろしく、と言わんばかりに右手を差し出す。 あたしとガウリイ、それぞれと軽く握手するとテリーはさらに言葉を続けた。 なかなかによく喋る人だ。 「あんた達も、おれに敬語なんでいいよ」 「そう?じゃあ、あたし達のことも、リナ、ガウリイでいーわよ」 「うん、わかった。リナ、ガウリイ」 少年みたいに笑う人だ、とあたしは思った。 事件、起こってますか?コレ。 起こった事件、ですよねぇ。どちらかといえば。 次からは現在進行系の事件になります。 すいません、まわりくどい書き方で。 本当に進行が遅くってもー(号泣)! |
12192 | I long for your love(後編の4) | あごん E-mail | 10/19-18:05 |
記事番号12179へのコメント 「あ、そだ。ローラントんとこ行く前に小屋でも見てみる?」 「小屋ってティーク鶏の?」 少し歩いた所でテリーがそう提案してきた。 「近いの?」 「近いし、通り道でもあるよ」 「そう、じゃあ、お願いするわ」 あたしの言葉にテリーはにっこりと笑うと、 「じゃあ、こっちだ!行こう!」 小走り気味に駆け出した。 想像よりも大きな小屋だな、というのが最初の印象だった。 敷地でいうならちょい小さ目の家くらいの広さはある。 いくら価値ある鶏とはいえ、所詮は家畜である。 そう思っていたのだが、飼育小屋独特のあの臭さはなく、中も小綺麗なものだった。 あたしがそう感想を漏らすと、 「うん、ティーク鶏は神経質な鳥でね。汚れた場所じゃあ絶対に卵を産まないんだ」 テリーはやはり笑顔でそう答えた。 「ティーク鶏は見るの初めて?」 「ええ。初めてね。話には聞いていたけど」 あたしは小屋の内部に目を走らせた。 「なあ、なんで2種類もいるんだ?」 不思議そうにガウリイがテリーを見る。 話では知っていたあたしも少々驚いたのだから、ガウリイが首を傾げるのも仕方ないだろう。 「いや、2種類もいないよ。どっちもティーク鶏だよ」 そう。この小屋には一見2種類の鳥がいるように思える。 白と黒。 ティーク鶏は、雄と雌では色がまったく異なるのだ。 あたしも、それは知っていたのだが。 余りにも違い過ぎるその形態に目を疑った。 「あっちの白いのが」 テリーの右手が上がり、白い鳥を指し示す。 「雌なんだ。んで、あっちの黒いのが」 少し右手が動き、黒い鳥を指す。 「雄。綺麗だろ?」 確かに。 雄鳥は、黒い羽根を基調としており所々に赤と緑の羽根が品良く混じっている。 そして、雌のほうは、普通の庭鶏と変わらない大きさで白一色であった。 「へぇ〜。同じ鶏とは思えないなぁ」 あたしと同じ感想をガウリイが口にした。 「だろ?みんな最初はびっくりするんだよ」 それもしても・・・。 「盗まれたのは、全部メスだったわよねぇ」 「ん?そうだけど」 「ここは北小屋でしょ?3羽も盗まれてんのに断然に白が圧倒してるのね」 元は15羽いたところから、3羽盗まれ12羽に減っているにも拘らずメスは尚も8羽もいる。 「うん、やっぱメスの方が価値があるからね」 意外かな?とテリーが重ねて聞いてきたが、あたしは首を横に振り、率直な感想を述べる。 「ううん、ただバランスが悪いとゆーか、そうゆう事を思っただけよ」 「あれ。あの家がローラント家だよ」 あれからすぐに、あたし達は北小屋を出てローラント家に向かった。 北小屋の目と鼻の先にローラント家はあった。 何の変哲もない普通の家だ。 玄関に向かい、ドアにノックしかけた時にテリーが声を出した。 「あ。ディーンだ!」 「え?」 声につられてテリーの視線を追えば、そこにはくすんだ金髪の長身の青年が左手に鍬を持ちこちらを見ていた。 「おーい!ディーン!」 大声で青年に手を振るテリー。 「知り合いなの?」 そう言いかけてあたしはやめた。 人口が200人に満たない村で知り合いも何もないだろう。 ましてや同年代ともなれば尚更のはずである。 「知り合いなのか?」 相変わらず思考が停止した脳ミソを持ったガウリイがテリーに尋ねた。 「うん。ここの家の息子だよ。ディーン・ローラントってゆーんだ、あいつ」 ガウリイに目を向けずに言葉だけで返答しながら、手を振り続ける。 「おーい!この人達がお前の親父さんに話があるってさ!」 「おれの親父に?」 ゆっくりと近づいてくるその顔には怪訝そうな表情が見える。 「そう。ティーク鶏のことだって」 一瞬。 ほんの一瞬だが、ディーンさんの眉がぴくりと動きを見せた。 あたしはその事に気付かないふりでディーンさんに話しかけた。 「ちょっとお話を伺えたらなー、と思いまして、ね」 ふぅん、と鼻を鳴らすと、 「今は畑の方に行ってるよ。まだ戻って来ないけど?」 そう言った彼の瞳にはどこか挑戦的な光があったように見えるのは、あたしの思い過ごしだろうか。 「家に入るかい?だったらどーぞ」 あたし達の横を過ぎながらそう言い、玄関のノブに左手をかけたところであたしはテリーを振り返りこう言った。 「先にグリニーさんとこに行ってみるわ」 しかし、あたしの言葉により反応したのはディーンさんであった。 「グリニーに行く気なんだったら、おれもついてくぜ」 「は?」 我ながらちょっぴし間の抜けた声でディーンさんを顧みた。 「えと、ディーンさんだっけ?関係無い人はちょっと遠慮して欲しいんだけど?」 「テリーは無関係じゃあないのか?」 あたしは頭を抱えるようにして、おおきく息をついた。 「あのねぇ。遠足じゃあないのよ?そんな大人数で動きたくないって言ってんのよ、こっちは」 そこでテリーがあたしのショルダーガードをコツコツと叩いた。 「あの、ディーンは東小屋事件の当事者だよ、リナ」 「は?」 再度あたしは間の抜けた声を出した。 「えぇと。グリニー家の長女が恋人と見回りしてたって資料になかった?」 「えっと・・・。うん、あったわね、ってことは・・・」 「そう。ディーンはジョイスの恋人だよ」 なるほろ。ならば、無関係ではないだろう。 「わかったわ。じゃあ、連いてきて。ディーンさん」 「ディーンでいい」 ぶっきらぼうにそうディーンが左手に持った鍬を置きながらそう言った。 この言葉を最後に、あたし達は無言でグリニー家まで歩を進めた。 「ええ。そうです。ディーンと交代して」 言いながら彼女一一ジョイスはディーンを見上げる。 「少し経ってから、小屋からいえば南になりますね。南に煙があがっているのが見えて」 「それでディーンを起こして、煙の方角へと行ってみた、と?」 あたしの言葉にジョイスはこっくりとうなづく。 別にどーでもいーのだが、先ほどからディーンとジョイスの手は堅く握りあっている。 はっきし言って、なんとなくムカツいているのだ、あたしは。 それにジョイスは最初から口を開く度に、ディーンの顔を見上げている。 まるで、許可を求めているようだ。 ディーンを連れてきたのは失敗だったかもしれないな。 その時だった。 ガウリイがぽん、とあたしの頭に手を置いた。 「?なによ、ガウリイ」 あたしの言葉にガウリイは、にこっと笑うと、 「別に。なんでもない」 そう言って、すぐに手を戻した。 一体なんなのだ、この男は。 暇なのかな、退屈な話が続いて。 「すぐに起こしたって事は、火事かもしれないなって思いました?」 あたしの言葉にやはりジョイスはディーンを見上げる。 「いえ、その・・・。火事とは思いませんが・・・」 ややしどろもどろに答えるジョイス。 「普通、夜明け前に煙が見えたらなんらかの失火と思うだろう?」 「あなたには聞いてないわよ、ディーン」 ぴしゃりと言い放つ。 ディーンはふん、と言わんばかりに横を向いた。 「ええ、何かの失火ではあるかなって思いました」 「・・・・そう」 やはり失敗だった。 ジョイスが自分の意見を口にしないのだ。 「・・・放火、だったそうね?」 「ええ。でも、前日に大雨が降ってたから。建物自体がまだ濡れていたんでしょう、納屋の一部だけで済みますたから」 「そう。まあ、不幸中の幸いよね」 「・・・はい」 不安気にディーンを見つめるジョイスに、あたしは妙な苛立ちを覚えた。 「いつからだったの?グリニー家の当番は」 「事件の起こる、・・・3日前ですね」 「・・・ありがと。参考になったわ」 そう締めくくろうした時、 「なにが参考になったんだ?」 まるでガウリイのような事を口にしたのは、テリーだった。 をや。 テリーが言うとは思わなかったあたしは、まじまじと彼の顔を見た。 言うとしたら、ディーンかと思ったのだが。 「いや、社交辞令みたいモンよ」 あたしは、小さく苦笑してテリーにそう言った。 「あ、そーだ。ガウリイ?」 「ん?なんだ?」 そうあたしがガウリイに言ったのは、グリニー家を後にして少し経った頃だった。 ちなみにディーンはグリニー家に残ったから、今は3人で歩いている。 「さっき。なんだったの?」 「さっき?」 「そ。ほら、あんたいきなし頭に手を置いてきたじゃない」 「ああ。あれか・・・」 ようやく思い至ったのかガウリイは笑いを噛み殺すように、 「清涼剤、かな」 「は?」 「お前がさ、なんか父兄参観にお父さんが来なかった子供みたいな目をしてたからさ」 「・・・どゆ事?」 「そーゆー事」 「わっかんない事言うわねー、ホント」 「いやいや、おれにはわかるけど」 そう話に割り込んできたのはテリーだった。 なんだか愉快そうに笑いながら。 「だって、それまでリナの顔が恐かったけど、それからちょい優しい顔に変わったよ」 「・・・・・?そう?」 よくわかんないけど。 「さて、じゃあ、どこ行く?」 ガウリイがあたしとテリーに目を向ける。 「ん〜〜、そぉねぇ」 ローラント家は、まだ帰ってないだろうし。 「山に行くわ」 「・・・鶏の殺されたところ?」 テリーの言葉に大きくうなづき、 「そう。案内してくれる?」 テリーに向きなおり、あたしはそう言ったのだった。 はいっ!またまた話がすすみませんでした! すいませんっ♪ 次回こそは! 起これ!事件よ!! |
12206 | I long for your love(後編の5) | あごん E-mail | 10/25-00:14 |
記事番号12192へのコメント 山は一刻一刻とその姿を変える。 明け方の山はどこか気怠い表情を見せるし、夜の山は不安気だ。 夕闇に包まれる山は妙に居心地の良さを感じさせ、朝の山は瑞々しい。 そして、昼間の山は活発ささえあふれる。 「綺麗な山ね」 「うん?手入れが行き届いているって意味?」 独白のつもりだったのだが、テリーが律儀に応じる。 「まぁ、そういう意味もあるけど」 「うん、この山はね、国が所有してる山なんだよ」 「へぇ!国が?」 珍しそうにガウリイが声をあげる。 たしかに。 山とか河とかそういった自然は領で管理するのが普通である。 まあ、領地も国王から領主が預かっているものなのだが。 「そう。国王直々の管理下にある山なんだ」 「へぇ。それは確かに珍しいわね」 「そうだろ?だから、俺たちが入れる所なんてたかが知れてるんだ」 幾分か歩調を緩めながらテリーが言う。 「狩りにしろ、山菜採りにしろさ」 「でも、なんでなの?」 「なんでって?」 あたしの質問にテリーは眉を上げた。 「だから、何かの理由があるでしょ?国王直々の管理だなんて」 「ああ、そのことか・・・」 言いかけたテリーの言葉にかぶさるように。 けぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 今まで聞いたことのない種類の声が耳に届いた。 「なっ!なに?今の!?」 「・・・鳥、の声じゃあないのか?」 小さな狼狽を見せるあたしに、ガウリイが自信無さ気に答える。 「と・・鳥・・・?」 言われてみれば、そう取れなくもない。 「そう。鳥だよ。そして、その鳥が理由なんだ」 テリーが木々しか見えない山中へと視線を動かす。 「鳥が?どうして?」 「ただの鳥じゃないからだよ」 けぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 怪鳥の雄叫びが今一度、山中に木霊する。 「ケアヌ鳥なんだ、あの声の主は」 くけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・っ そう言いながら微笑するテリーの顔に、ケアヌ鳥の叫びが重なる。 なんだか、ひどく場違いな印象を持った。 優しく笑うテリーのその表情に。 「ケアヌ鳥ですって!?」 あたしは思わずそう叫んでいた。 「なんだ?有名な鳥なのか?」 「有名も何も!ゼフィーリア王国指定の絶滅絶対危惧種よ!」 「・・・・・・・・・・・ぜ?」 あたしの言った内容を、おそらく10分の1も理解できなかったであろうガウリイが、目を点にして聞き返す。 「よーするに、この世からいなくなる心配のある鳥なの!」 「ほお!」 「そう。この山でしか観察されてないんだ。ケアヌは」 「なるほりょ。それで国王直々ってわけね」 「そうゆーこと」 「へえ」 「・・・ちゃんとわかってんの?あんた」 あたしのジト目にガウリイは心外だ、と言わんばかりに、 「わかってるよ!その鳥を守る為にってことだろ?」 「おお!そうよ!やればできるじゃなぁい!」 あたしの手放しの誉め言葉にも、ガウリイはため息なんぞついて、 「お前なー・・・」 と、口をとがらせたが、すぐさまあたしに向き直り、 「しかし、なんでまたその鳥は滅びそうなんだ?」 そう言葉を継いだ。 「そりゃ乱獲よ。お約束でしょ」 「お約束なのか・・・?」 「そーよ。そんなの昔からの決まり事よ」 古来から絶滅に瀕する、もしくは絶滅した動物のほとんどが人間による乱獲である。 「たしか、ケアヌ鳥ってのは・・・」 「全身がお宝なんだよ」 あたしの言葉を先読みしたかのようにテリーが言う。 「そうそう。羽根は布になるし」 「くちばしは薬になるしね」 「内臓もそのほとんどが薬になるはずよ」 「肉もうまいらしいし」 「捨てる箇所が無い鳥なのよ、ケアヌ鳥ってのは」 「・・・・ふぅん」 交互に口を開くあたしとテリーに半ばへきえきとしたのか、ガウリイは小さくうなづくだけだ。 「そして、ケアヌ鳥のどの部分をとってもそうなんだけど」 けぇぇぇぇぇぇ・・・・ 遠いのか近いのかもわからない。 滅びゆく鳥の声が。 あたし達を取り囲むように響く。 「すべての部位は、高価格にて売買されるわ」 「この辺なんだけど・・・」 テリーが呟く。 山に入った頃には中天にあった太陽も、わずかばかり傾いたようだ。 「・・・迷ったとか言わないでしょうね?」 「いやいや、迷ってはいないよ」 そう言いながらも首をかしげつつ歩を進める。 それにしても。 まさしく獣道である。 「ねぇ。誰が見つけたの?ティーク鶏の死骸は」 ガサガサと草を分けつつあたしは聞いた。 「え〜と。確か、アンジェ達だったかな?」 「何で見つけたわけ?」 そこいらの事情は資料には記していなかったのである。 「キノコ採りだったかな?奥に行き過ぎてしまって、見つけたんだよ、うん」 「そこはそんなに山奥だったわけ?」 「いや、国の管理区域に入った辺りだよ」 なるほど。 「国の管理区域には村人はあまり近づかない?」 「うう〜ん。時と場合によるかなぁ?」 「たとえば?」 あたしの言葉にテリーは苦笑すると、 「まあ、本当は入ると駄目なんだけどさ。狩りとかで獲物が少なかったりするとね」 そう言ってから、これはオフレコだよ、と軽くつけたした。 あたしは軽く笑ってそれに応えた。 「わかった」 ガウリイも同じく笑い、テリーにうなづく。 あたしは、それからは少しばかり思考の海へと潜り、犯人像を形造ろうと試みた。 しばらく無言で進むと、テリーがあたしの名前を呼んだ。 「この先だよ。でももう死骸は無いよ?」 「いーのよ。現場を見ときたいだけだから」 「あ、気を付けて。3日前の大雨で土が崩れやすくなってるから」 「オーケー」 そういえば、ジョイスも3日前に大雨が降ったって言ってたな。 なかなかに傾斜のきつい場所だったので、あたし達は歩くだけで神経を使った。 なるほど。 この辺りだけ、今まで歩いてきた道とは土色が違っている。 「おっと・・・」 土に足を取られたあたしをガウリイの腕が支えた。 「おいおい、大丈夫か?」 「だいじょーぶよ」 心配気なガウリイにあたしは強がりでなくそう言った。 このにーちゃんは過保護な部分があるのだ。 もう子供じゃあないのにね。 たしかにもうそこで、惨劇をかいま見れるのは散らばった無数の白い羽根だけだった。 おそらく大量に流されたであろう血も、すでに大地が吸っていた。 うう〜みゅ。 無駄足だったかも、やっぱし。 などとあたしが考えていると、ガウリイが声を上げた。 「あれ?ちがう色の羽根がある・・・」 「え?」 言われてあたしも見直したが、全て白い羽根にしか見えない。 「どこよ?」 「そこ。あ、あっちもだ」 言いながらガウリイが歩く。 羽根が散らばった所でしゃがみこむと、 「ほら、見てみろよ。リナ」 手であたしを招く。 「ん〜?どれよ?」 ガウリイの隣に同じようにしてしゃがみこむ。 「・・・・ホントだ・・・」 白い羽根に交じり白灰色の羽根があった。 一見しただけでは誰も気付かないであろう、その羽根はたしかに二種類あったのがわかった。 ガウリイだからこそ、見つけられたのだ。 色の違いなんてほとんど無いに等しい。 しかし、よく見るとそれは羽毛の種類の違いさえ見て取れた。 「・・・・・・・・・・」 この羽根の形態は・・・・。 「テリー。ケアヌ鳥ってのは、水鳥だったわね?」 「え!?え・・・あ、う・・うん」 あたしに突然なことを聞かれて戸惑ったのか、テリーが答える。 「ケアヌ鳥って、何色なの?」 「・・・白、に近い灰色、かな?」 「そう。ありがと」 それだけ言ってあたしは立ち上がった。 「あの、話が見えないんだけど・・・?」 「ああ、そうね・・・」 説明しようと、テリーの顔を振り仰いだその時。 あたしはたしかに見た。 テリーの瞳に浮かぶ、恐怖にも似た揺らぎを。 その小さな怯えを。 そう。 追い詰められた者が見せる瞳を。 その瞬間に、あたしの脳裏にいくつかの事柄が横切る。 ・・・・・おかしい。 テリーの言動に矛盾点がある。 村に戻ってから、いくつか確認しなければならない。 もし、あたしの想像が確かだったなら。 テリーは犯人、もしくは犯人に近い人間だ。 「・・・そうね。説明は、村に帰ってからよ」 そしてあたし達は山を降りはじめた。 けぇぇぇぇえぇえぇぇっ!! 先ほどより幾分がケアヌ鳥の声を近くに聞きながら。 ひゃあ。やっとこ本題に入りました♪ いよいよ事件は佳境へと突入します! お待ち頂ければうれしいですぅ! |
12227 | I long for your love(後編の6) | あごん E-mail | 10/30-06:58 |
記事番号12206へのコメント 山を降り村に着いた頃には、世界は既に昼下がりの空気の中にあった。 小さな田舎村は、長閑な大気の溶けこんでいる。 下山の途中あたし達は口をきいていない。 あたしはあたしで考えをまとめる事に集中していたし、テリーはテリーでちらちらとあたしの表情を窺い、何か言いたげではあったが結局何も言わなかった。 ガウリイは・・・。 多分なにも考えていなかったんだろーけど。 「どーするんだい?今からは」 やはりどこか脅えたように、テリーがそう問うてきた。 先ほどからの彼のこのような態度に、あたしは妙に神経を逆撫でられていた。 「そうね。とりあえず。アンジェさんとやらの家にでも行ってみるわ」 テリーは少しばかり意表を突かれたのか、わずかに眉を上げた。 いきなり村長の元へ行き、事件の真相を話すとでも思ったのだろうか。 「だ、第一発見者だから?」 「・・・そうよ」 物事には順序というものがある。 まずは証拠固めからである。 「勿論、案内してくれるわよね?」 それだけ言って、あたしは村へと入っていった。 「ここだよ。ここがアンジェの家だよ」 そうテリーが言ったのは、村の西にある赤い屋根の小さな家だった。 小さな、と言っても一般論の範囲である。 この村の中では、まあ、普通だろう。 テリーが扉に近づき幾度が叩くと、内から女性の声が応えた。 「あら、テリー。どうしたの?」 そう明るい声で言ったのは、女性と形容するにはまだ早い少女だった。 年の頃なら、12・13才。 茶色の髪を肩で切り揃えたなかなかに愛敬のある顔だった。 「この人たちがね、話を聞きたいんだって」 「話?」 年相応に小さく眉をひそめてからあたし達を見た。 怪訝な色はその瞳になく、代わりに見えるのは好奇の色だった。 「なになに、何の話し?」 「んとね。ティーク鶏を発見した時のこととかね」 「うん、いいわよ。入ってよ。どぉぞ」 そう言って小さな手があたし達を招き入れる。 「あ、そうだ。俺はもういいのかな?」 あたしが扉をくぐった途端にテリーが口を開いた。 ・・・やっぱし、ね。 勿論そんな事をおくびにも出さずにあたしはテリーを返り見る。 「テリー、あなたチェスできる?」 唐突なあたしの質問に彼は目を丸くし、 「え・・・。うん、まぁ、できるけど・・・」 消え入りそうな声でそう答えた。 「そう。良かった。ガウリイがチェスを覚えたがってたの」 あたしの言葉にガウリイが反論するより速く。 あたしはガウリイの髪をひっつかみ、ガウリイの耳元でがなった。 「たしかそんなこと言ってたわよね!ガ・ウ・リ・イ!」 「いたたたっ!痛ぇっ!」 抗議しようとしたのか、あたしと正面で向き合う形になり、あたし達はばっちりと目を合わせた。 あたしの瞳にある真剣さが伝わったのか。 「・・・言ったな、そーいえば」 ややトボケタ口調でそう続けた。 「そーゆーことで、帰ってもいいけど。ガウリイのお守お願いね」 「えっ!でも、俺・・・用事が・・・」 「用事なんて無いでしょう?あたし達の調査に今までつき合ってて」 有無を言わせないあたしの迫力に押されたのか、 「う、うん。まぁ。用事はないけど・・・」 半ば口ごもる。 「じゃあ、お願いね」 それだけ言って、あたしは二人に背を向け家屋の奥へと足を進めた。 はっきし言って、テリーには聞かれたくない話をするつもりだったあたしとしては、テリー自らに場を離れたいと言われたのはラッキーだった。 当然そう言うのはわかっていたことだったが。 しかし、あたしから離れられては少し困るのも確かにあった。 そこで、ガウリイである。 ガウリイを見張りにつけておけばいいのだ。 だが、見張りなんてものは普通つけてもらいたくない代物である。 そしてあたしは一計を案じた。 チェスを教えてもらうという口実を作れば、否応なくテリーはガウリイといなければばらない。 ましてや相手はあのガウリイである。 ルールを覚えるなんて簡単にできないだろう。 つまり。 テリーと別行動を取りながらも、彼を見張れる。 なおかつ時間稼ぎも出来るとゆー、一石二鳥な計画なのだ。 テリーがチェスをするだろうことは予測できた。 ハワード宅にはいくつかのチェス盤があったからだ。 アンジェに聞くべきことはひとつだけ。 そして。 この後に寄ろうと思っている人にも。 同じ内容を聞くだけだ。 「あなたはどんな行路で現場に行ったの?」 それだけだった。 それを確認さえすれば、テリーへの疑惑は確信へと変わるだろう。 彼が犯人だということの。 「おや、リナさん。おかえりなさい」 玄関先で、ハワードさんはあたしを向かえてくれた。 「ああ、ども。ガウリイとテリーは?」 ハワードさんは右手の親指で上を指すと、 「熱心にチェスの勉強をしてますよ」 にこやかに応えた。 「そーですか。それはそうとハワードさん」 「はい?」 「お話があるんですが、宜しいですか?」 確信を得たあたしは、ハワードさんの静かな目を見据えた。 「つまり、ティーク鶏はダミーだったんですよ」 あたしの言葉にハワードさんは左の眉をぴくりとさせた。 「ダミー、というと?」 「隠れ箕です」 「・・・続きをどうぞ」 「犯人の狙いは、ケアヌ鳥だったんです」 「・・・・・・」 「ケアヌ鳥の羽根をむしり、体を刻み、売ろうとしていたと思われます」 そう。 犯人はケアヌ鳥を殺したまではいいが、散らばる羽根や血液や肉片を隠すその為のティーク鶏を奪い、羽根をむしり、肉を刻んだのだ。 たしかにどちらも価値ある鳥なのだが。 ティーク鶏に比べると、ケアヌ鳥の方が遥かに高価格がつく。 その希少価値ゆえに。 木の葉を隠すなら森の中。 羽根を隠すなら、やはり羽根の中なのだ。 「この村には庭鶏がいませんね?」 「ティークは神経質ですからね。ある範囲内に鳥類がいると卵を産まない」 「犯人には、ティーク鶏のメスを奪うしかなかったってワケになるわ」 ケアヌ鳥は白灰色の羽根を持ち。 ティーク鶏のメスは白い羽根を持つ。 「・・・なるほど」 疲れた口調で呟くとハワードさんは手を組んだ。 「さすがはリナ・インバース。よく調べてくれました」 立ち上がりかけたハワードさんを制し、あたしは言った。 「犯人にも心当たりがあります」 ハワードさんの動きがぴたりと止まった。 その夜。 テリュース・ハワードが身をくらませた。 静かに包囲されたその部屋から。 そして、事件は更の混迷した方向へと。 ゆっくりと動き出したのだった。 うひゃぁ〜。 いかがでしょう? さぁ。いかがでしょうかねぇ〜(苦笑)。 ではでは、謎が謎呼ぶ次回を乞うご期待! 別に謎なんてないですが(笑)。 |