◆−初めに−神無月遊芽(11/17-18:12)No.12358 ┣金と銀の女神0〜3−神無月遊芽(11/17-18:13)No.12359 ┗金と銀の女神4−神無月遊芽(11/18-20:36)No.12374 ┣オリジナルなんですねっ♪−れーな(11/19-22:59)No.12406 ┃┗オリジナルなんです♪−神無月遊芽(11/22-05:15)No.12429 ┗金と銀の女神5話−神無月遊芽(11/23-13:43)No.12446
12358 | 初めに | 神無月遊芽 E-mail URL | 11/17-18:12 |
こんばんは。神無月です。 自然消滅し、皆様の頭から消えうせていた小説『金と銀の女神』を投稿します。 ええと、とりあえず昔投稿していた3話をいっぺんに載せます(4話は土日かな) すこーしだけ加筆修正がありますが、あんまり変わらないので昔読んでいただいた方は無理に読まれなくても大丈夫です。 それと、非常に長いです。全部で何話になるかはまだ解りませんが、10話じゃ絶対終わりません。 しかも一つ一つの話も長いです。しかもシリアスばっか(後書除く)でおもしろくないです。 投稿も非常にスローペースになってしまうでしょうし、話もありがちです(泣) それでも読んでいただける心優しいかたは、どうぞ暖かい目で見てやってください。 |
12359 | 金と銀の女神0〜3 | 神無月遊芽 E-mail URL | 11/17-18:13 |
記事番号12358へのコメント …長いですよ。 ****** 遥かな昔。世界の初めには、二つの神が存在していた。 光の神と闇の神―。 その二つの神は、聖なる者天使達と、魔なる者魔族達。そして人を産みだし、いずこかへ消え去った。 そのせいか、世界に歪みが生じ、人の世は荒れすさんだ。 そこで天使達は、世界の影へと封じた魔を解き放ち、世界を無に帰そうと考えた。 その結果。世界を滅ぼすには至らなかったものの、全てと言っても過言ではないほどの人が死んでいった。 その後天使は、また魔族達を封印した。 そして、世界は初めに戻った。 天使達は、何度でも、何度でも。 人の世が荒れすさむたびに魔族達を解き放ち、世界を初めに戻した。 全ては理のため。誰が定めたかもわからない理と世界のために・・・ そして現在。人の世が再び荒れすさんだ。 天使達は今一度、世界を元に戻そうと魔族達を解き放った。 だが。何かの拍子に天使達に利用されていることを知った魔族たちは怒りに狂い ついには。人も、天使も、そして世界をも滅ぼすことを決意した。 そして天使達も、人の世を滅ぼしてでも魔を倒そうと決意した。 ……そしてここに、一つの物語が始まる……― そう、それは、貴方方からしてみれば、単なる英雄物語―。 世界が滅びへ向かうのを阻止する勇者という、使い古されたお話―。 でも、ほんの少しでもいい。 後に英雄と呼ばれる事になる彼らの、心の内を覗いてください―。 この戦いの答えは、一体、なんだったのか…―。 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 ここは王都からはなれた辺境の地、ターツの村。 そこは目立った特色があるわけでもなく、観光者や旅人などはほとんどといっていいほどこない。 が、豊かな自然に囲まれたこの地は、魔族たちに襲われることもなく、村人達は平和に暮らしていた。 そしてその村には、一人の少年がいた。 名はセリオス。伝承の勇者に憧れて育った少年。 いつかは自分が魔族達を倒して、平和な世界を取り戻したいと考えている心優しき少年。 その少年から、一つの物語が産まれる…― ―とある吟遊詩人の唄う伝承― 遥かなる昔、この世には二つの神の存在があった。 一つは、理と光を示す光の神。 一つは、己と闇を示す闇の神。 どちらも欠けてはならぬ、だが相容れぬ存在。 その二つの神は、世界に光と闇をもたらすと同時に、存在を産み出した。 まず光の神は、聖なる存在を産んだ。 自らの理を守らせるために。 次に闇の神は、魔なる存在を産んだ。 その二つの存在は、互いに憎みあい、数え切れぬほどの戦いをおこした。 だから二つの神は、聖と魔のどちらともを持ち合わせる存在を産みだした。 すなわち、人。 そして世界に、人が満ち溢れた。 聖なる者、黄金なる天使達は、神の意を示すために地上へと降り立った。 だがある時。人の心の闇に触れた天使達が神に逆らうことをおぼえ、地へと堕ちていった。 魔なる者、白銀なる魔族達は、堕天使達を魔に迎え入れると、天使達に戦いを挑んだ。 それは、全て己のため。 一度争いが起これば世界が闇に還ることを知っていながら、魔を満たすために起こした戦い。 その時、一人の人間の男が現れた。 その者の名はアロス。地上に光をもたらした正義の使者。 その者は光輝く大剣をふるい、一瞬のうちに魔を散らした。 天使達はそれを期に、魔を魔界と呼ばれる場所へと封印した。 争いの終わりと、魔の消失で、人々はアロスを勇者として迎え入れた。 そしてここに勇者アロスの名が受け継がれる― 第1部 覚醒編 1章 始まりの歌 流れるアイスブルーの髪が風に舞う。深い青色の瞳は、見る者が驚くくらいに透き通っていた。 手には少し大きめのブロードソードが握られており、その鞘は草地に放り出されている。 今の季節にしては厚目の服は、剣の練習でもしていたのだろうか、汗でびしょびしょになっていた。 だがそれとは反対に、その表情は笑みすら浮かんでいる。 そして、どうやって見つけたのか、少年の立っている場所は小高い丘…崖といってもいいほど急なところだ。だが少年は恐れる様子もなく、荒い息遣いをしながら、真っ直ぐに正面を見つめていた。 そう思っていると、突然剣を投げ出し、草に倒れこむ…いや、わざと寝転んだようだ。 「はぁ…はぁ…」 少年はゆっくりと深呼吸を繰り返すと、その瞳を閉じた。 今日は風の精霊シルフの機嫌がいいらしい。風がとても気持ちが良かった。 少年は起き上がろうと、瞳を開けた。 その時。風が変わった。 「……なんだ?」 風が、逃げていく。何かから。そしてそれは、少年の不安に変わっていった。 少年が急いで起き上がると… 「セリオス!いねぇのか!?」 向こうから声が聞こえてくる。 セリオスと呼ばれた少年は、振り返り、その人物の名を呼んだ。 「クロス?どうしたんだ?」 クロスと呼ばれた少年は、よほど急いできたのか、肩で息をし、黒い髪を額にはりつかせながら、碧緑の瞳でセリオスを見つめていた。 よく見ると、顔に小さな傷がたくさんある。 「急いで神殿に行ってくれ。司祭の野郎が呼んでる」 「ディクス様が?解った」 セリオスは急いで剣とその鞘を掴むと、神殿への道を走った。 神殿につくと、見知った顔が目に入った。 「レイラ」 セリオスが呼びかけると、レイラと呼ばれた少女が振り返った。 肩ほどまでの金色の髪に、赤いりぼんをしている。服は丈の長い若草色のワンピースに白いエプロンをつけており、不思議なことに、その瞳は左が金色で右が銀色だった。 義理の妹のレイラだ。 「お兄ちゃん!」 セリオスの姿を認めると同時に、心なしかこわばっていた表情が緩んだ。 セリオスはそれを見て優しく微笑むと、レイラに話し掛けた。 「ディクス様は?」 「神殿の中。お兄ちゃんに話があるみたい」 「話…なんのことか解るか?」 セリオスの質問に、レイラが首を振る。 「解らないの。ディクス様が、どうしてもお兄ちゃんじゃなきゃ駄目だって」 役に立てなくてごめんね、と言って俯く。 セリオスはレイラの頭にぽんと手を置くと、また微笑んだ。 「いや、ありがとう。ちょっと行ってくるよ」 「うん」 微笑むレイラに、セリオスは微笑み返し、小走りで神殿の中へと入っていった。 見慣れた景色が広がる。 大理石の床や柱。一歩踏み入っただけで心が軽くなるのを感じる。だが神殿とは名ばかりで、中は祭壇と、神を象った像くらいしかない。 そしてセリオスは、その像に向かって一心に祈っている男性に呼びかけた。 「ディクス様?セリオスです」 ディクスと呼ばれた者が、ゆっくりと振り返った。 灰色の髪、蒼い瞳。司祭の衣を着た、初老の痩せた男だった。 「セリオス……そんなところに立ってないで、こっちに来て座りなさい。今から用件を言おう」 セリオスは焦らされているような思いを感じながら、ディクスの傍まで行き、そこにある椅子に座った。 「それでディクス様。何の御用なのですか?」 ディクスは一呼吸置いた後に、切り出しにくそうに話し出した。 「……世界が混沌に還ろうとしているのは、貴方も知っているでしょう?」 「はい…」 セリオスが苦々しく返事をした。 天使と魔族の戦い。この戦いのせいで、天使たちの護る秩序が崩れ、魔族達が溢れ、世界は混沌への道を辿り始めている。 一説では、この戦いの果てには人は一人もいなくなり、ただこの地だけが残るだけだろうとも言われている。 「私は、神託を受けました」 「神託…?」 ディクスの言葉に、セリオスの顔が歪む。 「ええ。内容はこうです。 『不完全なる夢の地。邪なる聖なる者達。 今正に闇へ還りし時、蒼き光紅き炎呼び覚まさん。 蒼き光、悲しき白銀の導きにて今を壊し、 人為らざる人に全ての夢を託す―。』」 神託を告げ終わったディクスの瞳が、真っ直ぐにセリオスを向く。 「行ってくれませんか?セリオス…勇者よ」 「!?」 セリオスが驚愕に包まれる。 「貴方には不思議な力がある。それは貴方も承知のことでしょう? あの時のことは憶えているでしょう?貴方の魂は蒼き光に包まれ、祝福されているのです」 ”あの時のこと”が何を示しているのかは言われなくても解った。 だが、心の奥底、恐怖がある。勇者といわれることに抵抗を感じる。 「……この神託にある通り、勇者とは蒼き光のことでしょう。そして世界が危機に陥っている。 …英雄となることは、貴方の望みだったはず」 「ですが…っ。僕にはそんな力は…っ」 訴えるように発言するセリオス。 冷静な司祭。 「貴方には不思議な力が宿っている。貴方が行かずして、誰が行くのですか? もし貴方が勇者ではなかったとしても、勇者を探さねばなりません。結局貴方は、旅立たねばいけないのです」 「………」 なんと言えばいいか解らない。 勇者に憧れてきたセリオス。そのチャンスが今目の前にある。 だが憧れと現実は別だ。勇者になったとしても、人々を救うという重い責任がのしかかってくる。 それを果たす自身が無かった。 「……サラはなんと?」 セリオスが幼馴染の名を口にした。 まだ幼い頃、獣に襲われていたところを助け、その時から友達になった少女だ。 一つ年上のせいか、すっかりお姉さん的な存在になっている。 「サリラは、もう旅の準備を始めています」 「……っ」 絶句した。 旅に出るというのにも驚いたが、自分が勇者などということを信じているということのほうが驚いた。 が、それを見通しているかのように、ディクスが微笑む。 「皆、信じているのですよ」 優しい瞳。 …自分が勇者などということが、信じられないわけじゃない。ただ、怖い。 だが、これに応えないわけにはいかない。 「ディクス様、支度を手伝っていただけますか?」 老いた司祭は、自分の息子のような少年に、ただ、微笑んだ。 ……… ……………………………… ……………………………………………………………………… 大きな地響きが聞こえる。 それは大きすぎて、何も感じないのか、それとも遠くて小さく聞こえるのかは、解らなかった。 そしてその地響きがなり終わると同時に、その”黒い塊”が動いた。 『………我が娘よ…―』 その”黒い塊”の前にいるものの肩が、ぴくりとふるえた。 錯覚なのか、”黒い塊”が動くと同時に、辺りの闇が深まったような気がした。 『我が愛しき娘よ。光が、動き出したようだ―』 ”黒い塊”の前にいるものが、驚いたように顔をあげた。 だがそれは、深い闇のせいで誰なのかは解らない。 それでも、まるで月の光を映したかのような、美しい銀色の髪と瞳を持っていることは解った。 『勇者のことですか…?お父様』 艶やかな唇から、すべるように言葉が紡がれる。 肩からは、その白銀の髪がするりと滑り落ちる。 そして少しの沈黙の後、その”黒い塊”が苦々しく口を開いた。 『………忌々しき勇者め。人間め。自分の瞳からしか物事を見れず、その裏にあるものを決して見ようとしない。 それ故に、勇者などという存在も出来てしまうのか……―』 だが、それとは対照的に、銀色の髪の者が、艶やかに笑った。 『お父様、安心してくださいな。その勇者、今はまだ多少訓練を積んだ人間と同じ程度……いえ、それよりも脆いでしょう。 時間を下されば、私がじっくりとその化けの皮を剥がして差し上げますわ…』 その笑みにつられてなのか、”黒い塊”が微笑んだ。 『お前は残酷だな。私に似て』 白銀の髪を持つ者は高笑いをあげると、静かにこの場から消え去った。 後には、”黒い塊”だけ……。 『………だが私は望んでいる。一刻も早く勇者が現れることを』 ”黒い塊”が、ほのかな光に照らされる。 『そして………に…………なってほしいと………』 光に照らされた、その姿は………。 大きな森があった。 迷いの森とも呼ばれるそれは、村から外へ出る時、遠回りをするならまだしも、必ず通らねばならぬ険しい森だった。 少女はその薄い赤色の髪をなびかせ、森の前でじっとたたずんでいた。 その服は旅人らしく古ぼけたマントをしており、弓を背負っている。 そして髪と同じ色の瞳は、静かに、まるで未来を見てでもいるかのように前を見つめていた。 セリオスの幼馴染、サリラだ。 「…ねえセリオス……本当にいいの?」 「ああ。レイラともお別れは済んだしね。昨日は皆で送別会をしてくれたし」 心配そうになげかけられた質問に、微笑みながら答える。 その横から、ローブの上に鎧を来た、黒い髪に碧緑の瞳の少年…クロスが話し掛ける。 「サラこそ、セリオスと一緒に旅に出るなんて言い出しやがって。大丈夫なのかよ?」 「当たり前でしょ。私は精霊とも話せるし、弓の心得もあるわ。自分の身くらい自分で守ってみせる」 「期待してるよ」 セリオスが優しく微笑んだ。 サラは一瞬顔を紅くしたものの、すぐに元に戻る。 「さ、行きましょ!!」 「おうよ!!」 サラの一声に、クロスが待ってましたと言わんばかりに叫んだ。 (どこまでやれるか解らないけど……僕に出来るところまでやらなきゃ……) そして、一歩踏み出す。 風の精霊の歌が、聞こえた気がした―。 2章 迷いの森 silver 何故人は、闇を恐れるのかしら? 闇の中に光があり、その光がまた 影を産み出しているだけなのに……。 そこは、迷いの森と呼ばれるに相応しい場所だった。 陽の光のささぬそこは、ただでさえ人々を惑わす場所だのに、変わり映えのせぬ景色、気が遠くなるような騒音、そしてそれらに疲労することにより、更に出口が遠くなる。 そして最近では、それに加え魔物達が出現する。 確かに、以前でも魔物達は存在していたが、人を見れば襲い掛かってくるほどに、凶暴ではなかった。 数も、以前のそれを遥かに超えている。 だがそれでも、ここを通るほかないセリオス達は、慎重に歩を進めていた。 「サラ、大丈夫か?」 セリオスが、汗だくになっているサリラを見かねたのか、手をさしのべた。 「大丈夫よ。言ったでしょ?自分の身くらい自分で守るって」 二人に心配させぬよう、にこりと笑うサリラ。 だが、軽口をたたきながらも、サリラの疲労は限界に来ていた。 クロスも、サリラの後ろを歩き、必死にカバーに入ろうとしている。 サリラは、猟をして暮らしている。 幼い頃からひとり暮らしを強いられていたサリラにとって、生活などたやすいことだ。 体力だって、同年代の男の子並みくらいはある。 だが、弓使いであると同時に、精霊使いである彼女にとって、精霊力の乱れはそのまま彼女への負担となる。 今この森は荒れていた。 魔物達の出現からなのか、それ以外の理由なのからは解らないが、精霊たちが極端に疲労し、狂っているものまでいる。 それが、サリラを疲労させていたのだ。 「サラ…無理しないでくれよ」 「……だがセリオス。お前もくたばるんじゃねえぜ。見てて危なっかしいんだからな」 クロスが後ろから茶々をいれた。 セリオスも、サリラから精霊使いとしての基礎を学んでいる。 精霊使い、その見習とすら言えない実力だが、それでも精霊力の変化は、確実にセリオスの体力を奪っていく。 そのことを、クロスは気付いていたのだ。 「大丈夫だよ。クロスこそ、平気なのか?」 クロスが袖をめくりあげる。 「おうよ!そのへんの魔術師共と違って、俺はびしびし鍛えてるからな!」 クロスの家は、魔術師の家庭だ。 クロスも物心つく前から魔術師として鍛え上げられてきたが、戦士としての能力の方が高く、またクロスもそれを望んでいた。 結局両親の押しに負けてしまい、魔術師の道を歩んでいるのだが、それでも身体だけは鍛えている。 彼は、貧弱なのが嫌、などと言っているが、ただ単に負けず嫌いなのだろう。 「ああ。でも勉強もしてくれよ。僕は魔術は使えないしね」 「俺様に不可能なんてないぜ」 途端、サリラから小さな笑い声がもれた。 そしてつられるように、セリオスも笑い出す。 「おい、なんで笑うんだよ。おい、教えろよ!」 クロスは、笑っている二人の心情を察することすら出来ず、ただ立ち尽くしていた。 その時 どこからか、鳥の断末魔の叫びが聞こえてきた。 そしてその叫びが聞こえてきたと思われる方向から、たくさんの動物達が、こちらに向かって移動してきた。 …いや、違う。逃げてきているのだ。 セリオス達はなんとか横に跳ね、動物達の突進をかいくぐると、森の奥を見つめた。 「なんなの!?」 「向こうからだ!」 クロスが、言うと同時に叫び声が聞こえてきたと思われる方向へ飛び出す。 「クロス!一人じゃあぶない!」 「まったく…無鉄砲なんだから!」 そしてその後を、慌ててセリオスとサリラが追う。 森を歩くなど慣れていないせいか、樹の根っこや土にすぐ足をとられてしまう。 だがそれでも、3人は懸命に走った。 そして、見てしまったのだ。 下級の魔族…そう、魔物と呼ばれる、おぞましき存在を。 蜘蛛のような8本の足、裂けたかのような大きな口、まるで血の色を思わせる紅い瞳が3つ、暗い森の中で光っていた。 そしてその大きさは、精一杯見上げてやっと一番上の部分が見れるというほどに高かった。 だが幸運なことに、それは魔物の中でも弱い部類に入る魔物だ。腕のたつ冒険者なら、一発で倒してしまうだろう。 それでも、セリオス達にとっては弱い敵でさえ強敵になってしまう。 その時、戸惑うより先に、クロスがあることに気付いた。 「へっ…どうやら、食事中に来ちまったみてえだな……」 「え…?」 クロスの言葉に、サリラが呻き声のように小さな声で返す。 するとクロスが、魔物の足元を指差した。 紅い染みが出来ている。血だ。 まわりには、肉片らしきものも落ちていた。 クロスが、冷や汗を流しながら、説明する。 「さっきの断末魔は、こいつが喰われて叫んだものだったみてえだ。そしてそれを見て動物達が逃げていた。 …見たところ、こいつは鳥を食い終わったばかり、その上、このでかい図体だ。と、いうことは……」 魔物が、口から血をたらしながら、セリオス達のほうを睨む。 そしてクロスは、言い放った。 「喰われる、な」 「来るぞ!!」 セリオスが剣を構えると同時に、魔物が空に咆哮する。 そしてセリオスに、魔物の足が襲い掛かった。 「くうっ…たああ!!」 なんとか剣で受け止め、跳ね返したものの、自分ひとりではかないそうもない。 これだけ身体の大きさが違うのだ。力も、生命力も、あちらのほうが上だろう。 「サリラ!さがって弓であいつをうってくれ!クロスは援護をしてくれ!とにかくあいつに隙を作らせるんだ!」 「解ったわ」 「まかせろ!」 クロスが呪文の詠唱に入る。 そしてセリオスに、もう一度魔物の足が襲い掛かった。 だがそれをうまくかわすと、魔物の足に向かい、剣を大振りした。 確かな手ごたえ。 『ギャアアアア!』 魔物の、セリオスに剣で切り裂かれた場所から、蒼とも緑ともつかぬ色の血が、大量に吹き出る。 セリオスは剣で、ふりかかってきた血を払い、満足げに笑った。 「よし…効く…!」 魔物の中には、まるで剣や斧、その他の物理攻撃がまったく効かない敵もいる。 それとは逆に、物理攻撃しか効かない、魔法がまったく効かない敵も。 中には、どちらも効くが、あまりに防御力があって、ダメージが通らないという恐ろしい敵もいる。 そういう敵に会えば、程度こそあれ、厳しい戦いになる。 特にセリオス達は、まだ経験も浅い。そんな敵に会ってしまったら、死ぬことまではなくても、大怪我はまぬがれない。 そのような敵ではなくて、かなりゆとりが出来た。 その時、クロスの魔法がとんだ。 「この世界を護りし神よ…闘いに身を投げし彼の者の剣に、正義の炎をともさん…!」 そして一言二言呟くと、セリオスの剣が炎をまとい、燃え上がった。 炎が効かない敵ならまだしも、これで剣で与えるダメージがかなり増えたはずだ。 「ありがとう。クロス」 「礼は敵を倒すことでかえしてくれ」 戦いの最中でも、余裕の態度をくずさないのがクロスだ。 一見魔術師にはむかないように見えるが、この冷静な態度こそが、魔術師に必要なものなのだ。 そのことを、クロスと付き合ってきて最近解った。 「たああ!!」 セリオスが魔物に突撃する。 だがセリオスが攻撃するより前に、魔物の攻撃。 セリオスはそれを後退することで避けたが、これを繰り返していたら魔物に近づけない。 ただでさえ、魔物に傷をつけたことで魔物があばれているのだから。 「くそっ…」 舌打ち。 その時、上の方から声が響く。 「さがって!!」 反射的にセリオスの身体が言われたとおりに動く。 すると目の前を矢が通り過ぎていき、魔物の第3の目に、深く突き刺さった。 サリラが樹にのぼり、そこから魔物を攻撃してくれたのだ。 『ギャアアアアアアアアアアアアアア!!』 魔物は叫び声をあげ、どくどくと血の流れ出ている目を必死にかばっている。 「セリオス!今よ!」 サリラの声と同時に、セリオスが魔物に向かって突進する。 そして魔物の目前で高く飛び上がり、 「やあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 全体重をかけて、魔物の背に剣をつきたてた。 『グウウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』 天をも切り裂くような、魔物の断末魔の悲鳴。 そしてその叫びを最後に、蜘蛛の魔物は、ぴくりとも動かなくなった。 「はあ…はあ…」 セリオスが、魔物に刺さった剣を抜く。それと同時に剣がまとっていた炎も消え去った。 そして静かに大地に降りる。だが、雑魚敵とはいえ初めての実戦。かなり疲れたのだろう、荒い息を繰り返していた。 「ありがとう、クロス、サラ」 セリオスが言葉をかけると同時に、サリラが樹から地上へ降り立つ。 「どういたしまして。かっこよかったわよ」 「ああ、言っただろ。お前から俺への礼は、魔物を倒すことってな」 二人の言葉に、いっぺんに緊張がほぐれる。 「それに、まだ森を抜けたわけじゃないわ。この森にい続ける限り、またあの蜘蛛みたいな敵がうじゃうじゃいるわよ」 意地悪そうに言うサリラの言葉に、クロスが情けない顔をする。 「サラ、勝利の気分に酔ってるときに、頭に水をぶっかけるようなことを言わさないでくれよぉ…」 途端皆が笑い出す。 セリオスは笑いながら、この二人がついてきてくれたことに感謝していた。 きっと自分ひとりでは、この魔物に勝てなかっただろう。 「…行こうか」 「ええ」 セリオスの言葉に、サリラが微笑みながら返事をする。 「おっしゃ」 クロスも力強く返事をしてくれた。 そんな二人の様子を見ていると、こう思う。 皆がいてくれれば、自分でも勇者になれるかもしれないと。 本当の親の顔すら見たことのない自分でも、誰かを救うことが出来るのかもしれないと。 そう思うのだ……。 陽の光が、静かに三人を照らし出す。 今まで森の中で暗かったせいか、目を開くことが出来なかった。 そして目が光に慣れると同時に、クロスが飛び出す。 「やっほう!セリオス!サラ!出口だぜ!!」 「見れば解るわよ。もう…」 だが、出口を見つめるサリラの顔が、段々と歪んでくる。 セリオスはそれを怪訝に思うと、サリラに話し掛けた。 「どうしたんだ?サラ」 「セリオス…見て!」 人が、倒れている。見たところ16,7の少女だ。 流れる蒼青の髪。村娘なのか、白いワンピースに革靴という簡易な格好をしている。 胸元には、お守りとして知られる魔封じの石が首から下げられている。 こんなところに倒れているなんて、おかしすぎる。だがそれより気になったのは…… 「おい!大丈夫か!?しっかりしやがれ!!」 「クロス、あんまり乱暴にゆすっちゃだめよ」 少女を心配し、必死に起こそうとしている二人を見ながら、セリオスは一人呆然としていた。 「なぜなんだ……?」 そう、ほんの一瞬だったが、確かに見えた。 あの、美しい少女の髪が、光にさらされた時、魔を表す色………銀色に光ったのを……。 「(まさか…気のせいだ)」 その考えを振り払うかのように、頭を横に振る。 「(あの子の髪はちゃんと青色だし、サラ達も見てないみたいじゃないか)」 「ねえセリオス、この子、近くの街の宿まで運んであげましょうよ」 「あ、ああ」 考え込んでいる時にいきなり話し掛けられたせいか、反応がぎこちない。 「(…そうだ、光が反射して銀に見えただけだ)」 そして無理矢理に自分を納得させると、少女に近づいていった。 3章 白き少女 gold 金の天使と銀の魔族 天使が安らぎをくれ、魔族が全てを破壊する者なんて 誰が決めたのかしらね? 綺麗な青色の瞳が、ゆっくりと開いた。 そして見慣れぬ景色と人物に戸惑いながら、気だるそうに身体をおこす。 「気が付いた?」 サリラが少女の顔をのぞきこんだ。 深い海の底を思わせるような、綺麗な蒼い髪と瞳。 透けるような白い肌。 そして整いすぎた顔立ちが、この世のものとは思えないような美しさを産みだしていた。 「私はサリラ。後ろにいるのがセリオスとクロスよ」 サリラが紹介し終わると同時に、セリオスが少女の寝ているベッドに歩み寄る。 「君の名前は?」 少女は少し戸惑い、かなりの間の後、ぽつりと言った。 「アリア…だったと思うわ」 セリオスがアリアの言葉に反応する。 「だったと思う…って……」 アリアはまた少し考えこんで、目を閉じて言った。 「よく解らないの…。記憶もあやふやで、何故今ここにいるのかすら解らないわ……」 「記憶が…ないのか?」 セリオスの質問に、ゆっくりと頷くアリア。 そしてじっとセリオスを見つめたかと思うと、不思議そうに聞いた。 「…貴方達は、私を助けてくれたんですか?」 「え?あ、ああ…一応……」 するとアリアが、ふわりと微笑んだ。 「ありがとうございます」 「え……」 普通、自分の記憶がないなんていう大変な状況の時に、笑うことのできる人がいるだろうか。 誰かに感謝することができるだろうか。 この少女は、それを簡単にやってみせたのだ。 「それよりも、これからどうするの?」 「解らないけれど…でも、どうにかなると思うわ」 あっけらかんとした少女の答えに、クロスが呆れたような視線を流す。 「なんとかなるって……記憶がないのにどうなんとかなるんだよ……」 アリアはふと顔を曇らすが、また笑みを浮かべる。 「わからないわ…。でも、少なくとも行き倒れの状態からは、貴方達が助けてくれたわ。 きっとこれからもなんとかなるわよ」 「………」 サリラとクロスは呆然と彼女を見るだけ。セリオスは完全に言葉を失っている。 アリアはそんなセリオス達を目にもとめず、ベッドから降りた。 「とにかく、助かりました。またお会いできたらいいですね」 そしてそのまま部屋から出て行こうとするアリアを、正気に戻ったセリオスが慌てて止める。 「アリアさん!どこに行く気なんですか!?」 「どこと言われても……家…かしら?」 その言葉に、サリラとクロスも正気にかえる。 「家にたって…外には魔物がうじゃうじゃいるんだぜ?」 「そうよ。記憶がないなら帰りようがないじゃない……」 アリアが困ったように首を傾げた。 「そう言われても困るわ…。このままというわけにもいかないし…」 「じゃあ、私達と一緒に行きましょうよ」 「「サラ!?」」 サリラの言葉に、二人が叫ぶ。 「私達だって、行くあてがあるわけじゃないでしょう?だったら、アリアさんの家を探しながら旅した方がいいわよ。 それとも、記憶のないアリアさんを、一人で旅させるとでも言うの?」 セリオスとクロスを睨みつけながらの言葉。 二人は、頷くしかなかった…。 夕暮れ。沈みかけの太陽が、景色を紅く染め上げていた。 セリオス達は宿屋の一室で、荷物を整理していた。 「食料も買ったし、今日は早く寝ないとな」 「ええ、明日からが本当の旅の始まりだもの」 サリラが床に座り込みながら言う。 この街は、迷いの森をぬけてすぐのところにある。つまり距離としては、一日もあれば十分にたどり着けるところにあるのだ。 うまく森をぬけさえすれば、往復だって出来るだろう。 「でも、本当にいいんですか?私が一緒についていくなんて……」 まだ不安そうなアリアの声に、セリオスが笑いながらかえした。 「もちろんだよ。アリアさんとここで別れるほうが、後味が残って嫌だしね」 そう言いながら、まとめた荷物を全員分、ベッドの横に置いた。 もちろん剣は、夜中襲われてもすぐに抜けるように、すぐ傍の机に立てかけてある。 そしてふとアリアの方を見ると、アリアが膨れっ面の凄い顔で、セリオスを見ていた。 「ねえ、セリオス達って私のことを簡単に信用しているみたいだけれど、私が悪党だったらどうするの? 記憶がないのを装っているかもしれないし、本当に記憶はないけど実は大悪党だってこともありえるのよ?」 アリアの質問に、セリオスが、あまり困っていない様子で、気楽そうに答えた。 「考えなかったな……。まあ、いいんじゃないか?アリアさんはアリアさんだし」 その答えに一応は満足したのか、アリアがすくっと立ち上がった。 「じゃあ、改めて自己紹介するわね。足手まといになってしまうでしょうけど、よろしくね」 アリアの言葉に、サリラとクロスが嬉しそうに返事をする。 「ああ、こちらこそ。アリアさん」 だがその言葉は納得いかなかったのか、顔を歪ませた後に、差し出していた腕を下げた。 「セリオス、呼び捨てで呼んでほしいわ。私だって貴方のこと呼び捨てしてるんだから」 「え…?あ、ああ……」 よほど凄い勢いだったのだろうか、少し引き気味にセリオスが…ほとんど反射的に返事をした。 そしてアリアがその返事を聞くと、セリオスに手を差し伸べる。 「じゃあやり直しよ。よろしく、セリオス」 「ああ、アリア」 セリオスも手を伸ばし、アリアの手を強く握り締める。 アリアも微笑みながら、握手をしていた。 「んじゃ、そういうことで、寝るか」 クロスがアリアとセリオスの雰囲気を壊すかのように立ち上がる。 「そうね、もう休みましょ」 続いてサリラが立ち上がり、アリアについてくるよう、目でうながした。 アリアは落ち着いた様子で、扉を開け、部屋の外に出たサリラの後を追う。 「じゃあ、お休みなさい」 「おう、寝過ごさないようにな」 そして扉を閉め、隣りの部屋に移動する。 漆黒の闇が、あたりを包み込んでいた……。 淡い月光が、部屋の中を照らし出していた。 サリラは眠れないのか、空虚な様子でその瞳を開いたままだ。 アリアは、よほど疲れていたのだろう。ベッドに入り込んだ瞬間に眠り込んでしまった。 「(私……バカだわ……)」 あの瞬間、そう、セリオスとアリアが、お互いを仲間として認めたあの瞬間。サリラはどうしようもない感情で胸をいっぱいにしていた。 心が痛くてしょうがなかった。 きっと嫉妬したのだろう。セリオスと気軽に仲良く出来る彼女に。 「(だけど…本当に二人は仲間として握手しただけよ……。 なのに何故……胸がざわざわするの………?)」 何故か嫌な予感がする。雰囲気と言うか…勘と言っていいだろう。 だが勘は勘。はずれることのほうが大きい。 「(………そう、あたるわけないわ。ただの嫉妬よ……)」 そう信じるしかない今。 すると、もう既に夜中だったこともあってか、睡魔に襲われる。 「(もう……忘れなきゃ……)」 そして、睡魔に魂を渡すかのように、自分から、意識を手放した。 綿菓子のような雲が、空の海をゆっくりとたゆたう。 まだ淡い光の太陽が、今旅立つセリオス達の背中を押すかのように、明るく照らしていた。 セリオスは思いっきり息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。 もう準備は昨日の夜に終えてしまったし、後はこの一歩を踏み出すだけだ。 「じゃあ、行こうか」 「ええ」 サリラが微笑みながら返事をする。 「確か近くに街があった筈だ。そこに向かって進もうぜ」 親に徹底的に教えられただけあって、このへんの地理には詳しいクロスが口を開く。 「そうね…私の家も、もしかしたら近くにあるかもしれないもの」 出会った時とは違う服装でアリアが答えた。 その服では旅はしにくいだろうと、昨日食料を買うついでに服も買っておいたのだ。 まずいつもの白いワンピース。その上から割と薄めの魔術師のローブを着て、その腰までものびている蒼い髪は、ポニーテールにしている。 もちろん、邪や魔をはらうといわれている魔封じの石は首にかけている。 結局彼女自身、何故自分が魔封じの石を持っているのかは思い出せなかったようだが。 それと、彼女は薬草などのアイテムを持っている。「役に立てないから、せめて」と言って、荷物もちの役を譲らなかったのだ。 しょうがなくアイテムだけを持ってもらっている。 だがこちらも、魔物に会ったら安全な場所へ避難すること。いざとなったら一人でも逃げるようにと、交換条件的な約束をしている。 それを思い出してなのか、それとも自然に優しく接してしまうのか、セリオスが優しく微笑んだ。 「ああ、きっと家を見つけてみせるさ。もしかしたら記憶ももどるかもしれないしね」 「ありがとう、セリオス」 にっこりと微笑むアリアを見て、またサリラの胸が痛み出す。 「(セリオスは…私にあんな顔、したことなんてないのに………)」 だがそんな考えが浮かぶとともに、自分に対する嫌悪感。 「(私……嫌ね……)」 自嘲するような笑みを浮かべ、弓を片手に歩き出す。 「ほら、出発よ!」 「おう!」 皆が一斉に歩き出す。 …皆、まだアリアのことを完全に信用しているわけではないのだろう。 アリアだってそうなのだろうが…。 何故か、信じてしまいたくなる雰囲気がある。何故か護ってあげたくなるもの悲しさがある。 どこか性格が、心が掴みきれない感じがする。 記憶もない、真っ白な少女。だけど…… 瞳を見つめると、孤独に疲れた一匹狼のような、銀色の光を思い出す…―。 裏話…なのかな(ここだけシリアスじゃないです) *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。 サ「ねえセリオス」 セ「なんだい?サリラ」 サ「なんでこんな理由にもなってない理由で旅に出たの?」 セ「……話が進まないから」 一同「…ごもっともです」 ク「それよりアリアってなんか謎だらけだよな」 セ「そうだね。記憶喪失なのも気になるし…(髪の色が一瞬だけ銀色に見えたのが妙にひっかかってるんだよな)」 サ「本当、アリアの正体って何なのかしら。単なる通行人だといいんだけど」 ア「(さりげなくサリラさんの言葉にトゲを感じましたわ)私も自分の正体が解らないんです。作者さんの陰謀を感じますわ」 *「そのうち解るよん。楽しみにしててねー」 ク「…なんか今天の声が聞こえなかったか?」 セ「そうか?とにかく、アリアは必ず家に帰してあげるよ」 ア「ありがとうございます」 サ「………複雑な心境だわ」 |
12374 | 金と銀の女神4 | 神無月遊芽 E-mail URL | 11/18-20:36 |
記事番号12358へのコメント こんばんは。神無月です。 長い上におもしろくなくてごめんなさい。 でも予定としては、後の方になればなるほどおもしろくなると思いますのでー。 根気良く見てくださればと思います。 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 4章 自分を探して silver 白き翼の天使 黒き翼の堕天使 暗き闇の魔族 この違いが、貴方に解って? 「へえ、なかなか平和そうな街じゃねえか」 クロスがあたりをぐるりとみまわしながら言った。 「そうね」 続いてサリラが微笑みながら言う。 ナカロの街は、文字通り大陸の中心部に位置する街だ。 よそからやってくる商人もたくさんおり、なかなか活気に満ちているところだ。 「よし、ここで誰かアリアの事を知らないか聞いてみよう」 「ええ。じゃあ私は街の北の方に行って聞いてくる」 言うと同時に駆けて行くサリラ。 「あ、おい、待てよサラ!」 その後を、クロスが慌ててついていく。 「じゃあ、僕らはこっちに行こうか」 「はい」 歩き出すセリオスの後ろにぴったりとくっついて歩くアリア。 「(心細いんだろうな…やっぱり早く家を見つけてあげなきゃ)」 そう思うと、自然に歩みも速くなる。 空を見上げると、太陽がセリオス達を真上から照らしていた…。 「その子の家?知らないねえ…」 「さあ?この辺では見かけないな」 「う〜ん…ちょっと解らないわね…」 はあ…。 思わず溜息が出る。 もう日暮れになろうとしているのに、誰もアリアのことを知らないのだ。 途中で合流したクロスとサリラも、同じような状況だったという。 「この街じゃなかったのか…」 「だけどよ、迷いの森に近い村や街って言って、一番近いのはターツの村とここだぜ?どこを探せって言うんだよ」 ほとんど悲鳴に近いクロスの言葉に、サリラが困ったように言った。 「そうよね…これから先は手がかりなしになっちゃうし…」 「……ごめんなさい…」 「いや、アリアが謝ることないよ」 か細い声で謝るアリアを、セリオスがなだめる。 「今日はもう宿に行きましょ。旅人もいるでしょうし、そこで何か解るかもよ?」 サリラの言葉も、あまり希望の光にはならないが、今は少しでも情報が欲しいところだ。 セリオスは、ゆっくりと頷いた。 「その子の家?さあ…街の人を全員憶えているわけじゃないしねえ…」 料理を運んできたおばさんが、テーブルに料理をおきながら言った。 宿屋の女将さんに、アリアのことを聞いたのだが、やはり知らなかったようだ。 「じゃあさ、その、記憶が戻る呪文があるところとか知らねえか?」 クロスが肉を頬張りながら喋る。 もちろん「行儀が悪い」とサリラに肘で小突かれたが。 「う〜ん…まあ、そういう呪文があるとすれば、やっぱり王宮の書庫じゃないかね?」 「王宮、ですか?」 セリオスが困ったように眉をしかめた。 田舎者、と言っては悪いが、セリオス達にとっては王宮というのはほとんど雲の上の世界である。 そんなところにいけ、と言われては、少々ひいてしまうだろう。 「ああ、大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。 ここの王様は他のお堅い国と違ってお優しいからね。一般人でもお城の図書室に入れてもらえるのさ」 女将さんがセリオスの心情を察したのか、笑いながら言った。 その時、女将さんの目が、アリアの胸元で止まった。 「おや?その石、もしかして魔封じの石かい?」 「え?あ、はい…そうみたいです…」 いきなり話し掛けられて驚いたのか、ためらいがちに魔封じの石に手を伸ばす。 「へえ、珍しいね。最近はとても高くて手がとどかない代物なのに、ここらじゃ見ないくらいに上質の物だね」 「そうなんですか?」 「ああ」 女将さんがその少し膨れたおなかを豪快に叩いた。 「前はね、お守り代わりにって子供から大人まで持っていたのよ。 ……あんたのよりは質も悪いし、小さな欠片みたいな物だったけど。 それが最近はすっかり減ってしまってね。 城下町なら、まだたくさんあって安い値段で売ってるんだろうけど」 「あ?なんでだよ?」 今度はクロスに向いて、疲れたように話す。 「あそこは近くに鉱山があるからね。 今は知らないけど、前は少し奥まで行けば魔封じの石がごろごろ出てきてたから安い値段で売り買いされたのさ」 「そっか…じゃあアリアの家は城下町にあるのかも…」 「おっしゃ。じゃあ明日の朝、城に向かって出発だな!」 セリオス達の会話を聞いて、もう自分の出番はないと解ったのか、他の人に料理を運びに行く女将さん。 アリアは不安そうに、自分の胸元で光っている魔封じの石を手の中で転がしていた。 はぁ…はぁ… 自分は何時の間にか闇の中を走っていた。 一寸先すら見えない永久の闇の中を、まるで何かに追われているかのように。 はぁ…はぁ… 蒼い髪が闇色に吸い込まれ、蒼い瞳は闇にのまれていく。 だが、走るのをやめてしまったらいけないと、何故か解った。 はぁ…はぁ… 後ろから、大きな気配を感じる。 銀色の闇が、どんどん大きくなっていく。 そしてとうとう走ることすら出来なくなるほど疲労し、前に倒れこんだ。 はぁ…はぁ… 『おも…だ………らぬ…』 「誰!?誰なの!?」 そう尋ねても、かえってくるのはまるで地響きのような声だけ。 『…もい…だ…てはな………』 銀色の闇がせまってくる。 抗う術のない自分は、静かにその闇にのまれていくだけ。 『思い出してはならぬ…』 「何を…何を、思い出してはいけないの!?一体何故!?」 『思い出してはならぬ……』 闇がどんどん自分の身体にまとわりついてくる。 そして口を塞がれ、どんどん息が苦しくなってくる。 「…!?やめ……てぇ……!!」 『その石を……はずすな……』 その言葉が聞こえたと同時に、闇が全てを包み込み、覆い隠した。 そして自分の意識が段々と薄れていって……。 目が、覚めた。 まるで何kmも走った後かのように荒い息遣い。 汗のせいで服と髪が肌にぺったりと張り付いている。 その蒼い瞳は、恐怖に震えていた。 隣りのベッドでサリラが寝ているが、そんなことさえ気付けないほど、動揺していた。 「なん…だったの……?」 ただの夢とは思えないほどの…いや、この少女には、それが夢であるかどうかすら判断することが出来なかった。 あまりに鮮明に残るその夢には、ただ恐怖だけ。 「この石が…なんだというの……?」 魔封じの石が鈍く輝く。 魔を封じる石、魔をはらう石。それが、何かを握っているのだろうか? だが、夢の中の声は、それをはずすなと言っていた。 「何故…思い出してはいけないの……?」 私の記憶に、何が隠されているのだろうか。 何故思い出してはいけないのだろうか。 「見つからない私の記憶……。見つけてはいけないの?以前の私を」 手が震えている。 きっと自分は、この魔封じの石をはずすことが出来ない。 何がおこるか解らないから。怖いから。 少なくともあの闇は、私の心に確実に恐怖を与えた。 「………私は…どうすればいいの……?」 その答えは、この夜の闇にも負けず淡く光る月すら、知らない…。 「だ〜〜〜!なんだってこんな山を越えなきゃいけないんだよ!」 「仕方ないだろう、辛いのはクロスだけじゃないよ」 思わず叫ぶクロスに、セリオスが微笑みながら宥める。 王宮までの道のりには、高い山がそびえている。 そのため山を遠回りしなければいけないのだが、そうするとかなりの時間ロスだ。 早くアリアを家に帰してあげたほうがいいだろうし、今は平和とはいえ世界を救う旅をしているのだ。 早く行くことを優先し、山道を歩いているのだが、短気なクロスがぶつぶつ言っている。 セリオスはまたくすりと笑うと、後ろからついてきている二人に声をかけた。 「大丈夫か?サラ、アリア」 「え、ええ…」 「大丈夫…」 そう言いながらも疲労の色は隠せない。 やはり女の子には山越えは少し辛かったのだろう。 「もう少ししたら広いところに出るだろうから、それまで頑張ってくれ」 人里はなれた人一人通らないような狭い山道で休むというのは少し不安が残る。疲労を取るためにもこんなところで休んではいられない。 それをサリラ達も解っていたのか、一言も喋らずに前を向いて歩いている。 「(それにしても…)」 セリオスがちらっと横目でアリアを見た。 蒼い髪、蒼い瞳。極稀な美しさを秘めている顔立ち。 だが、その表情が、心なしか疲れていた。 山越えのせいではない、もっと、精神的に消費した感じだ。 「(………何か、あったのか…?)」 あえて聞かないものの、気になってしょうがなかった。 だが、自分はアリアのことを何も知らないのだ。 なのにアリアの心の奥まで入り込むことは無い。万一傷つけてしまったら取り返しがつかない。 だから、聞かない。 「お、広いとこに出たぞ」 まるで普通の地面のように、平らなところが広がっている。 サリラとアリアがへたりこんだ。 「少し休もう………っ!?」 セリオスが座ろうとしたその時、目の端に信じられないものが映った。 太陽を隠すかのように空を舞う、漆黒に染まった翼、額にある銀色の瞳。手や足を束縛する鎖。 「堕天使…!?」 堕天使はセリオス達の姿を認めると、すがるように近づいてきた。 セリオス達は戦闘態勢を取るが、堕天使が近づいてきた時、怪我をしていることに気付いた。 そしてその怪我だらけの堕天使は、もう一人の堕天使をかかえていて、そちらは意識さえないようだ。 そしてセリオス達が戸惑っているうちに、堕天使が降り立つ。 …いや、この場合、倒れこんだと言ったほうがいいのだろうか。 そして荒い息のしたから、まるで搾り出すように声を出した。 『お願い!助けて!!』 裏話というか単にキャラ同士の会話。 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。 ク「なあ」 セ「?」 ク「2話から最初の方についたsilverなんたらかんたらってなんだ?」 セ「ああ、あれか。僕もよく解らないんだけど、誰かが自分の心境の独り言を、もしくは僕達に向かって語りかけているか何からしいんだ」 サ「今作者を吊るし上げて問いただしてみたけど、どうやら2人の人物が交互に話をしてるらしいわ」 ア「確か、silverとgoldでしたね。…銀に金ですか」 セ「そういえばこの話のタイトルは金と銀の女神だったね。何か関係があるのかもしれない」 サ「単に魔族と天使が話をしてるのかもよ?ほら、銀は魔族で金は天使って言うじゃない」 *「うわっ。説明くさっ」 ク「無視。そういや今回の最後に堕天使が出てきたな。一体堕天使なんかが何の用があるって言うんだ」 ア「それより今回は大変だったわ。変な夢は見るしきつい岩山は登らされるし」 セ「………ごめん」 *「セリオス、もしかして貴方の周りって気の強い女ばかり?」 セ「…そうかもしれない。本編ではアリアはまともだけどここじゃ性格悪いし、サリラはサリラで性格きついし…」 サ・ア「そんなことないわよ!」 |
12406 | オリジナルなんですねっ♪ | れーな E-mail | 11/19-22:59 |
記事番号12374へのコメント こんにちはもしくはこんばんわー♪ 一度HPのほうに伺いましたれーなです♪ 果たして覚えていらっしゃるでしょうか^^; お名前見つけたのでふらふらっと読ませていただきました♪ 最初はスレパロかと思ってたんですけどしばらく読んでからオリジナルと気付いた間抜けなあたし(汗) なんかアリアちゃんの正体がひっじょーに気になる所ですー。 記憶喪失のフリ、とゆーわけでも無いみたいで・・・ううむ。 あと最後に出てきた堕天使とか勇者のこととか神託とかとか・・・なんだか謎だらけ・・・ってあたしが勝手に謎にしてるだけだろうか(汗) オリジナル書ける方って尊敬しますー。 なんか設定とかちゃんとしとかないとダメだし登場人物のキャラとか作っておまけに名前までつけて・・・(あたし名前つけるの苦手なんです^^;) 何より大切なストーリーも考えなくっちゃぁ・・・って事で。神無月さんは凄いのですねー・・・ あたしも書けるよーになりたいなぁ、なーんて・・・(無謀な・・・) と。なんか変なレスになってしまいました〜。しかも短い(死) すみません・・・(汗) ではこのへんでっ♪ れーなでしたぁ |
12429 | オリジナルなんです♪ | 神無月遊芽 E-mail URL | 11/22-05:15 |
記事番号12406へのコメント >こんにちはもしくはこんばんわー♪ >一度HPのほうに伺いましたれーなです♪ >果たして覚えていらっしゃるでしょうか^^; おはようございます。神無月です。 憶えてますよvれーな様。 >お名前見つけたのでふらふらっと読ませていただきました♪ >最初はスレパロかと思ってたんですけどしばらく読んでからオリジナルと気付いた間抜けなあたし(汗) はっ。そういえば今回はオリジナルだと書いてなかったような…。 すいません。オリジナルなんです。 >なんかアリアちゃんの正体がひっじょーに気になる所ですー。 >記憶喪失のフリ、とゆーわけでも無いみたいで・・・ううむ。 >あと最後に出てきた堕天使とか勇者のこととか神託とかとか・・・なんだか謎だらけ・・・ってあたしが勝手に謎にしてるだけだろうか(汗) 謎にしておいてください(^^;)今ばれると困るので。 >オリジナル書ける方って尊敬しますー。 >なんか設定とかちゃんとしとかないとダメだし登場人物のキャラとか作っておまけに名前までつけて・・・(あたし名前つけるの苦手なんです^^;) >何より大切なストーリーも考えなくっちゃぁ・・・って事で。神無月さんは凄いのですねー・・・ >あたしも書けるよーになりたいなぁ、なーんて・・・(無謀な・・・) 凄いなんて。そんなことないです(///) れーな様も書けますよ。というか、私などよりよっぽど上手に書けると思うのですが(^^;) >と。なんか変なレスになってしまいました〜。しかも短い(死) >すみません・・・(汗) いえ、短くても感想を頂けると嬉しいですから。 皆様から感想を頂けた日は、嬉しくて顔が破顔してしまい、親が冷たくなります(笑) >ではこのへんでっ♪ >れーなでしたぁ 感想ありがとうございました。 よければまた下さいねv それでは。 神無月遊芽 |
12446 | 金と銀の女神5話 | 神無月遊芽 E-mail URL | 11/23-13:43 |
記事番号12374へのコメント こんにちは。神無月です。 金と銀の女神(このタイトル略す事が出来なくて大変〜)の5話です。 ちょっと話が難しいかもしれません…。 **************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 5章 聖なる堕天使 gold 堕天使、それは天界から追放され、魔族の仲間になった者 でも誰が気付くの?天使が堕天使になったわけを… 『お願い!助けて!』 鮮やかな金髪が風に舞う。だがそれとは逆に、堕天使の表情は苦痛に歪んでいた。 「た、助けてって…どういうこと!?貴方達、堕天使じゃないの!?」 堕天使の言葉に、サリラが目を丸くする。 『お願い…危害は加えないと約束します…。 それに今私は魔法が使えません。だから、安心してください…』 「堕天使の言うことが信じられるかよ」 クロスの言うことは最もだ。 今魔族たちは、天使とも人間とも対立している。昔からではあったが、今では表立って戦争がおきているのだ。 なのに魔族の仲間である堕天使の言うことを、誰が信じられるだろう。 だがその堕天使は、必死な瞳でセリオス達に話し掛ける。 『お願い!私の言うことが信じられないのなら、今ここで翼を切り捨ててもいい! だから信じて!この子だけでも助けてあげて!』 「ちょ、ちょっと待てよ!何もそこまで…」 自分の翼に手をかける堕天使をクロスが止める。 「セリオス、信じてあげましょうよ」 サリラも、堕天使の言葉が本当だと解ったのか、説得をするかのように話し掛ける。 「……確かさっきの道の途中に、洞窟があったな。そこに行こう」 『…!?ありがとう…』 セリオスの言葉に、堕天使はただ、涙を流した。 セリオス達が途中で見つけた山岳の中の洞窟。 堕天使も含めて、皆はそこにいた。 堕天使は気絶している者をそっと地に降ろし、自分は座りやすそうな石を見つけ、腰掛けた。 そこでやっと気付いたのだが、気絶している堕天使は、よく見ると右側の翼がはえきっていないようだった。 左側の翼は、ちゃんとあるものの付け根は白く、先のほうにいくほど黒くなっているという不思議な色をしていた。 そしてセリオスのマントにくるまり、あまり安らかではない呼吸を繰り返していた。 『私の名前はエルス。こっちはルシェルと言います。見ての通り、堕天使です』 「で?助けてくれとはどういうことなんだ?」 クロスの言葉に、エルスが目を伏せた。 『……最初からお話しましょう』 「そうしてください」 それを促すセリオスの言葉に、エルスが目配せをして質問をする。 『天使が堕天使になる経緯は、知っていますか?』 「はい。 確か伝承では”人の心の闇に触れた天使達が神に逆らうことをおぼえ、地へと堕ちていく” それが堕天使だとありました」 エルスは怪訝そうに少し眉を動かすと、溜息を吐いてから言った。 『そうでした…貴方方人間には、そう伝わっていたのでしたね…』 「違うのかよ?」 エルスが首を横に振る。 『まったく違うというわけではありません。そんなところです。 ですが、真実は話せません』 クロスが思わず立ち上がり、けんか腰に怒鳴りつけた。 「なんでだよ!?全部話してくれるんじゃなかったのか!?」 『今はまだその時期ではありません。私が真実を話しても、貴方方はそれを受け止めることが出来ません。 いずれ解る時が来ます』 「………解りました。続きを、聞かせてください…」 「サラ!」 クロスがサリラを叱咤するが、サリラは変わらず堕天使を見つめるだけ。 エルスは一言、ありがとうと呟くと、また話し始めた。 『私とルシェルも、人の世に降りて堕天使へとなりました。 …私の場合は良かったのです。私はその時人の齢にして20。堕天使になっても生きていける年齢でした。 ですがルシェルは……』 俯いて、深く息を吐いた後、また顔をあげた。 『私達天使は、天使として存在することを約束されて1年、天使として生きることを徹底的に刻まれます。 翼で飛ぶやりかた、やっていいことと悪いこと、叶えていい願い、助けてはいけない願い。掟。 そして何より、上の命令に絶対忠実なこと…』 「命令に忠実なことが、一番大切なのですか?」 アリアが信じられないように叫んだ。 エルスが、静かに頷く。 『というより、元々天使には”意思”というものが与えられないのです。 …私も前は…』 エルスはそこでぱたりと言葉を止め、静かに首を振り、話の続きを口にする。 『そして1年経ったとき、天使は地上に降り立ちます。その時はまだ見習い天使のようなものなのですが…。 ルシェルはその時、初めて人間界に降りたときに、堕天使への道を歩んでしまったんです…』 サリラの顔が歪んだ。 『ルシェルの身体には、その身には重すぎる枷をはめられました。 魔力を封じる鎖につながれ、天使界から追放された証に翼をもぎとられました…。もちろん、私もですが…』 そして痛々しげに自分の翼と、ルシェルを見つめた。 『堕天使となると、まず、魔力の鎖が外れます。ですが、少しでも神聖なものが混じっていると、鎖ははずれない。 これは、魔族が天使を信頼してなく、魔力を拘束し、完全に魔族になった時にだけ信頼をあたえるからです。 それを天使が与えるというのは…貴方方には信じられないかもしれませんが、単なる裏切り者への罰なのです。 そして天使達にもぎとられた翼は、堕天使の証に黒き色ではえてきます。 ………そこで、悲劇がおこったんです』 言葉すら口にすることさえ苦しいというように、エルスが溜息を吐いた。 そして自分の心が落ち着いたのか、かなりの間の後、ぽつりと言った。 『ルシェルは、魔界からも追放されてしまったんです』 そこで驚愕の声があがった。 それが、あまりにショックな言葉だったのだ。 『ルシェルはいずれ天界を束ねることも出来たほどに神聖で無垢な子。堕天使になってもその神聖さを失うことがなく、鎖ははずれないまま。 翼も、あまりに低い年齢で堕天使になったため、再生が出来ず、右側は中途半端にはえたまま。 左側はなんとか再生することが出来たものの、その色は、天使と堕天使、両方の色をもっていました』 誰も口を開くことが出来なかった。 神に逆らうものだと敵視してきた堕天使が、そんな運命をもっていたなんて。 『あの子はかわいそう過ぎる…。天使からも魔族からもその身を追われている。 そのせいなのか、あの子は生気を失ってしまった。生きることを諦めてしまっている』 そしてきっと顔をあげると、強い意志をこめた声で言った。 『お願い。今も天使達が私達を追ってきている。私がそれを防ぐから、貴方達はルシェルを連れてどこかへ逃げて。 人を信じるなんてこれが最後になってしまうけど、あの子を助けてあげて』 サリラが立ち上がった。 「そんな!貴方はどうなるの!?」 『死にます』 きっぱりと言い放たれた言葉に、皆一様に押し黙った。 エルスはすくっと立ち上がるとルシェルの近くまで歩き、その頬に触れた。 『この子は私にとってかけがえのない子…この子を助けるためなら、天使の長にも、魔族の王にも立ち向かえる。 だけど鎖に繋がれたままでは戦うことさえ出来ない。 だから私の命をルシェルの命にかえる。私には解るのよ。この子がいつか立ち直ってくれると……』 くるりと後ろを向き、外へ歩いていくエルスを、セリオスが止めた。 「待ってください!本当に…本当にそれでいいんですか!?」 セリオスの言葉に、洞窟の入り口のところでエルスが振り返る。その表情に、セリオスはその瞳を大きく開いた。 『もちろんよ』 笑っていた。まるで人のように暖かな笑みを浮かべていた。 だが瞬きする間に、エルスの顔が厳しくなる。 『…少し話しすぎたわね。人間、その子を、頼みます……』 その時、遠くから何かの音が聞こえてきた。 翼の音…鳥か何かが羽ばたく音だ。 『天使達が来ました。貴方達はすぐこの山を降りて、街道を避けて歩いてください。 その子は、自分がいくべき場所を解っています』 そして振り向いた姿勢のままで、こう言った。 『貴方には不思議な力を感じる。 この子の運命さえ、大きく変えてしまうような不思議な力を……』 そして完全に背を向ける。 逆光のせいか、まるで天使型に日食がおこってるかのように見えた。 「エルスさん!!」 そして、大空へ消えていった。 自らの命の炎を消すために。小さな命の灯火を護るために。 「……行こう、皆」 「ええ」 あの人との約束を、守らなければいけない。 そうしなければ、何故か、人でいられないような気がした。 セリオスはルシェルを背負い、洞窟を出た。 洞窟の中には、一枚の黒い羽根が落ちていた…。 「止まって」 山を越えて2時間ほど歩いた頃だった。 突然な背中からの声に、セリオスが驚いたように振り向く。 「気が…ついたんだね」 いつの間に起きていたのだろうか、その静かなアメジストの瞳が、セリオスを見つめていた。 ルシェルは返事をせず、静かにセリオスの背からおりる。 「話は、エルスから聞いたの?」 ルシェルの言葉にセリオスが頷いた。 「ええ…貴方を助けてくれって言っていたわ……」 ためらいがちなサリラの言葉も、ルシェルは軽く受け流す。 「そう…でももういいわ。ここが私の場所」 そう言って2,3歩前へ歩き、手を前に差し出す。 そうすると、空中に波紋のようなものが広がり、ルシェルがどんどんひきずりこまれていく。 「とりあえず礼は言っておくわ。だけどすぐにここを離れて、近くの街にでも行きなさい。 私などに構っている暇があるのならね」 「ま、待って!」 「アリア!!」 波紋の中にひきずりこまれていくルシェルの腕を咄嗟に掴んだアリアが、一緒にひきずりこまれていく。 セリオスが慌ててアリアに手を伸ばしたのももう遅く、そこには人影はなく、波紋が広がっているだけだった。 「アリア…」 思わず放心し、呆然となるセリオスに、サリラとクロスが叫ぶ。 「セリオス!急いで追いかけきゃ!」 「そうだ!早く行かねえとアリアが!!」 波紋がどんどん小さくなっていく。 それは、まるでアリアとの断絶を意味するもののように思えた。 セリオスがキッと、アリアのいなくなったところを睨んだ。 そして一気に飛び込む。 サリラとクロスも後を追って、その波紋の中へ吸い込まれていった…。 裏話というか裏話。 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。 サ「今回は謎だらけだったわねー」 セ「ここは作者も苦労したらしいよ。ここで渡していい情報と渡しちゃいけない情報の区別とかで」 ク「……それって単にバカって言わねー?」 ア「そうね。自分で作ったシナリオのくせにそんなことも解らないなんて」 セ「(アリアの性格が前回より悪化してる!?)そ、そうだね」 サ「だけどいくらこの堕天使がここで死ぬからってちょっと情報を詰め込みすぎじゃない?何がなんだか解らないわよ」 ク「どうせ後で修正するつもりだろ。出来ねーだろうけど」 ア「要するに後回しね」 サ「この作者の腕じゃしょうがないわね。聡明な読者様がこの下等な文からなんとか理解してくださるのを祈りましょ」 セ「(サリラもひどくなってる!?)」 |