◆−金と銀の女神8−神無月遊芽(12/16-15:32)No.12738


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12738金と銀の女神8神無月遊芽 E-mail URL12/16-15:32


 こんにちは、神無月ですv
 先週投稿できなくてすみません。ちょっと旅に出ていたもので(笑)
 勉強もしなきゃな〜…。学校嫌いです。
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             金と銀の女神
           〜世界が始まるとき〜


   8章 血に染まりし夕闇

 silver 破滅を望み、全てを壊す
    だけど、ほんの少しでもほんの一瞬でも
    破壊に嫌気が差してしまったらどうすればいいの?

 セリオス達は、アリアを宿へ運んだ。
宿の人に事情を説明し、甲斐甲斐しく看病をしてもらったのだが、アリアは一向に目を覚まさない。
それどころか、どんどん悪くなっているようにすら感じられる。
「アリア…」
もう夜も更けている。明日は鉱山に魔物退治に行かなくてはいけないのだから、もう寝なくてはいけないということも解る。
だが、どうしても身体が動かなかった。このままアリアを放っておくと、何故だかアリアを失ってしまうような錯覚にとらわれる。
 だからずっとアリアが寝ている傍にいた。
「セリオス…」
サリラはそんなセリオスを見て、まるで祈るように自分の手を握り締めた。
「(…嫌な子だわ。私。一瞬、アリアがいなくなればなんて思っちゃった)」
無理に表情を隠そうとするその姿は、逆に痛々しさを増す。
 サリラはそんな考えを振り払ったあと、セリオスに話し掛けた。
「セリオス、もう寝ましょう。このままじゃ身が持たないわよ?
 早く寝て、早く起きて、早く魔物退治を済ませて、またアリアの様子を見に来ればいいじゃない」
セリオスはその言葉に振り返ると、自嘲気味に微笑んだ。
「…そうだね。こんな風にしてたら、アリアも心配するだろうしね」
また、アリア。
 サリラの胸が、痛さで悲鳴をあげる。
「…ごめん。このごろ変なんだ。
 どうしても、アリアを護ってあげたくなってしまう……」
いつのまにか、心に誓っていた。君を護ると。
あの、不安げな顔を見たときから―。
「……当然よ。アリアは私達と違って弱いんだもの。護ってあげなくちゃ。
 さ、行きましょ。クロスはもうとっくに寝てるわよ」
「ああ」
何を言う暇も与えず、サリラが歩き出した。セリオスも慌てて後をついていく。
 残されたアリアの表情は、だんだんと苦痛の色を増していた…。





 翌日、セリオス達は街外れの洞窟へと向かった。
アリアは結局目覚めないままだったが、それが更にセリオスを急がせたらしい。
まだ夜明けになったばかりという時に、その洞窟に到着した。
「ここね、鉱山って……」
サリラが洞窟の入り口をなめまわすように見つめた。
「ちっ…こんなとこに入んなきゃいけねーのか?さっさと終わらようぜ」
「そうだね」
セリオスが真剣な面持ちで答え、そして、洞窟の中に一歩踏み出した。


「でやあ!!」
セリオスの一刀が、魔物を両断する。
だがそれで一息ついた瞬間に、後ろから魔物が飛び掛った。
「!?大地の精霊よ!」
サリラがそれに気付き、精霊を操って魔物とセリオスとの間に土の壁を作った。
魔物はその土の壁へと激突し、同時に困惑の感情が浮かぶ。
「ファイヤーボール!」
魔物が一瞬戸惑った時を狙って、クロスが呪文を発動させた。
炎の玉が魔物を焼き尽くす。
「ありがとう、サラ、クロス」
「どういたしまして」
「感謝しろよ」
軽口の友人を見て少しばかり緊張が緩んだのだろうか、セリオスが笑みを浮かべた。
 洞窟の中は、魔物の巣だった。
力はないが集団で襲ってくる魔物。
素早い動きで不意打ちをしてくる魔物…。
 下位の悪魔さえいた時は、さすがに驚いた。
「何故、魔物が巣くってしまったんだろう…?」
セリオスがふと疑問を口にすると、2人の表情が張り詰めた。
「そうだよな。鉱山として使ってたときは、魔物は出なかったらしいし」
「…解らないけど、きっと、魔物を引き寄せる何かがあるんだわ」
セリオスは無言で頷き、唇をかんだ。
「ああ、とにかく、先に進むしかないよ」
だがセリオスの決意とは裏腹に、次の場所に、この魔物達の元締めがいた―。




   ―風が吹いていた。
  窓は閉まっていたはずなのに、部屋であるこの場所に、風は吹いていた。
 それは、その部屋で寝ている少女をとりかこむように吹き荒れ、少しずつ、邪悪な気配が満ちてきていた。
 影のような闇が、少女へと近づいていく。
 それに反応するかのように、少女の胸で、石がカタカタと音を立てて鳴いた。
 少女がふと、その無垢な瞳を開いた時だった。
 白銀の輝きが部屋の中に満ち、次の瞬間には、ぼろぼろになった部屋と、ベッドの上で砕け散っている石があるだけだった…―。





『あら、こんなところに人間が来るなんて…何ヶ月ぶりのことかしら。
 ま、いいわ。退屈してたのよ。
 私は、紅き風のティレアと呼ばれているわ』
妖艶な唇から、その言葉は紡がれた。
美人と言うには少し違うが、魅力的な顔は、悪魔そのものと言った感じで。
真っ赤な髪の間から覗いた背中からはその容貌とは不似合いな、真っ黒な翼が生えていた。
 セリオスは初めて見る高位の魔族に気圧されながら、出来るだけ静かに、言った。
「魔族よ。何故こんなところにいる?」
その質問がティレアには心外だったらしく、黒にも見える赤髪をかきあげた。
『あら。ここ、心地いいのよ。人間達がいろいろ掘り出してくれたおかげでね』
「心地いい?」
ティレアが妖艶に笑む。
『ええ。石は魔を吸い込むわ。
 一つなら微々たるものだけど、それが幾つも掘り出されてごらんなさい?
 この鉱山は、私たちが生き易い場所になっているのよ』
セリオスはうろたえた。
 確かに、”石”というものは魔を吸い込む。
人が良かれとしていることが、逆に魔族を呼んでしまうなんて…―。
「…!だが、魔封じの石は!!」
その単語に、ティレアがぴくりと反応した。
『…見当違いね。
 あれは確かに魔を封じるけれど、一定量を超えたら壊れて、封じていた魔も解放されるわ』
ティレアはばさりとその紅い髪をかきあげた。
『ここに残っていた魔封じの石も、私が少し力を注いだら簡単に壊れたわ。
 だから、私はここにいることにしたのよ。
 魔のあるところが、私たちの場所だもの』
その言葉が終わると、ティレアの黒い翼がばさっと広がった。
『堕天使である私には、心地よすぎたけれど』
「なっ!?」
セリオスが動くより先に、ティレアの素早い攻撃が命中していた。
だがそれはかすり傷だったため、セリオスの頬に一筋の血が流れただけだったが。
 セリオスは動揺をおさえこんで、剣を構えた。
『うふふ…今のはただの挨拶よ。次はその心臓をえぐりとってあげるわ!』
するとティレアの姿がふっと掻き消えた。
 セリオスは慌てて周りをみまわすが、いない。
逃げたのかと思って、少し気が緩んだ瞬間…。
「!?」
咄嗟にしゃがみこむと、セリオスの胸があったはずの位置にはティレアの腕があった。
だが、腕はいきなり出てきたわけではない。その証拠に、風を切る音がした。
「(消えたんじゃない!動きが速すぎて見えないんだ!)」
『あらあら。勘のいいこと…』
ティレアが紅い残像を残して、また消えた。
紅き風と呼ばれているのはそのためか。
「(だが、消えたならともかく動いているんだ。まだ勝機はある)」
「セリオス!どうするんだよ!」
クロスがローブの裾をばっさりと切られて、悲鳴を上げた。
「セリオス!このままじゃ…っ!」
サリラはなんとか避けたようだが、このままではやられることを悟っているらしい。
「(なんとか…なんとか…)」
だが、いい案が浮かばない。
苦悩の表情をしているセリオスに、ティレアの紅い腕が迫る。
『あははっ!その首をもぎとってあげるわ!!』
ティレアの狂気の瞳を見た瞬間、まわりの時が止まった気がした。

 違う。天使は…堕天使は…。



                  ―『ありがとう』―



「違う!!」
『なっ!?』
セリオスは無我夢中で剣を前に突き出した。
 すると見事なまでにティレアの胸に突き刺さり、骨の砕ける鈍い音がした。
『そんな…私が……負けるの……?』
「……君は、堕天使じゃない。ただの、悪魔だ―」
セリオスが剣を突き上げた。
 剣は完全に貫通し、柄までティレアの身体に埋まっていた。
セリオスの手に、ティレアの紫色の血が染み付く。
『まさか…お前……は……!?』
その言葉を、最後まで聞くことはなかった。




 宿に戻ったセリオス達は呆然としていた。
 鉱山の魔物を倒して、王から船の手配と招待状ももらった。
『だが少しばかり時間がいる』という王の言葉で、その間にアリアを家に届けてあげると決めたのに―!!
「い……ない……?」
宿屋の女将さんが、辛そうに俯いた。
「ああ。大きな物音がしたと思って部屋に駆け込んだら、部屋がめちゃくちゃに荒らされてて、あの子はいなくなってた…。
 …言いたくないけど、ベッドは、気持ち悪くなるくらいの血で染まってたよ―」
その後気付いたようにポケットに手を忍ばし、砕けた石の欠片を差し出した。
「あの子の持ってたお守りの欠片が落ちてた…」
セリオスはそれを無言で受け取ると、ぎゅっと握り締めた。
「!?セリオス!!」
怒るサリラの言葉も聞かずそのままでいると、微かな痛みとともに血が流れ出した。
だが、そんなこと問題にもならなかった。
 アリアを、家まで送ってやると、護ってやると決めたのに―!!
「僕がもう少し、早く、帰っていれば…!」
クロスはそんな2人を見ていられなかったのか、ふと、視線をずらした。
 すると、怖いほどに鮮やかな夕焼けが見えた。
それは紅すぎて、少々暗くなってきた空にもかかわらず浮かび上がって見えた。
「血に染まった夕焼け…か…」
その言葉を聞いているのかいないのか、セリオスがぎりっと歯を噛み締めた。
「絶対…見つけてみせる!!」
サリラは悲しそうに、アリアと同じセリオスの蒼い髪を見つめているだけだった。


 裏話?
 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。(恐らく)
ア「ああっ。私ってヒロイン道まっしぐらって感じね」
サ「そう?やり過ぎって感じがするけど」
ア「(無視)薄幸の美少女だし、気絶したし、誰かにさらわれたし、記憶喪失だし…」
サ「ここまでやられるとちょっとしらけるわねー」
セ「ま、まあまあ。抑えて抑えて…」
ク「それよりセリオス。堕天使と悪魔ってどう違うんだ?」
セ「え?」
ク「話の途中であったろ『違う、天使は…堕天使は…っ』『君は堕天使じゃない。ただの悪魔だ』って」
セ「(やけに記憶力がいいな。作者からただのバカと呼ばれてる割に。今回も数行だけシリアスしてやがるし)うん…まあ…ね」
サ「…?どうしたの?セリオス」
セ「…なんでもないよ(でも…そうなんだ。そんな気がした。堕天使は、もっと…)」
ア「………セリオス、ちゃんと助けに来てね」
セ「当たり前だよ」