◆−スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険!−2−雪月花(12/17-15:47)No.12749


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12749スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険!−2雪月花 12/17-15:47


いきなり立体映像で現れたゲンナイという老人は海で待っているというので、
あたし達はすぐさまそこへと向かった。
「・・・・・?」
あたしは思わず眉をひそめた。
その海には、あたし達以外に人の気配がかけらもないのだ。
待っていると言った張本人が何故いないのか・・・・・?
そんなあたしの様子に気付いたか、光子朗くんが解説を入れる。
「―――直にわかりますよ」
彼の声には、戸惑いの色さえ見当たらない。
・・・・・はて・・・・・?
顔を疑問符いっぱいにしたその瞬間。
ざばぁぁぁぁぁっ!!
いきなり目の前の海が、斬り裂かれたかのように真っ二つに割れる!
『なっ!?』
驚愕の声を上げるあたしとガウリィ。
そして海がなくなったその部分には―――
小さな一戸建ての家があったのだ。
「僕らも最初来た時には驚きましたけどね・・・・」
小さく呟く光子朗くん。
こんな技術、現在の魔道技術でも開発されていない。
―――魔道士協会の図書館の、異世界についての論文が記されている本で、数多ある異世界の中には、あたし達が予想もしない程の技術があるかも知れない、という
のを読んだことがあるが―――。
ここなどまさにその典型である。
何はともあれ、あたし達は海に守られるように建立する家へと向かって歩いていった。


家の中は、あたし達の知らないような文化で溢れていた。
脚がかなり短いテーブルやら、膝を曲げて座り込むというクッション『ザブトン』やら、かなりこっちの世界とギャップの激しい文化である。
「―――よく来たな、リナ=インバース。そしてガウリィ=ガブリエフよ」
そう言って現れたのは、先程の老人ゲンナイさん、そして―――
・・・・って・・・!?
「ゼガルディス!」「ゼディルガス!」
あたしとガウリィが交互に言う。」
「何度も言うが『ゼルガディス』だ」
「・・・・・あ。ごめん」
呼びなれていなければすぐ忘れてしまうのである。
ゼルガディス=グレイワーズ。
あたし達の世界では魔剣士として名高い一流の魔法戦士である。
つい最近、『賢者の石』をめぐった事件で行動を共にし、それが片付いたあと
別れたのだが―――・・・・。
ちなみに彼は覆面で顔を覆い隠している。
・・・・ま、外しでもしたら、たちまちここは子供達の叫喚渦巻く場所となるので
別にわざわざ言ったりはしないが。
「ゲンナイさん、この人達一体何なんだ?」
ゴーグル少年が、ゲンナイに素直な質問をする。
「ああ。わしがここへ呼び寄せたんじゃよ」
・・・・・へ?
だんっ!!
テーブルを両手で叩き、あたしはゲンナイさんのえりくびをわしぃっ!と引っ掴み、かっくんかっくん揺さぶりながら
「ちょっ・・・・!!どーいうことよそれは!あんたあのブラック・ドラゴンと
グルなわけ!?」
「おっ・・・!落ち着けリナ!じーさん咳き込んでるぞ!」
ガウリィになだめられ、あたしは何とか揺さぶる手を止める。
「ぐえほっ、ごほっ・・・。威勢の良い娘じゃのう・・・」
咳が止まると、ゲンナイさんは落ち着いた感じで語り始めた。
「・・・お主らも知っておるじゃろう。『赤眼の魔王』シャブラ二グドゥが、五つ
に分裂したというそちらの世界の歴史は・・・・」
「まあ・・・ね」
何となく嫌な思い出を思い返し、渋面したい気分になりながらもあたしは変わらぬ調子で言う。
「そう。その五つに分裂した魔王の生まれ変わりのうち一体が、この世界へと
やって来たのじゃ」
『っなっ!?』
驚愕の声を上げる一同。
「流石にわしらの力ではどうにも出来ん。そこで、過去に魔王のうち別の一体を倒したお前らに、ブラック・ドラゴンの姿をとって接近し、この世界へと導いたのじゃ。」
「ちょっ・・・ちょっと待った!じゃああのブラック・ドラゴンあんただった
の!?」
「そうじゃ」
いともあっさり頷くゲンナイさん。
「どーやってあんなのに変身したのよ!?」
「企業秘密じゃ」
・・・・・なかなか食えないじーさんである。
「そ、それで・・・この子達は?」
あたしは少年少女達の方へと視線を変える。
「同じように異世界から来た『選ばれし子供』といってな。
このデジタルワールドを救うために旅を続けている」
「・・・・この子達の力じゃあ何とかなんないわけ?」
「そうだよゲンナイさん!そんな奴、ダークマスターズと一緒に僕らが・・・」
金髪碧眼の小さな男の子の言葉に、しかしゲンナイさんは首を横に振る。
「・・・最初から子供らで倒せるものならお主達など呼ばんわい。リナ、お主が
呪文でぼろべろにしたあの四匹の悪のデジモンは、子供達にとってかなりの強敵
じゃ。そんなお主らが魔王を倒した時には苦労したというのに、子供らに魔王が
倒せると思うか?」
・・・・成る程。
「それで聞きたいことがもう一つ。ジョイロックはあたしも前に対決したことがあるんだけど・・・あいつ一体何の目的でここへ?魔王の配下にでもなったの?」
「いや、その魔王がお主が前に倒したジョイロックなのじゃ」
ふーん成る程・・・・って・・・!?
「何ィィィィィィっ!?」
あたしは思わず絶叫する。
「いや、正確には魔王の力を得た、といったところか。魔王の生まれ変わりと
融合し、この世界を無に帰そうとしておる」
ま・・・魔王の生まれ変わりと融合・・・・
どーりで弱点知ってるあたしの前に堂々と姿現せたわけか・・・・
しかし・・・・魔王と融合しても、全然威厳や迫力やらなかったよーな・・・
「それで、ジョイロックにはどこへ向かえば会えるわけ?」
「ここから北東にある霊峰エアフォルク山脈じゃ。子供らも一緒に連れていって
ほしい」
『えぇぇぇぇぇ―――っ!?』
先程よりも声を荒げて絶叫する一同。
「・・・・子供達じゃどうにもならないんじゃなかったか?」
ゼルの問いに、しかしゲンナイさんはぱたぱた手を横に振り、
「いや違う。ダークマスターズのピエモンの術で、デジモン達が進化を封じられて
しまってな。そのためエアフォルク山脈でデジモン達を浄化する必要があるので、
お主達には子供らの護衛を―――・・・・」
「っちょっと待った」
片手を前に突き出して待ったを出すあたし。
「そういえば聞くの忘れてたけど・・・・。何なのよ『デジモン』っていうのは?」
「おうおう。そうじゃったの、・・・・お主ら、『パソコン』だの『データ』だのという言葉は知らんじゃろ?」
コクリ、と同時に頷く三人。
「なら―――・・・。このデジタルワールドに住む動物達で、お主達の言う『魔法』のような力を属性ごとに持っておる。
『選ばれし子供達』のパートナーデジモンは、子供達の持つ『デジヴァイス』で
進化し、戦うことが出来るんじゃ」
へー、そーいう・・・・・ってちょっと待てよ・・・・・?
あたしは顔だけぎぎぎぃっ、と光子朗の方を向き、
「・・・・要するに、君は動物とあたしを同一視したわけだ、と・・・・?」
「あ!いえ別にそういうわけじゃ!」
怒気をはらんだあたしの呟きに、光子朗は慌てて否定の言葉を出す。
・・・・まあ、彼らの世界の人間は、魔法という技術を知らなかったようだから
無理もないようだが・・・・
やっぱし何かむかつくぞ。
「それで、そのピエモンとやらに進化を封じられているから、再び進化出来るようになるために、あたし達にエアフォルク山脈までの子供達の護衛、そして
ジョイロック撃破を頼みたい、と・・・・?」
「その通りじゃ」
「・・・・で、依頼料は?」
ぴぴくぅっ!
あたしの言葉に、ゲンナイさんの片眉が跳ね上がるが、まあそこはそれ。
「と・・・・とりあえず、あちらの世界で言ったのと同じ、ということで・・・」
ちなみに、あたし達の世界でブラック・ドラゴンに変身したゲンナイさんが
依頼で持ちかけてきた報酬は、かなり破格のものだった。
「・・・・ま、いいでしょ。―――そーいえばさ。ダークマスターズだっけ?
何だったら依頼料上乗せを条件にあたしが呪文で吹っ飛ばしてあげちゃっても
いいけど・・・」
「いや・・・そういうわけにはいかぬ」
あたしの提案に、しかしゲンナイさんはゆっくりと首を横に振る。
「お主らに頼むのは魔王の打倒だけじゃ。―――こちらの世界のことはこちらで
決着をつけねばならぬ」
ゲンナイさんの言葉に、子供達は大きく頷く。
・・・・・人を無理矢理異世界に連れてきたりするわりには、みょーなとこで律儀
とゆーか何とゆーか・・・・
・・・・あるいは単に、依頼料上乗せさせられんのが嫌なだけかも知れないが。
「―――それであんた達、名前は?」
「俺、八神太一、小五だ!よろしくな、リナさん、ガウリィさん、ゼディルガスさん!」
『ゼルガディス』
声もハモらせつっこむ三人。
「武之内空、小五です!」
「石田ヤマト、小五・・・」
「太刀川ミミ小四でーす!」
「城戸丈、小六です」
「高石タケル、小学二年生!」
「八神ヒカリ、小二です!」
『よろしくお願いします!』
もう既に名乗ってはいるが、この時光子朗くんも一緒におっきな声であいさつしていた。
・・・・なかなか元気がありそうである。
「あ、あとデジモン達を紹介しますね!」
青いヘルメットの少女―――空ちゃんが、足元のデジモン達に視線を移す。
「右からアグモン、ピヨモン、ガブモン、テントモン、パルモン、ゴマモン、パタ
モン、テイルモンです!」
『よろしくぅっ!!』
これまた元気良くあいさつする。
・・・・何かこれだと護衛とゆーより、保護者になった気分なのだが・・・・
・・・・おや?
保護者、といえば自称あたしの保護者のガウリィは・・・・?
・・・・んごー、ごー・・・。
・・・・・話を全く聞かずに寝ていた。
・・・・・ぷちっ。
「少しは人の話を聞かんかぁぁぁぁい!!」
―――あたしの怒声は、海をも揺るがしそうだった。


「・・・・・それじゃ、いってきますね」
あたしはエアフォルクへの地図を渡され、今そこへと向かう。
―――ふと気付くと、光子朗くんが何やら不安そうにあたし達を見ている。
・・・・・はて?
その表情に何を察したか、ゲンナイさんは彼の双肩にポン、と手を置き、
「攻撃呪文が炸裂するのではないかと思うのなら心配はいらんぞ。
確かにこの娘は罪のる一般的でない人々をしばき倒すのが三度のメシより
大好きなとんでもない娘じゃが・・・」
ぷちィっ!
「炸弾陣(ディル・ブランド)!」
ずどおむ!
「――――それじゃお元気で」
攻撃呪文がまともに直撃したゲンナイさんにそっぽを向きつつすたすた
進むあたし。
他のみんなも、ゲンナイさんを心配そうに眺めつつ、あたしの後をついてくる。
こうして―――あたしの、異世界での旅が始まった。


「・・・・やれやれ、短気な娘じゃわい・・・・・」
誰もいなくなった海岸で。
砂をぱんぱんと払いながらゲンナイがひとりごちる。
「・・・・まあ、大丈夫じゃなあやつらは。それに・・・・・
・・・・あやつらを見ていれば、子供らも必ず何かを学ぶじゃろうて・・・・」
ゲンナイのその呟きを、聞き取った者は誰もいなかった。