◆−スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険ー3−雪月花(12/19-10:00)No.12766


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12766スレイヤーズ!−デジタルワールドの冒険ー3雪月花 12/19-10:00


「―――にしても暑いわねー・・・」
熱帯雨林の中をガウリィとゼル、そして選ばれし子供達と共に歩きながらあたしは
言う。
歩き始めてからおよそ三時間が経過し、あたし達はとにかく密林の外を目指して
延々と歩いていた。
「ならその黒マント外せばいいじゃんか」
「あ、これ一応暑さしのぐために弱冷気の呪文がかけてあるから」
「え―――っ!!ずっりーリナさん」
「しょーがないでしょ、他人にはかけられないもんこの呪文」
翔封界(レイ・ウイング)で一人一人密林の外へと運び出す、というテもあるにはあるのだが、もし飛んでいる最中に、光子朗くんが言っていた『ウイルス種デジモン』やら空飛ぶデーモンやらが襲って来たりしたら、むろん空中で呪文は唱えられないため勝ち目はないだろう。
そんなわけで、今のところは地道に徒歩、である。
太一くんとのやりとりをしているさなか、あたしはふとあることを思い出した。
「そーいやゼル、あんたもあたし達と同じようにこの世界へ来たわけ?」
いまだ覆面を着用し(まあ無理もないが)、隣を歩くゼルに問うあたし。
「・・・・俺にはキメラ学者として近づいてきてな・・・・
元の体に戻す方法を教えるから仕事を引き受けろ、と言ってきたんだ」
詳しく聞いたところに寄れば、ゲンナイさんは世界的に有名なキメラ学者の姿を
とって、それなりに信憑性のあるでっちあげの理論をゼルに教えて信用させ、
ゼルが『依頼を引き受ける』と言ったその瞬間、この世界へと連れてきたらしい。
全てが嘘だったと教えられた時にはもう遅い。
『一度引き受けると言ったなら何が何でも引き受けてもらう。引き受けなければ、
元の世界へは返さない』、とこうである。
・・・・ま、人間の体に戻ることに執着するゼルの心を動かすには、例え『引き
受けてくれれば一生遊んで暮らせるだけの大金を払う』と言っても、そっちの方が
それよりよっぽど効果的だっただろう。
しかし・・・・想像以上にとんでもないじーさんである。
「あんたも気の毒にねー・・・」
「あの・・・『元の体に戻る』って一体何のことなんですか?」
その辺りのことを知らないことを知らない光子朗くんが問う。
「ああ、いや別にたいしたことじゃ・・・・」
あたしが言いかけたその瞬間!
ざあっ!!
草木をかきわけ、数匹のレッサー・デーモンが襲い来る!
『わあっ!!』
驚愕の声をハモらす子供達。
ここであたしの呪文攻撃第一弾!
「冥王降魔陣(ラグナ・ブラスト)!」
びびぢばじぃっ!!
あたしの『力あることば』に応えて出現した黒いプラズマは、デーモンのうち一体
をいともあっさり無に帰した。
だがしかし―――別の一体が、子供達めがけてダッシュをかけ、至近距離まで
近づいている!
やばい!思ったその瞬間!
「光よ!」
ぶざしゅうっ!!
ガウリィの意志力を具現化させた『光の剣』が、レッサー・デーモンをいともやす
やすとたたっ斬った!
珍しくナイス!ガウリィ!
「みんなはデーモンから離れた所に避難して!」
「え、でも―――」
「いいから!今のままじゃあデジモンでもこいつらには歯が立たないのよ!」
あたしの言葉に渋々従い、デーモンから離れる子供達。
しかし!
どてっ!
「あっ!!」
他のみんながしげみへついたその時、ヒカリちゃんのみが転んで遅れをとり、デーモンに追いつかれてしまう!
慌てて呪文を唱えるが、デーモンはもう、その腕をヒカリちゃんへと振り上げる!
――――間に合わない!
ぎんっ!!
―――デーモンの鉤爪は、鈍い音を立てて砕け散った。
「!?」
あたしが目を見張ると、そこにはゼルが、ヒカリちゃんを両腕に抱えていた。
覆面が取れていることから、どうやら鉤爪を喰らったのは彼らしい。
しかし・・・デーモンの鉤爪もあっさり打ち砕くゼルの皮膚って・・・・
やっぱしすごい・・・
ごあっ!!
唸りと共に出現した炎の矢(フレア・アロー)から、ヒカリちゃんを抱えたまま
あっさり身を避わし、ゼルは呪文を唱える。
そして振り下ろされたもう片方の鉤爪を剣で受け止め―――ゼルの呪文が完成した。
「―――烈閃砲(エルメキア・フレイム)!」
放たれた白光は、デーモンの精神世界面(アストラル・サイド)に直撃し、
デーモンを無に帰した。
「お兄ちゃん!」
「ヒカリ!」
抱き合い、無事を喜び合う兄妹。
「ゼルさんどうもありが―――」
言いかけて。
太一どころか、他の子供達の動きがそこでピタリと止まる。
・・・あーあ、結局顔見せちゃったか・・・・
胸中でそんなことをぼやきつつ、あたしは子供達が見て動きを止めている『原因』に目をやる。
―――覆面が取れ、半魚人のウロコのよーな皮膚で覆われた素顔をさらけだして
いるゼルに。
――――密林に、子供達の叫喚が渦巻いた。


「・・・・よ、要するに・・・・ゼルガディスさんは、その世界の魔物の邪妖精(
ブロウ・デーモン)と岩人形(ロック・ゴーレム)とに無理矢理合成させられて、
元に戻る術を探してる、と・・・?」
一通りの事情説明を聞かされ、驚愕と戸惑いとが混じる表情で呟く光子朗くん。
他のみんなも、いまだにちょっぴしゼルを見る視線に恐怖の色をたたえていたり
する。
・・・・ま、こんなリアクションだろうとは思ってたけど・・・
こりゃー内心傷ついてるなー、ゼル。
他のみんなもそれを察してか、それ以上は何も言わない。
うむうむ、今時珍しいよいこ達である。
だがしかし、ここでガウリィの余計な一言が―――
「あまり怖がらないでやってくれよ。そりゃああんまし子供受けしない顔かも
しんないけど、こう見えてわりかしいい奴―――」
ごっ!!
言葉をさえぎり炸裂したあたしの鉄拳で、ガウリィは少し大人しくなった。
だがしかし、ここで恐怖の色も何も持たずにゼルに歩み寄る子供が―――
「ゼルさん、助けてくれてありがとー!」
可愛い笑顔で言うヒカリちゃん。
そんな彼女に始めはキョトン、としていた当のゼルも、やがてすぐに調子を取り
戻し、
「――――行くぞ」
すぐに立ち上がり、歩みを進める。
ぶっきらぼうとゆーか何とゆーか・・・・
「―――なあ、ゼルさんってヤマトと気が合うんじゃないか?」
「・・・・うるさい」
そんなやりとりをしつつ、あたし達は歩き出す。
一路、エアフォルク山脈を目指して――――