◆−金と銀の女神9−神無月遊芽(12/23-06:33)No.12804 ┗金と銀の女神10−神無月遊芽(12/24-11:54)No.12823
12804 | 金と銀の女神9 | 神無月遊芽 E-mail URL | 12/23-06:33 |
おはようございます。神無月です。 えーと。金と銀の女神、3部構成で一部一部が12話前後くらいずつになりそうです(全部で36話!?死ぬ(笑))。 なんでそんな半端な数かと言うと、1部が12話で終わりそうだからという非常にいい加減な理由です(^^;) まあそれはともかく本編をどうぞ。今回は一話で登場したあの子が出てきます。 **************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 9章 銀の女神 gold 銀なりし金の女神。金なりし銀の女神。 私とあの人は、いつも何かを求めてた―。 セリオス達は今、ルシェルの元にいた。 どこに行ったかも解らないアリアを探すには、ルシェルの力を借りるしかなかったのだ。 それでダメで元々で精霊界を訪ねたのだが、ルシェルは以外にもあっさり引き受けてくれ、精霊界を出ると何か呟き始めた。 「………」 ルシェルは先ほどから、神聖語と呼ばれる天使の言葉で何かを呟いていた。 額にある第三の目が、少しだけ輝く。 それを見ると思い出すけれど、この少女は堕天使だ。 だけど、この少女にそれを求めるのは酷なことだし、アリアは無視できなかった。 だから。 「…北だわ…。北東のピアラの泉」 すっと瞳を開いてそう言ったルシェルは、どこか疲れた印象を与える。 サリラもそれに気付いたのだろうか、ルシェルの頬に手を触れて、礼を告げる。 「ありがとう、ルシェル。無理してでも探してくれて―」 「サリラ、この愛想なしに礼なんて言わんでいいだろうが…」 「なんですって!?」 うっかり茶々を入れてしまったクロスに、サリラの攻撃。 その時 「くすっ…」 綺麗だと思った。 太陽と同じ輝きを秘めた金色の髪をなびかせて、モノトーンの翼を持った少女が、優しく微笑った光景が。 その少女が笑うのを止めて喋ったため、一瞬でそれは終わってしまったけれど。 「いいのよ礼なんて。貴方達の役にたてるんだもの。 私もついていくから、早く行きましょ」 「え?ついてきてくれるの?」 純粋にそう問うたサリラに、金色の魔族は鮮やかに笑った。 「…ええ。サリラ」 だがその笑みもすぐ消え、真剣な眼差しがセリオスに向けられた。 「…セリオス。アリアが大切なのは解るわ。 でも、誰かが大切になるというのは、今回みたいに、悲しい思いもするということ。 もし忠告させてもらえるなら、あまりいれこんでは…」 ルシェルの言葉が止まる。 ああ。こんな顔をしたのは、何年ぶりだろう。 レイラが妹として家に来た、あの時。 『おいで。今日から君は僕の家族だよ』 誰かを護ると心に誓った、真っ直ぐな瞳をしたのは。 「…わかったわ。でも、心配なの。 私は…」 あの子を、しっているから―。 その言葉だけは言えない。前は特に気にしていなかったけれど、今は。 大切だから。言いたくて。言えなくて。 「…案内するわ。ついてきて」 今はただ、彼の心に従うしかない―。 銀色の髪が、太陽の光に反射して眩き光を産む。 その髪の持ち主は、人と思えぬほどの冷たい美貌で、魔物を睨みつけた。 「何をしている…ですって?」 話している相手は、位が下なのだろうか。それともその銀の少女が上過ぎるのか。 ともかく、脅えた表情で、それでもしっかりと言った。 「あれからずっと勇者とやらの後をつけているにも関わらず、未だに倒せていない。 魔族の女神とも言われようお方が、なんという失態を…」 「お黙りなさい!!」 少女の声に、びくりと身が竦む魔物。 「…それにしても、勇者とやらはこの泉に来るのですか?」 とにかく話題を反らそうと思ったのだろうか、魔物がふと、視線をずらした。 ピアラの泉―魔物が世にはびこっていても、未だかつて聖水が湧き出るのが止まったことのないという、穢れを知らぬ泉。 「ええ。勇者達は”少女”を救うために、絶対にここに来る。 その手段をもっているわ」 泉に目をやったいた魔族は気づかなかった。少女のその瞳に。 「…今までは手が出せなかった。それだけのこと。無論、私のせいでもないわ…」 少女の、深い葛藤の瞳に。 銀色の瞳が濁っていることに。 「私はおとりを用意するわ。お前達が、勇者をつぶしなさい。 我らにあだなすものを」 魔物は一礼すると、その場の空気に溶け込むかのように、消え去った。 少女はふっと笑うと、おもしろそうに自分の手の中にある石の欠片を眺めていた。 「てやあっっ!!」 肉も骨も砕けた嫌な音をたてて、その魔物は沈黙した。 セリオスはそれに目も向けず、次の魔物へと向かう。 ピアラの泉は、魔物で埋め尽くされていた。 皆口々に「勇者」の名を言い、セリオスに襲い掛かってくる。 ルシェルは考えた。何故魔物達が嫌う神聖な泉に、その魔物がいるのか。 セリオスを狙って襲ってくるのか。 そう。アリアをさらった魔族は、最初からセリオス達が来るのを知っていたのではないかと。 そこでルシェルは賭けに出た。 サリラとクロスに後方をまかせ、自分とセリオスは前へ突き進むと。 セリオスを狙っているからと言って、2人を襲わないわけではない。 だが、この先に”あの人”がいることを思うと、2人は行かない方がいいと思ったのだ。 湧き出る魔物の数を見て二人も納得したらしく、後方の魔物は任せろとセリオスを促した。 セリオスは、小さく頷き、そして走り出した。 「エクスプロージョンボール!」 ルシェルの手から、激しく光る閃光が魔物達に投げられた。 それは魔物達の上空で球体から無数の針へと変わり、魔物達を焼き尽くす。 ルシェルはそれを見届けた後、視線をそれから反らし奥にある神殿を認め、目を細めた。 知っている、気配がする。 「セリオス!急いで!!アリアはこの先よ!」 「解ってる!!」 また襲い掛かってきた一体を切り裂きながらセリオスは答えた。 この先にアリアがいる。魔物の中で、脅えながら。 何故魔物達がアリアをさらったのか解らない。 きっと勇者と思われる自分を倒すための罠なのだろうと思う。 ルシェルが何も言わなくても、そのくらいは解った。 それでも、行かなくてはいけなかった。アリアを護ると決めたから。誓ったから。 世界も護らなくてはいけない。だけど、具体的な目的など持たずに出た旅だ。 いつ滅びるなんて解らない世界より、アリアを護りたい。 「絶対…アリアを護るんだ!!」 「くだらないこと…」 「!?」 ようやく奥の神殿の直前まで来た時、空気が歪んだ。 それが、魔族が移動の際に使う空間を渡る術を使った時に発生する歪みだと理解するまでは少し時間がかかったが、それより、目の前にいる少女を見て愕然とした。 月の光を吸収したかのような白銀の髪を風になびかせて、氷のような灰色…銀色の瞳は、そのあまりにもの冷たさに圧倒された。 額からは黄土色の角が生えており、エルフのようなとがった耳もあった。 魔族。 しかも、信じられないくらい上位の。 思わず足が震えるのを感じながら、セリオスは少女に向き合った。 その少女はふっと微笑うと、一歩、セリオスに向かって踏み出した。 「貴方からは初めましてかしら。勇者様。 私は、魔界王ルシファーの娘。アリア・ルーン・アヴィス」 「アリア…?」 聞き覚えのある名前に、セリオスが微かな反応を示す。 ルシェルは厳しい顔をしたまま、魔族の娘を見つめていた。 魔族の娘はセリオスの反応に妖艶な笑みを浮かべた。 「そういえば、貴方を呼び出すための人質も、同じ名前だったわね。 でも、私の名前には”奈落の歌姫”という意味があるのよ」 「…それより、僕からはとはどういう意味なんだ?」 セリオスはなんとか心を落ち着けると、もう一つひっかかった言葉のことを聞いた。 「気付いてなかったのかしら?私、ずっとあなた達を見ていたのよ。 そちらの堕天使…あら、ごめんなさい。ルシェルさんは気付いていたようだけれど」 わざとらしく謝りながらルシェルに視線を流す。 ルシェルは無反応に、視線を真正面からぶつける。 「……それで?魔界の王女様直々に僕を倒しに来たのか? 勇者かどうか解らない僕を?」 「貴方が勇者かどうかが貴方に解るわけが無いでしょう?。貴方はいずれ我々に立ち向かうことになる。そんな邪魔な人物は消したいだけ。 それに、残念ながら私は貴方の相手が出来ないの。他に用があるから」 その言葉に反応したのはセリオスよりもルシェルだった。 驚きと怒りの感情を露にし、だが同情も浮かべ銀の少女を凝視する。 セリオスはそんな様子のルシェルに驚きながらも、その言葉に返答した。 「他に用?一体何をするんだ」 銀の少女は先程見たよりも更に艶かしく微笑み、すっと奥の神殿を指差した。 「この奥で、貴方は貴方の求める少女と出会えるわ。 その前に私の手下と戦ってもらうけれど」 そう言うと、少女の身体がまるで空間にひきずりこまれるかのように空中に埋まってゆき、それと同時に逆にこちらに空間から押し出されるように現れた魔物と入れ違いのようになる。 「せいぜい頑張って頂戴。誰かを助けたいなんてくだらないこと考えてないでね。そんな甘い考えをしているとすぐにあの世行きよ」 思わず駆け寄ろうとするセリオスをルシェルが止めるが、セリオスは構わず叫ぶ。 「待て!質問に答えるんだ!」 銀の少女はそれに答えず、黒いドレスをひらめかせ、異空間の中に溶け込んでいった。 「じゃあね。また逢いましょう」 「待てえ!!」 ルシェルの腕をはがし、銀の少女を求めて駆けるが、その時にはもう遅く銀の少女は消え去っていた。 「アリア・ルーン・アヴィス…」 何か、謎を…何かの鍵を握っていそうな魔族だった。 だが、思考にふけっている暇もなく、銀の少女が消えた代わりの魔物が立ちはだかっていた。 全身が薄汚れた青い甲殻に包まれていて、額からは突出した角のようなものがある。 腕は異常に長く、少々離れたところから振り回してもこちらに届きそうなほどだった。 身長はさほどないにしても、腕で攻撃された場合には接近戦は不利と思われた。 『ユウシャ。コロス』 片言の言葉とともに、その魔物は動いた。 だが、セリオスに向かってきたのではない。 「!?」 ぐらりと後ろに倒れこんだ魔物を見て、セリオスが驚愕の声をあげる。 だが、魔物の瞳に刺さった矢を見てすぐに誰が犯人かが解った。 「セリオス!後方の魔物は撃退したわ!」 「ちっ!そっちもバトル中かよ!!」 予想通り、弓を構えたまま駆け寄ってきたサリラと、どこに持っていたのか、剣を持ち走ってくるクロスを見て少しばかり緊張がほぐれる。 「サリラ、ありがとう。助かったよ」 「…安心していられないわよ。セリオス」 サリラの言葉で魔物に振り向くと、もう魔物は起き上がっていた。 そして低い唸り声をあげながら、狂ったかのように腕を振り上げる。 「やあっ!」 キインッッ… 金属音が鳴り響く。 「クロス!」 セリオスに振り下ろされた筈の魔物の腕は、咄嗟に前に進み出たクロスの剣によって防がれていた。 腕と剣が交差し、お互い力をこめ、相手を倒さんとする。 「うわっ」 力に耐え切れなかったのはクロスだった。魔物の力で弾かれた剣が不安定な位置に行きバランスを崩す。 そのままクロスに進む腕は、今度はセリオスに防がれた。 渾身の力を出し、なんとか相手を弾き返したが、その魔物の力に驚いた。 「こいつ…強い……!?」 そう。本当に単純な意味での強さがあった。 戦闘技術の面ではまだ解らないが、文字通りの怪力、そして何より『意思が無く目的』があること。 意思が無いなら動揺することも無く、目的があるならそれを果たすために全力を尽くせる。 その時ふと、セリオスの頭にその言葉が響いた。 ………意思が無く目的が在る? 魔物が、ぎちぎちと、腕の軋む音なのか声なのか判断のつかぬ音をたて、ゆっくりと一行に近づいてくる。 セリオスはちらりとルシェルに視線を流し、また正面を向いた。 意思が無く、ただ、命令に忠実に。 それじゃ、まるで…。 ―天使。 『ガアアアアアァァァァァァ!』 魔物がおたけびを上げ、セリオス達に突進してくる。 「サリラ!ルシェル!援護を頼む!」 「久々に暴れてやるぜ!!」 2人は魔物に向かって駆け出し、それぞれ左右の腕に剣を一閃した。 ギイイインッッ! 先程も聞いた高い金属音と共に剣が弾かれ、2人は一歩後退した。 「っかってぇ〜〜!!」 クロスが剣を握っていた手をぶらぶらさせながら泣き言を言う。 セリオスは冷静に、この魔物にどうやってダメージを与えるかを考えていた。 「(剣が効かないわけじゃない。あいつの甲殻が甲冑の役割をして物理攻撃を弾いていしまうんだ)」 セリオスは剣を横に構え、敵を見据えた。 「(魔法…もしくは、甲冑の薄いところ…甲殻と甲殻の繋ぎ目…関節!)」 セリオスが肘を狙って剣を振るう。 完璧なほど綺麗なフォームで振り下ろされた剣から、嫌な感触が伝わってくる。 「(手応えあり)」 どさり、と魔物の肘から先が弧を描いて地面に落ちた。 だが 「な…なんですって……!?」 弓を構え、機会を伺っていたサリラが驚愕の声をあげた。 「腕が…再生してるわ……」 まるでルシェルの言葉に反応するかのように、魔物の腕がぐちゅぐちゅと再生していく。 よく見れば、先程サリラが弓で攻撃した瞳も、再生を果たしていた。 「…っぐぅ…」 サリラが手で口を抑えた。 神経から細胞から再生されていく腕の気色の悪さと、今まで嗅いだこともない濃厚な血の匂いに気が遠くなりかける。 「こりゃ…やばいかもなー…―」 クロスが軽い口調でひょうひょうと言い放つ。だが、顔は笑っていなかった。 「アリア…もう少しで辿りつくのに…!!」 ルシェルの一行を様子を見ながら、遠くを見つめていた。 「銀の女神よ。貴方はまだ、奈落の歌姫のままなのね…」 その意味ありげな言葉は、セリオスの耳にも、クロスとサリラにも、そして、銀の少女にも届くことは無かった。 裏話のようで実は普通の会話。 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。(きっと) セ「今回はとうとう、一話で登場した銀の少女が現れたね」 サ「ええ。魔族の王女…アリア・ルーン・アヴィス」 ア「私と同じ名前だなんて…少し気になります」 セ「はっ。まさかアリアの双子のお姉さん!?」 ア「そ、そうなんですか!?」 セ「いや、単なる予想」 ア「……」 ク「それよりお前ら。目の前の敵をどうにかするほうが先だろうが」 サ「しょうがないでしょ?作者がここで話を切っちゃったんだもの」 ア「ルシェルさんが意味ありげなことを話してるのも気になります…」 セ「とにかく、この魔物を倒して早くアリアを助けてみせる!!」 ア「頑張れえ〜」 アリア以外「………」 |
12823 | 金と銀の女神10 | 神無月遊芽 E-mail URL | 12/24-11:54 |
記事番号12804へのコメント こんにちは。神無月です。 うー。この挨拶少し飽きてきました。 …サブタイトル、自分で書いててなんだけどなんとかならないかな(笑)恥ずい。 **************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 10章 君を護りたい silver この胸に覚える甘き夢払えず それを理解することさえ不可能 私は、破壊と殺戮の中で生きるしかないのよ 『ガアア!』 すっかり腕の再生した魔物が、セリオス達に襲い掛かる。 「!?シールドお!!」 ルシェルが咄嗟にそう叫ぶと、ルシェルの左手から光の粒子が現れ皆を包み込んだ。 そして無理矢理それに腕を押し付けた魔物の腕は、触れた部分から蒸発していく。 『グアアアアアア!!』 焼けるような痛みに耐え切れず、魔物が咆哮する。 その声にようやく我に返ったのか、セリオスが剣を構えた。 「どうすればいいんだ?攻撃しても、すぐに再生してしまう…」 そう言っている傍から、魔物の腕がまた再生していった。 その時、違和感を感じた。 「…なんだ?」 魔物の腕は再生している。先程と同じように。 だが、違うのだ。何がと言われると困るのだが、強いて言うと…。 「再生が…遅い……?」 そのセリオスの声を聞いたクロスが、歓喜の声をあげた。 「そうだ!いちいち再生なんてしてたらどんどん再生能力が弱くなってくに決まってる!同じ場所を再生するならなおさらだ!」 「これで…少しは勝てる可能性が高まったってことかしら?」 「いえ、勝てるわ」 ルシェルがぴしゃりと断言した。 「それに、勝つつもりで戦わなければ、勝てる戦いも勝てなくなるわよ」 そう言いながらルシェルは、口の中でぶつぶつと何か呟き始めた。 セリオスはこくりと頷くと、サリラとクロスに向かって叫びながら、魔物に向かって駆けた。 「サリラは弓じゃなく魔法で!クロスは一緒に魔物を粉砕する!!」 「おっしゃ!」 待ってましたと言わんばかりにクロスが突進する。 サリラは無言で、弓を捨て、呪文の詠唱に入った。 自分でも、弓は通用しないと解っているのだろう。 こういう硬い魔物は、装甲の薄いところ。もしくは魔法で倒すしかない。 弓は遠距離攻撃には便利だが、力押しが出来ない。かと言って、鎧の薄い部分を狙ってうつのは難しい。もちろんそれ以外に当たっても弾かれる。 そのため精霊魔法を持っている者が多いようだ。 セリオスは魔物に思考を戻し、掛け声と共に魔物に剣を振り下ろした。 魔物の腕はいとも簡単に切断され、それがまた気色の悪い音と匂いと共に再生されていく。 「精霊よ…この世界に満ちし光よ…我が前にかたちとなって姿を現し、我の意のままに動け!!」 「光よ。それは眩きを産み、それは炎を産む。聖なる光を持って目の前の邪を払え!!」 魔物の腕の再生が終わる瞬間。その再生しかけていたところにサリラの魔法が、魔物を包み込むかのようにルシェルの魔法が炸裂する。 『ガアアアアアアアアアアア!!』 光に焼かれた魔物の身体は、じゅうじゅうと蒸発する音をたてて焼け爛れていた。 だがそれも、ゆっくりと再生していく。 「クロス!再生が出来なくなるまで叩くぞ!」 「任せとけ!」 言うや否や、クロスの攻撃が魔物の手首にあたり、それを奪った。 セリオスもそれに続くように、反対側から攻める。 おびただしい血をその身に受けながら、二人は攻撃を続けた。 幾度となく再生していくそれに、何度も何度も切りかかった。 魔物も、先程のサリラとルシェルの光の魔法で随分ダメージを受けたらしく、動きが鈍い。 反撃する暇も与えず、ただ攻撃していく二人。 ルシェルは先程の魔法の後は援護に専念し、サリラはこみあげる吐き気を堪えながら戦いの行方を見守っていた。 「(アリア…アリア……!!)」 心の中の葛藤とも必死に戦いながら、セリオスは剣を振るっていた。 そして、魔物は倒れた。 ぐちゃりと。もう肉の欠片になってしまった体が倒れ、それが地面とぶつかった衝撃でまた砕ける。 「アリア!」 「ちょっ…セリオス!」 セリオスは、魔物が倒れたのと殆ど同時に神殿の中へ駆けていった。 クロスは、セリオスを呼び止めようとしルシェルにとめられたサリラに目も向けず、肉片となった魔物に、とどめをさした。 神殿の中は、思ったよりは広いようだった。 大理石で出来た彫像が立ち並び、最も奥には女神の像と祭壇があった。 セリオスはターツの村の神殿のことを思い出しながら、祭壇の上に寝かされている少女に駆け寄った。 「アリア!」 瞳が、開いた。 少女はしばらくぼーっと天井を見つめていたものの、何かに気が付くかのようにゆっくりとこっちを向いた。 血に濡れた顔が、今度は涙で濡れていく。 少女はずきずきと痛む身体を気にもせず、起き上がった。 首からかかった石がからりと音を立てて胸を転がり、紅く染まった白いワンピースが、少女の足の上をすべり、床まで落ちた。 そして、口を開いた。 「セ・リ・オ・ス」 セリオスは少女の元まで駆け、アリアの身体が折れるのではというほどに強く抱きしめた。 「セリオス。セリオス。セリオス…っ」 アリアは自分が泣いていることにも気付かぬまま、セリオスの名を呼び続けた。 「君を護りたい」 その血を吐くような台詞に、アリアは、セリオスを淡く抱き返した。 「ただいま、セリオス」 「おかえり、アリア」 「じゃあ、私は戻るわね」 「ええ。元気でね」 翼をひらき、そう言ったルシェルに、サリラが微笑んで返事をする。 ルシェルはそれに微笑み返すと、セリオスに向き直った。 「それで、これからどうするの?」 「ああ。ナーサ国に渡るために、ミナセスの港町まで行くけど、その途中にターツの村に寄って一泊してから出発しようと思うんだ」 ちょうど通り道なんだ。と付け足すセリオスに、ルシェルの顔が曇る。 「アリアは…どうするの?」 その言葉に、アリアが反応を示すが、すぐに顔を反らしてしまう。 「解らない。 だけど、一番いいのは僕の家で妹と一緒に暮らしてもらうことだと思う。 家も解らないのに放っておくわけには行かないし、妹も寂しがっていると思うから」 アリアは瞳を潤ませ、ルシェルは表情が曇ったまま。 セリオスはそんな2人の様子に訝しげな表情をするが、すぐに戻った。 「それじゃあ、もう行くよ」 「あ、待って」 ルシェルが何かを呟くと、ルシェルの手の平に指輪が現れた。 そしてそれをサリラの右手の人差し指にはめる。 「これがあれば、わざわざここまで来なくても私を呼ぶことができるわ。 神聖な場所。もしくは満月の光の差す場所でしか使えないという欠点があるけれど」 サリラは指輪を見つめると、礼を言おうと口を開いた。 だが、言葉を紡ぐ前に。 「”もし”サリラが旅を続けるのなら持っていて。 ”もし”そうじゃないのなら、セリオスに渡して頂戴」 「え…?」 「じゃあね」 ルシェルはサリラに返事をする暇を与えぬまま次の言葉を発し、そのまま空気に溶け込んでいった。 サリラは呆然としたまま、指輪を見つめるだけ。 サリラが、旅を止める? そんなこと考えたことも無かったセリオスは、サリラを見つめたまましばし硬直した。 だが、ありえないことではないのだ。 サリラは元々、これと言った目的もなく、僕を心配してついてきてくれただけな。 クロスだってそれは同じだが、彼は戦闘が大好きな上、魔術師家系の家から逃げるように旅に出た。 戦士になりたいという願いは、そのまま旅を続ける理由になる。 彼女は違うのだ。旅をする理由が無い。 それに、昔の彼女の方が、旅をしている今より生き生きとしているような気がした。 それが、ルシェルには解ったのだろうか? 「…とにかく、ターツの村に帰ろう」 そう言って、歩き出すセリオス。 皆も、ゆっくりとその後を追っていった。 だけど、誰が気付いただろう? 色んなことの重なりで、自分の考えに入り込んでいた一行に。 砕けていた魔封じの石が、再び少女の胸元にあることに。 この先、もう一人の護るべき人が悲劇に見舞われることを。 一体…誰が気付いたであろうか…? 裏話というかキャラの叫びというかやっぱり裏話。 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。(そう思いたい) セ「うわ〜〜〜!!一体何なんだ〜〜〜〜〜!!」 サ「ど、どうしたの?セリオス…」 ク「ナレーションがさ、最後になんか言ってるだろ。あれが気になって夜眠れなくて昼寝てるんだってさ」 ア「それは夜更かしって言うんです。いいじゃないですか。私は助かったし」 セ「だけど、嫌な予感がする…」 ア「………私はどうでもいいんですか?」 セ「そうじゃないけど…”もう一人の護るべき人”ってところが心配で…」 サ「まったく…。そんなに心配なら今回みたいにずっとアリアとべたべたしておけばいいでしょう?そうしたら不安を一時だけ紛らわすことができるわよ」 ク「荒れてるなーサリラ。まあしょうがないか」 サ「だって作者が私をパーティーから外そうとしてるのよ!酒の一つも飲まずにいられるかってんだ!」 セ「(サリラ、いつのまに酒を?しかも10本は空になってるぞ…)」 ク「いいじゃねえか。作者に気に入られてないみたいだし、これ以上いても辛い想いをするだけだと思うんだが」 サ「そういえばあんたもいつかパーティー抜けるらしいわよ」 ク「!?」 |