◆−金と銀の女神11−神無月遊芽(12/29-13:59)No.12899
12899 | 金と銀の女神11 | 神無月遊芽 E-mail URL | 12/29-13:59 |
こんにちは。神無月です。 やっと11章。そろそろ1部が終わりそうです。 あとですね、おおみそかから元旦にかけて祖父、祖母の家に泊まるので、12章の投稿は来週になると思います。 まあ、とにかくどうぞ。 *************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 11章 嵐の前の静けさ gold 勇者の覚醒が近い 力の開眼の引き換えに 大切な何かを失ったとしても 「…お兄ちゃん。どうしたの?」 帰ってきて初めに聞いたのは、あんまりといえばあんまりなそんな言葉だった。 「うん、お城のほうまでは行ったんだけど、ターツの村の先の港から大陸に渡ることになって、一度帰ってきたんだ」 当たり前のように言い放ったセリオスに、レイラが怒鳴りだす。 「もう!いきなりなんだから!」 レイラも寂しいのは寂しかった。だが再会があまりにも突然すぎたのだ。 兄のいない生活にやっと慣れた頃に兄に帰ってこられてはさすがに迷惑だろう。 「ごめん…。あ、そうそう。彼女はアリア」 まるでレイラの怒りをうまくごまかすかのように、アリアの前で手を泳がせ、紹介をした。 アリアは少し緊張しているのか、慌ててぺこりとお辞儀をする。 「あ、お兄ちゃん彼女出来たんだね☆」 「ΩΣΨΦ!?」 意味不明の言語を喋りながら、口をパクパクさせながら不思議な踊りをしながら真っ赤になった兄を見て、レイラが情けなさそうに溜息を吐く。 「お兄ちゃん。何語を話してるの…?」 セリオスは我を取り戻すと、わざとらしく咳をしてまた話し出した。 「とにかく、ターツの村で一泊か二泊していくよ。 …サリラも誘っておいたけどよかったかな?」 サリラはセリオスやクロスと違って一人暮らしだ。 せっかく村に帰ってきたのに誰もいない家に帰って一人で寝るなんてあんまりだと思い、セリオスが自分の家で寝ないかと誘っておいたのだ。 今は荷物を整理するとかで、家に帰っているが、すぐこちらに来るらしい。 レイラは相変わらず無責任と言うか、どこか頼りがいのない兄の言葉に悩む振りをした。 少しでも困らせてみたかったのだろうが、あいにくセリオスは無茶苦茶困っていた。 「…レイラ」 それをレイラも解ったのだろう。しょうがないという顔をして無邪気に微笑む。 「いいよ。でもそのかわりっ、今日は私と寝てよね!!」 「はあっ!?」 セリオスの腕に自分の腕をからめ、上目遣いでセリオスを見つめた。 「かわいい妹を一人家に残しておいて、帰ってきたらきたで話もしたくないって言うの?」 子供っぽい、少しばかり強引な説得。 だけどセリオスは昔から、この瞳に弱かった。 「…ごもっともだよ。負けた」 するとするりと絡まっていた腕がほどけ、無邪気な微笑が目の前にあった。 「えへへ。じゃあ、家の中の掃除でもしておくから、村の皆にも会って来たら?」 「うん、もう挨拶してきたんだ。これからディクス様の所に行こうと思って」 「そうなんだ?…ってお兄ちゃん、何か忘れてない?」 セリオスが外へ出ようとした瞬間、レイラが恨みがましい目でその背中を見つめた。 セリオスは感じなれた妹の殺気に苦笑しながら、少女と向き合った。 「ただいま」 「おかえりなさい。いってらっしゃい♪」 「行ってきます」 笑うしかないような兄妹のやり取りを、アリアは不思議そうに見つめていた。 「ディクス様」 セリオスが話し掛けると、祭壇に祈っていた司祭がいつかと同じようにセリオスに振り向いた。 だがあの時と違うのは、どこか暗い想いを秘めた瞳。 セリオスはそれを疑問に思いながらも、礼儀正しく頭を下げる。 「おお、帰ってきたのですか。セリオス。一体どうした?」 「はい。僕は予想以上に魔族や魔物達がこの世にはびこっている事を知りました。 この平和な大陸でさえこのように魔物がいるのだと。 それで、他の被害の大きい大陸に渡ろうとしたのですが、ここからでは船がなく この先の港からナーサ国に渡り、そこからエルア大陸に渡ることにしたのです」 簡潔すぎて少し解りにくいセリオスの説明に、ただ耳を傾ける司祭。 「なるほど。それで一度この村に戻ってきたのか」 「はい。皆に送り出してもらってすぐに帰ってくるなんて、少し間抜けでしたでしょうが」 司祭はその細い目を更に細くして、おかしくて、というよりはいとおしそうに笑んだ。 「だが、他の大陸は危険ですよ。ここは突出したものもなく、兵達も強くなく…。 だからこそ、魔物達はこの大陸に出現しない。 エルア大陸は、魔物達がいなくてもひどい状態になって…」 「でも行かなくては」 司祭の話を皆まで聞かず、セリオスは断言した。だが、多少の苦笑をまじえながら。 司祭は、その感情に気付くと、表情を曇らせた。 「セリオス、すみません…」 「?何がですか?」 司祭の視線の先には、セリオスと、その後ろに隠れている蒼い髪の少女…。 ディクスはばつが悪そうに微笑むと、首を横に振った。 「なんでもありませんよ。 レイラが家で待っているのでしょう?帰ってあげなさい」 「…はい。明日か明後日、出発する予定です」 アリアの手を引いて、去っていくセリオス。 司祭はステンドグラスから差し込む光に身を捧げ、瞳を閉じた。 「命をかけてまでしたいものではない勇者に仕立て上げ、この世界の平和のために貴方の幸せを犠牲にしてしまってすいません…。 そして…私は知っている…。もうすぐ貴方の大切な人が空に還る事を…」 どうしても、セリオスには伝えられなかった予言の一部。…いや、大部分。 司祭はゆっくりと、”完全な”予言を自らの口で復唱した。 「『不完全なる夢の地。邪なる聖なる者達。 今正に闇へ還りし時、蒼き光は風と共に旅に出ん。 風の気紛れに付き合いし時、 金と銀に祝福されし、勇者に近しく遠き者。 紅きを空に舞い上がらせ、蒼き光に力と悲しみもたらさん。 蒼き光、今一度愛と悲しみを植え付けられし時、 紅き炎呼び覚まさん。 蒼き光、慈しむべき悲しき白銀の導きにて今を壊し、 人為らざる人に全ての夢を託す―。』」 随分予言の編集が上手だったんだなと自分で自分に苦笑しながら、セリオスに伝えたのよりも大分長いその予言を言い終える。 司祭は遠い目をすると、蒼く染まった光を、空気を、手の中にそっと閉じ込めた。 「風の気紛れで故郷へと帰ってきた勇者よ。 一体貴方は、今一度旅立つ時、何を胸に秘めているのでしょうね…」 何度言っても言いたりぬ謝罪の言葉を、司祭は胸の中だけで、ずっと唱えていた。 「お帰りお兄ちゃん!早かったねっ!」 レイラが金の髪と紅いリボンを揺らしながら、セリオスに駆けて来た。 セリオスは軽く笑むと、まだ位置の高い太陽の下から、玄関へと移動する。 「ただいま。サリラはもう来てるかな?」 「うん。ついさっきね。ほら、早くあがって!」 セリオスの腕をぐいぐいと引っ張り、ついでにアリアの背中を押しながら家に押し込むという器用なことをしながら、レイラが言った。 「わっとと」 「お、おじゃまします」 腕を掴まれてバランスを崩すセリオスと、背中を押されながらも遠慮がちに挨拶をするアリア。 レイラは2人が家にあがったのを見ると、脱ぎ捨てられた―最も、レイラのせいなのだが―靴を揃えると、家の中に向かって手の平を向けた。 「ようこそいらっしゃいましたっ!」 元気一杯で、それでいてはにかんでいる、かわいらしい笑顔だった。 ―夜。 蒼く紺色な闇を、星々が照らし出す。 月は白光で、世界を淡く染めた。 その月明かりが窓から薄く差し込み、アリアの元へと落ちる。 「ねえ、サリラ」 淡く、淡く言葉を出すアリアに、サリラが寝たまま振り向く。 そしてそのまま身体もアリアの方を向き、微妙な表情の少女に答える。 「どうしたの?」 対してアリアは、サリラに向けていた身体をぐいっと引っ張り、仰向けの状態になった。 「昼間、セリオスと妹さんがしていたあの言葉は何の意味があるの?」 「え…?ああ『お帰りなさい』と『ただいま』のこと?」 サリラは少し考え込んでからやっと何のことを言っているのかが解ったのか、一呼吸するほどの時間を置いて返事をした。 その言葉に、アリアは無言で頷く。 以前セリオスに漠然とだけ教えてもらったけど、それでもまだ解らなかったのだ。 「『行ってらっしゃい』『行ってきます』『ただいま』『お帰りなさい』 この言葉はね、全部セットなのよ」 「セット…?」 アリアが聞くのと同時に、サリラが微笑む。 「そう、全ての言葉で一つの意味があるの。もちろん、個々にもあるけど、結局は変わらないしね」 行ってらっしゃい、行ってきます。ただいま、おかえり。 言葉そのものの意味は解るけれど、どうしてそれをいちいち言うのかが解らない。 アリアがそう思っているのを見越したかのように、サリラが笑んだ。 「”また、この場所に帰ってくる”…―」 アリアはその言葉を聞いたとき、一瞬時が止まったような気がした。 「そうね…言うなれば約束なのよ。必ず帰ってきてねっていう。 そして帰ってきた時は、ちゃんと帰ってきたよって。それで「ただいま」と言うの」 『おかえり、アリア』 『ただいま、セリオス』 「それは、場所だけに使われるの?」 ふとあの時の光景を思い出して、アリアは思わず口にしていた。 だがサリラは気付いた様子もなく、ただ質問に答える。 「そうね…。基本的には家とかだけれど『自分の元に帰ってきてくれたんだね』とかいうのにも使えるかもしれないわね」 アリアは思わずサリラから目を反らし、胸の位置にある石をぎゅっと握り締めた。 「セリオスもレイラも、拾われた子供なのよ。何年か前に両親も死んでしまって、2人きりだった。その頃からかしらね。レイラがこの言葉にこだわるようになったのは」 「……そう」 ―あの時、私にあの言葉をくれたのは何故? 言葉に出来ぬ想いを胸にして、少女の夜は更けていった―。 夜。少女はむくりとベッドから起き上がった。 そして隣りのベッドで寝ている人物の肩を揺らしながら声をかける。 「お兄ちゃん、起きてる?」 「ん、まだ起きてるよ」 最も、寝ていても今ので起きてしまったろうけど。 だが少女はそんなことには気付かず、起きていた青年に満足そうに笑った。 「?お、おい」 セリオスが慌てたように言葉を発した。 レイラのほうはそんなの気にもせず、布団の中に潜り込む。 ただし、セリオスの―。 そして完全に潜り込むと頭を布団から出し、兄に話し掛ける。 「このほうがあったかいでしょ」 「…そうだね」 くすりと微笑むと、レイラが身を寄せてきた。 セリオスが顔を覗き込むと、不安そうな、寂しそうな、そんな表情。 「……お兄ちゃん。憶えてる?私が、この家にきたときのこと―」 セリオスは珍しく神妙に話す妹の言葉に、静かに頷いた。 レイラはすっと右手を顔まで持っていくと、右目を覆い隠した。 「私ね、恐かった。銀の瞳のせいで、誰も私を見てくれなかった。 両親もきっと、そのせいで私を捨てたんだと思う。 だけど、責めたりなんかしてないよ。私がいたら、迷惑なだけだから…」 銀は、魔族の印―。 それが例え片目であろうと、髪の一房であろうと、魔物視され、人々から疎外される。 「私、誰も信じられなくなってた。見る人見る人、全て私の敵なんだって。 心もどこかに置き忘れて、ただひたすら生き続けるしかなかった」 今思うと、バカだったけどね。と無理に笑顔を作ってセリオスに微笑みかける。 セリオスは無言で妹を抱き寄せ、髪を梳いた。 「その時ね、お兄ちゃんに出会えたの。もう全て失っていた私を、愛してくれたの。お母さんとお父さんも、私を普通の子供と同じように扱ってくれたの」 『おいで。今日から君は僕の家族だよ』 「初めて、安らぎを知ったの」 セリオスの胸元が濡れていた。 それは、少女の涙。孤独の中で生きて、氷のように冷たくなっていた、少女の叫び。 それと同時に、セリオスがどきっと顔を強張らせる。 少女があまりにも、大人びた顔をしていたから―。 「お兄ちゃん。お兄ちゃんは絶対に勇者だよ。 私に生きる勇気を与えてくれた勇者様だよ。 本当はここで、私のことなんて忘れて旅に出てって言わなきゃいけないのかもしれない。でもそんなの嫌だから…。 だからお願い。何年かかってもいいの。世界を平和にしたら、絶対帰ってきて。 もう私を、独りきりにしないでよお…」 とうとうセリオスに抱きついて泣き出してしまったレイラ。 セリオスはそんな妹を、優しく抱きしめてやるしか出来なかった。 「当たり前だよ。僕の家はここしかないんだから」 レイラは泣き過ぎて時々痙攣を起こしながら、心の中でやっと整理できた気持ちを言葉にした。 「傷付きすぎて…痛いとも感じなくて…。 お兄ちゃん達の…優しさの…中にさらされた時…初めて…痛いと感じた。 もう…私の子供時代は…戻ってこないけど…今から…その分を精一杯…生きてやるのっ」 もう血塗れだった子供時代は、やり直せないけれど。 今から幸せになることくらい、出来るよね…? 「…ごめんね…お兄ちゃん。疲れてる時に、こんな話して……」 やっと涙が止まったのだろうか、赤く腫れた目をこすりながら、少女が寄せていた身を離す。 「……いいんだよ。妹はそんな気を使わなくて」 少女は兄の軽口にくすりと笑うと、布団を頭までかぶった。 「おやすみ、お兄ちゃん」 「ああ、お休み」 体の中で鼓動がする。 こんなに平和で幸せな一時を過ごしているのに、戦いの鼓動がする。 嫌な予感がするんだ。 まるでこの平和が、嵐の前の静けさとでも言うかのように…。 裏話〜い。 *セ=セリオス。サ=サリラ。ク=クロス。ア=アリア。(だといいな) ク「おい、俺の出番がないとはどういうことだ」 サ「だってあんた一人自分の家に行ってたでしょうが。しょうがないわよ」 ア「作者もここを書いてる時に思い出したようですし」 セ「え〜と、今回は僕の妹が主役みたいだね」 サ「作者がどうしても、妹のシーンが書きたかったんですって」 ア「レイラさん、苦労してたんですね」 セ「ああ、本当は他の街で暮らしてたんだけど、僕の両親がひきとってうちで暮らしてるんだ」 ア「2人きりの兄妹…普通の兄弟より仲がいいんでしょうね」 サ「それよりあの神父は何?セリオスに隠し事してたわけ?」 ア「でもあの感じは単に作者が今書き足したって感じがしないでもないですねえ」 *「ほっとけ」 セ「章のタイトルが嵐の前の静けさ…か。一体、これから何があるんだろう…」 ク「おーい。無視するなー」 |