◆−金と銀の女神12−神無月遊芽(1/4-12:38)No.13040


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13040金と銀の女神12神無月遊芽 E-mail URL1/4-12:38


 神無月です。
 金銀(金と銀の女神の略称)、母曰く「やっと盛り上がってきた」だそうです。放っといて。
 私の小説って、ただでさえおもしろくないのに、比較的おもしろくなるまでに時間がかかるのが難点です…。
 それでも見捨てないで下さるのならば、どうぞお付き合いくださいませ…。

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             金と銀の女神
           〜世界が始まるとき〜


   12章 鎮魂歌を天に

 silver 勇者は覚醒した
    大切な者と心を犠牲にし いつか私と戦うべく

「お兄ちゃんっ!起っきってっ!!」
  ガバッ
「うわあ!」
レイラの弾んだ声と共に、セリオスから布団が剥がされた。
だが布団にしがみついて寝ていたセリオスは、布団が剥がされたと同時にベッドから転がり落ち、あえなく床と仲良しになり、頭をさすりながら恨みがましく妹を見る。
「レイラ…。もう少し優しく起こせないのか?」
だがレイラは悪びれた様子もなく、布団を持ったまま微笑む。
「だってお兄ちゃんったら何度起こしても起きないから、強硬手段に出ただけだよん」
そして布団をベッドの上の位置に戻すと、倒れたままのセリオスに手を差し伸べた。
「ほら、立って。サリラさんとアリアさんも起こしに行かなきゃ」
昨夜の様子はどこに行ったのか、相変わらず快活な少女に、セリオスはやれやれと手を伸ばした。
 その時、

  ドガ―ンッッ!!

どこからか爆発音が鳴り響き、辺りが大きく揺れる。
「うわわっ…なんだ!?」
「これ…神殿の方だわ!!」
言うや否やレイラが飛び出す。
 セリオスも、慌ててその後を追った。



 神殿に辿り付くと、そこは炎に包まれていた。
白い神殿が真っ赤に燃え上がり、がらがらと音を立てて崩れていく。
少女は赤い風に髪と服をなびかせて、その凄惨な光景を見つめていた。
「ひどい…誰がこんな…」
レイラが口に手を当てて、震えながら言った。
『ほう…そちらから来るとは手間が省けた』
大地が響くような低い声に、レイラの顔が歪んだ。
「!?誰だ!」
その時、やっと追いついてきたセリオスが、声の主に叫ぶ。
レイラはぱっと安心の表情を浮かべると、セリオスの元まで駆けた。
 セリオスは持ってきた剣を構えると、炎で視界が歪んでいながらも、相手を見据えた。
「…魔族か?」
『御名答』
それがすっと手をあげると、相変わらず炎が舞っているにも関わらず視界が晴れ、姿が露になる。
 筋肉質で褐色の肌。
覆われてる部位は少ないとはいえ、魔法で強化されていると思われる鎧。
赤か茶色か見分けのつかぬ、毛先の揃っていない髪。
そして、銀色の瞳。
『我はアマルズ。その娘を殺しに来た』
「!?」
アマルズの言葉に、セリオスが愕然とした。
「レイラを殺す?何故!?」
『我の使命は、他の者とは違うところに在る。
 例えば、人間界に置かれた、天使と魔族の間に産まれし子供の始末』
そう言いながら、すっとレイラを指差す。
「天使と…魔族の……子供……?」
レイラの手がセリオスの服を掴み、そこからレイラが震えているのが伝わってくる。
セリオスはキッと魔族を睨みつけた。
「そんなわけ…そんなわけあるか!」
だが魔族は冷静に、言葉を紡ぎつづける。
レイラを壊さんとするかのように。
『確かに、それは我らと天使の血を継ぐもの。
 でなければ、金と銀が同時に人の身に現れることなどないはず』
確かに、人の中にはレイラのように片目だけ銀色だというものや、両目とも銀だというもの。金だというもの。髪が銀色だというもの。金だというものが存在する。
髪も両目も銀で、迫害のあまりに殺されたものもいた。
 だが、髪だけ、目だけの場合でも、例えば金の髪と銀の瞳というように、金色と銀色が混じる事はなかった。
その例外が存在するとすれば…。
『…そういうわけだ』
魔族が、にやりと口を歪めて笑った。
(レイラが…天使と魔族の子供!?)
『そいつの親は、もう10何年も前に殺された。最も、我ではなく天使たちにだが。
 その時そいつらが庇ったせいで、お前が行方不明になり、親だけ死んだのだ。
 愚かな奴らだよ。本当に』

   ―私ね、恐かった。銀の瞳のせいで、誰も私を見てくれなかった。
   両親もきっと、そのせいで私を捨てたんだと思う。―

セリオスの拳が、硬く握られた。
「……私のお父さんとお母さんをひどく言わないで」
セリオスの服から手が離れ、俯いていた顔が上を向く。
「私、会ったことない。どんな人か知らない。だけど私を産んでくれた。私を庇ってくれたおかげで、私が今生きてるんでしょう?」
レイラがセリオスの一歩前に行き、足を震えさせながら、それでも魔族と対峙する。
「そんな人を…愚かなんて言わないでよ。私のお父さんとお母さんをひどく言わないでよ!!」
『……考え方さえ違う異なる種族と子を成した者でも、か?』
恐くて、視界がぼやける。
泣きながら、震えながら、渇いた声で言葉を出す。
「私は、愚かだなんて思わないよ」
『そうか…お前もお前の両親と同じようだな…』
魔族が動こうとしたその時、セリオスがレイラの前に出た。
『何の真似だ?』
セリオスは動かない。だが、その瞳には強い意志が宿っていた。
そして一言だけ。
「殺させない」
「異なる血の者であっても?」
「そんなの関係ない!レイラが誰であったって、流れる血が違ったって…!
 レイラは僕の妹だ!!」
魔族はそれを聞いて、ふっと笑った。
まるで、懐かしく、また、忌まわしきものを見ているかのような目で。
『血の繋がりがないとはいえ、兄妹揃って愚かなものよ…』
魔族はすっと手を前に差し出すと、瞳を閉じた。
『愚かな者には死が似合う』
空気が揺れる音と共に、その手に槍のような物が現れた。
『まず勇者から始末してくれるわ!!』
閃光のような速さで、槍がセリオス目掛けて投げられた。
セリオスは覚悟を決めて目を閉じる。
「お兄ちゃん!!」

 爆発音が響いた。
 体が、大きく反り返る。
 槍は腹部に深く突き刺さり、まるで血を吸っているかのように紅く輝いた。
 そして少しだけ蒼混じりの紅い血と、紅いリボンと、金色の髪が、風に遊ばれるように空を舞う。

「レイラァァァァ!!」
セリオスが、自らの前で倒れていくレイラの身体を慌てて抱きかかえた。
それと共におびただしい量の血がセリオスの服を紅く染めていく。
「レイラ…レイラっ。どうして…っ!」
精一杯に、だけどレイラを壊してしまわないように、そっと抱きしめる。
レイラは虚ろな瞳で、セリオスに手を伸ばした。
「お兄ちゃん…平…気…?間に合って……よかったぁ…」
「レイラっ。どうして僕なんかを庇ったんだ!」
レイラはくすりと笑うと、その手をセリオスの頬に添えた。
「お兄ちゃん。さっきの言葉、嬉しかったよ…。だけどね、それは私にだって言えることなの…。
 …私のお兄ちゃんなんだよ…?血は繋がってなくても、兄妹なんだよ……?
 護って当然じゃない…。
 それに、世界を救うために頑張っている勇者様を、放っておくなんて出来ないじゃない…」
「違う!僕は勇者じゃない!妹を…大切な人一人護れなくて何が勇者だ!」
セリオスの叫びに、レイラが困ったように首を傾げた。
その細い指がセリオスの瞳から零れる涙をそっと拭い取る。
「お兄ちゃん」
落ち着いた声に、セリオスが泣きながらもレイラの顔を見る。
「私、お兄ちゃんからいろんなものをもらったよ」

  ―銀の瞳は不吉の証

「生きることすら絶望してた私に、勇気をくれたよ」

  ―悪魔の子め!
  ―私に近づくな。

「私を助けてくれたのはお兄ちゃんだよ」

  ―死ね。
  ―いらない子供。

 まだあの時の言葉は耳に痛いけれど、私の心を抉り取って行ったけれど。

『おいで。今日から君は僕の家族だよ』
差し伸べられる、優しい手。

    ―オイデ?
    ―ワタシハイテモイイノ?
    ―イラナクナイノ?

 震えながら、伸ばされる手。

「孤独で冷めきった私の心を溶かしてくれた。
 人があたたかいという事を教えてくれた」


                  ―イテモイイノ?


 繋がった手が、かたく握られて。
まるで、決して離れないとでもいうように。

「レイラ…!いやだ。いいから、話さなくていいから…っ!」
セリオスが必死に、レイラの手を握り締める。
 レイラは気付いたように見上げると、一筋涙を流した。
「えへへ…もう……お兄ちゃんの顔、見えないや……」
瞳からまた涙が零れ落ちる。
レイラは少し目を細めると、まだ泣いている兄へ、言葉を贈った。
「言っていいかな…ずっと……言いたかった言葉……」

   ―あの手を取ったときから、

「幸せを…教えてくれた」

   ―多分、この日が来ることを知っていた。

「血の繋がりは…ないけど…誰よりも……大切なお兄ちゃん」

   ―だから言わせて

「今まで…本当に…楽しかった。……嬉しかった……」

   ―最後の言葉を

「ありが…とう…」

          ―あの日繋がった手は、今も繋がったままだよね?―

「お兄ちゃん、大好きだよ……」

  ガクンッ
 手が、首が、急に力を失ったかのように、落ちた。
体からは血の気が失せ、微かにあたたかな体温を残してどんどん冷たくなっていった。
桜色だった唇が徐々に紫を帯びていき、金と銀の瞳は重い瞼に隠された。
 セリオスの瞳から、涙が散る。
「レイラあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  ドオッ

 途端、セリオスの体から青白い光が発せられ、柱のように空へ伸びていった。
炎もその光から発生した風か何かでかき消され、アマルズさえ立っているのがやっとのようだった。
『なっ…なんだ!?この光は!?』
蒼い光に飲み込まれたまま、セリオスはゆっくりと立ちあがった。
蒼い髪がまるで燃え上がるかのように舞い、それがやがて、真紅に染まる。
「……許せない…」
光がおさまると同時に、勇者は、閉じていた瞳を、ゆっくりと開いた。
「絶対に許せない!!」
金色の瞳で睨みつけられた魔族は、逆におもしろそうに笑った。
『なるほど…覚醒したか』
紅い髪を空に舞い上がらせ、見ていると痛くなるような金の瞳で睨んで。
激情に支配されたまま殺気を撒き散らす。
「殺してやる!!」
セリオスは剣を構えたまま、魔族に突進した。
魔族は避ける素振りも見せず、だが一瞬ぴくりと動くと、腕を差し出した。
『残念だが、今連絡がはいってね。君の相手をしてあげられなくなった』
「…何をっ!」
セリオスが魔族に剣を振り下ろしたと同時に、魔族の周りに防御のバリアが張られ、セリオスは衝撃で後方に吹き飛ばされる。
瓦礫に背中をぶつけ、背中と口から少々の血を流したが、それでも気丈に立ち上がった。
『ふっ…我は強い者が好きだ。いずれお前と戦う時が来るのを楽しみにしていよう…。
 そのときは、人一人護れるほどには、もう少し強くなっていろ…』
「待てえ!」
だが、怪我をしている身体では思うように動けない。
数歩歩いている間に、魔族はこの場から消え去った。
 セリオスは気が抜けたように放心した表情を見せるが、視界のはしに映ったものを見てすぐに動き始める。
「はあ…はあ…」
重い体を引きずって、レイラの元へと歩いていく。
金の瞳に映るレイラの身体はもう完全に冷え切っており、血が流れることさえ終わっていた。
「れい…ら……」
セリオスが瞳を閉じると、燃え上がる紅い髪が少しずつ元の蒼い色に戻っていった。
「レイラ…」
力の入っていない体を、壊れるほどに抱きしめる。

 向こうから足音が聞こえる。
 数人分の、騒がしい足音。
 でも、そんなのどうでもいい……。

「セリオス!無事か!?」
サリラ、アリア、クロスの3人は、その場の凄惨さを見て愕然とした。
崩れ落ちた神殿。焼け焦げた地面。そして…
「レイ…ラ……?」
皆は、レイラをただ抱きしめるセリオスを見て、力が抜けていくのを感じた。
サリラは完全に座り込み、クロスはわけもわからず泣き喚く。
「セリオス……」
アリアは、レイラの名を呼びつづけるセリオスを、ただ、見守るしか出来なかった。

「レイラ…レイラ…」
村人達も集まってきた。もう、ないていちゃいけないのに。
涙が、止まらない。
 …天使でも悪魔でも誰でもいい…。
もし僕の力の代償がレイラならば、僕のせいでレイラを死なせてしまったのなら……。
どうか、どうか…鎮魂歌をレイラに…天に、捧げてください……。

      第1部覚醒編 終



 ねたばらしっ!
*「まだ第1部なのでシナリオを明かすわけにはいきませんけど、街の名前のねたばらしを…」

  旅立つ=たびたつ=たつ=ターツの村

  中心=なかごころ=ナカロの街

  鉱山=危ない=爆弾=クラフト=クレスト城  

  日本=ヤマタノオロチ=蛇=ナーガ=ナーサ国

セ「…作者。なんで日本=ヤマタノオロチ…?」
*「だってふっと思い浮かんだんだもん」
ク「……クラフトってエ○ーのアトリエに出てくる爆弾だろ…?」
*「あたり」
サ「………なかごころ?」
*「だって中心を別の読み方で読んだらなかごころじゃない!」
ア「っていうか旅立つ=ターツの村って安直過ぎ…」
*「いいの(フォントサイズ20&太字)」
セ「…じゃあ皆さん、第二部でまた会いましょう〜」
サ「(ぼそっ)レイラは二度と出ないでしょうけどね」
ク「シスコン!アリコン!そのくせ護れない!!」
セ「………うわーん!!(ダッシュ)」
ア「…あの人本当に主人公?」
*「さあ?(笑)」

*「ちなみに、2部の投稿は少し遅れます。ご了承ください」
サ「具体的にはいつなの?まさか半年後とかは言わないわよね?」
*「うっ…痛いところを…。まあ、どんなに遅くても2,3週間で…」
ア「はいはい。私がカウントダウンしてさしあげますから、早く書いてくださいね」
*「うわぁぁん!(ダッシュ)」