◆−言えない言葉と言わない言葉に関する一考察(有栖川有栖です)−あごん(2/9-05:17)No.13529


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13529言えない言葉と言わない言葉に関する一考察(有栖川有栖です)あごん E-mail 2/9-05:17


 おやおや。
 思わず俺は苦笑してしまった。
 くわえた煙草に火を点ける。
 全く最近の若者は人の目を気にしないと言うが、神聖なる学び舎で平然と接吻をするとは。
 そう思ってからまた苦笑が漏れた。
 神聖な学び舎もなにもないかな、今頃、と。
 目の前の恋人達はまだ接吻をしている。
 長いな、となんとなく思った。
 キスの長さが愛情の深さと比例するものでもないだろうに。
 そしてまたしても苦笑。
 愛情、なんて今の若者に言えば馬鹿にされるかもしれないな。
 恋人達の横を通り過ぎる際に、女の方と目が合った。
 女は慌てて男を引き剥すようにして、寄せ合う体を離した。
「火村先生、お帰りですか?」
 俺は軽く頷くと、
「学業にもそれだけ身を入れろよ」
 そう言って、ひらひらと右手を振った。
 へへ、と男の笑いが耳に届き、もう、と女の鼻にかかった声が聞こえた。
「やっぱ火村先生はかっこええわ」
 恋人の前でそんな台詞が吐ける女の気が知れない、と俺は思った。
 そういえば、最近では恋人という言葉も聞かないな。
 などと考えながら研究室へと足を進めた。

「ふぅん。そーゆー教育現場を嘆かわしく思うてるわけやな、火村センセイは」
「そんな事はちっとも思ってねぇよ」
 電話口の向こうの悪友に、俺は舌打ちしながら答えた。
「まぁまぁ。要するにアレやな。死語の余りもの多さに、古き良き日本語を愛するセンセイはアンタンたる気分に襲われたワケやろ?」
「またわからんことを。古いものが良いなんて一慨には言えんだろ」
 あはは、と電話の向こうでアリスの声が答える。
「そんなことはわかってるわ。この現代であなおかし、とも言えんやんか」
 微妙に俺の言ってることとズレてるのだが、作家先生は気にしないらしい。
「こないだなんか俺、喫茶店で若い子らがいただきますを、いったーとか省略してるのを聞いたで」
「ああ、あれだろう。なんとかいうテレビの影響だろ?うちの生徒が朝の挨拶でおっはーとか言ってるぜ」
 そうそう。慎吾ママゆーやっちゃ。
 得意気に説明するアリスに俺は苦々しく吐き捨てた。
「いい年齢してそんな番組見てんじゃねーよ」
 俺のその言葉が気に障ったのか、アリスが言い返してきた。
「あほ。これはリサーチの一環や。作家は世間の動きにも詳しくないとアカンのや」
 お前もそーゆーフィールドワークしてみたらええ。
 面白そうにアリスが言葉を続ける。
「俺は犯罪社会学専門だ。それ以外の社会学は他のだれかがしてくれる」
 言い訳や、とアリスが言う。
 何に対して俺が言い訳をすると言うんだ、このセンセイは。
「ま、火村の言いたい事はよくわかってるねんで、俺も」
 突然声を落としてアリスが言った。
 俺は無言で言葉の先を促した。
「最近じゃ彼、彼女であって恋人ではないんや」
 ため息が続いた。
「下品な子やったら、私のオトコ・俺のオンナとも言うしな」
 嘆かわしいことや、と本当に嘆かわしくアリスが呟いた。
「………正面を向くのが恐いんだよ、今の若者は」
 黙ってしまったアリスに俺はそう言った。
「相手にはまりこむ事を恐れている。愛してるなんて重すぎて言えないんだ」
「そうやろうか」
「そうだろうと思う。だからそんな言葉は古いとか気障だと言って、排除しようとする」
「………………」
「彼らはたったひとつの言葉の重みにも耐えられないほどに、脆弱で繊細だ」
「………俺は耐えられるで。受け止められる」
 電話の向こうでアリスがどんな顔をしているのか、実に想像できる声だった。
「俺は……どうだろうな。耐えられないかも知れない」
 ぽつりと言ったその言葉に、しばしの沈黙が降りた。

「愛してる。俺は火村を愛してるで」

 欲しい言葉を言ってくれたアリスに、俺は小さく微笑した。
 俺は卑怯なのだろうか。
 そんな事も思いながら。

 俺は大阪にいる恋人へと思いを馳せた。
 まだ俺はアリスに答えられないけれど。
 いつか。
 俺がすべての重さを支えられるほどに強くなれたら。
 きっと言う。

「愛している」と。





きゃああああああああ!
こんばんは!あごんです!
知ってる方いますかしら!????
有栖川有栖なんですけど。
しかもホモくさいんですけど(笑)。
すいません。
夢で見たんですよ、この文面を!
忘れない内に書かないと!!
とか思って忘れない内に書きました(笑)。
なんとかガウリナに、とかも思ったのですけど、これはもうダメでした。
ヒムアリ以外では無理だとゆー事で。
ではでは、あごんでした!
お目汚しで申し訳ありませんでした!!