◆−金と銀の女神15−神無月遊芽(2/15-22:23)No.13694
 ┗金と銀の女神番外−神無月遊芽(2/18-12:42)No.13754
  ┗金と銀の女神16−神無月遊芽(2/24-16:44)NEWNo.13882


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13694金と銀の女神15神無月遊芽 E-mail URL2/15-22:23


 こんばんは。この前投稿し損ねた15話です…。
 私は何故既に14話を投稿しているのにまた投稿したんでしょう(^^;)
 それに皆様小説書きすぎで読む時間が…(涙)

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                      金と銀の女神
                    〜世界が始まるとき〜


   15章 女神は悪魔へ

 gold 真実 それは一番辛い道の先にある
   貴方が進んだ道は 間違いなく真実へ向かう道だった

 セリオス達は、荒野を歩いていた。
どこまで行っても枯れ果てた大地だけが広がり、空は暗く、時折雷が鳴るのが聞こえた。
 そう、セリオス達はその問題の礼拝堂に向かっていたのだ。
 アリア、クロスが起きた後に、今の状況を説明したところ「今すぐ攻めよう」という答えが返ってきた。
ルナもそれを考えにいれていたのだろう、セリオスが寝ている間に情報収集のようなものをしており、礼拝堂までの最短距離を割り出していた。
ソードは、賛成するわけでもなく、反対もしない…といったところだ。
ついてきてくれているのを見た限りでは、心配してくれているらしい。
最も、案内役のルナさんだけを心配しているのかもしれないが。
「セリオス、本当に行くの…?」
アリアが不安そうに声をあげた。
 本当は、アリアは連れて来たくなかったのだ。
身を護る術を持たず、礼拝堂へ行く理由もない。
 だが、別れたくないのも事実だった。
レイラのようにはなってほしくなかったから。
アリアも、何があってもついてきたいと懇願し、結局連れて行くことにしたのだが、様子が変だった。
どこか、落ち着きがないというか、ただでさえ白い顔が青ざめている。
「ああ、どうしてだ?あんなについてきたがってたのに」
「……嫌な予感がするの。礼拝堂に、何かありそうで……」
そのせいで、ついてきたのだろうか?
 アリアのか細い指が絡まる。
「…きっと、大丈夫だよ」
だが、戦えるかどうか解らなかった。
 今から悪魔の元へと赴き、戦わねばならぬのかと考えると、指が震えて、喉が渇いて…。
また、大切な人を失ってしまうのかと。不安になる。
「…ついたよ。礼拝堂」
ルナの声が響く。
 前は純白だったろう神殿が、すす汚れていた。
礼拝堂へ至る道は風化しており、人にいじられた様子のない土が丸見えになっている。
頂上の部分を見ると、首をもがれた天使の像があった。
そして、礼拝堂全体から感じる、闇の気配。
 丸々一日はかかってしまったが、ようやく辿り付いた。
「これが…礼拝堂……?」
「……これじゃ、ただの悪のアジトだぜ……」
アリアとクロスが呟くように言った。
 確かに、これはもはや礼拝堂とは言えなかった。
悪魔の澄む魔の神殿としか言えないのだ。
「!?ちょっと待って!!」
その時、ルナが小声でセリオス達を制した。
「……あれは…」
ソードの、冷静な声に振り向くと、そこには半透明の光の球体がふよふよと浮いていた。
 セリオスは理解した。
「精霊…」

精霊とは、この世界に満ちている者。
漠然としているため、説明がしにくいのだが、誰かは「この世界の流れを司る者」と言っていた。
全ての存在に精霊が住み着いており、光、闇、時ですら精霊が司っている。
 精霊界は、人間界と重なっており、精霊界にいたまま、人間界へ影響を及ぼすことが出来る。
例えば、風の精霊が風をおこした時、風の精霊のいる場所が人間界でなくても、人間界まで風が届くのだ。
だが、そのような大変な存在であるにも関わらず、精霊は神の側にも魔族の側にもつかない。
中立。大げさに言えば世界そのものとも言える精霊たちは、何にも属さないのだと言う。
 そして、普段は精霊界にいるため姿の見ることのない精霊達も、人間界へと降り立ち、実体化を果たせば人の目で見ることが出来る。
最も、精霊と心通わすことが出来るものでなければ、痛い目にあうことになるのだが。

「……」
「セリオス?」
セリオスがいきなり黙り込み、その瞳を閉じた。
アリアの呼びかけにも気付いた様子はない。
「………」
「精霊と話してるのか…?」
クロスの言葉に、ソードとルナがセリオスを見た。
精霊と意思を疎通しているのだろう。精霊がセリオスを見て何か反応しているが、セリオスはぴくりとも動かない。
やがて、セリオスの瞳が開いた。
「………狂ってる。言葉が届かない」
「!?」
セリオスの頬を、一筋の汗が流れ落ちていった。
 光の塊はセリオス達を見据えたまま、ゆっくりと近づいてくる。
「ちっ戦闘かよ!!」
クロスが剣を構え、セリオスはアリアを庇うように前へ立ち塞がった。
「ちょ、ちょっと!精霊相手じゃ剣は通じないよ!?」
「なにい!?」
ルナの慌てたような言葉に、クロスが怒鳴る。
ルナは脅えた様子もなく、言葉を続けた。
「セリオスは知ってると思うけど、精霊は、この世界の…この空間の存在じゃない。
 今は目に見えるけど、それだって”肉体”じゃなくて”精神体”で…」
その説明に、頭でも痛くなったのだろうか。いらついたように頭をかきむしる。
「だああ!じゃあ魔法ならいいんだろう!?」
だが、その言葉に、肯定の返事はこなかった。
「ううん、私に任せて」
「えっ?」
セリオスが驚いたように声をあげる。
ルナは、にいっと楽しそうに笑んでいた。
「……ルナに任せておけ。それなら負けることはない」
ルナさんに任せれば負けることはない?
セリオスがその言葉の意味を図りかねていると、ルナが飛び出した。
 小柄な体が素早く動き、次の瞬間には精霊の目前にいた。
セリオスが「危ない」と言う暇もなく…。
「たあっ!!」
拳が精霊をとらえていた。
”肉体”のない、精霊を。
 その攻撃で精霊は大きくバランスを崩し、宙に浮いているにも関わらずよろける。
その隙を見てルナは態勢を変え、今度は蹴りを放った。
綺麗な後ろ回し蹴りが決まり、精霊の光が弱まる。
「もう…早く死んでよね!!」
今度は精霊のど真ん中に膝蹴りが当たった。
そしてその攻撃が当たった瞬間に、まるでガラスが砕けるかのように精霊は消え去り、光の欠片が宙に舞う。
 あっという間の勝利に、セリオス達は呆然としていた。

「だから言ったでしょ?任せてって」
駆け寄ってきたルナが、疲れた様子もなくそう言った。
「…ルナさん、武闘家だったのか…」
まだ呆然としているセリオスの言葉に、ルナがこくりと頷いた。
「うん。正確に言うとちょっと違うんだけどね」
「ルナは自らの体内にある魔力を肉体へと転換し、常人では及ばぬ力を得ている。
 そのため魔法でしか倒せぬ魔物も倒せるのだ」
「なるほど。魔法剣士の武闘家バージョンだな。
 拳に魔力という武器をつけてるようなものだから、精霊に対しても有効なダメージが与えられるわけだ」
珍しくクロスが魔術師らしい発言をする。
「まあ、そういうこと。でも、精霊が正気を失ってるなんて…」
笑顔が段々と失われていく。
恐らく、精霊が意識を失った理由に思い当たったのだろう。
「…それほど、魔族が強大だということか…」
恐らくこのあたりを支配していた精霊が、魔族達に見つかり、精神を破壊されてしまったのだろう。
そのため狂える精霊となり、精霊使いなら簡単に出来るはずの意思の疎通も出来なかった。
だからだったのだ。この大陸の天候がおかしかったのは。
 風は吹かず、澱んだ空気が溜まり、命を育む水は枯れ、空は暖かさを失い、大地は荒野と化した―。
「………行くよ」
セリオス達は歯を食い縛り、暗い礼拝堂の中へ吸い込まれるように歩いていった。

 礼拝堂の中は、思ったよりも静かだった。
そう、静か過ぎるのだ。
荘厳な気配の部屋。立派な作りの柱。金細工の扉。
そういったものなら嫌になるほど見かけた。
だが、悪魔が根城にしている場所なのに、魔族どころか魔物一匹いない。それどころか、神聖な気すら感じられるのだ。外から見たときは、あんなにも魔の匂いを漂わせていたのに。
皆もそれに気付いているのか、緊張が絶えない様だった。
 もう幾度も同じ部屋が続いている。
階段も、一体どれだけの時間登ってきたのだろう。実際のそれより、遥かに多く感じられた。
だが、そんなことを考えるのにも終わりが来た。
今までより格段に立派な扉を抜けた先に、問題の女神像があったのだ。
美しく、清らかな雰囲気を漂わす像だった。その指に、血のような石の指輪をはめてさえいなければ。
「……これが、ソード達の言っていた女神像か…?」
「………ああ、間違いない」
ソードが淡々と、だが憎しみを堪えきれぬように話した。
「多分、その紅い石の指輪が”血塗れのルビー”だよ」
「おいセリオス、そんな不吉なもん、さっさと外しちまえ!」
ルナが蒼い顔で、クロスが気味の悪いものを見たかのように反応する。
 そしてアリアは、何も言わずに首からかけられている魔封じの石を握り締めていた。
「……外すよ」
セリオスがそっと手を伸ばし、血塗れのルビーに触れた。
 …その途端。
「きゃあっ!?」
「…っ!?アリア!?」
辺りに風が発生したかと思うと、アリアの魔封じの石が眩く輝きだした。
「あっ…何…っ?いやっ…」
生暖かく、湿った風が部屋の中を一杯にしていく。
その激しさが増せば増すほどに、魔封じの石は更に輝きだす。
『アリア様…まだそんな格好でおたわむれしていたのですか…?』
「っ誰だ!?」
突然響いてきた声に、どこともつかず構えるが、相手の姿は見えない。
「畜生…出てきやがれ!!」
『くす…。威勢がいいこと…。いいわ、姿を見せてあげる…』
女神像の崇められていた場所に、魔が形作っていった。

    ドクン…

アリア程ではないとは言え、充分に長い蒼い髪が魔風になびく。

    …ドクン…ドクン…

             ―やめて…私の身体を…意識をとらないで…―

隻眼。だがその瞳は存在せぬ瞳の分も補わんとばかりに、銀色に、不気味に輝いていた。

    ドクンドクンドクン…

                  ―私の名前は何だった?―
                    ―アリア…?―
               ―苗字は何?何故、思い出せないの?―

「ちっ。女神が悪魔に変わりやがった!」
聞きなれた声が響く。でも、誰の声だった?
『アリア様。そのような汚らわしい人間の身体など捨て、目覚めるのです』

    ドクドクドクドク…

               ―汚らわしい?人が?…セリオスが?―

『その石を壊し、自らを…魔族としての貴方を解放するのです!!』
「「!?」」
セリオス達に、驚愕が走る。

                        ―………ああ…そう、私は……―

魔封じの石が、音を立てて砕け散った。
 長く艶やかな銀色の髪が、背中を滑り落ちていく。
額からは微かな痛みと共に黄土色の角が生え、血が、その美しすぎるばかりの顔を伝っていった。
発生した風が止むと、その身体を覆っていたのは白いワンピースではなく、黒いドレスへ変わっていた。

                      ―…私は…―


                 『女神が悪魔に変わりやがった!』

 もう、貴方に恋していた女神には、戻れない…―。
魔性の、銀色の瞳がセリオス達に向けられた。

「私は、魔界の王女。アリア」

 これは後書か?いや、違う(反語でせめてみました。特に意味はないです)
 *セ=セリオス。ク=クロス。ル=ルナ。ソ=ソード(アリアは敵になったため以後出ません。そのかわりに新メンバーの2人が以後後書きに出ます)
効果音 どよ〜〜〜〜ん
セ「…………」
ル「く、暗い…」
ク「以前は一度もなかった暗さだぜ。今まで一度も使うことのなかった効果音も使いやがって…」
ソ「…全く…後書くらいギャグに出来んのか…?」
ル「アリアさん、魔族だったのね…」
ク「というか、バレバレだったと思うぜ?」
ソ「…そうだな。読者の皆様には作者の未熟な腕のせいで申し訳ないことをした」
ル「先が見えたら面白くないもんね!全く…」
ク「おい、ほら、明るく行こうぜ!影の薄い主人公!」
セ「…ほっといてくれ…。影の薄い脇役……」
ク「!?!?!?!?(がーーーん)」
ル「………元気みたいね」

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13754金と銀の女神番外神無月遊芽 E-mail URL2/18-12:42
記事番号13694へのコメント

 こんにちは。神無月ですわ。
 今回は続きじゃなくて短い番外編です。
 …え?いや、決して続きのネタがなくて書いてないわけじゃありませんよ。
 時期的には12話と13話の間のお話です。

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             金と銀の女神
           〜世界が始まるとき〜


   第一部 番外編


   寂しい丘で、一人たたずむ貴方はどこか知らない人。
   その墓は誰のものなの?
   貴方が涙も見せず、ただ立ち尽くしているその場所は何?
   笑顔を見せてなんて贅沢かしら。
   一番傷ついているのは、貴方なのに。


 風が、セリオスの蒼い髪を孕んでいく。
優しき大地は、目に見えぬ涙で濡れそぼり、今だ目に残る紅い炎が、心を食らい尽くしていく。
「セリオス?」
極力明るく声を出す。
そうしなければ、みんな壊れてしまいそうだった。
 そして、真新しい墓の前に立つ貴方も、消えてしまいそうだった。
 私の声に気付いたのか、セリオスが力なく振り向いた。
「サラ…」
「ごめんね。一日で用意したものだから、レイラちゃんが喜ぶような物に出来なかったわ」
言った後、はっと口を噤むが、セリオスは「気にしなくていいよ」と言うと、サリラに向き直った。
「いや、充分だよ。ありがとう」
丸くアーチを描く形の墓の上に、翼の生えた十字架があるデザイン。
これは、聖なる天界へ行けるようにという、大陸共通の風習だ。
そして周りには申し訳程度に花が添えられている。
 きっとレイラがいたら「もっと豪華にして!」とか「花で一杯にして!」とでも言うところだろう。
だが、この辺りでは花らしい花もなく、セリオスが発つのは明日だったため、どうしても出来なかった。
「…サラ、悩んでるのか?」
「え?」
思いがけない言葉に戸惑っていると、セリオスが続いて言葉を紡ぐ。
「ルシェルの言ってたことで……」


                        ―旅を続けるの?―


 サリラはきゅっと唇を噛み締めると、曖昧に頭を項垂れた。
「解らないの…。どうすればいいか……」
セリオスについてきて、始まった旅。
でも、正直言って、足手まといになってしまいそうだった。
セリオス達についていくのがやっとで。魔物達の中にさらされる度涙を堪えるので精一杯だった。
ルシェルに会ってからは尚更。戦うということが恐くなっていた。
 例え、自らの命を護るためであろうと”もしかしたらルシェルのような運命を背負っていたのかもしれない”命を、滅ぼしているのかと思うと。
そして、自分も殺されてしまうのかもしれないと。
でも、ここに残ったら、皆に取り残されてしまいそうで。
 一人になってしまいそうで。
「迷って当然だよ。明日までじっくり考えればいいさ」
そう言うセリオスの表情は、優しいというよりは儚い。
 自分だって傷ついて、他人のことを考える余裕なんてないだろうに、必死に”いつもの自分”であろうとしている。
 サリラはそれと同じく、儚い笑みを返すと、丘の崖っ淵に立った。
 柔らかな風がサリラの身体を包み、空は昨日の悪夢を知りもしないかのように蒼く澄んでいる。
一望できる村の景色は、その中にいるよりも小さく見えた。
手を差し伸べると、その中にすっぽりと収まってしまいそうなくらい。
小さな、小さな村。そして、小さな、小さな平和と幸せ。
 自分が何をしたいのか、何をすべきなのか。
それを見つけられるのは、自分だけ。
「セリオス、ありがとう。私、もう少し考えてみるわ」
「ああ」

   そして、貴方も……。
   貴方の答えを、見つけて……。

   レイラちゃんが、自ら死を選んでまで護った貴方。
   傷ついても、傷ついても、立ち上がって行って。
   私の勝手なエゴだけれど、強く生きて。
   悲しみに負けないで。

   私は貴方の故郷で、祈りつづけているわ…―

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13882金と銀の女神16神無月遊芽 E-mail URL2/24-16:44
記事番号13754へのコメント

 こんにちは。『書き殴り』投稿小説、不人気ランキング1位の小説です(笑)
 まあ、途中でやめるのは嫌ですので、今しばらくお付き合いください。
 …ってここを見ている人はいるんでしょうか…。

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                      金と銀の女神
                    〜世界が始まるとき〜


   16章 皮肉な運命

 silver ごめんなさい
    私 貴方に「行ってきます」とすら言えない
    言う資格なんてないの…

『私は、魔族の王女。アリア・ルーン。アヴィス』
その言葉を聞いた時、時が止まったかと思った。
「え……?」
セリオスの瞳が大きく見開かれる。
だがその蒼い瞳は、皮肉な運命を映すだけだった。
「アリア……?」
少しだけたれ目の、気弱そうな瞳。
長くて、綺麗な髪…。
白く柔らかな肌。桜色の唇。
全て、全て同じなのに。僕の知っている”アリア”と今の”アリア”に、なんの違いもないのに…!!
『…私は、魔界から勇者達を探るために送られたの。
 でも、この姿のままでは絶対に見つかってしまうと思った。だから…』
床に落ちている、粉々になってしまっている欠片を拾い、握り締める。
『だから、この魔封じの石に私の魔力と記憶を封印した…。そして…』
「僕達に、同行していた…」
アリアがセリオスから瞳を反らし、静かに頷いた。
セリオスは、色んな感情がごちゃまぜになりすぎてで感覚が麻痺しているのだろうか?表情は、動かない。
『でも、誰も気付かない誤算があったの。人間の私、貴方に惹かれていた…。
 だから一時的に私の力が弱まって、こんなにも長く一緒にいてしまった…。
 この城に魔物達がいなかったのも、最初はあった筈の魔力が急激になくなり、それが長時間続いたための暴走…。つまり、魔物達の魔をその身に受けていたために魔物達に出会わなかったのよ…』
人に恋をしたが故に、人に近づいてしまった少女。
だが、彼女は魔族。滅ぼさねばならぬ者。
 そして、魔封じの石。それは、魔を自らの栄養源とし、更なる魔を食らう物だったのだ。
言い換えれば、魔、そのもの…。
魔を貯えれば貯えるほど、その石は魔へ近づいていく。
だが、もし、貯えていた魔が急激になくなっていしまったら。
贅沢な暮らしをしていた子供が、いきなり布切れ一枚で路地に放り込まれるのと同じ、飢え、狂うのみ。
「そして、アリアの横にいる魔族が姿を現した途端その魔を食らおうとしたが、一度で食らうにはそいつの魔は多すぎ、壊れ、アリアの魔と記憶は解放された…」
綺麗な銀色の瞳が濁っている。
まるで、会ったばかりの頃のレイラのような瞳―。
 こんなに、こんなに皮肉なことがあるだろうか?
探し続けていた記憶が、こんな形にで見つかるなんて。
誰よりも愛しい者が、滅ぼすべき敵だったなんて。
『セリオス、ごめんなさい…。私、もう思い出せない。貴方への気持ち…。
 少しずつ、心も魔族に戻ってきている……。
 もう、人間の女の子ではいられない…。魔が、私を包んでいくの……』
涙目で謝る銀色の少女は、人だったのか、魔だったのか…。
『次に会う時は、敵よ。さよなら…』
「アリアぁぁぁっ!!」
セリオスが駆け出し、アリアを掴もうとするが、その手は虚空を掴んだだけだった。
アリアは、その場から消え失せていた。
放心したまま、宙を掴んだ手をゆっくりと開くと、さらさらと粉―魔封じの石の欠片―が指の隙間から零れ落ちていった。

   もう、手遅れだとでも言うように。
   もう、人間のアリアには会うことが出来ないとでも言うように。

 だが、時は残酷で、どんなにセリオスが心を落ち着かせる時間を必要にしていても、決して時を紡ぎつづける歯車は止まらない。
『…無様なことね…』
ぴくりとも動かないセリオスを見て、魔族は見下しながら言った。
 その言葉に、セリオス以外の三人が異常に反応する。
「無様だと!?てめえにだけは言われたくないぜ!!」
「…人の心を嘲笑う者は、必ず人の心に屈する…憶えておけ」
「私、貴方のこと大嫌い!!」
だが魔族はくすくすと嘲笑を続けるだけ。
『あらあら…よく吠える犬ね……。
 アリア様も、何故こんな輩共に心奪われていたのか…。
 所詮、あの方もその程度の方というわけね。泥に塗れた人間よりも愚かだわ』
高笑いをあげ、自らの優越感に浸る魔族。
 皆が悔しそうに唇を噛み、今にでも飛び掛らんとばかりに拳を握り締める。
 その時、今まで黙り込んでいたセリオスが口を開いた。
「……アリアを…」
風が、発生した。
それは、セリオスの身体を包むように流れてゆき、髪の一房を舞い上がらせる。
途端、セリオスの髪は真紅へと変わった。
「アリアを…侮辱するなあ!!」
『ひ、ひぃっ!!』
カッと金色の瞳が魔族に向けられた途端、魔族が悲鳴をあげた。
衝撃波のようなものがセリオスから発せられ、魔族は壁へ叩きつけられる。
「お前に…アリアの何が解るんだ!」
再び、衝撃が魔族を襲った。
『ぐぇっ!!』
先程叩きつけられた壁に、更に叩きつけられる。
よほど、威力があったのだろうか。壁は丸く、大きくへこんでいた。
それを見ていたルナの顔が恐怖に青ざめる。
 セリオスは2、3歩歩き、魔族の前に立つと、殺気立った目で見下ろした。
剣が、静かに構えられる。
『や、やめて…。謝るわ、ねえ、だから…』
その言葉の先を、聞くことは無かった。
 だが、セリオスは魔族の首が飛んだのを認めても、なお、剣を振り下ろした。
幾度も、幾度も。魔族の身体がもう原型を留めていないにも関わらず。
「…っセリオス」
さすがに見ていられなくなったのか、ソードが止めに入った。
「っどけっ!!」
斬りかからんばかりの勢いで怒鳴るが、ソードは首を振る。
「……もう、いいだろう?」
「セリオス、そんなことしても、無意味だよ……」
ルナの言葉に、少しずつ力が抜けてきた。
そして髪の色が戻ると同時にがくりと膝をつき、青紫色に染まった剣を抱え込む。
「アリア……」
涙は、出ない。
 晴れていく空とは対照的に、セリオスの心は涙で一杯だった。



 初めに目に入ったのは、紺色の空だった。
その次に目に入ったのは、ベランダに立つ少女の後姿。
セリオスはベッドから降りると、ゆっくりと少女へ近づいた。
「あ、起きた?」
明るい笑みを向けられて、少しだけほっとした。
まるで少女の姿が、闇の中へ溶けていきそうだったから。
「ルナさん。今は…何時だ?」
「丑三つ時ってやつよ。今、20時くらいかな?」
この世界では、日の出を0時として数える。20時ならAM2:00頃だ。
セリオスはそれを聞いてようやく夜の寒さを思い出したのか、寒そうに自分の肩を抱いた。
「よく寝てたね…って言うのは変かな。もうちょっと寝てたほうがいいんじゃない?
 あんなことがあったんだもの……」
アリアを失って、激情にかられて力を解放した。
魔族を倒した後の記憶がないことを理解すると、どうやらあの後気絶してしまったらしい。
恐らく皆でルナの家まで運んでくれたのだろう。
「もう平気だよ。ありがとう」
セリオスは優しく笑んだ。
どうしてだろう。笑うのが辛い。
「ん…ならいいけど……」
ふと、ルナの表情が曇った。
セリオスから視線を外し、夜空を見上げる。
「ルナさん…?」
「……昔ね、一人の女の子がいたの。平凡な家庭の、平凡な幸せを持つ女の子…」
「……?」
いきなり話し始めたルナに、何のことか聞こうとしたが、やめる。
止めてはいけないような気がしたのだ。
「ある時、その平凡が崩れたの。少女の家から少女が消えた。
 少女はね、その能力を咎められて魔力を研究する施設へ誘拐されたのよ。
 ご丁寧にも、帰る家の無いように、家族もろとも家を燃やし尽くされて…ね」

          ―『君のお父さんもお母さんも、もういないんだよ』―
          ―『だから、おいで』―

「魔力。当たり前のように存在しているけど、まだ全ては知られていない存在だわ。
 魔法を習うのは、魔力のコントロールのためでもある。
 なのに少女は魔法も使えないのに魔力を暴走させることが無かった。
 研究の後、その少女の魔力は肉体へ転換していることに気づいたのだけれど…」
その言葉を聞いた時、どきっとした。
まさか、その少女は…。
「少女は必死に逃げ出したわ。監視の目を潜り抜けて、その小さな身体で。
 冷たい廊下を裸足で走って、周りから聞こえてくる泣き声も無視して…。
 そう、まだ幼かったのが幸いして、少女はそこを逃げ出した」
ルナはふと顔を俯けると、ベランダの手すりへ身体を預けた。
「でもね、10にも満たなかった少女が、一人で生きていけるわけない。
 数日後、見知らぬ土地とぼろぼろの身体と絶望の中、少女はある決意をするの」
「決意…?」
セリオスははっと口を噤むが、ルナは気にした様子もなく…。
冷たい瞳で、振り返る。
「『絶対、生き延びてやる』って…」
どこかで見た、冷たい瞳。
初めて見た、ルナのこんな表情。

         ―絶対生き延びてやる。何に代えても生きてみせる―

「少女は、幸せを崩す元凶となった力を使って、生きていった。
 人の命を身代わりとして、自らの生を引き伸ばした。
 …その手は、血塗れだった」
そっと自分の手を見つめる少女。
 …そうだ、この少女の瞳を、どこかで見たことがある。
「少女は、生きることだけに必死で、何故生きているのか解らなくなってしまった」

                 ―お兄ちゃん―

遠いところで聞こえる声。
「その時、一人の青年が現れて、手を差し伸べた。
 『俺と、一緒に来るか』って…」
それが、ソードなのか?
まるで、僕とレイラの出会いのような…。
 気付くと、ルナがじっとセリオスを見つめていた。
「青年も、少女と同じ道を歩んでいた。
 だから、放っておけなかったんだろうね。ただ生きているだけの少女を…」
いつもとがらりと雰囲気の違う少女。
 ルナもレイラも、普段は明るいのに、時々、どきっとするほど大人びた表情をする。
それはきっと、暗い場所を歩いてきた、少女だから…。
「ルナさん…」
「セリオス。皆、少なからず傷を抱えてるの。
 気付かない程小さな傷。涙が出るような傷。…生きるのも辛くなるような傷」
そう。レイラもアリアも失ってしまった。
僕は、何故生きてるのか解らない。
何故生きてるか解らないのに生きてるのが、辛い。
「でもね、誰もその傷は癒せないの。何故ならその傷は貴方が産み出したものだから。
 貴方しかその傷を癒せない。最も、手助けなら別だけど」
無理だよ。誰か、誰か僕を癒してくれ。
心の中が空っぽの僕を助けてくれ。
「でも、きっといつか癒えるわ。だから、心を強く持って。
 傷を乗り越えれば強くなれることを、私は知ってるから……」

    絶望の底から、這い上がって。
    傷跡は残るけど、前よりも強くなれたよ。

    無理なんだ。
    僕の支えになってくれる人を失ってしまった。
    どうすればいいんだ?
    決して乗り越えられない傷を、知ってしまったら…。

ルナはそっと瞳を閉じると、セリオスを一人残し、部屋の中へ戻っていった。
セリオスはただ、涙さえ出ないことが、悲しかった…。
この、皮肉な運命も…。

 後書(以後これで統一します)
 *セ=セリオス。ク=クロス。ル=ルナ。ソ=ソード
ク「ルナ、いい役してるな…」
ル「えへへ。だって私は皆と違って作者のお気に入りだもん♪」
ソ「…でも、人殺して生き長らえてたんだな…」
ル「あっひっどーい。ソードだって同じでしょ!剣でずばずばしてたくせに!」
ソ「…ルナは魔力を秘めた拳で殴り殺してたじゃないか。お互い様だ」
セ「……なんか入ってはいけないような話だな…」
ク「………裏世界なんて知りたくないぞ。俺…」