◆−[注:ゼルリナ]束の間の“保護者”1−PZWORKS(2/25-22:55)No.13923 ┣[注:ゼルリナ]束の間の“保護者”2−PZWORKS(2/25-22:58)No.13924 ┣[注:ゼルリナ]束の間の“保護者”3−PZWORKS(2/25-22:59)No.13925 ┣[注:ゼルリナ]束の間の“保護者”4(完結)−PZWORKS(2/25-23:00)No.13926 ┗[注:ゼルリナ]束の間の“保護者”あとがき−PZWORKS(2/25-23:06)No.13927 ┗はじめまして−キューピー/DIANA(2/27-08:53)No.13945 ┗Re:はじめまして−PZWORKS(3/4-00:27)No.14048
13923 | [注:ゼルリナ]束の間の“保護者”1 | PZWORKS URL | 2/25-22:55 |
こんばんは。PZWORKSです。 例によって例のごとく、【書き殴り】先行公開のブツを持ってまいりました。 一応カテゴリはゼルリナですが、そんなにベタベタ甘甘ではないです。 (そのつもり(^^;)) ご感想などいただけると嬉しいです。 HPカウンタ100を突破いたしました。リンク、ありがとうございます(^^) 胃はもう大丈夫ですか?>一坪さん HPには【書き殴り】さん未公開のブツもあります。 よろしかったら覗いてみてください。 それでは。 ---------- 湖のほとりで水面に映る月を見ながら、リナはどうも割り切れないでいた。 (怯えている…。これ程の使い手が、何故?) 圧倒的な力で自分を痛めつけ、身柄さえ拘束したこの魔剣士が恐れる相手など、ちょっと見当がつかない。 何しろリナ・インバースと言えば、ドラまた、ロバーズキラーの通り名で知られる、なかなかの魔道師なのだ。 今回の場合は、ちょうど魔法が使えない期間であった、という但し書きつきではあったが。 「………」 リナは無言で、ゼルガディスと名乗るその魔剣士を見つめた。 岩のような青黒い肌。月光にきらめく金属の髪。一度は彼女を捕らえておきながら今度は逃がそうとするその理由。 彼が何に基づいて行動しているのか、人間と呼べる生き物なのかどうかさえ、リナにはわからなかった。 だが、その険のある蒼い瞳は、彼に知性と感情があることを示していた。 「…そんなに珍しいか。この顔が」 「…えっ」 リナは慌てた。視線を感じさせるほど、目を向けていたつもりはなかった。 「あっ、そんなつもりじゃないよ。ホントに」 「好きでなったわけではない。あまり見るな」 リナの言い訳には耳を貸さず、ゼルガディスはフードを引き上げ、顔を覆ってしまった。 切り立った崖を、半ば飛び降りるように下ってゆく2人。 白いマントを翻し、危なげなく地面に着地するゼルガディスに反し、リナは土埃をまき上げながらお尻から降りてきた。 「痛たたたた…。かっこわるぅ」 そして照れ笑いをゼルガディスに向ける。が、彼はそっぽをむいたままだ。 (んもう。ノリが悪いんだから) リナは大きく息を吸い込むと、ゼルガディスに言った。 「事の経緯はどうあれ、今、あなたはあたしのボディガードってことよね」 「…まあ、な」 「そんなら!ここは1つよろしく頼むわ!」 言いながら彼の背中をぱんと叩く。 「スゴ腕の魔剣士がボディガードか…。うーん、贅沢!きもちいー!」 (しかもタダだし) 心の中でそう付け加えると、リナは鼻先を星空にむけ、爽快に笑った。 ついさっきまで捕らわれて天井から吊るされていたとは想像もつかないその姿に、内心ゼルガディスは舌を巻いた。 「変わった奴だな。お前」 この小柄な少女はどんな状況であれ、何かしら利点を発見しては楽しむタイプならしい。 彼もまた、自分のおかれた奇妙な状況を省みて、声を立てて笑い出した。笑った彼は年相応の青年に見えた。 張りつめた空気は消え、二人は前へと足を踏み出した。 --------------------------------------------------------------------- |
13924 | [注:ゼルリナ]束の間の“保護者”2 | PZWORKS URL | 2/25-22:58 |
記事番号13923へのコメント ふとゼルガディスを振り返り、リナはぎょっとした。 彼の目は憎しみに満ちていた。喉の奥から絞り出す様に、彼は言った。 「…レゾ!」 木立の向こうから近づいてくる人影がある。夜目にも鮮やかな赤い法衣。 しゃらん、しゃらんと錫杖が大仰な音を立てる。 人影は青年のようだった。ただ、その両目は固く閉ざされていた。盲目なのだ。 「その女を逃がすとは、どういった了見ですか?ゼルガディス」 みずみずしい声が辺りに響き渡った。月に照らされた表情は穏やかで、その態度は落ち着き払っていた。 「確かにあなたは、今までもあまり素直じゃありませんでしたが…。これは立派な反逆行為ですよ」 「俺はもう、あんたの言いなりにはならないんだよ」 ゼルガディスは吐き捨てる様に言った。彼がレゾ、と呼んだ人物は肩をすくめ、憐憫のまなざしでかつての部下を見やった。 「力を与えてやった恩も忘れて…。今のあなたを作り出した、この私に逆らおうというのですね」 「何が恩だ!確かに俺は力が欲しいと言った。だが、誰もキメラにしてくれなんて頼んじゃいない!」 「それが力を得る最短、最速の方法なんですよ」 ゼルガディスの激昂をさらりとかわしながら、レゾは微笑んだ。その笑みにリナは背筋が冷たくなるのを感じた。 口でどう言おうと、彼がゼルガディスを道具としか見ていないのは明らかだった。 それとも格好の実験材料だとでも思っているのかもしれない。 ゲームを楽しむかの様な口調でレゾは言った。 「じゃ、決着をつけましょうか」 口元を引き結び、臨戦態勢に入るゼルガディス。 その様子を察知し、さもおかしそうに唇の端をつりあげるとレゾはしゃらん、と錫杖を鳴らして構えた。 次の瞬間、ゼルガディスは傍らに立っていたリナの小さな体をひっつかみ、脇に抱えると全速力で駆け出した。 「レイ・ウィング! 」 呪文を唱え、星空に急上昇すると同時に、手のひらから爆裂する炎をレゾに向けて放つ。 「ぐわっ!」 たまらず後退するレゾ。が、彼の行動に度肝を抜かれたのはレゾだけではなかった。地面に降り立ったゼルガディスにリナは怒鳴った。 「ちょっと!ムチャクチャしないでよね!」 「苦情は後で聞く」 短く答えるとゼルガディスは燃えさかる炎に背中を向け、リナを小脇に抱えたまま森の中を再び走り出した。 彼はレゾから逃げ出したのだった。 「ここまで来れば大丈夫だろう」 ゼルガディスは呪文も唱えないまま、深い谷にまっさかさまに身を躍らせた。彼に抱えられたままのリナは悲鳴を上げた。 「こ、ここまでって…。ど、ど、どこまでえぇぇー!!」 風圧に頬を叩かれ、リナはたまらず目を閉じた。重力が彼らを激しく揺さぶる。彼女は思わずゼルガディスにしがみついた。 「きゃあああああーーーーーっ!!」 地面に座り込み、人心地ついたリナはぼそっとつぶやいた。 「もぉ、いやっ」 そして傍らのボディガードをちらりと見た。どうも彼が保証するのは身の安全、それのみの様だ。 心の平安まで保証しろとは言わないが…。不平の言葉を飲み込み、リナは言った。 「そろそろ説明があってもいいんじゃないの? あの男は一体、何者?」 「そうだな…。あんたももう十分、巻き込まれてるしな」 ゼルガディスは少し、申し訳なさそうな顔をした。 「あいつはレゾ。現代の五賢者と呼ばれる赤法師レゾ、そのご本人さ」 「赤法師、レゾ…!」 その名前を繰り返しつぶやいてみて、リナはやっと合点がいった。 赤法師レゾと言えば、その絶大な魔力で世界に名を知られる白魔道士である。 各地を放浪しては病に苦しむ人々に救いの手を差しのべ続け、現代の五賢者の一人に数えられている。 それがゼルガディスが裏切り、憎み、そして恐れを抱いていた相手だったのだ。 だが、先ほどの無神経な言葉。残酷な微笑。力を誇示する態度。 慈愛に溢れた賢者とはかけ離れた人物像に、リナは違和感を覚えずにいられなかった。 もの問いたげな彼女の視線にゼルガディスはうなずいた。 「あれが赤法師レゾの本当の姿さ。奴は俺の宿敵でもある。俺の体をこんなにしたのは、あいつだからな」 「…その宿敵を前にして、しっぽをまいて逃げてきたってわけ?」 リナの挑発にゼルガディスは淡々と答えた。 「今の俺の力じゃ、とてもあいつにはかなわない。それに…」 彼は言葉を切ると、リナの賢しげ(さかしげ)な瞳をじっと見た。 「…足手まといがいるしな」 リナは言葉に詰まった。怒る気にはなれなかった。これが彼一流の優しさなのだろう。彼女は思案した。 (ふうん、のってこないか…。こいつ、理性の人ね) ゼルガディスもまた、心の中でつぶやいていた。 (俺の言葉の信憑性を吟味してやがる。用心深い奴だ) そして苦笑した。疑われることなど彼にとっては日常茶飯事であったが、なぜかリナなら信じるだろうという確信めいた思いがあった。 大きく息をひとつつくと、彼は言った。 「少し眠るか…。いい加減、俺も疲れた」 「らっきぃ♪」 「眠っている間に逃げようなんて、考えるなよ」 「はいはい。あたしだって疲れてるんだし」 レゾに見つかった時のことを思えば、ゼルガディスから逃げ出すのは得策ではない。 だが、彼から逃げない理由はそれだけではないことをリナは心の内ではっきりと感じ取っていた。 それは不思議な安心感だった。彼の脇に抱えられて森を走り抜けたときから、その気持ちは消しようのないものとなって彼女を支配していた。 リナはぼんやりと思った。 (あたし、かなり疲れてるみたい) いつのまにか夜は明けようとしていた。木々が暗緑色から冴えたみどりへと変わっていく。 今から眠ったところで、ものの数時間で太陽に起こされてしまいそうだ。 彼女が浅い眠りにつこうとしたとき、突然、何かに驚いたように森から一斉に鳶(とんび)が飛び立った。 彼らが休息を得るのはまだまだ先のことのようだった。 |
13925 | [注:ゼルリナ]束の間の“保護者”3 | PZWORKS URL | 2/25-22:59 |
記事番号13923へのコメント ゼルガディスとリナはモンスターに周りを囲まれていた。 かつてはゼルガディスの部下であったはずの獣人、ディルギアが勝ち誇ったような声をあげる。 「隠れてないで出て来いよ、お二人さん」 ゼルガディスは肩をすくめた。 「トロルが2,30匹ってとこか…。レゾはいないようだし、なんとかなるだろう」 「気楽に言ってくれちゃって」 リナは嘆息した。魔法が使えない身であることがじれったい。 「ゼルのだんな、レゾ様を裏切ったんだってな。もうあんたなんか敵以外の何者でもないぜ」 いつまでも岩の陰に隠れていても埒があかない。リナはあえてディルギアの挑発にのってみせた。 「こんにちは、ディルギアさん。こんなトコまで遠征とは大変ね」 言いながら立ち上がり、ディルギアの前に進み出る。ゼルガディスは不敵に笑って見せた。 「お前のような獣人風情が俺を殺れると、本気で思ってるのか?」 「獣人風情かどうか、試してみるかい?」 あっさりと頭に血が上ったディルギアは叫んだ。 「やれ!」 その声に応えてトロル達が猛然と二人に襲いかかる。 さしたる戦術もなく正面からぶつかってくるだけの彼らをゼルガディスは眉ひとつ動かさず確実に切り伏せた。 「かよわい乙女にこんな大人数でしかけてくるなんて、反則よ!」 持ち前の身軽さで巨人達の猛進をひょいひょいとよけながらリナはへらず口を叩いた。 「グワァッ!」 「きゃあっ!」 さしものリナも、ついに一匹のトロルにつかまった。彼女に向かって丸太のような腕を振り下ろそうとするモンスター。 が、その腕を振り下ろすことなくトロルは地面に崩れ落ちた。 「世話を焼かせるな」 「あ、ありがと…」 リナはきゅうっとゼルガディスのマントを掴んだ。トロルの数はいまだ減ることなく、次々と彼らに襲いかかってくる。 「…切りがないぜ」 忌々しげにつぶやくと、ゼルガディスは口の中で呪文を紡ぎ始めた。 「大地よ……我が意に従え…」 青白い光が手のひらに発する。吹き上げる風に逆らいながらその手を地面に向け、彼は呪文を完成させた。 「ダグ・ハウト!!」 トロル達は皆、地面から突き出る鋭い切っ先に貫かれていく。 身軽な分、岩の錐に貫かれることなく隆起から飛び降りてきたディルギアは喉の奥から唸り声をあげた。 「さすが、ゼルのだんな…。あんたに精霊魔術がある限り、俺に勝ち目はないか」 「それじゃまるで、剣でなら俺に勝てると言ってるみたいだな」 「そう言ってるのさ」 ディルギアがゼルガディスを剣と剣との戦いに誘い込もうとしているのは明らかだった。ゼルガディスは面倒くさそうに言った。 「…じゃ、試してみるか?」 「ゼル!」 わかっていて敵の術中に飛び込むゼルガディスの真意をリナは計りかねた。彼はリナを振り返ると言った。 「さて。魔法の使えない魔道士さんは、どいてな」 「…わかったわよ」 ゼルガディスが剣の腕を振るう様にも興味があった。釈然としないながらも彼女は岩の陰に身を潜めた。 ディルギアは最初から激しく切りつけてきた。その刃を軽くいなしながらゼルガディスは言った。 「やってくれるな」 「そう言ってもらえると、嬉しいぜ」 激しく切り結ぶ二人。力押ししようとするディルギアに対し、ゼルガディスは的確に相手の隙をついて切り込んでいく。 刃と刃がぶつかり合い、きぃん!と音を立てた。森から吹いてくる風が血のにおいを辺りに撒き散らし、剣士達の戦意はいやが上にも増す。 だが、リナはどうも気になった。その凄惨さゆえか、ゼルガディスが戦意からではなく、自分の死を求めて戦っているように思えたのだ。 やがて、ディルギアの不利が徐々に明らかになってきた。無駄な動きが増え、疲れが見え始めている。 焦った彼は隆起した岩に飛びあがり、岩山を切り崩し始めた。無数の岩が轟音を立ててゼルガディスの頭上に落下する。 土煙が消え、彼の視界に飛び込んできたのはリナを羽交い締めにし、ブロードソードを突きつけるディルギアの姿だった。 「さっさと剣を捨てな…。さもなきゃ、この女の命はないぜ」 彼の脅迫は黄色い叫び声にかき消された。リナは足をばたばたさせて喚いた。 「どーしてあたしって、魚だの犬だののバケモノにばっかり縁があるのよー!?」 「イヌじゃねえ!オオカミだっ!!」 その様を一瞥し、ゼルガディスは舌打ちした。 (ディルギアの奴、のぼせやがって…。本当に殺してしまいかねんな) そして無言のまま、からん、と剣を足元に投げ出した。 こすからい獣人がこの絶好のチャンスを見逃すはずはなかった。 リナを放り出すとディルギアは動きが止まったゼルガディスに太刀を浴びせた。 「ゼルーっ!」 彼が負けるはずはない。そう思いつつも彼女の胸は波打つ。 ディルギアはわなわなと震えながら、自分の剣を見つめていた。 ゼルガディスを切り裂くはずだったブロードソードは日をうけてきらめくと、音を立ててこぼれたのだった。 「忘れていた様だな。俺のこの体の、3分の1はゴーレムだということを」 ゼルガディスの声は勝ち誇った、というよりは自嘲の色を帯びていた。 「こういう時は我が身をこんな化け物にしてくれたレゾに感謝したくなるぜ」 彼は口元に薄笑いを浮かべていたが、その顔は何故だか苦しそうに見えた。 勝利はゼルガディスに望むものをもたらしはしなかったのだ。なぜなら、彼には復讐以外に生きる理由がないのだから。 (いっそのこと殺してくれれば楽だったものを…) リナははっとした。ゼルガディスの声が耳元で聞こえたような気がした。だが彼は薄笑いを顔に貼り付けたまま言った。 「俺を剣で倒したければ、光の剣でも持ってくるんだな」 ディルギアは震える手で刃のこぼれた剣を鞘に収めた。そして目にもとまらぬ速さで逃げていく。 「覚えてろよ!レゾ様に言いつけてやる!」 風が負け犬の遠吠えを二人の耳に伝えた。ゼルガディスはふう、と息をつくとつぶやいた。 「…くだらん戦いだったな」 ようやく昇った朝日が、疲れた魔剣士の横顔を照らしていた。 |
13926 | [注:ゼルリナ]束の間の“保護者”4(完結) | PZWORKS URL | 2/25-23:00 |
記事番号13923へのコメント 「いやー、さすが、ゼルガディス大先生! お強い!お見事!あっぱれー!!」 剣を鞘に収めるゼルガディスにリナは調子のいい拍手喝采を浴びせた。彼は苦笑して言った。 「お前な…。もうちょっと、守りがいのあるセリフが言えないのか?」 死を恋い慕う黒い影はゼルガディスの顔から消えうせていた。代わりにあるのはからかうような微笑。 あの陰鬱な彼をリナは好きになれなかった。今の柔らかい表情の彼の方が好き。 そこまで考えて彼女は自らの思考を疑った。 好き? 「ほ、誉めてあげてるんじゃない!」 言いながらリナは、あまり扱い慣れないその感情を慌てて頭から追い出した。彼女は言った。 「これからどうするの?」 「そうだな。とりあえずは休憩、ということでどうだ」 「やったっ!じゃ、ご飯にしようっ!」 リナは天に向かって拳を突き上げた。 せせらぎを頼りに二人は川に向かって歩き出した。吹き抜ける朝の風が心地良い。 ゼルガディスがそっと胸に手をやるのに気づき、リナは言った。 「そこ、さっき斬られたトコ?」 彼はちょっとためらったが、わずかな沈黙の後に言った。 「……実は、ちょっと痛い」 「えっ」 思わず足を止め、斬られた辺りを覗きこむ。ゼルガディスはそっけなく言った。 「見てもわからんぞ」 切り裂かれた白い着衣からのぞく岩の肌には、見たところ何の傷もついていなかった。 おそるおそる手を触れてみる。ゼルガディスはぴくっと身を震わせた。 「…熱い」 ディルギアの太刀裁きに沿って、彼の体は熱を帯びていた。彼女はゼルガディスを睨みつけた。 「どうして剣を捨てたりしたのよ?」 赤法師レゾがリナ・インバースの身柄を欲する限り、ディルギアがリナの命を奪う事などできるはずもなかった。 彼は功をあせったのだ。 聡明なはずのこの魔剣士がなぜ、敵の術中に自らの命を投げ込む様な真似をするのだろう。 「俺の勝手だ」 彼の答えはリナを納得させなかった。彼女は奥歯を噛みしめた。 ばきっ! ゼルガディスの頭をぶん殴り、リナは言い放った。 「そんな戦い方してると、あんた、いつか死ぬわよ!」 彼女は、彼が身を呈して自分を守ったのだという事に気づいていた。ゼルガディスは自分の役割を果たしたのだ。 ― けど。そんなこと、して欲しくない。―― そう思った途端、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちていた。 「何を泣くことがある?」 ゼルガディスは目を見張った。陽気なリアリストの彼女が泣くなど、思いもよらなかった。 所在なげに空をさまよった後、彼の手はリナの背中に置かれた。そして長い栗色の髪をそっと撫でる。 彼が守った小さな体から伝わる体温が、ゼルガディスの心を温めていた。 リナは涙をぬぐうとひな菊の様な照れ笑いをしてみせた。 「えへへ、泣いちゃった」 彼もつられて笑みを返した。お互いが得難い存在となりつつあることを二人は感じずにはいられなかった。 川のほとりにしゃがみこむと、リナは白いハンカチを水に浸した。そして固くしぼるとつぶやく様に呪文を唱える。 「フリーズ・アロー」 凍ったハンカチを木陰で涼をとっているゼルガディスに渡し、彼女は言った。 「さ、これで冷やして」 「大した事はない」 「信用できるもんですか」 ゼルガディスは笑い出した。 「本当に疑り深いな」 そしてハンカチを受け取ると着衣の裂け目からすべり込ませ、肌に押し当てる。 リナはそのちょっとしかめた表情をじっと見つめていたが、彼が大きく息をついて目を閉じたのを確認して微笑んだ。 そして川に向き直ると魚釣りの準備にとりかかった。 彼女の背中にゼルガディスは言った。 「ずいぶん魔力が回復してきたみたいだな」 「うん。今度、敵が襲ってきても、足手まといにはならずに済みそう」 リナは答えた。正直、守られているだけでは飽き足りなくなってきていた。 「そうか。じゃ、俺もそろそろボディガードはお役御免だな」 「うん…」 上の空のまま彼女は返事をした。ゼルガディスはこれからレゾへの復讐に赴くのだろう。 リナは予感していた。死の影をまとったままの彼を行かせたらきっと後悔する。 「ゼル」 声をかけたものの、どうやって彼を思いとどまらせれば良いのか。彼女は考えあぐねていた。 「何だ」 「あの、あのね…」 口ごもったリナを見、彼の顔にあの暗い微笑が浮かんだ。絶望とは死に至る病だ、と言ったのは誰だったろうか。 それを見て彼女の腹は決まった。 どす黒い感情に翻弄される宿命をゼルガディスにもたらしたのが赤法師レゾなら、このまま黙って引き下がる手はない。 彼女はきっぱりと言った。 「あたしもレゾと戦う」 ゼルガディスは心底驚いたようだった。 「……用心深いんだか、お人好しなんだか、良くわからん奴だな。お前」 「勘違いしないでね。あたしは死にに行く気なんか毛頭ないわよ」 リナは腰に手を当て、炎の宿ったまっすぐな目を彼に向けた。 「あなたに少しでもそんなつもりがあるんなら…」 「なら?」 彼もまた、意志のこもった蒼い目で彼女を見返した。リナはウィンクすると唇をゆがめ、悪戯っぽく笑って見せた。 「そーゆー考えは、はっ倒してでも改めさせてあげるわよっ!」 |
13927 | [注:ゼルリナ]束の間の“保護者”あとがき | PZWORKS URL | 2/25-23:06 |
記事番号13923へのコメント あとがきといいわけ 史上最大の難産ともいうべき本作品、やっと書き終えました。(脱稿ほやほや) 無印スレイヤーズ第5〜7話とお話の筋はほとんど変わりません。本作品の主眼は(主にリナの)根底の心理描写です。TV版と見比べてみてもお楽しみいただけるのではないかと思います。 話の筋を作る必要がないんだから、書くのもさぞかし楽だったろうとお思いのあなた。それは大いなるカンチガイです。 侵しようのない厳然たるストーリーが存在している中にいかにゼルリナを滑り込ませ、シームレスに仕立てるか? これが本作品執筆中、私を始終悩ませ、筆を遅らせた最大の要因です。結果はごらんの通り。いかがでしたでしょうか? |
13945 | はじめまして | キューピー/DIANA E-mail URL | 2/27-08:53 |
記事番号13927へのコメント PZWORKSさん、はじめまして。キューピー/DIANAといいます。 >話の筋を作る必要がないんだから、書くのもさぞかし楽だったろうとお思いのあなた。それは大いなるカンチガイです。 そうでしょう。よく分かります。私も原作ベースでそれ、やろうとして四苦八苦している ところですので・・・(苦笑) 読んだ印象は、ギリギリ、創作の部分を殺ぎ落とした、という感じです。あくまでアニメ の場面の再現が中心で。恐らく、これが狙いだったのではないでしょうか?その合間に、 少しずつ変化していくリナの心を覗かせているのが、おくゆかしいというか。 個人的な希望としては、ラストにゼルのリアクションが欲しかったです・・・って単に ゼルびいきなだけですが(爆)。 ホームページにもお邪魔させていただきました。こちらに未投稿の作品がアレとは・・・ ちょっと驚きました(笑)。「結婚」話でもゼルがやり玉に上がっていましたね。 バラエティに富んだ作品の中で、ゼルにスポットがあたっているな〜、と思うのは、 ゼルファンのひいきめでないことを願います(爆)。 ではでは 乱文失礼いたしました。 |
14048 | Re:はじめまして | PZWORKS URL | 3/4-00:27 |
記事番号13945へのコメント こんばんは、PZWORKSです。 キューピー/DIANAさん、はじめまして。レスありがとうございます。 キューピー/DIANAさんのHPは以前から何度か見せていただいていました ので、あまり初めてという気がしません。 >バラエティに富んだ作品の中で、ゼルにスポットがあたっているな〜、と思うの >は、ゼルファンのひいきめでないことを願います(爆)。 私は彼に何か言いたいことがあるらしいです。(何か穏やかじゃないな>自分(^^; いずれそういう話を公開すると思います。 キューピー/DIANAさんのお話では「ゼロス…最後の戦い」が好きです。 理屈で割り切れないカオスな感じのゼロスが良いですね。 とか書いてるとゼロスが書けなくなるな。 それでは。 |