◆−金と銀の女神18−神無月遊芽(3/17-14:05)No.14360
 ┗金と銀の女神19−神無月遊芽(3/19-20:32)No.14459
  ┣どっきどき。−みてい(3/19-23:48)No.14483
  ┃┗Re:どっきどき。−神無月遊芽(3/21-16:48)No.14513
  ┗金と銀の女神20−神無月遊芽(3/23-12:20)NEWNo.14553


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14360金と銀の女神18神無月遊芽 E-mail URL3/17-14:05


 こんにちは、神無月ですわ。
 18話です!ルナ可哀想かも?

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                         金と銀の女神
                       〜世界が始まるとき〜


   18章 ただ、心が痛くて

 silver 一番自分を傷つけるのは 何よりも自分の心
    思い出したくない過去が 自らを闇に溶かす

 クロスは正式に騎士の道を歩み始めた。
性格には少々問題があるが、剣も魔法も一流だ。聖騎士になるのにそう時間はかからないだろう。
だが、あれから姿は見ていない。
どうやら早速騎士としての仕事を頼まれたらしく、他の騎士達と辺りを巡回しているらしいのだ。
 クロスと解れるのは寂しいものがあるが、仕方の無いことだろう。
 その時、廊下の向こうにルナの姿が見えた。
声をかけようと口を開きかけるが、ルナと視線が合った途端に体が硬直する。
「ル…ナ……?」
顔は青ざめ、身体は小刻みに震えて。
今にも倒れそうなほど弱々しい表情。
「ん…?ああ、セリオス…。ごめん、ちょっと一人にして……」
セリオスに気付いて寄って来るが、一言呟くとふらふらとまた歩き出した。
 何か、あったのだろうか。明らかに様子がおかしかった。
「気になるか?」
「ソード。何か知ってるのか?」
セリオスは振り向かないまま返事をした。
ソードも、セリオスの背後で顔を俯かせて話す。
「…兵士達の噂話を聞いてしまったんだ」
「噂話って…何の?」
戸惑いのような、一瞬の間の後に、その言葉が、静かに紡ぎ出された。
「魔導研究所」




「……まだ、乗り越えられてないんだ、私」
もう、立ち直れたかと思ってたのに。ソードに出会った時から、変われたかと思ったのに。
研究所の話を聞いた途端に、身体が凍ったかと思った。
あの絶望感が、身体の中を駆け巡る。
手足が震える。
恐い。恐い。恐い。
いつからこんなに自分は弱くなってしまったのだろう。
きっと、まだあの家があった頃は、弱いとも強いとも感じなかったのに。
ううん。あの研究所にいた時よりずっと怖い。

                           拒絶反応。

心が怖がってるのを感じるの。時間が、いつのまにか忘れられた恐怖を増幅させていたの。
涙が出そう。傷なんてもう治ってるのに、心がきりきりと痛み出す。
 でも、もうあの過去とは断絶したい。
乗り越えたい。強くなりたいの!
「…行くのか?」
はっと振り返ったら、そこにはソードがいた。
セリオスも。
「……どうして、行くんだ?」
どうして?
何故彼は、そんなことを聞くの?
「…過去に負けたくないもん…。私、私、もっと強くなりたいから…っ!!」
ソードがそっと、抱きしめた。
代わりに、セリオスには冷たい視線が流れてくる。
「…セリオス。ルナを苦しめるな」
だが、セリオスにはその意味が解らなかった。
苦しめているつもりはない。むしろ過去と向き合う方が辛いのだ。だから本当に行くのか聞いたまで。
そう、セリオスはまだ解らない。
まだ、強くなれない、セリオスには……。


 遠く見える建物が、噂に聞いた魔導研究所だった。
その外観は、見るからにさびれていて、人が住んでいるのを感じさせないほどだ。
だが、中にはおぞましい実験が行われていると聞いた。
王から正式に任務を受け、それを止めるよう頼まれたのだ。
 ルナは、先ほどから口を閉ざしたままだ。
自分の過去。もしかしたら、自分にとって一番辛い敵はそれなのかもしれない。
そして彼女は、それに立ち向かおうとしている。
炎に焼けた記憶を、彼女は鮮明に思い出しているに違いない。
 …何故、立ち向かうんだろう?
辛い、だけなのに。
「ルナ、大丈夫か?」
「……平気よ。心配、しないで…」
ソードの言葉に、ルナが顔を強張らせながらも笑んだ。
 ―何故、辛い事を真っ直ぐに見つめられるのだろう。
「……行こう。私、怖いけど、見てみたい。
 あそこで、何が行われているのか」
身体が震えている。なのに、揺らぐ事のない瞳。
 ―何故、彼女はこんなにも強いのだろう?
 そして、ルナが一歩踏み出した時だった。

   ガサッ!

「っ!?」
茂みから一匹の魔物が飛び出し、ルナに向かって襲い掛かる。
「「ルナ!!」」
「くっ……たぁっ!!」
一瞬驚いたものの、すぐにそれに反応したルナは、冷静に相手に攻撃をする。
彼女の身体を風が包みこみ、その魔力と筋力で、敵は一撃で吹き飛ばされた。
 魔物はどさりと倒れた。もう、生きてはいない。
「はぁ…っ。はぁ……」
額から汗が飛ぶ。一瞬の出来事とはいえ、緊張が一気に高まったからだろうか。
 そしてルナが魔物の死亡を確認しているところに、ソードが駆け寄った。
「…ルナ、平気か?」
「うん。大丈夫」
にこりと微笑むルナ。今の出来事で少しは恐怖が和らいだのだろうか。
その時、緩んでいた表情がまた強張る。
「きゃあ!?」
魔物―犬の形をしている―が、いきなり光を発し、それがなくなった途端に人の姿に変貌したのだ。
若い男性だ。いや、子供といってもいい。
その身体には無数の傷があり、そしてその胸には先程ルナの攻撃した大きな傷があった。
「こ…れは……っ!?」
セリオスも思わず驚愕する。
魔導研究所で行われているのは、もしや……?!
「セリオス!急ぐぞ!!」
「…解った!!」
ソードとルナも同じ考えにいきついたらしい。研究所に向かって駆け出す。

 魔力を研究する施設。
 子供の誘拐。
 子供に変貌した魔物。

 その答えの行き着く場所は。


                                     人体実験




 冷たい廊下。またここに来る事になるなんて思いも寄らなかったけど。
ここは、あの頃と変わらない。変わったのは、もっと人気がなくなっただけ。
「多分、こっちが子供達が閉じ込められてる部屋。
 向こうはわからないけど…多分実験室とかがあると思う」
凄惨で、紅く霞がかった記憶も、皆のためと思えば大丈夫。
何より、自分のために私はここへ来ているのだから。
「ソード、どうするんだ?」
「子供達を助けるのは後だ。そうすると、一度ここを出なくてはいけないからな。
 それに、子供達は”まだいるかどうか解らない”。
 悪役を倒すのが先だろう。出来れば『何をしているのか』もな」
恐らく、人体実験に間違いないわ。
きっと魔物にするには、外から干渉するには大量の魔力が必要で、だから内から魔物に変える為に魔力を有する者と、かなり限定されてしまったのだろう。
魔力を肉体に秘めている私。普通、魔力とは精神にしか存在しないものだから、それだけで私が異質なのだと解る。そして、ひどく研究者達のお気に入りだったとも。
人を魔物に変える実験。きっとそれは、子供の体力ではもたないのだろう。だけど、大人ではいけない理由があった。
だから、強靭な肉体を持つ私を気に入っていた。
魔力を持ち、その上魔力を肉体の強さへと変えている私は、人体実験をするのにひどく都合が良かったに違いない。
きっとあの時逃げ出していなければ、私は―。
 ずきんと、どこともしれぬ場所から痛みが生じる。
私は、実験なんてまだされてなかったはずなのに、何か身体が痛む。
 それとも、痛いのは心なのかな?
『何、大した事ではない』
「っ誰!?」
突然の声に身構えるセリオス達。
『ここにいた子供達は、我々の研究の役にたってもらっただけだ。一人残らずな』
前方から、闇を突き破ってその人物は現れた。
研究者達がよくしている白衣を身に纏っている。だが、その瞳は正気の沙汰ではなかった。
「貴方が…あんなことを……!?」
ルナの言葉に、研究者が面白そうに笑んだ。
『ほう…”あれ”を見たか。その通り、子供達を魔物へ変えたのは私だよ』
「何故、そんなこと……っ!?」
研究者の瞳が、闇へ陰る。
『おや?知らなかったのか?我々の実験材料(モルモット)よ』
「!?」
ルナの顔が、怒りに包まれる。
ソードはさりげなく研究者とルナの間に入ったが、研究者は距離というものをそれほど気にしていないようだった。
「なんであんなひどい実験を!?子供達をさらって、その上魔物に変えるなんて!!」
ルナの拳がかたく握られた。
セリオスも、それは同感らしい。キッと研究者を睨みつけていた。
「大人ではだめなのだよ」
「っ!?」
ルナは、その瞳を研究者にぶつけたまま。
『大人は適応能力…そう、環境に適応する能力が子供より低い…。
 だから、魔物への変貌を果たすと肉体が壊れてしまう。
 そのため子供でなければいけなかったのだよ』
「そんなことを聞いてるんじゃない!!」
びくり。と。
思わずセリオスが身を竦めた。
それほどまでに、ルナの叫び声はやるせない怒りを宿していた。
『解っているだろうが、私は魔力を研究していてね。
 どうすればてっとりばやく研究できるか考えたのだよ』
研究者はすっと、その視線をこちらに向けた。
汚い、いやらしい目つき。
まるで、楽しいおもちゃを見つけたかのような…。
『魔力を最も有しているのは何者だ?』
はっと、ルナが瞳を大きく開いた。
「まさか…」
研究者はその反応を見てにやりと笑うと、その言葉を口にした。
『魔族だよ。
 我々は人を魔族に近づけ、その魔力を研究しようとしていたのだ。
 …最も、子供達を全て使い果たしても失敗の結果しか得られなかったが』
魔族。人には及びもしない肉体と魔力を持つ者。
人を魔族に近づけるなんて、肉体が壊れるに決まっている。肉体の強度からして違うのに、その身にあまりある魔力を体内に宿さなければいけないのだ。失敗して当然だろう。
そして失敗した実験体は、自我のない、魔物と呼ばれるものに変わる。
 …そして、捨てられる。
 以前、クレスト城の王が言っていたのはこのことだったのだろう。
『奇怪な魔物が増えている』。全て、こいつが生み出した魔物だったのだ。
「なんてことを…」
「人の身で、魔族に近づこうなど……」
ソードの唇が噛み締められた。
『安心しろ。これ以上は魔物は増えん。
 最高のモルモットを見つけたからな』
「え…?」
その手が、前へと差し出される。
『お前さえいれば実験はかなうのだよ!!
 5年前から、お前だけいればよかったのだ!!』
その手から、雷のような雲のようなものが発生し、ルナにまとわりつく。
「きゃあっ!!」
「ルナ!」
ソードが慌てて手を伸ばすが、途端雷がソードを攻撃する。
焼けた手をかばいながら、ソードはルナを呼びつづけた。
「ルナ!!」
「セリオス!ソード!ソードぉっ!!」
雲はまるで瘴気のようにルナの身体を侵していく。
発生した雷のせいでルナの髪をまとめていた紐が千切れ、その黒髪が空に舞った。
『ずっと帰ってくるのを待っていたよ。
 あの時は、お前の重要性を知らなかっただけだ。今度は逃がさん。
 魔族への変貌も耐えられる、魔力ある肉体を持つお前の重要性を!!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルナのまとう雷が眩い光を放ったかと思うと、辺りが静まり返った。
瘴気が晴れていき、ルナの身体が解放される。
 どさり、と、ルナの身体が床へ落ちた。
「ルナっ!」
ばちばちと、雷のようなものがルナの身体を伝う。
ルナがゆっくりとその身を起こし、その瞳を開いた。
 綺麗な、銀色の瞳だった。

 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード
ル「ええっ!?私、魔族になっちゃったの!?」
ソ「ルナ、さよならだな…」
ル「あっ。ひどいっ。私が魔族になったからって捨てる気ね!」
セ「まあまあ。それより、ちょっと混乱してる読者の方がいるだろうから解説しようよ」
ル「作者も混乱してるしね(笑)」
ソ「…そうだな。まず、魔力についてか」

ル「魔力っていうのはね、この世界に満ちている力…。
大気中にマナっていう魔力物質があって、それを自分の精神と融合させる…。
それが魔力を持っているってことなの。
魔力を精神に宿すっていうのはそういう意味ね。
大抵の人は訓練で魔力を身につけているけれど、生まれつきその能力がある人もいるわ。
どれだけの魔力をもてるかは、精神次第になってしまうけど。
ちなみに、一度得た魔力は自分の意志かよほどのことがない限りなくならないんだよ」
ソ「魔の力を持つことは、強い意志がなければ出来ない。
汚れを知らぬ赤ん坊の頃ならまだしも、弱い心の持ち主では魔力に精神が食われてしまう。
だから精神によって魔力の大きさが変わってしまうのだ」
セ「そして、精霊や今は無き神に語りかけ、魔の形を再生したり、作ったりすること。それが魔法なんだ」
ソ「そういう意味では精霊魔法は異色だな。普通の魔法と違って精霊自体の姿を呼び出す」
セ「ちなみに、治療魔法って言うのは殆どないんだ。
傷を癒し、肉体を再生する魔法なんだけど、他の魔法と違って魔力だけじゃなく素質もいるし、治療魔法の呪文が載っている文献も少なくて、誰も使えないような状態なんだ。
つまり、怪我はしちゃいけないってことになるね」
ル「そして魔族って言うのは、文字通り魔そのものだし、人よりも強い精神を持ち、また、人よりも強い肉体を持っている。だから大きな魔力を宿すことが出来るの。
そして、文字通り精神や肉体そのものに魔力を秘めているから、あんなに強いの。
それに、魔界のマナは人間界のそれよりも濃度が濃いの。
同じ量でも密度が高いから、もっと強くなっちゃう。理不尽よね」
セ「ええと、人を魔族に変えるっていうのは、肉体に大量の魔力を注ぎ込むんだ。
だけど外から干渉するのは至難の業で、だから精神に干渉して無理矢理魔力を産みだす。
だから肉体や精神が耐え切れなくて自我のない魔物になってしまうんだ」
ル「私が何故大丈夫かっていうのは、稀にあるんだけど、直接肉体に魔力を持っているからなの。
魔力が血と一緒に身体の中を巡っていると言えば解りやすいかな。
魔の力を肉体に宿している。つまり、魔族程ではなくても強靭な身体を得ることが出来るの」
ソ「肉体が強靭ならば、精神が伴わなくても耐え切れず壊れてしまうという事は無い。だからルナは狙われてしまったんだ」

*「まだ仮なんだけどね〜」
セ「仮!?」
*「今のとこの設定って言うか…」
ソ「……まだ仮なのか?もう話は半分まで進んでいるのだが?」
*「…それにしても、後書がこんなに長い上に真面目なんて初めてだな…」
ル「作者が説明が下手だから、私たちが欄外で説明してあげてるんじゃない。文句言わないの」
*「あうう。ルナが、ルナがいじめるぅ…」
セ「……(ついに作者がいじめられはじめたか。後書の女性群は性格が悪いからな)」
ル「なんですって!?」
セ「え?うわあぁぁぁぁぁぁっ!!(暗転)」

ソ「………セリオス。強く生きろよ(合掌)」

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14459金と銀の女神19神無月遊芽 E-mail URL3/19-20:32
記事番号14360へのコメント

 こんばんは、神無月です。
 19話…あと1話で20話ですね(当たり前)
 2部が終わるのは24話になりそうです。3部は何話でしょうね〜…。

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                     金と銀の女神
                   〜世界が始まるとき〜


   19章 全て、抱き締めて。

 gold 心が強くさえあれば どんな狂気にも負けはしないわ
   でも 強くある事は ずっと続く痛みの道

 銀色の瞳が僕に向けられた。
綺麗で、でも痛い視線が、貫いてくる。
 ルナはただ、虚ろな瞳を宙に向けているだけ。
『やった…成功だ!!人は魔の力を手に入れた!!』
研究者が狂ったような笑い声をあげた。
ソードは何も言わず、歯を食い縛っている。
「ルナ…」
ふと、その名前に研究者が反応した。
『ルナ、か。なるほど、理に適った名前だな。
 空に浮かぶ月のように、魔力を宿す娘よ』

古来から月には魔力が宿っていると言われている。
人には触れることの出来ぬ領域。だが、あの満ちて欠ける月は確かに魔力を有している。
誰をも狂わす魔力と狂気を。
 ソードは初めて出会ったときから解っていたのだろうか。
ルナの肉体に魔力があることを。そして、狂気を宿している事を。

『以前の名前など忘れたが、これほど立派な名前があるのだ。
 ”ルナ”よ。こいつらを殺せ』
「!?」
どうやら魔族への変貌と共に、ルナを操る細工をしたらしい。
ルナがゆっくりと立ち上がった。
「ルナ!やめろ!!」
『……』
ルナは近くに転がっていたナイフを手に取り、一閃、振り上げた。
「うわっ」
腕の部分の服が破れ、少しだけ血が滲み出る。
だがルナはそれに動揺するわけもなく、もう一度、ナイフを構えた。
「っ!ルナ!」
「ソード!?」
セリオスに振り上げられたナイフは、咄嗟に庇った…いや、ルナの前に立ち塞がったソードの身体へ攻撃をする。
鮮血が辺りに舞う。
「ルナ、正気に戻ってくれ……っ!」
『無駄だ。ルナの意識はもう失われている』
それでも、それでも、ソードはルナの名前を呼びつづけた。
『…』
ナイフがソードの腕をかすめた。
それは微かな傷ではあったが、先ほどの怪我のせいで反射神経が鈍くなっている。
このペースで怪我を負いつづければ、危なかった。
「ソード!どくんだ!」
「どけ!セリオス!!」
「っ!」
必死にソードを後ろに下げようとしたセリオスを、ソードが腕の力で振り離す。
「ルナ!!ルナ!!目を覚ましてくれ!!」
だが、呼びかけている間にも、ソードの身体には一つ、一つ傷が増えていく。
ソードは呼び続けた。少女の名を。
自分との絆の名を。
「ルナ!」
びくりと。今まで何にも反応しなかった少女の身体が震えた。
虚ろな瞳は何かを映しかけるが、いきなりの鮮明な景色に頭が痛くなる。
 誰が、それを責められるだろう。
痛さに耐え切れず、狂気へと走るのを。
『あーーーーー!!』
少女は、ナイフを思い切りソードへ振り下ろした。
ナイフの先端が、ソードの胸を抉りとっていく。
だがソードはそれに耐え切ると、少女を抱き締めた。
「ルナ、もう、一人じゃない……」
あの日から、俺もお前も、もう一人じゃないんだ。
 ソードの鮮血が自分の服を染めていくのを見て、ルナの頭の霧が晴れる。
「…ソード?」
思わず握っていたナイフを落とし、自らのやった事に疑問と怒りを覚える。

自分は、一体何をした?
大切な人を、こんなにも傷つけて。
 ルナの瞳から、鮮やかな、それなのに深い後悔を宿した光が灯る。
だがソードはそれすらも抱き締めて、ルナと痛みを分け合っていた。
「お前が悪いんじゃない。もう、大丈夫だ……」
「…っソード」
ルナはそっとソードを抱き締め、自らがつけた傷を痛々しく視線でなぞっていく。
そして、男は
『何故…何故だ!?コントロール出来る筈なのに!』
その言葉にソードはゆっくりと振り向き、傷口を庇いながら冷たい視線を向ける。
「貴様の能力など、それまでのものだ。貴様の洗脳とルナの意思では、ルナの意思が勝っただけ」
ルナは力の入らない膝で必死に立ち上がりながら、歯を食い縛る。
「私、もう人を傷つけたりなんてしたくない!もう、しないんだから!!」
自分への怒りと、絶対の誓い。涙を零しながらそう訴える。
ソードに会った時、自分は確かにこの誓いをしたのに、破ってしまった。
洗脳なんかに負けて、大切な人を傷つけてしまった。
 心が痛い。ずっと洗脳されたままの方が痛くなかったかもしれない。
でも、嫌だ!
もう、自分に負けるのも。大切な人を傷つけるのも。

    ソードの傷は、私の傷だから。
    私の傷は、ソードのものだから。

「もう、嫌なの!!」
どん、と。ルナの身体から光が溢れた。
圧倒的な魔力の流れが、汚れを蝕んでいく。
 そう、狂気に侵された男の身体を。
『うわぁぁぁぁぁぁ!?』
”聖なる魔力”が男の身体を包んでいく。
ルナの銀色の瞳は深い夜の色へと変わっていく。
悲しみと、優しさを秘めたあの瞳に。
そして、瞳の色が完全に黒へと変わった途端に、男の身体は霧散した。
文字通り、跡形も無く。
 ルナの身体が落ちた。
ソードが慌ててそれを抱え上げる。
「ソード…。私、あの人を救ってあげられたのかな…?」
「……ああ」
ソードは少しの間の後に、そう答えた。
男は、ルナの優しい魔力によって滅ぼされた。いや、浄化されたのだ。
狂気に侵された男を解放した。
だが、肉体を壊すほどの量の魔力を一時的にとは言え扱ったためにルナの身体のあちこちから、血が流れ出ている。
ソードは、それが許せなかった。自分には、ルナさえいればいいから。
「…もう、いいのか?」
ルナは、にこりと微笑う。
「うん」
過去との断絶なんて、誰にも出来ない。
それを抱き締めて、強くなれたら。なれたから。
その時、声が響いた。
「どうやら片付いたようね」
突然後ろから聞こえた声に、三人がばっと振り返る。
「ルシェル!?」

黄金の髪が、暗い部屋の中で淡く光る。
モノトーンの翼が、不器用に広げられた。
アメジストと銀色の瞳が、真っ直ぐに射抜いてくる。
「だ、堕天使…!?」
ルナとソードが戦闘態勢を取った。
だがルシェルは気にもせずにセリオスの元へ駆ける。
「ルシェル、どうして…?」
「…その前に、2人に説明をしたほうがいいんじゃないかしら?
 話はそれからよ」
セリオスがそこに来て気が付いた。ルナとソードはルシェルのことを知らないのだ。
慌てて説明をすると、2人ともなんとか納得したのか、ルシェルの言葉に耳を傾ける。
「そうね。まず、何故ここにいるかからかしら。
 この場所に道が出来たからよ」
「道?」
ルナの疑問に、ルシェルが頷いた。
「ええ、道。精霊界と人間界が重なっているということは知ってるわね?
 人間界の、神聖な場所とか言うのは精霊界との隔たりが薄くなり、力のある者なら行き来が可能になるの。その子の魔力によってこの場所が浄化されたから、道が開いたのね。
 …セリオスに言う事もあったから、出てきたというわけ」
ルナとソードが、納得したように頷いた。
 だがセリオスは、新たな疑問が浮かぶだけ。
「僕に、言う事?」
「……とりあえず、おめでとう。
 あいつを退治したから、子供達が魔物に変えられることももう無いわね。
 ただ、魔族達の攻撃も激しくなってきたから、純粋な魔族の数はもっと増えていくと思うけれど」
セリオスがはっとした。
 旅をはじめてからもう大分経つ。
最初の頃は感じなかった危機感というものが、最近では感じられるようになった。
段々と強くなり、増えてくる魔物達。
地上を汚す魔族達。
 だが。
「……もう、解っているでしょう?セリオス。
 天使と魔族の、本当の事を……」
ルシェルの瞳から、暗い光が発せられる。
「天使だからいいわけでなく、魔族だから悪いわけでもない……。
 世界の、本当の姿……」

『ルシェルは天使界から追放されました』
『単なる裏切り者への罰なのです』
『もちろんよ』
『…ありがとう。その子を頼みます…』

 天使界から追放されながらも、必死にルシェルを護った人。
 そして、そのエルアさんを殺した天使達…。

『あら、人間なんて久しぶりね』
『ここは心地がいいの。人間達がいろいろ掘り出してくれたおかげで』
『あはは!その首をもぎとってあげるわ!!』

 同じ堕天使なのに、狂気と破壊で埋め尽くされていた魔族ティレア…。

『おかえりなさい!』
『お兄ちゃん、絶対に帰ってきて…』
『愚かだなんて思わない』
『お兄ちゃん……大好きだよ……』

 天使と魔族の血を引いたせいで心を閉ざしてしまった僕の妹…レイラ…。
 でも、明るくて、優しかった。
 支えられていたのは僕のほうだった。

『人質も、同じ名前だったわね。でも私の名前は奈落の歌姫という意味があるのよ』

 …アリア。

『貴方は間違いなく、私にとって勇者よ……』

 何故、そんなことを言うんだ?

『さよなら…』

 別れの言葉なんて、聞きたくないのに。

『ただいま、セリオス』

 アリア。アリア…!

「天使は、秩序と束縛を司る者。
 魔族は、混沌と自由を司る者。
 どちらも欠ける事許されざる、世界を護るべき者達。
 そして人は、どちらをも持ち合わせる者達」
ルシェルはキッと虚空を睨みつけた後に、冷たい廊下を進んだ。
慌ててついていくと、袋小路に突き当たり、ルシェルがゆっくりと振り向いた。

「ついてらっしゃい。貴方のご両親のもとへ」
ルシェルの言葉と共に、壁は失われ、地下室への道が出来ていた。

 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード
ル「はー。一安心」
ソ「魔族にならなくて良かったな」
ル「うん!…でも、ちょっと話の感じが唐突ね。作者、調子悪いの?」
セ「いつものことだと思うけど…」
*「ほっとけ!18〜19話は難しくて悩みに悩んだんだよお!」
ソ「プロットを書かんからそういうことになるのだ。世の中の偉い作家様方は皆計画をたてているんだぞ」
*「だって…。つまんないしおもしろくないしあんまり変わんないし、私、後で設定を追加する事がよくあるから…」
ル「…ところで、ルシェルさんが出てきたわね」
セ「ああ。僕の両親の事を知ってるのかな…?」
ソ「あの様子だと、そうらしいがな」
ル「物語もいよいよ核心に迫ってきてるみたいだし、しっかりしなさいよ、作者!」
*「…ガンバリマス(泣)」

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14483どっきどき。みてい 3/19-23:48
記事番号14459へのコメント

こんばんわ、みていでございます。

ああああ良かったぁ、ルナが魔に染まりきっちゃわないで。
ソードの想いとルナの願いが通じたんですねぇ、ほぅ。

で、堕天使サマが出てきてますね。前にも見たような…(読み返せ、みてい)
なんだか話が急転直下、一難去ってまた一難!(ちょっと違うかも)。
毎回毎回どきどきしてます。
次はどうなるんでしょう。どきどきわくわく。

ではでは、みていでございました。
また寄らせてくださいね。

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14513Re:どっきどき。神無月遊芽 E-mail URL3/21-16:48
記事番号14483へのコメント

>こんばんわ、みていでございます。
 こんにちは、うう、また来て下さってありがとうございます。

>ああああ良かったぁ、ルナが魔に染まりきっちゃわないで。
>ソードの想いとルナの願いが通じたんですねぇ、ほぅ。
 そうですねえ。ソードとルナはちょっと微妙ながら一応公式カップリングですし(笑)

>で、堕天使サマが出てきてますね。前にも見たような…(読み返せ、みてい)
>なんだか話が急転直下、一難去ってまた一難!(ちょっと違うかも)。
>毎回毎回どきどきしてます。
>次はどうなるんでしょう。どきどきわくわく。
 ああ、どきどきはともかくわくわくはなさらないほうが。期待を裏切られます(おい)
 でも、ありがとうございます。嬉しいです。
 ルシェルが忘れ去られてるのが気になりますが(笑)

>ではでは、みていでございました。
>また寄らせてくださいね。
 はい、また来てくださいね。

 それでは。
    神無月遊芽

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14553金と銀の女神20神無月遊芽 E-mail URL3/23-12:20
記事番号14459へのコメント

 こんにちは、神無月です。
 やっと春休みですねえ。ここに投稿してもツリーがすぐに落ちるかも(笑)
 月曜まで旅行でいないので、今のうちに投稿しておきます。

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             金と銀の女神
           〜世界が始まるとき〜


   20章 真実の名

 silver 私を愛してくれてたかなんて聞けないわ
    お父様にとって 私はただの道具だから

 ゆっくりと、ルシェルの後をついていく。
湿った空気を吸い込みながら、あの翼の後についていく。
自分の足音が、こんなにうるさいと思ったことはあっただろうか。
心臓の音が、どんどんと高鳴ってくる。
 僕は、一歳に満ちるか満ちないか程で森へ捨てられていた。
暗い森の中を、一人で泣いていたらしい。
その時、サリラのお父さんと僕のお養父さんが仕事でたまたま通りかかり、僕を拾ったのだ。
お養父さんは結婚していたけれど、子供がいなかったようで、僕のことを喜んで育ててくれたらしい。
 本当のお父さんとお母さんを恨んでいるわけじゃない。むしろ、お養父さん、お養母さん。サリラやクロス。…レイラ。……アリア。
いろんな人に会えて、感謝したいくらいだ。
だけど、知りたい。何故、僕を捨てたのか。
いらなかったのか。それとも理由があったのか。
 ディクス様に勇者なんて言われたけど、僕は本当は何者なんだろう?
蒼い光を持つ者。紅い炎を持つ者。
勇者って何なんだろう?
 伝承の勇者は、魔族のみを滅ぼしていた。
それは、本当に正しかったのか?
 誰が、本当の悪なんだ?

 その時、ルシェルの歩みが止まった。
それに気付いて足を止めると、目の前には2つの墓石があった。
だが、その墓は無残なまでに荒れ果て、十字架は折れ、床へ落ちていた。
 頬を、汗が伝っていった気がした。
「貴方のお父様とお母様よ」
「―――!?」
膝の力が抜けていく。
今までだって、顔も知らなかったから、そんなにショックだったわけじゃない。
なのに、身体が言う事をきかない。
 完全に床へ膝をつくと、ルシェルはくすりと笑った。
「…ルシェルさん?」
ルナが少し気分を害されたかのような顔をする。
だがルシェルはまた柔らかく微笑んだ。
「アデク様、リリス様。今ここに現れ下さい…」
「!?」
途端、一瞬の閃光が走った。
 優しい慈愛の光がその場を包み込む。
そして。
『……アレス…』
ふわりと、2つの人影が産まれた。
一つは大きく屈強で、もう一つは細く柔らかだった。
 ルシェルの瞳が、懐かしさに溢れる。
『私達の可愛い子よ…』
『よく、ここまで来てくれたな……』

姿が、現れた。
 まるで聖母のように優しい表情の女性と、歴戦の剣士であることを感じさせる精悍な顔つきの男性。
セリオスは信じられないような想いで、二人の姿を見上げていた。
「お父さん…お母さん…?」
女性の瞳が、一層優しいものへと変わった。
『ええ、私は貴方をこの世へ授けた者です…。貴方を育ててあげられなくて、ごめんなさい…』
「どうして、セリオスを捨てたの?」
ルナが女性へ話し掛けた。
今度はその瞳が曇る。
『ごめんなさい…。天使達に見つかってしまったの。
 そのせいで、貴方を護るどころか命を落としてしまった……』
「天使に見つかった…?」
ソードが怪訝な顔をする。
 そして男性は、寂しそうな、遠い目をした。
『そうか。まだ知らなかったのだな。
 では、話そう』
『私が生きている間には聞かせてあげられなかった、遠い遠い昔話…。
 …ルシェル、いいかしら?』
女性がルシェルへそう質問をした。
ルシェルは一度目を伏せると、無表情のまま頷いた。

『昔、世界は混沌へと落とされようとしていた。
 それは、天使達の一部が魔族へと返り、力をつけた魔族達が天使達に戦いを挑んだから。
 …でもそれは、人間達の一般論の予想でしかないの…』
女性の言葉を聞いたセリオスがはっとした。
いつか聞いた勇者物語と同じ内容が、今語られようとしていたのだ。
そう、歴史の裏側の真実を。
『私達はあくまで真実を語るまで。神の真意は、後ほどルシェルが語るだろう』
ルシェルがこくりと頷いた。
 そして男性は一拍呼吸を置くと、息を吸い込んだ。
『世界の安息と安定を願っていた。動植物たちの輪廻を見守りながら、人が産まれてもなお天使達は安定を祈っていた』
『心の安息と自由を願っていた。動植物たちの輪廻を見守りながら、人が産まれてもなお魔族達は自由を祈っていた』
男性と女性はそれぞれ話し始めた。
 暗い地下道が淡い光に照らされる。
腰を抜かしたままのセリオスは、父と母の語るものをただじっと聞いていた。
『だがある時、天使達は気付いたのだ。自分達の愚かさに』
『人は混沌なる存在ながら、秩序を抱えて生きている』
『そして心をもっている』
『ただ、天使長の言いなりに、世界の安定を願うのは本当に正しいのかと』
ルシェルの顔が曇った。
そう、彼女もこの道を通ったのだ。苦しいのに、戻れない道。
聞いているのも辛い過去。
『でも、気付いてしまったらもう遅かったの。
 元々天使達は意思のない存在…。意思があれば、世界を安定に導き、混沌を排除するという仕事を達することが出来なかったから。だから、本人達の意思とは関係なく、地へと堕とされた』
それが、堕天使。
 たった少しの歯車の違いに気付いてしまったがために、魔なる場所へと堕とされた。
『堕天使は、魔族になりたかったわけではない。ただ間違いに気付いただけだ。
 だのに意思が生まれた途端に捨てられた』

憧れていたのに。天使は、清らかな存在なのだと。
でも、清らか過ぎた。一切の汚れを認めぬ、自分の汚れも認めぬ。
それは本当にいいことなのか?
 それは、小さな疑問。
 勇者の責を背負いし者の、小さな疑問。

『魔族は、すなわち心。世界も何もかも関係なく、自らの心のみを推奨する。
 混沌を内に抱え、自らたちを圧迫する天使達を排除にかかった』

違う。心は大切だけれど、自分のためなら何をしたっていいわけじゃない。
人を傷つけるなんて、絶対しちゃいけないのに。
 それは、小さな誓い。
 闇に塗れし少女の、小さな誓い。

『そして戦いが始まった。それぞれの信じる道がために』

戦いで何が生まれるというのか。奇麗事抜きで、愚かな事だと何故解らないのか。
戦いが生むは、勝者と敗者、そして戦いのみ。
 それは、小さな願い。
 孤独抱えし青年の、小さな願い。

『戦いは長引いたわ。天使も魔族も、大きな力を持っているもの。戦いは互角だった。
 …その時、一人の人間が現れた』
勇者アロス。天使と魔の戦いに終止符を打った者。
伝説の勇者。
『勇者アロス・ウル・シルヴァセントは、その剣によって魔族達の王と戦い、天使長に世界への必要以上の干渉を咎めた。
 魔族の王は傷を負い地の底へ隠れ、自らの命を人質にとられた天使長は、魔族達が引いたと同時に戦いと人間界への干渉を止めた』
(なんだって!?)
セリオスの中に驚愕が走った。
 天使長。神無き今の世界では、最も上に立つ聖なる者とされている。
その存在が、自らの命の為に戦いを止めたなど。
『天使達は、これ以上自分達に歯向かう者を増やしてはならないと、魔族達を魔界へ封印した。魔界の王は傷を負っていたから、楽勝だったようね。だけどそれがアロスに知れ、人々には知ることなく第二の戦いが始まったのよ。
 徹底的な排除を行う天使と、全てを肯定し、全てを否定する勇者との戦いが』
人々は知らなかった。魔族を倒した勇者が、偽善によって世界を歪めようとした天使達と闘ったことを。
だから伝承にも残らなかった。魔族だけが悪いように唄ってあった。
 勇者は、本当の意味で勇者だったのだ。
世界をあるべき姿へと戻すために、偽善で固められた天使達を討った。
『天使長は魔界王と同じく深い傷を負った。
 アロスも怪我をしたが、それは剣を持たず生活するには充分だった』
戦いは終わったのか?
人々が平穏に暮らせるようになったのか?
『数百年の月日が流れた。だが、人々は平和ではなかった。
 人々は勇者の勝利にもたれすぎていたのだ。愚かなる人々のせいで世界は荒廃し、荒れ果てた』
『そして傷の癒えた天使長は、自らの手を汚すことなく世界を浄化するために、封じた魔を解き放った』
『魔族達は天使達への怒りを抱え、世界を壊していった…。そして天使長は人々がわずかに残った頃で魔族達を今一度封印した』
『この悪夢なる浄化の儀式が、幾度も繰り返された』
愚かなほどに秩序を求む者と、愚かなまでに自由を望む者と。
そして愚かそのものな人は、秩序から外れるものとして幾度となく天使達と魔族達に滅ぼされてきたんだ。

   何故、皆平和に暮らすことが出来ないんだ。
   何故それほどまでに世界を望む?何故それほどまでに自由を求む?
   何故、それほどまでに愚かなのだ?

『…そして、今から18年前、一人の少女が私の前に現れた』
「え?」
セリオスが思わず声を出す。
続きがあったことで驚いたのと、その話の少女が誰だか予感があったのだ。
『ルシェル。まだ産まれて1年の天使だった』
「「「!?」」」
三人が息を呑んだ。
ルシェルは目を反らすことなく、男性を見つめている。
『この人とルシェルは少しの間だったけれど話をしたわ。
 天使の考え方が染み付いているルシェルに、優しく接した』
「そして、人の優しさをしった私には意思が産まれ、堕天使になった」
―『貴方にはまだ早いわ』
  やっと解った。天使が堕天使へなる意味。
  人の優しさに触れたせいなのだ。
  自らの心に気付いたから、天使でいられなくなった。
  そして、ルシェルが堕天使になったきっかけが、僕のお父さんとお母さんだったなんて。

『…だが、ルシェルに意思が生まれた時、ルシェルには見張りの天使がついていた。
 そのせいで、私たちのことが天使長にばれ、それから一年と半年後、天使たちに襲われてしまったのだ』
「何故…?」
セリオスが疑問を口にした。
頭の中で、薄々解っていながら。
『……誰だって、一度は自分を傷つけた存在に近い者を野放しにしておきたくは無いだろう』
『私たちは貴方に結界の魔法をかけ、森の中に置いた。
 貴方を護る事は出来たけれど…こんな姿になってしまった』
その姿は透明で。本来この世にいないものだということを思い知らされる。
精神だけの存在はここにはいられない。いたとしても、存在が薄くなってしまう。
もう、父と母は死んでるのだ。例え、今この場所で話をしていたとしても。
『私たちがこうして話しているのは、お前にこれらを伝えるためだった』
『いずれこの姿も消えてしまうでしょう…』
悲しそうに、女性が言った。
「待ってくれ!何故、何故天使はお父さんとお母さんを!」
今一度疑問を口にすると、男性の瞳が変わった。
『天使たちは、恐れたのだよ。勇者の血を引く私を』
その時”色というものを持っていなかった身体”が浮き上がり、その髪が真紅に包まれ、瞳は金色へと変わっていった。
女性の身体も次第に色を帯び、艶やかな髪は淡い桃色へ変わり、瞳は銀へ成った。
『私の名は、アデク・シス・シルヴァセント。勇者の血を引く者』
『私の名は、リリス・レイアー。闇なりし聖母。そして・・・』
リリスはふわりと透明な手をセリオスに差し出し、その頬をなぞった。
『私の可愛い子…。
 アレス・ロイ・シルヴァセント……。それが、私が授けた貴方の名……』

 何者か、知りたかった。
蒼い光を持ってて、ディクス様に勇者なんて言われて。
当然の事だったんだ。

 だって、僕自身が勇者の血を引いていたのだから。

 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード
セ「これで、僕が勇者だという理由が解ったね」
ソ「ああ、勇者の血を引いているなら、勇者であって当然の事だろう」
セ「(…ちょっとトゲがあったぞ。ソード)」
ル「天使と魔族の謎も解けてきたし……けど」
セ「けど?」
ル「なんでこんなに説明くさい台詞ばっかりなの!?見ている方々がおもしろくないじゃない!!」
セ「僕に言わないでくれ…。ここはそういうシーンなんだよ。それにいつもおもしろくないだろ?」
*「ほっとけ」
ソ「2部もそろそろ終わりだそうだし、…この章は別名ねたばらしの章だからな…」
ル「…そういえば、ソードの過去はまだだけど、いつするの?」
ソ「ん?ああ、作者が迷ってるらしいな。2部でばらすか3部でばらすか」
セ「どんな過去なんだろうな」
ソ「あの作者が考えた過去だからな。…期待するほどのものではない、とだけ言っておこう」
*「…ほっといて…うう…」