◆−ある花曇りの日(ゼルアメ)−PZWORKS(3/25-01:11)No.14577 ┣あとがきといいわけ−PZWORKS(3/25-01:26)No.14578 ┗Re:ある花曇りの日(ゼルアメ)−ねんねこ(3/25-20:53)No.14590
14577 | ある花曇りの日(ゼルアメ) | PZWORKS URL | 3/25-01:11 |
こんばんは。PZWORKSです。 第4土曜日、またもや持って参りました。【書き殴り】先行公開ブツです。 本作品の公開にあたっては桜前線上昇のタイミングをはかっていました。 関東地方でもちらほら咲き出しましたので公開します。 (まだ開花してない地方にお住まいの方、ごめんなさいです) 本作品は拙著『The Moment of fallin'in love』の続編にあたります。 読んでいない方でも十分意味は通じますが、よろしければHPにてご一読 ください。 それでは。 ------------------------------------------------------------------ 「じゃ、あたし達はここで」 「そうか」 「伝説の剣、はやく見つかるといいですね」 「ああ。達者でな」 簡単すぎる別れの挨拶。そしてリナとガウリイは行ってしまった。 ここは聖都市セイルーンに程近い街道の分岐点。 残された2人――アメリアとゼルガディス――は顔を見合わせると、言った。 「行くか」 「はいっ」 歩き出す2人。その足の向く先はもちろんセイルーンだ。 空には薄く雲がかかり、灰色の光線がその切れ間から地上に降り注いでいる。 いつもは目に眩しい新緑も今日はくすんで見えた。 「わあ!」 アメリアは思わず立ち止まった。 薄桃色のトンネルが不意に現れたのだ。街道に沿って植えられた桜の並木が、どこまでも続いている。 「きれい…」 「五分咲きといったところか」 桜を見やりながら言うゼルガディスの顔にもほのかな微笑が浮かぶ。 「しかし、一雨来そうな空模様だが…せっかくの桜が散ってしまうな」 言われてアメリアは空を見上げた。強まってきた風が足元を吹き抜けていく。 と、冷たいものが鼻先に落ちてくるのがわかった。 「仕方ない。この先の村まで走るぞ」 「ふぇーん。桜がもったいないですぅ」 2人は近隣の村をめざし、一目散に駆け出した。 ------------------------------------------------------------------ 雨はぱらりと水滴をばらまくと、程なく止んだ。 あまり明るくなかった空はそのまま夕焼けに染まりもせず、夜を迎えつつあった。 アメリアとゼルガディスは街道の途中にある小さな村にいた。 この村もまた、あちこちがピンクの天井で覆われている。 「いたるところに桜が植えてあるんですね」 感嘆の声を漏らすアメリア。ゼルガディスは一際大きな桜の木に歩み寄った。 木の根元には昼間の雨にうたれて花びらが散っている。 ふと、花びらに混じっていくつも蕾が落ちているのに気づき、彼は呟いた。 「咲いてこそ桜だろうに。蕾のまま散ってしまってはな」 「ゼルガディスさん、どうかしました?」 歩み寄ってきたアメリアをしばらく見つめると、彼は答えた。 「…いや、何でもない。それより飯にしないか」 「今、話を逸らしたでしょう? 御飯って言えばごまかせると思ってるんですか?」 「違うのか?」 「リナさんやガウリイさんじゃあるまいしっ!」 ふくれるアメリアをなだめながら、食事処を目指すゼルガディスであった。 うずたかく積まれた料理の皿をボーイが手際良く片づけていく。 食卓には満足そうな表情のアメリアと、コーヒーをすするゼルガディスがいた。 「もぉ、食べられませ〜ん」 「アメリア」 「まだ、食べるんですか?」 「そうじゃない。いいから聞け」 「…はぁい」 「明日、街道をセイルーン方面に進むと、旧街道と交わる地点に出る」 「……」 「そこで、お別れだ。…俺はセイルーンには行かない」 いつか突きつけられるとわかっていた現実。それが今、彼女の目の前にあった。 「……わかりました。でも…」 アメリアはぎゅっと拳を握りしめた。 「今日はまだ、一緒にいてもいいんですよね?」 「あ、ああ」 「じゃ、これから桜を見に行きませんか?」 「…今からか?」 「お散歩程度でいいんです」 ゼルガディスはアメリアの顔を見た。そしてうなずいた。 「夜桜も悪くはないな」 ゼルガディスの返事に、アメリアは嬉しそうに笑った。 ------------------------------------------------------------------ 「ライティング!」 アメリアの手のひらから光球が放たれる。と同時に、一面の桜がぼんやりと光に照らし出された。 風が鳴る度に、少しずつ小さな花びらが散っていく。 「まるで、雪のようだな」 そう呟くゼルガディスをアメリアは見つめた。淡い光に照らされたその顔は、月夜に見た顔を思い出させた。 こみ上げてくる涙を隠そうと、アメリアは咄嗟に呪文を唱える。 「レビテーション!」 「アメリア、どこに行く気だ」 「えへへ」 緩やかに樹上に上昇したアメリアは梢(こずえ)に咲く花に顔を近づけ、香りをかぐ風を装って涙を振り払った。 そして言った。 「桜って、香りがありませんね」 「…そうか?」 興味のなさそうないらえにアメリアは軽く嘆息し、地上に向けて高度を下げた。 花びらと舞い下りて来た彼女をロックゴーレムの腕で受け止めると、彼は宙に浮いたままのアメリアにそっと唇を重ねた。 あの月夜と同じ、ひんやりした感触が彼女に伝わる。と同時にアメリアの甘く柔らかい唇をゼルガディスは感じていた。 「!」 不意に、ゼルガディスの腕にかかる重さがずしりと倍増した。 落下する体を素早く抱きとめると、彼は耳まで赤くしたアメリアに声をかけた。 「おい、しっかりしろ。…だらしないぞ」 「………」 たった今起きた事が未だに信じられず、アメリアは目の前のゼルガディスをつくづくと眺めた。 彼の表情はいつになく柔らかで、口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。 が、さすがにアメリアの視線に耐えられなくなると、ゼルガディスは赤面して顔を背けた。 そのおかげでようやく口をひらく余裕が生まれ、アメリアは彼をなじった。 「…不意打ちなんて、正義じゃないです」 だが、その口調は幾分弱々しかった。彼女は彼の胸に顔をうずめ、いつまでもこうしていたいと願った。 ゼルガディスもまた、アメリアをしっかりと抱きしめて離そうとはしなかった。 あたりは静寂に包まれ、2人の願い通りに時間はその歩みを止めたかのようだった。 ただ、舞い散る桜だけが、時の移ろいを示していた。 ------------------------------------------------------------------ 翌日。 空には低く、灰白色の雲が垂れこめていた。 間近に迫るはずの聖都市セイルーンは霞に覆われ、ぼんやりとしかその姿を確認できない。 街道を行く人の頭をかすめて、つばめが飛び去ってゆく。 太陽と思われるうすぼんやりした光球が頭上に差しかかる頃、行く手に脇道が現れた。 『ここより旧街道』 小さな立て札は、かろうじてそう読める。 その前で立ち止まると、ゼルガディスはアメリアに向き直り、口を開きかけた。が、それを遮って彼女は叫んだ。 「セイルーンには帰りません!私も、一緒に連れていってください!」 「アメリア」 ゼルガディスはすっと目を細め、厳しい口調で言った。 「これは俺の仕事だ」 一度は言葉を切ったが、うつむいた彼女を見ると彼は言葉を続けた。 「俺は俺自身の真実を捜す。…それを自力で見つけ出さない限り、前には進めない」 ゼルガディスが自分の事をこれ程はっきりと語るのを聞くのは初めてだった。 アメリアは唇をかみ締め、泣くまいと努力した。 「…ごめん、なさい……」 そして腕から、いつも身につけているアミュレットをはずすとゼルガディスに差し出し、言った。 「なってください、本当のゼルガディスさんに。…でなきゃ、この正義のしるしが許しません」 彼はそれを受け取ると、ぽんと彼女の頭に手を置いて言った。 「お前こそ、今度会う時はレビテーションなしでも俺にとどく位になっていろよ」 そして自分の進む道――旧街道に向き直り、歩き出す。その背中にアメリアは憎まれ口をたたいた。 「早くしないと、ゼルガディスさんなんか追い越しちゃいますからね!」 彼は片手をあげ、軽くふってみせた。そのまま振り返りもせず、その姿は遠のいて行く。 「…意地っ張り……」 誰にともなく、アメリアは呟いた。 曇天が、セイルーンに向かって歩き出す人影をうすぼんやりと地上に描き出していた。 街道沿いの桜が、息苦しいほど甘い香りを辺りに撒き散らす。 ある花曇りの日の事だった。 ------------------------------------------------------------------ (完) |
14578 | あとがきといいわけ | PZWORKS URL | 3/25-01:26 |
記事番号14577へのコメント 本作品ではキャラクターの“一人歩き”というものに遭遇しまして…アメリアはどうしても、どーしても、ゼルについていきたかったみたいです。 別離のパートを書く事は、アメリアと私の対決でもありました。今ひとつ消化しきれていなくてアメリアらしくなってない気もしますが、恋をした女の子、 ということを念頭に、書くようつとめました。 一方ゼルは、意外に(?)女の扱いがうまい所を見せてくれました。カッコ良く書けたセリフが多く、お気に入りです。 ゼルアメとしてはあまりに有名で、多くの方が扱ってらっしゃるエピソードですので、公開にあたっては正直なところ、ちょっと緊張しますねえ(笑) では。 |
14590 | Re:ある花曇りの日(ゼルアメ) | ねんねこ E-mail URL | 3/25-20:53 |
記事番号14577へのコメント はじめまして、2の方で暴走中のねんねこと申します。 ゼルアメの言葉につられてひょろっと覗かせてもらいました(笑) ゼルとアメリアの別れる話…… >ゼルアメとしてはあまりに有名で、多くの方が扱ってらっしゃるエピソードですので、公開にあたっては正直なところ、ちょっと緊張しますねえ(笑) 確かに多くの方が扱ってらっしゃいますね。 だからこそ、書いている方の個性が光る部分でもあると思います。 いろいろな考え方、思い浮かべ方がありますから、良いと思います。 ……わたしは、あまり書いた覚えないんですが(遠い目) なにはともあれゼルもアメリアもよかったです。 感想書くの苦手なので、上手く表現できないんですが(汗) それでは次回の話を楽しみにしております。 ねんねこでした。 |