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14872 | 金と銀の女神22 | 神無月遊芽 E-mail URL | 4/5-10:27 |
こんにちは、神無月です〜…。 22話です!一応今回のエピソードが2〜3話で終わる予定で、それで二部は終わりです。 大辞典の方で名前だけ先に出てたあの子が登場v ***************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 22章 癒しの少女 silver 孤独の中で生き抜くと孤独に慣れてしまう 私に貴方は眩しすぎたわ ホールの村。 それは丁度、ナーサ城への帰り道に位置する村だ。 研究所へ行く時には急いでいたため寄らずに通り過ぎたのだが、帰り道ではソードの傷の手当ても兼ねて立ち寄る事にした。 「へえ。平和そうね」 髪をおろしたままのルナが、村をぐるりと見回した後、そう言った。 そう、そこには、セリオスが旅立つ前と同じような風景と平和があった。 だが、どこか空気がおかしい感じがする。 最近空が暗くなってきたせいかとも思ったが、この感じは村に入った途端に感じられた。 「…なんだろう?」 「どうしたのセリオス?早く誰かに話し掛けようよ」 ルナにそう言われて、はっと意識を戻す。 今は、ソードを休ませてやる方が先だ。 セリオスは、近くの村人の側まで歩いていった。 「すいません。宿屋か何かはありますか?」 村人はセリオスに気付き振り返ると、表情を一変させた。 先程までは穏やかな顔つきをしていたのに、まるで脅えているような表情になる。 『な、なんだお前は!帰れ!帰ってくれ!!』 「え?ま、待って下さい!」 セリオスが手を差し伸べ引き止めるが、村人はその手を振り払う。 『よそものめ!』 今にも殴りかからんとする勢いで、村人がセリオスの胸倉をつかんだ。 『どうしたんだい?』 その時向こうの方から数人のおばさん達がやってきた。 皆巫女服と呼ばれるローブを身に纏っている。 そのおばさんの一人とセリオスの視線が交わった。 おばさんの顔から、血の気というものが失せていく気がした。 『すみません。旅の方ですね? 今この村は神聖な儀式の最中。皆神経質になっているのですよ。 よければ今はお引取り願えませんか?』 だが、その瞳は言っていた。 『今すぐこの村から出て行け』と。 普通なら、すぐに立ち去るところだが、あいにくソードのこともある。 セリオスは首を振った。 「すみません。ですが、仲間が負傷しているのです。 休ませていただけませんか?」 『旅の方々は魔物の血を浴びていらっしゃる。 そんな人を村の中へいれたくはありませんので』 ルナがぎりりと唇を噛んだ。 怒りを抑えるのに必死なのだろう。 その時、一人の少女の声がした。 「どうしたのですか?」 年齢は16ほどだろうか。 背中ほどまでの艶やかな黒髪を、地面についてもなお長さ有り余るベールに包んでいる。 まるで雪のように白い肌を、純白のローブで隠しており、唇は桜のように色づいている。 そして瞳は、深い孤独と優しさを秘めていた。 それは、ルナとは全く違う美しさを持っていた。 そう、アリアのような、儚い美しさを。 『ティアリム様。旅の者が宿を貸せと…。 丁重にお断りしているのですが…』 おばさんの一人が少女にそう言った。 (どこがだ) セリオスは唇を噛み締める。 彼女達の説得はかなり強引なものだった。 少女もそれを解っているのだろう。一瞬眉を歪めた後、セリオスに向かって微笑んだ。 「旅のお方、失礼致しました。私はアイセラ・ティアリムと申します。 若輩者ですが、巫女を務めさせて頂いております」 「僕は、セリオス・クリムと言います」 毅然とした態度を崩さずに、セリオスは名を名乗った。 アイセラは淡く微笑み、すまなそうに頭を下げる。 「儀式の最中とはいえ、皆が申し訳ないことをしたようですね。 よろしければ、私の家に泊まっていかれませんか?」 丁寧にそう言われて、セリオスがほっとした時だった。 おばさんの一人が突然怒り出す。 『ティアリム様!何を申しているのです!? 大体、あんたがそんなことをする権利は…!』 はっと、おばさんが口を噤んだ。 まるで、失言したとでも言うように。 (今のは、一体…?) おばさん達よりアイセラさんのほうが位が上だなんて見ただけで解る。 だがおばさんは「あんたがそんなことをする権利」と言った。 まるで、アイセラさんよりも自分の方が偉いのだとでも言わんばかりに。 ルナとソードもやはり気付いたのだろう。綺麗な顔を歪ませていた。 アイセラさんは悲しそうに微笑んだ後、首を横に振る。 「申し訳ありません。でしゃばったことだったかもしれませんね。 ですが、傷ついた旅人を追い返すなど、それこそ神聖な儀式を汚す事になるのではないでしょうか」 『ぐっ…』 おばさん達が言葉をつまらせる。 「セリオスさん…でしたね。私の家は、この村の北東にあります。 一目で解ると思いますので、おくつろぎになっていてください。 私はまだ儀式が終わっておりませんので、後から参ります」 「あ、はい、すみません…」 僕はルナに任せきりだったソードの肩を抱き、歩きやすいようにしてやると、ゆっくりと北東へ向かっていった。 「遅れて申し訳ありません」 少女がそう言って扉を開けたのは、太陽も暮れかけた頃だった。 あの服は儀式用だったのだろう。少女は白い巫女服から、普段着に着替えたようだ。 先ほどとは違い、おとなしめな普通の少女という感じで、違和感を隠せない。 「いえ、こちらこそすいません。おじゃましています」 セリオスがソファーから立ち上がり、お辞儀をした。 ルナも慌てて立ち上がり、頭を下げる。 「そんな。傷ついた旅の方を癒す事は巫女の務め。 お気になさらないで下さい」 そうしてにこりと微笑むと、ソファーに横たわっているソードの傍らまで歩き、ゆっくりと座った。 「傷を見せていただけますか?」 「……ああ」 ソードはあまり傷口に障らぬよう、服を脱いだ。 応急処置として包帯を巻いてあるが、包帯にはじわじわと血が染み込んでいる。 アイセラはそれを見て一度部屋の奥へ消えていったかと思うと、医療キットを持ってまた現れた。 「包帯、かえますね」 そう言いながら、そっと包帯をほどいていく。 包帯が傷口に密着していたようで、剥がす時にソードが顔を歪めた。 「少々痛いと思います…ハンカチ、いりますか?」 アイセラがポケットからハンカチを取り出した。 どうやら、口にくわえて噛んでいろ、ということらしい。 ソードはそれを無言で拒否すると、少女の手をハンカチごと戻した。 「……無理なさらないでくださいね」 少女はハンカチを傍らに置いた後、医療キットから瓶を取り出すと、布を瓶の中に浸した。 瓶の中身は消毒液だったのだろう。布を取り出すとそれは茶色に濡れている。 そしてアイセラは布をソードの傷口にそっとあてた。 「………っ」 ソードが歯を食い縛った。 ソードの傷は、浅かったとはいえ、一番酷いものは肉をえぐりとられていた。 ナイフで切られたのだから、当然雑菌も入っているだろう。 そこへ消毒液を当てられたのだから、痛いに決まっている。 雑菌が傷口に入ったままだと治りも遅いし、悪いと傷は悪化するばかりだ。 傷を治す時に消毒は基本だが、見ているほうが痛くなるようで、セリオスもルナも時々目を瞑っていた。 だが、アイセラは表情一つ変えずに布をあてている。 きっと、こういうことに慣れているのだろう。 あてる部分を少しずつずらしながら、傷の真ん中から徐々に外側へと広い範囲に布をあてていく。 そうして細かな傷にも布を当て終わると、布を傍らにおき、新しい包帯を巻き始めた。 「…出来ましたよ。見た目ほどひどくないようでよかったです」 「よかったあ…。どれくらいで治りそうですか?」 ルナが心底安心した様子で笑った。 「そうですね…。清潔にして、毎日消毒と包帯を変えるのを忘れなければ、一週間ほどで大事はなくなると思います」 「ほんと!?ありがとう!」 無邪気な微笑み。 (本当に、レイラみたいだな。見ているほうが嬉しくなってくる、明るい笑みだ…) セリオスが笑みをこぼす。 アイセラも、セリオスの心境と同じなのだろう。自然と笑みが浮かんでいた。 ソードは微かな微笑を浮かべていた。きっと、研究所のことで元気のなかったルナが笑えた事が嬉しいのだろう。 「皆が失礼なことをしたお詫びもしたいですし、どうぞ私の家にしばらく滞在ください。 お時間はありますでしょうか?」 「ええと…」 セリオスが口篭もる。 断ろうとしたのではなくて、本当に時間があるかどうか迷ったのだ。 エルア大陸に渡るために手配する船が、すぐに来てしまうかもしれない。 王は待ってくれると言っていたが、正直待たせるのは申し訳なかった。 「セリオス、大丈夫だよ。クロスが言ってたじゃない。 『偉い人達のすることは時間がかかるからゆっくりしてな』って」 ルナの言葉に苦笑する。 確かに、どうも身分が高い人々というのは、一つのことに時間をとる。 書類やら了承やらで手間取るらしいのだが、待っているこっちとしてはこんなに手間取って何をやっているのだろうという感じだ。 最も、今回はそれが幸いになったようだが。 「じゃあ、仲間の傷が癒えるまで、お邪魔させてもらってもいいですか?」 「ええ、もちろんです。 私も一人暮らしですので、皆様が泊まってくださると嬉しいですし」 その時アイセラがふと気付いた。 「あ…セリオスさん達も、怪我をしているですね」 「え?あ…」 ルナが思わず自分の身体を見て、声をあげた。 確かに、ソードに比べれば小さな傷であるが、所々に傷がある。 セリオスも、旅の途中で受けた傷で、まだ治りきれていないものが多々あった。 「心配はいらないようですが、治療しておきましょうか」 「…お願いします」 ルナとセリオスは、2人で頭を下げた。 「ふふっ。すぐ終わりますから」 アイセラはそう言って、優しい笑みを浮かべた。 後書 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード セ「今回は珍しく暗くなかったね」 ル「でもちょっと変な雰囲気。アイセラさん、どうしたんだろう…」 ソ「金銀に出るメインキャラは、全員(クロス以外)不幸を背負っているらしいからな…」 ル「でも、だからといって村の人々があんな言い方…!」 セ「まあまあ。とにかく、しばらくゆっくりしていこうよ。そのうち何か解るかもしれないし」 ソ「…それにしても、今回は痛かったぞ…」 ル「……なんか、私が斬りつけた時より痛そうだったね…」 セ「ソードが痛がるシーン、作者が少し悩んだそうだよ」 ソ「?」 セ「『痛くない』とか言いながら滅茶苦茶苦しみ悶えるソードを書こうとしてやめたらしい(笑)」 ル「あはは。ちょっと見たかったかも」 ソ「…見なくていい」 |
14889 | 金と銀の女神23 | 神無月遊芽 E-mail URL | 4/6-14:39 |
記事番号14872へのコメント 神無月です。 日舞帰りです。暑い… ***************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 23章 平和に隠された罪 gold 人は自らのためならなんだってするのね 他人の幸せを打ち砕いてでも… 朝、目が覚めて1階に下りた時、その光景に出くわした。 ルナの緩くウェーブを描いた髪を優しく梳きながら、ゆっくりと三つ編みをしていくアイセラ。 それは、あまりにも平和な日常の一コマで、一瞬だけこの世に迫る事態を忘れてしまった。 ソードは解らないが、ルナも僕も、本当なら今頃こんな日常を過ごしていたはずなのに。 いつから歯車はずれて、戦いの中に飛び出してしまったのだろうか。 僕は戦いを望んでいた。 でも、こんなのは望んでいなかったはずだ。 アリアが、いなくなることなんて……。 「あ、おはようございます。セリオスさん。 ルナさんとソードさんも既に起きてらっしゃいますよ」 「おはよ!セリオス!」 2人がセリオスに気付いて挨拶をしてきた。 セリオスもおはようと言うと、寝ぼけ眼でルナの横に座る。 「三つ編みしてるのか?」 「うん。やっぱり髪がほどけたままだと邪魔で…」 ルナが照れたように笑った。 ルナは武闘家だし、確かに髪は邪魔かもしれない。 それを言うなら伸ばさなければいいだけの話だが、女性は髪に思い入れがある人が多いので、ルナもそのせいで髪を切れずにいるのだろうか。 「はい、できましたよ。 でも、少しもったいないですね。こんなに髪が綺麗なのに編んじゃうなんて」 アイセラがルナの三つ編みの先端を持ちながら言った。 ルナがまた照れ笑いをする。 「アイセラさんのほうが綺麗だよ。髪さらさらだし」 「そうですか?ありがとうございます。 でもルナさんが羨ましいです。私はまだ髪が短いですから」 アイセラは背中の中ほどまで。ルナは太ももほどまである。 「昔の伝承で、髪には魔力が宿るという伝説があるんです。 嘘か真かは解りませんが、そのため巫女は髪を切ってはいけないという習慣があるんですよ」 「へぇ〜…」 ルナが感心したように言葉を漏らした。 その時、アイセラの瞳が憂いを帯びる。 「昔は、髪が短かったんです。見た人が男の子かと思うくらいに短くしてました。 でも、あの時から……」 言葉が、途切れた。 『昔』とは。『あの時』とは。一体いつのことを指すのであろうか。 アイセラの瞳からは、深い悲しみを感じ取る事は出来ても、心の奥を知ることは出来ない。 「おい、時間だが行かなくていいのか?」 その時、ソードが部屋の奥のほうから出てきた。 アイセラはその言葉にはっと立ちあがる。 「どうかしたんですか?」 「今日は祭りの日なんです。正確に言うと、明日大切な儀式があって、その前夜祭なのですが…。 私は朝から色々準備などしなくてはいけないことがあるので行ってきますね」 質問に、慌ただしく答える。 そしてそのまま扉を開けて外へ出て行ってしまった。 一瞬の間の後、ルナがぽんっと手を叩いた。 「そうだ。ソード、セリオス。お祭りの日はお祭り用の服を着なきゃいけないから、着替えておいてだって」 「え?」 そう問い返すと、ルナは言葉の意味を履き違えたのか、くすくすと笑い始めた。 「大丈夫。ちゃんと男物だから。お父さんとかの服を貸してくれるって」 よく見ると、ルナはいつもの服ではなく、所々金で縁取りされた純白の服だった。 見慣れぬスカートは膝上サイズで、肩からは聖衣と呼ばれる布をかけてある。 戦いには不便でも、ルナにはこういうのが似合うんだなとセリオスはふと思った。 「……祭り、出なくてはいけないのか?」 ソードが嫌そうに言った。 ソードは傷もまだ癒えきっていないし、もとよりあの性格から祭りなどという気分ではないのだろう。 だがルナは断固として説得をする。 「出なきゃだめ!ルナさんも「夜まではゆっくりしてていいからなるべく出てくださいね」って言ってたもん!」 「解ったよ。その服ってどこにあるんだ?」 セリオスが返事をすると、ソードが嫌そうに眉間にしわを寄せた。 だがルナは嬉々として服の場所へ先導する。 階段を上る途中、ソードがそっとセリオスに耳を寄せた。 「5,6年前だ」 「?」 「アイセラとかいう奴の『あの時』だ」 「!?」 驚き、思わず声をあげようとするセリオスの口をソードが塞いだ。 ルナは気付かず数歩前を歩いている。 「会話、聞いてたのか?」 セリオスが小声で聞くと、頷きが帰ってきた。 「ショートカットの状態から背中まで伸びるには相当時間がかかる。 あいつの言いようからしてもそのくらいの時のようだ」 6年前と言うと、アイセラさんは10歳ほどだろうか。 なるほど。『髪が短くて男の子みたいに見えた』のだから、体が女らしくなる前。10歳ほどで間違いないだろう。 「この村は何か嫌な感じがする。気をつけておけ」 「ソ…」 ソードはそれだけ言うと、すっとルナの横まで行ってしまった。 セリオスは、今聞いた言葉をゆっくりと噛み締めながら、2人の後をついていった。 わぁぁぁぁ… 歓声が聞こえる。 村人達は皆、祭りに酔い、酒に溺れ、踊りを楽しんでいた。 村の真ん中では大きなかがり火が焚かれ、星の少ない暗い空を紅く照らしていた。 「一見、平和だな」 「一見、な」 村人達の様子を、セリオスとソードは冷めた目で見つめていた。 この村には何かある。だからこの村に留まっているし、祭りにも出た。 何かある村なら、そこで行われることはその”何か”に関わりがあるはず。 文句の一つ二つは言ったが、ほぼ積極的に祭りに参加していた。 だが、この祭りは無関係だったのか、普通の光景が広がるだけだった。 それでも2人は傍観し続ける。 どこかの家の壁にもたれ、浮かれ踊る村人達の姿を。 「それにしても、この格好は何とかならないかな…」 セリオスが参ったように自分の身体を見た。 ルナと同じ、所々金で縁取りされた純白の服。肩からかけられた聖衣。 動きにくいわけではないのだが、どうも着慣れなくてそわそわしている。 頭に巻かれているターバンなど、普段全然しないものだけに違和感が大きかった。 「文句を言うな。この格好の方が都合がいい」 どうやら村人達は互いの顔を全ては憶えていないらしい。 祭り用の服を着ているというだけで村の人だと思い込んだようだ。 だが、それすら不自然だった。 ここは、人口がそれほど多いわけではない。なのに、他の人の顔を憶えていないとはどういうことなのだろうか。 「…自分以外の者に、関心がないのか…?」 ソードが小さく呟いた。 祭りは、何事もなく終わった。 その日、セリオスは夢を見た。 小さな少女が、悲鳴をあげていた。 驚いて少女の視線の先を見ると、そこには血塗れの男と女がいた。 『お父さん!お母さぁぁぁん!!』 涙が滝のように溢れ返り、必死に親の身体を揺さぶる。 そんな少女に、村人が話し掛けた。 『………、お前の力が欲しいんだよ。 大人しく首を振っていればこんなことにならなかったのに』 村人の言葉には、同情すら無かった。 少女が手に入るという喜びと、少女が言う事を聞かない苛立ちしか浮かんでいない。 少女は親の身体を揺さぶりつづけていた。 小さな手が、血に濡れていく。 『俺達の…いや、神の物になれ。巫女となり、俺達を守れ』 その命令は、絶対であった。 少女の短い黒髪が、風になびく。 少女は小さく頷いた。 村人が満足そうに笑い、少女の手を引く。 その、少女の顔は……。 『…さん、セリオスさん。朝ですよ』 「……う……」 突然の声に、眠りから覚まされる。 「おはようございます。 今日は儀式の日なので、よろしければご同行くださいませんか?」 目の前の少女と、夢の中の少女の顔が、重なった。 後書 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。 ル「この村怪しい事だらけね」 ソ「セリオスの見た夢は、もしかして……」 セ「それにしても、今回は何を言いたかったんだろう?」 ル「うん。やけに『ルナは本当は』を連発してたじゃない」 *「セリオスは、ルナは戦いの中に身を置くべきじゃないって思ってるんだよ。多分」 ソ「多分ってなんだ。お前が書いてるんだろうが」 *「だってセリオス個性なくて書きにくい。っていうか幽霊より存在薄い」 セ「そ、そこまで言うか」 セ以外「うん」 セ「わーん!(ダッシュ)」 *「男って書きにくい…。女主人公にすればよかった(後悔)」 ル「セリオスー。まだ何か言われてるよー」 |
14976 | 金と銀の女神24 | 神無月遊芽 E-mail URL | 4/12-18:09 |
記事番号14889へのコメント 神無月です。 第二部終わりです〜vv 例によって3部が始まるまでちょっと間があると思いますが…まあこれ読んでくださってる方は気長な方々だと思いますので(汗) セリオスが大分明るくなりました。 **************************************** 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 24章 強さの意味 優しさの意味 silver 力に何の意味があるのかしら? 大切な人を傷つけるだけの私の力は…… 儀式が行われていた。 ここに来た日と同じ。村の真ん中の祭壇の上に巫女たちが集い、踊っていた。 アイセラは巫女たちの中心で、膝立ちになってただひたすらにじっとしている。 「アイセラさん…どうしたのかな?なんだか元気ないみたい…」 ルナが心配そうにアイセラを見つめる。 確かに今日のアイセラは元気が無かった。 顔は微かに青ざめ、不安そうにしている。 今朝の夢の事もあり、セリオスは心配でならなかった。 「…っセリオス、聞け」 ソードがいきなりそう言った。 セリオスが慌てて耳を澄ますと、今まで音楽や村の人々の騒音によって聞こえなかった儀式の言葉が聞こえてきた。 『……大地の巫女アイセラ・ティアリムは、この世界の安定がために生贄となれ』 「………はい」 「っ!?」 思わず飛び出しそうになる。 「何っ?一体…どういうこと!?」 ルナが戸惑いと怒りを隠せない様子でそう言う。 その時、近くの村人達がざわめきだした。 『……いやぁ、この混沌とした世界を救うには、巫女の生贄しかないですからな』 『まったく…だがアイセラ様を生贄とするのは少し惜しいのではないだろうか?』 『構いやしねえよ。どうせこんな時の為に育ててきたんだ。 どの道、魔物がいなくなればあいつの力もいらねえしな』 『そりゃそうだ!ガハハハハ!』 (……腐ってる) 考え方も、心も、腐っている。 一個人を自分達のために使い、捨てるというのか。 この人々は。 「……許せない」 ルナが拳を握り締めた。 その時、アイセラが祭壇から降りてこちらに向かってきた。 人々が左右にわかれて、人垣が出来る。 「皆さん、これから儀式の祭壇へ赴きます。よろしければ護衛になっていただけませんか?」 「え?」 その言葉に、村の人々が散り散りに自分達の家へ帰っていった。 「生贄となる巫女は、数人の護衛をつけて祭壇へ赴きます。 神の贄となる前に魔物にやられてはおしまいですから」 その微笑みは、少しぎこちなかった。 この少女は、こうなることを解っていたのだろうか。 人々に道具として育てられ、そして道具として捨てられることを。 幼い頃から、理解してしまっていたのだろうか。 「……いいだろう」 「ソードっ!?」 ソードの了承の言葉に、ルナが声をあげた。 「……では、ついてきてください」 それは、今まで見たアイセラの表情の中で、一番悲しそうな笑みだった。 「そろそろ教えてもらおうか」 ソードはそう言った。 今は儀式の祭壇へ赴いている最中。 森の中の長い道を歩いている時に、ソードが突然口を開いたのだ。 今まで真剣な面持ちで黙り込んでいたアイセラの表情が、明らかに動いた。 「……何を、ですか?」 白い巫女服をぎゅっと握り締めながら、やっとのことでそれだけを言う。 「それは、貴方が一番解ってるんじゃないですか?」 セリオスが追い討ちをかけるようにそう言った。 アイセラは唇を噛み締め、ただ黙り込んでいた。 「アイセラさん。教えてよ。 私、アイセラさんを死なせたくないし、アイセラさんのことを解ってあげたいよ」 少女の願いが届いたのか。 少女はゆっくりと口を開いた。 「私は、昔は普通の少女でした。 巫女でもありませんでしたし、幸せを背負う事を許されていました…―」 瞳が、空を見上げた。 幸せを許されない状態。それは、一体なんだろうか? 人は皆幸せになれる権利がある。価値をもっているのに。 「村も、普通の村でした。 極普通に仕事をやり、極普通に神を崇める。 私の両親だって……」 ―お前の力が欲しいんだよ― セリオスがふと、あの夢の欠片を思い出す。 「両親は、殺されてしまいました。私の為に。 私の持つ力の為に」 泣きそうな顔をしていた。 だが、決して涙は流れない。 ソードは静かに、ルナは見守るように。 そしてセリオスは、その瞳に自分を重ねていた。 「…ソードさん、目の前に来ていただけますか?」 「………ああ」 短く返事をして、言われた通りにする。 アイセラが、そっと瞳を閉じた。 「………ヒーリング」 「なっ!?」 三人から驚愕の声があがった。 アイセラの口から紡がれた言葉は魔力の流れとなり、ソードの身体を取り巻く。 そして一瞬にして、ソードの傷は癒されていた。 全治一週間だとアイセラ自身が診断した傷を、一瞬で。 「…私は、生まれながらにして癒しの術を持っていたんです」 回復呪文―。それは、事実上失われた魔法であった。 普通の魔法が、炎を発生させたり、身体能力を一時的に高めたりするのに対して、回復呪文は魔力によって身体を癒す呪文。 論理的には同じでも、性質的には全く違う分野の呪文なのだ。 一部の学者達の間では『時を操り、身体を癒している』とも言われるほどに凄い魔法であり、また、それにともない、呪文制御による疲労や使う魔力もバカにならなかった。 しかも回復呪文の文献は殆ど残っておらず、大きな王国に一冊あるかないかほど。 ある大陸一の魔導師が回復呪文を試してみたところ、呪文の制御が出来ず死んでしまったという話だ。 もちろん並の魔導師では制御どころか魔法を使うことすら出来ない。 そんな魔法を、生まれながらにして持っていたというのか。 この少女が―。 「皆さんが知っているとおり、魔物はここ数年で発生しましたが、私がまだ幼い頃父が魔物に襲われて怪我を負ってしまいました。 その時、私の能力を知ったんです。 ……もちろん、村の人々も」 (そして、夢の話へと続くのか) これで納得が言った。アイセラの悲しい瞳も、村人達の態度の理由も。 癒しの力を持つ少女。そんな者がいたら、心無き人々はまず手に入れようとするだろう。 いや、心正しき人々ですら、その力に惑わされるかもしれない。 昨日の祭りで、皆が村人の顔を全て憶えていないのもなんとなく理解できた。 力を手に入れて、うぬぼれて、自分以外のものはどうでもよくなったんだ。 そして村人達はアイセラを自分達に都合のいい巫女にしたてあげ、怪我や病気を治してもらい、そして最後には生贄として捨てようとした―。 …生贄にしようとしたのは、セリオス達が来た時にアイセラに反抗心の欠片を見つけたせいかもしれない。 「ひどい…ひどいよ……」 ルナが口を抑えた。 涙と嗚咽がとまらないのだ。 「この魔物が闊歩する世界、癒しの魔法を独占していれば確かに安全だろうからな。 そのために、自分達の村に縛り付けていたわけか」 「……」 アイセラは、何も言わない。 ただ、寂しさの混じる笑みを浮かべるだけ。 この少女は、どれだけ苦しんできたのだろう。 どれほどの孤独を味わったのだろう。 どれほど、悲しみを植え付けられたのだろう。 (……僕の周りには、悲劇の主人公ばかりが集まるな) セリオスが苦笑する。 そして自分も、その一人。 「…アイセラさん、一緒においでよ」 唐突に、ルナが口を開いた。 「ルナさん…?」 「私、正義を振り回すつもりはないけどそんなの間違ってる! 利用するだけ利用してあとは生贄だなんてひどすぎるよ! それに、さっきも言ったけどアイセラさんに死んでほしくなんてないよ!!」 戸惑ったようなアイセラに、ルナが一気に喋った。 その純真無垢な瞳から涙がぽろぽろと零れる。 「誰だって……生きる権利も、自由になる権利もあるんだよ……」 「ルナさん…」 戸惑いながらも、嬉しさを露にするアイセラ。 「……ルナが言うなら、その通りなのだろう。 どうする?俺達と一緒に来るか?」 「ソードさん…」 無口な彼の励ましの言葉。 セリオスもこくりと頷くと、アイセラに手を差し伸べた。 「僕達、旅の途中だけど、アイセラさんを守ることくらい出来るし、旅が嫌だったら、アイセラさんをちゃんと大切に扱ってくれる人のところに連れて行きたいと思う。 よければ、僕達と一緒に来てくれないか……?」 「皆さん……」 アイセラはそっと、手を伸ばした。 (やっぱりセリオスは勇者なんだね) ルナはふと思った。 自分でも気付かないうちに強くなって 自分でも気付かない内に人に勇気を与える事が出来る人 彼の妹が 彼に生きる勇気をもらったように 私が 彼に光を覚えたように… 「へへっ。村の人達の顔が目に浮かぶね」 生贄になったと思ったら、姿を忽然と消しているのだから。 アイセラもつられてくすくすと笑うと、セリオスに視線を戻した。 「足手まといになってしまうかもしれませんが、私を、連れて行ってください…―」 そして、一行はエルア国への船路に出た。 「やっと…ここまで来たんだ」 澱んだ風を感じながら、セリオスはそっと瞳を閉じた。 憧れだけで旅立った日。 ルシェルに出会った日。 天使と魔族のことに気付いた日。 レイラが死んだ日。 サリラの決意。クロスの夢。 ルナやソード、アイセラとの出会い。 そして…… 「アリア…」 「恋人の名前ですか?」 「っ!?」 ふと口にした言葉に、問いが返された。 「アイセラ…」 そこには優しく微笑んだアイセラがいた。 ちなみに、服はもう着替えている。実はセリオス達がこっそり村から服を持ってきたのだ。 「ルナさんから聞きました」 セリオスが苦笑いをする。 いつか話さなくてはいけないと思っていたのに、こうも早く知られてしまうとは。 「…ああ。大切な人…だったのかな」 どう言えばいいのだろう。 彼女を想っている心に変わりはない。 だが、それを認めてしまえば…。 「私ね、泣けなかったんです」 「…?」 アイセラがいきなり話し出した言葉に、セリオスが戸惑う。 「昔は泣き虫で、よくお母さんのところで泣いていたのに、今は泣こうと思っても泣けない…」 悲しい現実に負けてはだめだと自分に言い聞かせて。 その結果は 「セリオスさんは泣ける場所がないんです。私と同じで。 妹さんもアリアさんも失ってしまったから。 でも、涙は悲しみを和らげるためにある。 出来るなら、泣いて欲しい―」 淡々と話すアイセラの言葉が、胸の中に染み渡る。 「私は、貴方方についてきたことを後悔していません。 …確かに、世界を救う旅だと聞いたときは驚きましたけど…後悔なんて欠片もないんです。 ですから、セリオスさんも後悔しない生き方を選んでください」 それだけ言うと、アイセラは船室に戻っていってしまった。 セリオスはふうと溜息と吐くと、頭の中でアイセラの言葉を繰り返した。 「後悔しない生き方…か」 そう。僕がこの旅で見つけた答えを貫くのなら、彼女と敵として出会うのは必須。 だけど、決して後悔したくない。 「ルナ。君が言いたかったのはこのことなんだね」 傷を乗り越えて。そこに少しだけ強くなれた自分がいるから。 「乗り越えられたとは思わないけど、もう悩まないよ。 皆に教えてもらった」 その時、ふと思った。 「ソードは、一体どんな過去を背負っているんだろう」 聞かされたこともないし、聞こうともしなかった。 彼がいずれ話してくれると思ったから。 「……」 セリオスはその思考を止めて、また瞳を閉じた。 僕の為に。 皆の為に。 僕が勇者とは思えないけれど 僕が正義だなんて思えないし それを振りかざしたくもないけど 僕は僕の信念を貫き通すだけ そしてその信念の先に 世界の平和があるだけ 僕は不思議な力を持っているけど 大切な人を守りたいから 強くなっただけ 強さと弱さ。恐怖と悲しみ。そして、痛みと優しさを胸に抱いて。 空がどんどん暗くなっていく。 船は順調に、エルア大陸へ進んでいた…―。 第2部 痛みと優しさ 了 後書 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。ア=アイセラ(今回からアイセラが後書に出ます) *「いやー。2部が終わった終わった」 ル「一応お疲れ様」 *「(一応?)ま、とりあえず、アイセラ自己紹介」 ア「ええと、アイセラと申します。巫女をやっております。よろしくお願いします」 ソ「…俺達の時には自己紹介などさせなかったくせに」 *「だってアイセラが登場が遅いんだから少しサービスしないと」 ル「一応3部で終わりなのよね?」 *「うんっ。3部はエルア国でのエピソードと、決戦だよ!」 ソ「ところで結局俺の過去が登場しなかったが…」 *「え?…いや、それは3部で」 ソ「…」 ア「では、3部もよろしくお願いしますね」 ア以外「あっおいしいとこ持ってかれた!」 セ「……あれ?僕が一言も喋ってない…」 ちなみに今回の街の名前 トゥルー・ダルク 大陸の名前だけどね。意味はまんま『真実の闇』 大陸が闇に覆われてからつけられた名前ですが、誰がつけたかは不明。 元の名前は知らない(おい)ルナ達を登場させるためだけに出したとこだから、設定も何もない(爆) 小さな大陸で、村も2,3つしかない(多分) ホールの村 ホーリーからとりました。それだけ。 |
14985 | 金と銀の女神番外3 | 神無月遊芽 E-mail URL | 4/14-22:48 |
記事番号14976へのコメント 神無月です。 またも番外編(笑) 本編はもう暫くお待ちください。 **************************************** いつまでも一緒にいたいと。 そう願っていたのに。 いつのまに、運命は狂っていたのかしら。 …いえ、貴方に恋焦がれていた私こそ、狂っていたんだわ…… 金と銀の女神 〜世界が始まるとき〜 第二部番外編2 ARIA〜届かない歌〜 銀色の闇。 見慣れた景色。 でもどこか違う。 心の中の闇。 「解らないわ…」 魔族の女神、アリアの瞳に浮かぶは、困惑。 彼女は一時人間と共にいた。『勇者』と呼ばれる存在を確認し、また、抹殺するために。 だが、能力や記憶を全て奪われた状態で旅を共にしていた。 そのまま勇者達にとりいっても、魔族であることがバレると思ったから。 魔族になれば人間の時の記憶を共有できるのだが、人間の時には魔封じの石というアイテムで彼女の魔性を封じ、記憶を奪っていた。 そのアイテムが壊れたのは二度。 一度目は、クレスト城城下町で。 突然倒れ伏し、セリオス達が鉱山へ行っている間に壊れ、魔族に戻った。 この時はさらわれたのだという設定にし、勇者を殺そうとしたが、失敗。 二度目は礼拝堂で。 他の魔族に石を壊され、勇者の前で魔の姿をさらすこととなった。 正体を知られてしまったため、くだらない茶番はやめて、それ以来勇者達の前には姿を見せていない。 勇者達は今エルア大陸へ向かっている。 そう”魔界へ繋がる道がある”エルア大陸へ。 その時に魔族達で総攻撃をしかけるという作戦が今持ち上がっている。 だが。 「何故…迷う。アリア・ルーン・アヴィスよ…」 彼女の誤算は2つ。 一つは、人間であった時の自分が勇者に想いを抱いた事。 もう一つ。魔族に戻っても”人間の時の記憶が共有”出来る事。 そのため、彼女は理解すら出来ない感情と記憶を胸に抱いているのだ。 魔族になったが故、人間の感情など理解できない。 だが、記憶を共有するが故に理解できない感情にさいなまれる。 「くっ…」 ぎりぎりとその柔らかな唇を噛み締める。 「アリア様」 その時後ろに気配が現れた。 アリアは振り向きもせず、口を開く。 「アマルズ。用意は整ったか?」 「…はっ」 赤茶の髪が揺れる。 「では、勇者達がエルア国に到着次第、魔物の軍勢を連れて襲撃しろ。 貴様は勇者達と戦え」 「……かしこまりました」 アリアが振り向いていれば、アマルズが苦々しい表情をしているのが解っただろう。 だが、彼女は何も見ていなかった。 自分すら。 アマルズは一礼すると、すっと闇に掻き消えた。 「…バカバカしい」 アリアが髪をかきあげる。 豊かな白銀の髪が舞い上がる。 「何を迷う必要がある。我が望むは一族の願い。 父の無念を晴らすこと。それが奈落の歌姫たる我の使命。 天使からの解放、自由、そして、全ての破壊…」 全ての破壊。 それはきっと、世界の事を指すのではなく。 天使の事を指すのではなく。 おそらくは…。 「―――――…」 美しい歌声が、闇の中に溶けていく。 悲しい旋律は、愛の詠唱(うた)は、誰にも届かない。 そう、誰にも…―。 **************************************** アリアの独白でした。 彼女は実は魔族の時のほうが好きだったりします(笑) |