◆−赤く染まった雪(ゼルアメ)−たまにはご挨拶−PZWORKS(5/13-18:11)No.15382
 ┣赤く染まった雪(ゼルアメ)−本編−PZWORKS(5/13-18:17)No.15383
 ┃┣あー、驚いた。−みてい(5/13-18:57)No.15385
 ┃┃┗Re:お久しぶりです−PZWORKS(5/13-22:46)No.15392
 ┃┗すごいっす−たつき(5/14-10:35)No.15399
 ┃ ┗初めまして−PZWORKS(5/14-22:04)No.15408
 ┗赤く染まった雪(ゼルアメ)−あとがきといいわけ−PZWORKS(5/13-18:38)No.15384


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15382赤く染まった雪(ゼルアメ)−たまにはご挨拶PZWORKS URL5/13-18:11


めずらしくこんにちは。PZWORKSです。

今回は初のオリキャラ付き作品をお持ちしました。
これで大手を振って『読みまくれ!大辞典』に登録できるってモンです。(^o^)/

タイトルからもわかる通り、まったくの季節はずれ(しかもストック品だったりする)なのですが、まぁ、ヒマつぶしにでも読んでやってください。

PZWORKS-Homepageをリニューアルしました。
以前の投げやりなデザインをどーにかこーにか見られるものに変えましたので、遊びにいらしてくださると嬉しいです。
ああっ、しかし未だにバグがある…。(場所は内緒)

作品&HPリニューアルのご感想、お待ちしています。

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15383赤く染まった雪(ゼルアメ)−本編PZWORKS URL5/13-18:17
記事番号15382へのコメント


ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。

たっぷりと降り積もった雪の中、歩調を早める人影があった。

空は晴れ渡り、空気は澄み切っている。天頂からは、すばるが蒼い光を放っていた。

夜だというのに辺りは薄明るい。雪明かりが先を急ぐ人の行く先を照らしている。

人影は空を見上げ、独りごちた。

「やれやれ。思ったより進むのに手間取ってしまったな」

天頂の星を見上げるその目は、すばると同じに蒼かった。人ならぬ肌は青黒く、白い着衣に映えている。

彼の名は、ゼルガディス・グレイワーズ。体をロックゴーレム、ブロウデーモンと合成された、キメラの青年である。

「もうそろそろ山小屋に行き着くはずなんだが…」

彼の呟きに応えるように、前方にちらちらと赤い灯火が現れた。山小屋にともる明かりに違いない。

前にもまして、彼は足の運びを早めた。


バタン!

不意に扉が開かれた。と、そこには白づくめの青年が佇んでいた。

青年は土間で、雪靴から丹念に雪を払い落とし、防寒具を脱いで壁にかけた。そして腰のブロードソードをはずす。

「邪魔するぞ」

無愛想にそれだけ言うと、靴を脱いで板の間に上がり、ちろちろ燃えるいろりの側に座り込む。

金属の髪、岩の肌。

尋常でないその姿に、少年は気後れして隣の女性にぴったりとくっついた。が、

「デニー、ご挨拶は?」

促され、少年はぐっと息を吸い込むと視線を青年にあわせた。

「こ、こんばんは。えっと、僕、デニー・ウルバです」

「ゼルガディス・グレイワーズだ」

デニーの鳶色の瞳を受け止めると、青年は言った。

「デニーの母のマリアです」

そう言って、手を差し出す女性。彼女の腹部は大きく突き出ている。

ゼルガディスは何も言わず、差し出された手を握りかえした。そのまま黙り込み、燃える炎を見つめる。

ゆれる炎に反射して、髪がきらきら輝いていた。

(なんだか、本の中から出てきたみたいな人だなあ)

ゼルガディスの容貌は人を畏怖させるのが常だったが、少年は半ばうっとりと彼を見つめた。

母も興味を抱いたらしい。決して人好きがするとは言い難い、その闖入者(ちんにゅうしゃ)に声をかけた。

「何もお聞きにならないんですのね」

おそらくは、身重の体で旅をする理由を今までいやというほど尋ねられてきたのだろう。

「あんただって、何も聞かないだろう」

素っ気ないいらえだったが、マリアは気を悪くする風でもなく、くすっと笑った。

「それはそうなんですが…いつもいつも同じ質問をされるものですから。黙っていられると逆に落ち着きません」

ぱっと見は地味な印象の彼女だったが、笑顔には野の花が開いた様な魅力があった。彼女は言った。

「この山小屋、食料やお茶が備えてあるんです。何か召し上がりますか?」

「いや…少し眠らせてもらうよ。夜が明け次第、出発する予定なんでね」

「そうですか…。それじゃ、おやすみなさい」

いつのまにか、デニーもマリアの膝で眠り込んでいる。

ゼルガディスは軽くうなずくと、備え付けの毛布にくるまり、壁に背を預けた。

そして、あっという間に眠りに引き込まれていった。

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赤い法衣。

赤い法衣を着た男が雪の中に立ち尽くしている。

雪に垂らした血のひとしずくの様に。

男は何か呪文のような言葉を呟いている。と、見る見るうちに雪に赤い魔法陣が描かれた。

魔法陣から這い出してくる奴がいる。

そいつは、黄昏よりも暗きもの。血の流れよりも赤きもの。

ゼルガディスは男に向かって叫んだ。

ダメだ!そいつを蘇らせてはダメだ!

だが、振り返ったその男の顔をみて、愕然とした。

険のある蒼い瞳。岩で出来た青黒い肌。輝く金属の髪。

それは、ゼルガディス自身だった。


「う、ううっ」

「ゼルガディスさん、ゼルガディスさん!」

「うう、うああっ!」

目を覚まして最初に視界に入ったのは、いろりに残ったわずかな種火が照らす、マリアの亜麻色の髪だった。

「大丈夫ですか?」

マリアが水の入ったコップを渡してくれる。受け取ると、ゼルガディスは一気に飲み干した。

「ひどく…うなされてました」

「すまない。起こしてしまったか」

マリアはかぶりを振った。荒れ狂う風が、雪のつぶてを窓にうちつけている。気温が随分下がってきたようだ。

「雪のせいか…酷い夢を見たものだ」

ゼルガディスはため息をついた。そして、もの問いたげな彼女に言った。

「俺の肉親にひどい奴がいたんだ。そいつはもう生きてはいないが…未だに俺を苦しめる。夢の中で」

ゼルガディスは両手で顔を覆った。

あれは彼のただ1人の肉親、赤法師レゾだったのか?それとも彼自身だったのか?

夢の記憶は曖昧になってゆき、やがて彼の中から消え去りつつあった。

ただ、鼻の頭がぴりぴりする様な危機感だけが、ゼルガディスの意識に残っていた。

「聞いても楽しい話じゃなかったな」

「そんな顔しないで…イヤな思い出くらい、誰にだってあるわ」

慰めるというより、いさめる様な口調でマリアは言った。彼女はお腹に手を当てて呟いた。

「この子のお父さんね…誰だかわからないの」

ゼルガディスはぎょっとしてマリアを見た。そして片手をあげると、言葉を継ごうとする彼女を制した。

が、マリアはかまわず語り続ける。

「そう、乱暴されたのよ。…何人もの男にね。そして、亡くなった主人の実家にはどうしても居辛くなった」

小さなコップから水があふれる様に、一気に語る彼女。

「汚れた、と感じながら生き続けるのは辛かった。元のきれいな体に戻れたら、と何度も思ったわ。汚れたと感じている私こそが本当の私なのに…。ばかみたい」

涙に光る瞳をゼルガディスに向け、彼女は微笑んだ。

「でも、不思議と、死ぬ事だけは考えなかった。だってそうでしょう?私は今、生きてるんだもの。生きてれば良いこともあるわ。それに…」

マリアは言葉を切り、傍らで寝息をたてる息子に目をやった。

「私にはデニーがいる。…そして、この子もね」

じっと耳を傾けているゼルガディスに気づき、マリアは赤面して涙をぬぐった。

「ごめんなさい。説教くさいわね、こんな話」

マリアは小柄で、特に目を引く容姿でもなかったが、踏まれても、踏まれても立ち上がってくる芯の強さと、生き抜いていく賢明さを内に秘めていた。

それは明らかにゼルガディスにはないものだった。ゼルガディスは、目の前で淡々と語る彼女に圧倒的な強さを感じていた。

「女は子供を持つと、皆そんなに強くなるのか?…かなわないな」

「イ、イヤね。からかわないで」

マリアは苦笑した。その顔がみるみるうちに苦悶の表情に変わっていく。

「…い、いたっ!」

「どうした?」

見ると、マリアの腰もとあたりが赤く染まっている。赤い部分は次第に広がりつつあった。

彼女は顔色を蒼白にし、ゼルガディスの腕を掴んで握りしめ、必死に痛みをこらえていた。

踏みつけられた野の花のように。

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ここはセイルーン王宮の会議室。

「金品や何かの様に、このアメリアを賞品にするなんてっ!王族に対する不敬罪と見なしますよ!」

アメリアの怒号が、居並ぶ大臣達の耳を打った。大臣達は顔を見合わせ、落胆のため息をついた。どの顔にもこう書いてある。

(また、ダメか。アメリア様にも困ったものだ…)

利かん気そうな口元をこわばらせるとアメリアは椅子を蹴って立ち上がり、ドレスの裾をひるがえして会議室を出ていった。

慌ててフィリオネル王子が後を追う。王子の退出は事実上会議の終わりを告げ、大臣達は皆解散してゆく。

「何が、近隣の国々の剛の者を集めた武術トーナメントですか! つまりは私の結婚相手の物色じゃないですか!」

ふくれっ面で廊下をどすどす歩きながら、アメリアは憤懣やるかたない気持ちをぶちまけた。

その横でフィリオネル王子は困り切った顔をしていた。

愛娘の肩をもちたいのはやまやまだが、大臣達の主張も理にかなっている。正に板挟みの状態だったのだ。

「その他にも、近隣の国々の王族貴族を集めたダンスパーティだの、カラオケ大会だの、ねるとん大会だのっ!」

「まあまあ、アメリア。大臣達はお前が心配なんじゃよ。その気持ちも汲んでやらんと、のう?」

「タリム大臣達が心配してるのは私じゃありません。あの人達が気がかりなのは、セイルーン第2王女のことです」

王子は返す言葉に詰まり、渋面で傍らの娘を見やった。

17歳になったアメリアは少女から大人への階段をのぼっている最中だった。

表情にあどけなさを残しながらも、手足がすらりと伸び、声には幾分かの気品を含んでいる。

大国セイルーンの第3王位継承者という身分だけでなく、その姿にひかれて各国からは縁談話が引きも切らず、いつまでも断り続けているわけにはいかないのも事実だった。

「…しかし、その様に頑なに拒まんでも良かろうに。おぬし、まさか心に決めた男でもおるのか?」

今度はアメリアが返す言葉に詰まる番だった。彼女は咄嗟に、どこにいるとも知れないキメラの青年のことを思った。

だが、その思いは乙女にとって大切でありすぎた。誰よりも信頼する父にでさえ、告げることはできなかった。

返事の代わりに頬を紅潮させると、アメリアは黙り込んだ。

あまりにわかりやすいその反応に、フィリオネル王子は嘆息した。そして、ぽんと娘の肩をたたくと、その場を歩み去った。

「父さん…」

大きな背中を見送りながら、アメリアは父の包容力に感謝した。

辺りに漂う冷気に気づき、彼女はぶるっと体を震わせた。いつのまにか雪が降り出していた。

(ゼルガディスさんも、どこか雪の中を旅しているのかな…)

手を差しだして舞い落ちる雪をうけとめると、雪片はあっという間に淡くとけて消えた。

それは、今の彼女の不安定な立場を暗示しているかのようだった。

---------------------------------------------------------------------

「マリア、マリア!」

「…………」

マリアの目は空ろで、さっきまでゼルガディスの腕に爪を立てかねなかった手は、今は力なく投げ出されていた。

ゼルガディスは窓の外を見やった。今や本格的に暴れだした吹雪が、辺りに猛威を振るっている。

状況を考えれば、彼の為すべきことは1つだ。が、さすがにゼルガディスは躊躇した。

『私は今、生きてるんだもの。生きてれば良いこともあるわ』

彼ははっとマリアを振り返った。彼女の顔には迫りくる死の影が見えつつあった。

ゼルガディスは決断した。生への念を持ち続ける彼女を見殺しにすることは出来なかった。

結局、その力量を持つものが事の解決にあたる。世の中はその様に仕組まれているのだ。

彼はいろりに屈み込んだ。種火はもう燃え尽きかけている。

「ファイアーボール」

かなり力を加減して囁くように呪文を唱える。あっという間に勢いよく炎が燃え出した。

「デニー、起きろ」

ゼルガディスは少年を揺さぶった。どうしても、自分以外に手が必要だ。

「……」

少年は寝ぼけまなこで起き上がり、目の前の青年を見た。銀色の髪が眩しい。

「お前の母さんが赤ん坊を産むらしい。俺がなんとか母さんを手助けするから、お前も手伝え」

「…うん、わかったよ。ブルーデスティニー」

「…何だって?」

デニーはちょっと頬をふくらませると言った。

「ブルーデスティニーだよ。お兄ちゃん、似てる。かっこいいんだ」

「………」

最後の一言は聞かなかったことにして、ゼルガディスは早速少年に指示を出した。

「いいか。どこかに納戸があるはずだ。そこを探してありったけの布を持ってこい」

少年はまじめな顔で聞いている。ゼルガディスは続けた。

「ついでに、バケツかたらいか、とにかく水を汲めそうな容器を探せ。なるべく大きいやつだ」

少年は今や完全に目が覚めたらしい。大きくうなずくと、せまい廊下に駆け出していった。

ゼルガディスは荷物から小瓶を取り出した。中には鎮痛効果のある香草を精製して作った香油が入っている。

彼はそれをいろりの火に一滴垂らした。清々しい香りがその場を満たす。が、その香りの中でゼルガディスは我知らず眉を曇らせていた。

(…だが、本当に俺に出来るだろうか?)

レゾからは白魔術とは別に、人間の体について一通りの知識を授けられている。

だが、それはあくまでも知識であり、ましてや出産の実地経験などありはしない。

小瓶をしまおうと荷物を探る彼の足元に、ころりとこぼれ出たものがあった。

セイルーンの象徴である六芒星が封じ込まれた青い宝珠に、ピンク色のリストバンドがついている。

それはあの日、アメリアからもらったアミュレットだった。ゼルガディスはそれを拾い上げ、握りしめた。

『心配いりません!案ずるより産むが易し、ってね!』

彼女の声が聞こえたような気がした。


ゼルガディスはマリアに向き直ると、細心の注意を払いながら彼女を抱き上げ、粗末な寝具の上に横たえた。

そして、耳元で呼びかける。

「マリア…、マリア、わかるか?」

彼女はうっすらと目を開いた。ゼルガディスはほっと胸をなでおろすと言った。

「マリア、出産予定日はいつだ?」

「…今…8ヶ月よ…」

(早産か…)

彼は胸に去来する不安を押し隠し、マリアに話しかけた。

「いいか、俺がお前のお産を手助けする。イヤかもしれんが、他に人がいないんだ。だから、殴ったりするなよ」

「…えっ…」

「既に破水してるだろう?」

マリアは目をぱちくりさせて、うなずいた。若い男の口から産婦人科の専門用語が出るとは思わなかったらしい。

「このまま朝まで陣痛が来ないようなら、医者に使いを出そう」

言いながら彼は、彼女の手にアミュレットを握らせる。マリアが、何か言いたそうに口を動かした。それを遮り、ゼルガディスは言った。

「まあ、安産のお守り、って所だ」

マリアは微笑んだ。彼女の微笑は見るものをほっとさせる温かさがあった。彼女がなおも口を開こうとするのを彼は押しとどめた。

「無理してしゃべるな。体力を温存しておけ」

「…あ、あぅっ、いたっ…!」

いよいよ始まったようだ。苦しむマリアの汗を拭いながら、彼は小さく呟いた。

「せっかちな子だな」

そこにデニーが駆け込んできた。山盛りのタオルが入った大きな金だらいを抱えている。

「持ってきたよ、ブルーデスティニー!」

「よし。良くやった」

誉められてデニーは相好を崩した。ゼルガディスは言った。

「次は、酒を探してこい」

少年はきょとんとした。

「赤ちゃん、お酒を飲むの?」

「俺が飲むんだ」

デニーは再び走り去った。

傍らでは、マリアが断続的に襲いくる苦痛に耐えながら歯を食いしばっていた。

この状況を素面(しらふ)でやり過ごすことなど、ゼルガディスには出来そうになかったのだ。

---------------------------------------------------------------------

「ああああーーーっ!」

マリアの絶叫とともに、ずるり、と赤ん坊がこの世に現れ出た。

すかさず抱き取ると炎であぶったナイフで注意深くへその緒を断ち切り、産湯をつかわせる。

そこで、彼は不安に襲われた。赤ん坊が産声を上げないのだ。赤ん坊の顔を覗き込む。

その瞳は赤く彩られていた。赤ん坊の視線に射すくめられ、目眩に襲われる。一瞬の後、彼は無音の暗闇に放り出されていた。

赤ん坊がふわふわと空中を漂っている。どこからともなく声が響いてきた。

「…惑う者よ…」

ゼルガディスは耳をそばだてた。声は、赤ん坊から発せられているようだった。

「惑う者よ。…己の真実を見失いし者よ。汝に問う」

「な、何者だ!」

彼の問いに耳を貸さず、声の主――赤目の怪人は言葉を続けた。

「元の体に戻ることを、未だ望むか?」

「…当たり前だ」

声の主はわずかに目を細めた。笑っているらしい。

次の瞬間、赤い視線がゼルガディスを刺し貫いた。彼の脳裏には映像が鮮やかに描き出される。

心に直接呼びかけているのだ。彼はその映像を、固唾を飲んで見守った。


荒れ狂う吹雪の中、ゼルガディスが呪文を唱えている。呪文詠唱が終わると同時に、雪面に魔法陣が現れた。

血で描かれたかのように、魔法陣は真っ赤だ。

魔法陣完成と同時に、地鳴りのような音が鳴り響いた。世界が震撼してでもいるかのようだ。

映像の中のゼルガディスは新たな呪文の詠唱に入っていた。

「――悪夢の王の一片よ。
       世界の戒め解き放たれし、凍れる黒き虚無の刃よ…」

彼の目は、魔法陣の中で蠢いているものに向けられていた。ルビー・アイを持つ、世界最強の魔王に。

「我が力、我が身となりて、共に滅びの道を歩まん。
       神々の魂すらも打ち砕き!
               ―――――――――ラグナ・ブレード!!」


映像は途切れた。入れ替わりに、赤目の怪人の声が心の中に響く。

「己のためなら世界が滅びの危機に瀕しようとも頓着せぬか…全く、血は争えぬわ」

自嘲を含んだその口調に注意を払うゆとりもなく、ただゼルガディスは言葉を失っていた。

魔王シャブラニグドゥを復活させ、戦いを挑む自分。それは、さっき見た夢と符号していた。

そして、あれ程憎んだ彼の肉親、赤法師レゾの選んだ道とも。

そんな彼に、声は冷たく言葉を浴びせた。

「もう一度問う。元の体に戻ることを、未だ望むか?」

「…答える必要はない」

「意固地な。…だが、何としようと赤く染まった雪は純白に戻りはせぬ。なれぬものにこそなりたがる愚に、かの魔王がつけこむのだ」

ゼルガディスが震える唇を動かしかけた時、再び目眩が彼を襲った。目眩の中で聞こえる声は、どこかで聞いた事があるような気がした。

「惑う者よ。心の内なる声に耳を傾けよ。…どう生きるも、全てお前次第……」


彼は泣き喚く赤ん坊を腕に抱き、突っ立っていた。

慌ててその顔を覗き込む。涙をぽろぽろ流すその瞳は、デニーと同じ鳶色だった。

ゼルガディスは赤ん坊をそっとマリアに抱かせてやった。そして言った。

「ちょっと小さめだが、元気な男の子だ。おめでとう」

隣室に遠ざけられていたデニーが駆け込んでくる。

喜びにあふれた表情の母を見て緊張が一気にとけたのか、少年はうつむいて泣き出した。

泣きながら、デニーはゼルガディスの足にしがみつく。

「泣くやつがあるか」

「僕、将来はお医者になるよ…。ゼルガディスさんみたいな…」

俺は医者じゃない、そう言いかけて彼は薄く笑った。

「ああ。そうしてもらえると、助かるな」

言いながらも、ゼルガディスはあの赤目の怪人のことを考えていた。

『元の体に戻ることを、未だ望むか?』

そしてあの映像――雪面に描いた魔法陣から魔王シャブラニグドゥを復活させ、倒そうとする自分。

しばしの思考の後、彼は低く呟いた。

「…そういうこと、なのか?……レゾ…」


いつのまにか吹雪は止み、朝が訪れた。

雪の結晶が日の光を跳ね返し、雪面は空を映してブルーに染まる。

世界はまばゆい太陽にその姿をさらけ出そうとしていた。


「ブルーデスティニー、行っちゃうの?」

「ああ」

出で立ちを整えながらゼルガディスはうなずいた。アミュレットを手にとり、大切そうにしまい込む。その姿を眺めながらデニーは言った。

「そのお守りくれたの、どんな人?」

「…なっ?」

「母さんが言ってたんだ。あんなに大事そうにして、きっといい人にもらったのに違いない、って」

「………」

「ねえ、いい人って何?」

「うるさいっ」


「ゼルガディスさん、お願いがあるんです」

マリアが声をかけてきた。彼女は腕で眠る愛児を見やった。

「この子を…ゼルガディスと名づけてもかまいませんか?」

「…そんな名じゃ、ろくな子に育たんぞ」

「そんなこと、おっしゃらないで下さい!」

マリアは珍しく語調を荒げた。

「自覚してらっしゃらないようだけど…あなたには、人にない力があります。事を為し遂げる、という力が。そんな風にうつむいていないで、自信を持ってください」

言ってから、マリアは顔を赤らめた。

「あら、や、やだ。私ったら説教くさいことを…。ごめんなさい」

ゼルガディスは彼女の言葉に呆気に取られていたが、やがてくっくっと笑い出した。

「わかった。肝に銘じておく」

「お世話になりました」

かみしめるようにそう言うと、マリアは腕の中の“ゼルガディス”の額に口づけた。

「…こちらこそ、あんたには世話になった」

ゼルガディスは目の前の小柄な女性を見つめた。

己の運命を真っ正面から受け止め、強姦の末に出来た子を慈しんで育てようとする女性。

確かにこれも、強さの1つのかたちだった。

「えっ?」

マリアの不思議そうな声を背に、彼は言った。

「じゃあな」

そして、新雪がはじく日の光に目を細めながらも、足を前に踏み出した。

キメラの青年は、己の真実を見出すため、再び旅立っていった。

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(完)

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15385あー、驚いた。みてい 5/13-18:57
記事番号15383へのコメント

みていでございます。お久しぶりです。

タイトルの『赤く染まった雪』でまさか死に物っ!?とびくびくしながら読ませていただいたのですが。

あ〜、そういうことだったんですかぁ(安心)
ゼルの葛藤と、一組の親子と、アメリア。
突然襲ってくる(という表現が正しいのかわかりませんが)『赤目の怪人』がものすごい存在感です。
『ブルーディスティニー』…絵本にありそうですね。「雪の日、扉を開けたら立っていた」とかいう冒頭で。
そして何より、マリアさん。
『母は強し』と何かの折に聞いたことがありますが、う〜ん。
ちっちゃいゼルガディスはこれからどんな人生歩むんでしょう。親子に祝福あれv

で、ゼルが早くセイルーンへ行けることを祈りつつってかんじです。
この縁で何か気がついたようですし。


ではでは、まとまりがまったくありませんがみていでございました。

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15392Re:お久しぶりですPZWORKS URL5/13-22:46
記事番号15385へのコメント

PZWORKSです。
みていさん、お久しぶりです&レスどうもです。m(__)m

>タイトルの『赤く染まった雪』でまさか死に物っ!?とびくびくしながら読ませて>いただいたのですが。
ちょっち、物騒なタイトルでしたね。(気づかなかった)
驚かせてすみません。

>で、ゼルが早くセイルーンへ行けることを祈りつつってかんじです。
彼は間接的にマリアさんに「ばかみたい」と言われているのですが(笑)
気づいたんでしょーか。

なんか、さんざんゼルをいじめまくっているPZですが、決して嫌っているのではありません。部下にしたい程好きです。(変な例え)

それでは、また。

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15399すごいっすたつき 5/14-10:35
記事番号15383へのコメント


 初めまして。最近こちらにちょくちょく通っては読みあさっております、たつきです。
 まず一言。ゼルさん凄いです。かっこいいです。最初読んだ時はびっくりしましたが、感動しました。

 これからもがんばってください。

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15408初めましてPZWORKS URL5/14-22:04
記事番号15399へのコメント

こんばんは、PZWORKSです。
たつきさん、初めまして&レスどうもです。m(__)mぺこり

>最初読んだ時はびっくりしましたが、感動しました。
その一言が聞きたくて、小説(つーか駄文)を書いてるのかもしれません。
どうもありがとうございます。

> これからもがんばってください。
そーだぞ、ゼル。しっかりがんばらないと。
…あ、がんばるのは私か。(笑)

それでは、また。

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15384赤く染まった雪(ゼルアメ)−あとがきといいわけPZWORKS URL5/13-18:38
記事番号15382へのコメント

ほとんど思い付きだけで書いたような本作品ですが、その割に重要なファクターを多く含んでまして、一筋縄ではいかんかったです。
一筋縄ではいかないというのは、毎度お決まりの『既存の仕様との共存を図る』というところですね。
が、本作品はわりと言いたいことをストレートに表現してる方だと思います。
その役割を一手に担っているのがマリアでしょう。
彼女のセリフは全て、私がゼルガディスに言いたい言葉とイコールです。
ここまで描写が自由な所以は、やはりオリキャラだから、でしょうね。

さて。長くなる前に退散します。
それでは、また。