◆−どいつもこいつも(ノーカップリング)−ねんねこ (2001/9/26 13:37:54) No.17264
 ┣わがまま言ってすみませんでした(汗)−久遠安宿 (2001/9/26 16:52:53) No.17265
 ┃┗いえいえそんなことないですにょ。−ねんねこ (2001/10/3 11:30:25) No.17369
 ┗素晴らし過ぎます!−風林みつき (2001/9/26 22:45:19) No.17269
  ┗ありがとうございます(><)−ねんねこ (2001/10/3 11:37:07) No.17370


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17264どいつもこいつも(ノーカップリング)ねんねこ E-mail URL2001/9/26 13:37:54


ねんねこです。投稿小説1(こちら)の方だと問答無用ではじめましての方が多そうですが(^^;)
なにはともあれ、ねんねこです。
今回は珍しくもなんともなくノーカップリング(のはず)。実は先にHPで公開していたのですが、いつも読んでくださっている友人の方から、
『ねんねこの話をいつも読んでいる人はHPで読んでる。だけど、ねんねこのことを知らない人はきっと読んでない。でもこのテーマはすごく悩んでいる人も多いからぜひ多くの人に読んでもらうべきである』
というアドバイスをいただきまして。失礼を承知ながら投稿することにしました。(久遠さん、ありがとうございます←私信)

とにかくこれが今の私の答えです。もしかしたらこれから先いろんな経験をして変わるかもしれないけれど……これが私の今の答え。
賛同してくださっても、これは違うだろと反対してくださってもいい。ただ、何かを感じてくだされば本望です。
それではどうぞ。

****************************************************************************


 街は賑わっていた。
 賑わっている、といっても一時的なものだった―――ちょうど祭りが行われていたのだ。大人たちはせわしなく準備に駆けずり回り、子供たちは特別な日に喜んでいるのかはしゃぎまわっていた。
 ―――そして。ここにもはしゃぎまくっているのが1人。
「お祭りですっ! ゼルガディスさん、お祭りですよっ!」
 一行の予想を裏切ることなくはしゃいでくれたのは紅一点のアメリアだった。あと1、2年もすれば立派に成人するはずなのだが、そんな様子を微塵も感じされることもなく、ゼルガディスの腕に自分の腕を絡ませながら、子供のように嬉しそうな声をあげた。
 その様子を半ば疲れた表情でゼルガディスが受け止める。
「あーそーだなー。よかったなー」
「いいなぁ。楽しそうだなぁ。ぜひ参加したいですね! お祭り!」
 その言葉に対しての返答はなかった。
 ―――彼女の言葉に対して否定の言葉を言うのにかなりの抵抗があったのだ。ただ一言『参加したくない』という言葉をいってしまえば、彼女の顔は一気に曇るだろう。自分のせいではないというのにすべてを自分の責任にしてしまう彼女の人柄を彼はよく理解していたし、できれば、彼女の顔を曇らせるような真似はしたくはなかった。
 ただ、だからといって参加するわけにもいかなかった。
 邪妖精(ブロウ・デーモン)と石人形(ロック・ゴーレム)との合成獣(キメラ)。実の祖父の手によって変えられた姿は、もはや人間とは言えない異形の姿になっていた。以前は、いっそのこと人間の姿だけではなく、記憶や理性もすべて奪ってくれれば未練など残らずに済んだのに、などと考えていたこともあったが、今は逆に記憶や理性だけは残っていてよかったと思う。残っていたおかげで、得られたものもあるから。
 とはいえ、事情を知らない人間にとってはやはり自分は化け物であり、恐怖の対象でもある。そんな自分が祭りになど参加できるはずもない。無用な混乱を巻き起こし、得られるのは一時の安らぎではなく、胸くそ悪くなるような恐怖の感情のみ。
 黙り込んだゼルガディスの後ろからウィルフレッドの声が響く。
「そうか……そろそろ収穫祭の季節なんだね」
「収穫祭?」
 怪訝そうな顔をするクラヴィスにウィルフレッドはにっこりと微笑みながら説明してくる。
「毎年この時期になると農業の盛んな街で行われるお祭りなんだよ。その年の豊作を精霊に感謝するお祭りなんだ」
「農業は精霊の恵みで成り立っているようなものですからね」
 ウィルフレッドの言葉に付け足すようにアメリアが言う。
「栄養を貯えた土は地精(ベフィモス)の恵み。育てるのに大切な雨は水の精の恵み、という風に」
「……やけに詳しいじゃないか?」
 ゼルガディスが不思議そうな顔をすると、アメリアはああ、と気づいたように声をあげる。
「セイルーンでもかなり少ないですけれど似たようなお祭りをやっているんですよ。精霊に感謝を捧げるのはたいてい若い娘か巫女ですからね。この季節になると『来てください』って言う依頼が来るんですよ」
「ほお」
「ちなみに私も最近まで祈りを捧げていたのですが、あまりに面倒なので他の巫女さんに任せきってますけど」
「をひ」
 にこやかに言ってくるアメリアにゼルガディスが思わずうめく。
 彼女にとっては精霊に感謝するよりも周りの屋台で精霊の恵みを味わっていた方が幸せなのだろう―――まあ自分にとっても精霊なんぞに感謝の祈りなどするよりも秋の味覚を堪能する方がどちらかといえば好きだが。通りの端の屋台からはすでにおいしそうな焼きトウモロコシの匂いが―――
「おねーさん、一本くれるー?」
「―――て、クーっ! さっそくなに買い食いしてやがるっ!」
「なにって……」
 ゼルガディスの言葉にトウモロコシ片手にクラヴィスはきょとんとした顔をした。弟の顔と手にしたこんがり良い色に焼けたトウモロコシを交互に見つつ、答えた。
「焼きトウモロコシ。」
「ンなことは見りゃわかるわっ! 俺が言いたいのは、なんでンな物を買っているのか、だっ!」
「そうだよ、クラヴィスくん!」
 ゼルガディスに同意してきたのはウィルフレッドだった。珍しくしかめっ面で、クラヴィスを半眼で睨みつけている。これまた珍しく意見があったウィルフレッドにゼルガディスが微かに目を輝かせて―――自分の中で最近かなり失われつつあったウィルフレッドに対しての尊敬の念を少しばかり復活させて―――言う。
「ああ、あんたからもこの馬鹿息子になんか言ってやれ!」
 ゼルガディスに後押しされて、ウィルフレッドは鷹揚に頷くと、焼きトウモロコシにかじりついているクラヴィスをびし、と指差し。
「1人で食べるなんてずるいにょっ! 僕も食べたいにょっ!」
 ―――こいつに期待した俺が馬鹿だった。
 なんだか泣きたくなるような感情が心を支配する中で、アメリアの声が耳から入ってくる。
「あああっ、私も食べたいです!」
「うーん。じゃあおねーさん、あと―――」
 言いかけて、クラヴィスは肩越しに振り返る。
「ゼル。お前は?」
「い・ら・な・いっ!」
 一文字一文字強調して否定する。そのままくるりと踵を返すゼルガディスにアメリアが声をかける。
「ゼルガディスさん? どこ行くんですかっ!?」
 その問いにゼルガディスはぴたりと止まった。
 振り返る。
 視界に入ったのは、屋台の前できょとんとした顔でこちらを見てくる旅の連れたち―――そして、数え切れないほどの祭りを楽しむ人々。
(俺なんかが楽しめるわけないだろ……)
 心中でぽつりと呟く。だがその言葉を声には出さず、ゼルガディスは頭を振った。
「先に宿に戻ってる。思う存分楽しんでから帰ってこい」
 言うだけ言って、宿の方に向かって足早に去っていくゼルガディスを呆然と見送って、アメリアは初めて気づく。
「……そういえば……人込み、嫌いでしたね。ゼルガディスさん……」
「昔は祭りって聞いただけではしゃいでたんだけどなー」
 クラヴィスもぽつりと呟き。3人の間に沈黙が流れた。




              どいつもこいつも





「意外だな」
「にょ?」
 ゼルガディスの呟きにそちらに目をやれば、彼はこちらをまっすぐに見据えていた。両手でしっかりと持って口をつけていたホットココアをテーブルに置き、ウィルフレッドはきょとんとした顔をしていたが、やがて両頬を心持ち赤くした。ゼルガディスに向けた視線を外し、床を斜め45度で見つめて、両手をほんのり赤く染まった頬にあてる。
「いやん、そんなに見つめないでにょ v 」

 がたんっ!

「い・っ・ぺ・ん・し・め・た・ほ・う・が・い・い・か!? お・の・れ・は!」
 ウィルフレッドの言葉を返すのに10秒もかかっていないだろう―――即答しつつ、ゼルガディスが立ちあがる。
 意図したわけではないが、今まで座っていた椅子が立ち上がった拍子に倒れる。宿屋の1階の食堂に響き渡ったその音は、店内にいた十数人の客と店員の視線を引きつけるには十分だった。
「―――っ!」
 店内の視線が自分に向けられていることに気づいて、ゼルガディスは小さく息を呑んで慌てて床に倒れた椅子を立て直し、腰を掛け直した。深くかぶったフードをしっかりとかぶり直し、視線が拡散されるのをただひたすら待つ。
 店内にいた人間とていつまでも動かない状況を見ているほど暇ではない。それ以上何も起きないことを理解して、また各々の行動を始める。
 たった数分の出来事がまるで数時間のように感じられて、ゼルガディスは深く溜め息を吐いた。
「別にそんなに脅えなくてもいいと思うんだけど」
 ホットココアをすすりながら呆れたように呟いてくるウィルフレッドをゼルガディスは半眼で睨みつけた。
「誰が脅えてるってんだ? 俺は単にこの忌まわしい身体で不用意に混乱を招きたくないだけだ」
 人間じゃない。化け物。
 人間という生き物は自分の常識を超える存在をことごとく排除する性質がある。自分の人間とは思えない異形の身体を見れば、ここにいる人間が騒ぎ出し、宿から追い出されることは必至である。
「……ふーん……まあ、君がそこまで言い張るんだったら別にいいケド」
「……ずいぶんとトゲがある言い方だな」
 自分を一瞥して言ってくるウィルフレッドに小さくうめく。が、彼は無視したようだった―――もしかしたら聞こえていなかったのかもしれないが。
「―――それで?」
 からになったココアのカップをテーブルにとん、と音を立てて置き、ウィルフレッドは首を傾げた。
「なにが『意外』なのかにゃ? ゼルガディスくん」
「んあ?」
 問われてゼルガディスは一瞬怪訝な顔をしたが、問い返す前に自分が数分前に言った台詞に対しての問いだと気づいて、肩を小さくすくめてみせた。
「ああ……あんたのことだからてっきりクーたちについていくと思ってたから」
 自分と違って気さくで社交的な生みの父親。加えて、このテのイベント好きなのを考えれば、彼が参加せずにこんなところでココアなんぞを飲んでいる姿は不自然極まりなかった。
 首を傾げていたウィルフレッドだったが、ああ、と呟いて、こくんと首を縦に振った。
「うん。でもゼルガディスくんとお話したくて。ゼルガディスくんってばいつもどこかにふらりと消えちゃうんだもん」
 パパりん寂しいにょ、などと泣く真似をしてくるウィルフレッドにそっぽを向いて顔を引きつらせる。
「俺は別に話なんざねぇよ」
「つれないにょ……」
「あーあーどうせ俺は無愛想で有名さ」
 拗ねる息子にウィルフレッドは苦笑した。テーブルの上に腕を組んで、目を伏せて落ち着いた口調で問う。
「ゼルガディスくん。君はお天道様が嫌いなのかい?」
「…………は?」
 間の抜けた声をあげるのは当然のことだった。
 いきなりなんの脈絡もなしに『太陽(おてんとさま)は嫌いか?』などといわれても普通は困惑する。
「……意味がわからない。その問いに至るまでの経緯もつけてくれ」
「君たちと共に旅をするようになってからだいぶ経つね。その間、ずっと君の行動を観察していたのだけれど」
 ゼルガディスの要求をあっさりと飲んで、ウィルフレッドは瞑目したまま淡々と言葉を続ける。
「どうやら君はいつもお天道様の陰に隠れているね。宿屋の自室、図書館の誰も来ない埃くさい閲覧室―――行動がワンパターンで、実につまらない生活だと思わないかい?」
「悪いが俺はエンターテイナーじゃない。あんたを面白がらせて生きているつもりはないし、生きるつもりもない」
「人間(ひと)は常に自分のエンターテイナーになるべきだと僕は思うね」
 肩をすくめて言葉を返してくるウィルフレッドにゼルガディスは顔を顰めた。
「なにが言いたい?」
「毎日が面白いと思いたいのならまず自分から努力しろと言うことだよ。
 先日、≪パイシーズ(石っころ)≫をクラヴィスくんに預けて、君の1日の生活をシミュレートしてみた。つまらないね。退屈だった。とても」
 ―――別に楽しくてそんな生活を繰り返しているわけじゃない。
 喉まで出かかった言葉をゼルガディスは飲み込んだ。代わりに別の言葉を口にした。声を絞り出すように。
「……非常に不愉快だ。俺(ひと)の行動に干渉しないでくれ」
 その言葉にウィルフレッドは黙った。店内の天井についた明かりを気にするように見上げ、無言で懐に手をやり―――なにを取り出すわけでもなく、そのままテーブルに手を戻す。咳払いを何度かして、足を組んだ。
「そうだね」
 自分の言葉を無視して話の続きを強行するかと思いきや、素直に同意して来たウィルフレッドにゼルガディスは一瞬怪訝な顔をする。が、彼の表情の変化を気にせずに父親は続けて言葉を紡いだ。
「話を変えよう」
(わかってねぇ。この親父)
「俺としては話題転換などせずにさっさとどこかに立ち去ってもらいたいんだがな」
 脅しをかけるように険悪な視線を向けてうめいてみるが―――そんなものがウィルフレッドに通じるはずもない。今度の要求はあっさりと棄却され、ウィルフレッドはにっこり笑いながらさっそく別の話題を引っ張り出してくる。
「実は僕ね、王立学院では優等生だったんだにょ♪」
「……自慢話かよ。今度は」
 呆れた表情でゼルガディスが呟く。なんの脈絡もなく突拍子もない話題を引っ張り出してくるのがどうやらこの男の得意技らしい。知れば知るほどわかってくるどころか謎が深まるばかりである。
 まあなんにしろ、これ以上この男のくだらない会話に付き合うほど自分は付き合いのいい人間ではない。向こうが立ち去らないのならば、自分が離れるまでだ。
 ゼルガディスは席を立とうと腰を持ち上げ―――
 くんっ!
「―――っ!」
 身体がなにかに縫い付けられたように動かないことに気づいて、ゼルガディスは一瞬だけ目を見開いて足元の近くの床に視線を這わせる。すぐに天井の明かりに照らされて生み出された自分の影に刺さる一本のダーツが目についた。
 椅子が倒れた時から今まで無駄に動いたりしなかったために気づかなかったが、それは間違いなく自分を拘束するための影縛り(シャドウ・スナップ)。いったい誰の仕業であるかは、その刺さったダーツを組んだ左足で押さえられている時点で容易に想像がついた。
「……ウィル……てめぇ……」
「ん? どうかしたかにゃ?」
 ダーツの持ち主はにっこり微笑みながら首を傾げてみせた―――彼がすっとぼけているのは一目瞭然だった。冗談ではなく、本気で睨みつけてゼルガディスが言う。
「……いつのまに影縛り(シャドウ・スナップ)なんかかけやがった?」
 影縛り(シャドウ・スナップ)―――影を剣やダーツなどを媒介に地面や床に突き刺し、相手を拘束する技である。ただ、簡単に出来る術である代わりに影を消してしまえば相手を拘束することが出来なくなるという欠点がある。そんなに使用頻度が高いわけではないが、それでも使えると便利な時もある、という術である。
「さあ……なんのことだかさぁぁぁっぱり」
 わざとらしく言い放ち、ウィルフレッドは閉じていた目を細く開いた。底意地の悪い笑みをうっすらと浮かべながら小声で呟いてくる。
「自由になりたきゃ、術を破ればいい。君になら簡単に破れるでしょう? でも君には出来ないね。断言してもいい」
 ウィルフレッドの言葉にゼルガディスは思わず小さくうめいた。
 ―――心を見透かされた気がした。
 確かに術を破るのは簡単だ。自分の影を消してしまえばいい。だが、自分の影を消すだけの光明(ライティング)をここで放てば、再び店内の人間の視線を集めることになる。だが、先程の不可抗力とはわけが違う。故意に魔術を放つのだ。先程のように何事もなかったように装うのは―――到底無理である。
 そこまで見越してのことだったのだろう。話題転換の前、懐に手を伸ばしたのは気まぐれではなかったのだ。見事というかこすっからいというか―――
 なんにしろ自分に残された選択肢はそう多くはない。
 他人の目を気にせず魔術を放つか。それとも目の前に座る父親の話を気の済むまで聞いてやるか。
 ゼルガディスの答えは―――後者の方だった。
「……話を……聞こう……」
「そうこなくっちゃ、ね」
 息子の言葉にウィルフレッドはにっこりと微笑んだ。
「ええっと……どこまで話したっけ?」
「あんたの自慢話までだ。王立学院で優等生さんだった、ていうな」
「あ、そうそう」
 思い出したようにぽん、と手を叩く。
「優等生っていってもね。僕は努力の人だったから、それなりに頑張ってたんだ」
「なにが言いたい?」
「優等生だから、というわけではないけれど―――」
 苛立ちを隠せない様子でゼルガディスが言ってくる。ウィルフレッドは苦笑しながら溜め息を吐いて、答えた。
「僕、いじめられっこだったんだ」
 その言葉に、ゼルガディスは僅かに目を見開いた。



「小さい頃は本当に泣き虫でね。なにかある毎に泣いてた。
 年がら年中、他人(ひと)の目を気にしておどおどしてたのも同級生(クラスメート)を苛立たせていじめられる原因になったのかも。
 それに―――」
 苦笑いを浮かべつつ、ウィルフレッドは肩をすくめた。
「―――あんまり付き合いの良い子じゃなかった。
 放課後遊びに誘われてもすべて断って、親が決めた習い事に通っていたりしたから……きっと周りにはその姿が『金持ち息子が気取ってる』って見えたんだろうね。気づいた時には孤立してた」


 独りぼっち。
 いつも独りぼっち。
 話しかけても、なにをしても相手にはしてもらえなくて。
 なのになにかすれば、自分を嘲るような小さな笑いがあちこちから聞こえてくる。
 それを知っている担任教師も見て見ぬフリ。最低限の仕事をこなすのみ。
 いつまで経っても続くその状況に、重い腰を上げた教師が自分に向けていった言葉は。
『もっとみんなと仲良くしなさい』
 ―――そんなことができたら苦労しないのに。
 それができないから辛い思いをしているのに。


「……親には……言わなかったのか?」
「言えなかったよ。言えるはずなんかなかった」


 父親(マードック)は『冷酷』という言葉が似合う人間だった。
 母親は、父親のことでいつも悩んでいるようだった。自分に向かって笑いかけても、いつもどこか苦しそうな表情をしてた。
 ―――言えるはずなかった。そんな2人に。『学校でいじめられてる』なんて。
 恥ずかしくて―――惨めで―――


 ウィルフレッドは目を伏せて顔を天井に向けた。
「そんな自分が嫌で、変わりたいと思った。変わろうと思った。
 ―――でもどんなに頑張っても、いじめられるのは変わらなかった。
 確かに目に見えるいじめはなくなったよ。でも、みんな影で僕のことを悪く言ってたのは知ってた」


 ―――見て……あそこにいるの……人じゃないわよ……
 ―――化け物だわ……恐ろしい……


 影でこそこそなにかを言われ続ける。
 それがどんなものか、ゼルガディスはよく知っている。それは辛くて―――とても悲しいこと。
 傷ついた心は他人が自分をどう思っているのか気になり、常に不安がまとわりつき。
 他人を見る目は、他人の行動を敏感に察知し、常に脅え。
 音を聞き入れる耳は、他人が何を話しているのか、自分のことを言っているのではないかと常に震える。


 前向きになれば?
 もっと明るくなれば?
 簡単にそんな解決策を口にできる人は、きっとこんな経験がないから。
 そんなことで解決するのならば、誰も辛い思いなどしないのだ。


「いじめられっこはどんなにあがいても所詮いじめられっこなんだ」
 理由などない。
 ただ、世の中に対する苛立ちを、そしてストレスを発散できれば。ただ、楽しければ、相手はそれで十分なのだ。
 別にどこを見るわけでもなく、ウィルフレッドは細く目を開けて呟いた。
「人間の価値はみんな違う。
 自分がすごいと思うことでも他人にとってはくだらないことにしか見えないかもしれない。逆もまたある。
「それと同じ。
 誰にでも好かれる人なんていやしない。必ず誰かは自分を疎ましく思ってる。嫌いだ、って思ってる」
 その“誰か”が何人いるのかはわからない。1人かもしれないし、2人かもしれないし―――数え切れないほどたくさんかもしれない。
 だが、ゼロでは、ない。
「でも逆に誰からも嫌われている人間だっていやしないんだ。必ず誰かは自分を好きだって……大好きだって思ってくれる」


『ゼルガディスさん、大好き!』


「自分を認めてくれる人が、いる」


『化け物? 誰が? オレの前にいるお前がか? 冗談だろ。オレにはお前が人間にしか見えないね。
 ゼルガディス=グレイワーズという名の親友(だち)にしか見えないよっ!』


 決して多くはないかもしれない。
 けど―――けれど。
 人間には見えないキメラ(こ)の姿でも、自分と普通に接してくれた人は―――ちゃんと、いる。


 クラヴィス。
 自棄になっていた自分にそっと手を差し出してくれた。
 初めて自分の話を聞いてくれた。
 力に―――とても大きな力になってくれた。

 ロディマス。ゾルフ。
 胡散臭い自分の話を信じてくれた。
 聖人君主と言われたレゾではなく自分について来てくれた。
 自らの命を賭してまで、自分について来てくれた。

 リナ。ガウリイ。
 仲間だと言ってくれた。
 笑いながら、照れながら、ふざけあいながら―――でもはっきりと。
 大切な仲間だと、当然のように言ってくれた。

 そして―――
 こんな姿でも『愛してる』と言ってくれた―――アメリア。


 好きだと言ってくれた。
 信じてくれた。認めてくれた。
 大切な仲間だと言ってくれた。
 愛してると言ってくれた。


「万人に愛されなくてもいい。嫌われても、いじめられてもいい」
 全ての人に愛される人になるのは無理だから。
 嫌われてしまうのは、いじめられてしまうのは、自分が他人の好みと違ってしまっただけだから。それは自分では直しようもない仕方のないことだから。
「ただ自分を好きだって言ってくれる人たちと毎日楽しく過ごせればそれで良いと思うんだよ」
 たった一度の人生だから―――そんな言葉がよく使われるけれど、本当にその通りだと思うから。
 もう一度生まれ変わることなどできないから。
 辛いことで悩むよりも楽しい時間を過ごした方が―――いい。
「ゼルガディス」
 呼ばれて彼は知らず知らずのうちに俯いてた顔を上げた。
 ウィルフレッドは微笑んでた―――いつも浮かべる、のへら、とした締まりのない笑顔ではなく―――全てを包み込むような優しい笑顔で。
「もっと胸を張って生きなさい」
 お天道様の陰に隠れるような―――絶えず人の目を気にしているような生き方などせずに。
「確かに君の姿は普通の人間には見えない。それは事実だ―――どんなに否定しても変わることのない、ね。
 だけど、君はちゃんとした人間じゃないか。こそこそ隠れたりなどせずにもっと堂々とした態度をとりなさいな。こそこそしてると逆に化け物だって認めたことになっちゃうよ?」
「……俺の姿を見れば……他人が騒ぐ」
「一部の人たちでしょう?」
 ぽつりと呟いたゼルガディスの言葉をウィルフレッドは即答した。
「言ったでしょう? 人にはそれぞれ価値観の違いがある、と。
 君のその姿をなんのためらいもなく化け物呼ばわりする人間はいる。けど、ちゃんと人間として見てくれる人もいる。
 事実は変わらない。変わるのは、他人の見方。考え方。相手がどう思うかは君にどうこうできるわけじゃない。
 価値観が違うのなら、自分の人生だもの……自分の価値観で最高だと思う生き方をすれば良いじゃない。それが他人から見れば惨めな人生でも、さ」
 ウィルフレッドは息を吐いた。
「生きているといろんな問題にぶち当たるよね」
 それは将来のことだったり。
 それは人間関係のことだったり。
 あげればきりがないほどの問題。
「けれどすぐに答えを出そうとしてもなかなか答えは出てこないんだ―――というより、すぐに答えを出せる問題なんてそんなに多くないと思うんだよ。
 いろんな経験して、年を重ねて。答えが出て来たらめっけもんなんじゃないかなぁ……」
 45年も生きてきた中で答えを見つけた問題など数えられる程度しかなく。
 未だ答えを見つけられない問題は数え切れないほどある。
 死ぬまでに解決しなければならない問題ではない。だが、死ぬまでに答えを見つけたい問題ではある。
 だから、今、自分は生きている。
 ―――自分の周りに転がった数多の問題を解決するために。
 ―――自分のことを好きだと言ってくれる人たちと共に。
「1人で見つからない答えも誰かと一緒なら見つけられるかもしれない。どうやって見つけられるのかわからないんだったらとりあえず堂々と生きていけば良い。求めている答えはきっと見つかる」
 それがたとえ専門家でも首を横に振る内容でも。
 独りで悩まないで。自分独りで背負い込まないで。
 まわりをちょっと見回せば、きっと誰かが君を見てる。
 人は楽しいことよりも辛いことの方が思い出しやすいけれど。
 自分に誇りを持っていれば、辛いことも笑って話せる時が来る。
 ウィルフレッドはにっこりと微笑んだ。
「よし。親子の微笑ましいだんらん終わりっ! そろそろお開きにしようか。僕も焼きモロコシ食べたいにょ……」
 テーブルに両手をつき、立ちあがる。腰をかがめ、床に突き刺しておいたダーツを無造作に引っこ抜く。それを懐にしまいつつ、ウィルフレッドはいつもののへらとした笑みを浮かべた。
(……大物……なんだろうな……やっぱり)
 自由に動くようになった腕を軽く回しつつ、なんとなく思う。
(まあ子供は親の背中を見て育つっつーし)
 敵わないのかもしれない。この男には一生―――自分も。クラヴィスも。
「じゃあ焼きモロコシ買ってくるにょ v 」
 まるで子供のように嬉しそうに笑いながら言ってくるウィルフレッドの背中にゼルガディスは声をかけた。
「待て。ウィル」
「にょ?」
 肩越しに振り返ると、ゼルガディスは視線を逸らしてぼそりと呟いた。
「……俺も……行くから」
 その言葉にウィルフレッドはしばし目を瞬かせて、やがてにっこりと笑う。ゼルガディスに向かって右手を伸ばす。
「おてて繋ごうか、ゼルガディスくん v 」
「死んでも嫌だ」
 たった一言即座に返答し、伸ばされたウィルフレッドの手も無視し、ゼルガディスはすたすたと扉へと向かう。
「つれないにょ……」
 うう、と泣き濡れながらウィルフレッドも息子の後に続き―――
『………………………………あ。』
 扉を開けばすぐ側にアメリアとクラヴィスが木箱を椅子がわりに腰をかけていた。



「……なにしてんだ? お前ら?」
 扉に手をかけたまま怪訝な顔で訊ねてくるゼルガディスにアメリアとクラヴィスは顔を見合わせた。
「なにって……ねぇ」
「……だってつまらないんですもん」
 ぷぅ、と頬を膨らまして言ってくるアメリアにゼルガディスがさらに首を傾げる。
「祭りがか? お前の場合、メインは祭りじゃなくて屋台だろ?」
「人のこと果てしなく馬鹿にしてません? ゼルガディスさん……」
 顔を引きつらせて言ってくるアメリア。ゼルガディスの肩越しにウィルフレッドの顔が生えて、ウィルフレッドはきょとんとした顔をした。
「あれぇ? クラヴィスくんとアメリアちゃんだにょ」
「話は終わったか?」
 父親の言葉に右手を軽く挙げてクラヴィスがぽつりと尋ねてくる。その言葉にウィルフレッドは目を真ん丸くした。
「僕、なにも言わなかったじゃない。どうして話してたってわかるの?」
「23年も付き合えば嫌でもわかる。あんたは……欲しい時に欲しい言葉をくれるだろ」
「待ってたんですよ、ゼルガディスさんとウィルフレッドさんのこと」
 苦笑しながら言ってくるクラヴィスの隣でアメリアも未だ扉にかけたままの手に腕を絡ませ、言葉を続けてくる。
「楽しいことはみんなで参加するから楽しいんですよっ! ゼルガディスさん1人だけ不参加なんて楽しくありませんっ!」
 黒髪の少女はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
 続けてクラヴィスがニットの帽子をゼルガディスに押しつけながら言ってくる。
「フードじゃなくて帽子にしようぜ、帽子。ちょっと手の込んだ仮装だって注目の的になるかもだぞ」
 されるがままにニットの帽子を受け取って、きょとんとした顔をしていたゼルガディスだったが、やがて苦笑混じりの表情を浮かべた。
「……まったく」
 どいつもこいつもおせっかいやきやがって。
 だがそれが嬉しくもある。
「たぬきの耳付き帽子はいらん」
 ニットの帽子をクラヴィスに押し返す。と、意地でもかぶらせたいのかクラヴィスは弟のフードを外し、無理矢理帽子をかぶせる。頭の上にくっついた二つのまるいでっぱりがなんだかとてもかわいらしくて、思わずその場にいた三人が失笑した。
 一斉に笑われたことで少しだけ憮然としながらもゼルガディスは腕にアメリアをくっつけたまま歩き出す。
 街は賑やかだった。
 人もたくさんいた。
 通りに出た人間ならざぬ自分の姿を見て騒ぐ人間は誰もいなかった。



 他人と自分の価値観が違うのならば、自分が満足する生き方をすれば良い。
 確かにそうかもしれない。
 相手の顔色を見て行動するのはただ逃げてるだけだから。
 相手にあわせるために自分は生きてるわけじゃないから。
 でも急には無理だから。
 とりあえず。少しずつ、胸を張って生きてみよう。



「ま、なにはともあれ最初は」
 ゼルガディスはぽつりと、だがはっきりと呟いた。
「焼きトウモロコシだな」



 いつか振り返った時に、自分の人生は最高だったと笑って言えるように――――




********************************************************************

タイトルの『どいつもこいつも』。
実はHPで何のフォローもしてなかったんですけど(をひ)某ジャニーズの曲のタイトルではなくて(いやあの曲は好きですが)、『どいつもこいつも……誰でもみんな考えることは違うんだから自分は自分の道を行け』という意味が込められてたりします(意味飛躍しすぎ)。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。ねんねこでした。


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17265わがまま言ってすみませんでした(汗)久遠安宿 2001/9/26 16:52:53
記事番号17264へのコメント

立場もわきまえずわがままこいた久遠です。
願いを聞き入れてくださってありがとうございます。
やっぱり何度読んでも泣けるです。ウィルさんも素敵ですけど、素敵なウィルさんの言葉を紡いだねんねこさんもやはり素敵な方です。
冗談抜きで尊敬します。これからもがんばって下さい。いつまでもついていかせて下さい!
それではです。
                      久遠安宿 拝



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17369いえいえそんなことないですにょ。ねんねこ E-mail URL2001/10/3 11:30:25
記事番号17265へのコメント

久遠安宿さんは No.17265「わがまま言ってすみませんでした(汗)」で書きました。

>立場もわきまえずわがままこいた久遠です。
>願いを聞き入れてくださってありがとうございます。

いえいえ、久遠さんにはいつも助けられていますし、わがままなんかじゃないです(><)
なんかもう一生ついていっても良いですか!?(笑)というくらい感謝の気持ちで一杯です。

>やっぱり何度読んでも泣けるです。ウィルさんも素敵ですけど、素敵なウィルさんの言葉を紡いだねんねこさんもやはり素敵な方です。
>冗談抜きで尊敬します。これからもがんばって下さい。いつまでもついていかせて下さい!

そう思ってくださるだけでもう……(><)
というよりも恐れ多いです(汗)
なんとなく思っていることを言葉にしただけですので、単なる独りよがりかもしれないんですけれど(苦笑)
それでいいかな、と。あくまで“わたし"はね。

というわけで、メールのお返事今日出しますね。
ではではねんねこでした。


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17269素晴らし過ぎます!風林みつき 2001/9/26 22:45:19
記事番号17264へのコメント

どうも、ほとんど初めましてチック(謎)なみつきですさね。
読ませて頂きましたさね。
ねんねこさんっ!あなた凄すぎですさねよっ!!尊敬的・・・というか『的』はいらないですさね。
もともと、ねんねこさんのお話は好きだったんですけど、今まで圧倒的なツリーの威圧感に押され一度も感想つけたことなかったです・・・。不届き者めっ。
表現力の無いあたしでは、自分が具体的に何を感じたのかとか、上手くは言えないです。その上感想書くのが苦手でレスも短いです。さらに語尾変ですさね(おい)。すいませんですさね。
ではではー。さねさねー。

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17370ありがとうございます(><)ねんねこ E-mail URL2001/10/3 11:37:07
記事番号17269へのコメント

風林みつきさんは No.17269「素晴らし過ぎます!」で書きました。

>どうも、ほとんど初めましてチック(謎)なみつきですさね。

初めましてチックですね。というか何度かチャットで顔合わせてるんですが、結構入れ違いが多いですね(汗)
というわけでねんねこでし。

>読ませて頂きましたさね。
>ねんねこさんっ!あなた凄すぎですさねよっ!!尊敬的・・・というか『的』はいらないですさね。

凄いんですかっ!?(待て)
ええっと……なんていうか。別に凄くないと思うんですよね。多分。
ただ、自分が考えたことが人とはちょっと違うだけで。みつきさんのお話とか詩とか拝見させてもらってますが、いつもすごいと思ってます(><)
自分にないものをもっていらっしゃるので。

>もともと、ねんねこさんのお話は好きだったんですけど、今まで圧倒的なツリーの威圧感に押され一度も感想つけたことなかったです・・・。不届き者めっ。

あああああっ、読んでくださってくれただけでも嬉しいです(><)
威圧感ですか(汗)なんか自分で無意味にツリーを大きくしている感も拭えんですが(汗)気が向いたときにまたレスしてくださるとねんねこいと喜びますです。

>表現力の無いあたしでは、自分が具体的に何を感じたのかとか、上手くは言えないです。その上感想書くのが苦手でレスも短いです。さらに語尾変ですさね(おい)。すいませんですさね。

わたしもなにを感じたとか言葉で言い表せません(待て)
ただ、言葉に出来なくても何か感じてもらえれば十分満足です(///)
語尾変なのもオッケーですにょ。というか日常生活常に語尾に『にょ』とかつけてるあたり自分もやばいです(爆死)
というわけでねんねこでした。

リナちゃんの昔話のほう。楽しみにしてます〜♪ではでは。