◆−微笑みの傷跡 14−ブラッド (2001/12/27 23:31:42) No.19256 ┣新キャラ登場?−みてい (2001/12/29 14:52:06) No.19288 ┃┗謎の人物。はてさていったい何者なのかっ!?−ブラッド (2001/12/29 18:37:10) No.19289 ┣微笑みの傷跡 15−ブラッド (2001/12/29 19:15:24) No.19290 ┃┗BGMは『Place〜』で。−蒼杜 (2001/12/30 01:19:15) No.19293 ┃ ┗あぁぁぁぁっっっ、もうその通りなんですっっ!!>BGM−ブラッド (2002/1/1 13:41:22) No.19306 ┗微笑みの傷跡 16−ブラッド (2002/1/7 00:27:16) NEW No.19391 ┗ツリーが落ちる前にっ−みてい (2002/1/7 01:04:28) NEW No.19392 ┗落ちるぎりぎりに(汗)−ブラッド (2002/1/9 02:33:41) NEW No.19438
19256 | 微笑みの傷跡 14 | ブラッド | 2001/12/27 23:31:42 |
こんにちは。ブラッドです。 突然ですが、ブラッド『SOPHIA』の大ファンです(きぱ) ブラッドの、とある限られた人々の間では有名な事です(笑)だって好きなんだもんっ♪ んでもって、勝手に微笑のテーマとしてる歌があるんですよ。『Place〜』って歌なんですけど。 とりあえず、それを聞きながら呼んでみて下さいませvブラッドぱくりまくりです(待て) いや、でもホントにそれを聞きながら読んでいただければ、ブラッド嬉しかったりします(笑) もう、ブラッドの文才なさが全てふっとんでくれます(笑) それでは、お読み下さいませv ************************************** やっぱり私は、今でもその影を背負っているのかもしれない。 +++++++微笑みの傷跡 第14話++++++++ 「あぁぁぁっったくなんで私あの取引に応じちゃったんでしょう」 髪の毛をかきむしりながら、乱暴に叫ぶ。 「ちょっと、ラズライトさん聞いてくれてますっ?」 「えっと、聞いてるから少し静かにしてくれないかな。あ、はいお薬だしときますからこれで大丈夫ですよ。料金はいつもと同じで」 目の前にいる、いかにも金持ちそうな胡散臭い老人に、ラズライトは薬を渡し、それと交換のように渡された袋の中味を確認した。袋からは、じゃらりという金属音がかなり重そうな印象をだしていた。 「はい、確認しました。それではお大事に」 「ありがとうございます」 ただでさえ曲がっている腰をさらに曲げて、老人は去っていった。それを確認してからラズライトはその袋を棚にしまい込み鍵をかける。 「はい。お待たせ」 「もぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ。今考えても腹がたちますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」 其処は、ラズライトの診療所だった。 あのあと、アメリアの出した返事は『イエス』だった。 「まぁ、あの雰囲気じゃぁね」 有無をいわさない雰囲気にのまれてしまっていたのだろうか。何故だかアメリアの首はその時確かに縦へと小さく振られたのだ。それは、ラズライトも見ていたこと。事実。 「……どうしましょう」 テンションが急にがくりと急降下になって、アメリアは首を傾げた。まだ、彼女の目的は果たされていないのだ。だからまだ帰るわけにはいかない。それなのに、アメリアはその取引に応じてしまったのだ。 取引といっても、それは一方的なモノに近かったかもしれない。場の雰囲気をいうもので、それにのまれてしまった事が酷く愚かに思えた。 「ま、そんなに落ち込むことじゃないよ」 「何故ですかっ? 私もうすぐ帰らなきゃいけないんですっ」 声は、感情的になっていた。 「落ち着いて考えれば良いことだよ。まず、その取引をこっちも有効に使うんだ。それで、ジュエルの理由とやらを聞けば、なんとかなるかもしれないよ。それに、別にいますぐ帰るわけじゃぁないんだし」 「それは、そうですけど」 「あと何日くらいいるんだい?」 「一週間ほど」 「なら、その一週間全てをかけて質問をぶつけてみたら? ジュエルは質問の数も質問の内容も、質問の制限時間も指定していなかったしね」 「それでね、私は笑顔で頷いたんですよ。そのあとすぐに戻って頭を整理して……」 3人に話をするアメリアの表情には、曇りがかかる。 「素直じゃないんですよね。みんな」 「ちょっと、いきなり話とばさないでよ」 「あはは、すいません」 独り言のように言ったつもりが、どうやら周りにはそうとられなかったらしい。軽く笑いを交えてアメリアの表情は晴れた。 ふと、空を眺めると、それは泣き出しそうな空だった。 あの時と、同じ空。 一人の青年が、立っていた。 目の前にある白い花をみつめ、じっと立ち尽くす。 まるで、そこだけにスポットライトがあったっているような、圧倒的な存在感。 珍しいミルクティー色の髪に、美しい青色の瞳。 ふっと、しゃがみこんで、青年は白い花を握りしめる。 「俺が許す――――――殺せ」 青年の側にあった気配は消えて、青年は呟く。 「どうしてか……」 髪をかき上げて、頭の中を整理していく。 「理由や動機の言語化は、どうも苦手だ。だが、それは酷く簡単なことでもあるのだろう」 「相変わらず、独り言のようなそうでないような事をいってるね」 青年の後方から、銀髪の女がきゃらきゃらと笑って近寄る。 「…………俺は、君みたいに単細胞じゃないからね」 「……ロードさんは単純だよね」 「それは認めよう、俺は単純だ。が、勘違いするな。君は単細胞、俺は単純だ」 「つまり、馬鹿とシンプルは違うってことだよね」 「へぇ、よくわかったね」 「えへへ。 すっっごいむかつく」 「そりゃどーも」 彼らは、まだその場から動くことはなかった。 ふわり ガサッ 「はぁ…………いつもご苦労様。でも、僕は簡単に死なないと思うけど」 微かに感じる人影は、此処最近いつも自分の周辺を彷徨いていた。あとをつけられたりすることもあり、寝ているときに襲撃されかけることすらあった。 自室で、ゆったりと椅子に座ったまま、飲みかけの香茶を一口優雅にジュエルは話す。片手に持った本を閉じるという行為などは全くせず、なおもぱらぱら本をめくっていく。「君も寒い中大変だね」 適当に相づちをうちながら、ジュエルの視線は本の中。 パタンッ 静かに本を閉じ、足を組んで髪をかき上げる。 「『ノイズ』だろう? もう、諦めたらどうだい」 こんな事は、数年前にもあった。そう、確か継母――――――クオネが死んでから一年ほどの時だ。あの時は、確か半年ほど命を狙われていた。それは、ジュエルだけではなく、ラズライトも。 その来訪者は、大抵闇に紛れた深夜に訪れることが多かった。まぁ、たまに昼間も訪れたのだが、わかるのはその気配だけ。自分の前に姿を現すのは闇の中だけで、決してその姿を確認は出来ない。 迷惑な闇の来訪者。その気配は、酷く自分にとって心地悪いモノ。そう、まるで邪魔な『雑音(ノイズ)』だ。 ジュエルとラズライトは、その来訪者の事を『ノイズ』と呼んでいた。 『ノイズ』が再び表れるようになったのは、つい最近。そう、アメリアとあったときとそう変わらない次期。初めは、別人かと思ったのだがそれはすぐに違うと理解できた。 ラズライトと違い、ジュエルはその性格からして人付き合いがよくなかった。否、良くないではなく悪かった。 孤立した、異質な存在。 こんな町はずれに住んでいても、たまに――――――そう、ごく稀にだが嫌がらせのようなモノをうけることもある。手紙を盗まれたりだとか、硝子を割られたりだとか。 でも、そんな奴らとは違う、とすぐにわかった。 あの独特の、冷たい空気のような気配。何か感じる違和感。嫌な、雰囲気。ピンッ、と周り全体に糸が張りつめられて、それに振れると皮膚が切れてしまうような―――――そんな気配。 「消えろっ」 しゅた、と一瞬でその気配は消えてしまった。まだ椅子に座ったままで、ジュエルは嘆息する。 「どうして……」 アメリア帰還まで、あと3日だった。 「そうだっ。ねぇ、今からその丘に行ってみませんか?」 「丘?」 「そうですっ。『白い花』の咲く丘。私とジュエルが出会ったあの場所です」 突然席をたって、アメリアは言い出した。 「此処なんですよね。この話の舞台って。だから………ね? お願いしますっ。私が行きたいんです」 必死に頼むアメリアにリナは笑い、ガウリィは返事し、ゼルガディスは首を小さく縦へと振った。 「やぁ、ようこそアメリア」 それは、アメリアが帰る前日の事だった。とうとう、アメリアはジュエルの家にいった。 駆け引きの始まり。 「こっちです〜っ!!」 「ちょっと、そんな焦らなくても丘は逃げないでしょうにっ!」 たかたかと、早歩きなアメリアにリナは少々息をきらしながら愚痴る。その後ろでは、男性陣がゆっくりと歩いてきていた。その光景を彼らのかなり前からアメリアは眺める。手を振り上げて、ぶんぶんと降って叫ぶ。 「みなさぁぁぁぁぁんっっっ!! こっちですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」 「整理はできたのかい?」 部屋への道を歩きながら、アメリアは小さく深呼吸。 「……えぇ」 そして、にっこりと笑う。 「ジュエル。約束守って下さいよ」 「おや? 君には僕がそんな不作法な奴に見えるのかい?」 いつもの部屋に辿り着く。 「……他の部屋って見てみたいんですけどいいですか?」 「どうしてだい?」 「…………最後になるかもしれませんから」 「違うね。アメリア」 「?」 「『かも』じゃなくて、『なる』んだよ」 さっきとは違い、アメリアはゆっくりと歩く。泣き出しそうな空は、本当にあの時とそっくりだ。 「私ね、ジュエルの家にいった時。うん、最後の時」 どうしてだろう。何故こんなにも自分は泣きそうなのだろう。 「いつも同じ部屋にいたんですよね」 ボツッ 「それでね、別の部屋に行きたいっていったんですよね」 泣き出しそうな空は、ついに泣き出した。 「ちょっ、泣かないでよ。アメリア」 「……泣きませんよ……」 リナの言葉は、何処か遠くに聞こえた。 「ここが、書室」 「うわぁ。本当にいっぱい本がありますねぇ〜」 「君の家ほどじゃないだろう?」 「あれは、セイルーンの本ですから」 「そうか……ま、これもほとんど父のだけどね」 我が儘は、簡単に許可された。 それが、余計に悲しい。 ポツッ 「うわ。ちょっと雨降ってきたわね」 「そう……ですね」 一緒だ。 「雨宿りでもするか」 「あたりまえでしょうがっ」 ゼルガディスの言葉にリナは乱暴に返して、何処か雨を塞げる場所を探す。 「なんの建物もないなぁ」 辺りを見回して、ガウリィは小さく呟いた。 「ここは、町外れですからね」 「あっ、あの木でいいんじゃないの」 言いながら、リナは木に向かって走り出していた。それを追うようにして、ガウリィにゼルガディスはついていく。 「アメリアっ。あんたも早くっ!」 もう、木に辿り着いたリナはアメリアを手招く。その声も、何処か遠くに聞こえていた。 空から零れおちる雨がとても冷たくて、痛い。 ザァァッッ 雨が段々と強くなってきた。 「アメリアっ」 「あ、今行きます」 止みそうにない雨の中、立ち尽くしたアメリアは上を見上げたままで返事をする。 バシャンッッ 「いった……」 「大丈夫か?」 雨が痛いのは何故だろう? 雨がうつばしょは地面? それだけ? 土砂ぶりの雨の中、派手に転けたアメリアにかけよるゼルガディスに、アメリアは返事をせずにその手すらとらずに立ち上がった。 「大丈夫です……」 雨は、心の岸辺にうちつける。 躓いて泥だらけで。 一緒で。 「…………会いたいです……ジュエル」 それでも、負けないと誰が言えるのだろう? 何を夢見て、ここまで歩いたの? 何を夢見てるの? 何を期待してるの? 何故、あの場所に行くの焦るの? それは、信じているから。 信じているモノは何? 信じているモノは、生。 「アメリア。大丈夫か?」 「ゼルガディスさん……」 遠くに聞こえていた声は、ふいに現実に聞こえた。 再び差し出された手を、アメリアは取る。 「濡れてるぞ」 「じゃぁ、タオルくらい貸してくださいよ」 「悪いな。持ち合わせていない」 どうしてだろう? 笑った。 丘の上から吹き付ける雨と風がとても冷たくて、寒くて、寂しい。 ゼルガディスの手に従って、アメリアは木へと向かう。辿り着いた木で、リナはぼそりと言った。 「ねぇ、アメリア。迷わないなんて無理なのよ。迷って当然なの」 何処まで、この雨は続くのだろう。 悲しみと共に、零れる雨は。 |
19288 | 新キャラ登場? | みてい | 2001/12/29 14:52:06 |
記事番号19256へのコメント こんにちは。もうしっかり年の暮れ、年賀状はどーしたのみていです。 …年賀状よりもアレはどーなった自分(汗) いや、ンなことは置いておきまして。 新キャラが登場してますねv 『ノイズ』、この状態では男なんか女なのか不明ですね。 気配だけあるってちょっと怖いかも。 この方がしっかり絡んできそうなので楽しみですv ロードさんと話していたのは誰なんでしょう(読み返せって) しっかしかっこいいなぁ☆ 「単細胞」と「単純」の違い、成程っ!と思ってしまいました。 ブラッドさんは言葉の使い方が巧みですごいです。 勉強になりますv ではでは、続きを楽しみにしてます。 よい新年をお迎えください。 みていでございました。 |
19289 | 謎の人物。はてさていったい何者なのかっ!? | ブラッド | 2001/12/29 18:37:10 |
記事番号19288へのコメント こんにちはですっvブラッドです〜v あぁっレスありがとうございます〜っvほんとにレス貰うとすごい嬉しいですよぅvもう凄い嬉しいわvvハート乱舞って感じですねv >こんにちは。もうしっかり年の暮れ、年賀状はどーしたのみていです。 はっはっはvブラッドなんて全くなにもせずに今ごろ年賀状に焦ってますよ(汗)いやね、実は忘れてて(待て) >…年賀状よりもアレはどーなった自分(汗) アレ? うむむむむむむ、なんだろう(悩) >いや、ンなことは置いておきまして。 >新キャラが登場してますねv 登場しちゃいました(笑)いや、登場させちゃいましたvですね(汗) いやぁ、本当にもうオリキャラおんすてぇじ☆になっております。もう、真剣にスレパロだって、忘れてきてるような(汗) 一応、微笑はゼルアメですよー(笑)んでもって、ガウリナなんですよー(笑) >『ノイズ』、この状態では男なんか女なのか不明ですね。 女です(きぱ)うっふっふっふっふv彼女はかなりブラッドお気に入りキャラになってくれるのですよん♪ >気配だけあるってちょっと怖いかも。 ジュエルだから耐えられたんです(笑)あのひらすら、ごぉいんぐまいうぇいな☆な彼らだからこそ、そんな奇妙な恐ろしい出来事に耐えられたんですっ!←こじつけ >この方がしっかり絡んできそうなので楽しみですv はっはっはっはv絡みますぞっ。もう絡みまくりますぞっ。なんたって彼女はジュエルを(ピーーーーーーーー)しようとするんですからね。んでもって、それを命令したのが(ぴーーーーーーーーー)だというから、こりゃまた大変だいっ! >ロードさんと話していたのは誰なんでしょう(読み返せって) えっと、銀髪の女性と、紅茶色の髪の女の子ですvうっわ、ネタバレ大盛況? >しっかしかっこいいなぁ☆ えぇぇぇぇぇぇっっっっ!! かっこいいですかっ!! うむ、ぶらっくじゃっくんの事ですね(違う) ロードさんはですねぇ、ブラッド自身とても書きやすい人なんですよね。自問自答を繰り返したり、して、自分探しをずっと続けている人、とでもいっておきましょうか。 あぁ、これ某キャラのパクリだってきっとバレバレなんだろうなぁ(汗) >「単細胞」と「単純」の違い、成程っ!と思ってしまいました。 >ブラッドさんは言葉の使い方が巧みですごいです。 いえ、実はこれ、とある人の話にありまして。それが凄いブラッド自身えらく気に入っちゃいまして、無断で(待て)使わさせていただきました。 ねっ成程っって思うでしょう? ブラッドもこの言葉に凄く驚いて、感心したんですよv私生活でもよく使ってます(笑) 「あんた、単純ってか単細胞やんなぁ」 「は? どういう意味?」 「んー。シンプルっていうより、馬鹿ってこと」 ……よく考えれば、さりげに酷いこといってるな、ブラッド(滝汗) >勉強になりますv いえいえっ。ブラッドの話で勉強できるとこなんていうのは、人からぱくった(影響された、ともいう)のばっかですので(汗) みていさんのお話こそ、すっごく勉強になりますよぅv文章の並びや、言葉やその流れvもうすっごい素敵ですぅ♪ >ではでは、続きを楽しみにしてます。 はいですっ。そろそろ完結にむかって動き出していますので、どうぞ応援してくださいまし(ぺこり)ブラッド万歳三唱、真剣に喜びます。 >よい新年をお迎えください。 はい、よい新年をば。 >みていでございました。 レスっありがとうございますっ。 ブラッドでした。 これからもよろしくお願い致します。 |
19290 | 微笑みの傷跡 15 | ブラッド | 2001/12/29 19:15:24 |
記事番号19256へのコメント 皆様、こんばんわvブラッドです。 とうとう、ここまでこぎつけました。もう完結まで、あとひとふんばりですね(笑) そして、また新たなオリキャラも登場させちゃいました(笑) それでは、どうぞお読み下さいましv …………レスくれたりなんかしたら嬉しいなぁ… ************************************** その花を持った彼の姿は、今でも忘れてません。 +++++++微笑みの傷跡 第15話++++++++ ガサリッ 女がいた。 黒ずくめの服に、くすんだ紅茶色の髪の毛。腰辺りの髪の毛を無造作に一つに束ね、長い前髪を真ん中でわけてたらしている。 其処は、暗い暗い場所。 人が少ない、狭い夜の路地裏。 明るい場所より、暗い場所の方が彼女は好きだった。 ――――落ち着く。 彼女の黒い世界で、たった一つの白があった。その、白い世界――――たった一輪の白い花を、落書きがされた汚い壁にもたれて眺める。 「そう、愚かね……なんて愚かなんだろう」 半ば愚痴のような独り言は、自分に対してだ。 「私はね、時として屍肉よりも醜い生き物だから」 大きな丸い瞳からは、涙が溢れ出しそうになっていて、彼女の長い睫毛を次々と湿らせていく。それが頬を流れるまでそう時間はかからなかった。 「さようなら」 小さく呟いて、小さく笑って、彼女は花を捨てた。 「はい。お次は何処にご案内すれば気がすむのかな?」 いい加減、うんざりとしてきたジュエルが刺々しくアメリアを見た。まぁ、見慣れた自分の家を延々と案内しているのだ。飽きてくるのは当然と言えば当然なのかもしれない。だが、そんなジュエルの様子をまったく無視してアメリアは物色する。 「あっこの硝子細工綺麗です〜」 「で?」 「ください」 「…………どうぞ」 妙な間をおいてから、ジュエルはその硝子細工――――綺麗な、硝子で出来た花をアメリアに手渡した。 「割らないようにね」 一応、注意をして。 壊れた硝子で壊してた心 それから、数時間。やっとアメリアの気がすんだらしく、ようやくいつもの部屋へと戻ってきた。ちょっと休憩とばかりに、座って香茶でもいれようと思い、ほっとしながら部屋のドアをあけてみたのだが 「やぁやぁっ、まったくもう何をちんたらやっていたんだいっ? 僕は待ちくたびれてしまったよっ!! お茶っ! お茶だしてっ」 椅子に優雅に腰をかけ、無意味に偉そうに足を組んでぱたぱたと机を叩きながら言う、彼がいた。 「なんでいるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」 驚きの余り絶句するジュエルの横で、アメリアが絶叫した。 「はっはっは、愚問だねっ。答えは単純明快っ簡単簡単っ! このボクだからさっ!! ボクだからこそっ、君たちが今日話すことをわかったのだよ。これはボクにしかできないことだねっ。つまり、特権というものなのだよっ♪」 それが、例え過ちだとしても 「ふざけ…………いや、いいよ。どうせ何をいってもラズはここに居座るつもりだろう?」 「……なんか、やけに素直ですね?」 「体力の無駄だと判断しただけだよ」 真実に堕ちていこう 「さてと、それではご質問は? アメリア」 「……なんで、笑わないんですか?」 空間は止まる、まるで、切り裂けそうな冷たい空間。 「……まったく、君がそんな事知ってどうするのさ。僕には全く理解できないね」 「答えて下さい」 ラズライトは、妙に大人しく黙っていた。その様子がやけに不気味に思えてきて、少し恐かった。 「いいから答えて下さい」 できるだけ、淡々と落ち着いて言うようにする。無理にそうしないと、感情が爆発して声を張り上げてしまいそうだ。感情を殺す、とまでではなく、できるだけ落ち着く。 トク、トク、という自分の心音が響いて聞こえた。そっと、胸を押さえて軽く深呼吸。心の中で何度も低くゆっくり唱える。まるで、呪文のように。 (落ち着け……) 「笑う事を必要としていないから」 すぱっとジュエルは答えた。そう、さらりと。 余りにも軽々しすぎて、調子が狂う。 「僕には必要が無いモノだ、と判断したからね」 ジュエルの視線とアメリアの視線はかみ合っていなかった。 「だから、僕は笑わないんだよ。わかるかい?」 「………それだけですか?」 「え?」 考えていた言葉とは違う言葉が出てきて、自分でも驚く。ジュエルの言葉は、嘘では無い、と思う。短いつきあいだが、彼は約束は守る人だ。でも、これだけなら何故あんなにも彼は笑うことを拒否したのだろうか。まだまだ疑問点がたくさんある。 「……私は、何も答えは一つだとはいっていませんよね。それに、そう思ってもいません」 「へぇ……やっぱり頭いいね」 痛い、とすら感じてしまうこの駆け引き。お互いに痛々しく、辛い思いをしてまで、そこまでして何故するのだろう。何故、自分は求めるのだろう。アメリアとジュエルの間に吹く風は、向かい風。お互いの価値観はまったく違うもの。 初めは、なんの関係もなく、なんの関わりもなく、そう、別世界だった二人。 白い花が二人を出会わせた。あの丘で。 今、アメリアが探しているモノを見つけるのは誰? それはアメリア? それはラズライト? 今、ジュエルの捜しているモノは何? 求めてやまないのは何? 捜す微笑みは、本人が見つけなければならないのだろう。 求める微笑みは、本人が見つけなければならないのだろう。 人は、誰もが自分の足で立たなければならないのだから。 「死ぬ直前まで言ってたらしいからね」 奇妙に黙っていたラズライトが、急に口を開いた。 「死ぬ直前?」 「ジュエルの母親。君が死ぬ直前まで君に言っていたんだよね。『笑わないで』って」 「なっ」 「ボクが知らないとでも思ってたのかい? せっかく君から言った方がいいと思ってたのにねぇ」 くっくと喉を鳴らして、ラズライトは笑った。 それは、わざとらしくもあり、真実らしくもあった。 「血にまみれた両手を君の頬に添えて、言ったんだよね。『笑わないで』って」 挑発するかのような言葉は、ぐさぐさと容赦無しにジュエルに降りかかっていき、その様子をアメリアは聞いている。言いながら、ラズライトはジュエルの頬に手を添え、にっこりと冷たく笑う。 「笑わないで」 「……っっつ!!」 無理矢理その手を振り払って、無理矢理ラズライトの言葉を遮って、ジュエルは俯き黙った。その様子を確認してから、ラズライトは椅子から立ち上がり、ファサリと肩に掛かった長い銀の髪を払ってアメリアに向きなおった。そして彼女の肩を意味ありげにポンッと軽く叩き、小さくアメリアの耳元で囁いた。 「あとは、アメリアちゃんの出番だよ」 その言葉の真意はよくわからなかったのだが、アメリアはこくりと頷いた。 パタンッ 丁寧にドアを閉めて、ラズライトは部屋から静かに出ていった。密室となった部屋の中には二人だけしかいなくなった。ジュエルとアメリアのみ。 めから、二人で話すつもりだったのだから、何を今更二人でこの空間を支配することに不安がっているんだろう、と少し不思議に思う。でも、その不思議な思いはジュエルには全く届かす、いまだに彼は自分の世界に入り視線を地面へと向けて、俯いたまま。 溜め息に似た息づかいだけが聞こえる。 「ラズライトさん……帰りましたよ」 「……だから?」 「それだけです」 会話は終わる。否、終わらせられた。 「……悪いね。アメリア」 「え?」 やっと、視線を真っ直ぐにしたジュエルは、軽く息を吸い、そして吐いた。ふっと、一瞬遠くを見つめるのだが、それは本当に一瞬。 「さて、話を続けよう。整理は出来たし、ラズの意図もよめた」 「じゃぁ、ラズライトさんの言ってたことをちゃんと説明して下さい。それと、先ほどの質問の続きです」 「やっぱり、その質問をするんだね、君は」 悲しそうに、悔しそうに、辛そうに、ジュエルは手を組み目を瞑った。 「ラズの言ってたことは、本当だよ。僕の産みの方の母はね、きっと自殺だったんだよ。原因は―――――父だと思うよ。詳しくは聞いてないんでよくわからないし、今更聞くことすらもできないけどね」 ジュエルの言葉の違和感に気付き、アメリアは問う。 「きっと?」 「そう、きっと。だって、ちゃんとした原因って解明されてないし。でも、自殺が今のところ有力候補だよ」 死というモノに対して、残されたモノの辛さは知っている。現に、アメリアも大切な母(ひと)を亡くしていたから。その原因すらもいまだに、解明されていないのだ。そういう意味では、少しジュエルと似ていた。 死というモノは、結局は残された人々の概念なのだ。生にいる人々の自己満足や、慈悲みたいなものも、きっとあるのだろう。 実際、もう死んだ人物がいなくなた今では、動機や原因などを考えても残された人々の慰めにしかならないのかもしれない。それだけでも十分な価値はあるのか、等と疑問に思ったりしたときもあったのだが、それでも、今現に自分はそれを知りたがっている。正直、このような感情は経験者しかわからないのだろう。否、この出来事だけではない。結局はどんな事でもその経験のない人物にはわからない。ただでえ、人は皆それぞれ違うのだ。その考え方や、生活環境、外見。同じ経験をしたとしても、それによってその人の感じる答えは変わってくるというのに、どうして経験すらも無いのにその答えはわかるのだろう。そう、わからなくて当然と思うしかない。開き直りの人生だ。 「柔らかくて綺麗な人だったんだけれども――――――彼女の闇は深かったんだろうね」 人の闇を全て把握する事は、とても難しいことだ。大抵の人々は、その本人でさえ自分の闇を把握しきっていないことの方が多い。そして、ふと自分の心に住む闇とぶつかり混乱する。自分ですらわかっていなかった不安なども全て、見ていたくない、認めたくない自分さえも出てき、嫌悪し、それを怖がる人もいるのだろう。自分の闇と正面衝突するのは、もしかしたら人として一番恐ろしいことなのかもしれない。 そんな、深い深い思いを本人とは違う人物が把握しきる事ができるのだろうか? それをわかろうとする事すら、傲慢というものではないのか。 「人の闇を全て把握する事なんて、きっと不可能に近いんでしょうね」 それでも、どうしてその闇を少しでも知れたら、と思うのだろう。それは親切心なのか。それに酔う自分の為なのか。偽善というものなのか。只の善なのか。相手に近づきたいからなのか。少しでもわかりたいからなのか。探求心に近いものなのか? 「みんな、不器用なんだよ」 「素直じゃ無いんですよね」 そして、少しでもその人の闇を垣間見れたとき、嬉しくなったりもするのも事実。やっと、近づけた気がするから。 人との間の距離は、どの程度が丁度いいのだろう? 人それぞれ、等と言われてしまったら、確かにその通りだ。なんの反論もできない。 近づいたり、離れたり。 「それでも縮めたいと思うのは、傲慢というものですか?」 「何を?」 「人との――――そうですね、この場合はジュエルとの距離です」 「……そうだね。確かにそれは傲慢な事だ。僕の気持ちを全く無視しているしね。勝手に近づいて来て、それを相手が嫌がっていたら迷惑だとは思わないかい?」 「どうでしょう? わかりません。微妙なとこですね」 「まぁ、最後まで聞きなよ。でも、ここで重要なのは今君が距離を縮めたいと思っているのは誰だ、ということだね」 「ジュエルです」 まっすぐにジュエルを見て。 「問題だよ。1嫌がっている。2嫌がっていない。さぁ、簡単な二択だ」 その質問に、アメリアはにやりと笑う。 「3どうでもいい」 その答えに、一瞬目を丸くして、満足そうに、楽しそうに、そうジュエルは確かに微笑んだ。 「あぁ、確かにそうかも知れない。でも、うん、一回しか言わないからよく聞きなよ」 頷きながら、ジュエルは柔らかに微笑む。 「僕はイヤな事をわざわざするような人間じゃぁ無いよ」 「そうですね」 「そんな僕が今話しているんだよ? さぁ、答えはわかるよね」 ジュエルは笑ったのだ。本人すらも気付かないほど、自然に。余りに自然で、ついジュエルが『笑わない』と言うことを忘れてしまうくらいに。 ふわり、とした笑みはとても綺麗で、暖かくて柔らかだった。 「さて、話を根本に戻そう。まったく、君と話していたら話が枝葉にすぐわかれてしまう」 気がつけば、ジュエルの表情は随分と穏やかに、柔らかく、豊かになってきていた。 「母が死ぬとき、僕は側にいたんだ。そう、僕の目の前で母は死んだ」 「目の前で?」 「あぁ。僕が側にかけよった時には、もう重傷さ。体中血だらけで、部屋の中はもう真っ赤。あぁ、そういえば、クオネさんが死んだ時も部屋の絨毯が真っ赤に染まっていたね」 ふ、とジュエルは遠くを見る。 「クオネさんの時は、僕らが『気付いた』時にはもう死んでいたけど」 そこで、ジュエルの言葉がぴたりと止まり、手と首を軽くふった。 「あぁ、また話が枝にうつってしまった。そう、僕の産みの母の時だね」 自問自答を繰り返すような、独り言のとうなそうでないような喋り方は、どうやらジュエルの父の喋り方に似ているらしい。それは、以前ラズライトから聞いた事があった。そのスタイルが出るときは、彼自身も少し考え混みながら喋っている時なのだ、という。つまり、頭がフル回転している状態。 「僕の目の前で、血だらけになった手をそっと差し出して、そっと僕の頬にふれて――――」 言いながら、ジュエルの手は彼自身の頬にそっと添えられる。 「最後の最後まで涙ながらに何回も、まるで呪文のように言ったんだ。『笑わないで』ってね」 それが、彼を今でも縛っているたった一つの言葉。 何故笑ってはいけないのだろう? 今アメリアが疑問に思うような事は、きっとジュエル自身はとうの昔に何度も考えた事があったのだろう。 今では、ジュエルはそれを考える事すら無くなっていた。心の奥底にある引き出しに、そんな疑問は冷たく、堅く厳重な鍵をかけられてしまわれていたのだ。 その扉が、また静かに開けられる。 鍵をもっていたのは、アメリア。 何年も前に考えた疑問が再びジュエルを襲う。 「あぁ、なんで僕は笑ってはいけないのだろう?」 彼の止まっていた時間は、やっと動き出したのかもしれない。 「君の質問に答えよう。まず、ラズの言ってた事についてはもう説明した通りだ。そして、何故笑わない、という事だけど――――」 窓の外の空は、まるで泣き出しそうだった。 「きっと僕はまだあの時の言葉に縛られているんだろうね。何故笑ってはいけないかだなんて、僕自身正直わからない。でも、それが彼女の望みだった。まるで、遺言のように、まるで呪文のように、ずっとそれを僕に言い続けていた」 泣き出しそうな空は、ついに泣き出した。 「『スノー・ジュエル』と『イプセン・ジュエル』を見て、彼女はずっとラズと僕を比べていった。僕はいつまでたっても影花だって」 あの二つの白さのように、全てを白で埋め尽くしてしまえれば、何も比べる事はないのに。 「彼女は、いつも言っていた。『私には何も無い』と。そして、僕に言うんだ。『貴方だけは消えないで』って」 ジュエルの声だけが響く部屋の中は、空気が息苦しくなるほど濃縮されていた。酸素が薄いわけでもないのに、そんな感じがした。 「僕が望んでいたのはなんだろう? 僕は何を求めていた?」 アメリアは、そっと立ち上がって窓をあける。泣き出した空は、とても痛々しかった。 「僕が望んでいたのは、優しく癒してくれた、柔らかい、眩しいばかりの母の笑顔だった」 ふわり、と冷たい風が部屋に差し込み、それがアメリアとジュエルの髪を揺らし、湿った風が少し心地よい。 「彼女の笑顔は、僕が笑うと消えてしまった。あぁ、それだけじゃないね。僕が父に似た所を垣間見ると、その笑顔はすぐに消え去った。つまり、僕の笑顔は特に父を思い出させたんだろうね」 アメリアは、椅子に戻ってゆっくりと座る。 「母様には、笑っていて欲しかった」 雨が地面を打ち付ける音が、酷く響いて、酷く大きく聞こえる。 「僕は、今でもその笑顔を望んでいるのかも知れない。だから、笑わないのかも知れない」 それは、きっとジュエルの真実だった。 彼さえも、きっと初めて気付いた。 望むモノは同じ。 望むモノは、誰かの笑顔。 優しげな微笑み。 人の笑顔というものは、とても大きな影響を及ぼす。その笑顔だけで人を勇気づけ、元気を与え、またそれが人をえがおにさせる。そして、時にその笑顔が人を苦しめ、人を嘆きへと導く。 光と闇を持つ笑顔。 それでも、笑っていられたら。 ずっと、笑顔でいれたらいいな、と思ったりする。 そして、望むのだ。 笑顔を。 「でも、母様はもういないんだ。その事実をしっかりと受け止め無ければならない」 自分の母の死を思い出しながら、ジュエルは呟いた。自分で言って、それに静かに頷き、納得する。 そう、母はもう死んだのだ。もう、ジュエルが笑っても、笑わなくても、彼女は笑わない。いくら求めても、それは無意味な行為になってしまうのだ。それとも、只の呆れた自己満足か。 (なら、もう縛られなくてもいいじゃないか、と思うことはいけないことなのかい?) その問いに、ジュエルは答えられない。そう、彼自身迷い、そしてわからないのだ。 (例えばの話だ。もし、母が生きていても、僕はずっとその言葉に縛られる気だったのか?) その問いにすら、彼は答える事が出来なかった。想像がつかない。自分の考えの範囲を超えてしまっているのだ。それでも、一つだけ答えるのだとしたら。 ジュエルは、はっきりと言う。 「僕は、僕だ」 結局、今ゆっくりと考えてみると、母が見ていたのはジュエル自身では無かったのかもしれない。いつも、見ていたのはジュエルに重ねた父の姿。 それでも、いつもジュエルは求め続けていた。 ――――僕を見て。僕は父とは違う。 もう一度、今それを考えてみると、なんて『らしくない』んだろう。はっきり言って、そんな自分を少し認めなく無いくらいだ。 母が自分を見ていないのに気付かない振りをして、それでも自分を見てほしくて、嫌われるのがイヤで、言いなりになって、嫌われる事に脅えて、そして笑わなくなった。 ピチャッ 窓から吹き込む風と共に、酷く降り続ける雨がジュエルとアメリアの頬をうっていく。 「土砂降りだね……」 「窓、閉めてきますね」 「いいよ、僕が閉めてこよう」 すく、と椅子から立ち上がり、ジュエルは窓へと向かう。 雨は、ジュエルの心の岸辺にもうちつける。いくつもの波になって、そう、強く。 「僕は、まだまだ子供だな」 母に望んだ欲求が、今でも止まない。 「まったく、馬鹿だね。僕は」 窓を閉めぬまま、窓に手を添えたままでジュエルは言う。風と雨はどんどんと部屋の中に入り込んできて、次々と家具や彼らを濡らしていった。 「未熟な自分を受け入れないどころか、受け入れていないことすら忘れていたんだ」 「ねぇ、ジュエル」 「ん?」 「私思うんですけどね、自分を子供だって認めるところから大人への一歩なんじゃないでしょうか?」 「……君は僕がやっと大人への道を歩みだしたっていってるわけ? なにそれ? 自分は大人だっていいたいわけ? へぇ〜、それをわざわざ僕に諭して優越感? 君お得意の正義感? 偽善ってやつ? あぁ、親切心押し売りをして、僕を慰めようとか? あぁ、さぞ気分がいいんだろうねぇ。まったく、君は――――」 「…………ぷっ……あは、あはははははははは」 「ちょっ、どうして笑う―――――」 「やっと、いつものジュエルです」 ずっと、言いたかった言葉。 「いつもの、僕?」 ずっと、言って欲しかったんだ。 「ジュエルは、ジュエル。それ以外の誰でも無い、ジュエルですね」 ずっと、認めて欲しかった。 「僕が、なんで君に惹かれたが少しわかった気がするよ」 ずっと、望んでいた言葉。 「以前、ラズライトさんがいってましたよ。ジュエルは、本当は否定的な自己イメージを持ってるんだって」 例え、それを望んだ事が過ちだったとしても。 「ねぇ、もっと自分を好きになりましょうよ」 それでも、かまわない。 「……ふんっ。ラズったら何をいってるんだろうね」 「ジュエル?」 「僕は僕が大好きだね。そう、僕は僕だよ」 もし、今の自分と母がいたら、自分はまた母に脅えるの? 答えは、ノー。 「ねぇ、ジュエル。笑って下さい」 「……この僕の笑顔を無料(ただ)で見る気?」 「なに馬鹿な事いってるんですかっ」 やっと、ジュエルは笑えた。 もう、拒否はやめた。 部屋を閉めるドアの隙間はちらりとあいていて、ドアの後ろでは銀色の髪の青年はくすり、と笑った。 「これでハッピーエンド――――違うわよね?」 止まぬ雨を木の下で眺めながら、リナは問うた。その問いに、アメリアは頷きながら、そっと手を雨にさらす。 「そうですね。ハッピーエンドなんかじゃないです」 雨は、まだ痛い。 ************************************** まだ、あります(笑) それにてしても、この話の中心となっていたことが、やっと解決してくれましたね。本当に、よかったです。もう、一時期はジュエル笑わなくてもいいじゃんって開き直ってました(待て、それじゃぁ話が進まない) そうそう、ラズが何をしたかったのか、ですが、彼はこのままでは何も進まない、と思い、思い切って自分から悪役をかってで、そしてもう強引にもっていったんですよね。 自分から、その話をふる、ということで。 まぁ、そのことはきっとジュエルは理解していましたが。 そして、ドアの後ろでそっと話を聞いていた。 彼もまた、不器用で素直じゃ無いんですよね(笑) それでは、初めの女の人は誰でしょうネー。新しいオリキャラさんですよぅ♪ では、次も読んで下されば、かなり感激で嬉しいですv それでは、ブラッドでした。 |
19293 | BGMは『Place〜』で。 | 蒼杜 | 2001/12/30 01:19:15 |
記事番号19290へのコメント >皆様、こんばんわvブラッドです。 今日和v蒼杜です。またお邪魔しますね でも投稿スピード早くて吃驚でした >とうとう、ここまでこぎつけました。もう完結まで、あとひとふんばりですね(笑) ラストがどうなるかとても楽しみですv 最後まで頑張って下さい♪ 自分なりに色々考えてしまいましたし。 段々と明らかになる展開に、どきどきしてました。 ホント、ジュエルって素直じゃないですね。(あ、ラズもですね) でも、アメリアに向ける笑顔はきっと凄く綺麗なものだと思いたいです。 この二人のほんわりしてる感じがかなーり好きですvv >「これでハッピーエンド――――違うわよね?」 > 止まぬ雨を木の下で眺めながら、リナは問うた。その問いに、アメリアは頷きながら、そっと手を雨にさらす。 >「そうですね。ハッピーエンドなんかじゃないです」 > 雨は、まだ痛い。 えっ?! と言うことは、どうなるんでしょうか? オリキャラのお姉さんもどう関わるか気になります。 そして、パパさんは一体??? では、嵐の様に出てきては去っていく蒼杜でした♪ |
19306 | あぁぁぁぁっっっ、もうその通りなんですっっ!!>BGM | ブラッド | 2002/1/1 13:41:22 |
記事番号19293へのコメント あけまして、おめでとうございますvブラッドです。 >今日和v蒼杜です。またお邪魔しますね こんにちはですv いえいえ、もうどんどんお邪魔しちゃってくださいませっ!!決して『邪魔』なんかじゃございませんのでっ!! >でも投稿スピード早くて吃驚でした あっはっはっは。投稿スピード〜、もう落ちちゃってるぞぉ(泣) >>とうとう、ここまでこぎつけました。もう完結まで、あとひとふんばりですね(笑) >ラストがどうなるかとても楽しみですv 最後まで頑張って下さい♪ >自分なりに色々考えてしまいましたし。 ラストまであと少し、とかいいながら、あと9話くらいはあるんですけどね(滝汗) でもっ、頑張りますねっ! ありがとうございますv >段々と明らかになる展開に、どきどきしてました。 どきどきするようなもんじゃぁ、無いですよう(笑) でも、ホントに最初は謎ばっかでしたからね(自分でも) ちゃんと、解明できてよかったです〜v >ホント、ジュエルって素直じゃないですね。(あ、ラズもですね) なんかねぇ、ブラッドが書く話って絶対主人公は素直じゃなくて、大人になりかけのような、もう子供ではないような…う〜ん、難しい。その中間みたいな人達ばっかりなんですよね(笑) いや、多分自分がそうだからだと思いますけど。 あ、あと大抵の人は、好きなモノはなんですか? 時聞かれると『鏡』と答える方々です(待て) >でも、アメリアに向ける笑顔はきっと凄く綺麗なものだと思いたいです。 >この二人のほんわりしてる感じがかなーり好きですvv へへへへ〜vありがとうございますっ!! ブラッド、雰囲気を誉められるとかなり嬉しいです♪いや、もう顔真っ赤! この時のジュエルの笑顔って、きっと凄い柔らかで、とっておきの素晴らしいものなんでしょうねv …………見てみたいわ(爆) >>「これでハッピーエンド――――違うわよね?」 >> 止まぬ雨を木の下で眺めながら、リナは問うた。その問いに、アメリアは頷きながら、そっと手を雨にさらす。 >>「そうですね。ハッピーエンドなんかじゃないです」 >> 雨は、まだ痛い。 >えっ?! と言うことは、どうなるんでしょうか? ふふふふ、忘れてはいけませんよぅv あの、言葉があったじゃないですか♪ 『彼は、その花を染め上げてしまいました』 『人を狂わしてしまうような……綺麗な赤色』 ジュエルがやっと笑ってくれたので、とうとう後半部分のそこに突入ですv あ、でもでも、最後の最後はハッピーエンドですからね♪ >オリキャラのお姉さんもどう関わるか気になります。 ノイズちゃん、改め本名『ルカ』ちゃんですね(笑) お姉さんっていうか、多分彼女リナと同じ年くらいだからなぁ(笑) 彼女はね、もうブラッドお気に入りキャラになります(笑)ものすごい個性強い子です。んでもって、逆バージョンの彼女はかなり素敵です(爆笑) いや、微笑ではシリアスで入ってくるんですけどね。 >そして、パパさんは一体??? 多分、一番謎の人。 でも、この人の存在のお陰で、微笑の続編ができました(待て) 続編(ジュエルシリーズが(爆笑)) 実は、ロードさんとクオネさんの出会いの話があるんですよ。ロークオシリーズ(待て) それは、ブラッドがいつかきっと作るHPのみの連載(いや、だってスレキャラでない、ほぼオリジナルだし)にするつもりだったんですけど、ここまで彼らは出張ってきてしまったのと、都合上(ロードさんの職業っぽいのをはっきりさせるためにも)一度投稿せざるを得なくなりました。っていっても、一話だけなんですけどね。 というわけで、そちらの方も近日投稿しますので楽しみにしてて下さいねv >では、嵐の様に出てきては去っていく蒼杜でした♪ はいっ。レス、ありがとうございました。 本年もよろしく御願いしますね。 ブラッドでした。 BGM……ちなみに、微笑のラストは、同じく『SOPHIA』の『Thank you』がお勧めですv |
19391 | 微笑みの傷跡 16 | ブラッド | 2002/1/7 00:27:16 |
記事番号19256へのコメント 夜になると、月は美しく、とても澄んでいました。 +++++++微笑みの傷跡 第16話++++++++ それは、アメリアが帰還する当日だった。 「本当に帰ってしまうのかいっ?」 さよならの言葉と、ありがとうの言葉を言いにきたつもりだった。 今日の夜に、アメリアはもうこの地をさり、セイルーンへと帰る事になっている。それは、ずっと引き延ばしにしてきて、ついに決まった決定事項。約束は、守らねばならない。約束を破るなど、正義ではない。 彼女の持論が、余計に彼女自身を苦しめる。いっそ、それが人に命令された事ならば、人のせいにできて楽でもあるのだろう。が、これは自分で決めた事だ。そして、ジュエルとの約束。 ジュエルは約束を守った。ならば尚更、それを破る事なんて自分が許せない。 後ろ髪をひくラズライトの言葉に、アメリアは苦笑したまま頷いた。 湿った空気が彼女たちの髪を撫でるように過ぎていく。 「当然だろう。アメリアの家はここじゃ無いんだから」 相変わらずの無表情で、ジュエルは淡々と冷静に言う。その態度は、とても事務的のようで、とても冷たく聞こえてきて、それが彼のスタイルだとは理解はできていても、アメリアの胸を締め付ける。 「さよなら、ですね」 鮮やかな笑顔を浮かべて、鮮やかな作り笑顔を浮かべて、出来るだけ無邪気にアメリアはくるりとジュエルとラズライトに背を向けた。 別れの日は、とうとうきてしまった。 それはいつか必ず訪れるものなのだ。それが、少し早まっただけなのだ、と無理矢理思いこむ。とても短い間だったけれでも、とても濃縮された時間を共有したのだ。 ゆっくりとアメリアは歩き出す。 「その前に、やっぱりあの場所に行ってみたかったんですよね」 始まった場所も其処。 終わる場所も其処。 それは、白い花が咲き乱れる丘。 「ここで、出会ったんですよね」 木々が風で揺れる音が、酷く哀しい音に聞こえた。 「うんっ,ボクは違うけどねっ」 ラズライトの言葉を無視して、ジュエルとアメリアは続けていく。 ゆっくりと、夢見た場所を目指して、アメリアと、ジュエルと、ラズライトは歩いていく。 「思えば、奇妙な出会いだったね。それは、とても最近の事の筈なのに、まるで酷く昔のようだ」 その光景を思い出しながら、彼女らは進んだ。 「大馬鹿者よばわりされましたしね」 ぴたりとアメリアは歩みを止めて、ジュエルを睨み付けて、まるで問いつめるかのように彼の顔を覗き込んだ。そんなアメリアの様子に、一度ふっと息を吐いて、ジュエルは肩を竦め、人差し指をさして顎を僅かに上げると、まるで諭すかのようにアメリアに話していく。 「おやおや、相変わらず威勢がいいねぇ。僕は今でもそうおもっているのだが、それま間違いというモノなのかい、お姫サマ?」 芝居がかったオーバーアクションに毒舌をブレンドして、ジュエルは逆にアメリアに問いつめた。が、アメリアもなかなかのモノ。彼女は、彼の反応にはもう慣れていた。つまり、返し方を心得てきた、というわけである。 「その呼び方やめて下さいね。ジュエルさん?」 さらり、と返して、仕返しとばかりに微笑むと、アメリアはあえて、『さん』をつけて呼んだ。 互いに、やめてくれといった呼び方をあえてすることで、余計に鮮明に思い出す。 「う〜む。もしや、とは思うのだがキミ達はこのボクの存在を忘れてなどいないだろうねっ?」 アメリアとジュエルの歩みは自然と走りに近い程早歩きになっていた。彼らのかなり後ろから、ラズライトは手を振る。 「あ、そうか。ラズライトさんって運動……」 「そ、どうしようも無いほどの運度音痴。ちなみに、ラズの側に猫とか犬とか兎とか、なんでもいいから動物連れてきたら面白い事になるよ」 「面白いことになるって、ジュエル……ラズライトさんって動物嫌いなんじゃぁ」 「馬鹿? だから面白いんじゃないか」 目を細めて、ジュエルはラズライトを見下ろすかのように見つめていた。 ふわり 風にのって、花が舞う。 「天気、よくはないけれども、とりあえず雨が止んで良かったです」 「いつ降り出してもおかしくないけどね」 昨日の雨が止んだのは、今朝だった。だが、空はいまだに泣き出しそうな曇り。地面や空気や風は、雨の名残を感じさせていた。それでも、アメリアは楽しそうに笑って、たかたかと丘の上まで走っていく。 「いいじゃないですかっ。それにこの風涼しくて気持ちいいですよっ、てあぁっ!!」 ドベシャッッ! 「うわぁ、みっともないね。美しくない」 口に手をあてて、目を細めてゆっくりとアメリアに近づいてきたジュエルは、手を差し出そうとする行為もなく、心配する言葉すらもかけずに軽くアメリアを一瞥すると、さっと彼女の側から離れた。 「どろどろだよ、アメリア。僕に近づかないでくれる? 汚れたくないから」 雨が降っていたせいで、丘の地面はどろどろだった。見事なまでに綺麗に転けた為、アメリアの全身はどろだらけ。それは、衣服や靴に、手だけではなく、顔にまで付着していた。 「気持ち悪い」 まるで独り言のように小さく、ぼそりとジュエルは言ってアメリアの側からできるだけ離れた。 「あ、タオルとか貸してもらえるって期待しないでくれる? 確かに僕は持ってるけど今の君には貸したくないからね。僕のタオルが汚れるから」 淡々と言って、ジュエルはちら、と自分の身なりを見て、そして確認する。すると、彼の視線は自身の靴の部分でぴたりと止まり、整った美しい顔を顰めさせた。 「まったく、正直いうと僕はあまりきたくなかったんだよね。ほら、みてよこの靴。どろどろだよ? 地面はグチャグチャで、そうまるでヘドロのようだ。あぁ、気持ち悪い。僕って、醜いモノって大嫌いなんだよね」 アメリアの安否よりも、自分の身なりを気にするジュエルに、アメリアは眉をピクリを動かして、ゆっくりと立ち上がる。 「相変わらず、嫌味な人ですね」 「嫌味だなんてとんでもない。僕は自分の心配をしているだけだよ。だって、僕は自分が大好きだからね」 ふっと鼻で笑われて、アメリアは益々立腹する。 なにせ、昨日自分が彼に『自分を好きになりましょうよ?』などということをいったのだから、余計に反論が出来ない。 「君が望んだことだろう?」 その言葉を無視し、アメリアは一人で小さく呟いた。 「大丈夫です……大丈夫です。私は怒りませんよ〜。明日になればこんな人とはおさらばですからねぇ〜」 「明日に期待するねぇ。つまり、どうにもならない事を明日にまわした現実逃避だね? ふむ、大抵の場合、明日も対して変わらないよ、アメリア」 「あぁぁぁぁぁぁっっ。もう五月蠅いですよっジュエル!!」 「おお、恐い恐い。そんな顔をなさったら、せっかくの御自身の麗しき美貌が台無しですよ? アメリア様」 「もうっ、からかわないでくださいっっ!!」 そんな二人の漫才のようなやりとりを、ようやく彼らに追いついたラズライトは笑う。 「ねぇ、ラズ。どうやらアメリアはまだ怒っているようだよ。僕は怒らせるようなことなんて、これっぽっちも全くしていないのに、あぁ、なんて不思議な人なのだろうね」 自覚無しのジュエルに、アメリアは呆れた。 歩きながら喋って、彼らはいつのまにか丘の頂上へと辿り着いていた。 丘から見える、とても美しい光景に一度目を向け、ジュエルの視線はすぐにアメリアに移った。アメリアの表情は、今だに笑顔ではなく、頬を膨らませたりなんかもし、すぐに怒っているとわかった。 「それでは、ご機嫌斜めなアメリア姫に、僭越ながらこの私(わたくし)めから、素晴らしきものをご覧にいれましょう」 恭しくアメリアに礼をし、芝居がかった口調と仕草でジュエルはアメリアを導いた。 「失礼ながら、少し目隠しさせていただけませんかな? 姫」 「大丈夫だよっアメリアちゃんっ!! ちゃんとこの僕が手をひいてあげるから、なんの心配もせずにこの僕を頼って導かれるがいいさっ」 「ルカ」 「はい」 名前を呼ばれて、女は身体をぴくりと硬直させ、返事した。ふわりと少しくすんだ紅茶色の髪を揺らして後ろを振り向くと、そこにはミルクティー色の髪をした青年がいる。その青年は、美しい青色の瞳を彼女へと向け、酷く事務的に言い放った。 「今日が、リミットだ」 とても、冷たく聞こえるが、これが彼のスタイルだ、と言うことなど随分と前から彼女は理解していた。が、理解していたとしてもいまだに慣れない。心の片隅が、ぴくり、と震える。 「はい」 「出来るか?」 「それが、貴方の望みであるのならば」 きっとそれが、彼女の望みでもあり、青年の望み。 「ルカちゃん、こぉんな人の言うことなんてほっといてもいいのに」 緊張感で張りつめた空気をキャラキャラと笑って断絶し、女は銀色の髪をくるくると自身の指に絡めさせて、弄ぶ。 「おや? 君『も』戸惑っているのか?」 青年の言葉に、ルカと呼ばれた少女は、ぽっちゃりとした唇を強く咬んだ。視線を下へ向けると、身体までもが小さく震えているのがわかった。まるで、五感が全て麻痺してしまったような感覚が襲ってくる。 ―――――ばれてる。 「ロードさんこわぁぁい。ルカちゃんを虐めてる〜っ!」 銀髪の女はまた笑い、たかたかとルカに駆け寄ってきた。 「クオネさん……」 ルカの言葉に、彼女はにっこりと笑った。 「まったく、君は何故そう空気というモノが読めないんだ」 「えへ♪ ちゃんと読んだよ。それでこういう結論にたっしたの」 「馬鹿だ」 「どうせ、あたしは馬鹿ですよーだ」 「あぁっもう。二人とも何やってるんですかっ」 にこやかに睨みあう二人の中に入っていき、ルカはゆったりと肩の力を抜いた。 ―――――あぁ、なんて心地が良いんだろう。 ルカは、この空間がとても好きだった。そして、この二人がとても好きだった。それは、きっと出会った時から。 なにより、彼らはルカの好む『綺麗なモノ』であった。それは、外見だけではなく、中味も。 「で、本気で大丈夫なのか?」 「……貴方の望むものなのであらば、私はきっと平気です」 一瞬のためらいも、きっと彼には気付かれている。 「そういえばさ、ルカちゃんもだよね。うん、この人はいつも聞く」 「なにがだ?」 急に話が変わり、青年とルカの視線は一気に銀色の髪の女へと向けられた。すると、彼女は一瞬にやりと笑むと、声を低くして言う。 「君は、望むのか」 そう、ミルクティー色の髪の男の声を真似て。 真似られた本人は、一瞬目を丸くして肩を竦めた。 「似てないな」 「そう? 自信あったんだけどなぁ」 「っとに……クオネさんは……っは…あははははは」 「えへへぇ」 三人は、笑った。 ―――――あぁ、なんて心地が良いんだろう。 「ルカ、君の望みはなんだ」 彼の静かな、だがきっぱりとした声が響き渡り、まるで別世界にいるような気持ちになる。彼と会話しているときは、大抵そう思う。その質問に、ルカは迷いもせず、当たり前のように答えを述べた。 「そんなの、今も昔も変わってませんよ」 ずっと望んでいるモノ。 「幸せになりたい」 「幸せか…………君の幸せとはいったいなんだ?」 予想外の質問に、ルカは戸惑いを隠しながら問う。 「幸せの定義の説明をしろ?」 「違う。君の幸せとはなんだ」 「私の幸せ? そんなの…………っ」 舌打ちと共に、小さく吐息を漏らして、ルカは長い髪をかき上げて首をふる。 「……わからない」 悔しそうに唇を噛み締めると、弓形の眉を軽く顰めて俯く。 幸せになりたい。それは、確かに束の望み。その願いは、あの出来事が起きてから特に強く望むようになった。そして、その思いはずっと変わることはない。きっと、これからも。 だが、わからない。 幸せとは、いったいなんなのだろう? 理解できているようで、説明できない。 嬉しい思いの事? 楽しい思いの事? 幸せを経験したことはあった? 自問自答。 小さな幸せ、と言われるものなら何度か経験してると思う。例えば、御飯が美味しかった事。例えば、美人が見れた事。それでも、自分は幸せじゃない、と思う。そう思う自分が贅沢者だ、なんて馬鹿げた事を思う気に、ルカは全く慣れない。なにせ、本当に馬鹿げてる、と思っているのだから。 なぜなら、幸せの定義なんてモノは人それぞれで、それを判断するのはその人なのだから。だが、それを贅沢だ、と言われた事について否定する事もルカはしなかった。人の定義なんてそれぞれだ。誰かの定義に口出しはしない。自由。それが、ルカが自分に誓った制約(ルール)。そして、自分もまた誰かに口出しされたくないのだ。そして、そんな彼女の性格が余計にルカを孤立させていく。それは本人自身よくわかっていても、ルカは一人を選んだ。 プライド。 ルカのプライドの高さは、自他共に認める。何を犠牲にしても、彼女はそれを貫き通していた。 しかし、いったいルカはどのような事が幸せだと思えるのだろうか。それは、本人自身わからない。只、彼女の頭の中にあったのは、漠然とした『幸せへの憧れ』 ただ、憧れた。 ただ、望んだ。 だが、幸せが何なのかすらわからぬ現状。 乾燥して切れた唇からは、鉄臭い血の味がした。その不味さに顔を歪めながら、ルカは彼に聞いた。 「幸せって何?」 「その判断をするのは君だろう?」 「…………ん」 それは、間違っていないのだろう。判断をするのは自分だ。そして、自分で選ぶこの道を選んだのも自分。 彼の言葉は、いつもルカの心に触れた。そして、その度に何かに気付き、考える。まるで彼はカウンセラーのようだ。 ルカも彼同様相当頭の回転は速いと自負しているのだが、この男はきっと発想そのものがルカと違うのだと思う。そして、きっとルカよりも数倍頭がよく、回転も速いのだろう。 例えば、ルカは七歩先の事を数十パターン考えていたとしたら、このルカの数少ない尊敬に値する人物は、三十も先の事を数百パターンは考えているのだろう。 この男には、敵わない。 彼は、ある意味ルカの目指す人物でもあった。 「幸せってなんだろう?」 「さっきから、随分と抽象的だな」 「何?」 「それは誰から見てだ?」 「全部」 「……全ては、所詮感情に過ぎないのだろう」 「感情?」 「そうだ」 頷く彼を視界に捕らえて、ルカはくすんだ紅茶色の髪を指で弄んだ。 「『気持ち=思い=感情』という、実に簡単な方程式だ」 「つまり?」 「幸せとは、所詮その場の感情だ」 「だから、それがどんな感情なのかすらわからないんだけど……」 「……君は悲しさを習ったか?」 「いいえ」 「君は辛さを習ったか?」 「習ってない」 「なら、何故君はその思いを理解できるんだ?」 「……わかんない」 段々と、言葉使いが素に戻ってきていることに苛立ちながら、でも、それを抑えることができない自分に益々苛立って、ルカは拳をかたく握りしめた。 そんな様子を、彼は何をするわけでもなく、ただ眺めて言う。 「ルカ」 「何?」 「本当に大切で、本当に好きで、本当に望むモノなんて案外少ないんだ。そして、それを見つける事ができる人物も、また少ない」 「それで?」 「求めていけばいい、幸せを。『生』を望んだように」 ルカは、只その言葉を聞いた。 「それにな、求めるモノが分かり切っていたらつまらないとは思わないか? 余りに未来が整頓されていてみろ。それは面白くないだろう?」 緊張感で張りつめた空気がパリンと割れた。 握りしめていた拳が、緩くなっていることに気付いてルカは苦笑する。 (この人って、精神安定剤?) そんな事を思いながら、笑った。 「ありがとうございます」 「俺は、別になにもしていないさ」 そんな二人の様子を、クオネはクスクスと笑って眺めていた。 「私もね、同じだよ」 笑っていたクオネは、同じ調子で簡単に言う。 「私もね、ルカちゃんと同じ」 「何が?」 「私もね、望んだんだよ。『生』を」 そこでルカの笑いはピタリと止まり、笑っているのは銀髪の女一人のみになった。ルカの視線は一気に青年へと向けられる。 それは、初めて知った事実。 たかたかと踊るように辺りを無邪気に走り回って、銀色の髪をはらはらと靡かせながら彼女はふわり、と青年の下へと辿り着く。 「……好き………………………………………ぷっ」 無邪気に言って、おかしなくらい間をあけて、無邪気に笑う。 「なんか、違うね?」 「あぁ、何か違うな」 夫婦なのだが、夫婦ではないような独特の空気。切れそうで、痛くて、儚くて、脆そうで、時に甘い、いったいなんの共通点があるのか、疑問な二人。 そんな二人だけど、ルカはとても、とても大好きだった。 でも、知らなかった。 青年は、やんわりとルカに微笑む。その笑顔は、もう一人のミルクティー色の髪の青年と、酷く似ていた。 「心配するな。何も君が完璧だとは、俺は思っていない」 青年は、軽く空を見上げて笑顔を消した。 「君を責めているわけでは無いさ。只、完璧なモノなど、生物では『無い』と思わないか? 不変のモノ等、生きては無いとは、思わないか?」 「どう言うことでしょう?」 青年の言葉は、時に酷く難しいモノで、それをしっかりと理解する事は、ルカはいまだに出来た事は無いな、と思う。只でさえ、この青年ははかりしれない人物なのだ。 「俺も、完璧ではないさ。が、完璧ではない方が逆に面白くもあるものだ」 一つ一つの言葉、全てが意味のあるようで、全く意味の無い言葉のようで。ルカは、只それを聞いて、頭に置いておくしかできなかった。 青年は、くるりとルカに視線を向けて、瞳に真剣の色を灯して言った。 「いいか。もう一度言う」 こくり、とルカは頷く。 「俺が許す――――――殺せ」 今はわけのわからない言葉であろうとも、それを従う事で彼女は生きていった。それは、命じられた事ではなく、彼女自身が望んだこと。そう、自分が生を望んだ時から、ずっと続いている出来事。 生きている意味なんて、生にしがみついている意味なんて、生かされた意味なんて、わからない。 無理矢理にでも、理由付けしないと狂ってしまいそうだった。 そして、自らが望んだのだ。 ルカは、ふわりと笑う。 「それが、貴方の望みであるのならば」 ルカはその場から気配を消した。 少し離れて、彼らには気付かれぬ場所まで走り、そして確認して自嘲する。 そう、もう泣くだけ泣いて、後悔はするだけして、躊躇いもするだけした。後は実行のみ、なのだ。それでも、まだこの手が震えていることが許せない。この目が潤んでいることが許せない。 「止まりなさいってば」 何度も自分の身体を押さえつけるようにして、ルカはただ空を見上げた。泣き出しそうな空は、まるで今の自分の心境のよう。歩いていると時折視界に入る白色は、彼女の心を締め付ける。 こんな感情は、初めてだった。 「さぁ、仕事よ」 無理矢理自分を言葉で制して、ピシリと髪を一つに束ねた。 やがて、雨は止むのだ。 それが、嵐すらであってもいつか止むのだ。 永久未来続くモノなど、あるハズは無いのだ。 そして、忘れるのだ。 記憶は、必ず薄れるのだ。 そして、いつか皆死ぬのだ。 ルカは、進行方向に足を進める。 そう、あの丘まで。 「残念。曇りね」 小さく、ルカは呟く。 「晴れなら、良かったのにね」 あの丘から見る月は、格別に美しかった。 今日は、嫌な日になる筈だから、少しでも楽しみを思わないとやってられないな、等と愚痴ったところで、天気なんて人の力でどうなるものでもない。 ルカは、笑った。 |
19392 | ツリーが落ちる前にっ | みてい | 2002/1/7 01:04:28 |
記事番号19391へのコメント こんにちは、みていです。 寒いですね。 楽しみにしてました「微笑」の16話。 ジュエルがスパークしてる(笑) そして輪がかかってる(笑) ラズライト、運痴で動物苦手だったんですね。なんだか意外でした。 子犬とかにまとわりつかれてわたわたする彼も見てみたい気がするんですが。 それから、ルカ。 ロードさんに心酔してるんでしょうか。 >「それが、貴方の望みであるのならば」 なんかものすごくいろんな意味が含まれてる気がします。 そしてそしてっ! 次の話ではルカが行動に移すんですねっ。 どうなるんでしょうっ。 最近、クオネさんがツボに入ってきました(笑) 毎回毎回の短いレスですいませんっ。 次こそはまともなレスをしようと誓いつつ、みていでした。 |
19438 | 落ちるぎりぎりに(汗) | ブラッド | 2002/1/9 02:33:41 |
記事番号19392へのコメント どもですっっ♪いつもお世話になっとりますv なんだかパソの調子がまじで悪いぞっ!とのことで、ほとんどできないので中毒症状がではじめているブラッドです(をい) >楽しみにしてました「微笑」の16話。 ををっ。そんな楽しみにしてくださるような、すごい展開はないですようvまだまだつなぎv >ジュエルがスパークしてる(笑) キザキザジュエルです(笑) >そして輪がかかってる(笑) あれに毒舌マシンガントークが加わります(笑)あぁ、おそろしや(をい) >ラズライト、運痴で動物苦手だったんですね。なんだか意外でした。 彼は、頭は滅茶苦茶いいですから。んでもって、何か欠点をって思ったときに浮かんだのがそれだったんですよ。 「ふんっ。人には向き不向きがあって当然だとは思わないかい? いや、当然だねっ当たり前だともっ!! ボクは断固運動音痴を貫いてみせようじゃないかっ」 と、彼も申しております。 んでもって、動物嫌いはブラッドと一緒です(待て) >子犬とかにまとわりつかれてわたわたする彼も見てみたい気がするんですが。 ……今度出しましょう(決定事項) >それから、ルカ。 あっはっはっはっは。やっと名前が判明しましたルカ嬢。ちなみに、彼女の名前感じバージョンでは(あるのかっ?)流香と申します。 >ロードさんに心酔してるんでしょうか。 心酔っていうか、詳しくは後々わかっていくと思うんですけど、彼女凄いブライド高くて、凄く責任感が強いんですよ。 だから、今現在の彼女は『ロードに生かされている』という状態に近い『かも』しれないので、『生かされた』とも言えるでしょうか。 だから、それの借りを返すのと……っとネタバレはここまでにしとこうっと。 なんか語りそう(汗) >>「それが、貴方の望みであるのならば」 これは、ずっと決まってたんです。ってゆうか、ルカにこれを言わせる為だけの16話といっても過言ではありません!!………………あ、あときざきざじゅえるん(笑) >なんかものすごくいろんな意味が含まれてる気がします。 >そしてそしてっ! >次の話ではルカが行動に移すんですねっ。 >どうなるんでしょうっ。 どうなるんでしょう? ………教えて☆みていさんv ごめんなさい。すいません。ちゃんと自分で考えます(当たり前だろう) >最近、クオネさんがツボに入ってきました(笑) クオネ嬢〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(大爆笑) いや、まじっすか?彼女に?いやぁ、あんなやつですよ(をい)いや、ブラッドも好きなんですけどね。 あぁ、そうか〜。クオネさんかぁ(頷き) いい目してるわっみていさん☆ >毎回毎回の短いレスですいませんっ。 いえいえ、ブラッドこそめちゃくちゃ短いですし(汗) まじですみません(土下座) ってゆうか、まじで落ちる直前だし。 >次こそはまともなレスをしようと誓いつつ、みていでした。 はい。レスありがとうございましたv 次回は…………いつになるかわかんないですけど(をい)待って下さればブラッド嬉しいですv それでは、ありがとうございますvブラッドでした。 |