◆−時の呪縛3−神無月遊芽 (2002/1/13 10:58:23) No.19514
19514 | 時の呪縛3 | 神無月遊芽 E-mail URL | 2002/1/13 10:58:23 |
こんにちは、神無月です。 うー、寒かったり暖かかったりでかなり嫌な感じです。 こういう時って風邪ひきやすいですし。 ****************************************** 時の呪縛 3 時の流れに翻弄されている者達 喜びも悲しみも嘆きすら それに影響されて 人間は弱すぎる 自分の体も心も護りきれない だから時は流れ続ける 時の止まった中で壊れてしまわないように 時の流れる中で希望も絶望も知らしめるために 3・記憶 黄金の髪、褐色の肌。 誰もがひれ伏すであろう美貌の持ち主である自分の主。 だが、その美しい微笑みが、今は何よりも恐ろしく見えました。 「リナ・インバース抹殺の命はどうしたの?」 「……申し訳ありません」 僕が頭を項垂れると、獣王ゼラス様は、頬杖をついてわざとらしい溜息を吐きました。 「いい?ゼロス?私は謝罪を聞きたいわけではないのよ。 もう一度聞くわ。命令はどうしたの? 私の可愛いゼロスが、こんな命令ひとつにこれほど時間がかかるとは思えないけど?」 「………」 答えない。答えたくない。 沈黙は静寂を生む。いっそのこと、僕が口を閉じつづけることでリナさんと戦う運命を止められたら、どれほどいいことなのだろうか。 「…いいわ。そういうことなら私にも考えがあるから」 突然予想外のそんな言葉を述べたゼラス様に、僕は驚いて顔をあげる。 その笑みは、今まで見たどの笑みよりも妖艶で、邪悪でした。 そうして僕を嘲るように微笑んだ後、すくりと立ち上がります。 「じゃあ、私は用事があるから出かけるわね」 「え…っ」 止める間も、理由を聞く間もなく、獣王様は姿を消してしまわれました。 「……ゼラス様…」 「あ、そうそうゼロス。机の上の書類は片付けておいてねー♪」 一瞬戻ってこられ、そう言い残してまたすぐに掻き消えてしまう。 その言葉に机の上を見ると…。 「……はあ……」 その量の凄まじさに、溜息を吐くしかありませんでした。 そう、あの時から怪しかったんです。 例え主といえど、リナさんを護るためにもっと警戒しておくべきでした。 こんなことになるなんて、思わなかった。 「貴方は誰?」 心を抉り取っていく言葉 絶望も拒絶も出来なくて、ただ受け入れるしかない現実 ただ 人の脆さと 我が主の残酷さと その主に狙われてしまったほどの強さに やるせない想いが貫いた 「リナさん、思い出してください、僕は、誰ですか?」 「…貴方は、誰?」 「やだ、変なこと言わないでよ。自分のことも忘れちゃったのに…あんたの事なんて解らないわ。 それに、あんたみたいな怪しい人、あんまり関わらない方がいいってことくらいは解るもの」 「リナさん、本当に…本当に忘れてしまったんですか!?」 「もう…嘘吐き。本当は知り合いなんかじゃないでしょ?さっきから変だもの」 「リナさん……」 「ねえゼロス、例え貴方が滅びたって、私の体が無くなったって 貴方のこと決して忘れないわ」 ずっと昔に 紡がれた筈の言葉。 嘘吐きなのは貴方です 僕の頭の中に、先程の記憶がふと蘇ってきました。 目の前で素知らぬ顔で笑んでいる主。 この事実をたった今聞かされた僕は、ただ、湧き上がるような怒りを持て余し。 「何故…何故ですか!?」 「何が?」 知らないふりをするその悪気のない声の調子に、どこかが音をたててきれた。 「ごまかさないでください!!何故、リナ・インバースの記憶を!!」 「勘違いしないで、ゼロス」 「っ!?」 ぞくりと、背中に悪寒が走る。 妖艶に笑む冷たい瞳に、体が凍りついた。 「私がおかしいのではないわ。貴方がおかしいのよ。 私達は魔族。つまらない興味などで、抹殺指令の出ている人間を生かしたりなどしないでね」 違う、興味なんかじゃない。 これは。今まで知ることすらなかった、この狂おしい想いは。 「獣王様!!」 「記憶を失えば、貴方の興味も薄れるでしょう。 これは、あくまで貴方の任務。貴方以外の誰がするのも許さないわ』 その言葉に、僕は言葉を出す気力さえ失った。 つまり、獣王様は。 そこまで、僕の手で僕の愛する人を殺させようとするのですか? 「あの人間は危険人物よ。世界が滅びる前に私達が滅びてしまう。 そんな人物は残らず退治する。当然のことでしょう?」 「…はい……」 力なくそう返事をする僕に、獣王様は満足そうに笑った。 「私の愛するゼロス。 大丈夫、記憶を消した事でリナ・インバースは呪文そのものは憶えていても、経験は皆無の状態。倒すことなど簡単よ。 これ以上、私の手をわずらわせないでちょうだいね」 「…ちょっと!…ええと、ゼロス?どうしたの?ゼロス!」 リナさんの声で、はっと現実に引き戻される。 「…すいません、考え事をしていました」 不思議そうな目で見ている彼女にそう言い訳をすると、リナさんはくすくすと微笑みながら「変な奴ね」と言った。 「でも…正直、どうにもならないから、あんたを信用するわ…。 名前すら解らなかったんだもの…名前を知っているあんたについていくしかないじゃない?」 知らないものを見る目。 無垢で、綺麗で、そして、僕に対する脅えすら感じる貴方の瞳。 「リナさん…すいません……」 「な、何謝ってんのよ」 僕の謝罪の言葉に、目を白黒させる貴方。 すいません すいません 貴方は何も悪くないんです 悪いのは 貴方を護る事が出来なかった僕 貴方を殺したくなくて あんな逢瀬を重ねていた いつまでも続く愛の証として 指輪を渡したつもりだった その結果は 貴方は僕のことも忘れ その指には宝石の輝きはなく …全て 奪われてしまった すいません 貴方の瞳を曇らせてしまったのは僕です 「…いっそ、殺してしまいましょうか」 「え…?」 思わず言ってしまった言葉に戸惑いを表し、恐怖の表情をはりつかせる貴方。 僕はそれを見ていつもの用意された笑みを浮かべると、さらりと言ってみせた。 「冗談ですよ。僕は、ある人から「本当の事も嘘も言わない」と評判なんです」 「ぷっ、なにそれ」 明るい笑みを見せてくれた貴方に、ほっとしながらも心は悲しみで満ち足りる。 魔族の破壊衝動。愛する人を壊してしまいたいという衝動。絶望の埋め場所としての欲求。 だけど、いけない。彼女だけは殺してはいけない。 どんなに愛していても、どんなに絶望しても、その瞳が二度と見れなくなってしまうことだけは嫌だから。 でも…リナさん?知っていますか? この言葉は、貴方の言葉なんですよ? 貴方は本当に…何も憶えていないんですね。 獣王様の術が強力だということくらい知っています。ですが…っ! そんなことを考えていると、ふと、こんな言葉が口を衝いて出た。 「…海でも、見に行きませんか?」 「う…み…?」 「ええ、記憶は、緩やかな時間の中でふいに蘇ることがありますから。 心がリラックスすれば、記憶が戻るかもしれません」 我ながら、凄い言い分だと思った。 だけど彼女はこれを納得したようで、大きく頷いてみせる。 「そうね…うん、私も海が見たい!」 「決まりですね」 リナさんにしてみれば、きっと、不安な気持ちでいっぱいで、藁にもすがる思いなんだろう。 だけど… 「……リナさん、記憶、戻るといいですね…」 嘘吐き、と。自分の中の意識がそう言ったような気がした。 「…うん」 どんなに不安でも、もしかしたら、記憶が無いままのほうが安全かもしれないのだ。 もしかしたら、記憶を取り戻すことなどなければ、リナさんを殺さなくてもいいかもしれないのだ。 甘い考えだと 自分でも解っているけど 「ゼロス」 「なんですか?」 「ありがと、ね」 はにかんだようにそう言った少女は、自分の知っていた少女と全く同じそれで。 このまま、さらって逃げようと。そんな思いが浮かんでしまうくらい。 悲しくて、しょうがなかった。 残酷な運命は 更なる残酷な運命を用意し続けて 絶望する事も忘れてしまうくらいに悲しくて 忘れられることが こんなに辛いなんて 殺したい さらいたい でもこのまま時が流れるならば 記憶なんてないままに この世の終わりが来て欲しい ****************************************** まだ暗め。 次回辺りから明るくなっていく…はず。 ゼロス君の一人称は難しいです。言葉尻とか。 やっぱり私は女の子視点じゃないと書けないみたいです(^^;) ではー。 神無月遊芽 |