◆−あなたへの月――フィリ→ゼロ→リナ−一姫都 (2002/1/13 21:27:52) No.19519
19519 | あなたへの月――フィリ→ゼロ→リナ | 一姫都 URL | 2002/1/13 21:27:52 |
あなたへの月 ――月が遠くで泣いている 暗闇の中泣いている―― 「おや、フィリアさん」 寝静まった宿の屋根の上。闇よりも尚暗い闇を纏った魔族が、こちらに不敵な笑みを向けた。 「珍しいですね。お嬢様が、夜のお散歩ですか?」 「寝付けなかったから……星を見ようと思って……」 巫女である彼女は、古からの呪いの方法、星の神託を受けようと思ってここに来た。 しかし…。 「災いの元がいたのでは、占も鈍るというものです」 「おやおや。これは手厳しい」 敵意を剥き出しにして掛かって来るフィリアを、軽くあしらうゼロス。 「でも、僕はここを退きませんよ」 「結構ですっ! 私だって、勝手に星を見させてもらいますからっ」 こんな状況で正しい占を読み取ることは、大変困難な事なのだが、忌々しい魔族への意地だけで、ここに居座るハメになったフィリア。 魔族に背を向けて、屋根に腰を降ろした。 座ると、花冷えとも言われている夜の冷気が、直に感じられた。 昼間はあんなに暖かかったのに…。 フィリアは悴む指を合わせて、息を吹きかけた。 そうして、夜空を見上げる。 幾億もの星が、忙しくきらきらと輝いている。 その数、その美しさに、いつでも圧倒される。 星の動きを読み取ることは出来ない。 「星を見るだけで、何かがわかるんですか?」 「わかりますっ」 フィリアは何故かムキになって、それに答えた。 現在、星の意図を汲めていないことを隠すかのように。 「例えば、西の空に赤い星が出ていれば、災いが近いだとかっ、 夜空に目を見張るような美しい星が流れたなら、明日は平穏であるとかっっっ!」 「ああ…なるほど」 魔族はその口元を上げただけの笑みを浮かべた。 ――ちりっ 苛つく…。 「占の邪魔をしないでくださいっ それに、あなたこそ何故ここにいるんです!?」 まさか占を信じている訳でもないでしょうに。 「ええ、もちろんですよ」 そんなフィリアの心を読み取ったのか、否か。ゼロスは呟いた。 「占等というものは、まったくもって無駄な行為ですから」 「無駄?」 フィリアが眉を吊り上げる。 「ええ。明日のことだの、明後日のことだの、100年後のことだのを占って、それでどうするんですか? もし、100年後にこの世界が滅ぶと解った所で、何か得することでもあるとでも?」 「ありますともっ! そうならないように、今から然るべき対策を取るのです」 「馬鹿馬鹿しい」 「なんですって!?」 「星が告げるような事が、そう簡単に回避できるものですかね」 「出来るわよ!」 苦痛に顔を歪めるフィリア。そんな竜の娘の様を、楽しげに見つめるゼロス。 ――ちりっ 胸が締め付けられる。 漆黒の魔族から注がれるのは、怖気がする程の蔑んだ笑み。 ――どうして…… 「まあ、古の竜族の儀式になんか興味は無いって事です」 フィリアから負の感情を貪るのに飽きたのか、ゼロスは再び視線を空へと移した。 そこには、一片も欠けることなくたゆたう月の姿。 あまりの美しさに、思わずに感嘆の音が漏れる。 「なんて………」 その先は云わずとも、伝わる。 静寂の中、月光を、悼むように浴びる魔族。 面に浮かぶのは、恍惚の表情。 怖気がする程妖美な、闇に住まう者と、それを照らす月。 ――ちりっ… 「…星に」 ソレガ アタシノココロヲカキムシル 「興味が無いと云ったくせに、月にはご執心なのね」 魔族のくせに。 皮肉を込めて放った詞は、神々しい光に遮られた。 「ええ」 うっすらと目を開けたまま、微笑むゼロス。 ――ちりっ… 「闇に溶け込むことなく、気高く、美しく」 まるで 「まるで」 ――まるで…… 「そうまるで…… あの人のように」 ――ぎりっ フィリアは苦痛に歪んだ笑みを浮かべた。 「…貴方 可愛そうな男ね」 心が、酷く痛む。 何故……何故なの? 「リナさんは、あなたを好きにはならないわ」 馴れ合わず、誇り高く、美しい ――まるで月の女神のような少女。 ゼロスはフィリアに背を向けて、沈黙している。 「だって、あなたは魔族で、…リナさんは人間なんですもの」 種族を越えた愛? 偽善だわ、そんなもの。 ――ぎりぎりっ 胸の部品が軋む。 「魔族が人を愛するだなんて、気味の悪い事…!」 だって貴方は殺すじゃない。 だって貴方は人間を殺すじゃない。 だって貴方は… だって貴方は… 「どうして……」 ――ぎりぎりぎりっっっ!! 心臓ガ壊レテシマイソウ 「どうして、リナさんなの!?」 闇を裂く女の悲鳴。 脳髄に響く、命を削るような、狂乱の声。 喉が焼けてしまいそうに熱く、心は干涸らびて、 ――それでも涙は止まらない。 「どう…どうしてっっ!!」 ――どうしてわたしじゃないの!? 「……っはぅ…くっ」 溢れる涙を無理に堰き止めようと、両手で喉を締め付けるフィリア。 「…ぅっくぅ!」 悔しい。 そう、悔しい。 悔しい悔しい 悔しい悔しい悔しい悔しい!!!! こんな男を恋しいと想うだなんて この男は魔族なのに この男は仲間を殺したのに ――絶対に私を愛さない男なのに! ゼロスは石のように動かない。 只、そこにある月を崇め続けている。 こちらを振り向こうともしない、冷酷な魔族。 ――それでも心は掻き乱されて 魔族は月に手を延ばした。 虚空を掴み取るだけの指先。 月は、遙か彼方に。 「……手に入らなくても」 その仕草が、酷く幼い子供のようにあどけなく、純粋なものに見えて、フィリアは目を見開いた。 「願う事は許されるでしょう」 そんな綺麗な想いなの……? 貴方は汚れた魔族なのに……? そうして、魔族はこちらを向いた。 月光が彼を照らし出す。 その姿は 「あぁ」 ――なんて 月が遠くで泣いている 暗闇の中泣いている 月が遠くで呼んでる 干涸らびた手を伸ばしながら ――私を抱いてと 千切れながら END お久しぶりでございます。 と、いうか知らない方がほとんどですね、きっと〜ハジメマシテ☆ ゼロリナ好き、駆け出し小説家の一姫でございます!(ぺこりん) どうぞよろしくです。そして読んでくださってありがとーですっ |