◆−微笑みの傷跡 17−ブラッド (2002/1/15 01:43:24) No.19537 ┗微笑みの傷跡 18−ブラッド (2002/1/17 17:22:19) NEW No.19587 ┗微妙な位置。−みてい (2002/1/18 18:13:33) NEW No.19624 ┗ぎりぎり……かな?−ブラッド (2002/1/19 10:42:58) NEW No.19645
19537 | 微笑みの傷跡 17 | ブラッド | 2002/1/15 01:43:24 |
私はそこがとても好きで、いつもそこにいました。 ++++++++微笑みの傷跡 第17話+++++++ 「これでも、貴方のシナリオ通り?」 「何がだ」 「別に」 「言っただろう。先が予想できる人生なんて、つまらないと」 ルカがさった後の彼らは、クスクスと何かを期待しながら笑った。 「って、やっぱり聞いてたんじゃないっ!」 「雨……止みませんね」 なかなか止まぬ雨に、アメリアは木にもたれかかりながら、その場に座っていた。そのすぐ横では、リナが座っている。 涙が流れていなかったのか、流れていたのか、その判断はつかなかった。頬には雨が流れていて、でもそれは本当は雨なのか涙なのか、自分の事なのに、自分ですらわからなかった。だが、そんな事よりなによりも、それをわかりたくはなかった。涙すらも認めたくないほど、自分が追い込まれていて、彼の存在が大きかったことを改めてわかり、溜め息のように笑みが漏れる。 そう、彼の存在はアメリアにとって、とても大きかった。 いろいろと影響があった。 何故か、彼にはいろいろと話せた。 どんどん蘇ってきて、時間の感覚までもあの頃に戻ってきて、まるで全てがあの頃に戻っていったようで、少しぼっとすれば、もし隣にゼルガディスらがいなければ、感覚が全てあの頃に巻き戻ってしまいそうな気がして、少しだけ恐い。 雨の湿気と、静かな匂いは一緒で、この胸がきつく締め付けられる。何処かに何かを忘れてしまったような、奇妙な欠乏感。今思えば、少し彼は自分と似ていた。 (認めたくないですけど……) それを思ったとしても、言うべき彼はここにはいない。 あの時、どうして欲しかったか、どうして欲しいか、どうしたらよかったのか、きっとアメリアはわかっていた。全てがわかっているからこそ、矛盾だらけになる。 どうして欲しい、どうして欲しかったか、それが叶うと、どうしたらよかったのかは否定される。優先順位なんてものは決められなくて、迷い、そして結果として出てくる矛盾。 いっそ、どれか一つだけしかわからなかったら迷う事なんてないのに。 自分の選んだ事に、今更後悔しても仕方がない。 「ねぇ、ゼルガディスさん」 「なんだ」 「好きです」 「はっ?」 いきなりの告白に戸惑うゼルガディスを無視し、アメリアは笑いながら喋った。 「変ですよね。好きなのはゼルガディスさんです。それは、絶対に誰がなんといおうか間違いないんです。でも、ジュエルは好きじゃないんです。でも、特別なんです」 多分、きっととんでもないことを言ってるアメリアの言葉を、なおも戸惑いを隠しきれないままゼルガディスは苦笑いを浮かべた。 「決して恋愛感情じゃないんですよね。親友……兄弟……仲間……なんか違うな。絆とかなんて大層なものでもないんですよね」 とてもフランクでアバウトな、絶妙で奇妙なバランス。 「求めていたんでしょうね…………」 「もう一度会いたいか?} 返答の言葉の変わりに、アメリアはにこりと笑う。 「ねぇ、ゼルガディスさん。誤解しないで下さいよ」 じっと、ゼルガディスを見つめると、にっこりと満面の笑みを見せると、アメリアはぐぐっと彼との距離を縮めた。 「私が恋してるのは、ゼルガディスさんなんですからっ」 大胆な告白をさらりと言ってしまえるアメリアは、大物なんだろう。そんなことを思いながら、その光景を彼らのすぐ側でリナは顔を少しピンク色に染めていきながら見守っていた。 「ゼル、顔の色変だぞー」 ガウリイの間抜けな言葉は、ゼルガディスの耳には届いていなかった。 「私ね、ジュエルが笑ってくれたとき嬉しかったんですよね」 あの時の彼の笑顔は、とても綺麗で、きっと頭の中にこびりついている。 そして、昔話はまだ続く。 「お気に召しましたでしょうか?」 どうやらお芝居は続行中。 目をパチパチさせているアメリアの肩をぽんぽんとラズライトは軽く叩く。 「はっはっは。無理もないさっ。この素晴らしさに感激し、驚きのあまり言葉もでないようだねっ」 お決まりのマイペースぶりに、高笑いをプラスさせ、ラズライトは自信満々に笑みを浮かべていたのだが、アメリアは目を丸くしたまま。そんな彼女に、溜め息まじりにジュエルは言い放つ。 「……何? 気に入らないの? いらない?」 どうやら陳腐でチープな三文芝居は終了。 「いえっはいっ!! いりますっ」 「アメリア。何がお忘れじゃないかい?」 「へ?」 「君は、日頃正義とかほざいてる癖に、こういうときに人に何と言うかすらも、知らない人だったんだ」 「あぁぁぁぁぁぁ本当にっありがとうございますっ」 「あのさ、じゃぁさっさと言ってよね。ずっと黙ってるから気に入らないのかと思ったよ。まぁ、気に入らないわけなんて無いと思うけど。なんたってこの僕直々にアメリアの為だけに選んだんだ。間違いなく、気に入るはずだね。気に入らなかった場合は、君の目が節穴で君はセンス最悪の大馬鹿者って結論がでるけど。よかったね、アメリア。君がまともなセンスの持ち主で僕も嬉しいよ」 相変わらずのマシンガントークに苦笑いを浮かべ、帽子をいろんな方向に傾けたり、アメリアはころころと表情を変えた。 「アメリアちゃん。被ってみれば?」 ラズライトは、言いながらアメリアの姿に暖かく微笑む。 「はいっ!!」 元気な返事。 楽しい会話。 この時間。 この空気。 それでも。 これは今日が最後。 でも。 そんなこと、この瞬間は忘れていた。 そして、彼女は信じていた。 いつか、何処かで、また、会えると。 「あの時に、ジュエルとラズライトさんがくれたんですよね。帽子を」 「それはどうしたの?」 「壊れちゃいました」 てへ、とアメリアは不必要なほど、無邪気に笑う。 「ジュエルは、思いつきでモノを話し、感情さえも造って魅せる事が出来る人だったんですよね」 「矛盾だらけだな」 「それね、彼のお父さんもそうなんだって聞いたことあります」 「あのとんでもない父親ね。というより、話だけ聞いてると、その人が全ての元凶のような気がしてくるんだけど、気のせいかしら?」 言うリナに、アメリアの表情は変わらなかった。 「どうなんでしょう。その人については、私はよくわからないです。あの人なら……」 「あの人?」 「ジュエル達が、ノイズと呼んでいた人の事です。でも、彼女が今どうしているかなんて知らないんですけど」 「なら意味無いでしょうが」 リナは、呆れた。 何かに傷ついて、何かを傷つけて、何かが傷ついて、何かを失って、大切なモノを何処に置いてきてしまったのかすらもわからず、それと一緒に何かの感情さえも置いてきてしまったような気がする。 何かに憧れて、何かに怒り、何かを奪い合い、何かに微笑んで、何かが傷ついて、そう思うほどに涙がこぼれ落ちる。 いっそ、悲しさや辛さの感情を置いてくればよかったのに。寂しいなんて、思わなければいいのに。 譲れなかったモノは何だったのだろう? なくしたくなかったモノは何だったのだろう? 本当に大切なモノ? 「それは、いったいなんなのよっ」 小さく叫んだ。 泣き出しそうな空からは、再び雨がこぼれ落ちていた。 人々は、雨から逃げるように屋根のある場所へ走り出す。賑やかな繁華街は、雨が降ったとていつも通りに賑やか。 何処まで、この悲しみのはては続くのだろう。 でも。 賑やかな筈なのに、それは目の前で起きている出来事の筈なのに、まるでとても遠くのような気がした。 雨は土砂降り。 決心が鈍りそうになりながらも、ルカは歩いていく。 ルカのいた場所からは、この繁華街を通らないとあの丘にはいけなかった。 土砂降りの雨の中、ただ立ち尽くしたままで、たくさんの通りゆく人々を見ていた。忙しなく動く慌ただしい人々が次々と自分にぶつかり、謝りの言葉を何回も聞く。 (ぼっとしてなのは、こっちなのに) そんな変な矛盾はきっと気にしちゃいけない。みんな何も考えていないのだから。 例え雨が止んでいたって、快晴だって、豪雨だって、願いは届かない。 明日は彼らのいない朝がくる。 ただ、今だけ。この雨に紛れて。 (神様。もし貴方がいるのならば、この思いをちゃんと逝かしてください) この雨に隠れてしまえれば。 (少しだけ、感情を爆発させてもいいですか?) この震えは、寒さの震え? それとも孤独に震えてるの? 「私は、きっととても弱い」 何故か、このままずっと濡れていたかった。全ては雨のせいだ、という事にしたらどうだろうか。 馬鹿な考えに、苦笑い。 容赦無しに雨は全身をうっていき、靴の中にまで割り込んでくる。 (少しだけ……彼らを思い涙します) 「ねぇ神様。もし貴方がいるのならば、こんな私は許されるのでしょうか?」 頬を流れる水だけ、何故か塩気がした。 「……幸せになりたいよ……」 切実な願いを叫び、その姿は痛々しくも美しくもあった。 「……ジュエル」 ぼそりと、名を呼ぶ。涙しながら彼の名を呼ぶ。 (出来ることなら、ずっと貴方の側にいたかった) ただ立ち尽くして、ぶつかる人々なんて完全無視。 きっと呼んだこの言葉は全て雨にかき消されている。 泣いて。泣いて。泣いて。叫んで。願って。望んで。謝って。嘆いて。 大丈夫。この出来事はこの雨に流れて消えてしまったから。無かったことだから。 全ては、雨のせいにしてしまおう。 まるでノイズのような雨。人々の声も、この足音すらも霞ませていく。 叶うことならば、この思い、この記憶すらも消してくれればいいのに。 前へ。 ルカは、前へ向かって歩いていく。 「これは、シナリオ通りじゃないって事?」 「さぁな」 何かを含ませたロードの言葉に、クオネは頬をプクーッと膨らませた。彼はいつも一人で考えて、滅多にそれを人に言わない。一体何を考えているのか、それは彼本人すらもわかっていないかもしれない。 「大丈夫なの?」 クオネの言葉に、やんわりとロードは微笑んだ。 そう、これが例えバグであろうとも、これが例え予想済みのバグであろうとも、これが例え予想外のバグであろうとも。 「大丈夫。それもまた、素敵だ」 みんな、何かを求めていた。 みんな、何かに憧れていた。 それが、なんだったのか。 それは、なんなのか。 知ってる人もいれば、わからない人もいる。 でも、何故なのかわからいけど、求めていた。 この夜が明ければ、明日になれば。 そう期待して眠り、明日に期待して、これからに期待して、昨日の不幸を全て忘れてしまう為に、喜びに満ちた夢を見ることを願い、そう、辛く苦しい現実を忘れてしまいたいとも思い、でも忘れなくて、……至って静かな、いつも同じような日々。 笑顔を求めて、幸せを求めて、自分を求めて、走り続ける。 彼らの行く先は、どこなのだろう。 もし、人生に勝者と敗者がいたとしたならば、彼らはいったい何なのか。 そもそも、勝者と敗者の基準はなんなのか。 そもそも、勝つとは何なのか。負けるとは、何なのか。 疑問は浮かんできても、答えは浮かばない。 そんなことの繰り返し。 あぁ、なんて矛盾だらけで、自分勝手なんだ。 たまに、何か、聞こえた気がした。 それはとても悲痛な叫び声。 誰かの叫びは、振り向けど姿はなかった。 夢見た場所は、とても近い記憶のような、遥か遠い記憶のような。まるで幻のように、この雨にかき消され流れてしまいそうな感じもし、頭の中が混乱していることがわかる。 誰かの叫びは、我が胸のわめく声だった。 それに気付いたのは、この話を彼らに始めてから。 夢見た場所には、いつもいた。 とても大切な場所で、とても大好きだった。 「私、決めました」 いきなり、アメリアは立ち上がり、あの丘を見つめて、言う。 「私、あの場所にいったあと、ちゃんと確認します」 アメリアの声は、辺り一面高らかに響いた。 「信じています。生きてるって」 「って、どうやって確かめるつもりよ」 「リナさん? 私はセイルーンのお姫サマですよ?」 皮肉げに、クールに笑う。 「あの時、私が帰らなければよかったのかもしれないんです。でも、それをさせたのは私の立場です。この際、私がそのお陰でこんな思いをしているのなら、今度はそれを徹底的に利用してやります」 「は?」 少し、彼女らしく無いことを言うアメリアに、側にいる彼らの目は丸くなった。 「多分、ジュエルがいたらこういうんでしょうね『へぇ、君もいうようになったね』って」 確かに、彼が彼女に与えた影響は多かったようである。 |
19587 | 微笑みの傷跡 18 | ブラッド | 2002/1/17 17:22:19 |
記事番号19537へのコメント 今日は。ブラッドです。 なんか最近ツリーが下へといっていくのがかなり早いきがします(笑) 嬉しいような、どうなんだかのちょいと複雑な気持ちだったり(どっちやねんっ) それはそうと、いきなりですが、微笑み傷跡は全24話なんですよね。 初めはただ「あっ、面白そうじゃない♪」とおもってやった、プロローグの部分を話の冒頭にいれていくというもの。やってみると、なんかかなりむかついてきます(苦笑) いや、だっていろいろ制限がつけられるわけじゃないですか。 今回は18話です。あと6話。ちゃんとまとめられるのかなぁ(滝汗) 自分でつけた制約に、自分で首しめて、ブラッド今日もなんとか息してます。 それでは、どうぞお読み下さいませ。 ************************************** あの時、強い風邪が吹いて私の帽子をとばしたんです。その花と一緒に。 +++++++微笑みの傷跡 第18話++++++++ ルカは、ただひたすら歩いていた。 ドタドタと言う周りの足音がやけに響いてくるのだが、何故か自分は遠く別世界にいるように感じた。 此処はいったい何処なのだろう? あぁ、馬鹿らしい。なんて馬鹿らしいのだろうと思うのだが、そう思ってしまうのだ。 人通りが少なくなり、周りの足音が消えていき、どんどんと思考が現実世界に引き戻されていく。ぼうっと、まるで靄がかかったようにはっきりとしていなかった頭の中はだんだんとはっきりしていき、今度は自分の胸の音がドクドクと響いていた。 心臓が高鳴るのに苛立ち、焦るのだがどうにも止まってくれない。 緊張でもしているのか。 「大丈夫」 小さく呟いて、嘆息する。 丘が見えてきた。 真っ白な世界。 黒い世界の中の、ただ一つの白。 大好きな白。 白を汚すのはとても心が痛む。でも、そんな感覚は何処かに置いてこようと思う。 其処は何処? 其処は何? 知らない。 雨はまだ止まず、どうやらあの丘から見える、夜の美しい景色はみられそうにない。 自分が、苛立ち、悔しいのは、この雨のせいなのだ。 きっと、雨のせいなのだ。 全ては、雨のせいだから。 雨はどんどんと冷たく降り続く。ずっと傘も差さずに雨にうたれていたせいか、手がまるで氷のように冷たくなっていた。頬にあてると、ひんやりと少し気持ちがいい。 不思議と、寒くは無かった。でも、暖かくも無かった。心地よくもなかった。涼しくもなかった。 ルカは、ただひたすら歩いていた。 ただ、一人で歩いていた。 どんどんと近くなっていくにつれて、心臓の高鳴りは収まっていく。 落ち着いているのか、開き直ったのかはわからないが、とりあえずそれには満足し、ふっと自嘲気味には笑えた。 あぁ、あと少しだ。あと少しで始まってしまう。 それは、破壊の序曲。 冷たい雨のオーケストラに、闘いの旋律に、彼らの心を添えて始まっていく。 それとも、実は序曲はとうに始まっていて、これは最終へと進んでいく道なのか。 この丘は全ての始まりの場所。 この丘は全ての終わりの場所。 この丘で始まって、また終わっていく。 始まりは、終わり。 終わりは、始まり。 くるくると回って、また繰り返される輪廻。 終わっては始まり、始まっては終わる。 冷たい、輪廻。 ザァァァァァァァッッッッ 雨は、止まない。 ようやく、丘の頂上へとたどり着いたとき、そこには先客、いや、待ち人がいた。 白い花の名をもつ青年達。 (予想通り) クスリと、彼らの姿を確認でき、そして彼らには気付かれないような間合いをとって離れると、ルカは乾いた笑みを見せた。 予想通りだったのだ。 思っていた通りだったのだ。 でも。 それは、外れていて欲しかった。 「ねぇ、お姫サマ?」 聞こえている筈はないのだが、彼女に問いかけてみると、偶然ぴくっと彼女の視線が、ルカのいる方向へと向けられ、思わずびくりと身体を硬直させてしまった。だが、それはやっぱりただの偶然で、彼女はやはり振り向いただけで、何も気付いていなくて、その視線はすぐに別の方向へと向けられた。安心したのか、肩の力ががっくりと抜けていく。 予想外のイレギュラー。 わかっていても、少し辛い。 予想済みのイレギュラー。 セイルーンのお姫サマ。 彼らの楽しそうな雰囲気、彼女の嬉しそうな笑い声はルカのいる場所まではっきりと聞こえてくる。 「みんな、あの子には心許すのね」 思わず本音が出てきてしまったことに自分で驚いて、呆れてしまった。その声が少し哀しげだったことすら、呆れてしまう。 「私も、あの子になら許せちゃうのかな」 楽しそうに笑う彼らを、ルカは暫くひっそりと眺めることにした。 「そこの二人。なんでそう無意味に元気なワケ?」 うんざりとジュエルは木にもたれかかったままの体勢で、額に手を添えた。ファサリと前髪をかき上げて目の前にいる、そこの二人――――アメリアとラズライトをまるで睨むかのように一瞥し、まるでお説教でもするかのようにつらつらと彼らにむかって言い放った。 「アメリア。君だってね、また転けたらどうする気だい。まったく、よくそんなにドジふめるよねぇ。まさかわざと転けてるとか? 痛い思いして? あ〜ぁ、まさか君って正真正銘の馬鹿だったわけ。ほんと、無意味に身体頑丈だから今元気なものの、きっと僕だったらもう体中痛くて、そんなにへらへら笑っていられないだろうね」 アメリアの服は、すでにどろどろ。もう何回も、数え切れないほど転けているのだ。 「ま、その前に僕は君みたいにドジで間抜けじゃないからね」 御得意の毒舌マシンガントークは本日も絶好調。周りの人から見たら、絶不調であった方が大感激――――大歓迎だったりするのだが、そんな事当の本人に直接言える人など、きっと数少ないであろう。何故なら、そのすぐ後にマシンガントークをスペシャルプレゼントされてしまうのは目に見えているから。 そんなワケだから、もう何を言われても諦めるしかなかったりする。まぁ、彼と張り合いたいという物好きは別であるが、大抵の人は諦めるか、実力行使にでるかのどちらかである。 たった今その餌食となっていたアメリアは勿論前者――――諦めるをとって、にっこりとわざとらしい作り笑顔を浮かべていた。 「まぁまぁ、案ずることはないさっ。なんとかなるなるっ」 その様子をいつもどおりのマイペースで笑いながら言うラズライトも、その王様ぶりは絶好調。この彼を止められる人は、世の中にはきっと数少ない――――――――――いないかもしれない。 「その根拠は?」 「子供は風の子というじゃないかっ」 「それが今の言葉にどう関係あるワケ? 一応僕より頭いいんだから、それくらい簡単に説明してみせたらどうだい? ラズ」 これが、彼らの日常。 アメリアにとっては最後の日常。 来た時は降っていなかったのだが、雨は降り出していた。別にいつ降り出してもおかしくないような空だったので、それは簡単に納得はできた。 とりあえず近くにあった木で雨宿り。 「あっ、でももう止みましたよ」 でも、止んだ。 ふったり止んだり、気まぐれな雨。まるで自分たちのようだ、と思いながら彼らは一斉に苦笑した。 そんな中、一番最初に真剣な表情(かお)に変わったのは、以外にもラズライトだった。ラズライトは、アメリアにゆっくりと近づき、ジュエルがこちらを見ていないことを確認してそっと言う。 「ありがとう。アメリアちゃん」 ありきたりの言葉だけど、とてもストレートでわかりやすくて、暖かい感謝の言葉。 初めは、ラズライト一人でやる予定だった。そして、それはラズライトの願いであった。そして、それは彼が長年かけてもずっと出来ないことだった。 でも、ふとした出会いからアメリアという協力者を得ることが出来た。彼女は、やってくれた。ずっと出来なかった願いを叶えてくれた。 それは、初めはラズライト一人の願いであった。でも、それはアメリアの願いになった。そして、それはジュエルの願いだった。 もし、あの時アメリアがこの丘にきてジュエルと出会わなければ、もしジュエルにアメリアが友達になろうと言わなければ、もし、あの時あの繁華街でアメリアとラズライトがばったりと出会わなければ、もし、ジュエルがアメリアに興味をもたなければ。 全ては偶然なのか、必然なのか。 あの日、あの時、出会わなければ。 重なりあった偶然が生み出した、奇跡。 重なりあった偶然が、彼らの望みを叶えた。 「君のお陰だねっ」 全ては、彼女がこの丘に来たことから。全てはこの丘から始まった。 それはとても嬉しいことで、それはとても喜ばしいことなのだけど、少しだけ哀しくて、悔しかった。 ラズライトのその無邪気な明るさが、少し嘘にも見える。 そんな中、アメリアはまるで何も気付いていないのかいるのか、きょとんとした表情で首を傾げながら笑うと、当然のように言い出した。 「何言ってるんですか?」 「え?」 「ラズライトさんが、今までずっと頑張ってきたから、私は言いたいことを言っただけみたいなもんですよ。そんな凄くないです。タイミングとかもあったんですよ」 当たり前のようにアメリアは言うと、ラズライトはいつも通りに笑った。 「友達なんです」 そのアメリアの言葉は、とても暖かくて、何処か照れくさくなるような、それでもとても嬉しい言葉。 「そうだねっ。友達か。強敵とかいて『とも』と呼ぶ、親友と書いて『らいばる』とよむ。素晴らしいねっ」 「意味わかんないですよ」 くるくる回る。 くるくる回って終わっていく。 くるくる回って始まっていく。 ねぇ、彼らは気付いてる? 輪廻に巻き込まれていることを。 「で、さっき転けた時の怪我。大丈夫かいっ?」 「あぁっ。大丈夫ですよ。そんなこと、全然気にしないで下さい」 「おや? ボクは腐って無くても医者だよ。当然だねっ」 「なんか、言い回しが変な気がするんですけど、気のせいですか?」 「ボクは腐ってないからねっ」 雨が止んだ中、ジュエルはそっと木から離れ地面の泥が跳ねないように、花を踏みつけないようにしてゆっくりとその場を歩き、溜め息まじりにこの場に咲き乱れる白い花を見つめた。そして、視線をゆっくりとラズライトにうつして、また花へと引き戻す。 昔は、羨ましかった。 この花は、嫌悪の対象で、憧れの対象で、憎悪の対象で、恨みの対象で、懺悔の対象で。見ているだけで、視界にあるだけで、心が強く締め付けられたように痛く、辛かった。 『スノー・ジュエル』の白さと『イプセン・ジュエル』の白さは一緒の筈なのに、何故か違う色に見えていた。『スノー・ジュエル』はとても純粋な白で、その白さは汚れを知らないようだった。『イプセン・ジュエル』の白は毒々しく、何故か汚れに満ちあふれている気がした。 人から愛される花の影に隠れた、美しい花。 それは、醜い嫉妬心。 それは、つまらない嫉妬心。 そう。 いつか、アメリアの前でこの花をにぎりつぶしたことがあった。 この花はとても綺麗だった。その美しさは自分を責め続けているような気がした。 花が話しかけてくる。 羨マシインダロウ 認メタクナインダロウ アァ、弱イ アァ、ナント愚カ アァ、ナント醜イ アァ、ナント虚シイ。 愛サレタカッタ者ノ、愚カデ醜ク虚シイ、ヒガミ。 「――――っつ」 フラッシュバック。 鼓動が大きくなって、はっきりと聞こえ出す。 どんどんと蘇ってくる昔の記憶。 哀しい母親。 まるで白昼夢でもみているかのような気になって、頭がどうかしてしまいそうだ。 きつく、自分の手で震える自分の手を腕を押さえて、ゆっくりと深く息を吸う。肺に送り込まれた空気が体中を駆けめぐり、現実へと感覚を撮りもどす手助けをしてくれる。 「どうしたんですか? ジュエル」 ふと振り向くと、そこにはアメリアがいた。 「どうもしていないさ」 にっこりと微笑む。 感覚が戻ってきて、景色が『今』に変わる。 やっと動いた時間。また巻き戻して、また止まらせてなるものか。 (大丈夫) 小さく呟く。 その根拠は。 (僕は、まだこうして笑っているじゃないか) 「ねぇ、ジュエル。この花好きですか?} しゃがみ込んで、アメリアが指をさすその先にあるのは真っ白な花『スノー・ジュエル』 心でも読まれたのだろうか、と思うほどタイミングがよすぎて、思わずぴくりと動揺してしまったのがら、幸いそれは誰も気付いていないよう。 ジュエルは、しっかりとその花をみ、一輪そっと摘む。 「好きか嫌いか……ね」 期待に溢れているアメリアの瞳から視線を逸らせると、その先にはラズライトがいた。彼の瞳もまた、何かの期待に満ちあふれていて、ジュエルはすぐにまたそらした。行き場のなくなった視線を『スノー・ジュエル』へとあわせ、そっと花を地面へとおく。 「残念ながら、そう簡単に好きには慣れないね。この数年間この花をずっと憎んで、羨んで、悲しんできたから」 「そうですか」 残念そうにアメリアは俯いてしまった。彼女の表情は、先ほどまでまるで大輪の花を咲かせたような明るい笑顔だったのだが、その花がすべてしぼんでしまったかのように思える。 「でもね、僕は綺麗なモノは大好きなんだ」 「へ?」 「この花の美しさは、僕も認めているよ」 アメリアの表情には大輪の花が一斉に咲く。 「君に心配されなくても大丈夫だよ。きっと、いつか穏やかにこの花をみれる日がくると思うから。ただ、今はまだ少しだけ早いかな」 苦笑するジュエルに、アメリアはにっこりと大輪の笑みを見せた。 まだ、雨は降らない。 ルカは、その景色を見ながら苦笑した。 雨の中、ずぶぬれになってきたので服が少し重たい。 一度髪の毛をほどき、またしっかりと縛りなおして呟く。 「スタート」 「いつか、何処かできっと会えます」 何度悔やんでも、今日は最後だと言うことは変わらない。 でも、期待してはいけないのだろうか。 今日と明日は違う。今と昔は違う。これからなんて、わからない。 アメリアは、ジュエルとラズライトに向かってはっきりと言う。 「だから、私は今は一時撤退です」 とても強く、とてもはっきりと、とても美しく。 もう後ろは見ずに、前へと彼女は進んでいた。前へと既に走りだしていた。 その姿は、その覚悟は、見事だ。 夜はやがて明ける。時間は容赦無しに進む。雨は、やがてやむ。 置いて行かれては、いけない。 「そうだね」 代わり映えのないようだが、きっと何かが変わっていっている。 出会いというのは、なんと影響力のあるものなのだろう。 改めて、実感した。 そう、進まなければならない。もう、時間は進んでいる。 自分もここから、また進んでいくのだ。 この丘が、彼らの始まりの場所。 アメリアは、つい先ほどジュエルが摘み、地面へと置かれたままの『スノー・ジュエル』を手にしようとする。 フワリ 風が吹いた。 少し強めの風で一斉に白い花弁がまい、辺りがざわつきはじめる。 「あぁぁぁぁぁぁっっっっ」 それと一緒にアメリアの帽子までとんでいってしまった。 「ったく、さっさと取りにいけば」 風に流されて飛んでいく帽子を遠くに見つめ、ジュエルはアメリアを促した。それをもう追いかける体勢に入りながらアメリアは返事を返す。 「急いでいってきますっ」 「まぬけ」 何処か遠くを見て、ジュエルは呟くのだが、そのまぬけな人物―――――アメリアにはどうやら聞こえていないらしい。既に、彼女はもう走り出していた。 そんな様子をいつも通りのマイペースでラズライトは頷いて言う。 「あぁっ、じゃぁボクも心配だから一緒に行くとしようっ」 「ありがとうございますっ。ラズライトさん」 言うアメリアはもうかなり離れた場所にいて、帽子を追いかけている。それでもこんなはっきりと声が聞こえるのだから、きっと相当大きな声で叫んだのだろう。 風にそよぐ帽子をアメリアとの距離はそう違わないが、帽子が下に落ちる気配が無いためまだ暫くアメリアと帽子の追いかけっこは続くのだろう。 「ところで、ジュエルっ。大丈夫かいっ?」 「さてね」 そのラズライトの言葉に、ジュエルは余裕ありげに頷く。 「じゃっ、ジュエルはここでまっていてくれたまえっ」 「あぁぁぁぁぁぁ、ぼうしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」 ラズライトの声と、アメリアの帽子を求める大声が混ざってどうにも聞き取りにくかったのだが、なんとかそれを聞き取ってジュエルはしっかりと辺りを見回した。 気楽に手を振りながら、ラズライトはその場をさっていく。 ビュッッッッ たったつい先ほどまでラズライトが立っていた場所を、ちょうど鋭い風がとおりすぎていった。その風の中心には銀色の刃があった。細身の冷たい長剣が甲高い音を立てる。 「さて、お出ましのようだ」 別に、気付いていないわけでは無かった。 この存在は雨が止んでからずっとあったのだ。 アメリアの帽子が風にとばされたのは、ちょうどいい出来事。 彼女を巻き込んではいけない。 この礼儀知らずの不届きの輩達の狙いは、彼と彼の義兄なのだから。 ************************************** 突然ですが、皆様スレイヤーズの映画見ました? ブラッドまだ見てないんですよね〜。行きたいなぁ、と思いつつも財布の中味が寒いよぅ(泣) とりあえずいろんな方々から感想をお聞きするんですが、もう生殺し状態。ある意味、飢えたライオンのようになってます(笑) とゆーわけで、18話。とうとう『彼は、その花を染め上げてしまいました』の部分へと進んでいきます。 この話で、ちょっとネタバレっぽくなっちゃうんですけどジュエルがスノジュエの事を、『いつか、穏やかに見れるようになる』って言ってるじゃないですか。 この事は、ブラッドも入らせてもらってます『卍会』のあんでぃさんの素晴らしきオリジナルキャラクター、アイラヴ(やめい)リゼア嬢との異次元で解決しております。 よろしければ、あんでぃさんの素敵HPと豪華メンバーが勢揃いな卍会のHPにありますゆえ、そちらの方もお読み下さいませ(ぺこり) それでは、ちと宣伝しつつ、次回もお読み下さいませ。ブラッドでした。 |
19624 | 微妙な位置。 | みてい | 2002/1/18 18:13:33 |
記事番号19587へのコメント こんにちは、みていです。 もはやおっかけのようにブラッドさんにレスもどきをつけては去っています(笑) だんだんと核心に迫ってきてますねっ。 とうとうルカとジュエルが遭遇しましたし。 わくわくどきどき。 で、今回のみていのツボは、 >「おや? ボクは腐って無くても医者だよ。当然だねっ」 >「なんか、言い回しが変な気がするんですけど、気のせいですか?」 >「ボクは腐ってないからねっ」 ここだったりします(かなり待テ) ジュエルに何か言われた経験でもあるんでしょうか、ラズ(笑) 一つ一つ解き明かされる謎と撒かれた謎、独特の世界と言い回しに毎回驚いてます。 前にも書いた気がしますが、ほんと、すごいなぁと。 ご利益に賜りたく日参中v >突然ですが、皆様スレイヤーズの映画見ました? 観てないです。 感想を聞いても生殺し度が上がるだけ(涙) 次回楽しみにしてますv 前よりはレスの行が増えたかなと思いつつ、みていでした。 |
19645 | ぎりぎり……かな? | ブラッド | 2002/1/19 10:42:58 |
記事番号19624へのコメント おはようございますvブラッドです。 いつもいつもレスありがとうございます〜v >こんにちは、みていです。 >もはやおっかけのようにブラッドさんにレスもどきをつけては去っています(笑) いやいや、もう嬉しい限りでございますっv > >だんだんと核心に迫ってきてますねっ。 そうですねぇ。やっとここまできた、という感じです。いやぁ、本当に長かった(笑) >とうとうルカとジュエルが遭遇しましたし。 ルカとジュエル、次の話ではとうとう二人は喋りますよっ♪ >わくわくどきどき。 >で、今回のみていのツボは、 > >>「おや? ボクは腐って無くても医者だよ。当然だねっ」 >>「なんか、言い回しが変な気がするんですけど、気のせいですか?」 >>「ボクは腐ってないからねっ」 > >ここだったりします(かなり待テ) >ジュエルに何か言われた経験でもあるんでしょうか、ラズ(笑) 言われてます(爆) きっとかーなーりー、根にもってるんでしょうね〜。 > >一つ一つ解き明かされる謎と撒かれた謎、独特の世界と言い回しに毎回驚いてます。 独特の世界っすか?あぁぁぁぁぁぁぁぁ、嬉しいですっ!!言い回しとかは結構きをつかってたりしてます(笑) っていうかブラッドの文って結構いろんな人の影響をうけてるんですけどね(笑)でも、そんな驚かれるようなものじゃぁないですよぅ。 みていさんだって凄い独特の世界で。 私には絶対無理です(きぱ)もうビィなんて思いつきませんから。 >前にも書いた気がしますが、ほんと、すごいなぁと。 あぁぁぁぁっっっホントに毎回毎回お褒めの言葉、ありがとうございますっっ!! >ご利益に賜りたく日参中v いやいや、ご利益なんてないですってば。 > >>突然ですが、皆様スレイヤーズの映画見ました? >観てないです。 >感想を聞いても生殺し度が上がるだけ(涙) そうなんですよねぇ。でも感想も聞いて少しでも内容はしりたいし、でも生殺しだしっ!! 複雑な気分でし。 > >次回楽しみにしてますv はいっ。できるだけ早く投稿できるようがんばりますね。 >前よりはレスの行が増えたかなと思いつつ、みていでした。 レス、ありがとうございました。 ブラッドでした。 |