◆−転生話番外2:レノア料理列伝・フィリー、死なない程度に頑張れ。−東琥珀 (2002/8/7 13:29:16) No.21358


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21358転生話番外2:レノア料理列伝・フィリー、死なない程度に頑張れ。東琥珀 2002/8/7 13:29:16


「朝ご飯が出来ましたよー」
カンカンカンカン。
拳闘試合の、KO時のゴングにも似た音。
レノアがフライパンを叩いて僕を起こす音。
「お寝坊さんですね、もう」
「昨日夜遅かったから」
「言い訳になりません」
ふぁぁ、とあくびをして起きあがる僕。
…僕は…フィリー。
現在ぴっちぴちの(男の言うセリフじゃナイねコレ)十七歳。
リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフの息子…って言ったら解る人もいるかな?
………しかしてその実体はぁっ!
魔族最高幹部、『五人の腹心』最強、冥王フィブリゾの転生体っ!
………ふ。ありがとうお母様。妙な気紛れ起こしてくれて。
結構いーかげんな性格………いや、これ以上言うと後がコワいネっ☆(滝汗)
急いで魔道士さんルックに着替え、食堂に行く。
にこにこ笑って待っている僕の奥さん♪覇王将軍シェーラの転生体っ♪
黒い髪を長く伸ばしたかわいい女の子。
………ふっ………のろけてしまった、思わず。(赤面)
我ながら幸せボケしてるなぁ。
ま、この分だとお母様の命令………『幸せにならなかったらスコップが待っている』も無事遂行できそうである。
「おはようございます♪」
「おはよう」
「今朝のメニュゥはー…お魚さんの切り身に、パンに、おミソ汁に、ホットミルクv」
「ちょっと待て。そのメニュー。」
どーゆーメニューだ。
めちゃくちゃ取り合わせ悪そうなんですけど。
大体『おミソ汁』って何。何処の料理。
…宮廷料理の一種…だろーか?
あ、そうそう。レノアは、こう見えてもセイルーン王家の血流れてるんだよね。
アメリアとゼルガディスの娘だから。
「ほら、やっぱり朝は栄養バランスきっちり取って頑張って頂かないと」
「いや栄養バランスうんぬんの問題じゃなくて」
「好き嫌いはダメですよっ!」
「…………………………………」
ムダだ。この子に何言っても。
言い争うのを諦め、『オミソシル』と言う液体Aに手を伸ばす。
…………印象的には『濁ったスープ』。
…………一口すすってみて……………
「げぶっ!?」
思わず吹き出した。
な…なんじゃあっ!こりゃあっ!!
「な…何するんですかぁぁぁぁぁっっ!!!?」
いきなり濁りスープ吹きかけられ、怒るレノア。
「…あのさ」
ぎぎぃっ、と、必死に、殺傷・破壊願望を抑えながら彼女の方を振り返る僕。
「これ…多分、何かを水に溶かして作るんでしょ?」
「ええ、まあ」
「…最後まで溶かそうよ。ちゃんと。」
スプーンでお皿の底をさらい………
茶色のどろどろした物体をすくい、彼女に見せる。
「ああっ!すみませんっ!」
真っ赤になり、ぺこぺこ頭を下げる。
「…それに、これ多分温かいのを食べるもんだと思うよ」
スープには、きりっ、と冷やした方がおいしいものと、あったかく、ほわっ、としているのを食べた方がおいしいものの2種類がある。
どうやら彼女、その種類を取り違えて作ったらしい。
……………………………………………しかし……………………………………
………………………はあ。
タメ息を付く僕。
そして。
鼻の息を止め。(あからさまに鼻つまんだらレノアが傷つくでしょ?)
一気に濁りスープを飲み干すっ!
……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………
…………………………………………………………マヅいです。
ええ。もう。
ふとすると吐きだしてしまいそうなくらいに………ひたすらマズひ。
しかし………我慢。
耐えろっ!耐えるんだっ!僕っ!!
残しても吐きだしてもレノアを傷つけてしまうんだぁぁっっ!!!
……………彼女の様子から見て、滅ぶ前に覇王と何かあったらしい事が解る。
そしてその『何か』は決して良い事ではナイだろう………
……………………………………………そうっ!
これ以上彼女を傷つける事はできないっ!傷つけてはいけないっ!
傷つけるくらいなら自ら逝く道を選ぶっ!
心の中で何かに一生懸命誓う僕。
……………ふぅ。
やっと一息つく。
引き攣りまくった笑顔を、なんとか不自然でない程度に修正する。
「………でも………この茶色の物さえ溶かせば、結構おいしいよv」
「本当ですかっ!?」
レノアが顔を輝かせる。
すみません。
新婚早々悪いんですが、力の限りウソです。
次に、パン。
ちょい焦げ気味のくるみパン。
「レノアが焼いたの?」
「ええっv早起きして焼いたんですvv五時起きですぅv」
「五時起きって………キミ、ほとんど寝てないんじゃ……」
僕と同じ時間帯に寝て僕より三時間早く起きて……………
「ナポレオンか…キミは…」
「誰ですか?それ?」
「いや…こっちの話」
とりあえずくるみパンを一口大にちぎって…………………………………
……………………………………………………………………………………
………………中身、生。ていうか生地のままなんですがこれ。
……………………………………………………………………………………
せーの。
口の中に無理矢理つめこみ、牛乳で一気に飲み下すっ!
「…レノア、パンは中まで火を通せばもっとおいしいよ、きっとv」
「そうなんですか」
わかってんだろーかコイツ。
鈍い胃の痛みは本当に料理の所為だけなんだろーか。
なんとなく、駆け落ちまでした事に対する後悔感が溢れて来るが…
………いやっ!
こーゆー事は決して思ってはいけないっ!いけないのだっ!
大丈夫っ!この子はまだ十七っ!
これから上手になる機会はいくらでもあるっ!
将軍、お姫様、と家事に無縁な生活送って来た彼女が僕のために料理作ってくれるっ!
この事を感謝すべきじゃ無いか僕っ!?
必死で自分に言い聞かせる。
そして。
最後はお魚さん。
……多分、これがメインディッシュ………と信じたい。
フォークで、おさかなさんの白身の部分をちょいちょい、とつつく。
「ヤですねーvそんな慎重にならなくても、爆弾なんて仕掛けてませんよv」
仕掛けられててたまるか。
例えが悪いわ。
もはやツッコむ気力もなし。
ナイフで身を切り取って………と。
ざくっ。
……………………………………………………………
『ざく』?
「……………………………………」
切り口を見て硬直。
解凍すらしてねェ。
中身が凍ったままの表面コゲ。
「………レノア………本当は僕の事嫌いでしょ?」
「えー?なんでですか?」
笑顔で答えた彼女は。
夕方、お腹を壊した僕の事も、笑顔で看病したのだった。









言い訳あんど言い逃れ。

作:めっちゃくちゃ久しぶりでしたね………転生話………
  忘れてる人の方が多いだろーな、多分。
冥:本当に…久々だね…………(うずくまってる)
作:………お腹壊してますね。
冥:ちょ…ちょっとね。
作:では。
  レノアの料理が素晴らしく見える『おまけ』をどうぞ。
冥:また『おまけ』つきなの?
作:なんとなく…『転生話と言えばおまけ』と言う風潮が………
  私の友人知人の間に…………………




おまけ。



とんとんとんとん。
軽やかな包丁の音が響く。
「よーしっ♪でーきたっと♪」
台所に立っていた人物は、完成したものをお皿に盛りつけ、テーブルに付いていた人物の目の前に置く。
「さぁ、食べてっ♪」
「…………………………………………………」
黙ったまま。
「あたしの手料理が食べられるなんて光栄でしょっ!部下S♪この幸せ者っ♪」
「…………………………………………………」
「遠慮なんかしなくていいのよっ♪」
「…………………………………………………」
「さぁ喰えほら喰えっ♪」
「…………………………………………………」
「なぁに?涙が出る程嬉しいの?そんなに喜んでもらえて嬉しいわっ♪」
「…………………………………………………」
「また作ってあげるからね♪」
「…………………………………………………」
「部下Dとかも呼んで、パーティー開いてもおっけー♪ね♪」
美しい金髪をたなびかせた、エプロン装備の金髪お姉様は。
全く悪意のない笑みを浮かべていた。






冥:がんばれお父様。
  僕もう知らないから。
  他人事として見物させてもらうよっ♪
作:ふ。
  レノアのアレがごちそうに見えただろ。
冥:うん♪
  僕って幸せだなぁっ♪
作:冥王様が幸せにひたっているところで。
  それでは今回はこのへんでっ!
  また逢いましょう♪






                                              幕。