◆−Phantom -ファントム-−ALISE (2002/8/30 04:33:02) No.21605 ┗Phantom -ファントム- プロローグ 第01話−ALISE (2002/8/31 04:17:49) No.21625 ┣おもしろいですvv−砂緒 (2002/8/31 10:41:22) No.21626 ┃┗Re:おもしろいですvv−ALISE (2002/8/31 16:55:44) No.21628 ┗Phantom -ファントム- プロローグ 第02話−ALISE (2002/9/1 01:02:40) No.21634 ┗Phantom -ファントム- 第1章 「甦る記憶と涙」 第01話「Actual Feeling」−ALISE (2002/9/2 10:17:28) No.21651 ┗Phantom -ファントム- 第1章 「甦る記憶と涙」 第02話「Tralent」−ALISE (2002/9/5 15:56:27) No.21680
21605 | Phantom -ファントム- | ALISE E-mail | 2002/8/30 04:33:02 |
初投稿です〜〜〜^−^ 是非読んで行って下さい〜〜〜〜〜♪ ##################################### Phantom -ファントム- プロローグ 第00話 「始まり」 西暦2300年 地獄の二乗(The squarel of the hell.)のような世界で少年と少女が・・・。 只、一つの光(Only, one light.)を求めて、争う物語。 鋼の牙、氷の目(The tusk of the steel, the eye of the ice.)を持ち。 地獄の炎(The flame of the hell.)に見を焼かれながらも、少しづつ前へ進んでいく物語。 ――これより開幕―― ープロローグー ・・・死・・・・・・ね・・・ 死んで・・・・・・しまえ・・・・・・・・・ な・・・んで・・・・・・オマエガイキテルンダヨ・・・・・・・・・・・・ ピッ・・・ 「これより、朝のニュースをお伝えします。今朝早く九十九里浜で若い女性の水死体が発見されました。 また、被害者は死後2ヶ月以上経過しており、体の損傷が酷く身元の特定には時間がかかる模様です。これにより・・・・・・」 プッ・・・ ハッと目を覚ますと俺は体中に汗を掻いていた。自分の部屋の、お気に入りのポスター(裸の美女)が貼ってある天井が目に映る。 (あれ?て〜ことは、さっきのは夢か・・・) 「おいおい、気味悪い夢を見せんなよな。ホントに、近頃まともに寝られなかったんだから、たまには寝させろっての。ったくぅ〜〜」と言いながら、起き上がろうとした瞬間。 ビクッ 突如、部屋全体が寒気に襲われ体が震えた。どうやらベットの背後にある扉から異様な視線が向けられている様だ、恐る恐るあたりを見回すと小柄な少女がドアの前に立っていた。 (あれで、俺と同じ歳なんだよな) 少女は何もいわず、その黒く、深く、冷たい氷の目で、こちらに視線を向けている。 (まったく、そんな目で見なくていいじゃないか・・・・・・) 俺は体を起こし、あらためて少女に顔を向け視線を持っていった。 「ごはん・・・まだ?」 異様な空気が充満する中、脅すような口調で少女が口を開く。 曖昧に頷いてから一瞬少女の面影が昔から知っている先週事故で死んだ、幼馴染の女の子に見え動揺してしまった。 幼馴染の事故は、一週間前のその日バイトから帰ってきて、留守電に入っていたメッセージを聞いて知った。 「ピ―――――― 一件です。警察の者ですが、たった今事故で「月島 由菜(つきしま ゆうな)」さんが亡くなられました。所持品の中で連絡が取れるのが、ここしかなかったので、付きましては、ご両親の連絡先を知っておられましたら・・・こちらまで連絡を下さい。 0245−XXXX−XXXXです。ではお待ちしております。ピ――――――」 (不思議とそれを聞いても涙は出てこなかった。あれだけ付き合いの長かった幼馴染が死んだって言うのに一滴も出なかった。俺って薄情な奴なのかな?それともここ3年ぐらい仕事か何かで忙しくて、会えなかったからかな?) そんなことを考えながら、俺は服を着替えていた。その間も部屋の空気は変わらない。 少女も変わらす、じっとその場所からこちらを眺めている。 (正直、着替えづらいな。瞼を閉じて、瞼を上げたら夢から醒めたようにドアには由菜が立っていないかな) と思ったが、やっぱり現実は甘くは無いようだ。 虚しい望みだったのかもしれない。さっきまでとかわらない部屋。同じ空気。同じベッド。違うのは、自分の服装ぐらいだ。 ふぁ〜〜〜あ 欠伸がでる。頭が痛い。身体の間接も痛い。これは、二日酔いの症状と同じだと思う (・・・そうだ、昨日バイトの奴らと飲みに行ったんだった) それにしても、今日はいつもより寒いかな? 身につけているのが、Tシャツのみなんだから仕方ないのかもしれないが、どう見てもこれでは寒いのでもう一枚上にシャツを着ることにした。 これで、準備はOKだ。 「さてと、ここにじっとしていてもしょうがない・・・・・・か」 今日の自分を奮い立たせるために、わざと自分の考えを声に出して行動を始めた。 「やっとごはん?」 背後で聞き覚えのある声がして、そちらに顔を向けた。 声の主は、さっきからこちらをずっと見つめている、氷の様な冷たい目をした少女。 少女は、幼馴染が事故死した翌日に家に届けられたクローンだった。 (この時代、前時代には禁止されていたクローンであるが、技術が進歩し「擬似クローン」というものができるようになり、これは人と同じ形をした動物というものである。言葉や仕種も人と同じであるが決して、遺伝子的には人ではない。これにより世界政府は「擬似クローン」を法律で許可した。因みに許可されたクローンは自分の細胞から培養された物のみとなっている。もちろん性別や顔などは自由に決められ一人一体までである。値段は給料3ヶ月分) もちろん普通だったら、クローンなんて俺みたいな貧乏なやつに買える者じゃないので、間違って届いたのかと思い返品しようかと思っていると、その中に由菜の手紙が入っていたのだ。 「お願い・・・あなたと一緒に暮らしてあげて・・・名前はユウよ・・・」 ただ、その一行だけが手紙には書いてあった。何故こんな誰とも知れないクローンを俺が育てなきゃいけないんだ、とも思ったが幼馴染の最後の頼みとあっては断れるはずも無く育てることを決心した。 (あれから一週間か、ホント愛想がねえよな・・・コイツは誰のクローンなんだ?) と、考えていても仕方ないので、さっき相変わらずの口調で発せられた言葉に、 俺は、いつもの通り答える。 「ああ、これからごはんだ」 そう言いながら、俺はキッチンに入り料理を作り始めた。 10分が経過した頃、料理が出来上がる。これまたいつも通りの目玉焼きにトースト、ハム、コーヒー・・・定番の朝食メニュー。 それを、2人で食べる。その間俺は少女に質問をした。 「今日は、どうし・・・・・・」 「早く目が醒めて、お腹が空いたから」 こちらから聞くより先に、感情が欠落したような声が返ってきた。 「呼びに行かないと、ごはん食べられないから」 質問の出鼻を挫かれ、咄嗟に次の質問が出てこない。 (時々、感が鋭い時があるんだよな) 「・・・自分では作れるはずだろ?」 最初に、思い出した疑問はそれだった。そういえばこの前料理を教えてやったのを思い出したのだ。 あの時、ユウは確かに料理を覚えたはずで、今日から作る予定だったはずなのだが。 「あなたの料理が好きだから」 「・・・・・・俺の料理?」 「あなたの、料理の方がおいしい。」 そう言って、ユウはぎこちない笑顔をこちらに向けた。 呆れた話だ。クローンが主人の命令を聞かず自分の判断で行動を決めるなんて、それに笑顔なんて、今までのクローンとは違うのか? だが、俺にはこの時の他のクローンとの違いが、これからの俺の人生に大きく関わっていくとは思いもしなかった。 それから、1年後 アメリカに住んでる親父達から「一度帰って来い」と連絡を受け、俺とユウはアメリカに飛びたった。 俺のファントムとしての一歩がここから始まる。 第01話 「ファントム」に続く ##################################### では、また明日にでも1話を投稿したいと思います〜〜〜^−^ |
21625 | Phantom -ファントム- プロローグ 第01話 | ALISE E-mail | 2002/8/31 04:17:49 |
記事番号21605へのコメント プロローグ 第01話です〜〜〜^−^ 是非読んで行って下さい〜〜〜〜〜♪ ##################################### 第01話 「ファントム」 ・・・・・・・・・殺す・・・人を殺すのか・・・・・・。 いやだ!!・・・殺したく・・・・・・ない。 でも・・・・・・殺らなきゃ・・・殺される・・・・・・。 な・・・んで・・・・・・・・・コンナコトニ・・・・・・・・・・・・。 パァーーン 凄まじい大音量のクラクションを鳴らしながら1台の車が外を通っていく。 その音で目が醒めた。不思議な感覚に捕われ辺りを見回してみる。 周りの景色は、長年暮していた所とは違っているような感じがする。 (あれ?ここは何処だ?・・・確か、俺は・・・痛っ) 頭が割れるように痛い。それにものすごく寒い。身体を見てみると病院で着ているような検査をする時の様な服を着ていたのだから仕方ないのかもしれない。 しかし、どう見てもここは病院じゃないのはすぐ分かった。 周りが、あまりにも殺風景で壁や床はコンクリートが剥き出しになってるし、天井近くにあり覗けない窓もある。しかも、唯一の出入り口には錆の浮いた鉄扉があるだけだ。 ここは・・・・・・廃ビルなのか?窓から、夜の冷気が身体に吹き付けられる。 「とにかく、ここから出ないと・・・・・・な」 よく分からない状況に置かれた自分の不安を隠すかのように、声を出して行動を始めた。 錆の浮いた鉄扉を開けようとしたが、予想通りカギが掛かっていた。 ガチャ・・・ガチャ。 どうやっても開くような感じじゃない。 (もう行き詰まりか・・・窓からは出られそうに無いし・・・でも、まあ一応やってみるか) しかし、窓の所に行こうとした所で鉄扉が開かれ、部屋の中に誰かが入ってくるのに俺は気が付いた。 すらっと長いブロンドの髪の毛が目立つ美女と、真っ白な髪で研究者のような白衣を着た男が立っている。2人とも外国人のようだ。 「久しぶりね。」 俺に、ブロンドの美女が話しかけてきた。妙になれなれしい口調。 それに、久しぶりだって?会ったことあったっけ? 男の方は、実験動物でも見るような上から下まで、射抜くような視線を向けながら ただじっとこちらを見つめている。 「入ってきなさい。「ミカエル」」 ブロンドの美女が、後ろにいた少女に声をかける。 俺は、入ってきた少女を見た瞬間、頭の隅の方に少女と一緒にいる自分の姿が映った。 (俺は、この子を知ってるのか?・・・・) 「さあ、ミカエル・・・この少年を殺して見せなさい。」 「はい・・・・・・マスター・・・」 2人は俺にはまだよく聞き取れない英語で、会話を交わしているようだ。 早口でよく聞き取れなかったが、ブロンドの女が「俺を、殺して見せろ」と言ったのか? それに「ミカエル」って少女の名前なのか? 返事をした少女がこちらに近づいてくる。そして手に持ったナイフを渡す。 普段日常では見かけない、厚みのあるサバイバルナイフのようだ。 これで何をしろって言うんだ・・・・・・。 (俺を、殺すんじゃないのか・・・) 何故か気力が無い、体がだるい・・・・・・ (殺すならさっさと殺してくれ) そう思いながらも、その時は一向に訪れない。 不思議に思いながら、少女を見上げると少女もこちらを見つめていた。 「立って」 「・・・俺を殺すんじゃないのか?」 俺が話しかけると、少女は顔色を変えずに俺に向かって言った。 「ええ、殺すわ・・・でも、あなたも私を殺すの・・・」 (何を、言ってるんだ?俺が君を殺す・・・) 困惑しながら、ブロンドの女と真っ白な服装の男の方を見ると、女の方が面白そうに喋った。 「今、あなたは自分の記憶が無いはずよ。だから、あなたが勝ったら記憶を返してあげるわ。どう?」 「記憶・・・記憶を返すだって・・・」 「そう、あなたが勝ったら、貴方が貴方であるために必要な記憶を返してあげる」 俺という証の記憶・・・というかもともと俺のものじゃないか。 なんで、あいつらにいいようにされないといけないんだ。 そう思った瞬間、横からの殺気に気づき、手に持ったナイフを握り締め後ろに向かって跳んだ。 そして、俺がさっきまでいた場所を少女のナイフが空を切った。 「あなたは、死にたいの?死にたくないの?」 (そうだ・・・死ぬなんていつでもできる・・・今は記憶を取り戻してから考えよう) そう思ったら、急にやる気が出てきた。そして、さっきの問いに俺は答えた。 「死にたくないさ・・・でも、俺は君を殺さない・・・」 「何故?あなたが私を殺さないなら、私があなたを殺すわ」 俺は、周りを見回して何か使えるものが無いか調べると、俺が寝かされていたベットのシーツが見つかった。 すぐに、それを掴み一気にミカエルに向けて投げる。 ミカエルの視界は一瞬途切れる、その隙に俺はミカエルに近づき彼女の鳩尾にナイフの柄を突き刺した。 「うっ」 ミカエルは、その場所から崩れ落ちる。その隙に今の戦闘を見ていたドアの前に立っている2人に向かって走り出す。 しかし、2人は顔色を変えずにこちらを見ていた。 咄嗟に、背後からものすごい威圧感を感じ止まって後ろを振り返ると、ミカエルが起き上がって、こちらを睨んでいた。 (さすがに、あの程度じゃ落ちないか・・・) そんなことを考えている俺の耳に、ブロンドの女の声が聞こえてきた。 「あの程度じゃ、落とすのはむりよ。ふふっ」 「じゃ、こういうのはどうかな?」 俺は、ミカエルとの間合いを測りながら、ゆっくりとブロンドの女に向きをけると、その方向に向けてナイフを投げつけた。 その場にいた俺以外の全員が驚きを示す。ナイフは女に当たる寸前、俺の背後から物凄いスピードで飛んできたナイフによって叩き落された。 (今だ!!) 俺は、ナイフを投げつけた女の所に、ドンっと体当たりをかけ、もつれ合って床に転がったところで、背後に周り女の首に手を回しがっちり締めた。 「これで、チェックメイトだ・・・こんな事はやめて俺の記憶を返してもらおうか」 ゴッ 鈍い音とともに俺は崩れ落ち、気を失う寸前・・・誰かの話し声が聞こえた。 「ありがとう。ラファエル」 「はい、マスター」 その会話を聞きながら、俺は気を失った。 床に昏倒した少年を、4人の人物が各々の表情で見下ろしている。 「どうでしょう。私の洗脳の出来は素晴らしいでしょう。ミズ=ルチアーノ。この少年は我々の組織が最も欲しがっていた人材だとは思いませんか?この少年は、なんの訓練も受けているわけでは無く、戦術の心得も無い。ただ持って生まれた才能だけで、あれだけの戦闘をしたんですよ。我らの組織アヴァロンが誇る暗殺集団インフェルノの天使部隊のリーダー「ミカエル」に対してね。まあ、少々行き過ぎた所もありましたが、間違いなく彼は天才です」 4人の内、ただ一人白衣を着た男は上機嫌で語っていた。 「彼がいれば"アヴァロン"は世界のマフィアの頂点に立つことも可能でしょう」 「・・・だが、まだまだ洗脳が足らないのかしら毎回襲われるのは嫌よ」 今まで沈黙していたブロンドの女=ルチアーノ=ランチェスは、心配した様子で男に言葉を投げかける。 「ご心配には及びません。洗脳は完璧です。たとえ先ほど貴方を殺そうとしても殺せなかったでしょう。今は自分の意思では殺せないようにしてありますので」 「さすがはその道のプロか・・・対策は万全という事か」 ランチェスは、ゆっくりと呟く。 「はい、薬物、催眠・・・さらには超音波による処置は済んであります。知識や判断力といったのを、そのままに自分自身の事に関わる記憶だけを封印しました。普通の生活は出来ますし、何も不自由な事はありません。ただ自分の事だけを除いてはね。調教にはちょうど良い状態です」 自分の研究の成果をここぞとばかりに自慢しながら話す。 「彼の獲得を邪魔していた存在、先代「ファントム」が死んだからここに彼がいる。彼女に感謝せねば、彼を獲得しようとした所に、彼女がファントムになるといい、条件に彼には手を出すなと言われていましたから、まあファントムは2人もいらなかったので、その時はOKしましたが、彼女が死んだとなれば新しいファントムが必要になってくる。そして彼女にかわるファントムは彼しか居なかったのです」 「・・・で、彼の身元やらの処理は済んだの?」 「すでに、入出国記録と足取りは抹消済みです。誰にも彼が何処に行ったかは分かりません」 「いいでしょう。ルーファス=ダイス。この少年は私に任せてもらえますか?」 「ええ、もちろんです。」 その言葉を聞いて、ランチェスはミカエルとラファエルの2人、さらに少年を連れて部屋を後にした。 その背中を白衣の男は冷笑で見送っていた。 第02話 「インフェルノ」に続く ##################################### では、また明日にでも2話を投稿したいと思います〜〜〜^−^ |
21626 | おもしろいですvv | 砂緒 | 2002/8/31 10:41:22 |
記事番号21625へのコメント はじめまして!砂緒と申します。 お話読みました。 すごくおもしろいですvv 暗殺者とか・・・・・・組織とか・・・・・・記憶喪失とか・・・・・・ なんか某ゲームを思い出しちゃうノリですし(←おい) とにかく、わたしはこういう設定のオリジナルは好きなんで、続きが楽しみです。 忙くてあまりレスとかできないんですけど、応援してます! これからも頑張って下さいねvv ではでは、短いですが。 |
21628 | Re:おもしろいですvv | ALISE E-mail | 2002/8/31 16:55:44 |
記事番号21626へのコメント コメントありがとうございます〜〜〜^−^ これからも、頑張って書きますので応援お願いします♪ |
21634 | Phantom -ファントム- プロローグ 第02話 | ALISE E-mail | 2002/9/1 01:02:40 |
記事番号21625へのコメント プロローグ 第02話です〜〜〜^−^ 是非読んで行って下さい〜〜〜〜〜♪ ##################################### 第02話 「インフェルノ」 幾つ涙を流したら・・・この地獄の螺旋から・・・・・・抜け出せるのだろう・・・・・・ 誰に思いを伝えたら・・・私の心は満たされるのだろう・・・・・・ 長い・・・長い夜に・・・・・・怯えていた・・・・・・・・・・ 遠い・・・・・・遠い星に祈っていた・・・ めぐるめぐる地獄の中で・・・私は今日も高い空を見上げている・・・・・・・・・・・・ 瞼を開けると、頭の後ろにズキッっと痛みが走る。 (ここは・・・何処だ・・・) 「お目覚めかしら、随分寝ていたわね。」 背後から聞き覚えのある声がして、思わずビクッっと後ずさってしまった。 その声は、さっき俺が首を絞めていたブロンドの女。 「どう?調子は・・・まだ頭が痛いかしら」 相変わらずの人を小ばかにしたような、こちらの様子を探るような口調 「そんなに警戒しなくてもいいわよ。もう殺そうなんてしないから」 手に持っていた服を手渡され、俺はそれを着込みながら女に質問した。 「ここは、何処だ?それにあんたは誰なんだ?」 「ふふっ・・・焦らないで、ちゃんと答えてあげるわよ。まず私は、ルチアーノ=ランチェスよ。それとここは、私たちの組織「アヴァロン」が所有しているホテルの一室。」 なっ・・・・・・・・・ 俺は、息が詰まった・・・呼吸することも忘れるくらい頭が真っ白になる。 (ルチアーノ=ランチェス・・・アメリカ最大のマフィア、ルチーアーノファミリーの・・・ドン・・・ルチアーノ=サルバトーレの娘じゃないか・・・) なんで、そんな人物がここにいるんだ?俺は思考の渦に呑まれていく。 ルチアーノファミリーは、西暦1927年頃に初代ルチアーノ=サルバトーレが作った組織である。もともと少年の頃のルチアーノは、小さなギャング団のリーダーであった。 ゆすり、たかり、窃盗はもちろん子供を見つけては脅かし金品を巻き上げていた たいてい目をつけられた子供たちは、抵抗することも無く金を差し出す。 そうしなければ、その後どうなるかを子供たちはよく知っていたからだ。 この頃に、ルチアーノが知り合った3人の男がいた、後にルチアーノファミリーの幹部になる男たちだ。 参謀役のマイヤー=ランスキー ルチアーノの右腕、実質のNo.2フランク=コステロ 後のラスベガスを作った男ベンジャミン=シーゲル・・・通称バグジー そして今もなお、その名を受け継ぐものがいる。 何故かわからないが俺には、ルチアーノファミリーと云う組織がどれほど危険なのかが分かった。そして、その名を持つものも同じくらい危険だということも・・・・・・・・・ (あれ?でもアヴァロンってなんだ・・・) 「その顔じゃ、私の名前に驚いているみたいね。まあ当然でしょうね。あなたの経歴を見ればね」 その言葉に思考の渦に呑まれていた俺は、ランチェスの顔を睨んだ。 「経歴なんて調べずに、俺の記憶を見ればいいだろ」 言った途端やばいと思ったが。ランチェスは、それを聞いても特に気にした様子もなく笑みを浮かべている。 その笑みにこれなら大丈夫だと感じ、俺はふと疑問に思った事を口にしてみた。 「なんで、あんなことをしたんだ?」 「さっきの殺し合いのこと?あれは、あなたが本当にファントムに相応しいか証明するためよ」 「・・・・・・ファントム?」 「そう、私たちの組織「アヴァロン」の暗殺集団のリーダー「ファントム」。それに相応しいかね」 呆れた話だった。何を言うかと思えば暗殺者集団・・・ファントム・・・馬鹿馬鹿しい。 「はは・・・、馬鹿馬鹿しい俺が暗殺集団のリーダーのファントムに相応しいかだって、大体なんの根拠があって俺なんだよ・・・・・・」 「私を殺そうとしたじゃない」 「あれは・・・記憶をかえしてもらいたかったからで・・・殺そうとは・・・」 今にして思えば、どうしてあんなことができたのか解らない。あの時、何もやる気がおきないほど、だるかった。 けど・・・彼女・・・確かミカエルとか言ったっけ? あの子と喋ってると、不思議とやる気が出てきたんだよな。 それから、後のことはどうやったのかあんまり覚えていない。 自分のことなのに、他人のことを思い出しているかのようだ。 「普通の人なら、あの状況なら間違いなくパニックになっていたわ。自分の状況もわからず、混乱している間に殺されていたはず。特に最初の一撃を避けた動きは一般人には無理な動きだった。でも貴方は避けたわね。不意をつかれた攻撃を避け、さらに身近にあった物を使い冷静に対処した。それがあなたが持っている生き抜くための才能であり、また暗殺者に必要な才能なの」 「そんな・・・あれだけでそこまで・・・」 「確かに今までは、そんな自分に気づくことはなかったでしょうね。平穏な暮らしをしていた限りはわからないわ。身の危険が迫った時にだけ発現する能力だから」 (もっとも、わたしは貴方が小さい頃にその才能を見せてもらっているけどね) 「それで、俺にナイフを持たせて殺し合いをさせたのか?」 「そうよ」 なんてデタラメな理屈なんだ・・・自分勝手もいいところだ・・・ 「無茶苦茶だ。一歩間違えれば死んでいたんだぞ!」 「そうね」 我慢の限界だった。 感情を露わにして怒鳴り散らしても、ランチェスはまったく動じない。 この人には感情ってものがないのか。 「彼女・・・ミカエルって言ったっけ、彼女が死ぬかもしれなかったんだぞ。彼女も貴方達の仲間だろ!」 「ああ〜〜、あの子なら大丈夫よ・・・死んでも代わりは幾らでもいるの。それに彼女もアヴァロンの暗殺集団「インフェルノ」の天使部隊のリーダー「ミカエル」だから、まあ訓練も受けてないあなたに殺せるとは思わなかったけど、あなたが彼女に対してあそこまで出来るなんて予想外だったわ」 「あの少女がアサシンだって・・・まだ年端もいかない女の子なのに・・・・・・」 冗談だろう?信じたくなかった。しかし、そうできなかったのは、あのナイフを使っているミカエルの姿が、瞼の裏に焼きついているからだ。忘れようがない。あの出来事は。 「ははっ・・・・・・それで、俺のテストの結果は?」 「合格よ。あなたにはこれからファントムになってもらうために訓練をしてもらいます。」 「馬鹿言うなよ。なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ!?」 「生きるため、そして記憶も返してほしいでしょ」 ランチェスの返答は簡潔だった。 「あんたは一体何者なんだ。・・・ルチアーノファミリーのドンの娘じゃないのか?それがどうしてアヴァロンとかいう組織に入ってこんな事してるんだよ」 「あら、簡単なことじゃない。私はルチアーノファミリーから抜けて、このアヴァロンに入ったのよ。」 開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ・・・・・・ あの、ルチアーノファミリーを抜けて来ただって!それで生きているのが不思議だった。 「私のことはどうでもいいのよ。これからあなたはファントム。2人目のユウナ。あなたは先代のユウナと同じで、人を殺すことでしか存在することを許されない」 「ファントムなんて呼ぶな!俺は・・・俺は・・・」 必死で考えたがやっぱり出てこない俺の名前が・・・くそっ・・・ ガン! 床を思いっきり床を殴った・・・手に血が滲む。 ふと、さっきランチェスが言ったユウナという言葉を思い出した。 (ユウナ・・・何処か懐かしい感じがする名前だ・・・・・・そして、何か大切なことを忘れている気がする。) 無性にそれを知りたくなった・・・そして何故か悲しくなった。 冷たい雫が頬を濡らす。 「貴方泣いてるの?」 俺は泣いているのに気づかなかった・・・。 (あれ?俺なんで泣いてるんだ・・・・・・・・・) ―――同時刻 ルチアーノファミリーの幹部の屋敷の一室――― 2人の男が1人の少女が横たわるベットの脇で、少女を眺めている。 「これがそうなのか・・・」 「はい、間違いありません。彼女がアヴァロンのファントムだった月島 由菜の記憶を持ったクローンなのは確かです。名前はユウです・・・・・・」 「記憶を甦らせる事を最優先だ」 「はい、3ヶ月もあれば大丈夫でしょう」 「そんなにかかるのか・・まあだがこれで、アヴァロンのやつらのインフェルノに対抗できそうだな」 「ええ、インフェルノには全米のマフィアの殆どの幹部が殺られましたからね」 「ふふっ、これからが楽しみだ」 第1章 「甦る記憶と涙」につづく ##################################### これで、プロローグは終わりです。 次は、1章に入ります〜〜〜♪ では、また明日にでも第1章を投稿したいと思います〜〜〜^−^ |
21651 | Phantom -ファントム- 第1章 「甦る記憶と涙」 第01話「Actual Feeling」 | ALISE E-mail | 2002/9/2 10:17:28 |
記事番号21634へのコメント 第1章 「甦る記憶と涙」 第01話「Actual Feeling」です〜〜〜^−^ 是非読んで行って下さい〜〜〜〜〜♪ ##################################### 第1章 甦る記憶と涙 第01話「Actual Feeling」 昨晩俺は夜明けまで涙が止まらなかった。 ランチェスは、俺の涙が止まるまでファントムとして生きるか、それともここで死ぬかの返答をする時間をくれた。 結局俺が選んだ道は、このままなにも分からず死んでいくことじゃなく、ファントムとして生きていくことだった。それに、ファントムになった時、記憶を返してもらえるという条件もあった。 記憶が戻った時、この涙の理由を取り戻せるだろう。 だから、今は生きていくしかないんだ。 涙の夜が明け、俺はその日の内にヘリに乗って訓練の場所に連れて行く予定になっていた。 ヘリに乗って、しばらくして下の景色にあるものが見えた。 何処かのジャングルみたいなとこだった・・・ 否、ジャングルの方がまだマシだろう。 何せ、ここは人がめったに踏み入れない場所。 「セフィロト」の樹海 入った者で、生きて帰ってきたものは居ないと言われる所だ。 「まさか・・・あそこで訓練とやらをするのか?」 目の前にある現実が、夢であって欲しいと願いつつ右隣で書類を見ているランチェスに声を掛けてみる。 しかし、返答は返ってこない。 期待した俺が馬鹿だったか・・・と諦めかけていた所に不意に俺の左隣の奴が声を掛けてきた。 「心配しなくても、今は入らないわ」 返答を期待してなかった俺は、驚いて声が聞こえた左隣を見た。 そこに居たのは、昨日俺を殺そうとして戦闘をしたミカエルとかいう女。 あいかわらずの感情が欠乏したような表情でこちらを見つめていた。 「今は・・・?」 「そう、後で入るの。今入ったら間違いなく・・・あなた死ぬわ」 (結局入るのか。あそこに・・・) まあ、半ば予想通りだ。 今入らないとしたら、これから何をするんだろう。 落ち着かなかった。やはり、物思いに耽るより、何かを喋っているほうがいい。 俺は、ミカエルに向かって話を始めた。 「俺が、ファントムになるって知ってるか?」 その言葉に、ミカエルは驚きの表情を露にした。俺は初めてみるだろうミカエルの感情を表した表情を見つめる。 「ほんとなの?」 恐る恐る尋ねてくるミカエルに、俺は少し嬉しくなって昨日のランチェスとのやり取りを話した。 10分後・・・ ミカエルは、俺の話を沈黙を守って最後まで聞いていた。 そして話し終わった俺に向かって彼女は、悲しみを浮かべた表情で、同情を含む口調で一言。 「また・・・憎しみと悲しみが増えるのね」 その言葉は、俺の心に深く深く刻み込まれた。何故かそれだけの重みを感じさせる言葉だった。 「あなたは、その悲しみと憎しみに耐えれるかしら・・・・・・・・・」 最後にその言葉を残して彼女は、普段の感情の無い表情に戻り眼を閉じた。 俺が、その言葉の本当の意味を知るのはもっと後のことだった・・・ それから、しばらくして目的の場所に着いた。 そこは、セフィロトの樹海から数キロ離れた廃工場。 ヘリから降りた所で、ランチェスがこちらに寄ってきた。 隣に見知らぬ少女を連れて。 こっから見た感じだと、俺の隣に居るミカエルと背丈は同じくらいだろうか? ただ、ミカエルがもつ雰囲気とは何か違ったものを感じた。 「どう?ここは気に入ったかしら」 ランチェスは、微笑みながら俺にここの印象を聞いてくる。 気に入る気に入らないなんて関係ないくせに・・・たとえ気に入らないと言ったって何かが変わるわけでもない。 「ああ、頗る気に入ったよ」 「そう?よかったわ」 俺の言葉の意味ぐらい分かっているのに、あえて普通に返してくる。 昨日知り合ったばかりだが、俺はこのランチェスという女の事がどういう女か少し分かってきた気がした。 「そうそう、紹介するわ。私の隣に居るのがラファエルよ。ミカエルと一緒で、今回の訓練の指導教官」 そう言って、ランチェスは俺の目の前にラファエルと呼ばれた少女を紹介した。 ラファエルと呼ばれた少女は、どこか照れたような表情を浮かべながら手を差し出してきた。 「ラファエル・・・です。よろしく・・・・・・お願い・・・します〜」 恥ずかしがっているのか、途切れ途切れに言葉を発して自己紹介をしてきた。 その様子を見て俺は、妙に可愛らしいと思い苦笑を浮かべながら、こちらも自己紹介を返した。 「こちらこそ、よろしく。俺はこれからファントムって言われるらしい」 と、手を差し出したところで、 スッ 誰かの手が俺の手を押しのけた。 よく見るとそれは、俺の隣に居たミカエルの手だった。 俺は、不思議に思いミカエルの顔を見ると、相変わらずの感情の無い表情でラファエルを睨んでいる。 俺は、何で彼女がそうしたのか分からない。 理由を聞こうとすると、ミカエルがラファエルの手に顔を向けた。 「ラファエル、彼を殺すつもりなの?」 (えっ・・・・・・) 俺を殺す?何でだ。ただ握手しようとしただけなのに。 「ちぇ、ばれたか。」 ラファエルは、表情を変えることなく言い放った。 それを聞いたランチェスは、仕方ないなと言う表情でラファエルを嗜めた。 「ラファエル、殺したら駄目でしょ。まだ訓練も始まってないのに」 「は〜〜〜い」 俺はその事態にまったく付いて行けなかった。事情を把握しようと、ミカエルに声を掛けてみる。 「なあ・・・あいつ、俺を殺そうとしたのか?」 「そうよ、手に仕込んだ毒針でね」 なんて奴なんだ。簡単に殺そうとしやがって・・・ 俺は、ここに来て始めてこういう世界に身を置いていることを実感した。 「じゃあ、改めてよろしく〜。」 そう言って、ラファエルは再度手を差し出してくる。 俺は、どうしようかと思ってミカエルの方を見ると今度は目を瞑っていた。 「もう今度は大丈夫だって、毒針だってはずしたし」 と言って、俺の手を握ってきた。 「おっ・・・おい・・・」 俺は慌てて、手を離そうとして引っ張った。するとラファエルも一緒に付いてくる。 そして、体が重なったところで俺の耳に聞こえるだけの声で囁いた。 「油断してると・・・殺すよ。あたしはあなたがファントムだなんて認めない」 俺は、驚いた顔でラファエルの顔を見たが、その顔は冗談を言っているような顔じゃなかった。 そんな、やり取りを終えた後、ランチェスはいろいろ説明をしていたが耳には入ってこなかった。 俺は、こんな世界で生きていけるのだろうか? そんな、考えだけが頭の中を渦巻いていた。 「・・・で、わかった。・・・あのね、ちゃんと聞いてるの?ファントム」 「えっ・・・あっ、聞いてなかった」 ランチェスは、しょうがないといった感じで、もう一度説明を始めた。 「いい、ここでの訓練の期間は決まってないの。こちらがファントムが必要になればすぐ最終試験を始めます。だから、一刻も早くここで生きていけるだけの能力を身に付けなさい。でないと、あなたには何にも価値はないわ。石炭がダイヤモンドになるか燃え尽きるかはあなた次第よ。それから、さっきも言ったようにあなたの指導は、ミカエルとラファエルにやってもらいます。2人の言うことを聞いて、がんばって頂戴ね。あっ、それと簡単に殺されないようにね。彼女たちの訓練は半端じゃないから。」 それだけを、言ってランチェスはさっき乗ってきたヘリに向かって歩き出した。 跡に残ったのは、3人。 あまり感情を見せないで、いつも冷静なミカエル。 どこか可愛い雰囲気を持っているが、その中身は冷徹な心をもったラファエル。 どんな暮らしをしてきたか分からないが、まともな一般市民だと思う俺。 「さて、今日はもう遅いし食事をして寝ますか。」 「ええ」 ラファエルはそう言って、勝手に歩き出した。ミカエルもそれに続いてラファエルとは違う方向へ歩き出す。 俺は、彼女たちに疑問に思った事を口にした。 「なあ、食事ってどうするんだ?」 それを聞いたラファエルが急に笑い出した。 ふふっ・・ははははっ・・・・・ 「何が可笑しいんだ?」 「馬鹿じゃないの。食事は自分で取るのよ。」 「自分で取る?道具は?」 「無いよ。自分の力で取るに決まってる。ここはそういう所」 「じゃ、明日は朝早いからね」 ラファエルはそれだけ言うと、どこかに言ってしまった。ミカエルもいつの間にかいなくなってる。 食事は自分で取るだって? 取り方なんて俺知らないぞ。どうやって取るんだよ。 俺は、さっきのランチェスの言葉を思い出していた。 (簡単に殺されないようにね。彼女たちの訓練は半端じゃないから) 今になって、やっとその意味がわかった。 それが分かったからって食事が取れるわけでもないが、絶望が俺の全身を包み込んだ。 その日の食事は、結局何も取れなく食べられなかった。 廃工場の周りにはねずみ一匹いない。それに草もわずかしか生えてなかった。 (あいつら、何を食べてるんだろ?) そんなことを考えながら、俺は眠りに就く。 夜の空気は肌寒かったが幸い寝るときは廃工場の入り口付近にあった、ボロボロの布を借りて、被って寝たので少しはましだった。 寝入って数時間後・・・日が昇り朝が来た・・・。 そして、俺にとって忘れることができない地獄の訓練の開始のベルが鳴った。 ##################################### 1章です〜〜〜♪ では、また明日にでも第1章 第02話を投稿したいと思います〜〜〜^−^ |
21680 | Phantom -ファントム- 第1章 「甦る記憶と涙」 第02話「Tralent」 | ALISE E-mail | 2002/9/5 15:56:27 |
記事番号21651へのコメント 少し遅れました〜〜〜。申し訳ないです〜〜。 第1章 「甦る記憶と涙」 第02話「Tralent」です〜〜〜^−^ 是非読んで行って下さい〜〜〜〜〜♪ ##################################### 第1章 甦る記憶と涙 第02話「Tralent」 ふふっ・・・ 誰かが笑っている。 楽しそうに、俺に向かって微笑んでいるのだろうか。心のそこから楽しそうな笑い声だ。 でも、あれは誰だろう? 顔がぼやけてよく見えない・・・ 必死で見ようとするけど、やっぱり薄く靄がかかったように、はっきりとは分からない。 不意に、その笑い声とともに顔が遠ざかっていく。 (待ってくれ!行かないでくれ!君は誰なんだ!?) 俺は、途端に悲しさが心の奥から溢れてきた。離れたくないと強く思ってしまう。 だが、もうすでに回りは暗闇に満ちていた。 喉に冷たい感触が感じられ、俺は目を開けた。 目の前には、ラファエルが手にナイフを持って俺の喉の頚動脈に当てて笑っている。 動けなかった・・・・・・・・・。 動いたら、死ぬ。そう直感で感じた。 どれくらい時間がたっただろう。数分?数時間?・・・どれくらいたったかわからなかったが、途端ラファエルは表情を顰めた。 「つまんない」 俺は、意味が分からなかった。何を言っているんだ? 何で、朝からこいつにナイフを突きつけられなきゃいけないんだ。 「何が・・・つまんないんだ」 「反応がつまんない。驚いたり、ナイフを払ったり、悲鳴を上げたりしないんだもん。少しでも、そんな反応をしたらナイフで頚動脈を切ってやったのに〜〜」 ラファエルは悔しそうな顔をして、ナイフを首から離し背後に居たミカエルに向いた。 「賭けは一応今回はあたしの負けってことにしておく。代金はツケといてね〜」 そう言いながら、外に出て行く。 俺は、傍に居たミカエルにどうなっているのか聞いてみる。 「どういうことなんだ?」 「賭けをしたのよ。あなたが本当にファントムとして相応しいか・・・それだけ・・・」 工場の中の二人の間を朝の空気が風に凪がされていく。 俺は、ようやくミカエルとラファエルの2人に遊ばれたことが分かった。 「これも、訓練の一環ってやつか。つったく冗談じゃない。で、さっきのはあんたの勝ちってわけ?」 朝から、あんな起こされ方をされて、俺の口調は嫌味を思いっきり含んだ口調になっていた。言いながら、ミカエルの様子を見ると、何か違和感を感じた。 ミカエルの目が、俺が喋っている間、終始俺の顔を見つめているようだった。 それに、いつもの感情を表さない表情が、少し悲しみに満ちていたような感じがする。 「違うわ。引き分け・・・彼女は本気じゃなかった・・・。」 不意に、そう言い放ちラファエルと同じように外に出て行った。 朝から、いろいろありすぎて俺は妙な脱力感に見舞われたが、このままじっとしていても仕方ないので、起き上がって顔を手のひらで打ちつけ、目が覚まさせる。 そのとき、指先に湿っぽさを感じた。 (あれ、目元が濡れてる・・・これは涙?・・・・・・) 俺は、どうやら涙を流していたらしい。 あの夢が原因なのか・・・。 2日前、ユウナという名前を聞いたときに流した涙と同じなのだろうか? ただ、今の時点で俺の涙の理由はユウナというのが関わっていることだけは確かだ。 (あの2人なら何か知っているだろうか?暇があったら聞いてみるか・・・) 「何してんの!早く来なよ!」 ラファエルの怒声が工場の中に響いた。 どうやら、結構時間が経っていたようだ。 俺は、すばやく頭を切り替えて工場を跡にした。 外に出ると太陽の光が眩しくて、目を開けてられなかったが、それもしばらくすると、慣れてくる。 目を開けると、数メートル先にラファエルとミカエルが立っていた。 2人はそれぞれの表情で出迎える。 ラファエルは、俺が来るのが遅かったのが気にくわないのか不機嫌な表情だ。 ミカエルは、眼を閉じていて表情は読み取れなかった。 「やっと来た・・・。怠けてると本気で殺るよ」 「別に怠けてるわけじゃない。考え事してたんだ」 「考え事〜〜。ここじゃ考えるより先に体を動かす方が生き残る確立は高いと思うんだけど」 「・・・わかったよ。で、これから訓練とやらをするんだろ」 俺は、これ以上ラファエルと言い合っていても仕方がないと思い、当初の目的である訓練のことをミカエル尋ねた。 「まず午前中は基礎体力を鍛え、午後は私たちとゲームをやります・・・」 早速、まずは午前中の基礎体力の訓練が始まった。 101回・・・102回・・・・・・120回・・・・・・・・・ 信じられない。いつまで続けるきなんだ。 さっきから、腕立てを始めてもう150回を過ぎた。腕も、限界に近づいている。 顔からも汗が溢れて、地面を濡らす。 あいつら2人は、黙々と腕立てを続けている。 しかも、もう300回を超えているはずなのに、平気な顔をしていた。 1人1人は、自分のペースで腕立てをしているので、俺はゆっくりと腕立てをしている。 とても、あいつらのような速いペースでなんてできるわけが無い。 それでも、やめることはできない。 「あたしが良いって言うまで止めないでね。止めたらどうなるかわかってるよね」 ラファエルは、腕立てを始めるときそんな言葉を俺に向けた。 今までの、こいつを見てたらどうなるか分かってしまう自分が悲しい。 ということで、俺は腕立てを止められないのだ。 ミカエルは、黙って腕立てをしている。しかもあのラファエルよりも速いペースで。 腕立てが始まって1時間後。 250回を超えた所で、ついに俺は気を失った。 すぐ水をぶっかけられ強制的に目を覚まさせられたが。 それから、後のことは思い出したくも無かった。腕立ての次は腹筋、背筋、屈伸という筋力トレーニングにはお決まりのメニューを、腕立てと同じように気を失うまで繰り返される。 そして、やっとそれらの筋力トレーニングが終わった頃、ちょうど日が真上に来ていた。 ミカエルとラファエルは、同じ事をしていたにもかかわらず、まったく疲れが見えない。 (化け物か・・・こいつらは・・・) 俺は、地面にへばり付きながら彼女たちを眺めていた。 ラファエルは、そんな俺を見て笑っている。 「ははははっ・・・。面白〜い。トカゲみたいに地面にへばってる〜。あんたには、その姿がお似合いね。」 「午前中の訓練は、これで終了。1時間後に、またここに・・・。」 2人とも、そんな言葉を残して歩き去っていった。 俺は、しばらくしても起き上がることはできなかった。 そういえば、腹が減ってる。 当然か、昨日の昼から何も食べてないからな。 意識が朦朧とする中、声が聞こえてきた。 (これ、作ったの。どうかな?) (ほんと!よかった。おいしいって言ってくれて・・・ちょっと自信なかったんだ) (また今度作ってあげるね。「・・・・・」の好きなもの) 誰? 君は誰? そんなことを考えていると、匂いがした。肉が焼ける匂いが・・・。 「肉の匂いだ。」 俺は、最後の気力を振り絞り匂いがした方に歩いていった。 しかし、20分歩いても目的の場所には辿り着かない。 あれ?おかしいな・・・ そんなことを考えていると、目の前に焚き火を炊いて何かを焼いているラファエルの姿が見えてきた。 「ラファエル・・・か?」 「なにしてんの?こんなとこまで来て」 ラファエルはちょっと驚いた表情を浮かべ、俺の顔をじっと見ている。 よく見てみると、ここはそこら中に穴が開いていた。 (そういえば、セフィロトの樹海の傍には、穴ねずみがいるんだっけ・・・どうりで、地上にねずみが見つからないわけだ。まさか地下に居たなんてな) 俺は、ラファエルが焼いているものを見て確信した。 「どうしてここがわかったの?」 「いや、ただ肉の焼ける匂いがしたから、それを辿って来ただけなんだけど・・・」 「馬鹿なこと言わないで、ここから工場まで何キロ離れてると思ってんのよ。」 「ホントの事なんだから、そんな事言われてもな。」 (確かに、あたしを尾行したってことは無い。そんな気配は無かったし、そんなへまはやらない。ということは、こいつはホントに匂いだけであそこからここまで来たっていうの?だとしたら、もの凄い臭覚・・・) 「まあ、いいわ。ここまで来たことはいいとしても、これはあたしのだからあげないよ」 「やっぱり?」 「あたりまえ」 まあ、当然か・・・ラファエルが自分の食料を俺にくれる分けないよな。 しかし、こいつどうやって穴ねずみを取ったんだろうか? 穴ねずみ・・・・・・セフィロトの樹海の傍にすむねずみ科の動物。 その名の通り、地面に穴を掘って生活している。 ねずみ科の動物としては、非常にでかく警戒心もあり、 俊敏である。 捕まえるのは、非常に困難。食用とし重宝されている。 考えていると、俺の足元にあった穴ねずみの巣に石が転がって入ってしまった。 しばらくすると、遠くの穴から穴ねずみが一瞬姿を現し石を外に出してまた入っていった。 それを、見た俺はどうしてラファエルが穴ねずみを取ったかが理解できた。 早速、それが正しいか確認する。 手に取った石を、穴ねずみの穴に投げ入れてみる。すると予想道理別の穴から穴ねずみが石を持って現れて、石を捨てて穴に戻る。 俺の、考えは正しかった。ラファエルは、こうして穴ねずみが姿を現した所を石か何かでぶつけて、取っていたんだ。 (やってみるか) ・・・・・・甘かった。石をを投げ入れ、出てくるところで石を当てる。 これが意外に、難しかった。出てくるところを見て投げていたんじゃ間に合わない。 途方にくれ、何回か失敗した所に意外な人物が声をかけてきた。 「"位置"を見て、"確かめる"ってことをしてたら、一生取れないよ。"居場所"を"感じ取る"ということをしないとね」 俺は、その声を聞いて瞬時に理解した。 そして、石を穴に入れた瞬間、眼を閉じ全神経を回りに集中させる。 一瞬の隙も見逃さないように。 そして、穴ねずみが顔を出したと感じた瞬間、俺は手に持った石を投げていた。見事、その石は、穴ねずみに命中していた。 俺は、ラファエルに感謝の言葉をかけようとしたが、焚き火のところには、もうすでに居ない。 (どこ行ったんだろう?・・・まあ、いいか) 俺は、ラファエルが残した焚き火で穴ねずみを焼き、1日ぶりの食事を味わった。 (あれが・・・あいつの才能・・・。信じられない。あたしが助言したからって、あんなに簡単に取れるわけがない。あたしだって、取れるようになったのは一ヶ月かかったのに) 「2人目のユウナ・・・・・・か」 ラファエルの口から漏れた言葉は、誰にも聞こえる事無く、静かに消えて言った。 ##################################### 第1章 第02話です〜〜〜♪ |