◆−おつかい(九)−星空 (2002/11/2 17:22:10) No.23087 ┣おつかい(十)−星空 (2002/11/3 21:40:05) No.23102 ┃┗Re:おつかい(十)−D・S・ハイドラント (2002/11/15 22:18:01) No.23320 ┃ ┗ありがとうございます−星空 (2002/11/16 21:47:11) No.23334 ┣おつかい(十一)−星空 (2002/11/5 22:41:50) No.23142 ┃┗Re:おつかい(十一)−D・S・ハイドラント (2002/11/16 22:45:09) No.23336 ┃ ┗こんばんわ。−星空 (2002/11/16 23:38:49) No.23342 ┣超えてしまいました−星空 (2002/11/5 22:54:51) No.23143 ┣おつかい(十二)−星空 (2002/11/8 23:31:31) No.23190 ┣おつかい(十三)−星空 (2002/11/10 17:57:36) No.23230 ┣Re:おつかい(九)−D・S・ハイドラント (2002/11/11 21:40:55) No.23255 ┃┗ありがとうございます−星空 (2002/11/12 21:36:17) No.23275 ┣おつかい(十四)−星空 (2002/11/16 17:27:41) No.23329 ┗おつかい(十五)−星空 (2002/11/17 16:41:06) NEW No.23346 ┗Re:おつかい(十五)−D・S・ハイドラント (2002/11/19 16:38:04) NEW No.23360
23087 | おつかい(九) | 星空 | 2002/11/2 17:22:10 |
お久しぶりです。星空です。 今回は、おつかい(八)に続いて、(九)を書きます。 どうかよろしくお願いします。 前回は、おつかいをするために北へ向かっているレイシャスが、寺院へ向かったところで終わっています。 では、どうぞ。 おつかい(九) ラルゲフィア商店という店がある。 世界中に店を出す資金力と、人脈その他もろもろによる独自のネットワークで、情報を常に仕入れ、他の同業者のよりも抜きん出た存在として、磐石の地位を保っている。 今の店主は、ワイスという三十歳の壮年の男だが、妹が一人いた。 名は、イルージャ。 その女性は、二十年前行方不明になった。 両親はすぐに、警備兵に届け出ると同時に、懸賞金をつけて、似顔絵と特徴を書いた張り紙を支店中に張り出した。 十年後、「イルージャという名の女性に頼まれた」という男が現れ、両親宛の手紙と、身につけていた指輪を渡した。 手紙には、両親への謝罪と、自分の今の生活と住所、一緒に暮らしている男の名前が書いてあった。 両親は涙し、男に懸賞金を手渡そうとしたが、男は断った。 数ヶ月後、ある海岸で、一人の男の水死体が発見された。 発見者は、付近で漁をしていた若い漁師で、網にかかった死体を見て、腰を抜かし、真っ青になって、警備兵に通報した。 捜査にあたった警備兵は、水死体があがった場所から近い崖に、男物の靴と遺書があったことから、自殺と判断。検死の結果、死因は毒を飲んだ後、崖から飛び降りたということになった。 その前に、遺体の似顔絵と身につけていた服などを表記した紙を、役所や警備兵の支所などに掲示したが、亡くなった男の血縁者や恋人と名乗る人間は出てこなかった。 遺書の内容は、「許してください」とだけで、名前や自殺にいたった動機などは一切書かれていなかった。 捜査を指揮した、警備兵の隊長は、事件名「自殺事件」を、男の似顔絵、身につけていた衣服、検死の結果や遺書の内容など全てを調査書に記入し、上司に提出。火葬の許可証を得た後、遺体を荼毘にふし、共同墓所に埋葬した。 葬儀には捜査に関わった警備兵全員と、遺体を発見した若い漁師が参加した。 遺骨を墓に納めた後、全員が献花し、手を合わせた。 墓石には名は無く、亡くなった年月日だけであった。 この後の法要などの死者に関わる行事は、近くにある寺院が一切を管理することになる。 レイシャスたちが、訪れたのも、その法要の時期であった。 その日、寺院の神官長は、レイシャスたちの他に、ある客を迎えていた。 治安の一端を担い、犯罪事件の捜査の指揮にあたっていた、警備兵の元隊長である。 今は警備兵を引退し、隊長は他の若い男が任務にあたっている。 法要の時期が来ると、彼は、事件の犠牲者たちに、祈りを捧げるために、必ず参加することにしていた。 挨拶を交わした後、寺院の一室に案内された元隊長は、ふーっと息をついた。 1週間前に、ラルゲフィア商店の者と名乗る男が、役所に現れた。 ラルゲフィア商店といえば、世界に名だたる豪商として名が知られている。 驚く役所の受付嬢に、「ここに、ある男が自殺したという話を聞いてきた。もしかしたら、知り合いなのではないかと思い、訪ねた次第」と言った。 自殺事件はめったに無いことなので、ほとんどの人間が覚えていた。 それなら、警備兵の詰め所にいったらいいと、役所の受付嬢が、場所を書いた紙を手渡した。 商店の使いの男は、警備兵の詰め所の受付をしていた新米警備兵に、「ある男が自殺したらしいと聞いて・・・」とやって来た目的を話した。 警備兵隊長に「自殺事件の遺体の身内らしい男がやって来ました」と新米警備兵が告げた。 隊長はすぐに男を応接間に通し、事件のファイルを開いて見せた。 男は熱心にファイルを眺めていたが、顔を上げてこう言った。 「遺体の名前はわからないんですか?」 「残念ながらわかっていません。服にはイニシャルさえありませんでしたし、付近に聞き込みをしたようですが、ここの人間ではないということしか分かりませんでした。」 「そうですか。実は、我々は、レイシャスという名の男を捜しています。なぜかというと、現当主ワイスさまの妹様、イルージャお嬢様が行方不明になり、亡くなった事件と関わりがあると思っているからです。」 「レイシャス、ですか。少しお待ちください。調べてみます。」 しばらくたって応接間に現れた隊長は、「残念ですが。」と前置きして言った。 「調べた結果、レイシャスという名の男は、犯罪者リストや戸籍には載っていませんでした。」 「似たような訛りの名前はありませんか?例えば、レイシィアスとか。」 「いいえ。ありませんでした。」 「そうですか。」 男はがっかりした顔で、それでも「わざわざお調べ下さいまして有難うございました。」と礼を述べて、警備兵の詰め所を出ていった。 仕事を終えた後、その自殺事件の指揮を取った、元上司に、隊長が報告しにきた。 「なぜ今頃になって・・・」と話を聞いたとき、元隊長は悔しく思った。 その時い合わせていたら、いろいろ話を聞くことができたのにと思い、思わず溜息をついてしまった。 しかし、い合わせていたとしても、重要な情報はあまり聞けなかったかもしれないとも思ってしまう。 あの事件は、今まで手がけて来た事件の中で、解決していない事件の一つでもあった。 一応解決してはいるが、男の秀麗な顔が時々ちらつく。 なぜ自殺したのか。名前はなんと言うのか。 この二つが分からない。 今さら知ったとしても、調査書に付け加える箇所が二つ増えるだけだが、何故か気になってし方が無い。 単なる野次馬根性だ、今はもう辞めているのだからと思って戒めても、男の秀麗な顔がそれを邪魔する。 男の顔も謎の一つであった。 見た事も無いほど美しい顔であった。 遺体に対面した当初は、思わず「ほう」と呟いてしまったほどだ。 女性の警備兵からも、感嘆の視線が注がれていた。 聞きこみの時も、男の似顔絵を見て、「どこかの役者か?」と聞いてくる者は多かったが、「知っているか」と聞くと「知らない。見た事も無い」という答えが返ってきた。 これほど目立つ顔なのに、なぜ知られていなかったのか? 「なぜなんだろうなあ。」 「おや、考え事ですか?」 振り向くと、一人の神官がちゃっかり座っていた。 黒を基調とした神官服を着ており、赤い球をつけた杖を傍らにおいていた。 おかっぱに切りそろえた髪、にこにこと笑顔を浮かべている。 なんとなく怪しいと思ったが、ここに巡礼にきた神官の一人だろうと考えた。 「ええ、まあ。あなたは、見たところ神官のようですが、何を祭っているのですか?赤の竜神?天竜王?地竜王?火竜王?水竜王?どれなのですか?」 「うーん。それは、秘密です。」 怪しい神官、ゼロスは、人差し指を口に当てるお決まりのポーズをした。 男がそんなポーズを取るんじゃない、と心の中で文句をつけた。 「秘密、ですか。」 「ええ。秘密です。」 黒を基調とした神官服を着る神殿ってあったかな、と首をかしげた。 実は、ゼロスは、暇つぶしにやってきているだけである。 別に企みをもって来ていると言うことではないが、この男の考えを察知し、暇つぶしの種に利用しようと思いついたのである。 「ところで、貴方のお名前はなんというのですか?」 「僕ですか。僕の名前は、「怪しい好青年」ゼロスです。間違っても、「悲しきお役所仕事のパシリ」と呼ばないで下さいね♪」 「お役所仕事?どこかにお勤めなんですか?」 「まあ、そんなもんです。」 どうやら数十年経っただけでは、魔族の世界における待遇は変わらないようである。いや、もっと厳しくなっているかもしれない。 「私は退役しています。名前は、ジェラルド=イシュガルデといいます。 ゼロスさん、一つご忠告させていただきますが。」 「なんですか?」 「新興宗教団体に入るのは結構ですが、神官服を着るまでハマルのはあまり感心しませんよ。あなたは、お役所に勤めているのでしょう?だったら、バランスをとったほうがいいのではないですか?」 つまり、ゼロスのことを、(お役所に勤めているが、新興宗教団体に入り、はまってしまった青年)と考えているのである。 真面目な顔をしていうジェラルドのセリフに、ゼロスは座ったまま横へ倒れた。 |
23102 | おつかい(十) | 星空 | 2002/11/3 21:40:05 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十) 寺院の礼拝堂で、神官長と他の僧侶と共に死者へ鎮魂の祈りを捧げたあと、ジェラルドは、墓所へと向かった。 ゼロスは、ジェラルドの大ボケに精神的ダメージを一瞬受けたが、そこは高位魔族。強い精神力を持たなければ生きられないサバイバルな職場で鍛えられているためかすぐに立ち直り、礼拝堂で珍妙な顔で祈りを捧げている振りをしつつ、ちゃっかりと悲しみという感情をいただいていた。 墓所に一歩入ったとたん、ゼロスはあちこちに浮遊する霊の存在に気づいた。 ジェラルドは気づいていないが、生きた人間が入ってくることには、ちらりと見るだけか、顔を少ししかめるという反応であったが、ゼロスに対しては、正体に感づいたのか、露骨に嫌な顔を向ける霊が数体いた。 ジェラルドは、いくつかの墓に花を供え、手を合わせた。 最後に、名の無いあの事件による墓に向かった。 時々、一輪の花をそっと供えるものがいるようだが、この日も供えられていた。 ジェラルドは、花を供えると、手を合わせて、(安らかに・・・)と祈った。 その間、ゼロスは、霊の負の感情をつまみ食いしていたが、ジェラルドが墓所の門をくぐると同時に、「出て行け!!」「二度と来るな!!」と霊がゼロスに向かって怒鳴った。 ゼロスにとってはそれもおいしいお食事の一つに過ぎないので、笑顔で受け流しつつ、しっかりその感情も食した。 「霊となると、人間と違って、負の感情の味が濃いんですよね♪」 「?」 ジェラルドが不思議そうに振り返ると、「何でもありませんよ」と誤魔化した。 神官長と別れの挨拶を交わした後、ジェラルドはそのまま家路についた。 ゼロスはにこにこと笑顔でそれを見送った。 「おもしろくなりそうですね♪」 ゼロスは、ジェラルドが元部下の話から、もう一度あの事件に取り組むことになると確信していた。 はたして、その翌日。ジェラルドは、荷物をまとめて旅に出た。 行き先は、ラルゲフィア商店の本店がある北であった。 さて、レイシャスたちはどうしていたのだろうか。 四人は僧侶に案内された部屋で大人しく過ごしていたが、ハイヤルが僧侶の一人から、遺跡があると聞いて、見物がてら一攫千金を狙うべく、何かを見つけようと、スコップを借りて出ていった。 結果は何も見つからず、(というより、その遺跡は、すでに遺跡を共同研究している寺院と魔道士協会によって掘り尽くされており、神殿の柱の跡があちこちにあるだけだった。今では、単なる観光名所と化している。)夕日が落ちてカラスが鳴く頃、がっかりと肩を落として戻ってきた。 「見物料」なるものを支払わされたハイヤルは、暴れそうになったが、兄のミンジェがなだめてようやく落ち着いた。 「ここで喧嘩をしても何もならない。出て行けと言われたいのか?」 「わかったよ。」 四人は寺院の倹しい食事を食べ、風呂に入り、布団をしいて雑魚寝をし、夜を過ごした。 食事の時、お酒が無いのが、青年の二人には不満であったが、諦めた。 出発の時、神官長に「お世話になりました」と挨拶した。 神官長、寺院の管理人二人に見送られ、四人は馬上の人となった。 ぴゅーっ、と木枯らしが吹き、地面を厚く覆っている落ち葉を吹き分けていった。 「寒いね。」 「もうすぐ冬が来るからな。」 ミンジェが暗い空を見上げていった。 空は、灰色の曇り空であった。 |
23320 | Re:おつかい(十) | D・S・ハイドラント | 2002/11/15 22:18:01 |
記事番号23102へのコメント >墓所に一歩入ったとたん、ゼロスはあちこちに浮遊する霊の存在に気づいた 霊ですか・・・。 魔族だから見えるのでしょうか >「霊となると、人間と違って、負の感情の味が濃いんですよね♪」 へえそうなんですか >空は、灰色の曇り空であった。 結構この空の色が好きな私。 それでは〜 |
23334 | ありがとうございます | 星空 | 2002/11/16 21:47:11 |
記事番号23320へのコメント >>墓所に一歩入ったとたん、ゼロスはあちこちに浮遊する霊の存在に気づいた >霊ですか・・・。 >魔族だから見えるのでしょうか > 魔族というのは、精神世界(アストラル・サイド)に属しているらしいので、そうならば、見えるんじゃないかと考えました。 >>「霊となると、人間と違って、負の感情の味が濃いんですよね♪」 >へえそうなんですか > うー。実は、「霊というのは、肉体に包まれていた人間の頃と違って、感情とかが剥き出しになりやすい」とどこかで読んだ気がするので、そこからの設定です。 >>空は、灰色の曇り空であった。 >結構この空の色が好きな私。 > 私は、曇り空は二番目に好きです。 >それでは〜 > D・S・ハイドラントさん、レスありがとうございました。 それでは、失礼します。 |
23142 | おつかい(十一) | 星空 | 2002/11/5 22:41:50 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十一) 寒風が吹き荒れる曇天の下、ジェラルドは待っていた。 彼は今、馬車の営業所にいた。馬車に乗って北へ行こうと思ったのである。 揺れがひどく、快適とは言えないが、歩いて行くよりは速いと考えたのである。 現役時代から愛用していた黒のコートの襟を立て、足元にはカバンを置き、寒さに震えつつ、馬車が来るのを待っていた。 ガラガラという音に顔を上げると、一台の馬車がこちらに向かって来ていた。 とっさに手を上げると、御者席に座っている鞭を持った男が、手綱を引いて止めた。 目的地を告げて、ドアを開けて乗りこむ。 ドアを閉めるのと同時に、馬車は動き出した。 席はきちんとした造りになっており、座ると、柔らかい感触が腰を包んだ。 何か工夫をしてあるのか、揺れは感じるがあまりひどくは無く、逆に心地よいとさえ思ってしまう。 窓に流れる風景を眺めているうちに、ジェラルドはいつのまにか、眠りに落ちてしまった。 進み行く馬車は、やがて、人気のあまり無い道へと入っていった。 御者が鞭を鳴らし、馬の蹄が地面を蹴立て、車輪が重い響きを立てて鳴る音が響き渡った。 馬の制御に余念の無かった御者は、急に何かが路上に飛び出してきたので、慌てて手綱を引いて馬を止めようとした。 馬は何とか止まったが、突然の衝撃で馬車が揺れ、ジェラルドの鼻提灯もパン!!と割れ、目が覚めてしまった。 何事かと窓から顔を出して、ジェラルドは仰天した。 武器を手に持った数人の人間が道を塞いでいたのである。 黒いローブを着たのが二人いたので、魔道士も仲間らしかった。 そのうちの一人が、前に進み出て何か言おうとしたが、ジェラルドが先に言った。 「ここを通すには交通料を置いていけ。さもなければ、身包み全てを剥ぐぞ、か?」 口上を言われて黒ずくめはやや白けたが、言っても言わなくても、この男の言うとおりだから、「そうだ」と頷いた。 御者は不愉快だったが、ここで揉めては客を運ぶという目的が果たせなくなってしまう可能性が高いので、懐から金銭を取り出そうとした。 黒ずくめはそれを見て、「物分りがいいことだな。」と目を細め、御者が懐にいれた手から、金銭が出されるのを待つことにした。 御者の手が懐から出されると同時に、「ファイヤー・ボール」とぼそっと呟く声が上がった。 黒ずくめが気づいた時にはすでに遅く、御者の手から放たれた蒼い光球がぶつかり、紅蓮の炎と化して爆発した。 身振りを入れた正式な呪文詠唱ではなかったので、威力は半減していたが、相手を気絶させるには十分だった。 ジェラルドも簡単な術なら扱えるので、詠唱し終わった術を窓から身を乗り出して解き放った。 「フリーズ・アロー!!」 十数本の氷の矢が飛び、敵を怯ませた。うち数本は手や足にあたった。 敵の間に生じた隙に乗って、御者は素早く鞭を振るい、馬を強く打った。 馬がいななき、足を振り上げ、怒涛のように土をけって突き進んだ。 蹴られてはたまらないと黒ずくめとその仲間が避難した間に、馬車は視線の向こうへと消えていた。 もうもうと上がる土埃が薄れた時、馬の足跡を黒のローブの背中にくっきりつけた、黒ずくめが埋まっていた。 幸い生きていたが、これにこりたか、時々出没しては、道行く旅人などを悩ませていた彼らは、以来姿を見せなくなったそうである。 暴走する馬が次第に静まるにつれて、ひどかった揺れも収まった。 ジェラルドは、馬車から振り落とされないように席にしがみついていたが、揺れが収まったのを知って、ほっとため息をついて喜んだ。 「お客さん。大丈夫ですか?」 「ありがとう。私は大丈夫だよ。」 「そうですか。」 がらがらがら・・・・・と車体が揺れるにつれて、窓の外の風景も揺れる。 「あの、すみませんが。」 「何ですか?」 「なぜ、森の中を通るんですか?さっき、道が見えたんですが、なぜ、そちらのほうを通らないんですか?」 「近道なんですよ。」 「そうですか。」 がらがらがらがら・・・・・・ 「あの。」 「はい?」 「何だか、だんだん奥へと向かっているようなんですけど。」 「気のせいです。」 「はぁ。そうなんですか。」 御者がうるさそうに返事をしたので、ジェラルドは質問しても迷惑だろうと思い、黙って外を見つめた。 がらがらがらがら・・・・・・・・ぴたっ 「つきましたよ。」 御者が告げたが、目的地とはまったく違う森の中で、馬車は止まっていた。 「・・・・・・どういうことなんですか?これは。私はここで止めてほしいといっていませんよ。」 「あなたがどこで止めろといってもそれは私に関係ありません。」 御者はドアを開けると、ジェラルドを引き出すようにして降ろし、その喉元にナイフをつきつけた。 「!?」 「わたしも、さきほど道であった奴らと同じなんですよ。さあ、どうします?」 「そういうことですか・・・・。」 ジェラルドは男の目を見据えると、がしいっ!!と腕をつかんだ。 「無駄ですよ。」 せせら笑うのをものともせず、ジェラルドは「せいやっ!!」と気合を入れた。 次の瞬間、男の体がふわりと浮いたかと思うと、どうっ!!と地面に叩きつけられた。 「これでも、元警備兵なんでね。」 パンパンと手を叩くと、驚く男に言った。 「ここでへたばってもらっては困ります。あなたには、私を運ぶという依頼がありますからね。」 ナイフをさりげなく取り上げると、悔しそうに唇をかむ男を御者台にいざなった。 「ああ、言っておきますが、スリーピングをかけようと思わないほうが好いですよ、職業柄、耐性がつくようになっていますからね。」 「くそっ」 舌打ちしつつ、鞭を振るう男。馬車は、向きを変えて走っていた。 |
23336 | Re:おつかい(十一) | D・S・ハイドラント | 2002/11/16 22:45:09 |
記事番号23142へのコメント >馬は何とか止まったが、突然の衝撃で馬車が揺れ、ジェラルドの鼻提灯もパン!!と割れ、目が覚めてしまった。 ・・・鼻提灯。 >武器を手に持った数人の人間が道を塞いでいたのである。 野盗の類でしょうか >ジェラルドも簡単な術なら扱えるので、詠唱し終わった術を窓から身を乗り出して解き放った。 まあ使いようですからねえ。 >「なぜ、森の中を通るんですか?さっき、道が見えたんですが、なぜ、そちらのほうを通らないんですか?」 >「近道なんですよ。」 >「そうですか。」 >がらがらがらがら・・・・・・ >「あの。」 >「はい?」 >「何だか、だんだん奥へと向かっているようなんですけど。」 >「気のせいです。」 あやひい。 >せせら笑うのをものともせず、ジェラルドは「せいやっ!!」と気合を入れた。 >次の瞬間、男の体がふわりと浮いたかと思うと、どうっ!!と地面に叩きつけられた。 強い。 >「ああ、言っておきますが、スリーピングをかけようと思わないほうが好いですよ、職業柄、耐性がつくようになっていますからね。」 耐性ですか。 それではまた |
23342 | こんばんわ。 | 星空 | 2002/11/16 23:38:49 |
記事番号23336へのコメント こんばんわ。星空です。 >>馬は何とか止まったが、突然の衝撃で馬車が揺れ、ジェラルドの鼻提灯もパン!!と割れ、目が覚めてしまった。 >・・・鼻提灯。 > そうです。鼻提灯です。漫画などで、寝ている人の鼻に、風船のように膨らんでついているあれです。 >>武器を手に持った数人の人間が道を塞いでいたのである。 >野盗の類でしょうか > うー。まあ。似たようなものです。 >>ジェラルドも簡単な術なら扱えるので、詠唱し終わった術を窓から身を乗り出して解き放った。 >まあ使いようですからねえ。 > ジェラルドさんは、難しい術を覚えるのが苦手だったようです。 >>「なぜ、森の中を通るんですか?さっき、道が見えたんですが、なぜ、そちらのほうを通らないんですか?」 >>「近道なんですよ。」 >>「そうですか。」 >>がらがらがらがら・・・・・・ >>「あの。」 >>「はい?」 >>「何だか、だんだん奥へと向かっているようなんですけど。」 >>「気のせいです。」 >あやひい。 > 露骨に怪しいようですが、ジェラルドさんは降りなかった。 なぜ、そこで降りなかったんでしょうか・・・・? >>せせら笑うのをものともせず、ジェラルドは「せいやっ!!」と気合を入れた。 >>次の瞬間、男の体がふわりと浮いたかと思うと、どうっ!!と地面に叩きつけられた。 >強い。 > 強いです。退役しているのにです。さすがは元警備兵といったところでしょうか。 >>「ああ、言っておきますが、スリーピングをかけようと思わないほうが好いですよ、職業柄、耐性がつくようになっていますからね。」 >耐性ですか。 > メディオ=グランシップさんが、「徹夜に絶えるために強くなった」とか似たようなセリフを言っていたようなので、そうなんだったら、徹夜の張り込みとかをする警備兵さんも強いんじゃないかなと思いました。 まあ、リナの術であっさり寝ている人がほとんどですが。 >それではまた レス。ありがとうございました。 それでは失礼します。 |
23143 | 超えてしまいました | 星空 | 2002/11/5 22:54:51 |
記事番号23087へのコメント 投稿記事の数十を超えてしまいました、(おつかい)。 (一)で登場した限りで、その後まったく出ておらず陰の薄い、レイシャスのご家族の皆さんはいつ登場するのか、妹さんのお餞別のお守りはどこでその効果を発揮してくれるのか。そして、銀髪の老紳士は果たして、ゼルガディス氏なのか。 元警備兵ジェラルドは、昔の事件に関わった結果、どうなるのか。 ・・・・頑張って、書いてゆこうと思っています。 |
23190 | おつかい(十二) | 星空 | 2002/11/8 23:31:31 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十二) 「動くなぁっ!!」 とある町の商店街。買い物にきた主婦や店主や従業員、若者などで沢山の人があふれているなか、突然の叫び声が上がったかと思うと、炎の矢が飛んできた。 トラブルの気配を察し、人々が逃げ惑う。 「逃げましょう!!」 センジェは慌てて、連れの少年レイシャスと思いこんで近くにいた老紳士の手を引っ張り、走り出した。 老紳士は見知らぬ若い女性がいきなり手を引いたかと思うと、走り出したので、驚いたが、なすがままにした。 炎の矢は、レンガを積んで出来た石造りの家の壁や、地面に当たり、焦げ目をつくった。 パニックに陥り、混乱した人々は、お互いを押し合い突き飛ばしながら走っていった。 あちこちで、怒鳴り声や悲鳴、泣き声が飛び交い、荷車を引かせていたロバが興奮して、暴走していた。 センジェは必死に走ったが、混乱にまぎれ、そっと近づいてきた男が、眠り薬を染み込ませた布を彼女の口にあてがい、眠らせた。 老紳士も同じようにして眠らせ、男は二人を担いでどこかへ去っていった。 混乱が静まる頃を見計らったかのように、おっとり刀で警備兵がやってきて、現場整理を始め、聞き込みをしたが、何が起こったのかさっぱりわからず、近くにいたスリなどを捕まえただけで終わってしまった。 その頃、レイシャスはレストランの中に逃げ込んでいた。 センジェと商店街に来ていたのだが、急に叫び声が上がったかと思うと、どっと人が押し寄せてきた。 それに押されて、人の波に流されるままここに来たが、センジェとはぐれてしまった。 どうすればいいのかわからず、とりあえず、商店街に戻ったが、警備兵がスリなどを捕まえて帰った後で、人は戻ってきていたが、センジェはいなかった。 店のおばさんや通行人に、センジェの特徴を挙げて、「彼女を見ませんでしたか?」と聞いたが、「知らないねえ」と首を振るだけであった。 先ほど起こった出来事を話している人を見つけ、聞いてみることにした。 1回目、2回目、3回目と続けて聞くうちに、「見たかもしれない」という人が現れた。 「長い黒髪の綺麗な女の人だったんで覚えているよ。あのとき、俺は近くにいたんだが、彼女は、あんたと間違えたんだと思うけど、近くにいたお爺さんを引っ張っていっていたよ。そこまでは見たけど、後はひどい混乱だったんで、よくは覚えていないよ。けど、あっちの方に逃げて行こうとしたのは覚えてる。」 商店街の二つある入り口のうち、片方を指差した。 「そうですか。ありがとうございます。」 早速向かったが、いるはずもなく、とぼとぼと宿屋へ帰ろうとして、そこで、彼も攫われてしまった。 背後から近づいてきた男が、顔を布で覆い、もがく彼を抱き上げて袋の中に詰め込み、運んでいったのである。 ミンジェ、ハイヤルの二人は、さきに宿屋に戻っていたが、二人が帰ってこないので、心配した。 イライラしながら待っていると、宿屋の従業員が部屋にやって来た。 「お二人に手紙を届けてほしいと言われたんですが・・・・」 ひったくるようにして手紙を受け取り、礼を述べ、ドアを素早く閉める。 羊皮紙が巻かれたもので、綺麗な紐で飾られていた。 ミンジェがナイフで紐を切り、羊皮紙を広げた。 内容をざっと目で読んで目を細めたミンジェは、ハイヤルに渡した。 ハイヤルは文章を読んで、目元をピクピクと動かした。 「ミンジェ・ハイヤル兄弟に告ぐ。 妹のセンジェ嬢の命が惜しければ、教会の鐘が十二回鳴った時に、広場に来い。そこで待つ。必ず来い。」 ハイヤルは、小さな火を上げて燃えている暖炉に羊皮紙を突っ込んで燃やした。 「行くしかないな。」 「当然だろう。だが、気になることがある。」 「何だ?」 「レイシャスはどこへ行ったんだ?」 「どうせそのことにも奴らが関わっているに決まっている。」 「そうだったら、妹とレイシャスの名が書かれているはずだが?」 首を傾げるミンジェ。 「ともかく行かなければどうしようもあるまい。腹が減っては戦が出来ぬともいうだろう。エネルギーを貯めこんでおかなければ。」 「むろんだ。」 この夜、猛烈な勢いでフルコース四人前を食べる、二人の男が食堂中の客の注目を集め、しばらくのあいだ噂になった。 |
23230 | おつかい(十三) | 星空 | 2002/11/10 17:57:36 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十三) 脅迫状も兼ねた挑戦状を受け取った、ミンジェ・ハイヤル兄弟は、相手の要求どおり、広場へやってきていた。 晩御飯のフルコース四人前で十分エネルギーは貯まっており、真夜中だというのに、闘志満々、興奮で眠気はどこかへ飛んでいた。 細い三日月が、銀色の光を地上に投げかけていた。 きらきらと満天の星が、漆黒の夜空に輝く。 街灯代わりの「ライティング」の光が、二人の姿を照らし、石畳に影をつくった。 りーんごーんりーんごーんりーんごーん・・・・・・ 重厚な鐘の音が十二回鳴った。 カツカツカツ。 皮の靴が石畳を蹴って進む音が響き、一人の男が姿を現した。 「我が挑戦に臆せずよく来たな、ミンジェ・ハイヤル兄弟よ。」 「妹の命がかかっているからな。」 ミンジェが冷たい口調で静かに言った。 ハイヤルは黙っているが、相手が一人だけではないことに気づいていた。 二人は男に見覚えがあった。 ある町の食堂で、妹にちょっかいをかけてきた男である。 二人の反撃で打ち所が悪かったのか死んだかと思われていたが、生きていたようである。 「警備兵を呼んだりしてはいないようだな。」 男は独り言でも言うかのように呟いた。 実は、警備兵を呼んだらどうかと、フルコースを食べ終わった後、ハイヤルが提案したが、「それには証拠となるものがいるだろう」というミンジェの一言で没になり、ハイヤルは冷や汗をかいた。証拠品の手紙は、自身が燃やしてしまっていたからである。 「二つ聞きたいことがある。」 ハイヤルが言った。 「何かな?」 「一つめは、何故俺たちを狙ったのだ?」 「復讐のためだ。」 「復讐?」 「そうだ。貴様らは覚えてはいるまいが、貴様らに叩きのめされ死にかけたことがあるのだ。そのことへの復讐で狙ったのだ。」 やっぱりそうか。と二人は思った。 「あれは確かにやりすぎたかもしれないが、事の始まりはお前が、妹にちょっかいをかけ、挙句に、腰を触ったりしたからだろうが。」 「そんなことはどうでもいい。私は町では有名な男だったのに、貴様らに負けたことが悔しいのだ。要はお前たちを倒す。これだけだ。」 町で有名だったと言われてもなあ・・・とミンジェが心の中で呟き、呪文を唱え始めた。 「二つめ。妹は無事なのか?」 「ふっ、安心しろ。危害は加えてはいない。これ以上のこと、囚われている場所を知りたければ、私を倒してからにするがよい。」 男は着ていた服をばっと脱ぐと、筋肉隆々のマッチョな上体を現した。 「さあ、かかってこい!!」 「ファイヤー・ボール」 「フリーズ・ブリッド!!」 ミンジェの放った術は、男の後ろから放たれた術によって相互干渉の結果相殺し、消滅した。 「ふははははっ!!こういうこともあろうかと、魔道士を雇っておいていたのだ。」 「ハイヤル!!」 「よしきた。まかせておけ!!ディム・ウィン!!」 ごうっ!! 突然の強風に、背後の闇で襲おうとしていた気配のいくつかは吹っ飛び、あるいはそのまま踏みとどまった。 ミンジェは背中の剣を抜くと、飛んできた「ダム・ブラス」を弾き飛ばし、広場の樹の幹を抉った。 闇から踊り出た黒装束が、剣を手に、ハイヤルを襲う。 ぎいんっ!!と金属がぶつかり合う甲高い音と小さな火花を散らし、ハイヤルが背中の鞘から抜いた刀身で、黒装束の剣を受け止め、二人はぎりぎりと鍔迫り合いを演じ始めた。 その隙を狙い、「フレア・アロー」を飛ばしてくるものがいたが、ミンジェが素早く術の主を斬り伏せ、その勢いを利用して、もう一人に蹴りをいれた。 ハイヤルは鍔迫り合いを演じつつ、炎の矢が飛んでくる頃合いを見計らって、後ろに跳び退った。 炎の矢はハイヤルが今までいたところを通り、そのまま闇の中に消えた。 「フレア・ランス」 ぼびゅっ 炎の槍がまともにあたり、黒装束は倒れた。 「エルメキア・ランス!!」 「ヴァス・グルード。」 ミンジェのつくりだした光の盾に阻まれ、消えるエルメキア・ランス。 「フリーズ・ブリッド!!」 こかきいいいんっ!! 誰かが放った術をミンジェがよけたので、これまたとばっちりを受けて誰かが凍りついた。 後はもう誰が誰やら。敵味方入り乱れての大乱闘となり、刃と刃がぶつかり合い、その隙を縫って、あるいは頭上すれすれに、炎の矢やら氷の槍やらがびゅんびゅん通りすぎていった。 ミンジェとハイヤルの連携は息があっており、互いに助け合いながら、敵を次々と倒してゆく。 「ダム・ブラス!!」 びぎいんっ!! 剣が折れたので動揺する敵、そこを狙って、ハイヤルが突っ込んでゆくが、敵も然る者、折れた剣を投げてきた。 ハイヤルはこれを難なく弾き飛ばしたが、飛んできた先が手紙をよこしてきた張本人で黒装束たちの雇い主と思われる男だった。 男は真っ青になったが、黒装束たちは忙しいのか、誰もかけつけてこない。 幸いにして頬を掠っただけですんだが、男は身を翻して逃げようとした。 が、誰かにぶつかった。 「何をするんだ、このヤロウ!!」 「それはこっちのせりふだ。ここで何をしている?」 ステッキを持った老紳士が静かに聞く。 その後ろには、捕らえたはずのセンジェが立っていた。 「おっ、お前は・・・!!」 目を剥いた男が何かを言い終わる前に、センジェの拳が男の顔にめり込んだ。 どうっ。と鼻血を吹いて男が倒れる。 ピィーッと甲高い呼子の音があちこちで響き渡る。 「!警備兵が来ているのか?」 黒装束の一人の剣を叩き切った後、もう一人の顎に拳を叩き込んでいたハイヤルが呟いた。 警備兵がやって来る、の一言に、黒装束たちは、「退却するぞ!!」と互いに呼び合いながら、潮が引くように、さーっと闇の奥へと撤退していった。 「お見事。」 ミンジェが剣を鞘に収める。 呼子の音は、徐々に近づきつつあった。 「センジェ!!無事だったのか!!」 「ええ。無事よ。こちらの御方のおかげでね。」 センジェは言って、隣の老紳士を指差した。 ハイヤルは驚いた。見知った顔だったからである。 「ゼルガディス=グレイワーズというお名前なんですって!!私、サインを貰っちゃったわ。」 はい? ミンジェとハイヤルの思考が一瞬停止した。 「とにかくすごいお方よ。私と一緒に捕まってしまったんだけど、脱出する時、牢屋の見張りや敵をばっさばっさと薙ぎ倒していくのよ。それで、二人とも、堂々と正門から脱出しちゃったわけ。で、何やら騒ぐ音がするから、行ってみると、こいつと出会ったんで、思わず殴り倒してしまったわ。」 「・・・・・つまり、俺たちの活躍は全くの無駄骨だったと・・・・?」 「そんなことないわよ。」 センジェは慌てたが、兄二人は暗い顔になっている。 はあああああっ・・・・・と深い溜息をついて、ミンジェは、センジェの頬をつねった。 「いっ、いひゃいいひゃい!!」 「おーまーえーというやーつーはーっ!!一体どれだけ心配したと・・・!!」 ゼルガディスという老紳士は、黙って見ている。 「で、誰が警備兵を呼んだんだ?」 ハイヤルが聞いている間に、警備兵達がこちらにやって来た。 しかし、彼らは、四人をちらりと見たきりで、慌しく去っていった。 「・・・・・あれ?」 「どうやら別件だったようだな。我々は警備兵を呼んでいないぞ。」 老紳士が静かに言った。 「じゃあ、一体誰が?」 気が済んだのか、センジェの頬から指を離して、ミンジェが聞いた。 赤くなった頬をさすって涙ぐんでいるセンジェ。 彼女をちらりと見て、老紳士は言った。 「あちらの方向に原因があるのではないかね。」 指差した先は、警備兵達が去っていった方向と一致していた。 |
23255 | Re:おつかい(九) | D・S・ハイドラント | 2002/11/11 21:40:55 |
記事番号23087へのコメント お久しぶりです。改名しました元ドラマ・スライムのハイドラントです。 >数ヶ月後、ある海岸で、一人の男の水死体が発見された。 おお、いきなり事件ですか。 >男の顔も謎の一つであった。 >見た事も無いほど美しい顔であった。 魔族かな? と言いつつ、何故かレゾを思い浮かべた。 >振り向くと、一人の神官がちゃっかり座っていた。 >黒を基調とした神官服を着ており、赤い球をつけた杖を傍らにおいていた。 >おかっぱに切りそろえた髪、にこにこと笑顔を浮かべている。 ごっ・・・ゴキブリ!じゃなくてゼロスだ。 >「新興宗教団体に入るのは結構ですが、神官服を着るまでハマルのはあまり感心しませんよ。あなたは、お役所に勤めているのでしょう?だったら、バランスをとったほうがいいのではないですか?」 なるほど新興宗教ととったわけですか。 それではゆっくりですが読んでいきますので・・・。 ではまた〜 |
23275 | ありがとうございます | 星空 | 2002/11/12 21:36:17 |
記事番号23255へのコメント >お久しぶりです。改名しました元ドラマ・スライムのハイドラントです。 > お久しぶりです。元ドラマ・スライムのハイドラントさん。 おつかい(一)から(八)へのコメントありがとうございました。 >>数ヶ月後、ある海岸で、一人の男の水死体が発見された。 >おお、いきなり事件ですか。 > ええ。事件です。これについて、改めて調べようと、元警備兵のジェラルドさんが追っています。 え、今、ジェラルド氏が乗っておられる馬車の中から中継でお伝えします。 カメラマン「星空さん。きついですよ。揺れる馬車の中で撮るなんて。」 えー、ジェラルドさん。聞こえますか?星空です。 ジェラルド「聞こえますよ。星空さん。」 ジェラルドさんは、前手がけていた事件を改めて調べておられるようですが、どうでしょうか? ジェラルド「ノーコメント。まだ、調査が始まっていないので、答えられません。」 >>男の顔も謎の一つであった。 >>見た事も無いほど美しい顔であった。 >魔族かな? >と言いつつ、何故かレゾを思い浮かべた。 > ジェラルドさんは、被害者に付いてご存知だと思われます。 被害者は、赤法師レゾに似ていたのでしょうか?魔族だという可能性はありますか? ジェラルド「赤法師殿とは面識が無いので、似ていたかどうかは知りませんが、美しい顔だったことは確かです。私も最初、どこかの役者かと思いましたから。ついでにいうと、背が高く、痩せてはいましたが、何かで鍛えていたらしく、体は引き締まっておりました。魔族かどうかは、分かりません。」 >>振り向くと、一人の神官がちゃっかり座っていた。 >>黒を基調とした神官服を着ており、赤い球をつけた杖を傍らにおいていた。 >>おかっぱに切りそろえた髪、にこにこと笑顔を浮かべている。 >ごっ・・・ゴキブリ!じゃなくてゼロスだ。 > ゼロスさん登場です。会った時どう思われました? ジェラルド「彼に会ったときは驚いたな。いつのまにかそこにいたのだから。」 >>「新興宗教団体に入るのは結構ですが、神官服を着るまでハマルのはあまり感心しませんよ。あなたは、お役所に勤めているのでしょう?だったら、バランスをとったほうがいいのではないですか?」 >なるほど新興宗教ととったわけですか。 > ジェラルドさんの「新興宗教団体に入るのは結構ですが、神官服を着るまでハマルのはあまり感心しませんよ。あなたは、お役所に勤めているのでしょう?だったら、バランスをとったほうがいいのではないですか?」というセリフで、ゼロスさんは倒れてしまいましたが。 ジェラルド「図星だったので、倒れたのだろう。」 ・・・・・・・違うと思いますが。 ジェラルド「そうか?」 >それではゆっくりですが読んでいきますので・・・。 >ではまた〜 ありがとうございます。 ジェラルドさん、事件調査頑張ってください。 ジェラルド「ありがとうございます。」 それでは、中継でお伝えいたしました。 カメラマンさんお疲れ様でした。 カメラマン「どういたしまして」 (これを書く前に、パトカーがサイレンを鳴らしながら通りすぎてゆきました。一体何があったんでしょうか?) |
23329 | おつかい(十四) | 星空 | 2002/11/16 17:27:41 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十四) 警備兵の一団が通りすぎた後、少し遅れて、真ん丸の顔に、小さな目鼻をくっつけ、ビヤ樽型の体を警備兵の制服で包み、ふうふういいながら走っている隊長に率いられた一団がやって来た。 隊長は、疲れたのか一度立ち止まり、そこで、ミンジェたちに気づいた。 緑、濃紺、深い緋色の服を着て、背中に剣を背負った、兄弟と思しき、二人の青年と女性。黒を基調とした、地味だが洗練された服装で、ステッキを持っている、銀髪の品の良さそうな老紳士。 この四人のほかに、目を回して倒れている大男と、黒ずくめの服を着て剣を握った数人が倒れている。しかも、足元の石畳には血が流れている。 となると、はじき出される結果は、(乱闘)ということになる。 汗をかきやすいのか、隊長はポケットから出した白いタオルで、顔をふいた。 「こりゃひどい。いったい何があったんだ?」 「乱闘ですよ。」 あっさりとミンジェが答えた。 「あんた、当事者なのかね。ここに倒れている大男と他の奴らに関わりがあると?」 「ええ、まあ。」 「一応、名前を聞かせてもらえるかね。」 「ミンジェ。隣にいるのは、弟のハイヤルと妹のセンジェだ。隊長さんのお名前は?」 「お、そうだった。わしの名前は、ジェイス。警備兵をやっておる。」 隊長は、警備兵の紋章を見せ、取り出した手帳に書きつけると、顔を上げてゼルガディスの方を見た。 「ご老人のお名前は?」 「ゼルガディスだ。」 「ゼルガディスね。で、ミンジェさん、この大男との関わりは?」 ミンジェは、事件のあらすじを詳しく語った。 隊長は熱心に書きとめたが、頷くたびに二重顎が露わになった。 部下に、大男と黒ずくめを捕まえておけと指示した後、「一応念の為に、センジェさんとゼルガディスさんに詰所に来てもらえますか?」と聞いた。 ゼルガディスは頷いたが、センジェは首を横に振った。 「なぜです?」 「今、知り合いを探しているところなんです。詰所に行くのは明日にしてもよいでしょうか?」 「誰を探しているんですか?」 「レイシャスという名の少年です。年の頃は、十三、四で、黒髪、緑の眼。」 名前はともかく、ミンジェが挙げた外見の特徴に一致する少年はそこいらにいる。 手がかりが少なすぎるなと思いながら、隊長は手帳に書きとめ、頭をかいた。 「うーん。おい、エルノア。ウィリ。」 「はい。」 「何でしょうか?」 「お前たちは、ミンジェさん、ハイヤルさん、センジェさんと一緒に、レイシャスという少年を探すのを手伝え。いいな。」 「了解」 「イオナ、ルクトはゼルガディスさんと詰所へ戻れ。ワイス、タイスは、大男と黒ずくめの護送責任者として、彼らを牢屋へつれて行け。テス、ジオ、ギア、シェイ、ルア、スイ、ジンは、ワイス、タイスの指示に従え。他は、予定通り、他の隊と合流し、作業にあたる。いいな。」 「了解」 「では行くぞ。」 ジェイスは二十名の警備兵を率い、路地裏の暗がりへと去っていった。 イオナ、ルクト、ゼルガディスの三人は、詰所へ行った。 「さて、テス、ジオ、ギア、シェイ。君たちは、護送の手伝いを頼む。ルア、スイ、ジンは、現場保存を。」 「了解」 ワイス、タイスに率いられた四人の警備兵は、大男と黒ずくめを縛った縄をつかみ、彼らを牢屋へ連れて行き、ルア、スイ、ジンは、現場保存と調査を始めた。 「我々も行きましょう。で、どこを探しましょうか?」 「そうですね。」 エルノア、ウィリの二人に促された、ミンジェはしばらく考えた後、言った。 「ジェイスさんが向かったのと同じ所へ行きましょう。」 「わかりました。」 六人は、ジェイスと二十名の警備兵の後を追うべく、走り出した。 夢をみた。 最初は、血の色、次に黒々とした闇、爽やかな光溢れる緑、そして、金色の海が現れた。 金色の海は、何かどろどろとした塊が、意思あるもののように渦を巻き、渦の中心から眼を焦がすような眩い光が溢れていた。 細い一本の棒のようだった光は、徐々に膨れ上がり、やがて、完全な球形となったが、内側からの力に耐え兼ねたのか、猛烈な勢いで弾けた。 力の嵐がごうごうと吹きつけ、自分も巻き込まれた。 嵐が収まり、やがて、小さな風になったとき、渦の中心であった場所に、一人の金髪の女性が立っていた。 眼を見張るほど美しかった。 流れるような美しい蜜色の髪、彫刻のような作り物めいた完璧な美貌と肢体、長い睫毛はもちろん金で、瞳も金だった。 美女の眼が自分を見た。 「まだ、そこにいる気なのか?お前は、まだ来るべきではない。帰るがよい。元の世界へ。」 待ってください。あなたはいったい誰なのですか。 「我の名は・・・・・・・・・だ。」 何?今、何て・・・・? 「帰るがよい、レイシャスよ。」 何故私の名を知っているのですか。帰るがよいって、どこへ帰るのですか。 「現世へ。お前を待っている者たちがいる。」 また、会えるのでしょうか。美しい御方よ。 「いつか会えるであろう。それまで、待つがよい。さらばだ。」 さらばだ、って・・・待って。 「待ってください!!」 レイシャスはそこで目が覚めた。 自分の叫び声がきっかけとなったようである。 見開いた緑色の瞳に真っ先に見えたのは、自分の手と薄汚れた天井であった。 「あれ・・・・?ここはどこなんだ?」 まだ、頭がぼうっとする。 何があったのかわからない。 身を起こし、周りを確かめる。 じめじめと湿った床、鉄格子で出来た扉には、厳重な鍵がついている。 近くには、暗い顔で座り込んでいる、自分と同じ年頃の子が数人いた。 小さな、これまた鉄の棒が嵌め込まれている窓の外には、夜空が広がっていた。 センジェと買い物に出て、逸れ、そして、今ここにいる。 買い物に出て逸れ、宿屋ではない場所で眠っていたとなれば、自分がどうなったのか予想できる。 「それにしても、もう夜なのか。」 「すでに夜よ。」 レイシャスの隣に座っていた少女が呟く。 「これからどうなるのか分からないというのに、よく眠れるわね、あんた。」 レイシャスが黙って頭をかいていると、少女は続けた。 「扉が開いたとき、目を輝かせてしまったけど、お仲間が一人増えただけ。 それも、のん気に眠っているのだから、あきれるというか、なんというか・・・。あんた、何て言う名前なの?」 「レイシャス。」 「あたしは、リクよ。ところで、あんた、何の夢をみていたの?「待ってくれ」って言っていたわよ。」 「金髪の美女が出てくる夢をみた。誰なのか知らないのに、相手は自分の事を知っていたんで・・・・」 「へえ。金髪の美女の夢ねえ。どこかで見たのを夢にみたんじゃない?自分の好きなひとだったとか・・・」 「いや、違う。何て言ったらいいのか。とにかく、すごい美人なのに、自分は知らなかったんだよ。」 「ふーん。まあ、いいわ。ところで、あんた、なんで、あたしたちがここにいるのか、知ってる?」 「いや、知らない。」 「でしょうね。あたしがここに入れられた時、連れてきたおっさんが言っていたのよ。」 「何て。」 「生贄にするんですってさ。馬鹿馬鹿しいと思わない?赤の竜神への捧げものは、祈りか献金と相場が決まっているこのご時世に?」 「はぁ。そうですね。」 「はぁ、そうですね。じゃないでしょ。全く・・・・。どうせ、ほらか何かに決まっているわよ。他の子は真に受けて怯えていたけどね。」 「はぁ。」 「ほらじゃないわよ。お嬢ちゃん。」 美しい艶のある声が牢屋に響き渡る。 「なっ!!」 リクが怒りを込めた声を上げる。 レイシャスと他の子も牢屋の扉を見る。 扉の向こうに、黒髪、真紅の眼の美貌の女が、黒いドレスを纏って立っている。 隣に、紫のローブを着た男が付き添っていた。 「勇ましいこと。お嬢ちゃん。あなたの名は何て言うのかしら?」 「リクよ。おばさん。」 「おばっ・・・・・!!」 「このような小娘の言葉など気になさることはありませぬ。アズラさま。」 「ほほほ・・・そうだったわね。ケト。」 「はっ。」 「今宵の食事は、あのリクとか言う無礼な娘と、となりの少年に決めたわ。」 「かしこまりました。おい、牢番。」 ガチャガチャと鍵を鳴らして、牢番のゴーレムが扉を開けた。 「さあ、来るんだ。」 「嫌よ。なんであのおばさんに付いていかなければならないのよ!?」 「つべこべいうな。おい、小僧。お前もついて来るんだ。」 レイシャスはちらりと男を見ると、面倒くさそうに立ちあがった。 二人が牢を出ると同時に、扉が閉まり、再び鍵がかけられた。 ひたひたとかび臭く淀んだ空気が漂う廊下を進み、階段を降り、大きな部屋にたどり着いた。 部屋の中には棺桶がずらりと並んでいたが、蓋は開いており、アズラと似たような美女や紳士が、爛々と燃える真紅の目を、二人の子に注いでいた。 「ほう・・・アズラ様のおっしゃるとおり、今宵の獲物は豪華なものですな。」 「なっ・・・何よ。」 リクがじりっと一歩下がる。 「ケト。お前は下がれ。後で呼ばれたら来るがよい。」 「はっ。」 紫のローブの男が下がるのを見届け、黒服の美女と紳士は立ちあがった。 アズラと名乗る美女がするすると二人に近づいた。 怯えるリクに顔を寄せ、にっと唇を吊り上げて笑った。 「安心なさいな。一滴残らず、その血を吸い取ってあげる。でも、それは、わたしがすることじゃないわ。」 アズラはリクに寄せていた顔を離すと、くるりと振り向いて言った。 「お前たちは、この小娘の血を、たっぷりお飲み。私は、この子の血を飲むから。」 「さすがはアズラ様。お目が高い。さては、この少年の血に潜む芳しい匂いを知ったと見える。」 「ほほ。この子の血は、そこいらの人間と比べ物にならないほど、美しく魅惑に満ちた香りと、力があるからね。」 「・・・・・なるほど。それでですか。」 空中から声が降ってきた。 「!?」 驚く一同。 声が降ってきたあたりの空間がゆがんだかと思うと、中肉中背の人の姿が現れた。 短いおかっぱに切りそろえた髪、紅い球を嵌め込んだ杖、黒を基調とした神官服、つねに笑顔の顔。 怪しい神官。ゼロスの登場である。 「何者だ!!貴様!!」 「ゼロスです。アズラさん、でしたっけ。一つご忠告させてもらいますが、その子の血は、あなたには過ぎたものですよ。悪いことは言いませんから、諦めなさい。 そのほうがあなたのためですよ。」 「何を言うか!!お前の言うことなど聞かぬわ!!さっさと去るがよい!!」 一人の美女が手に魔力の塊を溜めたかと思うと、ゼロスに向かって放った。 しかし、ゼロスはレイシャスをぽんと押して盾にすると、自分はしっかりよけた。 「あ・・・?」 「レイシャス!!」 リクとアズラの叫び声が同時に上がった。 一人は悲しみに、もう一人は極上の獲物が損なわれるという焦りに。 アズラが結界を張ろうとしたが、すでに遅く、魔力の塊はレイシャスに命中した。 轟音、爆風。 壁が壊れ、がらがらと石が転がる。 けほっ、けほっとリクが咳き込む。 煙が収まるのを見計らって、アズラが「レイシャス!!」叫び、取りすがろうとしたが、跳ね除けられた。 石畳の固い床に叩きつけられ、アズラの顔が怒りと屈辱にゆがんだ。 「残念だったな。」 静かだが、低い成人の声で、冷たく告げた。 かつっ、と石を蹴り、一人の男がアズラを見下ろした。 美女と紳士たち、リクが目を見張った。 ゼロスは予想していたのか、にこにこと笑顔のままである。 「俺の血が欲しいのか。なら、吸うがよい。ただし、この俺を倒してからだ。」 いつの間に現れたのか、黒髪の美貌の青年がいた。 服は黒一色に統一されていた。 青年の目は、青と金に分かれ、顔は恐ろしいほどレイシャスに似ていた。 |
23346 | おつかい(十五) | 星空 | 2002/11/17 16:41:06 |
記事番号23087へのコメント おつかい(十五) 「・・・・お変りになりましたね。昔とずいぶん違う。」 ゼロスがにこにこと笑顔で静かに言った。 青年はぴくりと眉を動かすと、ゆっくりとゼロスの方を振り返り、形のよい美しい唇を開いた。 「どこが違う。」 声はとても甘いが、氷のような冷たさを思わせた。リクは大きく肩を動かした。 「口調でしょうね。昔はもっと丁寧でしたよ。」 「今更、丁寧な言葉で話す気も無い。それとも、昔のように喋って欲しかったのか?」 「いいえ、そのままでも結構ですよ。」 「そうか。」 青年は、ふいと顔を動かし、アズラを再び見下ろした。 真紅の目の美女は、床に倒れたまま、顔を上げている。 深い緋色のふっくらとした艶やかな唇がわななき、ひゅーっと声にならぬ息が漏れ出た。白い歯がかちかちと鳴っている。 仲間の黒服の男女は動きを止め、恐れを含んだ目で青年に注目している。 青年が一歩前に足を踏み出すと、棺桶に乗った黒服の男女は、一歩下がる。 すっと優雅に、白い手を青年が差し出す。 何をする気かと、全員の目が集まった。 細く形のよい、けれども決して軟弱ではない指を口に持って行き、噛んだ。 傷口から紅い血が滴り落ち、アズラを始めとする黒服の妖魔の鼻腔を刺激した。 甘く快い香り。誘惑に満ちた香りが広がり、アズラは目の前にいる青年への恐怖も消えうせ、バネ仕掛けのように飛びあがり、指に食らいつこうとした。 アズラだけにこの恩恵に預からせてなるものかと、他の仲間も棺桶を蹴り飛ばし、青年へと殺到した。 アズラの唇が、牙が、青年の指に触れる直前。 「眠れ。」 金色と緑がまじりあった光が、青年のアズラの額に触れた指から広がり、広大な部屋を満たした。 アズラが塵と消え、続いて、後ろにいた女も同じように消えた。 うおーんと嘆き声が空気を震わせ、その後も余韻が続いた。 光が消えた時、後には、空っぽの棺桶と、石畳の床に落ちて舞い上がる塵、そして、青年とゼロス、リクの三人が残った。 「一件落着、といったところですか。」 「まだ終わっていないわよ。」 リクが言った。 がたがたとなる膝小僧に止まれと命じながら、リクは、薄茶色の目を青年の金と青に分かれた目に合わせ、はっきりと言った。 「あなたはいったい何者なのかはさておいて、他にも、捕まった子がいるのよ。助けるのを手伝ってもらえるかしら?」 「わかった。」 青年が頷く。ほっとしたリクは、へなへなと崩れ落ちそうになったが、背後にいたゼロスが素早く支えた。 「僕もお手伝いしましょう。」 「それは、俺を盾代わりにしたお詫びか?」 「まあ、似たようなもんです。」 「殊勝なことだな。だが、そう言ったからには、きりきり働いてもらうぞ。」 三人は、走り出した。 まずは、囚われた子どもたちがいる牢屋の中へ向かった。 ゼルガディスは、詰所でイオナ、ルクト二人の警備兵の尋問を受けていた。 といっても、簡単なものだったので、すぐに済んだ。 詰所は、連絡係として数人の警備兵を残しているのみで、出かけていたイオナ、ルクト二人が戻ってきた時には、驚き、「もうすんだのか?」と口々に聞いてきたが、イオナが首を横に振ると、「何だ、違うのか」といったふうに、失望した顔で、椅子に座り込んだ。 「尋問に答えていただき、ありがとうございました。ゼルガディスさん。これから、お帰りになりますか。」 「ああ、そうしようかと思っている。」 「今、危険な状態なので、念の為にひとりお付けいたします。ルクト。警護を頼むぞ。」 「わかった。任せてくれ。」 ゼルガディスは断ったが、二人が熱心に言ったので、それに折れたかたちとなった。 詰所のドアを開け、外に出ると、ちらちらと雪が降っていた。 ルクトはコートを羽織り、ゼルガディスと並んで歩き出した。 「寒いですね。ゼルガディスさん。宿屋はどこにとっているんですか?」 「・・・・リュイナー亭だ。」 「ああ、あの。見晴らしがいいので有名な。となると、やはり、観光で?」 「まあ、似たようなもんだな。」 「そうですか。」 「ルクトさん。だったか、確か。」 「はい。そうですが、何か?」 「イオナさんが、「危険な状態」と言っていたが、いったい何があったのだ?ジェイスさんが二十名以上の警備兵を率いて、どこかへ向かっていたが、それと関わりがあるのか?」 「ええ、まあ。そうです。実は、隣町の警備兵が、指名手配中の魔道士を逮捕したんですが、彼を尋問したところ、広大なキメラ工場を所有していたことが分かったんです。」 キメラという言葉に、ゼルガディスの眉がひそめられたが、ルクトは気づかずに続けた。 「それも、非合法な実験の一環として利用されていたので、調査と没収の目的で、踏み込んだのはいいのですが、何があったのか、そこで眠っていた、キメラたちを目覚めさせてしまったんです。」 「ふむ。」 「まだ、コントロールが完全ではなかったようで、警備兵数人を殺害し、町へと逃げ出してしまったのです。隣町で暴れていた分は倒したのですが、数匹逃げ延びたらしく、うちの町にも来るかもしれないという、連絡が入ったので、警戒に入っていたのですが、夕方頃、キメラが現れたという通報があり、魔道士協会から派遣された、魔道士と一緒に、数名の警備兵が退治に向かったのですが、なかなか帰ってこないので、念のためにと、私の同僚が確認に向かいましたが、真っ青な顔で、皆死んでいたと報告してきたのです。」 「・・・・・」 「早速、魔道士協会に増援を頼み、同時に、キメラを見つけ次第、殺害せよとの命令が下っており、町は、最重要警戒状態なのです。」 「そうか。」 ゼルガディスはちらりと辺りに目を走らせた。 ルクトは気づいていないが、裏の世界で名を馳せ、魔族とも対峙した事のあるゼルガディスの勘が、警報を発していた。 ゼルガディスは、だっと地を蹴ると、ルクトと一緒に地面に倒れた。 ぶあっ、と薄く積もっていた雪が散らばる。 二人の頭上すれすれを、何かが通りすぎていった。 「なっ、何をするんですか!?」 文句を言おうとしたルクトに構わず、ゼルガディスは唱えておいた呪文を解き放った。 「エルメキア・ランス!!」 光の矢が頭上へ向かって飛んだが、夜空の闇よりも濃い影は、ふいっ、と避けた。 雪塗れになって立ちあがった二人を嘲るように、それは、笑った。 ヒトとも、蝙蝠ともつかない、奇妙な生物だった。 ルクトがゼルガディスの背後で息を呑んだ。 ゼルガディスは、ステッキの銀色に輝く金属で飾られた柄頭の仕掛けを押した。 カチリ、と仕掛けが外れた音がし、からん、と音を立てて、ステッキに見せかけていた、剣の鞘が、石畳に落ちた。 抜き身の剣をぶら下げ、彼は、奇妙な生物、キメラと対峙した。 剣には紅い光が纏わりついている。 雪が剣に触れると、ゆっくりと溶けていった。 キメラが耳まで裂けた口をくわっと開き、ゼルガディスへ尖った爪のある指を伸ばした。 無言で剣を振り上げ、キメラとぶつかり、すれ違う。 キメラとまともに顔を合わせたルクトは気絶しそうになったが、身構える前に、相手が倒れたのであっけにとられた。 ゼルガディスの剣がつけた、肩から右胸への傷から、さらさらと崩れてゆき、一塊の塵となった。 信じられないものを見た思いで振り向くルクトに、ゼルガディスは静かに言った。 「イオナさんの提案は正しかったようだな。ルクトさん。警護をよろしくお願いします。」 雪はさらさらと二人の上に降り続けていた。 |
23360 | Re:おつかい(十五) | D・S・ハイドラント | 2002/11/19 16:38:04 |
記事番号23346へのコメント ふう、まとめて読みました。 はまりましたよ。 老紳士やはりゼルだったんですね。 だとすればキメラから戻れたと・・・。 L様みたいな人(じゃないか)まで出てきましたし。 レイシャス・・・一体何者? >キメラという言葉に、ゼルガディスの眉がひそめられたが、ルクトは気づかずに続けた。 元キメラですからねえ・・・。 でもどんな心境なのでしょうか。 面白くなってきましたね。 それでは次回を期待しつつこれで失礼致します。 |