◆−使えない呪文〜Mistletoe 3 前書き−エモーション (2002/12/16 22:23:37) No.23801 ┗使えない呪文〜Mistletoe 3 1話−エモーション (2002/12/16 22:51:24) No.23803 ┣Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 1話−D・S・ハイドラント (2002/12/16 23:04:56) No.23805 ┃┗Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 1話−エモーション (2002/12/17 22:01:07) No.23816 ┗使えない呪文〜Mistletoe 3 2話−エモーション (2002/12/23 20:54:33) No.23949 ┗Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 2話−D・S・ハイドラント (2002/12/24 11:48:49) NEW No.23960 ┗年越すかも……(汗)−エモーション (2002/12/24 23:04:18) NEW No.23979
23801 | 使えない呪文〜Mistletoe 3 前書き | エモーション E-mail | 2002/12/16 22:23:37 |
……と言うことで「Mistletoe」みたび、なのですが……、正直に 言いますとこれを「Mistletoe」の中に加えて良いのかどうか、 自分でも判りません。 話の大筋が出来たのは、確かに「Mistletoe 2」を書いたから ですが、前2作ほど「ヤドリギ」が関わってくる話じゃありません。 しかも、読み切りでもありません。続き物です。 また、キャラもこの話は過去編のキャラ……フィリシアが出てくる話ですので、 正直「読みまくれ1」より「読みまくれ2」に書くべきかな、とも思ったので。 シリーズとしてみるなら「1」、キャラで投稿場所を分けるなら「2」 なんですよね。自分の中では。 結局、無理やりシリーズでとって、こちらにしました。 ですから、以下2つは、過去編を初めて読んでくださる方への補足です。 1.この話(過去編)の時間設定は降魔戦争の前です。 2.ゼロスはフィリシアと言う少女の旅に同行してます。 ……ちなみにこの話も、まだ全部書き上げてません。「特別の意味」同様に 書きながらUPしていきます。 一応、中編……の予定です。 それでは、楽しんでいただければ幸いです。 |
23803 | 使えない呪文〜Mistletoe 3 1話 | エモーション E-mail | 2002/12/16 22:51:24 |
記事番号23801へのコメント 『編み物って、どうやるか知ってます? 編み方の問題じゃなくて……一目ごとに思い出すんです。で、一目ごとに 想いをこめて。……女の子がね、恋人にセーターを編むとするでしょう。 それは、出来たセーターをあげるんじゃなくて、一目ごとの彼女の想いを あげるんです』 ──引用文:新井素子.作 「ネプチューン」より── 「使えない呪文 〜Mistletoe 3」 1. 鉛色の空から、次々と白い雪が舞い降りる。隣町まで行くのを取りやめ、 ほど近い村で早めに宿を取ったのは正解だった。 「どんどん勢いを増してますなあ。じきに視界がないくらいになりますよ。 これは2〜3日はこの調子でしょう。お客さん方は急ぎの旅ですか?」 宿屋の主人──コルプトの問いに、食堂の窓から外を見ていた白い法衣の 娘──フィリシアが、違いますと答える。振り向いた時、さらりと揺れた フェアブロンドの髪が、けして明るいとはいえないランプの灯りの中でも、 光をはらんで輝く。 「急ぎではありませんけれど、こんなに雪が降るなんて思いませんでした」 フィリシアは少し困ったような笑みを見せた。急ぎではないが、何日も 足止めを受けるのは好ましくないし、雪の季節に歩きの旅をするのは初めて の経験だ。何よりここは、彼女が育った国よりも雪の深い地域だ。雪に慣れて いないので、正直ただ歩くだけでも不安がある。 「ここら辺じゃあ、この季節はいつもこんな調子ですよ。それでも、村が 孤立するほど雪が積もるなんてことは、滅多にありませんからご心配なく。 多少雪が深いかもしれませんが、全く歩けないことはありませんし。隣町に 行く馬車に乗せてもらうこともできますから、何でしたら出発なさるときに、 誰かに聞いてみましょう」 フィリシアの様子から、冬の旅、そして雪に慣れていないことを感じ 取ったのか、コルプトはそう言った。 「ありがとうございます。ところで、何をなさっているのですか?」 「ツリーを作っているんですよ。確か……この辺りの風習です」 フィリシアのその問いに答えたのは、彼女の連れである黒髪に黒い法衣の 青年──ゼロスだった。こちらはテーブルに座って香茶を飲んでいる。 「ええ。よくご存じですな、神官さんは。 この辺りでは新年まで常緑樹に飾りを付けるんです。こうすると、幸運が 訪れると言われてましてね。ですが、今年はなかなか丁度良いサイズの木が 見つからなくて、飾り付けが少し遅れてしまいました」 そう言って笑うと、コルプトは星形の飾りをつける。色鮮やかな緑の中、 黄色やリボンの赤が映える。フィリシアは物珍しげにツリーに近づいた。 違う土地へ行くと、見るもの全てが珍しい。まして故郷にないものなら尚更だ。 「すてきな風習ですね……。 あの、飾り付けをお手伝いして良いでしょうか?」 「構いませんよ。どうぞ、飾りはこれです」 そうして飾りが付け終わった時、ドアが開いて荷物を抱えた1人の女性が 入ってきた。 「ただいま、父さん。ごめんなさい、遅くなっちゃって……あら、お客様……。 失礼いたしました。いらっしゃいませ」 年の頃は20代後半だろうか。ゆるいウェーブがかった薄茶色の髪に、 アイスブルーの瞳をしたその女性は、柔らかい笑みでそう言った。 「お帰り、ポーラ。頼んでいたものは買えたかい?」 「ええ。厨房に運んで置くわ。と、これは私の……」 ポーラはそう言うと、宿のカウンターに少し小さめの袋を置いた。 「ポーラ、これは?」 父親の問いに、厨房から戻ってきたポーラが答える。 「新しい毛糸よ。ピッタリの色を見つけたから、つい買っちゃったの。綺麗 でしょう?」 そう、心底幸せそうに答えると、ポーラは毛糸を取り出して見せた。淡いが 暖かみのある緑色の毛糸だ。 「ポーラ……」 「じゃあ、私、着替えたら厨房へ行くわ。そろそろ支度する時間だし」 物言いたげな父親の言葉をあっさりと中断させ、ポーラは軽やかな足取りで 奥の部屋へ向かう。その姿を、コルプトはため息をついて見送ったが、ゼロスと フィリシアの存在を思い出して振り返る。 「これは……お客様の前で、失礼いたしました。少し間がありますが、用意 が調うまでおくつろぎください」 営業スマイルでそう言うと、コルプトはそそくさと厨房へ行ってしまった。 「何か理由有り……みたいですね」 我関せずという風の割に、周囲をしかっりと見ているゼロスが、香茶を 飲みながらそう呟く。ただし、態度と口調は「まあ、こちらには関係のない ことですし」と言外に言っている。 「そう……ね」 フィリシアはそう答えながら、ゼロスの向かいに座る。単なる通りすがり にすぎない者が、その家の事情に立ち入るわけにもいかない。 多少気には なったものの、それだけですむはずだった。本来なら。 翌日、フィリシアが部屋から一階へ下りていくと 一階にいたのはポーラ だけだった。客用ではない椅子に座り、小声で歌を歌いながら、ポーラは 昨日買ったと言っていた緑色の毛糸で編み物をしていた。余程集中しているのか、 下りてきたフィリシアに全く気づいていない。宗教画の聖母の絵を彷彿させる、 幸せそうなその様子に、フィリシアは声をかけるのを躊躇い、階段の前で 立ち止まったまま見とれてしまった。 「おはようございます、ポーラさん。コルプトさんの姿が見えませんが…… どうしたのですか?」 不意に背後から遠慮も何もないゼロスの声がした。その声でやっと下りて きた2人に気づいたのか、ポーラが編み物の手を止めた。 「おはようございます、お二人とも。すみません、気づきませんで……。 父は出かけています。村でちょっと騒ぎが起きましたので、それで……。 ですが、すぐに戻ってくると思いますわ。今、食事の用意をしますね」 ポーラはそう言って、編んでいたものを編み物籠に入れて、座っていた 椅子の上に置く。おそらく昨日の夜から編み始めたと思われるそれは、既に 十数段ほど編まれていた。編み方はかなり凝っているのに、編み目が綺麗で 丁寧だ。素人目にも、彼女の編み物の腕がかなりのものだと分かる。 「とてもお上手ですね。マフラーですか?」 そう訊ねるフィリシアに、ポーラは微笑んで答える。 「セーターです。つい、編み方に凝ってしまって。楽しいから良いですけどね」 「しかし……失礼ですが、ポーラさんやコルプトさんのサイズには、 小さすぎませんか?」 「子どものですの」 優しい微笑みで、ポーラは答える。その顔は、子どもが可愛くて仕方がない といった風情の、幸せそうな母親の表情だった。一瞬納得しかけて、2人は ふと違和感に気づいたが、疑問を口にしようかどうか迷っているうちに、 ポーラは厨房へと行ってしまい、入れ替わるようにコルプトが戻ってきた。 「お帰りなさい、父さん」 ドアの音で分かったのか、厨房からポーラの声が響く。 「帰ったよ、ポーラ。全く……これで5回目だ。どうして今年に限って、 こんなに被害が出るんだろうなあ。 ああ、これは。おはようございます。お二人とも、良くお休みになれましたか?」 「おはようございます。ええ、十分に休みましたわ」 「おはようございます、コルプトさん。先程、ポーラさんからお聞きしましたが、 村で何があったのですか?」 ゼロスの問いに、コルプトは外套を脱ぎつつ答える。 「村で飼われている家畜が、野生動物に襲われたんですよ。このところ多くて……」 「それは大変ですね。人間の方は大丈夫なんですか?」 「ええ。幸いなことに、それは……。おや……?」 振り返った拍子に、コルプトの目にも編み物籠が入ったらしい。視線に 気づき、フィリシアが躊躇いつつ言う。 「先程まで、ポーラさんが……。お子さんのセーターだと、そう仰っていました」 「……そうですか。あの……」 「仰りたいことは、何となく分かります。ここには、お子さんはおられない ようですから」 さすがにゼロスも言葉を選んで言う。 いくら仕事の邪魔にならないように躾ていても、通常その家に子どもが いれば、すぐにそうと分かる。まして、ポーラの年齢から推測できる年頃の 子どもなら尚更だ。とても存在を感じさせないほど、大人しくはしていない。 住んでいる家が別ならまだ分かるが、そうではない以上、どういうことかは 大体予想がつく。 「孫が死んだのは2年前です。流行病であっけなく……。ポーラは、あの子の ……ティルの死をきちんと理解しているのですが……」 だから、コルプトは余計に娘の行動が理解できず、しかし、幸せそうに 編み物をする姿を見ていると、とてもやめろとは言えなくて、ずっと困惑 していたのだ。 「コルプトさん。ポーラさんは、事実を受け入れているから、編み物をして いると思いますよ」 フィリシアの言葉に、コルプトは何となく伏していた顔を上げた。赤紫の瞳が 優しい色を浮かべて、真っ直ぐにこちらを見つめている。 「編み物は、一目ごとに思い出しながら編むと聞いたことがあります。 一目ごとに、想いを込めて編むのだと……。編み物をしているポーラさんは、 とても幸せそうでした。編むことで、辛い思い出ではなく、幸せな思い出を 強くしているように思えます」 「そうでしょうか……」 「ええ、きっと。ですから、あまりご心配ばかりなさる必要はないと思いますよ」 口にしたことで少し気が晴れたのか、コルプトはどこか落ち着いた表情で 深々と頭を下げ、厨房へ入っていった。 「……理解はしていても、まだ納得していないだけに見えますけどね……」 低く、フィリシアにのみ聞こえるような高さで、ゼロスはそう言った。 話の途中で言わなかったのは、単にフィリシアがどう答えるのか、聞いて みたかったからにすぎない。口にしたのは、この辺りを見落としているの ではないかとそう思ったからだ。が、 「ええ。納得はしていないと思うわ。というより、すんなり出来るわけ、 ないでしょう」 返ってきたのは、それを肯定する言葉だった。 「でも、コルプトさんに言ったことも、嘘じゃないの。納得するために 編んでるし、それで幸せな記憶を強くしている……。それが悪いなんて、 私には思えない。もっとも……」 「もっとも?」 「理由なんて、本当は誰にも分からないのかもしれないわね。ポーラさん 本人にも」 「でも、先程のフィリシアさんのお話で、僕は1つだけ、分かったことがあります」 「何が分かったの?」 「好きでも何でもない人から、セーター等をプレゼントされると、どうして 気が滅入ってしまうのかが。 一目ごとにって……好きな相手からじゃなければ、ほとんど怨念の塊と 同じなんですね、あーゆーのって……。 いやあ、すごく良く分かりました」 「……そーゆー経験あるの?」 半ば呆れながら訊ねるフィリシアに、ゼロスはくすりと笑うと 「それは……秘密です(はあと)」 人差し指を口に当ててそう言った。 *************************************** 時間的には「千年越し〜」で、ゼロスとフィリシアが最初にティアと 会ってから、2〜3ヶ月経った頃です。 だからまだフィリシアはゼロスを警戒しているし、ゼロスもフィリシアを 「さん」付けで呼んでます。ゼロスとしては普通なことですが……個人的に 一番違和感ありました。書く方としては呼び捨てに慣れきってたので。 4話の下書きを書き上げたら、2話をUPしに参ります。 それでは、今日はこれで失礼します。 |
23805 | Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 1話 | D・S・ハイドラント | 2002/12/16 23:04:56 |
記事番号23803へのコメント >『編み物って、どうやるか知ってます? > 編み方の問題じゃなくて……一目ごとに思い出すんです。で、一目ごとに >想いをこめて。……女の子がね、恋人にセーターを編むとするでしょう。 >それは、出来たセーターをあげるんじゃなくて、一目ごとの彼女の想いを >あげるんです』 > ──引用文:新井素子.作 「ネプチューン」より── ふむふむ。 > 営業スマイルでそう言うと、コルプトはそそくさと厨房へ行ってしまった。 商人ですねえ。 >「何か理由有り……みたいですね」 えっそうなの? やはり魔族だし鋭いのかな >「おはようございます、お二人とも。すみません、気づきませんで……。 >父は出かけています。村でちょっと騒ぎが起きましたので、それで……。 > ですが、すぐに戻ってくると思いますわ。今、食事の用意をしますね」 騒ぎ? >「村で飼われている家畜が、野生動物に襲われたんですよ。このところ多くて……」 へえ、なるほど・・・ちなみに何となく盗賊とかを思い浮かべてました。 >「孫が死んだのは2年前です。流行病であっけなく……。ポーラは、あの子の >……ティルの死をきちんと理解しているのですが……」 > だから、コルプトは余計に娘の行動が理解できず、しかし、幸せそうに >編み物をする姿を見ていると、とてもやめろとは言えなくて、ずっと困惑 >していたのだ。 >「コルプトさん。ポーラさんは、事実を受け入れているから、編み物をして >いると思いますよ」 > フィリシアの言葉に、コルプトは何となく伏していた顔を上げた。赤紫の瞳が >優しい色を浮かべて、真っ直ぐにこちらを見つめている。 >「編み物は、一目ごとに思い出しながら編むと聞いたことがあります。 >一目ごとに、想いを込めて編むのだと……。編み物をしているポーラさんは、 >とても幸せそうでした。編むことで、辛い思い出ではなく、幸せな思い出を >強くしているように思えます」 悲しい・・・そう思えます。 これだけの文章でここまで盛り上げるのは凄いです。 これからもがんばってください。 それでは〜 |
23816 | Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 1話 | エモーション E-mail | 2002/12/17 22:01:07 |
記事番号23805へのコメント こんばんは。 >> 営業スマイルでそう言うと、コルプトはそそくさと厨房へ行ってしまった。 >商人ですねえ。 客商売ですし。 >>「何か理由有り……みたいですね」 >えっそうなの? はうっ!ここのコルプトとポーラの台詞、ストレートな部分を削ったのですが、 分かりづらくなってしまったかな(汗) >やはり魔族だし鋭いのかな 確かにゼロスは、そっちの方で分かったかも。負の感情には敏感ですしね。 フィリシアは微妙な表情の変化を読みとったと言うことに(笑) 彼女、一応、その手のスキルはあるし。 >>「村で飼われている家畜が、野生動物に襲われたんですよ。このところ多くて……」 >へえ、なるほど・・・ちなみに何となく盗賊とかを思い浮かべてました。 実は当たらずとも遠からず、です。 >>「孫が死んだのは2年前です。流行病であっけなく……。ポーラは、あの子の >>……ティルの死をきちんと理解しているのですが……」 >> だから、コルプトは余計に娘の行動が理解できず、しかし、幸せそうに >>編み物をする姿を見ていると、とてもやめろとは言えなくて、ずっと困惑 >>していたのだ。 >>「コルプトさん。ポーラさんは、事実を受け入れているから、編み物をして >>いると思いますよ」 >> フィリシアの言葉に、コルプトは何となく伏していた顔を上げた。赤紫の瞳が >>優しい色を浮かべて、真っ直ぐにこちらを見つめている。 >>「編み物は、一目ごとに思い出しながら編むと聞いたことがあります。 >>一目ごとに、想いを込めて編むのだと……。編み物をしているポーラさんは、 >>とても幸せそうでした。編むことで、辛い思い出ではなく、幸せな思い出を >>強くしているように思えます」 >悲しい・・・そう思えます。 ありがとうございます〜。ポーラの心境は、ほとんどフィリシアの台詞の 通りなのですが、実は書いている私にも正確には分かりません。(←待て、こら) 最初はちゃんと頭にあったのですが……考えすぎて分からなくなった(爆) フィリシアの「本当は誰にも分からない」の台詞は、ほとんど私の心境です。 また、この辺りは冒頭文に使った「ネプチューン」の影響を受けてます。 スケールは全然違いますけど。(プロはやっぱり違います) >これだけの文章でここまで盛り上げるのは凄いです。 >これからもがんばってください。 >それでは〜 ありがたい言葉を……。 D・S・ハイドラント様もがんばってください。 コメント、ありがとうございました。m(__)m |
23949 | 使えない呪文〜Mistletoe 3 2話 | エモーション E-mail | 2002/12/23 20:54:33 |
記事番号23803へのコメント こんばんは。 冬休みに入ったので、速攻でツリーが落ちそうだなあ……と思いつつ、 とりあえずこちらにつなげました。 ……年内終了目指しているんですが……終わるかなあ……(汗) とりあえず、2話めです。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 『馬鹿だなあ。事実できたんだから、できないなんてことはなかったんだよ。 種のないマジックがないのと一緒でね』 ──引用文:加納朋子.作「できない相談」── 「使えない呪文〜Mistletoe 3」 2話 2. 二日程経って、雪は降り続いていたが、さすがに小降りになっていた。 翌日には止むだろうと聞いて、フィリシアは足りない物を買い出しに行った 帰り、何となく村の中を散策していた。ほとんど見るものはないとコルプト には言われたが、フィリシアからすれば、外にあるツリーを見て回るだけでも 十分に楽しい。そうしているうちに、ゼロスと鉢合わせした。 「宿にいると思っていたわ」 「少し暇でしたから、散歩していたんですよ。……お持ちしましょうか?」 「ありがとう。でもいいわ。自分で持てますから」 フィリシアにやんわりと断られて、ゼロスはやれやれ、と肩をすくめた。 初めて会ってから半年ほど。一緒に旅をするようになって3〜4ヶ月程 経つのだから、普通はある程度、馴れあう部分が出てくるし、多少は警戒が ゆるむものだ。だが、会話や態度は普通に振る舞っていても、フィリシアは ずっと、ゼロスに対する警戒心をゆるめていない。 露骨な拒否反応や不快感を態度に出す相手なら、まだ対応しやすい。しかし、 フィリシアは一定のラインを引いて、そこまでは譲歩するものの、その実、 静かにきっぱりと拒絶している。フィリシアが未だにゼロスの名前を一度も 呼んだことがないのは、その辺りに理由があるのだろう。正直ゼロスが関わって きた人間の中では、かなり手強い相手と言える。 ……まあ、嫌われてはいないようですから、まだマシとしますか。 警戒はされていても嫌われてはいない、と言うのは相当変な気もするが、 とりあえずそれは確かだ。 そのまま何となく、一緒に歩いていると今度はポーラに出会った。袋を 手にしているが、買い物帰りには見えない。ポーラの方も2人に気づいて、 立ち止まる。 「ゼロスさん、フィリシアさん。お散歩していたんですか?」 「そんなところです。ポーラさんは、どうしたのですか? お買い物の帰り には見えませんが」 「私は、そこの社にお参りに来たんです」 ゼロスの問いにポーラはにっこりと笑って答える。ポーラの指し示す方向には、 少し行った先に、目立たないが何かを祀っている社があった。 「もしよろしいのでしたら、私もご一緒して構わないでしょうか?」 興味を惹かれたらしく、フィリシアがポーラに訊ねる。邪魔になるようなら やめておくつもりだったのだろうが、ポーラはすんなりと了解した。 「この社は、私の祖父のそのまた祖父、さらにその前の前の代よりも、ずっと 昔からあるんですよ。ですから、この村ではこの社でお祭りをしたりするんです」 木の陰に隠れて分かりづらく、また、社そのものは、それ程大きなもので はなかったが、意外に広いスペースのある場所だった。ポーラの言葉を証明 するように寂れた様子はなく、また、ここにもツリーが飾られている。 「このお社は、何を祀っているんです?」 特に力のあるものが祀られているわけではなく、どちらかといえば モニュメント的なもの。そう判断したゼロスが訊ねると、ポーラは持って いた袋から、リンゴなどを取り出すと、社の前に供えながら答えた。 「伝説の王子だと言われています。ですから、この村ではわざとヤドリギを 栽培して、この社の周囲や、ツリーに『Mistletoe』を飾っているんですよ」 確かに、よく見るとヤドリギで作られたリースが、ここにあるツリーや 周囲の木に飾られている。しかし、ゼロスもフィリシアも「伝説の王子」と 「ヤドリギ」の関連がよく分からない。 それに気づいたのか、ポーラは「伝説」を話してくれた。我が子が殺される ことを危惧し、それを回避するために、地、水、風、火で生まれるあらゆる ものが、けして王子に危害を加えないようにして貰った王妃と、唯一、王妃の 願いの条件から外れていたヤドリギによって命を落とし、しかし王妃の尽力で 甦った王子の伝説を──。 「それ以来、ヤドリギの下では争いをしてはいけない。そんな決まりが できたんです。していいのはひとつだけ」 「ああ! あの風習はその伝説からきていたんですか。面白い風習だとは 思っていましたが」 ゼロスの言葉に、ポーラは思わず吹き出した。 「ゼロスさん、ご存じだったんですか? あの風習……」 「ええ。風習だけなら。伝説の方は知りませんでした」 「……風習って、何ですか?」 ひとり、話が見えていないフィリシアが不思議そうに訊ねる。 「この時期に、ヤドリギの下にいる若い女性には、誰でもキスしていいという 風習ですよ。ちなみに、女性の方はそれを拒んじゃいけないんです」 「なっ、何ですか、それっ!?」 「王妃達が、王子の復活を喜んで、ヤドリギの下を通る人、みんなにキスを した事から、していいのはキスだけって事になっているんですが……。 ただ、それがいつの間にか、そうなっちゃったんです。上にミスルトゥが あるかどうか、ちょっと気を付ける程度でいいんですよ。いくらそうは言っても、 知り合いでもない人に、むやみにしてくる人はそういませんから」 さらりと言い放ったゼロスの言葉に、一瞬でフィリシアの頬に朱の色が走ったのを見て、ポーラはくすくすと笑って言った。この辺り、まだ少女でしか ない16歳の娘と、成熟した大人の女性の余裕の差だ。 「以前は……」 笑いをおさめたポーラは、社を見て呟いた。 「普通にこの伝説を聞いていたんです。でも今は、王妃の気持ちが、とても 良く分かるんです。必死で子ども救おうとする、王妃の気持ちが……」 どこか、遠くを見るようなポーラに、フィリシアはかける言葉が見つからない。 何を言っても、意味のないものにしかならない気がして。そして、何も言っては いけない気がして。 「昔、聞いたことがあるんです。神官や巫女の方は、人を生き返らせる術を 知っているって。もっとも、それが使える人はほとんどいなくて、普通は できないのだとも。 伝説が事実かどうかは分からないけれど、伝説の王子は、もしかしたら、 そのおかげで生き返ったのかもしれないって、今は、そう思うんですよ……」 他にも寄らなくてはならない場所があるからと、先に社から立ち去った ポーラを見送って、フィリシアは軽くため息をついた。 ポーラの言うような呪文は、確かに存在する。神聖呪文の中でも、かなり 高レベルなものとして位置づけられていて、そんな呪文があることは、神官や 巫女なら大抵知っているはずだ。ただし、実際に使える者がいるとはまるで 聞いたことがないので、ほとんど「伝説」扱いされている呪文でもある。 「……ポーラさんが言っていたのは、あの呪文ですよね、多分」 不意にゼロスがそう問いかけてくる。のんびりとした口調なのに、真剣な 色合いが強い。 「そうでしょうね。他には当てはまらないもの。……どの程度知っているの? あの呪文のこと」 「結構、具体的に知っていますよ。多分、フィリシアさんと同じくらいには」 フィリシアは思わず振り返った。見つめた先のゼロスは、そんなフィリシアに、 にっこりと笑いかける。 「でも、僕には使えません。それはフィリシアさんも同じでしょう? なにぶん……使えない呪文ですからね」 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ E.数日で2話をUPするつもりだったのに……。 F.何故か4話に手間取りましたよね。しかも4話の最初が3話の最後に 移動してしまいましたし。 X.おかげで3話が滅茶苦茶長くなりました。読んでくださっている方々は 次は覚悟してくださいね。 F.……しかもこの文章で、ですもの……。 E.3話を2つに分けてUPしようかとも考えてますけどね……。 X.その場合、「3話その1」とかタイトルにつくのでしょうか? F.ちょっとそれは……。ああ、でも(前)(後)もちょっと……。 E.分けずにUPと分けて片方は素直に4話にするのと、どちらが いいのか……(汗)まあ、分けたとしても両方一度にUPしますけど。 X.といったところで、今回はこの辺で失礼します。 F.次もお会いできたら幸いです。では、失礼いたします。 |
23960 | Re:使えない呪文〜Mistletoe 3 2話 | D・S・ハイドラント | 2002/12/24 11:48:49 |
記事番号23949へのコメント >……年内終了目指しているんですが……終わるかなあ……(汗) 無理せずがんばってください。 >静かにきっぱりと拒絶している。フィリシアが未だにゼロスの名前を一度も >呼んだことがないのは、その辺りに理由があるのだろう。正直ゼロスが関わって >きた人間の中では、かなり手強い相手と言える。 へえ呼んでないんですか >「伝説の王子だと言われています。ですから、この村ではわざとヤドリギを >栽培して、この社の周囲や、ツリーに『Mistletoe』を飾っているんですよ」 > 確かに、よく見るとヤドリギで作られたリースが、ここにあるツリーや >周囲の木に飾られている。しかし、ゼロスもフィリシアも「伝説の王子」と >「ヤドリギ」の関連がよく分からない。 これはまさか・・・ >「ヤドリギ」の関連がよく分からない。 > それに気づいたのか、ポーラは「伝説」を話してくれた。我が子が殺される >ことを危惧し、それを回避するために、地、水、風、火で生まれるあらゆる >ものが、けして王子に危害を加えないようにして貰った王妃と、唯一、王妃の >願いの条件から外れていたヤドリギによって命を落とし、しかし王妃の尽力で >甦った王子の伝説を──。 やはり関連してくるんですね。 >「それ以来、ヤドリギの下では争いをしてはいけない。そんな決まりが >できたんです。していいのはひとつだけ」 >「ああ! あの風習はその伝説からきていたんですか。面白い風習だとは >思っていましたが」 > ゼロスの言葉に、ポーラは思わず吹き出した。 >「ゼロスさん、ご存じだったんですか? あの風習……」 あれをする気なんですかねえ >「昔、聞いたことがあるんです。神官や巫女の方は、人を生き返らせる術を >知っているって。もっとも、それが使える人はほとんどいなくて、普通は >できないのだとも。 > 伝説が事実かどうかは分からないけれど、伝説の王子は、もしかしたら、 >そのおかげで生き返ったのかもしれないって、今は、そう思うんですよ……」 こっこれが使えない呪文? >E.数日で2話をUPするつもりだったのに……。 >F.何故か4話に手間取りましたよね。しかも4話の最初が3話の最後に > 移動してしまいましたし。 へえ私にはなかなかないです・・・。 修正とかする根性もないダメ野郎ですし >X.おかげで3話が滅茶苦茶長くなりました。読んでくださっている方々は > 次は覚悟してくださいね。 はい。(待てコラ) >F.……しかもこの文章で、ですもの……。 えっこの素晴らしい文章がどうしたんですか? この雰囲気がなんとなくかなり好きです。 これからもがんばってください。 |
23979 | 年越すかも……(汗) | エモーション E-mail | 2002/12/24 23:04:18 |
記事番号23960へのコメント こんばんは。 コメントありがとうございます。 >>……年内終了目指しているんですが……終わるかなあ……(汗) >無理せずがんばってください。 どー考えても年越しそうです。でも、がんばります……(汗) >>静かにきっぱりと拒絶している。フィリシアが未だにゼロスの名前を一度も >>呼んだことがないのは、その辺りに理由があるのだろう。正直ゼロスが関わって >>きた人間の中では、かなり手強い相手と言える。 >へえ呼んでないんですか この時点ではまだ呼んでいません。何となく、この件が終わった辺りから 呼ぶようになると決めてますが。 >> それに気づいたのか、ポーラは「伝説」を話してくれた。我が子が殺される >>ことを危惧し、それを回避するために、地、水、風、火で生まれるあらゆる >>ものが、けして王子に危害を加えないようにして貰った王妃と、唯一、王妃の >>願いの条件から外れていたヤドリギによって命を落とし、しかし王妃の尽力で >>甦った王子の伝説を──。 >やはり関連してくるんですね。 「Mistletoe 2」でこれを書いたのが、この話を考えついた 要因ですし。 >>「それ以来、ヤドリギの下では争いをしてはいけない。そんな決まりが >>できたんです。していいのはひとつだけ」 >>「ああ! あの風習はその伝説からきていたんですか。面白い風習だとは >>思っていましたが」 >> ゼロスの言葉に、ポーラは思わず吹き出した。 >>「ゼロスさん、ご存じだったんですか? あの風習……」 >あれをする気なんですかねえ さすがにまだ「交友値:初期設定数値(しかも低い)」な相手にはしませんよ。 交友値がさらに下がりますから(笑)←恋愛シミュレーションかいっ?! マジレスでいうと、相手との関係と状況は一応考えて行動してます(笑) > >>「昔、聞いたことがあるんです。神官や巫女の方は、人を生き返らせる術を >>知っているって。もっとも、それが使える人はほとんどいなくて、普通は >>できないのだとも。 >> 伝説が事実かどうかは分からないけれど、伝説の王子は、もしかしたら、 >>そのおかげで生き返ったのかもしれないって、今は、そう思うんですよ……」 >こっこれが使えない呪文? 使えない呪文です。 >>F.……しかもこの文章で、ですもの……。 >えっこの素晴らしい文章がどうしたんですか? 長文ですからねぇ……。もっと簡潔に分かりやすく書けると良いんですが。 >この雰囲気がなんとなくかなり好きです。 >これからもがんばってください。 暖かいお言葉、ありがとうございました。では。 |