-異界黙示録伝《水の書》その6-魔沙羅 萌(4/23-22:10)No.2421
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2421異界黙示録伝《水の書》その6魔沙羅 萌 4/23-22:10

今回は、三人称複数(だから何が?)とリナさんの一人称です。

ゼラス・メタリオムは『リラ』を眺めていた。
そこはアストラル・サイド……。
そこから見える『リラ』は大きな水晶球のようだった。
――ゼロスは無事だろうか?
ゼラスは心の中で小さく呟いていた。
可愛い息子を想って……。


英雄C〜哀しみの少女〜


――3年前、再び、神魔の村。
エマはゼフィーリアから村へ帰ってきていた。
9年間もスィーフィードの管轄下である世界の国にいたという感覚がしなかった。
もう14である。時のたつのがとても速くエマには感じられた。
ゼフィーリアでも色々なことがあった。リナ=インバースとの出会い、親友の死、村の崩壊、魔族との戦い……。結局魔族に付け狙われたりするのが嫌でこっちに戻ってきたのだが。
魔族に狙われた理由はただ一つ。エマの魔力と魔法、それから精神力のせいだった。エマが生まれた『リラ』はアストラル・サイドにある世界。普通のモノとは違うからだ。
「……久し振りだな、ここ。レニちゃんや逢魔君は元気なのかな」
エマは9年前のことを思い出していた。そう、『嶺』と『萌』のことを。
そんなエマだったから、一番最初によったところは逢魔の家だった。

コンコン!
嶺の耳に扉をたたく音が入った。
「はぁい、どなたですか?」
嶺は元気よく扉に向かってそう声をかけた。
「嶺ちゃんだね、逢魔君居るかな?居たらリナンが来っていってくれない?」
「わかったの」
ぱたぱたぱた
嶺は逢魔のもとへかけていってこういった。
「お兄ちゃん、リナンちゃんって人がきたよ」と。

「リナン!ひさしぶりじゃないか!」
エマの耳に久し振りに聞く逢魔の声が入った。
「逢魔君こそ久し振りだね」
「はあい、リナン。元気そうね」
「レニちゃんこそ」
エマはとても幸せに感じていた。二人の親友がとても元気そうで。9年前とかわっていなくて。そりゃあ歳はとったし、背も伸びてはいた。しかし、二人の持つ雰囲気は9年前のものとかわってはいなかった。
「なあリナン、久し振りついでにたのまれてくれないか?」
「何を?逢魔君」
「……萌のことだ………」

エマは自分の家によるのも忘れて常磐の座に向かっていた。逢魔に頼まれたこととはこう、『萌のことをみてきてくれないか』だった。逢魔の父は近頃調子が悪く、嶺もまだ小さい。そんな理由から、萌のことを一度も逢魔はみにいけなかった。
エマにはそれをことわる理由も無かったし、エマ自身、萌がとても心配だった。だから常磐の座に向かっていた。家によるのも忘れて。もう、向かいはじめてから2日。そろそろ着く頃だった。
空には美しい白い月、森の蒼はその中に浮かび上がっていた。ふとエマは思い出していた。木々の蒼をリナたちの国ではみどりということを。
ちゃぽん……ちゃぽん……
エマの耳には水音が聞こえていた。

「だれかいるの?」
萌は気配のした方に声をかけていた。
ここは常磐の座。エンシェント・ドラゴン、トキワの護る常磐の座だ。
萌はトキワに育てられていた。トキワの娘として。トキワはどこぞやの謎の神官に『人間の娘を持つドラゴンなんて珍しい』などと4年ほど前に言われていたりしたが。トキワ自身あまり気にしてはいなかった。
そんなトキワの愛娘、萌が何かの気配を感じとって声をあげるのを見てトキワは気配に対してこういった。
「でていらっしゃい、あなたがここにいらっしゃるのはわかっていましたわ、リナン」

「あなたがトキワ様?」
エマは思わずトキワに問い掛けていた。そこにいたトキワはどう見ても20前後の女性にしか見えなかった。トキワは『リラ』ができる前から生きているというのに。
「そうですよ、リナン。私がトキワです。萌のことでしょう?あなたがたずねてきた理由は」
「ええ、逢魔君から萌のことをたのまれて」
ドォーン!!!!!!!!!!!!!
突然のことだった!エマのことばを遮って大きな爆発音が聞こえたのは。
「かあさま!嶺ちゃんが!嶺ちゃんが暴走してるの!何かあったんだよ、きっと!」
萌の口から意味不明なことばが漏れていた。

突然のことだった。村が魔神どもに襲撃されたのは。
どうやらそいつらの狙いは萌と嶺だったらしい。
村人たちは、かなり根性をいれて戦っていたが、相手は3匹もの魔神。戦いなれをしていない村人たちにはなす術も無かった。
逢魔にも同じことがいえた。逢魔もレニも、この村では強い方だった。しかし、魔神たちにはなす術も無かったのである。
魔神の爪は間違いなく、逢魔の腹を凪ごうとしていた。その刹那、
「お兄ちゃん!」
嶺の声が逢魔とレニ、それから3匹の魔神の耳に入ったのだ。
ザシュ!
逢魔の腹を一匹の魔神がその鋭い爪で裂いていた。
「おにいちゃぁぁぁぁん!!」
レニの目にはその光景が入っていた。逢魔はおそらく即死だったのだろう。
「お、逢魔……嶺ちゃん、逃げて!」
レニはありったけの声を張り上げていた。
「お兄ちゃん……おにいちゃぁぁぁぁん!!!」
嶺の悲痛な叫び声と共に、そこには大きな闇がうまれていた。

「どういうことです、萌。村に何かあったのですか?」
萌はトキワのことばに無反応だった。ただ、虚空を見つめて『嶺ちゃんが』と呟くだけだった。
「どうしたの?萌」
エマがそう萌に問い掛けた時だった。萌が虚空に消えたのは。
「萌!…リナン、村に急ぎましょう、何かがあったようです。玉髄!螢!玻璃!村に行きますよ!」
トキワがそういって竜の姿に変わった。
「ええ、トキワ様!」

萌が村に着いた時にはそこは地獄のような世界とかしていた。
その地獄の中心でもう一人の自分とも言える存在、嶺が暴走しているのが分かった。
「だめだよ、嶺ちゃん!そんなことしたら、みんないなくなっちゃうよ」
萌は顔も知らない姉の名を呼びながら闇の中へと走っていった。
――お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……
萌にはそんな声が聞こえていた。闇の中心にいる顔も知らない姉がそういって泣いていることが萌にはわかったのだ。

「だめだよ、嶺ちゃん!そんなことしたら、みんないなくなっちゃうよ」
闇の中に入ってきた萌はまたその言葉を口にしていた。
そこは、地獄だった。闇の中で泣きじゃくる少女……血だらけの少年の遺体……泣きじゃくる少女をかばおうとしたかのようにその少女の側で倒れている血だらけの少女の遺体……それは萌にとってどのような衝撃をもたらしたかは語らなくてもわかるだろう。
闇はいよいよ大きな猛威をふるおうとしていた。
その闇は時の闇……嶺の持っていた時の力だった。
それをどうにかできたのは同じ、時の力を持って生まれた……否、より精霊に近い形で生まれた萌の力の方が嶺のものに勝った力を持っていたのでどうにかできるのは萌だけだった。
「嶺ちゃん……だめだよ……そんなことしたってその人は戻ってこないよ…むしろもっと人がいなくなっちゃうだけだよ」
萌はそう嶺に言いながら光を発していた。闇を……時の闇を消すために。

「こ、これは……」
玉髄は思わず呟いていた。エマたちは声すらでなくなっていた。
「間に合わなかったようですね……」
トキワがそう呟いてから地に舞い下りた。
「ど、どうして…?」
エマはほとんど崩壊している村を見て驚愕した。
その光景は4年前を思い出させた。自分の親友が死んだ日を。
「トキワ様!見て下さい、闇が!」
螢はそう叫んでいた。闇が弾けようとしていたのだ。すべてを飲み込むために。
「トキワ様、あの中から悲しみが聞こえます。兄を失った悲しみの声が!
後、光が見えます。あれは萌ちゃんのモノみたい。でも…大きすぎます!
あれじゃあ、反対に光で世界が壊れちゃいます!」
玻璃はつらそうな声でそう言った。
「萌…行きましょう、みなさん。今なら二人を救えるかもしれません!」
トキワはそういって4人を促した。

今となっては闇を光が消し去っていた。それは暖かい光であった。しかし…多すぎるものは何かを滅ぼすものとなる。その光も例外ではなかった。
「萌ちゃん、もういいよ!もういいから、その光をしまって!」
玻璃はありったけの声を絞り出して叫んだ。萌に届くように……萌を慰めるように。
「萌…もうよいのです。だからその光をしまいなさい」
『だめなの、かあさま…うまくしまえないの』
「萌!」
トキワはその時、後先などを考えられはしなかった。ただ、娘を助けたい…それだけを想って行動していた。
トキワは自らの力を解放していた。『リラ』より授かった『刻』の力を。

――すべては終わっていた。
トキワは逝ってしまった。『刻』の力はトキワの魂そのものだったから。
そこには哀しみだけが残っていた。
逢魔も、レニも、逢魔の父も、9年間、顔すら見れなかったエマの母親も……。沢山の村人達も、みんな逝かれてしまった。
ただ、その時逃がされた、一部の村人とエマたちだけが生き残っていた。
「……萌ちゃん、嶺ちゃん」
エマはそうぽつんと独り言のように呟いていた。萌も嶺も何もこたえられなかった。
その場に居た4人には2人をせめることはできなかった。できたかもしれないが、それは許されるべきことではなかった。
《ほう、トキワまで死んだが……。ますます我々に有利になったということだ》
「ま、魔神?!どうして!今までいなかったっていうのに!!」
エマは思わず大きな声を出していた。
「我々をなめてかかってくれては困るね。連れの2人は滅びたが、これで終わりだ」
「あ、危ない、萌ちゃん!」
同時だった。その魔神が萌を裂こうとしたのと嶺が飛び出したのは。
ざしゅ!
人の肉が裂ける音……そして、倒れたのは嶺だった。
「嶺ちゃん!」
「ちっ、はずしたか。まあよい。これで時を統べるものは一人になった。帰るとするか」
そういって魔神は消えていった。
跡には新たなる哀しみを残して。


「それからだったわ。あたし達が、刻の森を出て魔界に向かったのは。
まあ、そのおかげで、どこぞやのおてんば火の神プリンセスやら、炎の鳥とやら出会えたんだけどね。あの子にとってはどれぐらいつらい事だったかは推測できるわよね」
エマは溜め息交じりにそう言った。
しかし…こんなこと、あって良いのだろうか?
萌はあたしから見たら悪い事をしていたようには思えない。
そりゃあ、間違ってでも世界が滅びそうになるような事はしてはいけないとは思う。あたしはしたけど。(それも2回も)
でも、彼女がそれをしなくては反対にマジで世界はなくなっていたと思う。
そして、水輝が言った事も納得がいったような気がする。エマたちが言った事も。
つまり、水輝はその時逃がされた者。幼かったり、戦う力が無かったりしたから。だからきちんとした事を知らなかった。ただ、その場に生き残った萌がやったと勘違いしたらしい。
そして、エマたちが萌に『真実』を語る事を止められたのは、その嶺のためだと思う。
もしかすると、嶺がやったと思われるのが萌にとってとても嫌だったんだと思う。
何にせよ、3年前、魔神が村を襲ったのが一番悪かったんだとあたしは思う。
「あたしは……」
押し黙っていた水輝はやっと口を開いた。
「あたし、萌に謝らなくっちゃ。誰も…誰も悪くなんかないんじゃない!
瑪瑙さんってヒトから聞いた事があるの。魔神は魔王のためにうごいているって。
魔王は、負の感情をたべているって、魔王は時の力が恐いんだって。
だから、あたし、萌に謝らなくっちゃ……」

雨よ、哀しみの少女たちの涙を流しされ!
哀しみを希望に換える力となれ!
あたしは、ガラにもなくそう心の中で繰り返していた。

〔続く〕

な、長い……。予定より長くなってしまったぁぁぁ!
あと、つらい話が続いてしまってごめんなさい。
まだまだつらい話が続きます。

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2447Re:異界黙示録伝《水の書》その6松原ぼたん E-mail 4/25-19:41
記事番号2421へのコメント
 面白かったです。

>そこから見える『リラ』は大きな水晶球のようだった。
 アストラルって一体・・・・?
>魔族に狙われた理由はただ一つ。エマの魔力と魔法、それから精神力のせいだった。エマが生まれた『リラ』はアストラル・サイドにある世界。普通のモノとは違うからだ。
 ふぇぇぇ。
>「かあさま!嶺ちゃんが!嶺ちゃんが暴走してるの!何かあったんだよ、きっと!」
 嶺って一体・・・・?
>そこには哀しみだけが残っていた。
 本当に・・・・・。
>そりゃあ、間違ってでも世界が滅びそうになるような事はしてはいけないとは思う。あたしはしたけど。(それも2回も)
 たしかに・・・・(^-^;)。
>あたしは、ガラにもなくそう心の中で繰り返していた。
 確かに祈りたくもなりますよね。

 本当に面白かったです。
 では、次を読んで来ますので。