-現代学園物『予感』-山塚ユリ(4/27-00:20)No.2486
 ┣『予感』前編-山塚ユリ(4/27-00:23)No.2487
 ┗『予感』後編-山塚ユリ(4/27-00:25)No.2488
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  ┗Re:『予感』-松原ぼたん(4/27-18:44)No.2501


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2486現代学園物『予感』山塚ユリ 4/27-00:20

やあどーも。山塚です。
学園物など書いてみましたが、なにせ書いてるやつが学校卒業して100年もたつおばさんなんで、若い子の風俗や話し方なんか全然わからない。
ま、時代遅れの学園物ですが読んでいただけるとうれしいです。
尚、後編の終りに変な記号がぞろぞろ並んでいますが、文字化けしているわけではないので念のため。

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2487『予感』前編山塚ユリ 4/27-00:23
記事番号2486へのコメント
夕陽に染まった学校の裏庭。その人の髪は夕陽を浴びて金色に輝いていた。
風になびく金色の髪…遠い昔、どこかで見たことのあるような光景…
なんか妙な胸騒ぎを感じながら、あたしはただじっとそこに立ちつくしていた…


高校に入学してはや2週間。そろそろ新しい生活にも慣れてきた。
各クラブの新入生獲得作戦も始まり、スポーツ万能のあたしはひっぱりだこだったりする。
…中には合唱部へあたしを誘う亜美ちゃんみたいなのもいるけど。
言い忘れてたがあたしの名は神坂りな。なったばかりの高校1年生。
栗色の髪の毛が妙にセーラー服にみすまっち。
ちなみに隣であたしの腕をひっぱっているのは同じく1年生の聖亜美ちゃん。
「ねえ、りなさん、合唱部で一緒に歌いましょうよう」
「うーん、どうしようかな、テニス部のまるちゃんにも誘われているし」
夕焼けに染まった渡り廊下をとろとろと歩いていく。
そんな時だった。彼を見かけたのは。
渡り廊下から見える裏庭に、でっけえバイクが止っている。そのバイクにもたれるようにして、一人の男子生徒が夕陽を見ていた。
変形学生服に脱色した長い髪。背がめちゃめちゃ高いし、はっきり言って美形。
腰にさした木刀と暗い瞳が、見るからに「俺は不良だ」という雰囲気を作っている。
「…校則違反…来年生徒会長に立候補してああいう人みんな退学にしてやるんだから…」
亜美ちゃんがぶちぶちとつぶやく。
「あれ、誰なの」
「荒泉豪利。ガウリイって呼ばれてます。我武利江府って暴走グループの頭やってんですって」
「今まで見たことないけど」
「めったに学校に来ないらしいですよ。もう何年もダブっていて、退学も時間の問題とか」
するとそうとう年上なわけか。
「それって、是屡先輩から聞いたの?」
亜美ちゃんの顔が赤くなる。実は彼女、先輩と一緒にいたいという理由で、名門女子校へ入れようとした親の反対押し切ってこの学校を選んだつわものである。
「それはいいですってば。さあ、行きましょう。
あいつと目、合わせないほうがいいですよ。やっぱこわいし」
「亜美ちゃん、それ、言動不一致」
「今は堪え忍ぶ時なんです」
わけわからんこと言う亜美ちゃんに引きずられるようにして、あたしは裏庭を後にした。
視線を感じる。
振り向くと、ガウリイがあたしを見ていた。


「どうしたの、ぼーっとして」
うちに帰ると、姉ちゃんに声をかけられた。
「あたし、ぼーっとしてた?」
「うん。恋するまなざし。高校でさっそくいい男でも見つけたの?」
「そ、そんなんじゃないって」
るな姉ちゃんにはどうしても頭があがらない。
「ただ…ちょっと気になる人がいたんだ。不良してる人なんだけどね。
なんかどっかで会ったことがあるような気がして」
「美形?」
「掛け値なしにね」
「ふうん。りなにもとうとう春が来たわけね」
…だからそんなんじゃないって。
でも…これからなんらかの形であの人と関わり合いになりそうな気がする。
あたしの予感は当たるんだ。


「おっはようございまーす」
次の日。のー天気な声をかけてきたのはゼロだった。
十王零。あたしは本人の希望でゼロって呼んでる。
黒髪をおかっぱにしているがれっきとした男で、中肉中背だが顔はハンサムの部類に入る。
あ、誤解しないように。彼とはただの友人。
実は彼、極度のマザコンだったりするので女の子には興味を示さないのだ。あたしと仲がいいのも単なる中学からの腐れ縁ってやつである。
どーでもいいことをしゃべりながら学校に向かう。と、重い音を響かせて、1台の大型バイクがすごいスピードで近づいてきた。
なんせ道幅は狭い。
慌ててよけるあたしたち。と、バイクがいきなり、
こけた。
大丈夫かおい。
乗ってた長身の男が頭を振りながら起き上がってメットをとった。
こぼれる長い金髪。
ガウリイだった。
…けっこうどじなんだな。
とはいえ、あたしたちをよけようとしてこけたんだとしたら、ほっとくわけにもいくまい。
「…あの〜怪我はないですか」
振り向いたガウリイが驚きの表情を見せる。なんで?
「あ…大丈夫だ。こけるの、慣れているから」
あ…そう。
それにしても、彼の声、初めて聞いた。なんかかっこいい声だな。
「学校、遅刻しますよ」
とゼロ。まあ怪我もないんだったらこんなとこで不良に付き合うことはない。
「じゃあ」
「あ…おまえ」
あたしの背中にガウリイが声をかけた。
「おまえの名、ひょっとしてりなって言わないか?」


「なぜあたしの名前知ってたの」
夕方、あたしは学校の裏庭でやっとガウリイを捕まえた。
「ああ…おまえか」
「おまえか、じゃないわよ。あん時は遅刻しそうだったから聞きそこねたし、あのあと一週間も学校来ないからちっとも聞けなかったじゃない」
「…何のことだ」
「なんであたしの名前知ってたのよ」
「ほんとにりなって言うのか」
ガウリイがまじまじとあたしの顔を見る。
「別に理由なんかない。そんな気がしただけだ」
どーゆー意味だ。初対面で名前がわかるなんてエスパーかあんたは。
「それにしても…なんで一週間も学校来ないわけ?」
「どうだっていいだろう、そんなこと」
「よくないわよ」
「じゃあ、なんでおまえは学校来てるんだ?」
「徒歩」
「…おまえ、俺が怖くないのか」
「別に」
強がってるわけじゃない。彼は不良なんだけど…他の不良してる人とちょっと違うのである。
どこがって言われると困るんだけど。
「ちゃんと答えるわ。あたし、学校って嫌いじゃないの。いろんな人に会えるし、いろんな勉強もできるしね」
「勉強、好きなのか」
「授業の話じゃなくて人生勉強よ。一生女子高生やってるわけじゃないでしょ。大人になった時のこと、考えなきゃ。
ガウリイはどんな大人になりたい?」
「え…?」
「あたしはね、この世界が必要とするような人間になりたいのよ」
「世界が…必要…?なんだそりゃ」
「ちょっと大袈裟だったかな。あたしがいるから世界が動いているんだっていうような人間。世界になくてはならない人間。そういう人間になりたいの。
だから今はその準備段階。勉強もテストも友達も先生も、みーんなそのための糧になるって思ったら学校だって楽しいもんよ」
「…えらいんだな、おまえって…。
俺は…そんなこと、考えたこともなかった…
俺、成績悪いし、中学のころから先生に目ぇつけられてたし…だから学校はつまらないし、
なんて言うか、バイク飛ばしている時とけんかしている時だけなんだよな…自分が生きているって感じるのが」
遠い目をするガウリイ。なんでそんなこと、あたしに話すんだろう…?
「そっか…ま…それも一つの生き方だけどさ…」
「いつか俺も、誰かに必要とされる人間になれるのかな」
「必要のない人間なんていないわよ。ま、誰かに必要とされる人間と、世界に必要とされる人間じゃ、スケールが違うけどね。
ま、あんたも頑張りなさいって」
年上にえらそーにお説教かまして、あたしはガウリイと別れた。
別れた後で気がついた。なんでガウリイがあたしのこと知ってたのか、全然わからなかったことに。


5月も半ば。
最近、ガウリイがよく学校に来るようになった。どういう心境の変化だろう。
学年はちがうけどあの金髪はよく目につくから、来ているか来てないかはすぐわかる。
「こんにちは、ガウリイ」
昼休み、校庭の隅にいたガウリイにあたしは声をかけた。ついでにあわてて彼が隠そうとしたテストの答案用紙を彼の手からもぎ取る。
「ふわぁ。こりゃひどい点数だわ」
「どーせ俺は頭が悪いよ」
「そうだ、ガウリイって是屡先輩と同じクラスだよね」
「ああ、あの成績優秀品行方正彼女ありってやつか」
「彼に家庭教師頼んでやろうか」
「やなこった」
「ふ〜ん。じゃ」
「あ、りな」
校舎に戻りかけたあたしをガウリイが呼びとめる。
「前に一緒にいた、あのおかっぱ頭、おまえのコレか?」
「あ、よく誤解されるんだけどね。ただの友達よ」
「そっか、ならいいんだ。うんうん」
な〜に一人でうなずいてんだか。


6月に入って最初の週末だった。
テニス部の練習で遅くなったあたしが、見るからに不良っぽい連中に囲まれて裏庭に連れ込まれたのは。
「なんだ、まだガキじゃねえか。こんなガキのどこがいいんだか」
「ヘッドの趣味はわからんな」
「な、なんか用」
カツアゲって感じでもない。用があるのはあたし自身って感じ。
「ヘッドがな、最近骨抜きになっちまってよ。他のグループの奴にしめしがつかないったらありゃしねえ。
おとしまえつけてもらおうと思ってな」
「なんのことよいったい」
「とぼけんな。ガウリイのことだよ。てめえと付き合い出してから、妙にマジになっちまってよ」
「学校には来るわ、授業は受けてるわ、ヘッドがこれじゃやってらんねえぜ」
「おまえがガウリイをたぶらかしたんだろう」
いいかがりだぁぁぁっ
「あ、あたしはガウリイをたぶらかしていないし、付き合ってもいないわよ」
「とぼけるなっ」
あ、やっぱりわかってくんない。
あたしをとり囲んでどうしようというのか、狙いがわからないところが怖い。
「なにをやっているんだ」
怒りを含んだ声が聞こえたのはその時だった。
逆光を浴びてガウリイが立っていた。近づいてきたガウリイは、今まで見たことがないくらい、怖い顔をしていた。
これが…暴走族ヘッドのガウリイの顔…
「…なにをしているのかと聞いている」
「こ…こいつがヘッドの女きどりでいやがるから懲らしめてやろうかと…」
「誰がそんなことをしろと言った!」
ガウリイの木刀がすごいスピードで動いて、そこにいた不良全員を打ちのめした。
「2度と彼女に手を出すな。今度は一発じゃすまんぞ」
起き上がり、慌てて逃げていく族連中。助かった…
と、安心すると同時に怒りがふつふつと涌いてきた。
「どういうこと?なんであたしがあいつらに脅されなきゃいけないのよ」
「…すまん」
「すまんで済めば警察はいらないわよっ。あんたのせいでこんなことになったんでしょうが。
だいだい誰があんたの女だってぇ?」
「…なに言われたんだ」
「あんたがまじめに学校来て骨抜きになったのはあたしのせいだって。いいがかりだわ。
とんだ迷惑よ」
「…迷惑か」
「そう、迷惑なの。あたしは不良とは一切関わりない一般生徒なんだからね」
「そうか…」
な、なによ、そのマジな顔は。
「わかった…もうおまえとは関わらない。2度と迷惑はかけない。それならいいんだろ。じゃあな」
夕陽の中、去って行くガウリイの背中が小さく見えた。


ガウリイが学校に来なくなった。
もう何日も、何日も、ガウリイの顔を見ていない。
いいや、あんな奴。単位落してさっさと退学になっちまえ。
なのに…
朝、学校に来る時、駐輪場にガウリイのバイクを探している。
昼休み、校庭の人の中に、目立つ金髪を探している。
夕陽に染まった裏庭でぼーっとしている。
あたし…どうしちゃったんだろう…
ガウリイに…会いたい…
あたし、助けてもらったお礼も言ってない…ガウリイが悪いわけじゃないのにあんたのせいなんて言っちゃったし…
ガウリイ学校に来なくなったの、ひょっとしてあたしのせい?
会いたい。
会って、お礼を言って、あやまって、そして…
とにかく会いたい。
でも、どこにいるのかわからない…
「りなさん、どうしたんです?元気ないですね」
ゼロがあたしに声をかけた。
「そ、そんなことないわよ。あたしはいつも通り元気☆」
「じゃあ、部活やってるはずの時間に、どうして繁華街歩いているんですか?」
そうだ…なんだか部活やる気がしなくて、街をふらふらしていたんだ…
「ぼけーっと歩いていると、不良に目ぇつけられちゃいますよ。
そうそう、不良といえば、ガウリイさんがそこのマクドにいましたっけ」
「ガウリイが?」
「そう、そこのマクドで一人でぼーっとして」
「ありがと、ゼロ」
あたしは走った。
マクドへ着いてみると、ちょうどガウリイが出てくるところだった。
「ガウリイ!」
息を切らせながら、あたしはガウリイの前に立った。
「なんだよ。なにか用か」
ぶっきらぼうにガウリイが言い放つ。
「…会いたかったの」
一瞬、ガウリイが息を飲む。
「…俺と関わると…迷惑なんだろ…」
「迷惑よ!でも会いたかった。会いたかったの」
あたしは、ガウリイにしがみついた。
「お、おいっ」
なんか言いたいことがたくさんあったような気がする。でも、もう、そんなことどうでもいい。
会えた…やっと…
ふと気がつくと、あたしたちの周りに人だかりができていた。そりゃそうだろ。
あたしはあわててガウリイから離れた。涙を手でぬぐう。
「ごめんっ。じゃあ」
急いでその場を離れるあたし。
やだ、不良に抱きついて、おまけに人前で泣くなんて、あたしらしくない。
あたしは人気のない児童公園に駆け込んだ。呼吸を整える。
「おまえ、足速いんだな」
後ろからガウリイの声がした。振り向いてしまうあたし。
「追いかけて…来たの」
「いきなり抱きつかれて泣かれて、そのままさよならってわけにはいかないだろ。
どうしたんだ、いったい」
やだ、ガウリイの顔、直視できない。
「べ、別になんでもないわよ」
あたしは目をそらした。
「ただ…ちょっとあんたに会いたかっただけだから」
「…俺と関わり合いになりたくないんじゃなかったのか」
「そうよ!でも会いたくなったんだからしょうがないじゃないの」
自分で自分が分からない。なんでこんな奴に会いたかったのか。
「…ほんと言うとな、俺もおまえに会いたかったんだ」
はっとして顔を上げるあたし。
「でも、迷惑だって言われちまったし、あんなことに巻き込んじまって怒っているって思ったから…」
「ごめん!ガウリイは悪くないのっ。あたし、あたしは…」
あたしはガウリイの胸に飛び込んだ。また涙があふれる。
「…また、会ってくれるか?」
ガウリイが、あたしの肩に腕を回しながら言った。もう片方の手が、あたしの頭をやさしくなでている。
「学校来ればいやでも会うわよっ」
「どうしてそう憎まれ口をたたくかなおまえは♪」
そういう性分なんだ。しかたないじゃないか。


後編へ続く

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2488『予感』後編山塚ユリ 4/27-00:25
記事番号2486へのコメント
「ね、りな。あの我武利江府のリーダーと付き合ってるって本当?」
部活の後片付けの時、まるちゃんこと柊真理菜が声をかけてきた。
こいつになにが話すと尾ひれが1メートルを越える。
「別に付き合っているわけじゃないわよ」
ガウリイはまた学校に来るようになった。あたしに会うために…んなわけないか。
「ふふーん。でも気をつけたほうがいいわよ。
なんか我武利江府って内部抗争あるみたい。ナンバー2がトップの地位を狙ってるっていううわさだし」
最近、やたらガウリイがカリカリしてるのはそのせいか。
「ガウリイ、お払い箱になったりして」
それはそれでいいかもしんない。ガウリイとは仲良くやってるけど、だからって暴走族や不良を好きになったわけじゃない。あたしは平和主義者なのだ。
とりあえずコートの片づけ終わり。やれやれ、1年生の部活って、準備とボール拾いと片付けだけだもんな。
「じゃ、バイバイ。あ、りなは彼氏が迎えにくるのかな」
来るかい。ガウリイとは昼休みにたわいもない会話をする程度の関係なんだから。
つーわけであたしは夕陽の中をとろとろと歩いていた。と、誰かが目の前に飛び出してきた。
確か前に、裏庭であたしを脅したガウリイの仲間の一人!
そいつのこぶしがあたしのみぞおちにめり込む!
苦痛。吐き気。
そして、あたしの意識は闇にのまれた。


気がつくと、あたしは手首を後ろで縛られて転がっていた。自動車の後部シート。窓からすっかり暗くなった空が見える。
「気がついたか」
助手席のつるつる頭があたしをにらむ。こいつも確かガウリイの仲間のはずだ。うちの学校の生徒じゃないけど。
んにゃ〜状況判断ができない〜。
とりあえず身を起こして窓の外をうかがう。木々に囲まれた、かなり広い場所に、数台の車とバイク。その周りに族…たぶん我武利江府の連中…がたむろってる。ヘッドライトに照らされたその数およそ50人。
「ここ、どこなの」
「山の中の採石場跡だ」
運転席にいた奴が答える。こいつ、確かガウリイの…我武利江府のナンバー2って奴じゃなかったか?
「こんなところにあたしを誘拐してどうするつもりよ」
あたしは開き直った。とりあえずあたしに危害を加える気はないらしい。あったらあたしが気を失っている間になにかしているはずだ。
ナンバー2が口を開く。
「ガウリイから聞いてないか?オレが我武利江府のヘッドを狙ってるって」
…と、いうことは?
「てめえみたいなチビガキにふ抜けにされるようなリーダーにはつきあえないってことさ」
つるつる頭がわめく。
「ガウリイを裏切る気ね」
「彼が我武利江府を裏切ったんだよ。あんなヘッドじゃ、他のグループに脅しが効かなくなる。
引導を渡してやる時が来たってわけだ」
あたしは自分の立場を理解した。あたしはガウリイをここへ呼び出すための餌。いざという時の人質。
「あたしを捕まえたって言ってガウリイを呼び出そうっての。
あのねー、あたしはガウリイとは何の関係もないんだって。
ガウリイがあたしを助けになんて来るわけないじゃない」
来ないでよ、ガウリイ。いくらあんただってこの人数が相手じゃあ…
「来やがったぜ」
車の外から声が上がったのと、聞き覚えのあるバイクのエンジン音が聞こえたのはほぼ同時だった。


「はるばるこんな山奥まで女を助けに現われるとは。やきが回ったかガウリイ」
バイクにまたがってガウリイを迎えるナンバー2。
「りなを放せ」
ガウリイがぞっとするほど鬼気のこもった声で言った。おーお。下っば連中、びびってやんの。
「う、うるせえ。もう誰もおまえの言うことなんか聞かねえぜ。
おまえの部下は全部このオレがいただくからな。今日からオレが我武利江府のヘッドだ」
声が上ずってないか?ナンバー2よ。
「人数集めれば俺に勝てると思っているのか」
静かな声。
「さ、さっさとやっちまえ」
爆音を上げるバイクの群れ。その中にガウリイはバイクで突っ込んで行った。
疾走するバイク。ヘッドライトの光の中にまき上がる土埃。あとはもう大騒ぎである。
ガウリイの木刀にひっぱたかれ、あるいはバイクの横腹を蹴り飛ばされてバイクから振り落とされた人数は30を越えた。ガウリイの投げた石にフロントガラスを割られて木立に突っ込んだ車もある。
ひしめき合う車とバイクの中を、上を、ガウリイのバイクが走る。追いかけるバイク同士が衝突してる。
テクニックが桁ちがいだもんな。
戦意消失して山の中へバイク押して逃げてく奴も多い。
車におきざりにされたあたしが苦労して車のウインドウを開けてる間に、動いているバイクの数は10を切った。
あんだけいた我武利江府の連中、どこへ行ったんだか。
もちろんあたしは車の中から高みの見物をしていたわけじゃない。ナンバー2にはいざという時の切り札がある。
すなわちあたし。
冗談じゃない。とっとと逃げよう。
やっと開けた窓からあたしは脱出した。落ちた時に肩をぶつけたがしょうがない。
よいしょと起き上がった目の前に…ナンバー2がいた。
「ほう。車からひきずり出す手間がはぶけたな」
あたしのセーラー服のえりをひっつかんで、ヘッドライトの当たる場所に引きずり出す。
「ガウリイ!この女がどうなってもいいのか!」
ガウリイのバイクが止った。
「りな…」
その隙にバイクがガウリイにつっこんで行く。
「…!」
あたしの悲鳴は声にならなかった。
バイクにはね飛ばされたガウリイの体が地面に落ちた。
「やったぜ」
別の奴がガウリイに駆け寄った。それでもなんとか起き上がろうとしたガウリイの脇腹を蹴りつける!
「やめてええええ!」
そいつはなおもガウリイを蹴っている。やめて、ガウリイ、死んじゃう!
「!」
そいつの体がいきなりはじかれたように倒れた。暗くてよく見えなかったけど、どうやらガウリイがそいつの股間を蹴り上げたらしい。
うずくまってうめいているそいつをほっといて、ガウリイが立ちあがった。ヘッドライトの光の中に歩いて来る。
「…りなを放せ」
硬直するナンバー2。
その時。
「そこで何をしている!」
野太い声があたりに響き渡った。
「わしはここの現場監督だ。この採石場は落盤の危険があるから埋めちまうことになってるんだ。
あと5分もしないうちに発破が爆発する。生き埋めになりたくなかったらとっとと逃げろ!」
スピーカーでがなりたてるおっさん声。動揺する我武利江府。
「命拾いしたなガウリイ!この勝負はおあずけだ!」
ナンバー2はあたしをつきとばすと、急いでバイクに乗り込んだ。残った仲間と一緒に逃げていく。
命拾いはどっちだか。
それを見送っているガウリイ。あたしは彼に向かって歩いて行った。
「ガウリイ…」
ガウリイはにやっと笑うと…
血を吐いてその場に倒れ込んだ。
「ガウリイ!」
駆け寄るあたし。ガウリイは仰向けに倒れていて動かない。
腫れ上がった顔が血で汚れている。
「やあ、効きましたね、どうですか、僕の声帯模写」
ゼロがのんきにチャリを押しながらやってきた。
「ゼロ、ガウリイが、ガウリイが…」
あのおっさん声がゼロだってのはわかっていた。それより…
ゼロはあたしの手首のひもだかなんだかをほどくと、ガウリイのそばにひざまずいた。
シャツのボタンをはずして胸のあざなんかを調べている。
あたしはゼロの横に座り込んだ。
「バイクにはねられたの、それから腹を蹴られて…目立った外傷はないみたいだけど…」
「肋骨、折れてますね。血やら血の泡をふいているところを見ると、折れた骨が肺や胃なんかに刺さっているんじゃないですかね。
心臓に刺さってたら死んでましたよ。あ、でも内出血がひどいといずれ時間の問題ですね」
「きゅ、救急車!ゼロ、携帯持ってる?」
「持ってません」
「じゃあ、呼びに行かないと…バイクか車、動かせる?」
「免許持っていません」
「免許なんかいいから、運転できるかって聞いているのよ」
「できません」
「じゃあ、どうすればいいのよ!あ、ゼロ、チャリ貸して」
「自転車では一番近い人家まで30分はかかりますね。それに夜道はあぶないですよ」
「いいから!」
立ち上がろうとしたあたしの肩をゼロが押さえてあたしを座らせた。
「何…」
「この人を助けたいですか?」
ゼロの口調がいつもと違う…
いつもの、あのにこやかな顔がうそのように鋭い目であたしを見つめている。
中学生の時、あたしに絡んできた不良高校生を一瞬でのしてしまった時とおんなじ目…
あたしはうなずいた。
ゼロはあたしの手をとると、ガウリイの胸の上にかざすようにした。
「念じてください。ガウリイさんが助かるように」
「ふざけないで!」
「いいから!目を閉じて。ガウリイさんが元気になった様子を思い浮かべて」
…あたしは言われた通りにした。
元気なガウリイを想像する。自分の想像が胸を締め付ける。
ガウリイ…死なないで…
『…♭×●…∀∽☆&…*〆α@κ▽…』
何か聞こえる…誰かが何か言ってる…何を言ってるのかはわからない。どこの国の言葉?
ガウリイ…目を開けて…もう一度あたしに笑顔を見せて…
『…≫刀○|♂…※∽πЮ+…』
声が聞こえる。お経のような、呪文のようなものを唱えている。
なんか聞いているうちに気持ちが落ち着いて…体の奥から力が涌いてくる。
『ΛΩ刀宴テ※Ж♯>☆%Υ$⊃Θ∬』
力があたしの手に集まって、ガウリイに放出されているのがわかる。
『⌒≒◎〒Υ≪∵∞▲σ□』
ガウリイは助かる。いいえ、あたしが助ける!
『Ψ◆∂〜@∽√刋D‖♀♪Ы…』
この声…あたしの声だ!
あたしははっとして目を開けた。同時に声も消える。
なんだったの、今の…幻聴?
そうだ、ガウリイは!
「ガウリイ!」
胸のあざが消えていた。腫れた顔ももとに戻っている。
ガウリイが目を開けた。そのままむっくり起き上がる。おいおい。
「大丈夫…なの?」
「俺、確か…あれ…え?」
ひとしきり、口元の血をぬぐったり、自分の胸をさわったり、腕を振り回したりした後、不思議そうな顔であたしを見つめる。
いや、見つめられてもあたしにも説明のしようがないんですけれど…
困ったあたしはしょうがなく振り返ってゼロの顔を見る。
「いやあ、愛の奇跡ってやつですかねえ。はっはっは」
…誰かこいつをなんとかしてくれぃ…
「とにかく、ここにこうしていてもしょうがないですね。
あいつらが戻ってきたら大変だし。帰りましょうか。ガウリイさんのバイク、動きます?」
「ああ、確かめてみる」
平気な顔で立ち上がるガウリイ。さっきまで死にかけてたんじゃないの?
それとも気絶してただけだったのをゼロが大袈裟に言ったとか?
なにがなんだかわかんないや。もう。


夜の山道を疾走するガウリイのバイク。
あたしは誰かが落していったメットをかぶってガウリイの背中にしがみついていた。
風が激しく横を吹き抜けて行く。空を飛んでいるみたいで気持ちいい。
ゼロはちゃりんこで後からついて来る。下り坂とはいえバイクと同じスピードで…変なやつ。
「あのさぁ〜りな」
頭の上から声がした。
「なにー」
メットかぶっているのと、爆音と風圧でよく聞こえない。
「さっき戦ってた時…なんて言うか、俺、自分が生きてるって感じたんだよな」
「けんかが生きがい?」
「そうじゃない。あの時俺、思ったんだ。
これはいつものくだらないけんかじゃない。俺はりなのために戦ってるんだって。
そう思ったら、すごく充実した気持ちになった。やっと自分のやることを見つけたような気がしたんだ」
ちょ、ちょっと。
「決めた。これから俺、りなを守るために戦うのを生きがいにする」
お〜い。勝手に決めないでよ〜。
「おまえが迷惑だって言ったってそばを離れない。おまえを守ってやる。
そして…今にりなにとって必要な人間ってのになってやるんだ」
わあああっ。なにを言い出すんだこの男は。
「なにーなんか言った〜」
あたしは聞こえなかったことにして、ガウリイの腰にまわした手に力をこめた。
これからはガウリイがそばにいてくれる。守ってくれる。
あたしが大人になって、世界に必要とされる人間になって、そしてその後もずっと、
ガウリイはあたしのそばにいてくれる。
それは確かな予感だった。



END


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2492Re:『予感』さぼてん 4/27-03:35
記事番号2488へのコメント
山塚ユリさんこんにちは
おひさしぶりです。さぼてんです。

面白かったです。

読むのに時間がかかりましたけど。
ガウリイが不良てゆーのはちょっとびっくりしましたね。
ガウリイはそんな感じしないですもんね。至って善良って感じですか?
でもリナを守るためには自らの危険をかえりみずに戦う。ここはその通りですねぇ。
ゼロスもどき=ゼロが幼なじみで出てくるとは思わなかったです。しかもマザコンとは・・・
しっかし。なんでガウリイは回復したんでしょうかねぇ?
そのへん不思議です。ゼロの力なんでしょうか?それともゼロ曰く「愛の力」なんでしょうかねぇ

山塚さんのガウリナは割とあっさりしていて、個人的に好きです。
なんかリナとガウリイをよくとらえてるって感じです。
これからも頑張って下さいね。
それでは

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2501Re:『予感』松原ぼたん E-mail 4/27-18:44
記事番号2488へのコメント
 面白かったです。

>栗色の髪の毛が妙にセーラー服にみすまっち。
 うーん、最近それを言ってると・・・・(笑)。
>腰にさした木刀と暗い瞳が、見るからに「俺は不良だ」という雰囲気を作っている。
 ・・・・想像力の限界越えてます。
>「荒泉豪利。ガウリイって呼ばれてます。我武利江府って暴走グループの頭やってんですって」
 あらいずみごうり? 後ろはがふりえふですね。
>どーゆー意味だ。初対面で名前がわかるなんてエスパーかあんたは。
 うーん、そうかも(笑)。
>「迷惑よ!でも会いたかった。会いたかったの」
 あははははは、青春ですねぇ(爆)。
>こいつになにが話すと尾ひれが1メートルを越える。
 端で無責任に話を聞いてる分には面白いタイプですね。
>それはそれでいいかもしんない。ガウリイとは仲良くやってるけど、だからって暴走族や不良を好きになったわけじゃない。あたしは平和主義者なのだ。
 平和主義者・・・・最近スレの影響でその意味がよくわからないなぁ(笑)。
>ガウリイがぞっとするほど鬼気のこもった声で言った。おーお。下っば連中、びびってやんの。
 冷静に観察してる・・・・余裕あるなー。
>ガウリイの木刀にひっぱたかれ、あるいはバイクの横腹を蹴り飛ばされてバイクから振り落とされた人数は30を越えた。ガウリイの投げた石にフロントガラスを割られて木立に突っ込んだ車もある。
 つっ。つおい・・・・。
>「やあ、効きましたね、どうですか、僕の声帯模写」
 きよーなやつ。
>ゼロがのんきにチャリを押しながらやってきた。
 どーしてしってんだ?
>中学生の時、あたしに絡んできた不良高校生を一瞬でのしてしまった時とおんなじ目…
 ・・・・やっぱしなんかあったのか。
>「念じてください。ガウリイさんが助かるように」
 なにごと?
>…誰かこいつをなんとかしてくれぃ…
 まったくまったく(笑)。
>ゼロはちゃりんこで後からついて来る。下り坂とはいえバイクと同じスピードで…変なやつ。
 やっぱ、謎なヤツ・・・・。
>これからはガウリイがそばにいてくれる。守ってくれる。
>あたしが大人になって、世界に必要とされる人間になって、そしてその後もずっと、
>ガウリイはあたしのそばにいてくれる。
>それは確かな予感だった。
 ハッピーエンドですねぇ。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。