◆−ゼルアメかも知れぬ物語:序文−颪月夜ハイドラント (2003/4/15 19:50:13) No.25590 ┣悠久の夢−颪月夜ハイドラント (2003/4/15 19:51:19) No.25591 ┣刹那に帰れない−颪月夜ハイドラント (2003/4/15 19:51:52) No.25592 ┣エピローグ−颪月夜ハイドラント (2003/4/15 19:52:33) No.25593 ┗後書き−颪月夜ハイドラント (2003/4/15 19:55:19) No.25594
25590 | ゼルアメかも知れぬ物語:序文 | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/15 19:50:13 |
序文 この話はゼルアメに分類されると思います。 まず、第一に『死亡』ものです。 ご注意を・・・。 第二に、これは私の予想なのですが、時間軸としては『悠久の夢』→『刹那に帰れない』なのですが、逆から読むとまた違うものが味わえるのではないかと・・・。(そうでなかっらすみません。) むしろ私としてはそちらをお奨めしたいです。 第三に、もしわけ分からないところがあれば飛ばすのが吉です。 それでは・・・。 |
25591 | 悠久の夢 | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/15 19:51:19 |
記事番号25590へのコメント ――悠久の夢―― 響く音だけが生の証。 すでに聴こえない。ただ理解出来るのみ。 現実に融合しつつある混沌。 光はすでに直線移動はしていない。 あるいはそれは微睡みに似ていた。 死神の笑い声にも近かった。 砂裂く音だけが命の証明。 音は聴こえない。ただ理解出来るのみ。 現実に融合しつつあるのは死。 それはすでに幻ではありえない。 確かにその予兆に酷似していた。 この世の終わりと対を成していた。 創痍の身体を引きずり進む。 足掻きが焦燥へ、焦燥が発火へ、黄昏の飛輪はなお強い。 闇に蝕われつつも止めぬ抵抗が、個の死と対を成していた。 やがて炎獄は一時、終わった。 だが死神がこの世に具現してしまった。 常に吹き付ける亡びの風。 身は震え、冷たく凍り付いた。 それでも歩く。 砂裂く音だけが生の証。 それはただ一言から始まった。 100万年を否定する一瞬。いや数字はすでに曖昧すぎた。 刹那かも、永遠かも、知れぬ時は紛れもなくその一言に否定されたが・・・。 不快ではない。怒りが生まれようはずがない。 むしろそれは歓喜に等しい。すべての枷を今外す時だ。 怪鳥は飛び立った。限りなく醜かった雄々しき翼。つまりは意識の問題だと、いつか告げていた客観的な自分。 100万年が終わり、違う100万年が始まる。 それが今だ。 歩むことが契約だった。 望むことが破滅だったのだ。 それでも受け入れた。 歩むことが契約だった。 続けた。続行した。 絶望混じりだ。だが続行した。 今の翼は美しい。そしてやがてはその汚れさえも打ち砕き・・・。 だが疲労は絶対者。 足枷の重きは日に日に増した。 心と身体に成された鎖。 けしてどちらも解けぬ呪縛。 だが・・・敗れた。 己に勝つこと。精神を持つて肉体打ち負かすこと・・・。 つまりは負けたのだ。 崩れ落ちた。砂の温度はどこか優しい。 たとえ身を焼かれようとも・・・。 風が揺れている。 どこまでも穏やかで優しい。あたかも弔いに似て・・・。 囁きが聴こえた。言葉は解けない。 こんな砂漠に誰がいよう。 それこそ死神ではなかろうか。 しかし、その瞬間はやって来ぬ。 熱は寒気を吹き消して、寒気は熱を洗い流す。 夜が明日に変わった瞬間。 不思議な感覚であった。 疲れなど忘れたかのよう。 亡びに晒されていたとはけして思えぬ。 醜い翼に感謝すべきなのだろうか。 砂裂く音さえ鮮明だ。 ゆえに歩き続けた。 すでに歩みは契約ではない。 すでに望みは破滅ではない。 ゼルガディス=グレイワーズとは呪われた男の名であった。 邪な術が彼を闇に突き落とした。 あれから100万年後に希望があって、その刹那が終わって100万年。 彼の心は常に醜かった。それは意識ですらないと、そう思える時間帯も存在した。 だが過去などすでに瞞し。 彼は希望を手に入れたのだ。 あの一瞬にて・・・。 確信だった。 すでにそれでしかなった。 愚かであったのかも知れぬ。 しかし、それが人でなかろうか。 つまり彼の標でなかろうか。 愚へ堕ちるのだ。 輝かしき愚へ・・・。 明日が夜と流転した。 風が喰らい付く。 だが正面だけを見据えていた。 旅の終焉であった。 蒼く。限りなく蒼く染まった天空。 優しげな月は夜の母。 さながら深海を映したが如き神秘性を持って、すべてを誘う。 満天にさらなる光が生まれ、一枚の絵画と成した。 そこに生まれる情景。 無限の砂漠? 否、それは似合わぬ。 漆黒の柱が天を突く。 影のみがすでに放つ神秘性。 砂の夢を見続けた。 砂上の尖塔。それが遠くに見える。 後は容易かった。 熱風が駆け巡る中、最後の砂を踏み締めた。 涙をも吐き出しそうであったが、それはなかった。 堅牢な扉。 しかし一瞬後には噴煙に消えていた。 静寂は歌にも似ていた。 足音がそれに彩りを加える。 何年来の覚醒だろうか。 同じ100万年。無限に等しき悠久を生きた仲間かも知れねば、それ以上であるか。 何にしろ。遺跡は目覚めた。 だがかつての賑わいはなく。客も繁栄など求めない。 終わったのだ。死んだのだ。 この廃墟に感傷を覚えるのはそのためか? 探索は続いた。三日三晩。いやそれ以上か? だが、果てしなく長いかと思えばけして永遠には遠すぎると・・・。 そうすでに数100万年の刻みを越えたのだ。 短さはあまりにむなしい。 汚れを落とせばそうなのか? 刹那の間に終わってしまうのか? 少しだけ恐れた。短命を。心の短命を・・・。 だが奮起した。容易かった。この道程を浮かべさえすれば・・・。 その不浄の両腕は1枚の書物を確実に握り締めた。 歴史の秘奥が今、開かれる。 ――悪魔の書―― ああ求めていたものと、真実はどれほど違うと言うのか。 そして前文は、内容にも言えてしまった。 文面を疾風の如く辿ってゆく。形容だけは蛇のそれ。 古代の書物。100万年で求めていたものとは違うのだ。 果てしなく栄えた文明の一片が降り掛かる。しかし求めたものを越えたのだ。 人智・・・ではない。 神も魔も、すべてを超越した一冊がそこにあった。 そして、運命の時が始まる。終わりと同刻に、すれ違うように・・・。 ああ求めていたものと、真実はどれほど違うと言うのか。 秘儀の代償。最後の文字。それは、 ――汝の最も愛しきものの、その骸を贄とせよ―― 爆発した感情は誰にも読み取れはしなかった。 求めていたものではなかったのだ。 しかし・・・ |
25592 | 刹那に帰れない | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/15 19:51:52 |
記事番号25590へのコメント ――刹那に帰れない―― 「・・・アメリア。」 ゼルガディス=グレイワーズはそして最も愛しきものの名を呼んだ。 沈黙が終わるのに、何年掛かったか。 震えていた。不自然なまでに・・・。 月は限りなく冷たく。今宵の彼を拒絶するような明かり。 だが所詮は錯覚だと、心の闇に鎮めていった。 湧き上がる熱気。火照る身体は、だがそれでも凍えさせるほどに冷たい。 的外れな憤慨もあった。だが世界を見るたびにそれを消した。 少女は寝台に倒れ掛かり、その手はシーツを握り締め、脅えたように震えている。 瞳の水も揺れていた。 ゼルガディスのその碧眼はすべてを逃がさない。 笑った。微かに・・・。だが寒気の走ったのは我が身。 少女の恐怖が強さを増した。だがそれだけでないことを瞳は見ている。 「・・・ゼルガディス・・・さん。」 冷たい。温かい。いや温度は見えない。 振り切った。つまらない感情など・・・。 顔が近付く。唇の接近もまた意味する。 寝台に――聖域に身体を踏み入れていく。 侵された空間は、少女の振動を反映させていた。 互いの間で焔が燃える。 そして寄り合う唇。 鼓動が――あるいは胎動が、急速となる。 そしてゼルガディスの囁き。 「・・・すまん。」 煌き。闇に一条の光が巡り、 「・・・すまん。アメリア。」 唇を重ねあった瞬間。 開花した。真紅の花が・・・禍々しき奔流を伴って・・・。 「ゼルガディス・・・さ・・・ん・・・。」 少女は白布の大地へ落下した。海が形成される。真紅の海が・・・。 「・・・本当に・・・すまん。」 口の中に湛えられたのは、魅惑の果汁ではなく命の溜り。 それを静かに飲み干した。 違った甘美に身は浸される。 だが込み上げたのは・・・ 「・・・アメリア。すまん。本当にすまん。」 ・・・一粒の涙。数多の豪雨へと・・・。 「・・・すまん。すまん。すまん。」 喪失感が――最も愛しきものなのだから――罪悪感が――アメリアは笑っていたのだから―― 心を貫く。 ゼルガディスはただ泣いた。 新たな邪気にすでに覆われていた。 「アメリアぁあああああああああ!!」 血に濡れた短刀が床に落ちる。 今宵の音は鮮明だった。 もうあの頃には戻れないと、その響きは奏でていた。 むなしさは短さではない。 |
25593 | エピローグ | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/15 19:52:33 |
記事番号25590へのコメント ゼルガディス=グレイワーズの行方はすでに知れぬ。 悪魔の書に魅入られし悪魔の行方は・・・。 その姿は果たして人か異形か? |
25594 | 後書き | 颪月夜ハイドラント | 2003/4/15 19:55:19 |
記事番号25590へのコメント これは先日浮かんだネタを一気に文章化したものです。 まず・・・ゼルアメファンの方すみません。 ゼルアメ書こうと思って始めに浮かんだのこんなネタです。 人間に戻る方法、しかしその条件は・・・。 という感じですね。 実際のゼルはどちらを選んだのでしょう。 そしてあなたが酷似した状況に立たされたならば・・・。 ちなみに100万年と連呼されてるのは、今日、最初の方だけ読んだ「アビシニアン」(古川日出男著)で10億年という言葉が何度か出てて、思いっきりその影響です。 名前通り、猫が出てました。何となく良い感じの文章で、主人公が微妙に私と重なる部分がある。 他にも、「弦奏王」と「アラビアの夜の種族」と「風よ。龍に届いているか」などを(自分に対して)思わせた部分もありました。 後、「弦奏王」の解説の影響で古めの外国人ファンタジー小説を買って見たりしましたけど、「竜剣物語」全5巻(電撃文庫)で大苦戦して、「指輪物語」がまだ途中だと気付き読めるか心配です。 それではとりあえずこれで・・・。 |